ハイスクールD×D ~闇皇の蝙蝠~   作: サドマヨ2世

105 / 263
一誠サイド、幽神兄弟編――――これでジャスト100話めになりました!


暗闇の復讐劇

時刻は20時42分頃、未だに強い雨が降り続けている夜のこと

 

アダルトビデオが売ってるちょっとアレな店から大量のエロDVDを買い漁って出てくる2人の少年

 

一誠のクラスメートの松田と元浜だった

 

彼らは今朝、幽神(ゆうがみ)兄弟の姿を視認した直後――――逃げるように早退していたのだが……

 

「ったく……こんな嫌な日に限って新作が大量入荷してくるとは、ツイてないな」

 

「そう言うな、松田。早いとこ帰ってイッセー抜きの観賞会と行こうじゃないか。購入したてのDVDを見ていれば、今朝の事だって忘れられる筈だ」

 

松田と元浜は登校して早々仮病を使い早退した後は自宅にて待機し、幽神兄弟がいなくなったであろう時刻を見計らってエロDVDを買いにやって来たのだ

 

余程彼らと対峙する事を避けているのだろう

 

それも当然、この2人は幽神兄弟を失脚させた張本人なのだから……

 

再び会えばどんな目に遭わされるか分からない

 

傘を差していざ帰還しようとした―――――その時、交差点の向こう側に傘も差さずに佇んでいる人影を見つけた

 

次々と横断歩道を横切る車に遮られながらも、気になった2人はその人影を視界に入れる

 

(うつむ)いたまま立ち尽くす不気味な人影……

 

「……な、なあ、松田……。どうやら俺は疲れが溜まってるみたいだ。あ、あそこに見覚えのある奴が見える……」

 

「も、元浜……俺も見えてるぞ……。しかも、今朝見たばかりの奴だ……っ」

 

次第に2人の手が震えを増していき、顔も強張(こわば)

 

交差点の向こう側で佇んでいる人影がゆっくりと俯かせていた顔を上げ……松田と元浜の2人を睨んだ

 

2人の予感は見事に的中、人影の正体は今朝見たばかりの人物――――幽神正義(ゆうがみまさよし)だった……

 

「お前らは良いよなぁ、表舞台に立てて……。どうせ俺達は日向の道を歩けず、暗く深いドン底の地べたを這いずり回る事しか出来ない……」

 

不幸にまみれた言葉を吐く幽神正義の目には明らかな殺意が潜んでいた

 

危険だと察知した松田と元浜は慌てて交差点から逃げるように走り去っていく

 

その様子を見た正義は――――ただ不適に笑むだけだった

 

「無駄だ。もう暗闇は俺達の狩り場(テリトリー)、何処にも逃げられない。俺達から逃げられやしないんだよ……っ」

 

不気味な台詞の直後、大型トラックが彼の前を横切る

 

そしてトラックが通過し終わった後、そこに幽神正義の姿は何処にも無かった……

 

 

―――――――――――

 

 

どのくらい時間が経っただろうか、松田と元浜はゼーゼーと息を切らしながら雨の中を走り続ける

 

全力で走っていたせいか、すっかり傘は折れ曲がってしまったので途中で捨て去り、買ったばかりのエロDVDを濡らさないよう(ふところ)にしまう

 

「ど、どうだ……っ!?撒いたか……!?」

 

「はあ……はあ……っ!も、もう追って……来ないよな……?」

 

後ろを向いて幽神正義が追って来ないかどうか確認していると――――路地裏から空き缶が2人の足下に投げ付けられた

 

空き缶の音にビビって立ち止まり、路地裏の方に視線を移した

 

そこから姿を現したのは――――幽神正義の弟、幽神悪堵(ゆうがみあくど)

 

敵意むき出しの視線で松田と元浜を威嚇、手に持ったジュース缶(中身入り)を握力で握り潰す

 

握り潰した缶を2人の足下に転がし、親指を立てた手で首を切るような動作を見せつけた

 

無言ながらも言いたい事は伝わる……

 

“お前ら殺す”

 

「「……ッ!」」

 

松田と元浜は恐怖に駆られて再び走り出した

 

2人の背中を見据える悪堵はスマホの通話機能をオンにする

 

「……兄貴、今度は南西の方角に向かっていったぜ?」

 

兄・正義に逃走情報を教えた悪堵は路地裏の奥へと姿を眩ました

 

それから幽神兄弟の追い込みが始まり、松田と元浜の行き着いた場所に次々と現れる

 

先回りしては2人を待ち伏せ、逃げれば再び先回りして待ち伏せ

 

まるでハンティングの如くジワジワと2人(獲物)の体力と精神を削っていく……

 

松田と元浜は逃げ回ってる内に人気(ひとけ)が目立たない高架下までやって来た

 

もう2人は会話が出来ない程に疲弊しきっており、元浜に至っては顔がヤバい様相となっていた

 

壁に(もた)れて呼吸を落ち着かせようとするが――――狩人(幽神兄弟)一時(いっとき)たりとも待つつもりは無かった……

 

「あ……ああ……っ」

 

ガタガタ震える松田と元浜の前に現れた幽神兄弟

 

遂に獲物が狩人に追い詰められた……

 

「何処へ逃げても無駄だ。暗闇は俺達の狩り場(テリトリー)、常に目を配らせている。たとえ今日逃げ切ったとしても、ジワジワと追い詰めていく……。猟犬の様になぁ……」

 

「追い詰めて追い詰めて、最後はテメェらの喉を噛み切る!」

 

幽神正義の左足、幽神悪堵の右手から閃光が(ほとばし)り――――神器(セイクリッド・ギア)に包まれる

 

松田と元浜は勿論ソレが何なのか知らない――――と言うより、頭の中が恐怖で支配されているので思考を巡らせる事が出来ない

 

「た、頼む……。許してくれよ……!まだあの事を根に持ってるのか!?」

 

「あれはちょっとした仕返しのつもりだったんだ!あんな事になるとは思ってなかったんだよ!」

 

2人は恐慌状態で謝罪しようとするものの、地獄に堕とされて(すた)れた狩人(幽神兄弟)は聞く耳を持たない……

 

「……ハッ、今更そんな事を言うなよ」

 

「あぁ、もう遅過ぎる」

 

「俺達はもう……誰かを許す気は無い……。誰かに許されようとも思っちゃいない」

 

「「俺達と同じ地獄に堕ちてみるか?」」

 

高架下の暗闇の中、狩人(幽神兄弟)の凶悪な左足と右手が獲物に突き刺さった……

 

 

―――――――――――

 

 

「部長!新から連絡があったって本当なんですか!?」

 

「ええ、とりあえず彼の無事は確認出来たわ。ただ問題なのは……新が飛ばされた世界でも闇人(やみびと)が出没している事ね」

 

駒王学園(くおうがくえん)から幽神兄弟が立ち去った後のオカルト研究部部室、新から連絡を受け取ったリアスはその全貌を皆に報告していた

 

行方不明だった新が無事だと言う吉報を受けて安堵する面々

 

新側の問題はひとまず大丈夫ではあるが……問題は幽神兄弟の方である

 

リアスは幽神兄弟が一誠達3人に恨みを(いだ)き続けるようになった切っ掛けを問い、一誠は正門前で幽神兄弟から話された事を打ち明けた

 

「……なるほど、それであそこまでイッセー達を恨んでいたのね……」

 

「でも、その話が本当だとすれば――――イッセーくんには非が無いように思えるんだけど……」

 

祐斗の言葉は(もっと)もで、実際は一誠が知らない内に(おこな)われていたもので、主な原因は松田と元浜にある

 

しかし、悪魔に転生したとはいえ成功の人生を歩いている一誠を許せずにいた

 

仮にその事を問い(ただ)したとしても、性根が歪みきったあの兄弟は何を言っても耳を傾けてはくれないだろう……

 

「新の事も心配だけど、その幽神兄弟をマークしておいた方が良さそうね。ここまで足を運ぶぐらいだから、このまま大人しくしてるとは到底思えないわ」

 

リアスが腕組みしながら言う

 

一誠も一応松田と元浜に連絡だけでも入れようとするが、2人の電話には繋がらなかった

 

嫌な予感が膨れ上がりそうな気配がする中、リアスの携帯電話が鳴る

 

「もしもし?あら、アザゼル。いったいどうし―――――何ですって……!?」

 

「……っ?部長、いったいどうしたんですか?」

 

一誠が怪訝そうに訊くと、通話を終えたリアスは怒りと共に苦虫を噛み潰したような剣幕と化す

 

一誠の中で不確かだった嫌な予感が形を成そうとしていた……

 

「イッセー……どうやら彼らに先を越されてしまったわ……っ」

 

「そ、それって……まさか……っ」

 

「――――あなたのお友達がたった今緊急搬送されたそうよ」

 

 

――――――――――

 

 

アザゼルからの通達を受けて飛び出したオカルト研究部+イリナ

 

松田と元浜が瀕死の重態で発見され、堕天使系列の病院に緊急搬送されたのを聞いて急いで転移用魔方陣で病院の前に到達し、一誠はいの一番に病院内へと駆けていった

 

受付のカウンターにはアザゼルの他にソーナ、匙、真羅椿姫(しんらつばき)も来ている

 

一誠はアザゼルに駆け寄って松田と元浜の容態を訊く

 

「先生!松田と元浜は!?」

 

「今さっきグリゴリの医療班が手術を終えたばかりだ。何とか助かったが……ヒデェ状態で運び込まれたそうだ」

 

アザゼルが一誠を2人のいる集中治療室に案内する

 

部下の医師から許可を得て、“面会謝絶”の札が貼られた扉を開けて中に入る

 

一誠の目の前には――――痛々しい包帯姿で横たわり、弱い呼吸を続ける松田と元浜の姿があった

 

あまりにも酷い状態の2人を見てしまった一誠は放心したままくず折れる

 

「両手両足だけじゃなく指も全部折られた上に、喋れないようにとアゴまで砕かれてる。肋骨も全て折られた挙げ句何本か肺に突き刺さっていたらしい。内臓破裂も数ヵ所、もし発見が遅れてたら……マジでヤバかったそうだ」

 

アザゼルが上着のポケットから1枚の紙を取り出し、一誠に渡す

 

一誠は無言でその紙を開いて中身を確認する

 

紙には血文字でこう(つづ)られていた……

 

“俺達の狩り(復讐)はまだはじまったばかりだ。先にこのクズ2人を地獄に叩き落としてやったよ。次はお前の番だ。俺達が憎いならここから2駅離れた町、全ての元凶となった場所まで来い。たとえ逃げたとしても地獄の底まで追い掛けてやる。――地獄から(よみがえ)った兄弟より――”

 

「……地獄から甦った兄弟……」

 

「このフレーズからして間違い無く幽神兄弟の仕業だな。しかし、こいつは流石に引いたぜ……。あいつらは仮にも人間だってのに、ここまで出来るもんなのか?」

 

アザゼルは幽神兄弟の残虐行為に顔をしかめる

 

一誠は徐々に怒りを身を震わせ、歯を食い縛って幽神兄弟からの挑戦状を握り潰す

 

鬼の様な形相で集中治療室から出ようとした

 

「行くのか?」

 

「当たり前ですよッ!あいつら……俺のダチをやりやがったんだ!絶対に許さねぇッ!」

 

「ここまで挑発的な文面を露骨に書いてんだ。罠かもしれねぇぞ?」

 

「じゃあ何だ!先生はあいつらを黙って見過ごせって言うんですか!?」

 

「そこまで言ってねぇ――――」

 

「俺は今すぐ行く!行ってあいつらをぶちのめしてやるッ!」

 

一誠はアザゼルの助言に耳を傾けず、集中治療室から飛び出した

 

残されたアザゼルは眉根を寄せて「バカ野郎……」と哀愁の言葉を呟くしかなかった

 

 

―――――――――――

 

 

駒王町(くおうちょう)から2駅離れた町に到着したオカルト研究部+イリナ、ソーナ、椿姫、匙は置き手紙に記された場所へ辿り着いた

 

そこはかつて一誠や松田、元浜、幽神兄弟が通っていた市立影車学園(かげぐるまがくえん)

 

時刻は既に深夜を回ってるだけあって周りには人の気配が全く無い

 

一行は少し錆びれを含んだ正門を開けて敷地内に足を踏み入れる

 

周囲を警戒しつつ進んでいると――――前方から人の気配が……

 

カチャカチャと鳴る拍車付きの靴にダメージ入りのコートを羽織り、黒髪に赤いメッシュを入れたならず者の様な男

 

一誠は憎き男の名を絞り出す様に呟いた

 

「幽神、正義……ッ!」

 

血が出そうな程に拳を握り締める一誠を見つけた正義は鼻を鳴らして笑う

 

一誠は松田と元浜を瀕死寸前まで追い込んだ怨敵に向かって叫んだ

 

「幽神ッ!なんで俺のダチをやった!?あいつらは非日常とは関係無いんだよッ!なんでやりやがったんだ!?」

 

激昂に包まれた一誠の問いに対し、正義は軽く嘲笑うのみ

 

そして、ようやく出た言葉も一誠の怒りを更に掻き立てるものだった……

 

「兵藤、お前は言葉を話せない犬とした約束を律儀に守るのか?」

 

つまり……一誠が土下座しようが何をしようが、最初から約束を守る気など無かったと言う事だ

 

無慈悲で卑劣な言葉に一誠だけでなく、リアス達も怒りの色を濃くする

 

「ふざけんなアァァァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!」

 

一誠は怒号を吐き出すと同時に『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を展開

 

そのままドラゴンショットを撃ち放った

 

猛然と突き進む赤い魔力に対し、正義は神器(セイクリッド・ギア)――――『蹴獄の足枷(スマッシング・ギア)』を左足に具現化させる

 

左足に纏った脚甲を光らせ、向かってきた魔力弾を蹴り飛ばした

 

一誠が放ったドラゴンショットは空の彼方へと消え、正義は余裕の表情で指をチョイチョイと動かして挑発

 

その後すぐに校舎の中へ走り去っていった

 

一誠は「逃がすかッ!」と息巻くが、祐斗に待ったを掛けられる

 

「イッセーくん、単独で向かっていくのは危険だ!相手が相手だけに何を仕掛けてくるか分からない!」

 

「じゃあどうすれば良いんだよッ!」

 

祐斗は一旦皆を集めて作戦会議を始める

 

その内容はまず何組かに分担して別々の入り口から校舎内に潜入し、幽神兄弟を探索

 

幽神正義または幽神悪堵を見つけた班は直ぐに他の班に通信用魔方陣もしくは携帯機器で位置情報を伝え、逃げられないよう包囲網を作り討伐すると言ったものだ

 

話し合いの結果、チーム分けは以下の様になった

 

1班…リアス&祐斗

 

2班…朱乃&ロスヴァイセ

 

3班…ゼノヴィア&イリナ

 

4班…小猫&ギャスパー

 

5班…ソーナ&椿姫

 

6班…一誠&アーシア&匙

 

班が決まった所で作戦を開始するべく、それぞれが別々の入り口へ向かった

 

一誠、アーシア、匙の3人は正面の入り口から校舎内に侵入し、1階を探索していく

 

未だに怒りを抑えられない一誠に匙は少し不安を抱える

 

「……兵藤、アーシアさんが怖がってるぞ。一旦落ち着いてくれって」

 

「匙、今だけはどうしたって怒りを抑えられないんだ……ッ!あいつらは、幽神兄弟は!俺のダチを傷付けやがったんだ!松田と元浜は……俺達の事情には全く関係無い奴なんだぞ!?そいつらを傷付けられて黙っていられると思うのかッ!?」

 

「……分かってる。確かにその兄弟がやった事は絶対に許せねぇよ。俺だって、会長だって(はらわた)が煮えくり返る思いだ……!けどよ、それを吐き出すのはそいつらをぶっ倒す時まで取っておくんだ。今は奴らを探す事に意識を集中させろ」

 

匙も唇を噛み締めながら一誠を宥めつつ自分が秘めてる怒りを少し吐き出す

 

一誠は匙の言葉に同意し、幽神兄弟の探索を再開させた

 

 

――――――――――

 

 

「こ、小猫ちゃん……っ。絶対に手を離さないでぇぇぇ……」

 

「……ギャーくん、手汗が気持ち悪い」

 

3階を巡回している小猫&ギャスパー

 

2人は蛍光灯がチカチカ光る不気味な雰囲気の廊下を歩いていた

 

相変わらずビビりのギャスパーは身を震わせ、小猫の手を離すまいとしっかり掴んでいる

 

周囲を警戒して捜索を続けること30分、突然ギャスパーが立ち止まった

 

立ち止まった場所は――――トイレの前

 

「……どうかした?」

 

「あ、あの……小猫ちゃん……っ。ぼ、僕……おトイレに行きたくなってきちゃったよぉ……」

 

「……じゃあ待ってるから、してきて」

 

「でも、男子用と女子用――――どっちに入ったら良いの?」

 

ギャスパーの質問に小猫は「……男子用」と半目で答えるも、ギャスパーは物凄い勢いで首を横に振った

 

「ももももも、もし男子用トイレで僕に何か遭ったら……どうすれば良いのぉぉぉ!?」

 

「…………」

 

「もし男子用トイレで襲われたら――――小猫ちゃんは助けに来てくれるよね!?」

 

「……やだ。乙女の恥」

 

「ふえぇぇぇぇぇんっ!じゃ、じゃあ女子トイレに入っても良いよね!?それなら小猫ちゃんだって中に――――」

 

「……ギャーくんの変態」

 

「酷いよ小猫ちゃぁぁぁん!おトイレだけでも許してぇぇぇぇ!」

 

泣きじゃくるギャスパーに小猫はハァ……と溜め息を吐く

 

このまま漏らされても困るので仕方無く女子トイレの使用を許可する

 

ギャスパーは直ぐに女子トイレの中へ入り、小猫はトイレの前で見張りと警戒を続けた

 

……彼女の真上で逆さまに立っている緑の鎧人(よろいびと)に気付かないまま……

 

 

―――――――――――

 

 

「はうぅぅ……。何とか間に合ったよぉぉ……」

 

個室の便器で用を足し終えたギャスパーは水洗レバーを引いて水を流し、パンツを穿いて個室から出る

 

鏡付きの洗面台の前に立ち、蛇口から水を出して手を洗う

 

ギャスパーのヘタレ根性のせいか、それとも幽神兄弟の怖さゆえにか(しき)りに自分の背後をチラチラ確認してしまう

 

「うぅぅぅぅ……夜の学校はいつもなら慣れてるのに、イッセー先輩のお知り合いの人が怖くて……ここも怖く感じちゃうよぉ……」

 

天敵に狙われてる小動物の如く震えるギャスパーは鏡や天井にも視線を巡らせる

 

ふと鏡に映る情けない姿の自分を(しばら)くジッと見つめ、決意したかのように両頬をパシンと叩く

 

「怖がってばかりじゃダメだ……!僕だってグレモリー眷属の男子なんだ。イッセー先輩や新先輩のように、側にいる女の子を守らなくちゃ……!イッセー先輩の血だってあるし、見つけたら僕の眼で停めてみせる……!」

 

決意を固めたギャスパーは再び蛇口を捻って水を出し、その水で顔を洗う

 

2、3回顔に水を浴びた後、自前のポシェットから可愛らしい柄のハンカチを取り出して顔の水気を拭う

 

「……よしっ。僕だってやれば出来るんだ。いつまでも泣いてばかりの僕じゃ…………ナイン、ダ…………っ」

 

顔の水気を拭い去ったギャスパーの動きが止まり、震えが増していく

 

それは何故か……?

 

答えは簡単――――鏡に映った自分の他、壁に背を預けてギャスパーを睨む緑色の鎧人(よろいびと)を見つけてしまったからだ……

 

行動がワンテンポ遅れたギャスパーは一瞬停止した思考を取り戻し、双眸(そうぼう)を赤く輝かせようとするが……先に蹴り足で目元を斬られて視界を塞がれる

 

ギャスパーの目を封じた鎧人(よろいびと)鳩尾(みぞおち)に膝蹴りを見舞った

 

ギャスパーは血と胃液を吐き出してしまい、そのまま足技で良いように痛めつけられる

 

トイレの床に倒れ伏したギャスパーを見下ろす鎧人(よろいびと)――――幽神正義(ゆうがみまさよし)はギャスパーの背中を踏みつけた

 

「ザマァ無いな、兵藤の女装後輩。最初からお前らの動きなんてお見通しなんだよ。暗闇は俺達の狩り場(テリトリー)、誰が何処に居ようが手に取る様に分かるのさ」

 

「かは……ッ!」

 

「トイレの前にいた猫女は既に血祭りだ。死んではいないだろうが、両腕両足と首の骨をへし折ってやった。当分動く事は出来ない。その上この学園にはお前ら悪魔や天使、堕天使どもの通信を遮断する妨害電波を流してある。内外共に連絡手段は封じさせてもらった」

 

「――――ッ!こ、小猫ちゃんが……ッ」

 

「なぁ、笑えるか?笑えるよなぁ?笑いたきゃ……思いっきり笑えよ」

 

グシャ……ッ

 

正義は容赦無しにギャスパーの顔面を踏み潰した

 

トイレの床に血溜まりが出来上がり、正義は血だらけになったギャスパーを端の個室に放り込む

 

先に始末した小猫も引き摺ってギャスパーと同じ個室に放り込んでドアを閉める

 

一仕事終えた狩人(幽神正義)はスマホを取り出し、通話機能をONにした

 

通話の相手は勿論、弟の幽神悪堵(ゆうがみあくど)

 

「相棒、そっちはどうだ?俺は2人仕留めたぞ」

 

『流石は兄貴だ。俺もシトリーの「(キング)」と「女王(クイーン)」を仕留めたぜ?あいつら夜目(よめ)が利く悪魔のくせに大した事ねぇや』

 

「よし……このまま奴らを追い込んでいくぞ。仲間を1人ずつ確実に仕留めて兵藤の精神を破壊してやれ。怒りと憎しみにまみれて精神が壊れた奴程、地獄に叩き落とすのは簡単だからな」

 

『分かってるさ、兄貴。その為にあのクズ2人を先にボコったんだろ?兵藤や他の奴らの怒りと憎しみが増えれば――――俺達の神器(セイクリッド・ギア)も進化していく』

 

「あぁ、地獄に堕ちて這い上がって来た俺達の怒りと憎しみも混ざれば……進化の速度が早まる。俺達の屈辱ごと、それをたっぷりくらわせてやるんだ……!」

 

スマホの通話機能をOFFにした正義は次の獲物を探すべく、暗闇の中へと消えていった……




幽神兄弟による狩りが遂に始まってしまった……

次回は新サイドです!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。