「……………はふぅ。これで傷が癒えました」
「サンキュー、アーシア。……悪いな、部長や皆の怪我を治すのに無理させちまって……」
オカルト研究部部室で一誠が治療を終えたアーシアの頭を撫でる
アーシアは頬を赤く染めて照れる
しかし、現状は
『
なす術無くボコボコにされてしまったオカルト研究部だったが、彼らは一誠を庇うアーシアを見た途端に戦闘意欲を落とし去っていった……
そして今、新不在のオカルト研究部+イリナの治療をようやく終えた所である
捕縛した『
「『
アザゼルも話を聞き、宙に映像を出して幽神兄弟について調べ始めた
「幽神……幽神……ゆうがみ……?――――っ!そう言えば!」
「イッセー、心当たりがあるの?」
ずっと幽神兄弟の名を
自分の記憶を探り続け、幽神兄弟の事を覚えている限り絞り出す
「中学の時、すっげぇ珍しい名前の兄弟がいたんです!んで、そいつらの名前も
「イッセーと同じ中学出身、しかも生徒会……。どうしてそんな2人がイッセーをあそこまで敵視しているの?」
「そ、そこまでは俺にも分からないんです……。ただ……あの頃から俺達は毎日の様に幽神兄弟に追い掛けられていたのは覚えてます。主に校則違反とか覗き関連で……」
容易に想像がつきそうな追いかけっこの図に苦笑する面々
ここで祐斗がある一点に気付く
「そう言えば、イッセーくんを含めた3人に復讐するって言ってたけど……。後の2人は誰なんだろう?」
祐斗の言葉に一誠は再び記憶を探っていく
中学時代、自分と同じ様に幽神兄弟に追い掛けられていたのは――――あの
自分とこの2人が幽神兄弟を生徒会追放にまで追い込み、復讐の鬼にしてしまった何かがあるのか……?
そんな事を考えていると、1つの転移魔方陣が出現――――中から冥界に行ってたアザゼルが現れた
「お前ら、その幽神兄弟って奴らの正体が分かったぞ」
「先生、調べたんすか?」
「あぁ、前に名前を聞いた事があったから気になって調べてみたんだ。イッセー、お前トンでもない奴らに狙われてるみてぇだぜ?こいつを見な」
アザゼルが宙に映像を出して、ある資料画面を提示する
それはバウンティハンター協会のホームページで、そこから賞金首リストを開いてみると――――危険視されている賞金首の名前がズラリと並んで出てきた
その中にはあの幽神兄弟の名前も……
名前をクリックすると彼らの写真やプロフィール、所有する
「奴らはバウンティハンター協会でも危険視されている
次にアザゼルは彼らが所持している
「まず兄の
「それ程にまで各勢力から危険視されている人物だったのね……」
改めて幽神兄弟の実態を聞かされたリアス達は苦虫を噛み潰した様な表情となり、アザゼルが皆に1つの助言をする
「こいつらとイッセーに何が遭ったかは知らんが――――もし、こいつらがお前らを挑発しようが喧嘩を売ってこようが絶対に人前では手を出すなよ?ありゃ典型的な自己中どもだ。人目を
一誠は「は、はあ……」と生返事するしか無く、他のや皆も腑に落ちない様子だったが無闇に自分達の正体をバラしたり、周りの者を巻き込む訳にもいかない
今後は
―――――――――――
「ウヒャヒャヒャ!竜崎が風邪で休みだと!朝から幸せな気分だ!なあ、元浜!」
「その通り。毎日夜中に丑の刻参りをして呪いを掛けた甲斐があったと言うものだ」
翌日、朝から教室で下卑た笑い声を上げるのは一誠のクラスメートの
モテ男の新を目の敵にしている2人にとってこれ以上の吉報は無いだろう
因みに丑の刻参りとは夜中の1時から3時頃に
そんなくだらない会話が飛び交う中、一誠は幽神兄弟の事で頭がいっぱいだった
『あいつらが俺だけじゃなく、松田と元浜にまで恨みを持ってるんだとしたらヤバいよな……。そもそも、俺達があの兄弟にした事って何だ……?人生を狂わされたって――――』
「おい、イッセー。さっきから何難しい顔してんだ?」
考えてる途中で松田が一誠の頭を小突く
一誠は頭を
自分達の事情や幽神兄弟の事を話す訳にもいかず、秘密裏に処理するしか無い
様々な交錯に疲労も溜まる一方だった……
「……お前らは呑気で良いよなぁ」
「呑気?呑気どころか活気に溢れているぞ!何たって竜崎が休みなんだからな!」
「そうだ!後は美少女とのフラグが建てば俺達は勝ち組なのだ!女を食い荒らす竜崎がいない今が最大のチャンス!今年こそフラグを建てるぞ!」
何処までも最低なハゲとメガネである(笑)
そこへ登校したての
「無理無理、あんたらのスケベ心丸出しの顔で好かれるのは発情期の動物くらいなもんでしょ?」
「何だと桐生!はっ、そう意気がっていられるのも今の内だ!竜崎さえいなければ――――」
「丑の刻参りで呪いを掛けるようなエロバカと話したがる相手がいると思う?」
桐生の一言に教室内の全員がウンウンと頷き、
呪いを掛けようが掛けまいが、忌み嫌われる事に変わり無い(笑)
「「チクショウ!何故俺達がこんなに責められなきゃいけないんだ!」」と嘆く
「そう言えば今朝、正門辺りにこの町じゃ見慣れない2人組を見たわね。近くでテレビの撮影でもやってんのかしら?」
「あ、私も見た」
「私も。俺様系のイケメンって感じよね」
桐生の話に村山と片瀬も便乗し、イケメンと聞いた女子達が一斉に窓へ向かう
「あ、ホントだー!」
「カッコイイ~!」
「でも、なんで着てるコートがボロボロなんだろ?」
「それに……何かこっち見てるような……。もしかして恋人探し?私だったらどうしよう~♪」
“着てるコートがボロボロ”と言う言葉に一誠はいち早く反応し、まさかと思い窓から正門辺りを覗く
正門に
『幽神、兄弟……!?』
そう、神社で一誠達をボロボロにした幽神正義と幽神悪堵が正門から一誠のいる教室をジッと
幽神兄弟の確認に一誠だけでなく、続くように窓の外を見たアーシア、ゼノヴィア、イリナも戦慄する
「ん、何だイッセー。どうした?まさか俺達の恨み手帳に名を乗せる程のイケメン野郎が現れたのか?」
「ならば、そのイケメン野郎の
ゲスな発言を繰り返す松田と元浜が窓の外を覗き込む
遠目に映る幽神兄弟の姿を確認した瞬間、2人の酷い顔が更に酷さを増した……
汗だくで口をアングリさせ、目玉が飛び出し、鼻水も何処ぞのガキ大将の如く垂れ流していた
ガタガタと震え始めた松田と元浜は自分達の席に戻り――――
「え?お、おい、どうした?」
「……イッセー、今日俺早退するわ」
「俺も……。実は今すぐ裏口から早退しないと死んでしまう病を
「命は大事にしろよ……?」
「ちょっ!?ちょっと待て!松田、元浜!」
松田と元浜は逃げるように教室から出ていった……
しかし、これでハッキリした事が分かる
一誠だけじゃない、松田と元浜も幽神兄弟とのイサコザに関わっている……
2人の尋常じゃない怯えようからソレを悟った一誠
後は何が遭ったのかを思い出すだけ……
思考を働かせていると幽神兄弟の方へ歩いていく3人――――ソーナ、椿姫、匙の姿が視界に映った
――――――――――
「失礼ですが、うちの学園に何か御用でしょうか?」
見慣れない2人組の連絡を受けたソーナは椿姫と匙を同行させ、幽神兄弟に話し掛ける
対して幽神正義はソーナの方を向くが、鼻を鳴らすように軽く笑い「人を待ってるだけだ」と簡潔に答えた
今度は匙が話し掛けてみる
「待ってるって……この学園の生徒か?」
「それ以外に誰がいるんだよ?別に俺達は何もしちゃいねぇ。ただここで待ってるだけだ。それとも何だ?俺達がここで誰かを待ってちゃいけねぇ訳でもあんのか?」
幽神兄弟・弟の悪堵が敵意をむき出しにしながらソーナ達を睨み付けるが、兄・正義が「よせ」と悪堵を一旦
そこで正義は目的を明確に伝える事にした
「――――兵藤一誠がここにいる筈だ。そいつをここに呼んでもらおうか」
『……ッ!』
一誠の名が出た事に3人は目を見開く
幽神兄弟の要求にソーナ達は小声で話し合い、改めて兄・正義と向き合う
「兵藤くんにどういった御用で?私達が彼に伝えておきます」
「そんな必要は無い。今すぐここに連れてこい」
「ですから、伝言なら私達が――――」
「そうか……。なら、仕方ねぇよなぁ……?」
ジャキ……ッ
幽神兄弟はソーナ達以外には見えない角度でそれぞれの
いきなり
「あ、あんたら……!いったい何の真似を――――」
「ここに兵藤がいるのは調べがついてる。奴を逃がす為の時間稼ぎでもしようと言うのなら――――俺達は今すぐ暴れるぞ。この学園内にいる奴らも、周りの奴らも巻き添えにするが……それでも良いか?この町を守ってる悪魔ども」
「兵藤を呼ぶか、俺達に殺られるか。俺は別にどっちでも良いぜ?」
幽神兄弟は学園の生徒全員と周囲の人々を盾に、ソーナ達に脅しを掛けた
卑劣な手段を用いる幽神兄弟に歯軋りする匙
しかし、今この場で騒ぎを大きくするのはまずい
ソーナは1つの提案を幽神兄弟に出した
「……分かりました。でしたら、せめて放課後まで待っていただけますか?放課後には生徒も少なくなりますので」
「つまり、放課後に兵藤を出せると言う訳か。良いだろう、お前達の提案に乗ってやる」
ソーナの提案を受け入れた正義は再び正門に背中を預け、その場で待つ事にした
ひとまずこの場は何とか凌いだソーナ達は学園に戻っていく
「良いのか、兄貴?あいつらの提案を受けるなんて。この学園の奴らごと兵藤を――――悪魔どもをぶっ潰せるチャンスなのによ」
「確かにそうだが、それじゃあ面白くないだろ。復讐と言う料理は冷ませば冷ますほど旨味を増す。……分かるか相棒?俺の言いたい事が」
「――――ッ。あぁ、分かったぜ。そう言う事なら……そっちの方が面白そうだな。兵藤の歪んだ顔が目に浮かんできそうだ。やってやろうぜ、兄貴」
「その意気だ、相棒。兵藤共々、奴らを地獄に叩き落としてやる」
―――――――――――
昼休み、一誠達は落ち着かない様子で弁当を食べている
落ち着かない理由は言わなくても分かるように、幽神兄弟が正門辺りで見張りを続けているからだ
一誠が出てくるまでは断固として動く気は無い様子……
しかも、昼飯のカップ麺やらハンバーガーやらを持参してくる辺り用意周到である
更に授業と時間が進み、日も暮れてきた時刻――――外は強い雨に包まれていた
人が少なくなり、ようやく表立った行動が出来るようになった一誠達
そこへ匙がやって来る
「やっばり会長の言ってた通り、雨が降ってきたな」
「……?匙、どういう事だよ?」
「あいつらと話した後、会長から言われたんだ。『今日は特に強い雨が降るから、それまで少しでも時間稼ぎしましょう』って。この雨の中で延々と待ち続ける奴なんていないだろ?」
「そうだったのか。さっすがシトリーの『
「あの2人組が帰ってからゆっくり対策を練れば良いさ。さて、そろそろ様子を見てみるか」
そう言って匙は窓の方へ歩み寄り、窓の外を見た
この強い雨の中、普通ならキツくなって帰る筈……そう読んでいたのだが――――奴らは普通じゃなかった……
「……ッ!………嘘だろ……っ?まだいる……ッ」
『――――ッ!?』
後退りする匙の言葉を聞いた一誠、アーシア、ゼノヴィア、イリナは我が耳を疑い窓の外を見る
その言葉に偽りは無く――――幽神兄弟は未だに正門から離れず、雨に打たれながら一誠達がいる教室を睨み付けていた……
尋常じゃない執念を持つ幽神兄弟に危険を感じた一誠は……思い切って彼らの前に出る決意をした
このまま放っておいても彼らは延々と待ち続けるだけで
そう判断しての行動だろう……
「匙、俺ちょっと行ってくる」
「ま、待てよ兵藤!あいつらの狙いはお前なんだぞ!?わざわざやられに行くってのか!?」
「そうかもしれない……けど、ここまで来たら知らない訳にはいかないんだ!あいつらと俺に――――何が遭ったのか……ッ。知らなきゃいけないんだ!」
一誠は匙の制止を振り切り、ダッシュで教室を出ていく
「ま、待ってください!イッセーさん!」とアーシアも一誠についていってしまう
取り残された匙、ゼノヴィア、イリナはひとまずリアスとソーナに連絡する事にした
一誠が雨の下の外へ飛び出し、アーシアも傘を指して同行する
正門前に到着すると、待ってましたとばかりに幽神兄弟が一誠の方を向いて口の端を吊り上げた
「やっと来たか、兵藤ォ」
「今朝から待ってた甲斐があったぜ。あれから約10時間ぐらいか、時間稼ぎでもしてたつもりだろうが無駄だったな」
どうやらソーナの目論みは最初から見透かされていたようだ……
一誠が口を開く
「幽神……俺がこんな事を聞くのもおかしいと思うけど、俺達――――お前らに何をしたんだ?」
幽神兄弟が元いた中学の生徒会を追放された原因が自分にもあるなら、一誠はそれを思い出さないといけない
しかし、自分の記憶を振り絞っても思い出せなかった以上……幽神兄弟本人に直接確かめるしか無い
突然の質問に幽神兄弟の動きが一瞬止まり――――次第に不気味な笑い声を上げた
「ハッハッハッハッハッハッ……こいつは驚いた。まさか覚えていないとは。まあ、所詮そんなものか……俺達に対する念は……」
「兄貴、やっぱりこいつはクソ野郎だ。それも想像以上のクソ野郎、自分が何をやらかしたのかまるで分かっちゃいねぇ」
「……そう、なんだ。実は……本当に覚えてないんだ。だから!だから教えてくれないか?俺達がお前らに何をしちまったのか……」
一誠の頼みに幽神兄弟は互いに顔を見合わせ、兄・正義が話を振る事になった
今から約3年前――――当時の幽神正義は中学3年で生徒会会長、幽神悪堵は中学1年で生徒会副会長として功績を積み重ねていた
今とは風貌が全くかけ離れた模範生で、生徒だけでなく教師からの人望もあった
「あの時から覗き常習犯のお前達と毎日鬼ごっこしたものだ。3日に1度全ての更衣室を調べ回り、見つけた覗き穴や覗きスペースを封鎖していった。だが……覗き穴を見つけて塞いでも直ぐに別の穴を空ける。そう考えた俺達は兵藤、松田、元浜を捕らえて10000枚の反省文をプレゼントしてやったな。1ヶ月毎日やらせて」
それは反省どころか完全に拷問レベルである……
1ヶ月続けた結果、3人の腕は見事に筋肉痛となり……まともに覗き行為も出来なくなった
一誠は「今度はあいつらに見つからないようにしないとな……」と警戒を強めるだけだったが、松田と元浜は復讐してやると心に誓っていた
ある日、3人は懲りずに新しい穴を作り、女子更衣室を覗こうとしていたが……中にいる女子達に先に気付かれてしまう
『誰、そこにいるのは!』
『やべっ!今日は早く気付かれた!』
『イッセー!今回は二手に分かれて逃げるぞ!後で連絡して落ち合おう!』
『分かった!』
松田に言われたイッセーは素早くその場を離れるが、松田と元浜は無言で頷くと――――覗き穴の前に何かを落としていった
『ヒャッヒャッヒャッ、今回の俺達は一味違うぞ』
『幽神め、俺達と同じ反省文の苦しみを味わうが良いさ』
そそくさと立ち去る松田と元浜
彼らがこれ見よがしに覗き穴の前に落としたのは――――盗んだ生徒会長・幽神正義と副会長・幽神悪堵の生徒手帳だった……
その頃、幽神兄弟は誕生日を迎える母親の為に生徒会の仕事を早く切り上げ、商店街を歩き回っていた
いざプレゼントを何にしようかと意気込んだ直後、悪堵は生徒手帳が無くなっている事に気付く
『あれ、兄貴。俺の生徒手帳が無い』
『何?お前もか。俺のも無いんだが……学校の何処かに落としたのか?』
『とりあえず戻って探そうぜ』
幽神兄弟は自分達の生徒手帳を探しに学校へ戻る事にした
心当たりがある場所を一通り探したものの、一向に見つからず……
正義は腕を組んで唸る
『これだけ探して見つからないとはな』
『兄貴、明日落とし物窓口に聞いてみようぜ。もしかしたら誰か拾ってるかもしれねぇし』
そうだなと言おうとした矢先、後ろから『やっぱり会長と副会長のだったんですか』と怒声が聞こえてくる
何事かと思い振り返ってみると、そこには多くの女子生徒が怒りや落胆の視線で見ていた
彼女達の様子に正義は『どうした?そんなに怖い顔して、何か遭ったのか?』と訊く
それに対して1人の女子が生徒手帳を突きつけながら言う
『
『なっ!?ど、どうして俺達が!それに仕事を早く切り上げたのは――――』
『言い訳なんて聞きたくありません!会長じゃないと言うなら、どうして会長と副会長の生徒手帳が覗き穴の前に落ちてたんですか!』
『先輩、酷いです!生徒会長として尊敬してたのに……!』
『お二人が実はムッツリスケベな事は知ってましたけど……それでも卑怯な真似だけは決してしない、真っ直ぐで素敵な人だと思ってました!あなた達はそれを裏切ったんですか!?幻滅です!』
『サイテーよ!これじゃあ変態3人組と同じじゃない!』
『そうよそうよ!』
身に覚えの無い濡れ衣を着せられ、女子生徒から侮蔑の視線と罵倒を受ける幽神兄弟
必死に弁明するが誰からも信じてもらえず、騒ぎを聞いた男子生徒まで幽神兄弟を責め立てる
『何だよ、結局幽神もあいつらと同じかよ』
『実はグルになって盗撮とかもしてたんじゃね?』
『あり得るー!うっわー、ドン引きするわー!』
『ち、違う!違う!俺達は何も――――』
『うっせー、性犯罪者が喋るな!』
『人権侵害ー!』
『実刑判決ー!』
普段から幽神兄弟の活躍が気に入らない連中がいたのか、次々と紙クズや靴、鞄が幽神兄弟に飛んでいく
予想以上に大きくなってしまった騒ぎにも負けず、何とか落ち着かせようと思った刹那――――ガンッと鈍い音が鳴った
『……あ、兄貴……?頭から何か出てる……っ』
『え……?』
正義は足元に転がった物――――未開封の缶ジュースを見て言葉を失い、側に垂れた血が視界に映る
自分の額を手で触れると……やはり血が付着していた
先程の缶ジュースで額が切れてしまったのだろう……
そんな事態になったにもかかわらず、男子生徒は更に野次を飛ばす
『命中~!』
『さすが野球部エース!ナイスピッチング!』
『悪党成敗~!』
『あ、兄貴……兄貴……!』
悪堵は首をフルフルと横に動かし、悲壮から徐々に怒りへと感情を変えていく
足元の缶ジュースを拾い――――そのまま握り潰した……
因みに中身が入った缶ジュースを握り潰すには凡そ100㎏以上の握力が必要らしい
缶を投げ捨てた悪堵は腹の底から怒号をぶち撒けた
『ふざけんなゴラアァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアッ!』
怒り狂った悪堵は缶ジュースを投げた男子生徒の顔面を殴り、髪の毛を掴んで壁に何度も叩き付けた
悪堵の凶行に多くの生徒が悲鳴を上げ逃げ回る
『だ、誰か止めろぉ!ぐばあっ!』
『警察だ!警察を呼べぇ!へぶぅっ!』
『このクソ野郎どもがあぁっ!クソ野郎どもがアァァァァァァァァァァッ!』
『やめろ悪堵ォ!そんな事しても何も変わらない!』
『そうだとしても!こいつだけは!こいつだけはぜってぇ許さねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええっ!』
『駄目だ!やめろおォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!』
悪堵は正義に缶ジュースをぶつけた男子生徒の右腕を捉え、その腕に肘を振り下ろした……
その男子生徒は利き腕をへし折られた事により、出場が決まっていた甲子園を断念するどころか野球生命まで絶たれた
他にも顔面骨折、内臓破裂の生徒が病院に運ばれ――――幽神兄弟は警察に連行
傷害事件として
校長と教頭は自主退学を勧め、幽神兄弟はそれに応じるしかなかった……
彼らの順風満帆な生活はあっという間に転落人生へと早変わり、母親もショックで昏倒してしまい、幽神兄弟は家を出てしまった
「それから俺達にこの
全ての
一誠はその衝撃の事実に絶句していた……
次に正義は自身の前髪を上げて額を見せる
額にはその時に負った大きな傷痕が残っていた……
「兵藤、お前に分かるか?人の為に役立とうと滅私奉公してきたのに、たった1日で地獄に落とされた俺達の無念が……怒りが……憎しみがぁ……!何で俺達が疑われなきゃならないんだ?何で誰も俺達の話を聞いてくれないんだ?何より――――何で忌み嫌われていたお前が人生を満喫してんだよォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!?」
正義は物凄い剣幕で正門に蹴りを入れ、砕けた破片が一誠の前に転がる
一旦息を整え、再び一誠の方を向く
「……兵藤、まずはお前からだ。人気者になってのぼせ上がったお前をこれ以上無い地獄に叩き落としてやる。もうお前は俺達の復讐から逃げられない。ジワジワ追い詰めて……潰す」
冷淡な声音で締めた正義は
立ち去ろうとする幽神兄弟に一誠は待ったを掛ける
「……分かった。そこまで俺を憎んでいるなら……俺は逃げねぇ!ただ……今は、今は俺だけを狙え!松田と元浜は非日常とは無関係なんだよ!もし、不満なら……俺が引っ張り出して謝らせる!いや、俺も一緒に土下座でも何でもするさ!だから――――頼む!周りの人達を巻き添えにしないでくれッ!」
強い雨の中、一誠は地面に手を付けて精一杯の土下座をした
頭を地面に擦り付け、必死に幽神兄弟に頼み込む
それを見た正義は「考えといてやる」と一言だけ呟き、悪堵と共に
ひとまずここでの暴動を食い止める事が出来た一誠は、そのまま地面にへたり込んで大きく息を吐いた
アーシアがハンカチで一誠の額に付いた泥を拭き取る
「イッセーさん、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ……。サンキュー、アーシア。……俺、今まで知らなかったのがバカだよな……。松田と元浜があんな酷い事してたのも、幽神が俺に対してそんな考えを持ってたなんて……。あれじゃ恨まれても仕方無い、よな……」
――――――――――
「兄貴、さっきの兵藤ヤバかったよな。あまりにも
「決まってるだろ。ただ潰すだけじゃ面白くない。奴の大事な物を全部壊した上で地獄に叩き落とす」
「ハハハッ!流石は兄貴、あっさりと約束を破る気満々か!」
「約束?バカを言うな。兵藤が土下座する前から俺の答えは決まっていた。俺はもう奴を許す気など無い。地獄に落ちた時から許す・許してもらうと言う概念は捨てたんだからな。異論は無いな、相棒?」
「良いぜぇ、兄貴となら誰だろうとぶっ潰せる。潰してやろうぜ。兵藤も、周りの連中も、町の奴らも全て!」
「そうだ……。もう俺達に残されたの道は1つしか無い。――――地獄に落ち続けるだけだ……ッ」