それでも良ければ、どうか読んでいってください。
では、第一章。
ブラック・ブレット ~新生物創造計画~第一話です!
第一話
「えっと・・・どの辺りだっけ、結衣?」
「そこの角を右に少し行けば分かるって言ってたよ、兄さん」
自転車に二人乗りしながら後ろに乗っている妹に道を聞いて、その通りに進む。
えっと・・・あ、あれかな。警察の人がいるし。他に人は・・・いないな、うん。
「すいません、ここにガストレアが?」
「ん、ああ・・・あんたらは?」
あ、そうか。まずはこっちの立場を言わないといけないか。
「申し訳ありません、片桐民間警備会社所属、プロモーターの
「兄のイニシエーターをやっています、
驚いて結衣を見ると、結衣はこっちと目を合わせようとしなかった。
出来ることなら、結衣にはついてきただけの妹ってことにしておいてほしかったんだけど・・・
「兄妹で民警か。それにしても・・・民警なんて似合う性格には見えねえぞ」
「よく言われますし、自覚もありますよ。あなたは?」
「ああ、悪いな。多田島だ。で、件のガストレアだが・・・」
そう言いながらすぐそばにある建物を見上げたので、つられてそちらを見ると・・・
「・・・あれが?」
「そうだ。モデル・ゲッコって報告をもらってる」
「ゲッコ・・・?」
「ヤモリのことですよ、兄さん」
なぜうちの妹は当然のように知っているのだろうか・・・と、無駄なことを考えるのはここまでにしておこう。
服の内側に隠してある銃を取り出しながらそんなことを考えて、建物の壁に張り付いているガストレアを見る。
二匹もいるし異常に大きいけど・・・あれ、オスとメスかな?
「どうします、多田島さん。あれがもし交尾中とかだったら。未だ見たことのないガストレアの生態を知ることができるかもしれませんよ?」
「こんな時でもそんなことを言ってられるのか・・・ずいぶんと気楽なもんだな」
「むしろ、現実から目を逸らしているんですよ。僕、序列は十一万千二十五位なんで。・・・あれ、ステージⅠですよね?」
「ああ。それでも二匹いるから、報酬ははずませてもらうぜ」
「それは助かります。うち、貧乏なので」
さて、と。まずはどうしようか・・・向こうに気付かれないままいけるなら一番だけど、それは無理だろうし。
「結衣、一匹任せてもいい?」
「当然です。というか、最初一人でやる気でしたよね?後でちょっとお話が・・・」
その先を聞きたくなかったので、ガストレアに向かって銃を発砲する。
もちろん、装填されてるのはバラニウム弾。
「じゃあ、今撃った方をよろしく」
「分かりました」
返事を聞いたところで銃をしまい、代わりにバラニウムのコンバットナイフを二本抜く。
隣で結衣も銃を二丁構えたのを確認して、飛び降りてきたガストレアの下に回り込む。
口をあけて跳び下りてくるので、まずそこに向けてナイフを投げ込む。
ガストレアは体の中を直接傷つけられてダメージがひどかったのか、軌道がそれて少し先に落ちた。あー・・・建物が尻尾で壊されてる。これ、僕の責任じゃないよね?
「って、それは後から考えるべきか」
余計なことを言ったん頭から追い出して、ヤモリの上に登って脳がある辺りにナイフを突き刺す。
片手でえぐりながら銃をとり、ふと見ると結衣も似たような体制で二丁の銃を直接脳に打ち込んでいる。妹に先こされちゃったか・・・そう思いながら銃の引き金を引いて、マガジンが空になるまで打ち込んでから銃をしまい、ナイフを引きぬく。
「これ、洗わないとしまえないなぁ・・・多田島さん、このあたりに公園とかあります?」
「あ、ああ。確かすぐそこに・・・後ろ!」
慌てたように言われて振り返ると、僕がやっていたガストレアが起き上がってきていた。ちょ、あれだけやってもまだ生きてるとか・・・
少しあわてながら多田島さんを突き飛ばし、腕に少し牙を突き立てられて・・・そこで結衣がガストレアを蹴り飛ばした。
一撃では済まず、まず間違いなく死んでいるところに追撃を加え続けているのでもうバラバラになっていて・・・と、そこで肩に手を置く。
「ストップ、結衣」
息を荒げて振り返った結衣の青い目を真正面から見て、両肩に手を置いて視線を合わせる。
「周りの皆さんがもうドン引きだよ?」
「あ・・・申し訳ありません、兄さん」
恥ずかしそうに顔を伏せたので頭を少し撫でて、もう一振りのナイフも回収する。
少し走って公園に行き、ガストレアの関係で避難しているのか誰もいないので堂々とナイフを洗ってから多田島さんのところに戻る。
「申し訳ありません、待たせてしまって。イニシエーター滝沢結衣とプロモーター滝沢歎。ガストレアを排除しました」
「ご苦労民警の諸君」
お互いに敬礼をしてから、多田島さんから報酬を受け取る。
中を見てみると・・・確かに、ステージⅠのガストレア二体分よりも少し多めの報酬が入っていた。
「それにしても、二人ともおとなしそうな顔してんのにえげつない戦い方をするもんだな」
「うっ・・・ひどいですね」
「いや、たぶんここにいる全員がそう思ってるだろうぜ」
だって・・・あれが一番有効な手だと思うし。さすがにステージⅡ以降とか空を飛べるタイプのガストレアには使わないけど。落ちるのはともかく、落ちてからを見られたらマズイし。
「・・・では、僕はこれで失礼します。また依頼などありましたらこちらまでご連絡のほどを」
「ん、分かった」
名刺だけ渡してから、僕は結衣を乗せて自転車を走らせる。
さて、と。確か買い物リストはこのあたりに・・・
「あ・・・なくなってる」
「元々、買い物のために出たはずなんですけどね。大丈夫ですよ、兄さん。リストは全て覚えていますから」
出来た妹を持つと、こういう時には助かるよね。
「「いただきます」」
「おう、食え食え」
もう毎日のことだけど、玉樹さんが作ってくれた夕食をいただいている僕と結衣。
今食卓を囲んでいるのは、僕に結衣、玉樹さんと弓月ちゃん。この民警会社に所属してからもう毎日食事はお世話になってる・・・というか、ここに一部屋借りさせてもらっている。
「本当に、ありがとうございます玉樹さん。僕たちを雇うだけじゃなくて、色々とお世話になってしまいまして」
「いいってことよ。家族と一緒にいたいって気持ちは、おれっちにも分かるしな」
「そうそう!あたしも結衣やんと一緒に入れてうれしいし!」
「私もうれしいですよ、弓月さん」
二人が仲良くしているのを見て少し和んでから、ふと思い出してかばんから封筒を取り出す。
「これ、今日倒したガストレアの報酬です。買ってくるよう頼まれたものの代金分は減っていますけど」
「あー・・・いつも言ってるが、半分はそっちで持ってっていいんだぜ?」
「そんなにはいりませんよ。僕は学校に行ってるわけでもないですし、食事はここでお世話になっています。最低限、結衣が学校に行けるだけのお金はもう受け取っていますし」
その分は、四月には貯めてある。
そういうわけで、毎回ほんの少しだけ受け取ることができればそれで問題ないのだ。
「何より、居候の身ですからね。家賃くらいは払わせてくださいよ。・・・こんな力を持ってる僕なんか、」
「待て」
僕の言葉は、玉樹さんに遮られた。
顔をあげてみると・・・少し、睨まれてる。
「その話はするな。もう何回目か分からないが、おれっちや弓月は気にしてない」
「・・・本当に、ありがとうございます。まさか、
この人、見た目によらずものすごくいい人だ。本当に。
まず間違いなく、初対面で他の人に
と、そこで妹組みの話が聞こえてきた。
「そういえば・・・来客でもありましたか?」
「あったけど・・・どうして?」
「嗅ぎ覚えのない匂いがしましたので」
嗅ぎ覚えのない、って表現としてはあってるのかな・・・?まあ、言いたいことは分かるけど。
結衣はモデル・ウルフのイニシエーター。匂いには敏感だし。
「ああ、そうだ。おれっちたち、アジュバンドに参加することになった」
「それはまた・・・何かありましたか?」
「モノリスが崩壊するそうだ」
つい箸を落としてしまった。隣では、結衣も使っていた箸を落としている。
「・・・すいません。玉樹さんを疑いたくはないんですけど、それ本当ですか?」
「マジだ」
「マジなんですか・・・」
床はつい昨日掃除した関係でそこそこ綺麗なので、水で軽く洗ってから結衣に渡す。
シンクロした動きで四人が飲み物を飲んでから、話を再開する。
「はぁ・・・相手はどんな感じなんですか?」
「敵は二千体、親玉はアルデバランだそうだ」
今度は箸を落とさなかったけど、代わりに絶句した。
なんでこう・・・この二人は厄介事に首を突っ込んでいるのだろう?
「それで、お前は・・・って、わりい」
「あ・・・いえ。むしろぼくの方こそ、すいません。東京エリアの危機なのに、手も貸せなくて。・・・その難易度ですと、
相手が二千体。しかも、親玉がステージⅣのアルデバラン。
死ぬとは思えないけど、それでもあれを使うんじゃ大差ないし。
よっぽど信用できる人の前でもない限り、使えない。
「僕がうじうじしているせいで、結衣にも迷惑をかけてしまっていますし」
「そんなことは、」
「あるよ。結衣だけなら、序列は千番台は固いはずだし・・・でも、アジュバンドに参加するのはなぁ・・・」
他のペアと組んでいたら、参加させられていた可能性が高い。
「ま、さすがに参加を強制するつもりはねえよ。してくれるなら、心強いけどな」
「十一万千二十五位に何言ってるんですか?」
「本当にその順位なら、ステージⅠを二匹相手にして無傷で帰ってこねえよ」
「ってか、この間ステージⅢも倒してなかった?」
あっれー?その話はしてないはずなんだけどな・・・
「会社側に連絡が来ないはずねえだろ。おれっちに直接来た。・・・ってか、社長に何の報告もなしっていうのはどういう了見だ?」
「兄さん、その話は私も初耳なのですが・・・」
「ごちそうさまでした。少し散歩してきます!」
逃げました。
「はぁ・・・逃げるだけ無駄だったなぁ・・・」
「当然です。私は狼の因子を持っているんですよ?」
逃げて十分でつかまり、勝手な行動をするのはもう止めないが報告くらいはするように、と二人からお説教を受けた。
その後ろで弓月ちゃんは笑ってたけど・・・はぁ、あの光景もう何度目だろう?
「・・・さて、もう寝ようか?」
「そうですね。準備します」
結衣はそう言って自分の目と同じ色のカラーコンタクトを外し、寝間着に着替えてからこちらに来たので長い髪をゆったりとした三つ編みにしていく。
結衣の銀髪を結い上げながら、今日までのことを思い出す。
僕の体は、普通の人間とも呪われた子供たちとも違う。民警のライセンスは取れたけどそのことでどこにも所属できなかったところに、仕事で一緒になった玉樹さんは誘ってくれた。
おかげで、こうして自分と同じ銀髪と碧眼を持つ妹と一緒に暮らせている。
「・・・よし、出来たよ結衣」
「ありがとうございます、お兄ちゃん」
絡まないように結衣の髪もまとめることができたので、一緒に布団に入る。
「そう言えば、今日牙を刺されていましたよね?大丈夫でしたか?」
「ああ・・・もう塞がったよ」
「ウイルスの方は?」
「そっちも心配ない。・・・結衣は知ってるでしょ?」
「それはそう、ですが・・・」
何か言いたげな結衣の頭を、昼より少し雑目に撫でる。
髪が崩れるから、と昼間はあれくらいでやってるけど、結衣はこっちの方が好きだったりする。
「心配しすぎだよ、結衣は。それより、結衣の方は大丈夫?学校とか」
「・・・はい、大丈夫ですよ。あまり学校で弓月さんとは話せませんが、楽しくやれています」
あー・・・確かに、弓月ちゃん学校ではあんまり人とかかわってないって言ってたな。玉樹さんが。
「それなら、二人とも問題なく暮らせてるってことで」
「ですね。お互いに安心して、もう寝るとしましょう」
これ以上お互いに詮索しても、お互いに心配させないようにと何も言わないにきまってる。
そして、結衣が僕に抱きついてきたところで電気を消して、二人で眠りについた。
はい、というわけでこんな感じになりました。
後一話、四巻の終わりまで書いたら終わりです。
感想とか、待ってます。