ドラえもん のび太の大魔境 second season 〜もう一つの伝説〜 作:田舎者
それではどうぞ
スピアナ王妃の奪還作戦の前夜
ムー連邦 大統領公邸 宿泊棟
時刻は既に23時を指している。
ドラミを始めとした一同はエル達海底人が用意したそれぞれの宿泊室にて、既に眠りに就いていた。
ある1人を除いては……
のび太
「……………」
のび太はベッドに入ってもどうにも眠りに就くことが出来ず、同じ部屋で寝付いていたスネ夫を残して宿泊室を後にし、薄暗い宿泊棟の廊下から外の景色を眺めた。
深夜の海底都市は、地上で見る都市の夜景に劣らぬ程華美な物であった。
海底が都市の灯りによって灯されている幻想的な光景は、のび太にとっては新鮮で、思わずその夜景に心を奪われた。
エル
「眠れないのかい?」
のび太の後ろから、いつの間にかのび太の後ろに立っていたエルが声を掛けた。
のび太
「うん……」
のび太は思わず振り返って軽く頷くと、再び視線を外の夜景に移した。
そんなのび太の様子を微笑しながら、エルはのび太の横に歩み寄った。
エル
「どうして…眠れないんだ?」
エルはのび太の顔を見て問うた。
のび太
「………心配なんだ、明日の作戦…。……上手く行くのかなって思ってさ……」
そう言うとのび太はエルから目線を逸らした。
のび太
「作戦会議の時はまだ精神的には大丈夫だったんだ。だけど……いざ明日が作戦開始の日だって実感した瞬間、明日の事が不安で不安で仕方無くなったんだ…。「もしかしたら僕達の仲間の誰かが死んじゃうかも知れない」って…」
エル
「…………」
エルは真剣な顔つきで、黙々とのび太の話を聞く。
のび太
「それだけじゃないよ。…もし奪還作戦に失敗したら……僕はペコにどんな顔して向き合えば良いのかって…。そう思ったら……怖くてさ……」
のび太は内なる心情を吐露すると、俯くように深く目を伏せた。皆の前では平静を装っていたのび太だったが、心中では臆病な気持ちに駆られ、震えていたのだ。
しかし心中を打ち明けたのび太に、エルは笑いながら返した。
エル
「強いんだな……君は。」
のび太
「……え?」
思いがけないエルの言葉に、のび太は顔を上げた。
続けてエルは口を開く。
エル
「行き当たりばったりなんかじゃなくて、ちゃんと先を見据える事が出来てる。そういう人材こそが、皆を守るんだよ…。」
そう言うとエルは夜景を背にし、窓際にもたれかかった。
のび太
「そんな……僕はただ……恐怖に震えてるだけだよ…。皆を守るなんて……僕には出来ない。」
エル
「それは違うよ。"臆病"だからこそ、守れるんだ。」
エルの言葉に、のび太は目を丸くした。
エル
「戦いで大切な物は、圧倒的な力でも、聡明な頭脳でも無い。大切なのは……"臆病さ"なんだよ。」
のび太
「臆病……さ…?」
のび太はエルの言葉に疑問を呈する。
そのままエルは続けた。
エル
「臆病とは、裏を返せば慎重である事。そして慎重である者は、常に最悪の事態を想定しているんだ…。それが君だ。」
そしてエルはのび太を指差した。
エル
「君は自分じゃ気付いてないみたいだけど…、思い返せば、今までだってそうやって様々な困難を乗り越えて来たんじゃないかな?」
のび太
「ーー!!」
エルの言葉の言葉を聞いたのび太は、今まで繰り広げてきた冒険を思い返した。
エル
「……立派だよ、君は。……自信を持て。」
そう言うとエルは右手をのび太の肩に置いた。
のび太
「エルさん……」
そしてエルの言葉を聞いたのび太の震えは、既に止まっていた……
ドラミ
「………ふふ」
そんな2人の様子を、柱の陰からこっそりと見ていたドラミは微笑すると、その場を後にした……
そして2人は廊下のベンチに腰をかけ、談話を始めた……
のび太
「ねえ、エルさんは……戦いが怖くないの? こんな状況でも冷静だし…」
のび太はエルに問うた。
エル
「怖いさ。誰だって怖いのは当たり前だ。だけどね……怖いからといって逃げても良いって事にはならないだろ? 」
エル
「僕は君達に返しきれないほどの恩がある。その借りを少しでも多く返さなきゃならない。だから僕は逃げる訳には行かない………そう思ってるだけさ。」
そう言うとエルはのび太に笑顔を向けた。
のび太
「……ハハ、やっぱり強いなあ、エルさんは」
エル
「君こそ……な」
そして2人は互いに拳を合わせ、深く握手を交わした……
やはり人間ドラマを描くのは楽しいですね(笑)
何故だか心がほっこりします(笑)