次の休日、絵里の提案通りに「穂むら」に集まるμ's。そしてラブソングの為になる事を言っていこうとなり、穂乃果が立ち上がる。
「好きだ。愛してる!」
「それはなんか違くない?」
穂乃果が決め顔で言うも、若葉によってそれは否定される。絵里達も同感だったのか、苦笑いを浮かべる。穂乃果も同感だったのか、机に顔を乗せてダレる。
「ラブソングって難しいね~」
「ラブソングは詰まる所、好きって感情をどう伝えるかだからなぁ」
「穂乃果はストレートだからね」
夏希と若葉が笑いながら返す。そんな二人を穂乃果は見上げ、愛生人を見て首を傾げる。穂乃果に見られた三人も揃って首を傾げる。
「そう言えばお兄ちゃん達ってどんな告h」
「さぁ次行ってみようか!」
「そうですね!」
「誰かなんかあるか!?」
前日の事を思い出し慌てて穂乃果の台詞を遮る三人。今回は夏希にも被害が及ぶと判断した為、夏希も話を逸らす事に協力する。
「真姫ちゃんや凛ちゃんは何か書けてないの?」
「私、作詞は苦手だから」
「凛も文章に直すのはちょっと……」
希に広げた真っ白なノートを見られた二人は、それぞれ返す。それを見兼ねたことりが鞄から恋愛物の無声映画を取り出し、視聴を提案する。
無声映画が始まって数分。暗い室内で若葉は背中に重みを感じる。頭だけで後ろを確認すると、穂乃果が凭れ掛かっていた。机を挟んだ反対側では凛が愛生人に膝枕される形で寝ていた。
「わ、若葉」
「どうしたの?」
机に肘を付き映画を見ていると、不意に服を引っ張られる。そちらを見ると真姫がすぐ横にいた。若葉は首を傾げて聞くと、真姫はもじもじとしながらもお願いをする。
「あの……私も」
真姫の視線の先には凛を膝枕しながら、いつの間にか寝ている愛生人がいた。若葉はそれを見ると納得し、穂乃果を起こさない様に気を付けながら場所を開ける。
「さ、おいで」
膝を叩きながら言うと、真姫はゆっくりと膝に頭を乗せて横になる。真姫の頭が膝に乗ったのを確認するとそっと頭を撫で始める。初め、ビクッとするも二回目以降は気持ち良さそうに目を細める。
その一部始終を見ていた希は、それを見て微笑み部屋を見渡す。すると部屋の隅で丸まってクッションで耳を塞いでる海未を見つける。皆もそれが気になり海未を見る。
「どうしたの海未ちゃん」
「怖い映画じゃないよ?」
「それは分かっています!」
絵里とことりの言葉に海未はクッションで抑えたまま振り返り叫ぶ。そしてそのまま視線はテレビ画面に釘付けになる。映画はちょうどキスシーンに差し掛かっていた。画面の中の二人の距離が近付くにつれ、海未の上げる声が大きくなる。そして唇が触れ合うまであと僅かという所で、海未はテレビのスイッチを消し、電気を点ける。
「恥ずかし過ぎます! 破廉恥です!」
「そうかな~」
「そうです! そもそもこういう事は人前でするものではありません!」
海未が言い切ると、声が大きかったのか、明かりが点いたからなのか、穂乃果が目を覚した。
「ほぇ?」
「おはよう穂乃果」
若葉は穂乃果に挨拶すると若葉から離れ、その膝で気持ち良さそうに寝ている真姫を見て若葉と笑顔を浮かべる。若葉は膝の上で寝ている真姫の肩を軽く揺すって起こす。希もいまだに寝ている愛生人と凛を起こす。
「穂乃果ちゃん達はともかく、真姫ちゃんが寝るなんて珍しいね」
「だ、だって、その、若葉の膝の上って気持ち良かったし……」
恥ずかしがって言う真姫の頭を若葉が撫でる。
「まぁ何もしないでも開始三分で寝てた二人組がいたけどな」
「だってのんびりした映画だな~って思ったら、途端に眠くなっちゃって」
夏希が穂乃果と凛を見ながら言うと、穂乃果が少し申し訳なさそうに言う。テレビ側に向けていた身体を直しながら、絵里が困ったように言う。
「中々映画のようにはいかないわね。じゃあもう一度皆で言葉を出し合って」
「待って!」
絵里の言葉に真姫が待ったをかける。真姫のストップに皆が真姫を見る。
「もう諦めた方がいいんじゃない?」
「確かにこれから曲を作って、振り付けも歌の練習もこれからなんて完成度が低くなるだけですよ」
「実は私も思ってました。ラブソングに頼らなくても、私達には私たちの歌がある」
真姫、愛生人、海未の言葉に穂乃果とにこも賛成する。相手はA-RISE。中途半端なライブじゃ負けてしまう。そう思っての賛成だった。
「確かに皆の言う通りや。今までの曲で全勅を注いで頑張ろう。今見たらカードもそう言ってるし」
「希……」
「のぞみんはそれでいいのか?」
絵里と夏希が確認を取ると、希が一番大事なのはμ's、と言った為二人とも黙ってしまう。そんな様子に穂乃果が三人を見るも、希に何でもない、と誤魔化される。
そしてその日は解散となった。
穂乃果と若葉が窓から手を振って見送る。
「真姫ちゃん?」
「花陽、凛、愛生人。先に帰ってて」
真姫が花陽と凛、愛生人と店先で別れて絵里と希の後を尾け始める。それを二階から見ていた若葉は疑問に思い、下にいた愛生人と目を合わせ首を傾げる。その為、二人は真姫の後を尾け始めるもう一つの影に気付かなった。
「本当に良いの?」
「良いって言ったやん」
「ちゃんと言うべきよ。希が言えば、皆協力してくれるわ」
「ウチにはこれがあるから十分なんよ」
希はそう言ってポケットからタロットカード取り出す。真姫はそこまで聞いてどういう事かと疑問に思う。
「ほんっと、どういう事なんだろうな」
「!?」
真姫の独り言に帰した人物がいる事に驚き振り返る。そこにいたのは
「なんだ夏希か……」
「よ、マッキー。人の後を尾けるなんて良い趣味してるな」
二人が話していると、前を行く二人が信号で止まる。真姫は問い質すチャンスと思い、駆け出す。夏希も少し遅れてのんびりと真姫の後を歩いて続く。
「ちょっと待って」
「真姫。それに夏希まで」
絵里に名前を呼ばれ片手を上げる夏希。真姫はそれを無視して希に話し掛ける。
「この前私に言ったわよね「めんどくさい人間」だって」
「そうやっけ?」
「自分の方がよっぽど面倒じゃない!」
言い合う真姫と希をよそに夏希は絵里に近付き、疑問に思っている事を聞く。
「なぁそんな事いつ話してたんだ?」
「夏の合宿の時じゃないかしら? ほら、二人で買い物に行った時」
「あー」
絵里の答えに納得のいった夏希。それから絵里も真姫に同意し、夏希も同意する。
「立ち話もなんだし、俺ん家にでも来るか?」
「ここからならウチの家の方が近いし、ウチにしない?」
夏希の提案を希が上書きし、四人は希の家に行く事に。
「お邪魔しまーす」
「好きにしてって~」
玄関で靴を脱ぎリビングに入るも、そこは一世帯が住んでいる様子はなかった。
「のぞみんも独り暮らしだったんだな」
「……うん」
夏希の質問にお茶を淹れながら答える希。その表情は少し寂しげだった。
「子供の頃から、両親の仕事の都合で転校が多かったんよ」
「だから音ノ木坂に来てやっと居場所が出来たって」
絵里の発言にこんな時に話す事じゃないよ、と絵里に制止をかける希。
「ちゃんと話してよ。もうここまで来たんだから」
「そうよ。隠しておいても仕方のない事でしょ」
「別に隠していた訳やないんよ? えりちが大事にしただけ」
真姫と絵里に希は急須にお湯を入れながら返し、砂時計を引っ繰り返す。
「嘘。μ's結成当時から楽しみにしてたでしょ」
「そんな前から溜めてたなら、今吐き出した方が楽になるぞ」
続いた絵里と夏希の言葉に希は少し目を瞑ると、口を開く。
「ウチがちょっとした希望を持っていただけよ」
「いい加減にして。いつまでたっても話が見えない。どういう事」
「そうだぞのぞみん。その希望って一体なんなんだ?」
真姫と夏希の言葉に希は答えず、ただ黙って背中を向けているだけだった。それを見兼ねた絵里が簡単に言うとね、と話し始めると、すぐに希から制止の声が掛かる。しかしそれを無視して絵里は続ける。
「希の夢だったのよ」
「夢? ラブソングが?」
「いや、その言い方はどうなんだろうか」
夏希の小さな突っ込みは流され、絵里は真姫の言葉に首を横に振る。
「大事なのはラブソングかどうかじゃない。アイドル研究部の皆で曲を作りたいって。一人一人の言葉を、想いを紡いで本当に皆で作った曲。そんな曲を作りたい、そんな曲でラブライブに出たい。それが希の夢だったの」
「なるほど。だからラブソングを提案したのか」
「うまくいかなかったけどね。皆でアイディアを出し合って、一つの曲を作りたいって」
絵里がそこまで言うと、真姫と夏希は目を合わせる。そのタイミングで砂時計の砂が落ち切り、お盆に急須と人数分の湯呑を乗せ希が椅子に着く。
「言ったやろ。ウチが言ってたのは夢なんて大それたものじゃないって」
希の言葉に真姫がじゃあ一体なんなのか、と問うも、希も分からないのか、なんやろね、と答える。
「ただ、曲じゃなくてもいい。皆が集まって、力を合わせて、何か生み出せればそれで良かったんよ。ウチにとってこの十二人は奇跡やから」
「奇跡……?」
「そう。ウチにとってμ'sは奇跡」
そして希が何を思っているかを語りだす。
転校ばかりで友達がいなかった。当然分かり合える相手も。
初めて出会った。自分を大切にするあまり皆と距離を置いて、上手く周りに溶け込めない、ズルが出来ない、まるで自分と同じような人。思いは人一倍強く、不器用な分人とぶつかって……
「あの! 私……ウチ東條希」
階段での自己紹介がウチとえりちの出会いやった。
そのあとも、同じ思いを持つ人がいるのにどうしても手を取り合えなくて、真姫ちゃんを見た時も熱い思いは持っているけど、どうやって繋がればいいのか分からない。そんな子が三人も。
そんな時、それを大きな力で繋いでくれる存在が現れた。想いを同じくする人がいて、繋いでくれる存在がいる。必ず形にしたかった。このメンバーで何かを残したかった!
「確かに、歌という形になれば良かったのかもしれない。けど、そうじゃなくてもμ'sはもう既に何か大きなものをとっくに生み出している。ウチはそれで十分。夢はとっくに……」
そこで希は言葉を切ってしまう。手に持っている湯呑に過去の自分が映り込み、その像が笑い掛けてきたように見えたのだ。その時希の脳裏に浮かんだのはμ'sや若葉、夏希、愛生人達と過ごした記憶だった。
「一番の夢はとっくに……だから、この話はこれでおしまい。それでええやろ?」
希は話はこれで終わり。とでも言うかのように湯呑をテーブルに置く。
「って希は言ってるけど。どう思う?」
絵里は笑みを浮かべながら真姫と夏希に聞く。その意味を汲み取った二人は絵里同様笑みを浮かべて携帯を取り出す。三人の行動の意味に希も気付いたのか驚く。
「まさか皆をここに呼ぶつもり!?」
「良いでしょ、一度くらい招待しても。友達、なんだし」
「それに俺ん家にも集まったしな」
「それ関係ないでしょ」
夏希の言葉に突っ込みを入れながらも電話をかけ始める絵里と夏希。真姫もすぐに電話をかける。
全員が集まり落ち着いた頃、真姫からラブソングを作る事が聞かされる。それを聞いたメンバーは少々ざわつく。花陽が真姫に何かあったのか聞くも、真姫は何もなかった。と返す。
「そうだな、言うなれば少し早いクリスマスプレゼントってやつか」
「そうね。μ'sからμ'sを作ってくれた女神様に」
その言葉に絵里、真姫、夏希の三人は笑顔で見合わせる。
それから改めて言葉を出し合う事になり、皆が考え始める。
「皆で言葉を出し合う手か……」
花陽は言葉が思い浮かばず、希の部屋の小物を見て回っていると、その内の一つに目が留まる。それは九人で初めてやった講堂ライブ後の写真だった。ステージで九人が好きな様にポーズを取り、若葉達三人も一緒に写っていた。
「これって」
「おー二カ月くらい前なのに、だいぶ懐かしく感じるな」
夏希のいう事に写真を見ていた花陽、にこ、、凛は頷く。
この頃、若葉は怪我が治っておらず松葉杖を付いていた。さらにまだ若葉と真姫は付き合って間もない頃の為、お互いの距離が少し開いていたり、愛生人と凛も付き合っていなかった為、距離感が友達のものだった。
「あー!」
写真を見られている事に気付いた希が、花陽から写真縦ごと取って自分の胸に抱きかかえる。
「そういうの飾ってるなんて意外ね」
「別に良いやろ。ウチだってそのくらいするよ……友達、なんやし」
にこが意外そうに希に言うと、希は顔を赤くしながら返す。そんな希に凛は思わず可愛いにゃー! と叫び飛び付く。凛の突然の飛び付きに、希はクッションを盾にして防ぐ。そのままベッドの上でクッションを押し合っていると、絵里が希を後ろから優しく抱きしめる。
「暴れないの。偶にはこういう事もないとね」
「もう……」
そんな二人の光景を見ていた若葉はふと、窓の外に視線を移す。司会に映ったのは真っ暗な夜空と空から降ってくる白い結晶。
「あ!」
「見てー!」
穂乃果も気付いたのか、兄妹揃って窓の外を見て叫ぶ。窓の外では雪が降り始めたところだった。
雪にテンションが上がり、全員が一斉に希の家から飛び出し近くの公園に駆け出す。
「初雪、ですね」
「だね」
「綺麗だな」
公園の広場で円形に広がる十二人。そして一人一人雪を手に取るように掬うと、ぞれぞれが胸に感じた想い、言葉を口にしていく。
「想い」
「メロディー」
「予感」
「不思議」
「未来」
「ときめき」
「空」
「気持ち」
「好き」
「運命」
「切なさ」
「純情」
誰もいない夜の公園に十二人の声が響き渡った。
【音ノ木チャンネル】
若「ラブソング書けたね」
夏「だな」
愛「ですね」
夏「じゃなくて!」
若「どうしたの?」
夏「いやなんでお前らはイチャついてんの? なんで皆で無声映画見てアイディア出そうって時にイチャイチャしてんの?」
愛「別にイチャイチャはしてませんよ」
夏「若はほのっちとマッキーのサンドウィッチだし、アッキーはりっちゃんと寝るし。このどこがイチャついてないだ!」
若愛「「表現の仕方がおかしい!」」
夏「別にどこもおかしくないだろ?」
若「いや、確かに合ってるけど。合ってるけど違う!」
愛「正確に言うなら僕と凛ちゃんは揃って寝てて、若葉さんは寝た穂乃果さんに寄っ掛かられて、真姫ちゃんを膝枕しただけじゃないですか!」
夏「やっぱりイチャついてんじゃねぇか!」
若「まぁまぁ。たとえ俺達がイチャついてたとしても、それでイラッとするのは作者と数名の読者なだけであって、そんな事は今はいいの」
夏「ならいつならいいんだよ……」
若「そんな事より、書いてる時に作者が感じたんだけど、夏希と穂乃果って相性良いよねって」
愛「確かに若葉さんと真姫ちゃんがくっ付いてから、高坂兄妹の絡みはそんなに見られませんね」
夏「相性が良いって言ったって俺にはツバサがいるし、それに作者が「μ'sとA-RISEの二大スクールアイドルのリーダーを相手に、二股かけるのは流石に最低だな」って話があったらしくてな」
若「まぁ作者の性格上めんどいからってのもありえるけどね」
愛「あ、そうそう。僕達の一言の理由とかも話さないとじゃないですか?」
夏「アッキー。残念ながら時間だ」
愛「えー! じゃあいつやるんですか!」
若「あと少しで二期の分も終わるから、またあとがき約二万字やるんじゃない?」
夏「あぁ、あの時は地獄だったな」
愛「主に作者のネタ不足が」
若「じゃあそんな訳でまた次回とか!」
夏「また懐かしい挨拶で締めたな……」