「ん?」
「どうしたんですか? 若葉さん」
「いや、なんか綺麗な棒を拾ってさ……!」
若葉が道端に転がっている棒を拾うと、夏希が手にしていた傘で
「バカな……」
「いきなり殴りかかって来たら危ないでしょうに」
「こうして勇者ワカバの最強への道が始まったのであった」
「始まらないしやらないからね」
愛生人のナレーションじみた台詞に首を振って歩き出す。そんな若葉の制服を夏希が掴み、止める。若葉が振り返ると夏希は地に四つん這いになったまま若葉を見上げ、用件を告げる。
「武器は装備しないと意味がないぞ?」
「しつこい!」
夏希の手を払い、今度こそ歩き出す。
「それにしてもいい棒だよね」
「ワカバは五のダメージを受けた」
「変に曲がってもないし、長さも程良いし」
「ワカバは五のダメージを受けた」
「太さも握りやすく手にスッポリと嵌る」
「ワカバは五のダメ」
「なんでさっきからちょいちょいダメージ受けてんの!? 毒か呪いでも受けてんのかな!?」
愛生人のナレーションに若葉は思わず振り返りツッコむ。夏希はそんな若葉の肩に手を置くと、呆れた様に言う。
「武器をちゃんと装備してないんだ。ダメージ受けて当たり前だろ?」
「じゃああれかな? 俺はさっきから柄じゃなくて刃の方をもってたんだ!? 設定細か過ぎるって!!」
若葉が夏希にツッコミを入れてると、ふと背後から声がかかる。
「おっと待つんだ、そこの少年。あんた西の街に行くのか? だったら俺を連れて行きな」
若葉が声の主の方を見ると、そこには腕を組んで電柱にもたれかかっている愛生人がいた。
「……アイト?」
「いいや、俺の名はジャック。この世界の覇権を巡り争う二人の魔王に対抗すべく、三人目の魔王となれる素質をもつ人間を探している」
「無駄に壮大な話だなぁ。ねぇ、これって家に着くまでには終わる話だよね?」
若葉が確認を取る様に二人に聞くも、愛生人は何も答えず、夏希はなにやらBGMを口ずさむ。そして
「ちゃーん……ジャックが仲間になった」
「長い! しかもなんの音だよ!」
「ほら、RPGとかで仲間になったら鳴るあの」
「だぁー、もう、説明しない!」
愛生人の解説を途中で区切り疲れた様に肩を落とす若葉。夏希と愛生人はそんな若葉を置いて話を進める。
「では行くとするか、少年!」
「ジャックは五のダメージを受けた」
「ちゃんと装備しな。装備」
夏希のナレーションに若葉は溜め息を吐きつつ愛生人に注意する。
「それで? どこに行くの?」
若葉一人だけ今の状況を把握出来てないので、進行役の二人に聞く。
「こういう時は王様のところって相場が決まっているだろ」
「いや、まぁそうだけど……」
愛生人のぶっちゃけた発言に言葉を濁す若葉。そして適当な角を曲がった時、いつの間にか先回りしていた夏希がいた。なぜかマミーのポーズで。
「敵が現れた」
「いや、敵自らそれ言っちゃダメじゃね?」
夏希の台詞に若葉が当然の様にツッコむもスルーされる。
「で、どうするの?」
「ふむ……無視する」
「無視!?」
愛生人の言葉に驚きの声を上げるも、夏希の横を黙って通り過ぎて行く愛生人を見て若葉もそれに倣い、夏希の横を無言で通り過ぎる。
そして少し歩くと、突然愛生人が立ち止まる。
「着いたぞ少年。ここが城だ」
愛生人の後ろから前を覗くと、そこにはまたもや同じポーズをした夏希がいた。
「よく来たな勇者よ」
「よく来たなって、そのポーズ、流行ってるの?」
夏希のポーズにやはりツッコむ若葉。愛生人は重々しく口を開くと夏希に確認の為、質問を投げかける。
「お前が中ボスか」
「いやまさか」
「よく見破れたな。俺こそ中ボスだ」
「中ボスなのかよ! だったらもう少し正体隠すとかしよ? しかもさっき愛生人は王の所に行くって言ってなかったっけ? て言うか、家が近いからって展開無理やりすぎね」
二人のやり取りにツッコミ所が満載だったのか、若葉が一気にツッコむ。若葉の言葉を聞いて夏希はいきなり殴りかかる。
「うるせー! この話は本編と全く関係ないし、どうせこれはまえがきでのお遊びなんだから細かい所にツッコむなよ!」
「メタいわ!」
「これはリアルに痛いやつ!」
殴りかかられた若葉は避けるとともに、腕を掴んでそのまま背負い投げの要領で夏希を地面に投げる。コンクリートに投げられた夏希はグッタリとしながらも手を伸ばす。
「遺言?」
「せ、せめて……棒は、使おう、ぜ……」
それだけ言うと夏希は力尽きた様に腕から力を抜く。
「若葉さん。手加減って知ってます?」
「知ってるけどこの場合は正当防衛だからしなくてもいいかな、と」
「じゃあその振り上げてる棒はなんですか!?」
愛生人が高く上げられた右手と、その手に収まってる棒を指して言うと、若葉はキョトンとした顔で返す。
「何って夏希が棒を使えって言ったから」
「トドメですか! もう瀕死なのにオーバーキルもいい所ですよ!」
愛生人の叫びに、路上に転がってる夏希の体が震えだす。うつ伏せ状態で転がっている為、目で見る事は出来ず、情報は全て耳でしか入って来ないのだ。
「ま、さすがにこれは冗談なんだけどさ。二人に一つ聞いても良い?」
「なんですか?」
「物語なら魔王倒すまで終わらないぞ?」
「……二人とも、鞄どうしたの?」
「「…………あ」」
二人は若葉に指摘され気付き、どこで手放したのかを思い出す。
「やべー! この茶番始めた時だ!」
「急いで戻りましょう!」
「何やってんだか……」
若葉はやれやれ、と首を振ると手に持っていた棒を捨て、走って戻る二人を追いかけた。
「おっす~。元気してるか~?」
若葉と夏希が生徒会室で仕事をしていると、担任の姫子がやって来た。二人は目を合わせると若葉が作業の手を止めて相手をする。
「姫。どうしたの、生徒会室に来て」
「ほら、私ってアイドル研究部の顧問じゃない?」
「え、そうだったのか?」
姫子の言葉に作業していた夏希が驚きで聞き返すと、その反応に不満そうな顔をする。
「まぁまぁ、それで姫。どうしたの? アイドル研究部の事なら部室に行った方が早いでしょ」
「ん~確かにそうなんだけど、誰もいなかったのよね~」
「そりゃあ今の時間練習してるからな。いるとしてもアッキーくらいだろ」
「そう言えば今日凛が新しい練習着を買ったって喜んでたね」
「成る程。だから誰もいなかった訳か」
頷いて納得する姫子。そこでふと二人を見て首を傾げる。
「お前らはハブられてるのか?」
「「違う!!」」
姫子の言い分に口を揃えて返す若葉と夏希。
「俺らは穂乃果達が練習してる間のフォローをしてるの。それに今やってた作業が終わったら練習に行くつもりだったんだよ」
「ま、姫が来てその手が止まってるけどなー」
「そんな、まるで私のせいで作業が遅れるみたいな言い方しなくても良いじゃないか」
「まるっきりそう言ってるんだよ!」
夏希が手に持っていた書類を机に叩き付けて突っ込みを入れる。そんな夏希に同意する様に若葉も頷く。
「そっか。じゃあそん時にで良いからちょっと皆に言っといて貰いたいことがあるんだ」
続いて姫子の口から出た報告に若葉と夏希は驚きと共に笑みを浮かべた。
☆☆☆
「お兄ちゃん達急に呼び出してどうしたんだろ?」
「さぁ? でも屋上に来ないで携帯で呼ぶあたり、相当慌ててたみたいだね」
練習を中断させて穂乃果達は生徒会室に向かうと、若葉と夏希が書類を終わらせた所だった。
「若葉、どうしたの?」
「あ、皆お疲れ様」
「お疲れ様、じゃなくて電話で言ってた楽しい事って何?」
若葉がのんびりと返すとにこが若葉に詰め寄る。
「あぁ、さっき姫が来てね。今年秋葉原をハロウィンストリートにするらしくてね」
「地元のスクールアイドルのμ'sとA-RISEにも出演依頼が来てるんだとさ」
「ほぇ~予選を突破してからと言うものの、なんだか凄いね」
若葉と夏希の言葉に穂乃果が感心した様に言う。
「でもそれって新しい曲をやるって事よね」
「そうみたいやけど」
「ありがたい話ですけど、そんな事やってて大丈夫なんですかね」
「確かに、この前のファッションショーと言い、最終予選も近いのに」
「そうね。私達の目標は「ラブライブ!」優勝でしょ」
真姫の言葉ににこも頷く。しかし絵里はこうした地道な事も重要だとやる事に賛成する。
「因みにイベントにはテレビ局も来るらしいよ」
「テレビ!?」
「態度変わり過ぎ……」
若葉のテレビ局発言ににこが飛び付く。真姫はそんなにこに呆れた様に溜め息を吐く。
「A-RISEと一緒と言う事は皆注目するよね。緊張するなぁ」
「でもそれだけ名前覚えて貰えるチャンスだよ!」
「そうよ。A-RISEよりインパクトの強いパフォーマンスでお客さん達の脳裏に私達の存在を焼き付けるのよ!」
「じゃあにこ。ちょっと頼み事されて貰える?」
若葉が笑顔でにこと穂乃果、そして凛にとある頼み事をする。この人選は姫子直々の指名で、理由はアイドル研究部の部長のにこ、リーダーの穂乃果、そして先日のファッションショーでセンターを務めた凛だからである。
「それで何するの?」
「明日の放課後に開会式があって、その時に挨拶があるから、三人とも遅れない様に行ってね」
「了解にゃ!」
「任せて!」
若葉の言葉に凜と穂乃果は元気に頷く。
☆☆☆
翌日の放課後。秋葉原の通りではハロウィンイベントの特設ステージが設置されていた。ステージ上にはμ's代表として穂乃果、凛、にこの三人。観客側には他のメンバーがステージを心配そうに見守っていた。
「と、いう訳で今日から始まりましたアキバハロウィンフェスタ! テレビの前の皆、ハッチャけてるかい!! 司会は私、ハッチャケてるで有名な
開会式の朱子のハッチャけ具合に穂乃果は思わず苦笑い。
「あの人、私達よりインパクトあるんだけど」
「確かにハッチャけてるにゃ」
「ぐぬぬ」
穂乃果達の反応に関わらず司会はステージ前にいる観客の所へ行く。
「ご覧の通りイベントは大盛り上がり。仮装を楽しんでる人がたくさん! 皆もまだ間に合うよ!」
カメラにウィンクし、穂乃果達の元へ戻る。
「そーしてそして、最終日にはなんとスクールアイドルがライブを披露してくれるんだぁ。あははやっほーハッチャけてる? ライブにかけての意気込みをどうぞ」
「せ、精一杯頑張ります」
穂乃果が困った様に笑って返すと朱子は隣の凛にも意気込みを聞く。
「ライブ頑張るにゃん」
「あ~ん可愛い~」
凛に頬擦りする司会。それを見たにこがにこにーをしようとするも、朱子によって遮られてしまう。
「そしてなんとなんと! あのA-RISEも参戦だぁ!」
朱子が近くに置かれたディスプレイを手で示すと、電源が入りA-RISEの3人が映される。
『私達は常日頃、新しいものを取り入れて進化して行きたいと考えています。このハロウィンイベントでも、自分達のイメージを良い意味で壊したいですね』
ツバサはそう言うとふふっ、と笑うと、ディスプレイが一瞬輝き、ハロウィン衣装に着替えた三人がおり、ハッピーハロウィンに合わせて投げキスをする。それに合わせて会場のあちこちから紙吹雪が舞い上がる。A-RISEのパフォーマンスに盛り上がる会場。
「夏希さん。いいんですか?」
「何が?」
そんな中先程の映像を見ていた愛生人が夏希にそっと耳打ちする。夏希は聞かれた質問の内容が分からないのか、首を捻って聞き返す。
「ツバサさんって夏希さんの彼女さんじゃないですか。だからさっきの」
「あぁ、映像のあれか。別にいいんじゃね? 基本俺らってスクールアイドル関連の事に関しては互いに干渉しないようにしてるし」
夏希は慣れた様子でそう返す。そんな答えに思わず絵里と真姫が訝しげに夏希を見る。二人に見られている事を感じながらも、夏希は続ける。
「それにツバサはスクールアイドルのトップなんだ。あれくらいはやるだろ」
「えと、つまりどういう事ですか?」
「あれだよ。アイドルが結婚してもファンの人達とは結婚前と変わらない態度接してるだろ? そういう事だよ」
「な、なるほど」
夏希の言葉にそれを聞いていたメンバー達は納得のいった顔で頷く。
「そんな事より、俺は皆、特にマッキーに聞きたい事があるんだが」
夏希が顔だけを真姫に向けて言う。このタイミングで聞きたい事と言われ、真っ先に思い浮かぶのはハロウィンイベント最終日で披露する曲の事。真姫はそれについて思考を巡らせなんと答えるかを考えていると、夏希から思いもよらぬ質問が飛んできた。
「若、どこ行ったんだ?」
「……え?」
夏希の言葉に真姫は、隣で心配そうにステージを見ている若葉を見るもそこには影も形もなかった。他の皆も慌てて若葉を探すも、開会式という事で人が多く見つからない。真姫が携帯で若葉にコールをするも電源が入っていないと告げられる。
「まさか……迷子?」
「いやいや、高校生になってまでまさか……」
花陽の言葉に苦笑いで否定する絵里だが、そこに真姫が思い詰めた表情で忘れられていた事を思い出させる。
「……若葉って方向音痴だし」
『あ……』
その時、七人の声が重なった。
【音ノ木チャンネル】
夏「あのまえがきなんだよ!」
若「普通に男子高校生の日常ネタでしょ」
愛「まさか夏希さんが知らなかったなんて」
夏「そうじゃねえよ! 俺が言いたいのはなんで投稿が遅くなった謝罪とかじゃなくてお遊びから入るんだって事!」
若「だって作者が投稿遅くなるのなんていつもの事だし、去年もこの時期忙しかったから察しのついてる読者が多いと思ってね」
愛「若葉さんの言葉から分かる通り、作者が今月リアルで忙しかったが為に投稿が遅れた事、ここで謝罪します。はい、これで良いんですよね? 夏希さん」
夏「最後の一文が余計だったけどな!」
若「そんな事より本編の話しようよ」
愛「そうですね。って言うか若葉さんどこに行ったんですか?」
夏「ハァ……この流れも久しいぜ」
若「どこにも何もここにいるじゃん」
夏「本編の話だろ? 若、最後いなくなってたじゃねえか」
若「それはまぁ、うん。ね?」
夏「それで誤魔化せると思ってんならお門違いもいいところだぞ?」
愛「まぁそういう事なら」
夏「納得してんじゃねえよ!?」
若「はいはい、煩い夏希は放っておいて取り敢えずお知らせね」
夏「やっぱり扱い酷くね?」
愛「まだ確定じゃないんですけど、その内【音ノ木チャンネル】を廃止して次回予告をするらしいですよ」
若「まぁその内だから、するかもしれないし、しないかもしれないから期待しないで待っててね」
夏「因みに聞くけど、次回予告ってどんな感じにするんだ?」
愛「確か次の話の台詞をいくつか抜粋するらしいですよ」
若「分かりやすくアニメで言うと「Angel Beats!」だったり「結城友奈は勇者である」だったり「fate」だったりかな?」
夏「なんだろう。この分かりやすいような、そうでないような補足説明」
愛「まぁその内なるかもなのでまだ心配する事じゃないですよ」
若「それじゃあ今回はここまで」
『バイバーイ』