「穂乃果、居間で寝転がるのは良いけど、明日の放課後の挨拶文できたの?」
「う〜ん。まぁ大体はできた…かな?」
若葉は居間で寝転がっている穂乃果をにお茶を出しながら聞くと、穂乃果は首を傾げて答える。
「大体はって…まぁできてるなら良いけど」
若葉は穂乃果の隣に座ると自分のお茶を一口啜り、テレビのクイズ番組を見る。
そんなノンビリとした時間を過ごしていると、雪穂が困った表情で居間に入ってくる。
「お兄ちゃんちょっと良い?数学教えて欲しいんだけど」
「良いよ」
そう言って若葉は立ち上がると、雪穂と一緒に2階へ上がって行く。居間に1人残った穂乃果は特に何をするでもなく、ただテレビの映像を黙って眺めていた。
☆☆☆
翌日の6限目。講堂に全生徒が集まり、彩の挨拶を聞いていた。
「音ノ木坂学院は入学希望者が予想を上回る結果となったため、来年度も生徒を募集する事になりました。3年生は残りの学院生活を、悔いの無い様に過ごし実りのある毎日を送って頂けたらと思います。そして1年生、2年生はこれから入学してくる後輩のお手本となる様、気持ちを新たに前進していって下さい」
「理事長ありがとうございました」
舞台ではヒデコ、フミコ、ミカの3人が司会席に座って集会を進めて行く。
「続きまして生徒会長挨拶。生徒会長お願いします」
そしてヒデコが生徒会長を呼び込むと、生徒席の中から絵里だけが立ち上がり、拍手する。突然の絵里の行動に周りの生徒は不思議に思うも、すぐに舞台に視線を戻す。皆に注目されながら、穂乃果が舞台袖から歩き出し、マイクの前に立つ。それを海未達新生徒会の4人は舞台袖で見守る。
「皆さんこんにちは!」
マイクを前に穂乃果は深呼吸をして挨拶する。途端に生徒席から歓声が飛んで来る。穂乃果は歓声に応える様にマイク台に手をつくと
「この度、新生徒会長になりましたスクールアイドルでお馴染みの私、はっ!」
穂乃果はそこで言葉を途切ると、マイクを外し上に投げる。そしてその場でクルリと回るとマイクを捕り
「高坂穂乃果と申します!」
と元気良く名乗る。そのパフォーマンスに生徒席から拍手が送られる。
そしてもう一度キチンと名乗ると、穂乃果の動きが固まり、あーえー、と言葉に詰まっていた。
「ほのっちどうしたんだ?」
「あ、これは…」
「まさか…」
「あ、あははは」
そんな穂乃果を見て夏希は首を傾げ、若葉と海未はまさかの事態に行き着き、ことりは苦笑いしながらも心配そうに穂乃果を見ていた。
「穂乃果、挨拶文忘れたんだね……」
若葉の呟きに海未は溜め息を、夏希は声を出さない様に笑い、ことりは頑張れー!とジェスチャーを送っていた。
☆☆☆
なんとか生徒会長挨拶を終わらせた穂乃果達は、揃って生徒会室に集まっていた。
「はぁ〜疲れた〜」
穂乃果が生徒会室の机に突っ伏すと、ことりと夏希はそれを笑ってで見ていた。
「まさか挨拶文を忘れるなんてな」
「でも穂乃果達ちゃんらしくて良かったと思うよ」
2人の言葉に海未が机で書類を整えながら反抗する。
「どこが良かったんですか!折角昨日3人で挨拶文を考えたのに」
「ゴメ〜ン」
海未の言葉に穂乃果は苦笑いで謝罪する。そして挨拶の時の事を思い出して
「結局、あれから頭の中は真っ白……あー折角練習したのに」
1人後悔する穂乃果の前に海未はドン!と大量の書類を置く。そのあまりの量に穂乃果はうげ、と声を漏らす。もちろんそんな穂乃果の声を無視する海未。
「とにかく、今日はこれを全て処理してから帰って下さい」
「こんなに!?」
「それにこれも!」
穂乃果の反論に海未は1枚のプリントを見せる。穂乃果はそのプリントを受け取り、目を通す。
「え〜と、学食のカレーが不味い。アルパカが私に懐かない。文化祭に有名人を。って何これ?」
「一般生徒からの要望です」
「こういうのって、庶務のお兄ちゃんの仕事じゃないの!?」
穂乃果は先程から一言も話していない若葉に仕事を振ろうとするも
「若葉なら既に他の仕事で手一杯です」
海未の言う通り、若葉の左右には穂乃果の前に置かれた書類の山よりも高い山が形成されていた。
「あれ?気のせいかな。若の手元がブレて見えるぞ?」
「だったら海未ちゃんが手伝ってよ!副会長なんだし!」
「もちろん、私だって目を通してます」
夏希が目を擦りながら言うも、穂乃果はそれを無視して海未に手伝う様に促す。しかし海未は海未で既に自身の仕事を終わらせていた。
「じゃー海未ちゃんがやってよー!」
穂乃果が腕をバタつかせながら抗議するも、忘れ傘の放置、各クラブの活動記録、引き継ぎのファイル、と海未に次々と挙げられる仕事に穂乃果はでゅふ、と言ってファイルに頭を乗せる。
「でも5人もいるんだし、手分けしてやれば」
「ことりは穂乃果に甘過ぎます!本来なら若葉がやっている業務の半分を穂乃果に回してもおかしくないのですよ」
海未が若葉がの左右の山を指して言うと、ことりも思わず苦笑いになる。
「生徒会長って大変なんだねー」
「分かってくれた?」
ファイルに頭を乗せたまま穂乃果が言うと、タイミングを見計らった様に絵里が中に入ってくる。
「絵里ちゃん」
「ふふふ。頑張ってるね〜君達」
「希ちゃんも」
絵里の後ろからタロットを手に希も入ってくる。
「大丈夫?挨拶だいぶ拙い感じだったけど」
絵里の言葉に穂乃果は苦笑いし、生徒会室に来た用件を聞く。
「特に用事はないけど、どうしてるかなって。自分が推薦した手前もあるし心配で」
「明日からまたみっちりダンスレッスンもあるしね。カードによれば穂乃果ちゃん生徒会長として相当苦労するみたいよ」
希が「吊るされた男」を指で挟み穂乃果に見せる。穂乃果はえー!と叫ぶと希は4人に向かってフォローを頼む。
「気にかけてくれてありがとう」
「いえいえ。何か困った事があったら言って。なんでも手伝うから」
ことりが笑ってお礼を言うと、絵里も笑って返す。
「はぁ〜終わったぁ〜」
若葉の声にそちらを見ると、先程まであ右側にあった山が全て左側に山になっていた。
「終わったってあの量全部終わったのか!?」
「一応、俺の方で対処できるやつは終わったよ。あとは穂乃果の印が必要なものとか、念の為海未に見てもらってお終いかな」
「速過ぎだろ!」
夏希のツッコミは皆に流されて放課後の学校に響いたのだった。
【音ノ木チャンネル】
愛「出番が皆無だった片丘でーす」
夏「アッキーがいじけてるな」
若「うーん。どうしたものか…」
愛「あーあ。出番つーか台詞すらねぇとか」
夏「あ、アイトになった」
若「ゲームで餌付けでもする?」
愛「怠過ぎてゲームどころじゃねぇし」
夏「まさかのゲームにすら反応を示さないだと!?」
若「鼻の頭も乾いてる…り、凛ちょっと来てー!」
凛「呼ばれて飛び出てにゃーん!」
夏「りっちゃん!アッキーが大変な事に!」
凛「まっかせるにゃ!アキ君こっちに来てー」
若「凛の手つきが犬とか動物相手にしてる感じなんだけど」
凛「よ〜しよしよし。いい子だよ〜」
愛「りんちゃ〜ん」
若「愛生人に戻ったね」
夏「一々キャラ変換させんのめんどいな。ま、それはともかく、若葉の仕事量が庶務のレベルを超えてると思うんだが」
若「でもやってる内容は絵里達の時と変わらないし」
夏「変わらないんだ…」
若「じゃあそろそろ」
『バイバーイ』