お互いの気持ちを伝え合った2人は、中庭のベンチに並んで座っていた。
「夢みたいだね」
「ふふ。そうね」
若葉と真姫は繋がれた手を見て笑い合う。そんな時、夏希と希が2人の元へ走り寄る。
「あ、真姫ちゃん。おめでとう」
「ありがとう」
「て、そうじゃなくて!」
「?2人ともどうしたの?」
2人の前で止まり、繋がれた手を見て希が祝うも、夏希がツッコミをいれる。
「あ、そうだった。2人とも、これから重要な事をやるから今すぐ部室に集合ね」
希はそれだけ言うと来た道を走って戻り、夏希も希の後を追って走り出した。
「重要な事?真姫は何か聞いてる?」
「そう言えば、にこちゃんや穂乃果が学校存続パーティをやる、みたいな事を言ってたわね」
「そっか。じゃあ行かなくちゃだね」
そう言って若葉は手を繋いだまま、器用に松葉杖をついて立ち上がる。真姫も手を引かれる様に立ち上がると、そのまま若葉の右腕に抱きつく。急な事で若葉は少しバランスを崩すも、しっかりと受け止め、そのまま歩き出す。
☆☆☆
2人が仲良く部室に着くなり、いくつものクラッカーが鳴らされる。突然の事に驚いて固まる若葉と真姫。
「お兄ちゃん。パーティだよ。パーティ!」
「ちゃんとご飯も炊いてあります!」
「唐揚げもありますよ!」
穂乃果が若葉に詰め寄ると、花陽と愛生人が炊飯器と唐揚げが載せられた皿を見せる。そしてそのまま隣の部屋に移動すると、そこには既に夏希や絵里、海未などの他のメンバーが椅子やシートを敷いて床に座っていた。
「あ、やっと来たわね」
「遅かったですね」
若葉達が来たのを見て絵里と海未が声を掛ける。
「良いじゃん良いじゃん。早くパーティ始めよ!」
「そうにゃそうにゃ!早く始めるにゃ!」
そう言って穂乃果と凜はさっさとシートに座る。それに倣って若葉と真姫は壁際に置かれている椅子に座る。
「皆、グラスは持ったかな?それでは音ノ木坂学院存続決定と若葉、夏希、愛生人の音ノ木坂本入学を祝って、かんぱーい」
『かんぱーい』
にこの音頭で皆が飲み物が入ったコップで乾杯する。それからお祝いパーティは様子を見に来た彩と蒼井に注意されるまで続いた。
「いや~楽しかったね」
「そうですね。まさか彩さん達に叱られるとは思いませんでしたが」
「まぁ流石にこの時間まで残ってたら怒られるわな」
夏希の言う通り、空は既に暗く、3人の前では9人があパーティの余韻が冷めていないのか、ワイワイと盛り上がっている。
「つ、遂に見つけましたよ!」
「もう逃がしませんからね!」
そんな3人の後ろから唐突に掛けられ、振り返る。3人が振り返った先にいたのは、つい先日若葉と穂乃果に声をかけた前原兄弟と、その後ろに十数人の集団がいた。
「え〜と、恭弥さんどうしたんですか?」
「どうしたんですか?じゃないよ若葉君。自分達との約束、忘れたわけじゃないよね?」
「約束?」
恭弥の言葉に若葉は先日の出来事を思い出す。
「でもまだアイトの情報なんて集まってませんよ?」
「違う。違うんだよ若葉君。まさか君がアイトさんと一緒に過ごしているだなんて、酷い裏切りを受けたよ」
若葉は首を捻る。恭弥の言う通りならアイトは若葉のすごく身近な場所にいると受け取れる。若葉は騒ぎを聞きつけ近付いてきた穂乃果達を見るも、全員疑問の表情を浮かべていた。次に夏希と愛生人を見るも、夏希は首を捻っていた。
「まさか…」
「そう。そのまさかだよ」
若葉の呟きに恭弥は肯定しながら、若葉の隣を、愛生人を手で指し示す。
「そこにいるお方がアイトさんなんだ」
恭弥の言葉に若葉は驚いて愛生人を見る。愛生人は俯いており、恭弥の言葉を肯定も否定もしなかった。
「さて、情報を回してくれなかった若葉君には残念だけど、お仕置きを受けて貰うよ」
「な…理不尽過ぎるだろ!」
夏希が恭弥に突っかかるも、恭弥の後ろに立っていた大学生と思われる青年が夏希の前に立つ。
「大丈夫です。大人しくついて行きましょう」
青年に対して拳を構えた夏希に、愛生人は静かにそう言い、申し訳なさそうに凛の方を振り返る。
「アキ君…?」
「……ゴメンね」
愛生人は凛にそれだけ言うと、体を正面に戻し、黙って恭弥の方へと歩き出す。若葉と夏希も愛生人の言葉を信じ、ついて行く。
そして若葉達が連れて行かれた先は、人通りの少ない廃工場……などではなく、数ヶ月前に部長を決める際に訪れたゲームセンターだった。
「はぁ…やっぱりか」
「若葉さんは分かってたんですか?」
「まぁ半信半疑だったけどね」
若葉はゲームセンターに着くなり、先程まで張っていた緊張の糸を緩ませる。愛生人は元より緊張しておらず、その為夏希1人だけが未だ理解が追いついていなかった。
「さて、若葉君。お好きなゲームを一つ選んで」
「それはなんでも良いんですか?」
「もちろん。その方がそっちも納得するでしょ?」
恭弥は自信満々に頷く。それを聞いた若葉はサッサとゲームセンターの奥に行き、そこに置かれている対戦型のクイズゲームの台に手を乗せ、宣言する。
「それじゃあこれでお願いします。まさか、文句は言いませんよね?」
「へぇクイズゲームか…もちろん文句は言わないさ。もっともそれはこっちにも言えた台詞だけどね」
恭弥は余裕のある笑みを浮かべて集団を振り返り、先程夏希を威嚇した青年が前に躍り出る。その時、愛生人が苦い顔をするも、それに気付いたのは若葉だけで、その若葉は愛生人を安心させる様に笑う。
「頼んだよ。桑田君」
「分かってますよ恭さん」
桑田と呼ばれた青年は一つ頷き、若葉の対面に座る。そしてコインを入れ、クイズのジャンルを選択する。若葉は雑学、桑田は数学。
「若葉君って言ったっけ?」
画面にスタートまでのカウントダウンが映された時、桑田が若葉に話し掛ける。
「俺はこう見えても数学オリンピックで良い所まて行った事があるんだ。高校生に遅れを取るわけには」
ピンポーン
話しながらも問題を解いていた桑田に正解のブザーが鳴る。
「いかないんだよ」
桑田は笑って若葉を見る。若葉はそんな桑田の挑発には目もくれず、恭弥に聞く。
「そう言えば聞いてなかったんですけど、このゲームに俺が負けた場合ってどうなるんですか?」
「なに、簡単な事さ。これからアイトさんに近付かない。それだけだよ」
恭弥の返しに愛生人は顔を伏せ、夏希は思わず一歩踏み出す。しかし二歩目は若葉によって止められる。なぜなら若葉が見た事も無い程激怒していたからだ。
「夏希、今揉め事起こしたら許さないよ。それに」
そう言って若葉は
「こんな勝ちゲー、見逃せないでしょ」
「な…!」
若葉の異業に対戦相手である桑田は驚く。それはそうだろう。ボタンを見ずに答えるのは慣れれば誰でも出来る。しかし問題を見ずに解答する事は出来るはずが無い。
「話は変わるけど、ここって俺のバイト先なんですよ」
若葉はそう言いながら、更に正解数を一つ伸ばす。
「それでこのゲームって実はこの店舗発祥でですね。店長に問題作り丸投げされたんですよ」
ついでに出題パターンとかも、と続けながら恭弥に、桑田に、恭弥の後ろの集団に言い放つ。
「だからさっき聞いたじゃないですか。『
問題が数学に戻り、桑田が正解数を稼ごうとするも
「数学オリンピックの問題なら
そしてゲームが終わる頃には若葉が大差を付けて勝っていた。
「しっかし恭弥さんも人が悪い。俺がゲーセンでバイトしてるの知ってて尚、ここ選んだんですよね?」
「は!?バイト!?だってこの前聞いた時月に3.4回行ってるとしか」
「あれ?そうでしたっけ?」
クイズゲームに座りながら恭弥に言うと、恭弥は頭を抱えながら返す。
「みと、めない」
「ん?」
「俺は負けを認めねない!そもそも出題者が問題を解くってなんだよ!そんなんズルとか、卑怯とかの問題じゃないだろ!」
桑田は台を叩いて抗議する。若葉は肩を竦めると
「卑怯汚いは敗者の戯言って言葉があるけど、確かに俺もこれは卑怯だと思います。なので次はそちらがゲーム内容を選んで構いませんよ」
若葉が桑田に言うと、桑田は周りを見回す。そして指定したゲームは
「アポカリプスモードエキストラ?」
そうこれまた部長決定戦で使われたダンスゲームだった。今度の対戦相手は桑田ではなく、高校生くらいの少年だった。
「で、僕の対戦相手は誰?」
「若葉さんは怪我してるので休んで下さい。僕が行きます」
愛生人がブレザーを脱ぎながら言うも、若葉が肩に手を置いて止める。
「若葉さん?」
「愛生人が出るのはダメ、なんですよね?」
若葉が恭弥に確認を取るように聞くと、恭弥は頷く。
「じゃあ夏希さん。お願いします」
「でも俺のスコアで勝てる相手なのかね」
夏希の前回のスコアはAAと低く無いものの、先程の一戦で相手はゲームをやり慣れているのが分かり、一抹の不安を抱える夏希。
「じゃあ夏希の代わりを出せば良いじゃん」
若葉はそう言って手招きをする。愛生人と夏希が若葉の視線の先を見ると、そこには先程別れた筈の穂乃果達がこちらを覗き見ていた。
「バレてたのか…」
「だから覗くのはやめましょうと」
「海未だってノリノリだったでしょ!」
と賑やかに若葉達に合流する9人。その中から若葉は凛の肩に手を置くと、ダンスゲームの方へと押す。
「にゃ!?何するにゃ!」
「ちょ、若葉さん!?」
「愛生人のピンチなんだ。頑張れ凛!」
若葉は凛と愛生人の抗議を無視して凛の応援をする。凛も先程のを見ていたのでなんとなく状況は分かっているものの、一応と愛生人に確認を取る。愛生人は苦悶の表情を浮かべると、納得したのか、頷き
「凛ちゃん。お願い!」
「まっかせるにゃー!」
元気良く凛は答え、ゲームを始める。音楽が流れ始め、凛と少年がリズム良くステップを踏む。暫くして音楽が終わり結果発表。
最初に少年のスコアが表示される。少年のスコアは「S」。それは若葉と同じスコアだった。続いて凛のスコアが表示される。結果は「SS」。
「ま、負けた…だと…」
「ええい!まだだ。まだ終わらんよ!」
と尚も足掻き続けようとする集団に遂にキレる。
「おい、お前ら。一度ならず二度までも、まさか掟を忘れた訳じゃねぇよな?」
キレたのはμ'sの誰かではなく、夏希ではなく、ましてや若葉でもなかった。
「ア、アイトさん!」
「愛生人!?」
そうキレたのは愛生人だった。若葉達は愛生人の急な口調の変化に驚き、恭弥達は敬愛する人が戻って来たと言わんばかりに顔を綻ばせる。
愛生人は周りの声を無視して髪を纏めていたゴムを取ると、髪を後頭部で纏める。心なしか、愛生人の声がすこし低く聞こえる。
「おい海斗!何がまだ終わらないだ。たとえ僅差だろうが負けは負け。昔のお前だったら素直に認めてただろうが」
「す、すんません!」
先程凛と勝負した海斗と呼ばれた少年が愛生人に頭を下げる。
「次に桑田!お前も卑怯たとか言ってんじゃねぇぞ。お前だってクイズゲームの出題パターンを割り出してたじゃねぇか。そのお前が文句言ってんじゃねぇ!」
「はい!」
桑田は背筋を伸ばし返事をする。そして愛生人は恭弥の方を向くと、目を細める。
「恭弥。俺の次を任せるって言ったよな?なのになんで俺を探したりなんかしたんだ?挙げ句の果てに若葉さんに迷惑掛けるとはな。『祈る者達』はそこまで成り下がったのか?」
「い、いえ!アイトさんを取り戻す事にばかり考えがいってました!すいません!」
「謝る相手は俺じゃないだろ」
「はい!若葉君、夏希君すいませんでした!」
恭弥は腰を直角に折り、若葉と夏希に謝る。2人はは未だ愛生人ショゥクから抜け出せずにいるのか、気の抜けた返事を返す。
「全く、皆さんすいません。僕の昔の知り合い…仲間がとんだご迷惑を」
「まぁ、謝罪はして貰ったし」
「今日は一旦解散して、明日もう一度集まって色々と話し合おう?」
若葉の言葉でその日は一度解散し、翌日夏希の家に若葉達12人と、リーダーの恭弥、副リーダーの桑田と海斗が来る事が決まった。
夏「にしても驚いたな」
若「ね。まさか愛生人の口調ガラッと変わったもんね」
愛「恥ずかしいです」
若「まぁその件も含めて色々と聞きたい事あるけど、それは次回に回すんでしょ?」
夏「みたいだな」
愛「て言うか、若葉さんおかしくありません?」
若「なにが?」
夏「クイズゲームの問題考えるとか、一介のバイト店員に任される仕事じゃないだろ!」
若「……まぁ?その分お金出たし…」
愛「因みにどのくらい…?」
若「えっとね……くらい」
夏「そんなに出んのかよ」
愛「でも出題パターンとかも考えたとなると普通じゃないですか?」
若「それじゃあ今回はこの辺で!」
夏「これまた急な」
愛「作者も色々と並列でやってるから大変なんですよ」
若「そゆこと。じゃねー」
『バイバーイ』