餅ついて、じゃない落ち着いて1話戻って下さいね!
「高坂君、佐渡君、片丘君、少し良いかしら?」
職員会議が終わり、3人が廊下に出ると彩に呼び止められ、理事長室に連れて行かれる。
「まずは無事残れておめでとう。と言っておくわね」
彩は理事長室の扉を閉めるなり、若葉達に笑い掛ける。
「いえ、俺達はなにもしてないんで」
「そこは素直にお礼を言おうよ」
「そうですよ。夏希さん」
首を振りながら夏希が答えると、なぜか若葉と愛生人に窘められる。彩はそのやり取りを見て可笑しそうに笑うと、真剣な表情に戻る。
「でもね、さすがに今日の会議は冷やっとしたわ」
「なんでですか?」
愛生人が彩に聞くと、彩は夏希と若葉を見てニッコリと笑う。それは先程のと違って怒気を含んだ笑顔だった。
「2人とも、特に夏希君?貴方途中から口調が綻んでいたわよ?相手は教師なんだからキチンとそれ相応の口調で話しなさい?」
「「はい!」」
彩の言葉に名前を呼ばれた2人は、背筋を伸ばして返事をする。そんな2人を無視して愛生人は気になった事を彩に聞くと 。
「ところで理事長」
「彩で良いわよ」
「それじゃあ彩さん。もし絵里さんが嘆願書を用意していなかったらどうしてたんですか?」
愛生人の質問に彩はああ、と予防策を話す。
「そんなの簡単よ。『勝手に音ノ木坂に呼んで、用済みになったら戻すなんて事をしたら
彩がうふふ、と笑って言った内容に愛生人は冷や汗を流し、この人には逆らわない様にしよう、と心の中で決意した。
「あ、彩さん。俺ちょっと用事あるのでもう良いですか?」
「そうね。ごめんなさいね。残ってもらっちゃって」
「いえいえ。それじゃあ失礼しました」
若葉はそう言って夏希と愛生人を置いて理事長室を出て行った。
理事長室を出た若葉が向かう先は職員室前で真姫にすれ違い様に言われた中庭だった。
☆☆☆
時は少し戻り若葉達が職員室に入って行った後。穂乃果達7人は黙って祈る様に職員室を見ていた。しかし真姫だけはその様な事をせず、部室に足を運んでいた。理由は特に無いが、なんとなく
「あ、真姫ちゃん」
「希…」
部室に入ると希が椅子に座っていた。真姫がいつもの席に座ると、希が微笑みながら真姫に尋ねる。
「真姫ちゃんは職員室前で待ってなくて良いの?」
「えぇ。なんか落ち着かなくて。そう言う希は?」
「ウチはここからスピリチュアルを送ってるから大丈夫なんよ」
希がてやー、と職員室の方に念を送る仕草をする。そんな希を見て思わず笑う真姫。
「そうそう。真姫ちゃんは可愛んやから、そうやって笑ってるのが一番よ?」
「もうそうやって揶揄わないでよ。でも……ありがとう」
「どういたしまして」
真姫がお礼を言うと、希はなんでもないといった様子で返す。それから真姫を真っ直ぐ見ると
「真姫ちゃん」
「?なによ」
「気持ちの整理は出来た?」
「…!」
希の言葉に目を見開いて驚く真姫。希はタロットを1枚手に取るとウィンクして言う。
「カードが教えてくれたんよ」
「……そうね。今ので尚更気持ちか固まったってところかしら」
「そう。ウチは応援してるからね」
希の応援を受け、真姫は部室から出て行く。その際、小さな声で再び希にお礼を言うも、希は何も言わずに椅子に座っていた。
☆☆☆
若葉が中庭に着くと既に真姫は待っていて、若葉に気付いたのか、そっと振り返る。
「ごめん待ったかな?」
「ううん、大丈夫よ。その間に色々と整理してたから」
若葉の謝罪に真姫は首を振って答え、若葉に背を向け空を見上げる。
「私ね、夏休み前に若葉が一度高蓑原に戻った時、心の中に何かもやもやしたものがあったの」
若葉は真姫の言葉を何も言わずに聞いている。
「それでね。そのもやもやしたものが何なのか、皆でプールに行って、若葉に助けられた時にそれが分かったの」
真姫は若葉に背を向けたまま、顔を下げ地面を見つめる。
「私ね、きっと若葉の事が……」
そこまで言って始めて真姫は言葉を詰まらせる。若葉はそんな真姫を後ろから抱き締める様に首に腕を回し、話し始める。
「俺もね。音ノ木坂に来て音楽室で初めて会った時に、ちょっと心に引っ掛かりを覚えたんだ」
若葉の言葉に今度は真姫が黙って頷く。
「その後真姫から事件の話を聞いて、 俺はその時の引っ掛かりを事件関係者だったからだと思ったんだよね」
若葉の言葉に真姫は黙って頷く。若葉はけど、と話を続ける。
「この半年間、真姫と過ごした時間を振り返ってみたらね、最初の頃の引っ掛かりとは別の気持ちが俺の中で生まれてたんだ。それの正体に気付いたのが、夏休みにやった勉強会の日なんだ」
真姫はつい最近じゃない、と呟きつつも若葉の腕を握る。心なしか、その手は震えていた。それがどういった感情から来ているものなのか、若葉には分からなかったが、若葉は構わず話を続ける。
「それから入院してる最中、その気持ちは本当なのか自問自答を繰り返してみても答えは変わらなかったんだ」
若葉はそう言うと真姫から腕を離し、真姫の正面に立つと真っ直ぐ目を見て、ハッキリと伝える。
「俺は、真姫の事が好きなんだって。だから…」
若葉はそこまで言って驚きで言葉を切る。なぜなら真姫の頬を涙が伝っていたからだ。
「真姫…?」
「え?あれ?」
真姫は頬を伝う涙に困惑するも、それを手で拭い、笑顔で先程詰まって言えなかった言葉を、若葉への返事を口にする。
「私も…私も若葉の事が好きです」
翔「あれ?これって俺のおかげで若葉が気持ちに気付いたパターン?」
何気に今話MVPな翔平でした〜