若葉達が自宅謹慎を告げられてから早くも2週間が経ち、若葉達の今後を決める職員会議の日になった。
本当なら放課後の職員会議前に登校する様言われている若葉だが、その日は昼休みからアイドル研究部の部室に居座っていた。
「ほらなアッキー。やっぱり若は来てただろ?」
「これでいなかったら笑いもんでしたけどね」
午後の授業が始まって少し、夏希と愛生人も部室を訪れた。
「2週間振り、かな?」
「あぁ。LIMEで話してたとは言え、こうして会うのは2週間振りだな」
「若葉さん。何か落ちましたよ?」
立ち上がった若葉と夏希が手を合わせると、ポケットから一枚の紙が落ちる。それは2週間前に貰った達也の連絡先が書かれた紙だった。愛生人はそれを拾い、紙を見ると一瞬固まり、すぐに若葉に返した。
「取ってくれてありがとう」
「いえ、それより若葉さんはその人と何を話したんですか?」
「え?あぁこの人はとある人を探してるってくらいかな」
若葉は椅子に座りながら愛生人に答えつつ、2人にも聞いてみる事にした。
「2人とも『アイト』ってゲームプレイヤー知らない?この人が探してるみたいなんだけど」
「アイト?どういう字だ?」
「さぁ?でもプレイヤーネームらしいからカタカナじゃない?」
夏希の問いに肩を竦めて答える若葉。夏希の様子からアイトの事を何も知らないと分かるやいなや、今度は愛生人を見る。愛生人は心ここに在らずといった様子で立っていた。
「愛生人?」
「……え?あ、はい。なんでしたっけ?」
「アイトってゲームプレイヤー知らないかって話だ」
愛生人の質問に若葉ではなく夏希が答える。
「申し訳ないですが、僕もちょっと知りませんね」
「そっか〜夏希はともかく、愛生人はゲームセンターに行くから知ってるかも、って思ったんだけど。世の中そんなに甘くないね」
「そ、そうですね」
若葉はそれだけ言って話を打ち切る。愛生人は2人に気付かれない様に額の汗を拭う。
それから放課後までは部室の隣の部屋で夏希と愛生人がμ'sの曲の振り付けを真似し、若葉に間違いを指摘されたり、他のスクールアイドルの動画を見たりして時間を潰していた。
「貴方達、ここで何してるの?」
「いや、思いの外早く着いちゃって」
「それで時間を潰そうと思い」
「絵里さん達に見つかり今に至ります」
放課後になる少し前、早めに帰りのHRが終わった絵里と希が部室を訪れると、そこにいたのは椅子に座り、思い思いの行動を取っている若葉、夏希、愛生人だった。
大事な会議前だというのに普段通りの3人に希は笑い、絵里は怒り、3人を正座させたのだった。
「全く。夏希はともかく、若葉と愛生人まで。緊張感が無さ過ぎよ」
「緊張し過ぎるよりかはマシやん?」
「それはそうだけど…」
呆れた様に言う絵里と、そんな絵里を微笑みながら見る希。
「それより絢瀬さん」
「なによいきなり
正座したまま夏希が絵里に視線を向け、時計を見ながら言った。
「そろそろ時間だから解放してくれるとありがたいな〜なんて、思ってたり思ってなかったり」
「…そうね。じゃあ職員室に行くわよ。ホラ」
と絵里の許可が降りた為、正座を止め立ち上がる3人。しかし愛生人と夏希は立ち上がってすぐ、椅子なり机なりを掴む。
「2人ともどうしたの?」
「いや、寧ろなんで若は平気なんだと尋ねたい」
そんな2人に若葉が不思議そうに聞くと、夏希に質問で返された。夏希と愛生人の様子を見て、理由が分かったのか、希がポンと手を打つ。
「もしかして2人とも足が痺れたん?」
希の言葉に2人は黙って頷く。絵里と若葉は呆れた様に溜め息を吐き、希は2人の足を突っつき始めた。希の攻撃に抗おうとするも、足が痺れて上手く避けれない2人。
そんな事が数分続き、ようやっと2人は痺れから解放され、職員室に向かったのだった。部室から出る際、希に頑張ってね、と言われ3人が笑顔で頷いた。
「全く、酷い目にあったぜ」
「本当ですよ。なんで若葉さんは無事だったんですか?」
「なんでも何も無事だったんだから仕方なくない?」
絵里に先導されながら職員室に向かうも、道中の会話はこれっぽっちも緊張感が無かった。
「貴方達ね。さっきも言ったけど少しは緊張感を持ちなさいよ」
絵里が呆れた様に振り向かずに言うも、後ろの3人から反論が返ってくる。
「いえ、僕達からしてみればいきなり女子校に来る方が緊張したので」
「今更先生達に囲まれるなんて、なぁ?」
「それに
その返事に絵里は何を思ったのか、溜め息を一つに吐くとそれ以降何も言わなくなった。
4人が職員室前に着くと、そこには絵里と希を抜いたμ'sのメンバー7人が立っていた。その光景を見て若葉は隣に立っている夏希に話し掛ける。
「ねぇ夏希。これってあれみたいじゃない?ここから先に行きたければ、私達を倒していきなさい。的な」
「確かにそうだな」
「そんな訳ないでしょ!」
若葉の言葉に夏希は頷くと、にこが真っ先にツッコミを入れる。
「全く、これから大事な会議だからってんで応援に来てあげたのよ。感謝しなさい」
「おぉスゲェ上から目線だな」
「何よ。このにこにーに応援して貰えるんだから喜びなさいね」
腰に手を当ててそれだけ言うと、にこは黙って後ろに下がる。そして次に出て来たのは海未とことりだった。
「3人なら大丈夫です。いつも通りに自分の言いたい事を言って来てください」
「3人とも絶対勝ってきてね。じゃないとことりのおやつにしちゃうからね」
「大丈夫。何がなんでも音ノ木坂に残らせてもらうよ。ちゃんと最後までμ'sを見守って行かないとだしね」
2人の言葉に若葉が頷きながら答える。そして今度は花陽と凛が前に出て来る。
「今のμ'sは愛生人君達がいないとμ'sじゃないんだからね」
「凛達も出来る事はし切ったにゃ。だから今度は愛生人君達が頑張る番だよ!」
「もちろん!μ'sの為にも絶対に残ってみせるよ」
2人の頭を撫でながら愛生人が笑顔で答える。
「ほら穂乃果と真姫も。何か応援しなくていいの?」
絵里が後ろでずっと黙ったままの2人に話を振る。絵里に振られ、まずは穂乃果が前に進み出る。
「えっとね。ホントは色々と言いたい事があるんだけど、穂乃果の頭じゃまだ言いたい事が成立出来てないんだ。でもね、これだけは言わせて」
穂乃果は顔を上げ、手を開いて上にあげる。
「お兄ちゃん達にはこの学校に残って欲しいんだ。だから頑張って!」
穂乃果の言葉に、若葉達は黙って穂乃果の手に自身の手を当てる。その意味を穂乃果は理解し、手を胸の前で握り締めた。
「最後は真姫だね」
若葉達は未だに顔を伏せている真姫の正面に立ち、言う。若葉に言われ、ゆっくりと顔を上げる真姫。
「なんか、私も穂乃果と同じ様にまた整理が出来てないけど、若葉達に残って欲しいって気持ちは一緒よ。それに」
とそこで一度言葉を切り、若葉の目を真っ直ぐ見ると笑って続ける。
「それに、まだ言わなくちゃいけない事も、言えてないし……だから!ぜーったい勝ってくるのよ」
「大丈夫。任せておいて」
若葉の言葉に夏希と愛生人も頷く。それを見た真姫は3人に背を向けると、天井を見上げる様に顔を上げる。
「は、早く行きなさいよ」
若葉は催促する真姫の頭を一撫でし、そうだね、と返す。
「じゃあ行こうか」
「ああ。ここまでされたら負ける訳にはいかなくなったしな」
「元より負けるつもりはありませんでしたけどね!」
3人はそう意気込み、職員室に入って行った。
職員室に入ると、隣の会議室へと続く扉の前に警備員の蒼井が立っていた。蒼井は黙って会議室の方を指さすと、若葉達は頷いて会議室の扉の前に立つ。
「まぁ、あれだ。私は君達がいる事には反対はしないよ。それに職員全員が君達の敵って訳じゃないから安心して。それじゃあ頑張ってね」
扉の前に立った3人に、いつもより真面目なトーンで蒼井は言い、扉を開ける。
「3人が到着しました」
「ありがとう蒼井さん。それじゃあ3人は中に入って」
彩に促され、若葉達は会議室へ入って行く。会議室には既に全職員が集まっており、上座の位置に彩が座っていた。3人が空いてる席に座ると同時に、校長が職員会議の開催を宣言する。
「それではこれより職員会議を始めます。議題は『廃校阻止の為に呼んだ試験生3名の処遇について』です」
「えーと校長。良いですか?」
「二島先生どうぞ」
校長の宣言に続いて発言したのは若葉と夏希の担任の姫子だった。校長は 姫子に発言を促すと、姫子は立ち上がり自身の意見を述べる。
「そもそもこちらから呼んでおきながら、用済みになったらすぐ返すんですか?」
「用済みとは酷い言い方ですね。私は何もそこまで言ってはないでしょう」
「でも同じ事ですよね」
校長の反論に少し目を細めて言い返す姫子。そんな姫子の様子に、若葉達3人は蒼井の言っていた事が本当なのだと実感する。
「し、しかし保護者の方から『女子校に男子を入れるなんてどうかしている』『せっかく女子校に入れたのにどうして男子を入れるのか』といった声が届いています」
「そんな声を今までは『廃校阻止の為』と言ってきましたが、現在は入学希望者が定員を超えています。なのでこれからはその言い訳は使えませんよ」
校長の隣と正面に座っていた教師が反対意見を述べていく。そんな中、下座から一つの手が上がる。その手の主は
「佐渡君どうぞ」
夏希だった。彩に指名された夏希は手を下ろすと、教師陣に怯える様子もなく言い放つ。
「その『女子校に男子を生徒として入れるのは間違っている』といった意見は保護者以外からも来ているんですか?」
夏希の質問に校長含め、何人かが顔を伏せる。彩は夏希の質問に首を振って答える。
「保護者以外から特にこれといった文句、もとい、反対する声は来てないんですよね?」
夏希が確認する様に再度聞く。その答えは沈黙。
「沈黙は是なり。生徒からは反対する声がないのなら、別に俺達…自分達は残っても良いと思うんですが、どうです?」
「しかしいくら生徒達が良くても、その親御さん達は心配するのは当たり前だろう?」
夏希の問い掛けに答えたのは、愛生人の担任の先生だった。愛生人は担任の反対意見に驚くも、それを表情に出さなかった。
「しかし、学校に通っているのはその保護者達ではなく、その子供なんだから、保護者の声より生徒達の声を取るべきではないんすか?」
夏希はイラついているのか、口調が普段の口調に戻りつつある。その様子に若葉は静かに溜め息を吐いて、口を開く。
「では先生方は実際に学校に通っている生徒達の声より、学校に通っておらず、自分達の事を全く知らない人の意見を優先する。と言う事でよろしいですね?」
若葉の少し威圧する様な笑顔に思わず閉口する教師陣。そんな中、再び愛生人の担任が口を開く。
「高坂君の言っている事は確かだが、生徒達の声を聞いてない以上、その意見はなんの価値もないよ」
若葉はその言い方に少し違和感を覚えつつも、これで流れが変わるとは思ってなかったのか、黙ってしまう。
「では生徒達の声があったらその意見は価値があるんですね?」
静かになった会議室に突然響く女性の声。会議室にいた全員が声の主の方を見る。
「絵里さん?」
愛生人が会議室の扉の傍に立っている人物の名を呼ぶ。
「どうして絵里がここに?」
「ついさっき必要な物が揃ったからよ」
若葉が会議室に来た理由を聞くと、絵里は若葉の隣に立ってそう言う。
「必要な物とは?」
絵里の言葉に疑問を持った校長が聞くと、絵里は持っていた大量の紙を机に置く。
「それは?」
「音ノ木坂学院全校生徒の、若葉達試験生の転校を取り下げる嘆願書です」
絵里の言葉に会議室全体に動揺が走る。若葉が気になって嘆願書を何枚か読むと、そこには『いつも賑やかな彼らがいなくなるのは嫌だ』『音ノ木坂には彼らが必要』といった若葉達を留まらせる内容が書いてあった。
「……!校長先生。嘆願書の中にはこんなのもありましたよ」
嘆願書を何枚か捲って目に付いた物を校長に回す。校長は回された紙を読み、目を見開いて驚く。若葉が校長に回した紙には『高坂君達が音ノ木坂に来て親は凄く反対しているが、私は彼らが来てくれてとても嬉しかったし、廃校を免れたのも彼らがいたからだと思う思います。そんな彼らを前の学校に戻して欲しくありません』と書かれていた。
「ここまでされたら何も言えないですね。校長」
「じゃあ!」
愛生人の担任の言葉に校長はええ、と頷き3人を真っ直ぐ見る。
「保護者の方達には私の方から説明しておきます。来週の月曜日から貴方達は試験生としてではなく、音ノ木坂の一生徒として勝手な事とは思いますが、これからの音ノ木坂の発展に協力して貰えますか?」
校長のその言葉に若葉達は元気に頷いた。こうして若葉達は試験生としてではなく、正式に音ノ木坂の生徒になったのだった。
真姫から若葉へ伝えられた一言の伝言
穂「お兄ちゃーん!」
海「どうして相談してくれなかったんですか!」
に「うわぁー!」
こ「ア、アハハ」
希「覚悟は出来た?」
真「……えぇ」
花「誰か助けてぇ!」
絵「ちょっと待ってて〜」
凛「応援してるにゃ!」
真姫が伝えた伝言とは─?
穂「ミューズ!」
『ミュージック〜スタート!』
一体若葉に何が起こったのか!
次回、『ウチは応援してるからね』5/18公開
以上劇場版(30秒ver)風の次回予告でした。
※なお内容は執筆途中の戯れとして書いた為、実際の内容とは異なる場合がございます。