え?関係無い?デスヨネー
若葉が救急車で西木野総合病院に運ばれた日の放課後、アイドル研究部の面々は『穂むら』に来ていた。裕美香はその光景を見てキョトンとしていた。
「あの、今朝の若葉の件、すいませんでした!」
『すいませんでした!』
夏希が頭を下げると、後ろに並んでいた全員も頭を下げる。頭を下げられた裕美香は驚き、少しの沈黙の後に慌てて顔を上げる様に促し、中の居間に皆を連れて行く。
「えっと、若葉のって事は今朝の怪我の事、よね」
全員が居間に入り、座るのを確認した裕美香が全員に確認を取る様に聞き、夏希がそれに頷く。
「
「それは、本当ですか?」
「えぇ。お昼頃に着替えとかを置きに行ったら目が覚めててね。その時に聞いたのよ」
若葉が目覚めた事に安心感した様に息を吐く。しかし絵里と夏希はすぐに表情を戻し裕美香に言いづらそうに言う。
「あの、実は若葉が勝手にって言うのは」
「分かってるわよ。あの子の嘘でしょ。ま、転んだって所は本当みたいだったから、大方誰かを庇って転んだって感じかしらね」
裕美香の言葉に驚きを隠せない面々。裕美香はそれを見てふふっ、と笑うと続ける。
「何年あの子の母親やってると思っているのよ。あの子は嘘をつく時、必ず声が少し高くなるのよ」
裕美香がウィンクしながら言うと、ことりと海未が感心した様な声を漏らす。
「それで?あの子は誰を庇ったのかしら?」
「……私、です」
裕美香の質問に、真姫が今にも泣きそうな表情で答える。
真姫からしてみれば、大事な息子を2度も命の危険に合わせたのだから何を言われても仕方ないと思っているのだ。しかし裕美香の反応は真姫の、そしてその場の皆の予想を遥かに超える反応が返って来た。
「そう…全く、人を助ける時はなるべく無茶をしない様にって言ってあるのに」
と、なぜかこの場にいない若葉が呆れられていた。
「えと、お母さん?」
「どうしたの、穂乃果?……あぁ!どうせならウチのバカ息子のお見舞いにでも行ってあげて。多分暇して今までに食べた食パンの数を数えてるだろうから」
「はぁ」
裕美香がお見舞いの品として店の品を幾つか包み、近くにいた希に渡す。その間、夏希達はただ呆然と事の成り行きに流されていた。そして気付いた時には既に店の前で、裕美香と穂乃果に見送られていた。
「ウチの子達がまた迷惑掛けるかもしれないけど、これからもお願いされてくれるかしら?」
「はい!むしろこちらの方がお世話になっていますので」
少し困った表情で首を傾げる裕美香に絵里がはっきりと答える。
「あぁそれと真姫ちゃん。ちょっと」
「は、はい」
裕美香に手招きされた真姫は、緊張した面持ちで裕美香に近付く。真姫が近くに来ると、裕美香はそっと真姫に耳打ちし、それを聞いて不思議そうな顔をした真姫の背中を軽く叩き、皆の元へ戻す。
「それじゃあ今度はお客様としてのご来店をお待ちしてるわね〜」
裕美香はそう言って手を振り、店の中に戻って行った。それから夏希達は西木野総合病院に行く為に歩き出す。
「なんか凄いお母さんやったな」
「あ、若からLIMEが…『腹、減った…( i _ i )』だってさ。思ったより元気なのかもな」
「そう言えば真姫ちゃん。最後に何か言われてたけど、何言われたの?」
「……ひ、秘密よ秘密!」
と賑やかに話す前列。それとは打って変わって後列では何やら少し落ち込んだ様子のことりと海未。
☆☆☆
あれから10人でお見舞いに行くのはさすがに迷惑なんじゃ?と愛生人が言った事により、ステージ等の引き継ぎとして夏希、病院への案内等の為に真姫、そして幼馴染みとして海未の3人が行く事となり、他のメンバーは後日改めてとなった。
「それで?マッキーはさっき何言われてたんかな」
「まぁ穂乃果と若葉の母ですから、何を言っても不思議ではありませんが」
現在夏希と海未は病院のエントランスホールにあるベンチに座り話していた。真姫はエントランスに入るなり受け付けに行き、若葉の病室を訪ねていた。
「若葉の病室分かったわよ」
と真姫が若葉の病室まで案内する。
「ここよ」
着いた部屋は3階に登ってすぐの部屋だった。
「若、入るぞ?」
「どうぞ〜」
夏希が控えめに扉をノックすると、中からノンビリとした返事が返って来た。
「おーっす。お見舞いに来たぞ〜」
「失礼します」
「入るわね?」
三者三様な挨拶をして若葉の病室に入る。3人を迎え入れた若葉はベットに横になっており、頭に包帯を巻き、左足を吊っていた。
「いや〜皆が来てくれて良かったよ。起きたら病室だったから暇で暇で」
「何してたんですか?」
「今まで食べた食パンの枚数を出来る範囲で数えてたよ」
『……』
海未の質問に若葉が答えると、途端に3人共静かになる。急に静かになった3人に首を捻りながらも、若葉は海未が希から預かった和菓子を食べている。
「えーと、体の調子はどうだ?」
「左足は骨折して全治1ヶ月。頭の方は軽く切った程度だから今週中には包帯は取れるってさ。あ、あと夏希が応急処置してくれたんだってね。ありがとね」
「おう。どういたしまして」
若葉にお礼を言われ、少し照れた様に返す。そして話を戻す様に再び質問する。
「つか、頭の傷は本当に軽く切っただけなのか?それなりの量の血が出てたと思うんだが」
「まぁ切ったのが頭部だからね。軽く切っただけでも派手に流血するもんだよ」
「ですが、元気そうで何よりです」
普段通りの若葉の様子に安心する海未。
「だよね〜。自分でも思った以上に元気だよ。にしてもまだ夏が明けたばかりなのかな、少し暑いね」
「?確かに今日は暑かったですが」
「はいはい。お茶で良いよな」
若葉の言葉に海未は少し首を傾げるも、若葉に目配せされた夏希は意味を正しく理解し、海未を連れて病室から出て行こうとする。
「って、ちょっと夏希。なぜ私まで」
「うーみんは昔来た事あるっしょ。自販機まで案内頼むぜ?」
「自販機までならあなた1人でも行けるでしょう!」
「最近迷子になりやすいんだよ。若葉の方向音痴でも移ったのかね」
「方向音痴は移りません!」
「いいから行くぞ」
と最終的には夏希に引っ張られる形で病室を出て行く海未。病室に残ったのは入室してから一言も声を発してない真姫と、そんな真姫を困った様に見る若葉の2人だった。
「……真姫?」
沈黙に耐えられなくなった若葉が真姫の名前を呼ぶと、真姫は
「ちょ、真姫どうしたの?まさかどっか痛めてたりする?ならすぐ誰か呼ばないと!」
「ち、違うの!そうじゃ、なくて」
若葉はナースコールに伸ばした手を止め真姫を見る。真姫は椅子から立ち上がってまっすぐ若葉を見ていた。
「そうじゃなくて、私のせいで若葉がまた危ない目にあっちゃって…だから」
「ま、待って!またって言った?」
「そっか。若葉は覚えてないんだ……」
若葉の制止の言葉に、真姫の頰に一筋の涙が流れる。真姫はそれを拭う事もせずポツポツと語り始める。
「去年の夏休みに入る…」
「あー!あの時の誘拐未遂事件!」
真姫の言葉を遮って体を起こし叫ぶ若葉と、突然叫んだ若葉に驚く真姫。
「お、覚えてたの?」
「いや、覚えてたって言うか、その……命の危機を感じたのが今回以外だとその時しか無くて…ね。そっか、あの時の子は真姫だったのか」
若葉は思い出せた事に安堵の息を吐き、体をベッドに預ける。
「まぁあの時もだけど無事で良かったよ」
「……も、……わよ」
「え?今なんて」
俯いた真姫の言葉を聞き取れなかった若葉は真姫に聞く。
「ちっとも、良くないわよ!あの時、刺されて血がたくさん流れて、私のせいで見知らぬ人が死んじゃったと思った!」
「真姫……」
「今日の朝も!私を庇って階段から落ちるし、そのせいでまた命が危なくなって!」
真姫は堰を切った様に今日一日思ってた事を若葉に叫び続ける。若葉はそれを止めることなく、顔を逸らすこともせず、真姫を正面から見ていた。
「でも、さっき若葉のお母さんから『今まで色んな人を助けてきたけど、
と涙を流しながら若葉に自分の心境を素直にぶつける。そんな真姫を静かに見つめていた若葉はえ〜と、と頭を掻きながら、自分の気持ちを整理する。
「母さんは何を言ってんだ。とか、他にも色々とツッコミたい所はあるんだけど」
とそこで一度言葉を切り、取り敢えず、と続ける。
「真姫、こっちおいで」
と手招きする。しかし真姫はその提案に俯いたまま首を振って拒否する。
「良いからおいでって」
それでも尚首を振る真姫。
「もう一度言うよ。良いからおいでって。でないと…ッつぅ!」
「若葉!?大丈夫?今先生を…!」
足を抑えて痛がりだした若葉に真姫は慌てて駆け寄ると、ナースコールを押そう手を伸ばす。しかしその手は若葉によって止められる。
「え?」
「やっと来てくれた」
「若葉、足は…?」
「だってこうでもしないと真姫は近付いてくれないからね」
つまりは痛がるフリだったのだ。真姫は見事に騙され、若葉の思惑通り若葉のすぐ近くに来ていた。
「大丈夫。俺はそう簡単に死なないよ。それに1年前も、今朝の事も、両方俺が真姫を助けたくて、必死で頑張ったんだ。だから真姫がそう責任を背負う必要は無いんだよ」
「でも、結局は私のせいで」
「じゃあこうしよう。これからは無茶な事はしないし、また危ない目にあったら俺が必ず助ける。それじゃあダメ、かな?」
若葉の言葉に首を振って答える真姫。若葉はそれを見て頷くと、上体を起こし真姫の頭を優しく撫でる。真姫は心地良さそうに目を瞑ると、黙って椅子に座る。
「その…取り乱してごめんなさい」
「大丈夫大丈夫。俺でも偶に取り乱しちゃう時あるしね」
真姫の謝罪に若葉は笑って答える。それから夏希と海未が戻って来るまで、2人は静かに過ごした。
「ではそろそろ時間も時間なので私はお
それから1時間程話した所で、海未が鞄を手に真姫と夏希に聞く。
「私も帰るわ」
「俺はまだちょっと話したい事があるから残るわ」
真姫も鞄を持って立ち上がり、夏希は椅子に座ったまま答える。
「分かりました。それでは私達はこれで失礼します。若葉、キチンと安静にしてるんですよ?」
「分かってるって。流石にそんなに無茶はしないって」
「それじゃあ、また明日」
「また明日」
若葉は病室から出て行く海未と真姫に手を振って見送る。そして唯一病室に残った夏希を見る。
「で、夏希はどうして残ったの?」
「どうしてって、そりゃ仕事の引き継ぎしなきゃだろ」
「あーそっか。文化祭には間に合わないもんね」
夏希の言葉に若葉は自身の足を見て納得する。そして面会時間ギリギリまで夏希と、若葉が居なくても平気な様に、今後の予定を組んだ。
「まぁこんな感じかな。更に細かい部分は親方と話して決めるって感じだね」
「そうか、こんな時間まで悪かったな。色々とあったのに」
「まぁね。でも意識が戻る早さが予想外だったって先生に言われたよ」
若葉は笑ってお見舞い品の和菓子を食べる。
「それにしてもほのっちと若の母親は凄いよな」
「ん?どうして?」
夏希の言葉に疑問を持ち若葉が聞くと、夏希は病院に来る前の事を話す。話を聞いた若葉は裕美香に色々と見抜かれていた事に驚く。
「なぁ若、俺は今日の数時間で実感したよ」
「奇遇だね。俺も多分同じ事を思ってるよ」
同じ結論に至った2人は顔を見合わせ、同時に言う。
「「母親は偉大なり」」
夏「いや〜若が生きてて良かったな」
穂「本当だよ」
こ「うんうん」
海「ですが、文化祭には間に合いそうにないですね…」
穂「お兄ちゃんの分まで頑張らないとね!」
夏「と言ってアニメみたいに当日風邪引く様なオーバーワークはやんなよ?」
こ「無茶しちゃダメだよ?」
穂「さ、流石にやらないよ」
海「そうですよ夏希。いくら穂乃果でもそんな事、ねぇ穂乃果。私の目をしっかり見て否定して下さい」
こ「そうだよ。穂乃果ちゃん!」
穂「う、海未ちゃんやことりちゃんまで…穂乃果はオーバーワークはしないよ!しーまーせーん!」
海こ「「ね?」」
夏「いやそんな満面の笑みで言われても…」
穂「うぅ…流石の穂乃果も真姫ちゃんの事があるからやらないよ〜」
海「しかし、足を骨折して全治1ヶ月、ですか」
こ「骨折したにしては治るの早いよね」
若『先生曰く、綺麗に折れたからくっ付き易いんだってさ』
穂「へぇ〜……てお兄ちゃん!?」
こ「若葉君!?」
海「若葉!?」
夏「お、やっと繋がったか」
若『どもー病室からお送りしてまーす』
穂「ちょ、そんな事して大丈夫なの?」
こ「たしか、病院って医療機器のせいで電波使ったら拙いんじゃ…」
若『あ、そこは大丈夫。今屋上にいるから』
海「出歩いて大丈夫なんですか?」
若『……』
こ「ダメ、なんだ」
夏「そんな事して大丈夫なのか?」
若『いや、多分……拙い』
穂「じゃあすぐ戻ろうよ!」
海「夏希も夏希です!怪我人に何させてるんですか!」
夏「いや、俺は出来たらって条件で若葉に頼んだんだ」
海「そんなの関係ありません。若葉の性格上参加するに決まってます!」
若『落ち着け穂乃果。俺は別に無理してないからね?
穂「そういう問題じゃないの!皆に心配かけたんだから、少しは自覚持とうよー」
若『かく言う穂乃果だってアニメで散々心配掛けさせたくせに…」
穂「何か言った?」
若『あっとそろそろ診察の時間だから戻るね!』
穂「あ、ちょっとお兄ちゃん!?まだ話は終わってないんだからー!」
こ「海未ちゃんは向こうで夏希君とO☆HA☆NA☆SHI中、穂乃果ちゃんは若葉君の所へ行ったちゅん……だから今回はここまででーす。感想とかーよろしくね!はいちゅんちゅん」