因みに今話はあとがきの駄弁りコーナーはありません!なぜなら本編の内容が内容だからです!
ではどうぞ!
学園祭まであと一週間となったとある曇天の日の放課後。音ノ木坂学院の屋上からカンカンと、日曜大工を思わせる音が聞こえていた。
「これ完成したら簡易ステージ所じゃないんじゃね?」
「ですよね。資材がしっかりしてますし」
「ちゃんとしたステージだと鉄骨とか使うらしいけど、さすがに綾さんの許可が下りなかったよ」
そんな話をしながら若葉は手にしたトンカチを振り下ろす。愛生人と夏希は2人で木材を切っている。
「資材搬入は日曜の間に運べたて良かったね」
「だな。木材とか持って校内歩くの大変だったしな」
夏希は日曜日の事を思い出しながら言う。愛生人もそれには同意なのか、大きく頷いている。
3人が作業をしていると、突然屋上の扉が開き陸山が現れる。
「おーい若葉。やってるか?」
「親方、お疲れ様です。機材搬入って今日でしたっけ?」
「いや、今日は担当する奴らの紹介だな」
「やっはろー若葉クン!」
「僕たちが今回担当になったからよろしくね!」
陸山の後ろから2人の男性がひょっこりと顔を出し、挨拶する。
「若。こちらの人達は?」
「あ、そう言えば初めてだったね。こちらはバイト先の1つ陸山工務店の社長さんの陸山浩二さん。で、後ろにいる眼鏡の方が杉本さん。ヒョロい方が山田さん」
夏希と愛生人に3人を紹介していく若葉。その紹介文句に杉本と山田が抗議の声を上げるも、若葉はそれを無視して陸山に夏希と愛生人を紹介する。紹介された2人は抗議している2人を横目に陸山に挨拶する。
「若葉にも話した通り、今回のステージ設営には基本
「こちらこそ」
「よろしくお願いします」
背後で屋上に手をついて項垂れてる2人を差しながら陸山が言うと、夏希と愛生人は軽く頭を下げて返す。
「ほら杉本さん、山田さん。そろそろ話し合い始めましょう」
「うん。そうだね!」
「じゃあ始めていきましょう!」
若葉が2人を励ます様に肩に手を置くと、2人はすぐにテンション高く話し始める。
「さぁさぁやってきましたKショッピング!本日紹介するのはこちらの商品!」
「ステージ用スポットライト普通の所8点78,000円の所、今ならなんと!10点で78,000円、78,000円になります!」
「いや普通の所も何も、いつも10点で78,000円じゃないですか」
突然通販番組を始めた2人に若葉が冷静なツッコミをいれる。それを傍観していた夏希と愛生人の2人は陸山の方を見る。2人に見られた陸山は首を横に振り、それが日常茶飯事である事を伝える。
その時、夏希の頬に水滴が当たる。
「あ、雨」
夏希が空を見上げ、呟くと同時に雨が降り始める。
急な雨に慌てる学生3人に対し、大人3人は冷静だった。
「ほらお前ら。慌てふためいてないで、さっさと資材にブルーシート被せろ」
「は、はい!」
「夏希、せーので行くよ」
「愛生人クンだったっけ?僕と一緒にやるよ」
「はい!」
陸山の指示のもと、夏希と若葉、山田と愛生人が協力して資材にシートを被せる。
それから少し、全ての資材にシートを被せ終えた4人は、心配した穂乃果達が持って来たタオルで体を拭き、陸山達は会社へ、若葉達は部室へと戻った。
「にしても急に降ったね〜」
「だな。一応傘持って来て正解だったぜ」
「あ、前回と違って今日は持って来てたんですね」
3人は部室の隣の部屋で、濡れた制服からジャージに着替えながら話していた。愛生人が言っている前回とは凛がハイテンションでアクロバットした日の事である。
「また随分前の事を言うね」
「そうか。あれから早4ヶ月」
「そんなに昔の事じゃないです気がしますね」
「まるで昨日の様だってか?」
夏希が笑みを浮かながら部室への扉を開ける。
部室には絵里と希以外のμ'sの7人が座っており、学園祭で行うライブの曲順を話し合っていた。
「最初に新曲の『No brand girls』をやるとして、次何やる?」
にこがホワイトボードに『No brand girls』と書いて座っている部員を見る。
「9人で『START:DASH‼︎』やりたいにゃ!」
「一曲目結構動くから、動きの少ない『Wonder zone』とかも良いんじゃないかしら」
「えー!だったら9人で始めてやった『僕らのLIVE 君とのLIFE』が良いよー」
凛、絵里、穂乃果が2曲目の曲の候補を上げていく間に男子3人は席に着き、話し合いに混ざる。
「いっその事MCに入るとか」
「あーメンバー紹介的な?」
若葉と夏希の言葉に全員があー、となり『No brand girls』の次はメンバー紹介を含めたMCになった。
「さて、雨も弱くなって来たし、今の内に帰ろっか」
「そうね。ライブの事もある程度決まった事だし」
「そんじゃ、解散としますか」
話し合いが終わり、雨が弱まったタイミングで若葉が切り出すと、絵里は希と一緒に生徒会室へ、他のメンバーは帰宅の準備を始める。
「んー明日までに晴れると良いんだが」
「最悪雨が止んでくれればステージの準備出来るからね~」
夏希が傘越しに雨空を見上げ、若葉もそれに賛同する。
「もし明日も雨だったらどうします?」
「う~ん。練習は室内用にするとして、問題はステージなんだよね~」
「陸山さんから何か教わってないのか?」
夏希が若葉に聞くも、そういった事は教わってない若葉は首を横に振ると、でも、と続ける。
「細かい箇所は出来るから、そこを進めて行くしかないかな」
「そうだね~。あーあ、早く雨止まないかなー」
若葉の隣を歩く穂乃果が空を見上げて呟いた。
☆☆☆
次の日の朝。
「んー雨は止んだけど太陽は顔を出さずって所かな」
「うん。なんでも早朝まで降ってたらしいから」
若葉が店の外に出て曇り空を見上げ呟くと、寝巻き姿の雪穂も若葉の隣に立って空を見上げていた。
「あれ、雪穂今日は早いんだね」
「うん。なんか目が覚めちゃってね」
普段ならまだ寝ている時間であろう雪穂を若葉が意外そうに見る。それから2人は中に入り、若葉は朝食を作りにキッチンへと向かい、雪穂は誠の手伝いをしに厨房へと行く。
「さてと、穂乃果ーそろそろ時間だよ。起きないとまた海未ちゃんに怒られるよ?」
「どぅえええ」
朝食を作り、未だ起きない穂乃果を起こすと中から慌てた様な声の後、部屋の中からドタバタと騒がしい音が聞こえた。
「あれ?なんか
若葉はどこか既視感を覚えながらも食卓に着き、穂乃果を待つ。穂乃果が来る前に誠の手伝いを終えた雪穂が食卓に着く。
「はぁ〜お兄ちゃん毎日こんな事やってたの?」
こんな事とは誠の手伝いの事だろう。手伝いの内容が思いの外厳しかったらしく、机に突っ伏して言う。それを見て若葉は微笑んで雪穂の頭を撫でる。
「まぁ俺は昔からやってたし、楽しくやってたからそんなに厳しいとは思わなかったかな〜」
「やー!」
若葉が撫でていると、雪穂は若葉の手を払い机に肘をつく。若葉は手を払われたのにも関わらず、微笑んで続ける。
「それにこうやって親孝行出来るのも学生の内だしね」
「そっかー……て、うん?お兄ちゃんって『穂むら』継がないの?」
「う〜ん。今の所は継ぐ気は無いかな」
雪穂の言葉に頷きながら返す若葉。そんな若葉の言葉に驚きの表情をする雪穂。
「まぁ今色んなバイトしてるのは、大学とか行って一人暮らしした時の為だからね」
「ふ〜ん。じゃあお兄ちゃんは将来何やりたいの?」
「う〜ん教師、とか?」
若葉がカラになった食器を片付けながらなんとなしに言う。その時、リビングの扉を開けて制服姿の穂乃果が飛び込んでくる。
「おっはよう!」
「おはようお姉ちゃん」
「穂乃果。ちゃんと朝ごはん食べないと昼までもたないよ」
食パンにマーガリンを塗り穂乃果に差し出すと、穂乃果は勢いよく噛り付き、そのまま外に出て行く。
「ちょ、穂乃果!?ったく。じゃあ雪穂、悪いんだけど」
「うん。食器を洗っておくよ」
「いつもゴメンね」
「大丈夫大丈夫。それより部活頑張ってね」
雪穂に背中越しに手を振り、店から出て穂乃果を追い掛けるように走り出す。
「皆おはよ~」
「お、やっと来たか。若が最後だぞ」
「まぁ遅刻って訳でもないですし」
若葉が神田明神の境内に着くと、既に若葉以外の部員が揃っており、各々柔軟体操を行っていた。
「じゃあ最初はいつも通り階段ダッシュからいくか」
「だね。でも階段は滑り易くなってたから気を付けてね」
『はーい』
夏希の言葉に若葉が頷きながら注意事項を伝え、皆が階段の前に並ぶ。
「それじゃあ始めますよ。よ~い、スタート!」
愛生人がストップウォッチ片手に叫ぶ。それと同時にメンバーは駆け出す。
「それにしてもダッシュを始めた頃と比べると、皆体力ついたよなー」
「まぁつくようなメニューにしてるからね。主に愛生人考案で」
「そんな事ないですよ。若葉さん達に比べたら僕なんてまだまだですって」
愛生人が考えたメニューとは、月初に持久階段ダッシュを行い、その時の往復数に応じて日頃の階段ダッシュの往復数を個人個人分けて行うメニューである。
この練習方法でトップの成績を収めているのが凛、それに次いで海未、穂乃果となっており、ワースト3人は花陽、ことりと意外にも希だった。ワースト、と言ってもこの9人の中での話であり、授業などでの持久走で中の上から中の中までには入っている。
実は愛生人考案のメニューにしてから一番成果があったのがにこだった。昔は凛にあっという間に捕まったにこだが、今では捕まるまでの時間が延びている。
記録用紙を片手に談笑していると、最初に凛がダッシュを終わらせる。
「凛ちゃんお疲れ様」
境内に座り込んだ凛に愛生人が労いつつ、ドリンクを渡す。それから少しして海未と穂乃果がほぼ同時にダッシュを終わらせる。2人には若葉がドリンクを渡す。
「2人ともお疲れ様。今日も僅差で海未の方が速かったね」
「う〜、海未ちゃんにまた勝てなかったー!」
「いえ、私もそろそろ穂乃果に抜かされかねませんよ」
と話している間に絵里も境内に姿を見せる。そしてその後ろから少しフラついている真姫も境内にいるメンバーの視界に入る。すると真姫は足を滑らせたのか、バランスを崩して重心が後ろに掛かり、仰け反る体勢になる。あまりの出来事に、それを見ていた全員は身動きが取れず、それを見ているしか出来なかった。
しかしそんな中、1人だけ反射の如く反応した者がいた。
「お兄ちゃん!?」
穂乃果は若葉の咄嗟の行動に驚き声を上げる。若葉は絵里の横を駆け抜け、左手で手摺を、右手で真姫の右腕を掴む。
「あ、これは…拙いや」
若葉が駆け抜けた事で、前にいた絵里も事態に気付き振り返り、若葉を手伝おうと駆け寄るも、若葉のそんな呟きと共に手摺を握っていた左手が滑り手摺を離してしまった。絵里は若葉の左手を掴もうと手を伸ばすも、その努力虚しくただ空を掴むばかり。
若葉は踏ん張りが利かないと理解するや否や、右手ごと真姫を思いっ切り引っ張り抱き抱える。そのまま2人は階段の中程まで転がり落ちる。
「若!マッキー!」
「ちょ、ちょっと2人とも大丈夫!?」
夏希と絵里が2人に駆け寄ると、若葉に抱かれていた真姫がゴソゴソと若葉の腕から抜け出す。その無事そうな真姫の様子に全員がホッと息を吐く。しかし真姫は1人、若葉の体を揺する。
「ちょっと…若葉?若葉ってば!」
「…ま、真姫ちゃん。どうしたの?」
真姫の切羽詰まった声に、穂乃果が声を震わせて聞く。しかし真姫は穂乃果の問いに答えずに若葉の名前を呼び続ける。その様子を見ていた夏希は何かに気付いたらしく、若葉の傍に駆け寄る。
「おい若葉!大丈夫…っ!」
「夏希?」
普段、若葉の事を『若』と呼んでいる夏希が『若葉』と呼んだ事に違和感を感じた絵里が夏希の名前を呼ぶ。
「愛生人、……を…べ」
「え?」
「今すぐ救急車を呼べ!頭から血が流れてる!」」
「は、はい!」
夏希が大きな声で愛生人に指示を出すと、愛生人は境内まで駆け上り、救急車を呼ぶ。その間に夏希は残ったメンバーに指示を出す。
「真姫、出来るだけ体を揺するな。そして少し落ち着け。誰かタオルでもハンカチでもいい、何か押さえる物貸してくれ!」
「わ、私が」
花陽が境内に取りに行くのを見た夏希は、未だに動揺している真姫を絵里に任せると花陽から受け取ったタオルで若葉の頭を抑える。
救急車が来たのはそれから数分後の事で、同伴者として妹の穂乃果、応急処置をした夏希、それから一緒に転がり落ちた真姫の3人を乗せ、救急車は西木野総合病院に向かった。
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