アニライブ!   作:名前はまだ無い♪

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若「今回は珍しく前書きのコーナー!」
夏「本当に珍しいな」
愛「何でも後書きにはボツになった話が載せられるとか」
若「因みにこの場合の"ボツになった"ていうのは"最初はこっちで行こうと思ってたけど、やっぱり辞めた"って事だよ」
夏「いやなんでだよ」
愛「でも大元は変わって無いんですよね?」
若「そうだね〜細部が違うだけで大体は同じかな」
夏「尚更書き直さなくてよかったんじゃねぇの?」
若「あ、でも大きく変えた点があるとか」
愛「因みにボツは文字数7.000字越えで書き途中だったとか」
夏「書いてる途中のやつを載せんなよ……せめて書き上げようぜ?」
若「まぁ最初はプール同様3話で構成するつもりだったらしいよ」
愛「あと翔平さんも出して「2.3ヶ月振りだな!」てメタいのをやりたかったらしいですけど、作品内でもその位経っていたから使えなかったとか」
夏「あー最後に出て来たのってWonder Zoneの時だもんな。あれってリアルで3ヶ月前だっけか?」
若「作品内の月日を考えると夏休み前だから六月か七月だもんね。ちょうど1.2ヶ月って所じゃん」
愛「て事は頑張れば出来たって事ですね」
夏「まぁ今回はいつもよりも頑張って書いてたからな。そのくらい我慢してやれや」
若「今回そんなに頑張っていたの?」
愛「確か700字で2.3割って言ってましたから、大体2.100~3.500字くらいですかね」
夏「いやいや、そんな文字数じゃいつも通り。“いつもより頑張った”にはならない」
若「じゃあ」
夏「そう!今回は過去最多文字数の10.000字超え!」
愛若「「ナンダッテー」」
夏「まぁその8割が若とマッキーが占めてるんだけどな」
若「なんだって!?」
愛「まぁ僕らの出番はそんなにありませんでしたからね。むしろ内容的にはボツの方が出番があったとか」
夏「っと。最後の愚痴は放っておいて前書きなのに長くなっちまったな。それじゃあ」
愛若「「また次回とか!」」
夏「いやいやいやいや!前書きなのに終わらしてどうするよ!」
若「じゃあどうするの?」
愛「あ、そう言えば昔使ってた挨拶がありましたね」
夏「よし、それいくぞ。μ's!」
『ミュージック……スタート!』


やたー!by雪穂

「若葉。少しお願いしたい事があるんですが……」

 

練習が終わって、男子3人が後片付けをしていると、海未が若葉の元へやって来る。

 

「お願い?」

「はい。実は明日来る予定だった着付けの先生が急病で来れなくなってしまったので、出来れば若葉にお願いしたいのです」

「あーそういう事ね」

 

海未のお願いの内容に腕を組んで考える若葉。そんな時、突然若葉の背中に衝撃が来る。勢いが良かったのか、若葉が少し顔を顰める。

 

「良いじゃん。どうせ穂乃果と雪穂のもやってくれるんでしょ?」

「なんでその事知ってるの!?それ母さんに頼まれたの昨夜なのに」

「ふっふーん。今朝お母さんから聞いたんだー」

 

若葉の問いに穂乃果は若葉の背中にくっ付いたままドヤ顔で答える。そのドヤ顔を見た若葉は、首に回されている穂乃果の腕を掴むとその場で回り始める。突然の回転に穂乃果は叫び声を上げるも、それを無視して若葉は回る。

それから数分して、その場にはグッタリした様子で屋上のフェンスに寄り掛かる兄妹がいた。

 

「あの、若葉?」

「あぁ海未。そのお願いなんだけど、その先生程立派に出来ないなら請け負うよ」

「本当ですか!ありがとうございます!では詳細は後で連絡します」

 

若葉の返事に海未は笑顔で屋上から校舎内に入って行く。

 

「ねぇ若葉君」

「ことり。お疲れ」

 

若葉が片付けに戻ろうと腰を上げると、今度はことりに話し掛けられる。

 

「えーと、どうしたの?」

「フッフッフ。話は聞かせてもらいました。その話にことりを混ぜないとおやつにしちゃいます!」

「えと……うん?」

 

ことりのいきなりの宣告に首を傾げる若葉。キッとしていた眉を普段通りに戻し、にっこりと笑ってことりが用件を言う。

 

「だから、ことりも若葉君に着付けをして欲しいなぁって」

「あー。海未にも言ったけど、そんなに上手くないよ?」

「大丈夫大丈夫♪」

 

若葉の言葉に頷くと、じゃねー、と手を振って校舎の中に消えていくことり。

 

「モテモテじゃねーの。若」

「いや、モテモテって言うか、ただ着物の着付けを頼まれただけだから」

 

その様子を一部始終見ていた夏希が若葉を揶揄うも、若葉は何言ってんの?といった顔で言い返す。

 

「でも若葉さん着付け出来るんですね」

「あー、何回か親に着付け手伝わされたし、バイトでもやった事あるから」

 

夏希の反対側から愛生人が聞くと、若葉はそう返す。

 

「よし、これで片付けは終わりだね。じゃあお疲れ様ー」

「おうお疲れー」

「お疲れ様でした」

 

若葉は2人に挨拶した後、家には帰らず、とある所に向かった。

 

次の日。

 

「お兄ちゃん早くー」

「早く早くー」

「2人共、どんなに急かしても祭の時間までまだあるんだから」

 

若葉は居間で穂乃果と雪穂の2人に迫られていた。2人の手には白い浴衣と紺色の浴衣があった。

 

「でもあと少ししたら海未ちゃんとことりちゃんが来ちゃうよ?」

「あ、そっか。2人の着付けもするんだった。じゃあまずは雪穂からね」

「やたー!」

 

えーなんでー!と文句を言う穂乃果を無視して、若葉は雪穂の着付けに入る。

 

「う〜んと、最後にここをこうでっと。こんな感じでどう?動きにくいとか、苦しいとかある?」

 

若葉は数十分で雪穂の着付けを終わらせる。それから雪穂に大丈夫か質問し、雪穂は笑顔で頷いた。

 

「う〜ん。雪穂は髪が短いから結べないね~」

「い、いいよ。このままで」

 

浴衣の着付けが終わったので、若葉が雪穂の髪を梳きながら言うと雪穂は恥ずかしかったのか、顔を赤くして若葉から離れ

 

「じゃあ私はお店の手伝いしてくるから!」

 

そう言い残して店に出て行く。そんな様子を見て若葉と穂乃果は顔を見合わせて笑う。

 

「こんにちは〜」

「お邪魔します」

 

笑いが収まり、穂乃果の着付けをし始めると、そのタイミングで海未とことりの2人が居間に入って来る。

 

「あー今穂乃果ちゃんの着付けしてるんだー」

「そうだよ。穂乃果が終わったら始めるから、準備しておいて」

「分かりました」

 

若葉が2人に言うと、2人は居間から出て行き、着付けの準備を始める。

 

「よし、これで終わり。苦しい所とかある?」

「ううん。大丈夫だよ!」

「そうかそうか。じゃあ次は髪型だな」

 

穂乃果のサイドポニーを下ろし、櫛で梳いていく。髪型は穂乃果の希望でお団子に決まった。

 

「お団子かぁ……よっと。確かここをこうしてっと。出来たよ」

 

若葉は鏡を穂乃果に渡し、別の鏡も使って穂乃果に後頭部を見せる。

 

「……お兄ちゃんって出来ない事あるの?」

「え?なんで?」

「浴衣の着付けから髪のセットまで出来るんですね」

「普通はそこまで出来ないんじゃないかな?」

 

穂乃果の疑問に若葉が聞き返すと、後ろから海未とことりも穂乃果に賛同する。

 

「俺にだって出来ない事くらいあるよ」

「え!嘘!?」

「若葉でも出来ない事があるんですか!?」

「何が出来ないの!?」

「ちょっと待って!なんでそんな意外そうに驚くの!?傷付くよ!」

 

若葉の衝撃的な発言に3人は身を乗り出して若葉に問い詰める。そんな3人の反応に若葉の心が軽く傷付く。

 

「俺に出来ない事はね」

「「「うんうん」」」

「…………作詞作曲、とか?」

 

若葉の呟く様な言葉に3人はあー、と声を合わせて納得する。その反応に恥ずかしさが込み上げたのか、若葉は誤魔化す様に立ち上がると

 

「ほ、ほら次は海未とことりどっちが着付けするの?」

 

と話を逸らす。若葉の言葉に用件を思い出した海未とことりは、目を合わせ頷くと海未が手を挙げた。

 

「では私から」

「じゃあこっちに来て」

 

海未に渡された浴衣は穂乃果と同じ白の浴衣。しかし金魚に水玉柄の穂乃果の浴衣と違って、海未の浴衣はアサガオ柄だった。

 

「じゃあ始めるよ」

「よ、よろしくお願いします」

 

少し緊張した風に答える海未に、若葉は思わず微笑みを浮かべてしまう。

それから数十分後。そこには浴衣を着て若葉に髪を梳かれている海未がいた。

 

「海未は髪型、このままで良いの?」

「はい。私はあまり髪型を弄らない方なので、このままで良いかと」

「了解。じゃあこれで終わりっと」

 

若葉は頷いて答えると、櫛を台に置く。海未は立ち上がると全身鏡の前に立ち、くるりとその場で回る。

 

「予想通りと言いますか、分かってはいましたが、若葉の着付けは凄いですね」

「いやいやそこまでじゃないって。普通に専門店とかの方が上手いよ」

 

海未に褒められ、照れ笑いしながら否定する若葉。そしてことりの持って来たピンク地に白の縦ストライプの入った浴衣を受け取り、ことりを手招きする。

 

「ほらことり。着付け始めるよ」

「はーい」

 

手招きされたことりは笑顔で若葉の前に立つ。

 

「それじゃあよろしくね!」

「よろしくされました」

 

暫くすると、髪型をいつものことりヘアから三つ編みハーフアップに変えたことりがいた。

 

「さすがに四人の着付けは疲れるね」

 

ハァ、と息を吐いて言う若葉。そんな若葉に2人はお礼を言い、穂乃果は裕美香と雪穂を呼ぶ。

 

「どうしたの?お姉ちゃ…うわぁ!」

「何よいきなり呼んで…あらぁ」

 

呼ばれた2人は居間に入るなり、感嘆の声を上げる。

 

「ちょっと待っててね。今カメラ持って来るから。あ、若葉はその間に着替えてきなさい」

「はーい」

 

裕美香がカメラを用意している間に、若葉は言われた通り自室で浴衣に着替える。若葉が着替え居間に戻ると、浴衣4人娘による撮影会が行われていた。カメラマンは勿論裕美香である。

 

「着替えて来たわね。じゃあまずは穂乃果と雪穂の三人で撮りましょ」

 

裕美香に誘導され、3人は各々ポーズを取る。穂乃果と雪穂は浴衣の両袖を持って少し手を挙げる。若葉は両袖を合わせ、その中で腕を組む。並び順は若葉を真ん中に右に穂乃果、左に雪穂がいる。

 

「若葉ったら、両手に花ね」

「いやいや。2人共妹だから違うんじゃないかな…」

 

裕美香の言葉に若葉が呟くと、その呟きを聞いていた妹2人は

 

「そんな事ないよ」

「そうだよ。お兄ちゃん」

 

そう言って穂乃果は若葉の右腕に、雪穂は左腕に自分の腕を絡める。

 

「ちょ、2人共何してんの!?」

 

2人のイキナリの行動に混乱する若葉とそれを他所にポーズをとる穂乃果と雪穂。裕美香はシャッターを切ると、穂乃果の隣に海未を、雪穂の隣にことりを立たせ、5人の写真を撮る。更に悪ノリした裕美香は海未とことり、若葉のスリーショットを撮ろうとする。若葉はそれに反対するも、2人がノリノリだった為渋々折れる。その後、ことりが若葉から離れ、海未と若葉のツーショットを撮るのだが

 

「ほらもっと寄って寄って」

「こ、こうですか?」

「もう一声!」

 

裕美香の指示で若葉との距離を縮めていく海未。その距離は初めは近過ぎず遠過ぎずのだったのだが、裕美香の指示通り詰めた結果、互いの腕が軽く当たるまで近付いていた。2人の顔は赤く、それを見ていた雪穂は目をキラキラと光らせていた。

 

「う〜ん。本当は腕を組んで欲しかったんだけど……無理そうね」

「「いいから早く撮って(下さい)!」」

 

裕美香の追加注文に声を揃えて催促する2人。裕美香ははいはい、とシャッターを切る。裕美香が撮った写真を確認して頷く。

 

「しゃあ最後にことりちゃんね」

「は〜い」

 

先程の撮影風景を見ていたからなのか、仄かに頬を染めながら若葉の隣に立つことり。その距離は海未と撮影した時より近く、普通に腕が当たっており,やろうと思えば腕を組めるほど。

 

「ねぇことり。なんか近くない?」

「そんな事ないよー。海未ちゃんと同じくらいだよ」

 

若葉の言葉に笑って答えることり。そして突然若葉の腕に抱きつく。

 

「ちょ、ことり!?」

「ふふふ。これはお礼なのです」

「お礼って一体いつの、なんのなのさ!」

 

若葉は心当たりの無いお礼の理由を聞くと、ことりは

うーんとね、とお礼の内容を話す。

 

「この間、プールでナンパの人達から助けてくれた時の、だよ♪」

「た、確かにそんな事あったけど、それとこれとは」

 

別だよ、と言おうとする若葉をことりは遮る。

 

「ことりと腕組むの、そんなにイヤなの?」

「うっ……」

 

涙目と上目づかいのダブルコンボで聞かれた若葉は、思わず言葉に詰まる。言葉が詰まった若葉を見て、ことりは笑顔になりピースサインをする。若葉も腕を解くのを諦め、ことり同様ピースをする。

 

「若いって良いわね〜」

 

裕美香はそんな事を言いながらシャッターを切る。雪穂はこの時点で既にキャパをオーバーしており、穂乃果によって自室に運ばれて行った。裕美香が写真を確認してる時にことりは若葉から腕を放す。

 

「はぁ。緊張した〜」

「俺もだよ」

 

深呼吸して気持ちを落ち着かせていることりに、若葉も賛同する。

 

「あっともうこんな時間か。じゃあ母さん、俺行って来るね」

「気を付けてね〜」

「お兄ちゃんもう行くの?」

「祭りが始まるまでまだ数時間ありますよ?」

 

若葉の言葉に雪穂が驚き、海未も確認する様に聞く。それに対し、若葉は頷き返す。

 

「寧ろ今から行かないと遅れちゃうんだよ」

 

と言って浴衣を着ているにも関わらず、器用に走り出す。

 

「穂乃果ちゃん。若葉君は誰かと待ち合わせでもしてるの?」

 

ようやく落ち着いたことりが穂乃果に聞く。

 

「うーん、待ち合わせと言うより……」

 

☆☆☆

 

「真姫ちゃーん。早くお祭り行こー」

「分かってるわよ。今行くから少し待ってて」

 

花陽に呼ばれた真姫が外に出ると、浴衣姿の花陽が待っていた。

 

「あら、花陽も浴衣なのね」

「そう言う真姫ちゃんも浴衣なんだね」

「せっかくのお祭りだものね」

 

真姫は紺地に赤やオレンジの花柄、花陽は赤紫地にピンクの花柄の浴衣を着ていた。

 

「あれ?愛生人と凛は?」

「2人で楽しみたいんだって」

「そう」

 

真姫はいつも一緒にいる2人が見当たらいので聞いてみると、どうやら2人で祭りを楽しんでいるらしい。真姫は薄々そんな気がしていたのか、やっぱりか、と思うのと同時に少し表情が暗くなる。

 

「じゃあ私達も行こっか」

「そうね。向こうで誰かに会えるかもしれないしね」

 

花陽の言葉に少し寂しそうに笑って同意する真姫。そして2人は日が沈む中、並んでお祭り会場に向かう。

会場に近付くにつれ、段々と人が増えていく。

 

「さすがに人が凄いわね」

「そうだね。迷子になっちゃいそう」

 

あまりの人混みに花陽は思わず苦笑い。そんな中、とある射的屋の前に人集りが出来ていた。

 

「どうしたのかな?」

「さぁ?取り敢えず行ってみる?」

「う、うん」

 

2人が人集りの中心に向かうと、そこには良く知る人物が2人いた。

 

「アキ君、次はアレが欲しいにゃ!」

「OK任せてよ」

 

そこにいたのは青い浴衣を着た愛生人と、黄色の浴衣着た凛だった。凛の手には2人が来る前に取ったと思われる小さめのぬいぐるみが2つあり、愛生人は射的銃で凛の指した大きめのぬいぐるみを一発で撃ち落として射的屋のおっちゃんを泣かせていた。

 

「……行きましょう」

「そ、そうだね」

 

真姫と花陽はその風景を見て、人集りを作っていたのが愛生人と凛だった事に驚き半分呆れ半分でその場を去る。

それから少し歩き花陽は綿飴、真姫はりんご飴を買い食べ歩いていた。

 

「あ、真姫ちゃーん」

「あら、穂乃果に海未、それにことりじゃない」

 

真姫が名前を呼ばれたので振り返ると、そこにはヨーヨーを持った穂乃果と海未、アルパカのお面を被ったことりがいた。

 

「あれ?若葉君は?」

 

花陽はいつも大体一緒にいる若葉がいない事に気付き、尋ねる。その際真姫の表情が少し暗くなったのをことりは見逃さなかった。

 

「お兄ちゃん?それならこれから会いに行くけど、一緒に行く?」

「え?」

 

穂乃果の意外な言葉に真姫は思わず穂乃果を見る。真姫に見られた穂乃果は、ん?と首を捻る。

 

「若葉君は何してるの?」

「なんかね。屋台のお手伝いをしてるんだって」

「せ、せっかくだし、行ってみようかしら」

 

ことりの言葉に真姫はそわそわしながら穂乃果達の向かおうとしていた方をチラチラと見る。

 

「ふふ。真姫ちゃんは本当に若葉君が好きなんだね」

「ゔぇえ!?べ、別にそんな事ないわよ!ほら、早く行きましょ!」

 

ことりの言葉に否定して真姫はさっさと先に行ってしまう。

 

「ねぇことりちゃん。さっきのって」

「穂乃果ちゃんもその内分かるよ」

 

穂乃果の問いにそう返し、ことりは真姫の後を追う様に歩き出す。真姫に追いついた四人が暫く歩くと、一店舗だけ行列が出来ていた。その行列の先を見てみると案の定若葉がいた。穂乃果達も早速列に並び、順番を待つ。待ってる間に真姫が屋台の名前を見ると、どうやら水飴の屋台のようで、どうして行列が出来るのかイマイチ納得がいかなかった。

 

「ねぇなんで水飴店なのに、こんなに行列が出来るの?」

「さぁ?でもお兄ちゃんが参加してるし、何かあるんじゃない?」

 

真姫の疑問に穂乃果も把握していないのか、曖昧な答えが返って来る。順番が来るまで5人で予想し合うも、結果としては「若葉がやってる時点で普通の水飴屋ではないのでは?という結論に至った。

そして次が穂乃果達の番になる。若葉は五人を見るとよっ、と手を挙げて挨拶する。

 

「いらっしゃいませ。楽しんでる?」

「楽しんでるよ。それよりなんでこんな行列が出来てるの?」

「なんか個数限定のイベント扱いされてて」

 

穂乃果の問いに答える様に若葉は店の横の看板を指差す。そのにはデカデカと「先着百名様限定!水飴で何でも作ります!」と書かれていた。

 

「で、穂乃果は何作って欲しい?」

「う〜ん。じゃあ、イチゴ作って!」

 

穂乃果の注文に若葉は頷いて作り、渡す。

 

「それにしても若葉がつくって大丈夫何ですか?」

「さすがにこの祭りの時間ずっと作らせるわけにはいかないらしいけど、こうやって個数限定ならやらせてもいっかって、親方が」

 

海未の質問に後ろを指して答えると、若葉の後ろにいた髭面のおっちゃんこと陸山浩二(くがやまこうじ)、通称親方がニカッと笑いかける。

 

「はい。蓮の花だよ」

「ありがとうございます」

 

海未に蓮の花の形をした水飴を渡す。

 

「じゃあ私はことりさんを」

「わ、私は大盛りのご飯を」

「はいは~い」

 

ことりと花陽の注文聞き作業に取り掛かり、数分で完成させ渡す。

 

「若葉君ってこの後暇?」

「う~んどうだろう?」

 

ことりの質問に親方の方をチラリと確認する様に見ると、若葉に見られたのが分かったのか、親方が若葉の隣に立つ。

 

「どうした?若葉」

「親方。このイベントが終わったらちょっと抜けて大丈夫ですか?」

 

若葉の言葉に親方はふむ、と腕を組むと穂乃果達を見て笑うと

 

「時間にはまだ早いが、こんな可愛い彼女さん達を悲しませちゃいないな」

 

と親方は若葉の背中を叩きながら奥に引っ込む。若葉は叩かれた背中をさすってだってさ、と答える。

 

「この百人もそろそろ終わるから、ちょっと待っててよ」

「分かったわ」

 

真姫にピアノの水飴を渡し、店の横のスペースを指して言う。それから少しして百人目に到達して若葉は解放される。

 

「お待たせ。ってあれ?真姫だけ?」

「ええ。穂乃果はたこ焼きを花陽はライス焼きを買いに行って、海未とことりはその付添い」

「そ、それは……思いの外楽しんでるね」

 

引き攣り笑いでそう返す若葉。ふと人混みの方に目を向けると、遠くの方に見覚えのある水色の髪が見える。

 

「ねぇ若葉。あれって夏希、よね?」

「多分」

 

どうやら真姫も見た様で、若葉に耳打ちする。

 

「取り敢えず行ってみる?」

「そうね。行ってみましょ」

 

2人は頷き合うと揃って夏希の元へ向かう。

 

「お~い夏希~」

「ゲッ!若、それにマッキー」

 

若葉に声を掛けられ振り返った夏希は、若葉を見て驚愕する。

 

「あ、今日はメガネなんだね」

「ま、まぁな」

「何よ。何か見られたら拙い事でもあるの?」

「いや、そういう訳じゃ…」

 

真姫の問いに目を逸らしながら答えをぼかす夏希。

 

「夏希?どうしたの?」

「ツ、ツバサ!?」

 

夏希は後ろを振り向き、若葉達からその人物を隠そうとする。しかしその人物はそんな夏希を無視して、夏希の後ろから顔をひょこり出す。その顔には人気アニメのキャラクターのお面が被られていた。

 

「えーっとそちらは?」

「あー…部活仲間?」

「なんで疑問形なのよ」

 

仮面の少女に聞かれた夏希が答えると真姫がツッコミを入れる。

 

「えと、じゃあ自己紹介を。俺は高坂若葉。よろしくね」

「私は西木野真姫よ」

「西木野真姫ってあのμ'sの?」

「あ、μ's知ってるんだ」

 

若葉と真姫が自己紹介すると、相手はμ'sの事を知っているらしく、話が盛り上がる。

 

「っと自己紹介がまだだったわね。私は綺羅ツバサ。これからもよろしく」

 

話が一段落すると、仮面をずらして自己紹介する。瞬間、若葉と真姫の時が止まる。

 

「え~と、アレ?」

 

固まった2人を見て首を傾げるツバサ。夏希はそれを見てハァ、と溜め息を吐く。

 

「ツバサ、もうちょい自分が有名人って自覚持てって」

「んー。まさかここまでとは思わなかったのよね」

 

ツバサはお面を被り直すと、2人の前で手を振る。それから再起動した2人は夏希を連れその場から少し離れる。

 

「ちょちょ、夏希。どういう事なのさ」

「なんであなたがA-RISEのツバサと一緒にいるのよ」

「て言うより2人は何してたの?」

 

2人は夏希にツバサといる理由を聞くと、夏希はそんなにか?と不思議そうな顔をする。

 

「まぁ俺がツバサといるのは、2人と似た様なもんだぜ?」

「それってつまり…」

 

顔を赤くした真姫に夏希は笑うとじゃあなー、と手を振ってツバサの所へ戻って行った。

 

「あの2人付き合ってるのかな?」

「さ、さぁ?」

 

若葉の質問に顔を背けながら答える真姫。そして先程の場所に戻り穂乃果達の帰りを待つも、いつまで経っても4人は帰って来ない。4人が帰ってくるまでの間、真姫は先程見た射的屋での光景を話す。

 

「愛生人はゲームとかになると人が変わるからねー」

 

話を聞いた若葉は笑いながら愛生人と凛を探すように射的屋の方を見るも、既に2人の影すらも見付からず、目に入ったのは愛生人効果で盛り上がっている射的屋と、その近くに立てられている時計だけだった。

 

「あ」

「どうしたの、若葉」

「いや、本当は穂乃果達が戻ってからにしようと思ってたんだけど、ちょっと時間大丈夫?」

「え?大丈夫だけど」

 

真姫は時計を見て時間を確認すると頷く。

 

「じゃあちょっと場所、移そうか」

「え、ちょ、若葉!」

 

若葉は真姫の返事を聞くと真姫の手を引っ張る。真姫は驚きつつも、引っ張られるまま若葉について行く。

 

「ん~と確かここだね」

「ここって神田明神?」

 

若葉が立ち止った場所は、アイドル研究部が良く利用している神田明神の境内だった。若葉は境内に備えられているベンチに座り、真姫も続いて隣に座る。

 

「そろそろだよ」

「一体何が…?」

 

若葉が腕時計を見て夜空を見上げる。それに釣られて真姫も空を見上げる。

 

ドォーン。ドォーン。ドドドォーン!

 

夜空に咲く花火。その綺麗な光景に真姫はわぁ、と感嘆の声を漏らす。

それから花火が終わるまで2人の間に言葉は無く、しかし二人にとって心地良い空間が訪れていた。

 

「綺麗だったね」

「そうね。それにしてもあの場所、どうやって知ったの?それに花火の時間も分かってたみたいだし」

 

神田明神の境内は祭り会場から少し離れており、祭りを楽しむとしたらまず来ない場所なのだ。

 

「んーとね。時間は親方から聞いてたんだ。そのくらいの時間になったら友達達と花火見て来いって」

 

ほら親方って役員だから、とベンチに座ったまま指を立てて説明する若葉。先程親方が言っていた「時間にはまだ早い」とは花火の事だったのだ。

 

「場所の方はさっき店から出てくる時に教えて貰ってさ、結構綺麗に見えるから行って来いよって」

「親方さんって凄いのね……ぁ」

 

若葉の説明に納得のいった真姫は、自分の手が若葉の手と繋がっているのを知り、小さく微笑む。若葉は気付いてないようで、花火を見上げている。

そして花火が全弾打ち終わってから少しの間、2人は花火の余韻に浸っていた。

 

「さて、そろそろ祭りに戻ろうか。なんか長い事ここにいたみたいだし」

「そうね。穂乃果達も心配してるだろうし…っ!」

 

若葉に手を引かれ立ち上がると、真姫は足に痛みを感じ顔を少し顰めるも、若葉に心配掛けまいとすぐに表情を戻す。しかし若葉はその一瞬の顰め顔を見逃さなかった。

 

「どうしたの?」

「いえ、なんでもないわ。早く行きましょ」

 

若葉の質問に首を振って答えると、境内の階段に向かって走る。しかし足を痛めている為なのか少しぎこちない。

 

「真姫ちょっと待って」

 

若葉の制止の声に真姫は立ち止まり、俯いてしまう。

 

「足、ケガでもしてるの?」

「……えぇ……多分履きなれない草履を履いたからだと思う」

 

若葉は真姫に近寄り足元にしゃがむと、真姫の草履を脱がし傷を見る。若葉が見ると、ちょうど足の親指と人差し指の間、草履の鼻緒が当たる場所の皮膚が剥けて軽く血が滲んでいた。

 

「あー見事に鼻緒ずれだね」

「鼻緒ずれ?」

「まぁあれだよ。下駄とか草履を履いてると偶に皮が剥けるっていう」

 

若葉は真姫に説明しながら先程まで座っていたベンチに座らせ、絆創膏を取り出すと真姫の足の親指の付け根に貼り、具合を尋ねる。

 

「どう?」

「さっきよりはマシになったわ。ありがと」

 

真姫は草履を履き直し、具合を確かめると若葉に礼を言うもまだ少し痛むのか、顔を少し顰める。

 

「これじゃ人混みを歩くのは無理そうだね」

「そ、そんな事ないわよ」

「はいはい無茶はしないの」

「ちょ、ちょっと若葉!?」

 

真姫が若葉の言う事に反対すると、若葉は勝手に真姫をおぶる。そんな若葉に驚きつつも、落ちない様に若葉の肩を掴む。

 

「それじゃあ西木野家に向けて出発進行!」

 

若葉はしっかりと真姫を背負うと真姫の家を目指し歩き始める。

 

「さて、真姫の家ってどっちだっけ?」

「……あっちよ」

 

相変わらずの方向音痴を披露した若葉にジト目を向け、指をさす。

 

「じゃあ改めて帰りますか」

「はいはい」

 

真姫は呆れた声を出しつつも、肩から手を離し勇気を振り絞って腕を若葉の首に回す。若葉はその事について何も言わずに歩き続ける。この時真姫の顔は真っ赤だったのは、真姫を背負っている若葉が知る由もない事だった。

暗い夜道、祭りの会場から遠ざかるにつれ祭りの賑わいは無くなり、若葉の足音だけが静かに響く。

 

「ねぇ若葉」

「どうしたの?真姫」

 

そんな中、突然真姫が若葉の名前を呼ぶ。若葉は急に名前を呼ばれた理由が分からなく、道を間違えたのかと不安になる。しかし次に真姫が発した言葉は若葉の想像とは違うものだった。

 

「私達って音ノ木坂の音楽室の前に一度会った事があるの。覚えてる?」

「えっと、それは廊下ですれ違ったとか、そういうんじゃ…」

「ないわよ」

 

若葉の台詞を途中で遮り真姫ははっきりと答える。真姫の答えに若葉はう~ん、と考える。

 

「覚えてないなら、別に良いわよ。あの時は私が一方的に見掛けただけだし」

「そ、そう?」

「えぇ」

 

若葉はいまいち納得のいってない表情だったが、ちょうど西木野家の前に着いた為、それ以上の詮索は出来なかった。

 

「それじゃあまた明日」

「そうだね。明日の部活で」

 

真姫を下ろし玄関の扉が閉まるまで見送り、若葉も帰路に着いた。

 

 




夏休み。合宿から帰って来て暫くしたとある日の事。

「にしても暑いね」
「身体動かしてる穂乃果さん達の方が暑いと思いますよ?」
「だな。日陰で突っ立ってる俺らよりかは暑いだろーな」

若葉、愛生人、夏希が屋上でビニールシートで作った日陰にて話している。穂乃果達は夏祭りで行うライブの練習をしていた。
何故夏祭りでライブをする事になったのかと言うと

「いやーまさか店長に頼まれるとは思わなかったね」
「本当だよ」

と、いうことである。
若葉のバイト先の店長が夏祭り実行委員長らしく、空いた時間をどうにか出来ないかと悩んでいた所、若葉経由でμ'sに出演依頼が来たのが、この練習日の前日。そして練習前に話をした所、満場一致で出る事になった。

「だぁー!疲れたー」
「暑いにゃ〜」

夏祭りについて話していると、練習に一区切りついたのか、穂乃果達がブルーシートの影に入って来る。

「お疲れ様」

「ハイ、どうぞ」

日陰に入って来たメンバーからドリンクを渡して行く夏希と愛生人。

「絵里、仕上がりはどんな感じ?」
「夏祭りには間に合いそうよ」

絵里も若葉と話しながら下に敷いているブルーシートに座る。

「ね、ねぇ若葉」
「どうしたの、真姫?」

そんな二人の隣に真姫が座る。

「もし良かったらなんだけど、夏祭り一緒に回らない?」
「どうしたの?急に」
「べ、別に……ただステージまでの時間暇だから誰かと回ろうかと思ってただけよ!」

真姫が顔を赤くしながら逸らす。若葉は少し考えて

「だってさ絵里……あれ?」

隣にいる絵里に話を振る。しかしそこには絵里は居らず、離れた所で希と話していた。

「それで、どうなの?若葉」
「大丈夫だよ。ただ穂乃果の着付けとかあるから少し遅くなるかもよ?」
「それでも良いわよ」
「それじゃ、行こっか」
「ええ」

それだけ言って真姫は嬉しそうに笑い、その場を離れる。

「若葉君何の話ししてたの?」

真姫を不思議そうに見ていた若葉に、今度はことりが声をかける。

「真姫が夏祭りの時、ステージまでの時間一緒に回らないかって話」
「へぇ〜そうなんだ〜。じゃあ穂乃果ちゃんは私と海未ちゃんに任せて」

トン、と胸を叩いて言うことり。

「じゃあお言葉に甘えさせていただきます」

若葉の言葉に頷き返すことり。

「ふふっアツアツやねぇ」
「そうね」

希と絵里の小声での呟きは誰にも届かない。



1週間後…夏祭り当日

「いや〜晴れたね」
「晴れたな」
「晴れましたね」

若葉たちサポート班3人は、今日もビニールシートで作られた日陰にてμ'sの練習を見ていた。

「今日本番だな」
「成功しますかね?」
「俺らの仕事の出来次第じゃない?」

若葉はそう言いながら衣装の仕上げを終わらせる。

「やっぱり若葉さんって手先が器用ですよね」
「んー?実家が実家だからね。手伝っていると多少はね。……っと、出来た〜」

若葉は衣装を掲げ、満足そうに頷いてから寝転がる。

「お疲れさん」
「じゃあ皆を呼んで来ますね」

夏希が労いの言葉を言い、愛生人が衣装合わせの為に踊りの仕上げをしている9人のもとへ向かう。

「衣装の色は白か…ステージは夜だし良く目立つな」
「その代わりに汚れも目立つけどね」

カラカラと笑いながら身体を起こす。

「お兄ちゃーん!衣装出来たってホントー?」

そんな若葉に穂乃果が走り寄りながら聞く。その後ろから海未やことり、絵里達が歩いて戻って来る。

「じゃあ着替えに部室に行くわよ」
『おー!』

にこの言葉に八人が手を上げ、部室へ向かう。若葉達は部室前で暫し待機。
そして最初に出て来たのは希だった。

「どんな感じ?」

くるりとその場で回りながら希が3人に聞く。
今回の衣装は白と青を基調とした物で、細かい違いは上を前で止めるタイプか止まってるタイプか、ネクタイか蝶ネクタイかくらいである。服のモデルはCAだとか。

「うん似合ってるよ」

希は手に持ってる帽子を被り、嬉しそうに笑うと屋上に向かった。

「ほらほらぁ、真姫ちゃんもおいでよ〜」
「ちょっと凛!引っ張らないでよ!」
「待って〜」

次に出て来たのは凛、真姫、花陽である。凛は衣装である指ぬき手袋も着けている。そんな凛に引っ張られる様に真姫が続いて、花陽も出て来る。

「あ、アキくーん!」
「ゔぇぇえ!」

凛が若葉達に気付いた様で急に止まる。 凛が急に止まったことによって引っ張られてバランスを崩していた真姫が転んだ。

「大丈夫?」

若葉が真姫に手を貸して起き上がらせる。

「どうしたんですか?」
「着替え終わったよ〜」

そのタイミングで海未とことりが部室から出て来る。

「2人は帽子まで被ってんだな」

そんな2人に夏希が近付きながら話しかける。

「にっこにっにー!どう?似合ってるでしょー!」

にこが元気良く部室から出て来る。しかし愛生人は凛と花陽と、夏希は海未とことりと、若葉は真姫と話していて誰もにこの方を見ていなかった。にこ先輩、哀れ!

「ちょっと無視しないでよー!」
「ハイハイ。着替えたら早く屋上に行くわよ」

その場で抗議を始めようとしたにこを絵里が屋上に連れて行く。

「またにこにーで滑りそうだったの?」

2人が階段を登ってから穂乃果が出て来ながらその場にいた人に問いかける。問いかけられた面々は苦笑いするしかなく、穂乃果も何となく察したのだった。

「じゃあ、俺らも屋上に行こうか」
「だね〜」

再び屋上に上がり、青空をバックに先ずはμ'sの九人で写真撮影。その後、3人も入りアイドル研究部として撮影。

「それじゃあステージの時間は19時からだから遅れないようにね」
「最悪ステージの時間までに間に合えば大丈夫だと思うのだけれど…」
「ギリギリで動くのは危ないからな」

と一度各々の家に帰宅、その後また集合となった。

お昼頃に一度解散し、各々帰路につく。

「お兄ちゃんって着付けできたっけ?」

どうやら真姫との話を聞いてたらしい穂乃果が若葉に聞く。

「何回か着物の店でバイトしてた事あってね。その時に覚えたんだよ」
「へぇ〜。お兄ちゃんの着付け、楽しみにしてるね!」

穂むらが見えてきた所でタタターッと穂乃果が走る。若葉に着付けてもらえる事が嬉しいようだ。

「ただいま!」
「ただいま〜」
「お帰りなさ〜い」

2人が店とは反対の玄関から帰宅すると、2階から肌襦袢姿の雪穂が降りてくる。

「雪穂。その格好は何?」
「いや〜お兄ちゃんが着付けをしてくれるって聞いたから楽しみで」

若葉の質問に穂乃果()と同じ事を言う雪穂()

「お兄ちゃん早くー」

と奥の(ふすま)から、いつの間にか居間に移動した穂乃果が若葉を呼ぶ。

「はいはい。荷物置いて着替えたら行くから浴衣の準備しててね」
「「はーい」」

綺麗にハモった2人の返事を聞き、若葉は2階の自分の部屋に荷物を置いてから薄めの浴衣に着替えて居間に入る。

「お兄ちゃん早く早くー」
「遅いよー」

居間に戻ると肌襦袢姿の穂乃果と雪穂が楽しみなのが分かるくらいウキウキしていた。若葉がどちらの着付けから始めるか悩んでいると

「あら、もう浴衣に着替えるの?」

店番をしてしている筈の裕美香が顔だけを覗かせて聞いてきた。

「やっぱりまだ早いかな?」
「良いんじゃない?着付けって慣れてないと時間かかるし……それに時間限定で看板娘としも使えるし」

裕美香の最後の言葉が聞き取れなかったのか、3人は同時に首を傾げる。

「ま、着替えないなら店手伝ってね」

と言い残し店番に戻っていった。

「さて、じゃあジャンケンで勝った方から始めようか」

若葉の提案に、コクコク!と勢い良く首を縦に振る妹2人。どんだけ店の手伝いをしたくないのか、若葉の着付けが楽しみなのか…多分後者だろう。

「それじゃあいくよ。ジャーンケーンポン!」

若葉の合図で二人が拳を前に出す。結果は穂乃果が「パー」雪穂が「チョキ」で雪穂の勝ちだった。

「やたー!」
「うぅ〜」

両手を挙げて喜ぶ雪穂(勝者)と泣き崩れる穂乃果(敗者)。雪穂は小豆色の浴衣を持ってピョコピョコ跳ねながら若葉の元へ行く。

「お兄ちゃん早く早く〜」

雪穂が浴衣を若葉に渡しながらはしゃぐ。若葉はそんな雪穂の頭を撫でて落ち着かせてから着付けに入る。

☆☆☆

それから1時間と少しが経ち、居間には紺の浴衣を着た雪穂と白の浴衣を着た穂乃果、青い着物を着ている若葉の3人がいた。

「はい二人とも並んで〜」

若葉が着物の袖から携帯を取り出し、カメラを起動させながら言う。
2人は腕を組んでポーズをとる。

「はいチーズ」

カメラのシャッターを切る音がする。

「あら、何だか楽しそうじゃない」
「母さん。丁度良いところに」

若葉が写真を撮った時タイミング良く裕美香が居間にやってくる。
居間に入ってきた裕美香は穂乃果と雪穂を一目見てから2人の後ろに回り、隅々まで眺める。そして若葉の頭をグシグシとかき乱す。

「良く出来てるじゃない」
「ちょ、止めてよ。それより写真お願いしていい?」

若葉は裕美香の手を軽く払って携帯を渡す。裕美香はそんな若葉の行動に「息子が冷たくなった…」と泣き真似するも、子供達3人はそれを無視し、各々ポーズをとる。
穂乃果と雪穂は浴衣の両袖を持って少し手を挙げる。若葉は両袖を合わせ、その中で腕を組む。並び順は若葉を真ん中に右に穂乃果、左に雪穂がいる。

「若葉ったら、両手に花ね」
「いやいや。2人共妹だから違うんじゃないかな…」

裕美香の言葉に若葉が呟くと、その呟きを聞いていた妹2人は

「そんな事ないよ」
「そうだよ。お兄ちゃん」

そう言って穂乃果は若葉の右腕に、雪穂は左腕に自分の腕を絡める。

「ちょ、2人共何してんの!?」

2人のイキナリの行動に混乱する若葉とそれを他所にポーズをとる穂乃果と雪穂。裕美香のシャッターを切る音が高坂家に流れる。

「じゃあ私は店に戻るわね」

写真を撮り飽きたのか、裕美香は携帯を若葉に返すと店に戻って行った。居間に残った3人は先程撮影した写真を見る。

「それにしても母さん撮影上手いよね」
「なんでも商品棚に置かれてる写真、お母さんが撮ったらしいよ」

雪穂の言葉に若葉と穂乃果はへぇ~、と感心する。

「確かに良く撮れてるもんね~」
「なんかの賞とか取ってたりして」
「まっさかー……ない、よね?」

若葉の言葉に3人揃って乾いた笑いをする。

「それにしても、着替えるのちょっと早かったかな?」

雪穂の言葉で2人が時計を見ると時間は15時半ちょっと過ぎ。祭りは17時開始なので2時間程暇になってしまう。3人がどうやって時間を潰すか悩んでいると、何やら店の方から裕美香の賑やかな声が聞こえた。

「どうしたんだろ?」
「取り敢えず行ってみよ」

3人が店に出ると藍色の浴衣を着た真姫が裕美香と話していた。

「まさか若葉の相手が貴女なんてね~。運命みたいじゃない?」
「そんな偶然ですよ」

2人は1年前に若葉が入院している時に顔を合わせていたのだが、若葉達3人はその事を知らない為揃って首を傾げていた。

あの子(若葉)も中々気付かないし」
「別に大丈夫ですよ。少し残念ですけど」

裕美香の言葉に苦笑いして返す真姫。でも良いんです。と続ける。そして柔らかい笑みを浮かべる。

「だって、今が一緒なので」
「じゃあこれからもあの子の事よろしくね」

ニッコリ笑って言う裕美香に元気良く返事する真姫。
そこで話が終ったらしく、若葉達が店に出て行くと真姫が変な声を声を出して驚く。

「い、一体いつから!?」

真姫が顔を赤くしながら3人に聞く。3人が顔を見合わせると代表して若葉が答える。

「え~と『まさか若葉の相手が~』辺りから」

若葉の言葉に更に赤くする真姫。

「それで若葉は気付いたの?」
「何が?」

裕美香の質問の意味が良く分からず、素で返す若葉。その後ろでは穂乃果と雪穂が小声で

「お姉ちゃん何の事か分かる?」
「全然。雪穂は?」
「私も分からない」

と再び首を傾げる2人。そんな頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる3人を余所に、真姫は若葉の手を取る。

「ちょ、ちょっと真姫?」
「いいから若葉、早く行きましょ」
「行くってどこに?」
「どこってお祭りに決まってるじゃない」

そう言うと真姫は若葉を引っ張って外に出る。真姫に手を引っ張られ、夏祭りの会場である神田明神に向かう2人。

「あのー真姫さん?そろそろ手を放してくれやしませんか?」
「う~ん……イヤ」

真姫は若葉のお願いに少し考える素振りを見せるも、拒否する。拒否された若葉もなんとなく分かっていた様で、溜め息を吐くと体勢を整え、真姫の隣を歩く。
神田明神が近付くにつれて、段々と賑やかな声が聞こえてくる。

「もう始まってるのかしら?」
「多分前準備で盛り上がってるんだよ」

真姫が時計を見ながら言うと、若葉は首を横に振り答える。若葉の答えに首を傾げる真姫に若葉はすぐに分かるって、と真姫の頭を撫でながら言う。
真姫は顔を赤くしながら逸らすも、その手を払う事はしなかった。
2人が会談を登り境内に着くと、既に幾つかの出店が試作品を作り始めたりしていた。中には若葉のバイト先の出店もあった。

「おう若葉~。俺らの誘いを断ってかわい子ちゃんとデートかよ」

そんな中若葉に声を掛けたのは、若葉がよく土木工事を手伝っている会社の親方こと陸山浩二(くがやまこうじ)

「親方こそ、後ろに多くの愛人がいるじゃないですか」
『誰が愛人だ誰が!』

若葉の愛人発言に息の合った突っ込みをしたのは、今もなお出店の屋台を組み立てをしている社員達だ。

「えーと…若葉、この人達は?」
「あぁ紹介してなかったね。こちら、俺のバイト先の一つのクガヤマ工務店の社長の陸山浩二さん。通称親方。で、親方。こちらは西木野真姫。部活の後輩です」

若葉の紹介でお互いにお辞儀をし、挨拶する。

「所で親方の店は何を出品するんですか?」
「逆に聞くが、若葉は何やると思う?」

親方の質問に少し悩む若葉と、それを面白そうに眺める親方。

「ここはオーソドックスに」
「うんうん」
「ネジ販売」
「そうそう。今日は祭りだから特別にこの皿小ネジを50本入りでなんと!5.000円!って、んな訳あるか!」

若葉の答えに親方がノリツッコミをするも、若葉と真姫の2人から長い、とダメ出しをくらう。ダメ出しされて落ち込んでる親方を放置して。若葉は屋台に置かれた機材を眺める。

「んー使ってる備品からして…人形焼ですかね?」
「お、正解。さすが和菓子屋の息子だな。祭りが始まったらウチに来な、特別にサービスしてやるよ」

2人は親方の気前の良い言葉にお礼を言い、作業の邪魔にならない様にその場を離れる。それから祭りが始まるまでの間、2人で会場のあちこちを見て周ったが、頻繁に若葉のバイト先の知り合いに会い、その度に試作品を貰ったり、親方同様の約束をして貰っていた。
真姫はその日改めて若葉の交友範囲の広さを思い知ったのだった。

「さて、これらを一体どうするか」

一通り知り合い(バイト先)を周った若葉と真姫の腕にはワタアメ、焼きそば、たこ焼き、人形焼etc…が抱えられていた。

「どうするも何も食べるしかないでしょ」
「いや、それはそうなんだけど。両が、ね」

ワタアメを食べながら言う真姫に若葉が困った風に笑うと、ふと妙案を思い付いたらしく、顔になる。

「じゃあμ'sに差し入れよう!」
「それは良いかもね。碌に買えなさそうな人が多いし。色んな意味で」

真姫の言う”色んな意味”とは言葉通りで、人気のある絵里や海未。テンションのメーターが振り切れるであろう凛と、十中八九引っ張られているであろう愛生人と花陽。そう考えると、確かにまともに買い物が出来そうなメンバーは少ない。

「じゃあLIMEで言っとくね」

若葉は言うや否や、LIMEのグループに書き込み、μ'sの控室に荷物を置きに行こうとして

「ねえ若葉」
「どうしたの真姫?」

真姫に浴衣の袖を掴まれて止まる。真姫は祭りが始まり、混雑した人混みのとある場所を指す。若葉も気になって真姫の指差した方を見ると、そこにはどこかで見た事のある女性と手を繋いだ夏希がいた。

「あれって夏希よね?」
「そうだね。一緒にいるのは彼女かな?」

真姫の言葉に頷きながら言う若葉。2人は若葉が彼女と言った女性を見てみる。女性は黒の浴衣を着ていて頭にはとあるさアニメのお面を付けいて、明るい髪を額が見える程に短くした髪型だった。

「もしかして綺羅ツバサ?」
「綺羅ツバサってA-RISEの?」

若葉の呟きに真姫は信じられない様に返す。しかし口では否定した真姫も、女性がツバサ本人である可能性を捨て切れないのか、 ウンウン唸っている。その隣では同じく若葉も迷っていた。

「う〜ん。仕方ない。こうなったら」
「なったら?」
「本人達に聞きに行こう!」
「えぇ〜…」

若葉の言葉に真姫は呆れながらも、若葉に手を引かれるままに歩いて行く。

「やぁやぁご両人!」

若葉は2人の後ろから声をかけながら、真姫の手を握っているのとは反対の手を上げる。
夏希は振り返り、若葉と真姫を見た瞬間に顔を顰め、女性の方はキョトンとした後夏希に笑いかける。

「ねぇ夏希?」
「ハイ、なんでしょう?」

夏希は冷や汗を流しながら女性に返す。女性はニッコリとしたままさらに質問をする。

「随分とμ'sの西木野さんと高坂さん似の人と仲が良いみたいね」
「いだだだだ!ツ、ツバサ!腕!腕キメに掛からないで!」

ツバサと呼ばれた女性は手を繋いだ状態から器用に腕を絡ませ、夏希の腕をキメに掛かる。

「え〜と。初めまして、高坂若葉です」
「西木野真姫です」

若葉と真姫は腕をキメられてる夏希を放ってツバサに自己紹介をする。それを聞いたツバサもニッコリと笑うと自己紹介をした。

「初めまして、私は綺羅ツバサよ。よろしくね」
「あの〜ツバサさん?そろそろ腕を放して頂けると嬉しいんですが…」

夏希の主張にツバサは腕を放す。夏希は解放された腕を摩りながら若葉と真姫に向き直る。すると今度は若葉の腕が夏希の首に回される。

「ツバサさん。こいつ(夏希)を少し借りますね」
「?ええ良いわよ」

若葉は笑顔で言うと、ツバサは首を傾げながらも頷いた。そして若葉はそのままツバサから少し離れた所まで夏希を連れて行く。その後ろからは真姫もついて来ていた。

「なんだよ若」
「なんだよ、じゃないよ。なんでA-RISEの綺羅ツバサと夏希が一緒にいるのさ」
「そうよ。一体何してたの?」

若葉と真姫は夏希に説明を求める為に疑問をぶつける。夏希は溜め息を吐き、若葉の腕を外しながら言う。

「何ってお前ら2人と似た様なもんだぜ?」
「て事は……」
「デ、デート?」

真姫の答えに夏希はニヤリと笑うとじゃあなー、と手を振ってツバサの所へ戻って行った。
若葉と真姫は少し呆然とした後、どちらともなく顔を見合わせると首を傾げてから、μ'sの控え室へと向かう。




こちら(あとがき)はボツネタです。本編とは一切関係ありません。

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