ま、それは置いといて。今日は成人の日!新成人の方々おめでとうございます。
翌日、穂乃果と海未、夏希の3人が生徒会室を訪れる。部屋の外には他のメンバーが聞き耳を立てていた。
「や、絵里」
「夏希…何しに来たの」
片手をあげて挨拶した夏希を絵里はチラリと見ると睨む様に聞く。
「あの!実は生徒会長に折り入ってお話が!」
夏希の代わりに穂乃果が話を切り出す。そしてオープンキャンパスに行うライブのダンスコーチの話をする。
「私にダンスを?」
「はい。教えて頂きたいんです。上手くなりたいんです」
穂乃果の言葉に、絵里は海未と夏希を見る。絵里に見られた2人は目を逸らさずに絵里と目を合わせる。そんな3人の言動に絵里は一度目を瞑り、一瞬考えた後にコーチを引き受けた。
「その代り、やるからには私が許せる水準まで頑張って貰うわよ。いい?」
絵里の言葉に穂乃果は再度お礼を言い、絵里を連れて屋上へ向かう。生徒会室に残ったのは希と夏希の2人だけ。
「星が動き出したみたいや」
「星?」
「そうや」
2人きりになった生徒会室で夏希は希の言った台詞を聞き返すも、希は微笑んで答えるだけだった。
「ま、俺には星とか分からないけど、希先輩も練習見に来ますか?」
夏希の誘いに希は首を横に振る。流石に生徒会副会長まで留守にするのは拙いらしい。
「そうですか。ではまた」
夏希はそれだけ言って屋上へ走って向かったのだった。
☆☆☆
屋上に着いた穂乃果達は絵里にオープンキャンパスのライブで行う踊りを披露した。しかし踊りの途中で凛が足を縺れさせ、転んでしまう。
「全然だめじゃない。よくこれでここまで来られたわね」
「昨日はバッチリだったのに~」
絵里の一括に凛が泣きそうになりながらも抗議する。絵里は凛の後ろにしゃがむと
「基礎が出来てないからムラが出るのよ。ちょっと足を開いて」
「こう?」
凛に足を開かせると一気に背中を押した
「うぎっ」
背中を押された凛は、とても女子が出すべきでは無い声を出してしまう。
「痛いにゃー!」
目に涙を浮かべて言う凛に、絵里は最低でも床にお腹が付くようにならないと、と言う。そして凛の背中から手を放し、穂乃果達に告げる。
「柔軟性を上げる事は全てに繋がるわ。先ずは全員これが出来る様にして。このままだと本番は一か八かの勝負になるわよ」
それから全員が足を開いた状態で体を前に倒すも、絵里の言った条件に達したのはことりだけだった。
そしてその日は絵里監修の元、片足バランスを10分、腕立て、腹筋、背筋を10回と練習が続いていく。片足バランスの途中、花陽がバランスを崩して倒れかけたが、それは夏希が支える事で事無きを得た。他にも危ない場面があったが、夏希と愛生人が補助する事で大事には至らなかった。
「もういいわ。今日はここまで。自分達の実力が少しは分かったでしょ」
絵里の言葉ににこと真姫が反発するも、絵里はそれを無視して穂乃果を見る。
「今度のオープンキャンパスには学校の存続が係っているの。もし出来ないって言うなら早めに言って。時間が勿体無いから」
絵里はそれだけ言って屋上を後にしようとする。しかしそんな絵里を穂乃果が呼び止める。絵里が不思議そうに振り向くと、そこには穂乃果を中心に7人が横一列に並んでいた。
「ありがとうございました!」
穂乃果の言葉に驚いている絵里に穂乃果は続けて言う。
「明日もよろしくお願いします!」
『お願いします!』
穂乃果に倣う様に横にいる六人も声を揃えて言う。絵里はまさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったのか、何も言わずに屋上を後にした。
その後、家に帰って来た若葉は穂乃果からその日1日にあった事を聞かされた。若葉は晩御飯の準備を手伝いながらその話を聞いていた。
「それで気になったんだけど、なんで夏希君は生徒会長さんの事を『絵里』って呼び捨てにしてるのかな?先輩、だよね」
「だって夏希って幼馴染でしょ?だったら別に良いんじゃない?」
「幼馴染?生徒会長さんと夏希君が?」
「そうだよ」
「……」
若葉は急に黙った穂乃果を不思議に思い、そちらを見ると同時に、しまった、と顔を顰める。穂乃果は若葉に詰め寄る。
「お兄ちゃん。その話、本当?」
「あ、ああ」
夏希がまだ話して無い事を悟ったが、いずれバレる事でしょ。と考えを割り切る。
「ま、その話は置いといて、ご飯の準備手伝って」
「う、うん」
若葉は穂乃果に手伝いをさせる事で話を切る。その後穂乃果に何度も詰め寄られるも、若葉は何とか回避し続けた。
☆☆☆
次の日の放課後、穂乃果が練習着に着替えて屋上に行くと、まだ全員揃っておらず、夏希と海未、ことりの3人しかいなかった。
「よし、頑張ろう!」
挨拶もそこそこに3人は軽く体を解し始める。そのタイミングで絵里が凛に背中を押されて屋上に入って来る。
「おはようございます!」
「まずは柔軟ですよね」
穂乃果の挨拶の後にことりが畳み掛けるように確認を取る。そんな2人と2人の隣に立っている海未、更に後ろにいるにこと1年生3人を見て絵里は聞く。
「辛くないの?」
『え?』
「昨日あんなにやって、今日また同じ事をするのよ?第一、上手くなるかどうかも分からないのに」
絵里の台詞にその場にいたメンバーは顔を見合わせると、代表して穂乃果が答える。
「やりたいからです」
穂乃果の答えに絵里は驚き、言葉に詰まる。そんな絵里に穂乃果は続ける。
「確かに練習はキツイです。身体中痛いです。でも、廃校を阻止したい気持ちは生徒会長にも負けません!だから今日もよろしくお願いします!」
『お願いします!』
穂乃果に続く様に挨拶をするメンバー。その後ろで静かに頭を下げる夏希と愛生人。その光景に絵里は何も言わずに屋上を後にする。背後から穂乃果の呼び止める声が聞こえるも、それも無視して階段を降りていく。
☆☆☆
絵里は廊下を歩きながら昨夜妹の亜里沙の言葉が脳裏に浮かぶ。
それがお姉ちゃんのやりたい事?
私ね、μ'sのライブを見てると胸がカーって熱くなるの。一生懸命で、めいいっぱい楽しそうで。
そしてつい先日、夏希に言われた事も浮かんで来る。
そろそろ絵里もやりたい事やったら?
言葉の意味を考える様に歩いていると、ふと聞き覚えのある声が聞こえた。音ノ木坂に入ってからほぼ毎日の様に会っている希だ。
「ウチな、えりちと友達になって生徒会やってきて、ずっと思ってた事があるんや。えりちは本当は一体なにがしたいんやろうって」
希は絵里のもとへ歩み寄りながら自分の想いを絵里に語る。
「一緒にいると分かるんよ?今年で3年の付き合いになるウチでも分かるんやから、幼馴染みの夏希君にはとっくに」
希は絵里の背後を見て驚いた表情をする。絵里が振り返ると、そこに居たのは軽く息が上がっている夏希だった。夏希の息が上がっている理由は簡単で、絵里が屋上から居なくなってから不満を漏らすメンバーを宥め、慌てて絵里を追い掛けたからだ。
「そうだよ絵里。お前が頑張るのはいつも誰かの為ばっかり、だから偶には自分の心に素直になって我儘を言っても良いんだぜ?」
夏希は両手を広げ、微笑みながら絵里に言う。そんな2人の言葉に絵里は我慢し切れずに、夏希の横を駆け抜ける。
「学校を存続させようってのも、生徒会長としての義務感やろ!だから理事長はえりちの事を認めなかったんと違う?」
そんな絵里を止めたのは夏希ではなく、希の言葉だった。
「えりち」
「絵里」
「「えりち(お前)の本当にやりたい事は?」」
夏希と希、2人の言葉が重なって絵里に問い掛ける。屋上からは穂乃果の元気な声と愛生人のリズムを刻む声が静かな校舎に響き渡る。
「何よ……なんとかしなくちゃいけないんだからしょうがないじゃない!」
そう叫び、振り返った絵里の頰には涙が伝っていた。そして堰を切った様に絵里も想いを吐き出す。
「私だって、好きな事して、それだけで何とかなるんだったらそうしたいわよ!……自分が不器用なのは分かってる。でも、今更アイドルを始めようなんて、私が言えると思う?」
それだけ言って絵里はその場から走って離れる。希は止め様と動くもあと僅かで間に合わず、夏希は動かなかった。
「えりち……」
「ハァ……仕方ないか」
希の呟きを聞いた夏希は、自分の頭をガシガシと掻いて屋上に向かった。
「……夏希君。どうするん?」
「迷惑かけたくは無かったんだが、仕方ない。ほのっち達にも協力して貰う」
皆が聞いたら否定しそうな言葉を夏希は言う。そして屋上に歩き出す。
☆☆☆
2人のもとから走って離れた絵里は、自分の席に座って遠くを見ていた。時間も放課後になって暫く経っていたので、教室は無人だった。
何も考えず、ただボーッと遠くを見ていた絵里の視界に誰かの手が映る。不思議に思い手の主を見てみると、そこに居たのは穂乃果だった。穂乃果の後ろを見るとアイドル研究部十人と、希が立っていた。
「貴方達…」
「生徒会長、いえ絵里先輩。お願いがあります」
穂乃果の言葉に絵里は窓の外に視線を戻し、ハッキリ言う。
「練習?ならまず昨日言った課題を全部こなして」
「絵里先輩。μ'sに入って下さい」
「えっ…?」
穂乃果の予想外の言葉に、絵里は見開いて穂乃果を見る。
「一緒にμ'sで歌って欲しいです!スクールアイドルとして!」
「……何言ってるの。私がそんな事する訳無いでしょ」
「さっき夏希と希先輩から聞きました」
絵里の言葉を遮る様に海未が言う。
「やりたいなら素直に言いなさいよ」
「にこ先輩には言われたくないけど」
にこが言うも真姫に突っ込まれる。
「ちょっと待って。別にやりたいなんて…大体私がアイドルとかおかしいでしょ」
「そんなのやってみなくちゃ分かんないだろ?」
それまで黙って壁に寄りかかっていた夏希が、絵里を真正面から見て言う。
「そうそうやってみればええやん。特に理由もない。やりたいからやる。本当にやりたい事ってそんな感じで始まるんやない?」
「でも!」
と希の言葉を受けても尚言葉を続ける絵里を、夏希は「あーもう!」と大声で遮る。
「絵里はやりたいのかやりたくないのか、どっちなんだよ!」
「やりたいわよ!……でも」
「だったら!」
夏希が再び遮る様に大声を出す。絵里は顔を上げ、夏希を見ると、夏希は微笑みながら絵里に言った。
「だったらやれば良いじゃんよ」
それから絵里は手を伸ばした穂乃果を見る。穂乃果は黙って頷くと、絵里に笑いかける。絵里はもう一度夏希と希の方を見るも、2人は微笑むだけで何も言わない。絵里は僅かに溜まった涙を拭い、穂乃果の手をゆっくりとだが、確かに握る。
「これで8人」
「いや、ウチを入れて9人や」
ことりの言葉を否定して言った希に疑問の視線を投げかけると
「占いで出てたんや。このグループは九人になった時に未来が開けるって。だから付けたん。9人の歌の女神『μ's』って」
「じゃああの紙は希先輩が?」
希の告白にメンバーが驚いたりしている中、穂乃果は希に聞く。希はふふっと笑う。
「希…全く呆れた…」
絵里はそう呟き立ち上がると、扉に向かって歩き出す。
「どこへ」
海未が絵里に聞くと、絵里は決まってるでしょ、と言って振り返る。
「練習よ」
『やったぁ!』
放課後の校舎に八人の声が木霊した。
夏「さて、今話で絵里と希先輩がμ'sに加わった訳だが」
愛「その前に良いですか?」
夏「どうした?アッキー」
愛「所々で僕達が空気になってる気がするんですけど」
夏「ああその事か。じゃあ簡単に説明するぞ?まず希先輩の『九人で完成〜』的な下りはμ'sメンバーが九人って意味で、俺達サポート班はカウントされてない」
愛「じゃあ最後の『八人の声が〜』の下りはどの八人なんですか?」
夏「それは俺と希先輩、絵里を除いたその場にいた八人だ」
愛「ややこしいですね」
夏「でもこれから動かすキャラが12人になるから、もっとややこしくなると思うぞ」
愛「ですよねー。名無しも書き始めて暫くしてから、最終的に12人も動かす事に気付いたらしいですし」
夏「ま、何とかしてくれるだろ」
愛「ですね。では」
『次回もよろしくお願いします!』