次回からキチンと本編に戻ります!
それと今回は会話文の間の行間を無くしてみました。
~高蓑原~
「若葉~久し振りに屋上で昼飯食おうぜ~」
午前の授業が終わるなり若葉に絡む翔平。若葉も弁当箱を持つと頷きながら屋上へ向かう。
「そういえばさ、去年の今頃だったよな」
「何が?」
「お前が誘拐未遂事件と痴漢を撃退したの」
翔平の言葉に確かに去年の今頃だったな~、とぼんやり思い出す。数日入院した為学校では話が結構広まったのだ。
「あん時詳しく教えて貰えなかったんだけど、今なら話せる?」
「確かに1年経ってるんだからそろそろ規制は外されるかもね」
屋上で弁当を広げながら若葉はのんびりと答える。続く翔平の台詞は長い付き合いなので、ある程度予想できる
「「ならあの日の事聞かせろよ」」
若葉と翔平の声が重なる。それは若葉の予想が当たっている事を意味していた。2人は顔を見合わせ笑う。
「まぁ良いけど。1年前だから大分あやふやだよ?」
「それでも良いからさ。教えてくれよ」
両手を合わせて頼む翔平に苦笑いしながら、若葉は1年前の事件を思い出す。音ノ木では真姫が3人に話した内容の若葉側と、語られなかった誘拐未遂の終わりを…
☆☆☆
「にしても、さっきのは酷かったな。あの子大丈夫かな」
若葉は改札を通りながら呟く。さっき、というのは若葉が高蓑原から帰る電車の中で痴漢騒ぎがあったのだ。被害者の子の双子の兄が痴漢に気付き、若葉の方に逃げた所を押さえた。といった事が先程駅で繰り広げられた逮捕劇だったりする。
双子の苗字は笠垣。名前は兄が颯人で、妹が弓子と言うらしい。
若葉が痴漢を駅員に渡そうとすると兄の颯人がそれを止めた。理由を聞くと警察の方に知り合いがいるらしく、今駅に向かっているそうだ。それからその警察の人が来るまで、若葉は颯人と弓子と話していた。
話していくうちにお互いが同学年で、さらに双子の兄妹と共通点があり、話はかなり盛り上がった。最後にお互いに連絡先を交換して別れた。のだが、若葉の怒りは少々残っていた。
そのイライラをゲームセンターで発散させようか迷っていると、ポケットに入ってる携帯が鳴った。
「もしもし?」
『あ、若葉君?奈津橋だけど』
奈津橋、本名奈津橋薫。若葉の数ある内のバイト先の店長である。
「どうも。今日はどうしたんですか?」
『いや~それが今日バイトの子がイキナリ風邪で寝込んじゃって。この時間は他の人が居なくて、頼める相手が居ないのよ』
若葉は奈津橋の言葉を聞き頭の中でその日の予定を確認する。丁度試験の採点の為、その日は午前授業だったので午後の予定は特に入っていなかった。
「大丈夫ですよ。何時くらいにそっちに行けば良いですか?」
『そうね…今が13時だから…14時までに来てくれれば大丈夫』
「分かりました。では14時までに向かいます」
『いつもありがとうね』
奈津橋はお礼の言葉を言って電話を切る。若葉は携帯をしまうと家に帰り、制服から着替えバイト先に向かう。
「若葉。お昼くらい食べてから行きなさい」
「あ、忘れてた」
「まったく……」
裕美香に止められ、若葉は昼ご飯を食べる為にリビングに行く。
「今日もバイト?」
「うん。奈津橋さんの所」
裕美香の言葉から分かる通り、若葉は夏前辺りから近所の店でその日限りのバイトをし始めたのだ。理由は誰にも話してないらしく、裕美香がそれとなく翔平に聞いても翔平も知らなかった。
この頃はまだそれ程バイトを受け持っていなかった為、裕美香はまた奈津橋さんの所か、と溜息を吐く。
「それじゃあ行って来まーす」
「最近物騒なんだから気を付けなさいね」
「大丈夫。これでもりっちゃんに鍛えられてるんだから」
「だと良いけど」
裕美香の言葉を後ろに若葉はバイト先へと向かう。
☆☆☆
「あ"ー奈津橋さん相変わらず人使い荒すぎ…」
バイトの帰り道、若葉はグッタリしながら暗い夜道を歩いていた。格好は緑のシャツに動きやすいジャージで、男子にしては長い髪を後ろで軽く縛っている。
「明日って確か、りっちゃんの所で手伝いだったっけ。そこでストレス発散しようかな」
なにやら物騒な事を呟く。そんな時遠くの方から少女の声が聞こえた気がした。
「ん?気のせい……じゃないよね」
若葉は気になり声の聞こえた方に向かった。少し道の入り組んだ場所で少女が青年に担がれていた。若葉は状況が分からない為、少し様子を見る事にした。
「取り敢えず身代金でも要求するかな」
青年のその言葉に若葉は確信する。確信すると同時に足を踏み出す。
「気のせいですかね?今身代金って単語が聞こえたんですが」
青年に近寄りながら若葉は青年に聞く。若葉の登場に驚いた青年は息を飲むも、笑顔を浮かべながら
「き、気のせいだよ」
と誤魔化す。若葉もすんなりと白状して貰えると思ってなかった様で1番重要な事を聞きにかかる。
「そうですか。あの一つ良いですか?」
「なんだい?」
若葉は青年の肩を指差すと青年に問いただす。
「肩に担いでいる子、どうしたんですか?」
「…君には関係ないだろ?」
青年はそう言うと少女を担いだまま若葉の横を通り過ぎる。若葉はそんな青年の足に自分の足を引っ掛ける。すると青年は見事にひっくり返る。その事に若葉は少し驚きながらも、青年が手を離した事により空中を舞っている少女を抱き止める。
「君は僕の邪魔をするのかい?僕の復讐の!」
青年が立ち上がりながら声を張り上げる。
「貴方の目的が誘拐なら俺は邪魔をしますよ?もしそう言ったら貴方はどうしますか」
「君には用が無いからね。悪いけど死んでもらうよ」
若葉の言葉に青年はナイフを取り出し、順手で構える。
「それって銃刀法に違反してない?」
若葉は冷や汗を搔きながら言う。そして道路の端の塀にもたれ掛ける様に少女を降ろす。
「動ける様になったらスグにここから逃げるんだよ?そして誰か人を呼んできて。約束だよ」
若葉は少女にそう言い聞かせると、ジャージを脱ぎながら青年の前に立つ。若葉は少女が恐怖で動けないと思っての発言だったのだが、局部麻酔を打たれた事を知らないから当然ではある。
「お別れはもう良いのかい?」
「お別れにするつもりはないから大丈夫ですよ」
「そうかい。じゃあ……死ね!」
青年が若葉に向かって駆ける。若葉は脱いだジャージを青年に向かって投げる。目的は相手の目眩まし。
目的は成功した様で、青年の動きが一瞬止まる。その隙を突いて相手の鳩尾に
「ぐっ……!」
青年は数歩下がり鳩尾を押さえる。若葉は掌底を当てた体勢から動かない。
「だからナイフ相手は嫌なんだよね」
若葉はボソリと呟き右の
「お兄さんを甘く見ちゃダメなんだぜ?」
「どうやらそうみたいだね」
汗を拭いながら笑う青年の言葉に、若葉は何やら覚悟した表情で右手を握りながら答える。
「全く早く帰りたいのに。だから」
「こっちもあまり余裕が無いんでね。だから」
「「これで決める!」」
お互いがお互いにそう宣言すると同時に駆け出す。青年はナイフを手に、若葉は己の拳を握り、相手に肉薄する。
そして
☆☆☆
「脇腹を刺されながらも相手を投げた。と」
「そうだよ」
ほら、と若葉は右掌と脇腹を見せる。確かにそこには刀傷があった。傷と言っても右掌の方はそこが傷だと言われなければ気付かないレベルだ。
翔平は苦笑いして傷から目を逸らす。
「で、その時助けた子の名前とかは未だに思い出せないのか?」
「そうなんだよね〜。抱き止めた時は周りもそれなりに暗かったし、誘拐犯を投げた後確認する間も無く意識失ったし」
若葉は屋上に寝転がり、溜息を吐く。
「でもお見舞いとかに来てくれたんじゃねぇの?」
「来てくれたらしいんだよね」
「らしいって、お前は会ってないのかよ」
若葉の言葉に呆れた顔で聞く翔平。
「だってその時まだ気を失ってたんだからしょうがないじゃん?」
「お前が目覚めた後とかに来なかったのか?」
「来なかったよ」
「なんつーか薄情な奴だな」
若葉の隣に寝転がりながら翔平がぼやく。そんな翔平がおかしいのか若葉は笑う。
「別にお礼が欲しくてした訳じゃないしね〜」
ノンビリとしながら若葉は空を見ながら呟く。
翔平もなんだそりゃ、と言いながらボンヤリと空を見る。
「そういや犯行の動機は何だったんだ?」
「良くあるタイプだよ」
「良くある?」
若葉の言葉に首を捻る翔平。若葉は肩を竦めて続けた。
「犯人の子供が病院から帰る時に事故ってね」
「それって…」
「そうだよ。逆恨みにもなりゃしない、ただの八つ当たりみたいなものだよ」
若葉はそう言うと、屋上に寝転がり、深く息を吐いた。
若「メリークリスマース」
夏「作者はボッチだけどな」
愛「まぁこの日のこの時間に投稿した時点で、読者の皆さんも気付いてると思いますよ」
夏「今回は前回の話の若葉sideだな」
愛「最初の方に出てきた笠垣兄妹って誰なんですか?」
若「作者のもう一つの作品の主人公だよ」
夏「さり気ない宣伝乙」
愛「そんな事より、若葉先輩って柔道とかもやってるんですね」
若「空手をやってる知り合いが居てね。その人の練習に週一、二で付き合ってるよ」
夏「それでも刃物相手にすんのは危な過ぎだろ」
若「うん。りっちゃんにその事言ったら殴られたよ」
愛「ですよねー」
夏「つか、そのりっちゃんって誰?」
若「あー……その内出てくるよ!きっと」
夏「きっとかよ…」
愛「おっとそろそろお時間ですね」
若「次回のアニライブ!をお楽しみに!」
夏「誤字脱字、感想、批判、アドバイス等を待ってるぜ!」