まぁ、改めて畏るのもあれなので半年振りの本編どうぞ。
内容忘れた? 前々話を読み直しましょう(ニッコリ)
そして今日は私のもう一つの作品「巻き込まれた図書委員」が完結して一年ちょうどが経ちました。
全ての準備を済ませた若葉は、受け付けで夏希を拾うとそのまま教室へと戻る。
「こっちは順調だったけど、そっちはどうよ」
「一応完成はしてるよ。あとは穂乃果のチェック待ち」
「てことは何事もなく進んでるわけだ。良きかな良きかな」
二人が雑談しながら教室に入ると各々自分の席に着く。席に着くや否や穂乃果と海未、ことりの三人が席に近付いてくる。
「お兄ちゃん出来た?」
「ほい。取り敢えずチェックお願い」
若葉はパソコンを取り出し、穂乃果に画面を向け動画を再生する。ことりと海未も穂乃果の横から画面を覗き込み、感嘆の声を上げる。
「あの、若葉。これらの写真はいったいどこから?」
「うん? 伝手だよ」
「あ、やっぱり?」
画面から目を放した海未とことりはあはは、と慣れた笑い声を出す。そして動画を見終わった穂乃果は、パソコンを若葉に返しながら気になった事を聞いた。
「そういえばお兄ちゃん。どうしてその髪型なの?」
「髪型?」
穂乃果に言われ差し出された鏡を覗き込んだ若葉が見た物は、妹の穂乃果の顔だった。きょとんとしていると、目の前の穂乃果もきょとんとする。
若葉の様子に思わず吹き出す夏希。そんな夏希を勢いよく振り向き睨む若葉。夏希は慌てて手を横に振って弁解をする。
「言っとくが俺じゃねえからな? やるチャンスなかったし、仮にやろうとしてもお前なら絶対反応するだろ」
「……そりゃそうだけど、なら犯人は誰なのさ?」
「知らん。ただ俺と合流する前からそれだったぞ」
若葉は夏希から鏡に映る、穂乃果と同じサイドポニーの髪型をした自分の姿を見る。そしていきなり右手をピースにすると右目へもっていき笑顔を浮かべる。その行動は見ていた者の不意を突き、声を上げて笑う。
「さて、おふざけもこれくらいにして。はいヒデコ、これ返すよ」
若葉は髪を留めていたリボンを外すと、笑っている内の一人のヒデコに渡す。
「あ、分かった?」
「まぁね。大方体育館でやったんでしょ?」
「せいか~い」
笑って答えるヒデコに若葉が何か言おうと口を開くと、そのタイミングで姫子が教室の扉を開け入って来た。
「お~い、そろそろ体育館に移動する時間だぞ~。すでに卒業生の保護者さん達がいるから、整列して静かに速やかに着席するように」
姫子はそれだけ言うと再び廊下に出ていった。それを合図にクラスで談笑をしていた生徒は体育館への移動を始める。
そして在校生が体育館に設けられた椅子に座ると、時間をおいて卒業生が入場する。館内が在校生と保護者からの拍手で鳴り響く。
それから理事長挨拶や卒業証書授与が恙なく執り行われ、送辞の番となった。
若葉達は既に各自の場所へと移動を済ませ、穂乃果は名前を呼ばれたタイミングで立ち上がり壇上に登るとマイクの前で一礼する。
『送辞。在校生代表、高坂穂乃果。
先輩方、ご卒業おめでとうございます。実は昨日まで、ここで何を話そうかずっと悩んでいました。どうしても今思っている気持ちや、届けたい感謝の気持ちが言葉にならなくて、何度書き直してもうまく書けなくて……それで気付きました。私そういうのが苦手だったんだって。
子供の頃から、言葉よりも先に行動しちゃう方で、時々周りに迷惑かけたりして、自分を上手く表現するのが本当に苦手で、不器用で。
でもそんな時、私は歌と出会いました。歌は気持ちを素直に伝えられます。歌う事で皆と同じ気持ちになれます。歌う事で心が通じ合えます。私はそんな歌が大好きです。歌う事が大好きです!
先輩、皆様方に感謝とご活躍を心からお祈りし、これを贈ります』
穂乃果が言い終わると同時に壇上を照らしていたライトは絞られる。そして壇上に設けられたグランドピアノにもライトが当たる。そちらを見ると、真姫が一礼した後ピアノの前に座る。穂乃果は真姫と、その向こうにいる若葉に微笑みかける。二人はそれに答えるかのように同時に頷き返す。
一瞬の静寂からの真姫の伴奏。それに合わせて歌い始める穂乃果。その後ろには卒業生の三年間の思い出の詰まったスライドショーが音楽に合わせ映し出される。
穂乃果の歌っている曲『愛してるバンザイ!』。それは真姫が入学してから「µ’s」に入るまでの間、放課後によく一人で弾いて歌っていた曲。一度は聞いたことのある旋律に思わず涙を浮かべる卒業生。しかし穂乃果のサプライズはこれだけではなかった。
穂乃果が「さぁっ!」と掛け声をかけると、二年生の席から海未とことり、二人の歌声が上がる。二人が歌いだすと同時に同じように二人にもライトが当たる。さらにパートの変わるタイミングで今度は一年生の席から凛と花陽が歌いだす。こちらも寸々違わないタイミングでライトが上がる。
『さぁ! 皆も一緒に!』
それに続いた穂乃果の掛け声に在校生だけでなく、式に参加している教員、保護者の全員も歌いだす。そのサプライズに涙を流す卒業生、必死に我慢する卒業生、驚きで固まる卒業生。様々な反応を示す卒業生だが、歌が終わる頃には皆が自然と拍手をしていた。
こうして卒業式は終わりを迎え、アイドル研究部の面々は部室に集まっていた。
「棚の荷物が殆どなくなってるってことは、ここにあったの殆どにこさんの物だったんですね」
「そうよ? 来年からは次の部長が資料として持ってくること。分かってる?」
愛生人がほぼ空になった棚を見て呆れたようににこに言うと、にこは腰に手を当て返す。その一言にそう言えば、と愛生人は思った事を口にする。
「次の部長って誰なんですか?」
「何言ってるの。そんなの決まってるでしょ」
愛生人の言葉ににこは呆れながら腰に手を当て、とある人物に向き直る。
「花陽、頼んだわよ」
「……えぇー!!?」
にこに指名された花陽は驚きで叫ぶ。その声を聞いて、隣の部屋にいた二年生組が顔を出す。
「どうしたの?」
「何か出たか?」
「アレなら若葉と夏希が処理しますよ」
「任せて!」
「は〜い、花陽ちゃんはこっちの部屋ね〜」
穂乃果、夏希、海未、若葉がボケるもスルーされ、花陽はことりに連れられ四人の横を通り、部室の隣の部屋へ移動する。
花陽が止まった途端、頭と首元に違和感を覚え手を当てる。そこには王冠と赤いマントが着けられていた。そして黒板に『部長就任おめでとう!』と書かれているのを見てさらに驚く。
「今の二人の動き、さすが双子って感じだったな」
「一糸乱れぬ動きでしたね」
驚いている花陽をよそに、夏希と海未は若葉と穂乃果の手際の良さと息の合いように感心していた。
「な、なんで私が?」
「さすがに生徒会の役員に兼任させるわけにはいかないでしょ」
「それに兼任はダメらしいしね」
「凛もリーダーやったんだから、一緒に頑張ろ!」
花陽の疑問ににこ、若葉、凛の三人からそれぞれ回答をもらい、少しばかり唸ったあと頷く。
「それじゃあ真姫ちゃん。副部長よろしくね」
「なんで私が!? ……別になってもいいけど!」
「それじゃあ補佐も愛生人に引き継ぐか?」
「いやいや、それは手伝ってくださいよ」
真姫が照れながら了承するのを見た夏希が冗談交じりで愛生人に言う。愛生人はその言葉に首を横に振って断る。
それから全員が隣の教室に移り、新部長就任パーティーが開かれた。
「それにしても穂乃果の送辞には驚かせられたわ」
「やった! サプライズは成功だね!」
「それにしてもあのライト、上手くいって良かったですね」
「まったくだぜ。練習してる時間なかったから、失敗したらってヒヤッとしたな」
「あれを一回で成功させるあんた達はなんなのよ」
部室内の椅子にいつも通りの席順で座り思い思いの話をする。そして話が一段落すると、絵里と希、にこが立ち上がる。
「さて、それじゃあ私達は学校を見て回ってくるわね」
「え、それなら一緒にいくよ。その……もうこれで最後なんだし」
穂乃果が絵里を呼び止めてどこか恥ずかしそうに言うと、部室内が静かになる。突然静かになった事で不安になった穂乃果は真っ先に頼りになる若葉を見る。若葉は苦笑いを浮かべ、とある効果音を口にする。
「デデーン」
「ほのっち、アウト—」
若葉と夏希の息の合った連携に穂乃果はがっくりと項垂れる。そんな穂乃果に優しく肩に手を置く愛生人。
「それじゃあ穂乃果さん。約束通り皆にジュース一本ずつ奢りですね」
「うぅ……分かってるよ~」
「自分で言った罰ゲームを受けるなんてね」
真姫が呆れたように言うも、真姫の言う通り「卒業式の日に「最後」と言ったメンバーが他の部員にジュースを奢る」といった約束事を提案したのは穂乃果なのだ。
「これが言い出しっぺの法則だにゃ~!」
「ごちそうさま〜」
凛が楽しそうに両手を上げ、絵里もノリノリで穂乃果の背中を押す。部室から出て行く三人の後を他のメンバーも追いかけて自動販売機に向かい、各々飲みたい物を買うと中庭のベンチに座り始める。
そして小休憩を済ませると今度は講堂に場所を移す。
「久し振りの講堂だね。やっぱり広……くない?」
「それは私達が成長したということでしょう」
「ま、大舞台を経験したってのもあると思うけどな」
穂乃果が講堂のステージに立ち、改めて講堂の大きさを確認するも、大きさに違和感を持ち首を傾げるも、海未の言葉に納得がいく。
それからアルパカ小屋やグラウンドなど、校内の思い出深いところを次々と回っていく。そして
「ま、俺らって言ったらここだよな」
「ですね。教室の次に長くいた場所ですし」
「思えば、練習場所がなくて、ここで始めたんでしたね」
「毎日ここに集まって」
「毎日練習した」
「できないことを皆で克服して」
「ふざけたり笑ったり」
「そういうのは全部ここだったね」
愛生人と夏希は屋上を見渡して思い出に浸る。それに続くように他の皆も思い出話を始める。その時、穂乃果が突然手を叩く。
「そうだ!ちょっと待ってて!」
そう言うと穂乃果は屋上から出ていくと、しばらくして水の入ったバケツとモップを持って戻って来る。そしてモップを水に浸すと、屋上に「μ's」と書く。
「でも、この天気だとすぐ乾いちゃうわよ」
「それでいいんだよ」
「え?」
「それで……」
真姫の指摘に穂乃果はしみじみと返す。屋上にいる全員は「μ's」の文字を囲うように立つと、一斉に頭を下げる。
『ありがとうございました!』
打ち合わせをしていなくても皆の口から出た言葉は一緒だった。それから一人、また一人と頭を上げるとそのまま屋上を後にしていく。そして穂乃果以外の全員が屋上から去ったあと、穂乃果はもう一度屋上を振り返る。そこで思い出したのは最初に穂乃果、海未、ことり、若葉、夏希の五人で屋上を訪れた時のことだった。
『ここしかないようですね』
『日陰もないし、雨が降ったら使えないけど、贅沢は言ってられないよね』
『ま、雨の日は校内が使えるだろ』
『でもここなら音も気にしなくてすみそうだね』
『ねぇ、ことりちゃん、海未ちゃん、夏希君、お兄ちゃん。やり遂げようね、最後まで」
「……やり遂げたよ。最後まで」
過去の自分達に答えるように穂乃果は力強く返事をする。そして階下から自分を呼んでいる皆の元へと駆け出す。
こうしてのちに"伝説"とまで呼ばれるようになった九人の女神と三人の少年たちの物語は幕を閉じた。
全てはその一言から始まった。
「あなたが幽霊を見ることができるって聞いたけど、それは本当なの?」
いつも通りに過ごしていた俺の日常を壊した彼女。
「ア、アはハははハ!!」
夜中に道でバッタリと出くわしてしまった通り魔。
「ドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥドゥエ」
奇声を上げながら学校の廊下を駆け回る半透明の存在。
「そんなに生き急ぐのならば、今ここでぬしの生命の灯し火を消してやろう」
「お姉ちゃんは誰?」
「私と結構してくれる?」
「助っ人に来たよ」
「ボクと一戦やるかい?」
個性豊かな仲間達!
今ついに、物語のフタが開かれる。
「助けて! 千景ぇぇぇぇ!!」
「俺たちの戦いはこれからだ!」
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来いよ。銃なんて捨ててかかって来やがれ