※本編とは一切関係ありません。
とあるホテルのロビー。そこには二人の少女が立っていた。
「ほぇ~、ここが秋葉原かぁ~」
「千歌ちゃん、勝手に動くと迷子になるよ?」
オレンジの髪の一部を黄色のリボンで結った少女、高海千歌に隣で立っている紫がかった長髪の少女、桜内梨子が宥めるように言う。しかし千歌は振り返ると梨子に向かって言う。
「でも梨子ちゃん。私たち以外の皆はどっかに行っちゃったよ?」
「え? ……え!?」
千歌の言葉に慌てて辺りを見渡すも、そこには長期休暇を利用して静岡から一緒にやって来ていた七人の少女たちの姿はなかった。
「い、いつの間に……」
「えっと、着いた途端にルビィちゃんがアイドルショップに行くって言いだしたから、それにダイヤちゃんとマルちゃんが着いて行って、曜ちゃんがレンタルコスプレ店に水兵服見つけて行っちゃったのを見て楽しそうって鞠莉ちゃんが果南ちゃんを引っ張って行っちゃったよ?」
「善子ちゃんは……?」
「……さぁ?」
唯一名前を呼ばれなかった善子こと津島善子について聞くと、千歌は首を傾げて答える。その様子に思わずため息の出る梨子。
「で、でも何かあれば皆携帯持ってるんだし、連絡来るって」
梨子の様子に千歌は慌てたように手を振って言うも、梨子の不安は取り除かれない。千歌は苦笑いを浮かべながら、そんな梨子に声をかける。
「と、取り敢えず私たちもいつまでもここにいないで、どこかに行かない?」
「……そうね。それで千歌ちゃんはどこに行きたいの?」
「えっとね、「穂むら」って和菓子屋に行ってみたいなぁって。でも道分からないんだよね~」
ホテルから出ながらどこに行くのか話し合う二人。そして二人が外に出ると、梨子は人混みの中に見覚えのある人物を見付ける。
「あれってもしかして……」
千歌と梨子の二人がホテルを出る少し前。
赤い長髪を背中でまとめている少年、片丘
携帯を開き時間を確認すると、遠くの方から見覚えのある水髪の少年、佐渡
「夏希さん遅いですよ~」
「スマン。少し野暮用で遅れた」
「まぁ別に良いですけど、若葉さんに怒られても知りませんよ?」
夏希はその様子を想像するとやや苦笑いを浮かべて歩き出す。愛生人も置いて行かれないように隣を歩き出す。
「それにしてもアッキーよ。りっちゃんはどうしたよ? 今日は別行動なのか?」
「今日は花陽ちゃんと出掛けた後「穂むら」に来るって言ってましたよ。夏希さんこそツバサさんは良いんですか?」
「ツバサは今日はレッスンだって言ってたぜ?」
「あの!」
二人がそんな事を話していると、突然後ろから声をかけられる。二人が振り向くとそこには二人の少女がいた。
「片丘君、だよね?」
「あれ? 桜内さん?」
二人に声をかけた少女、梨子は相手が愛生人と分かるや否や、ホッと息を吐いて近寄る。
「アッキー知り合いか?」
「はい。桜内さんは去年のクラスメイトです。年度末に静岡に引っ越したんですよ」
愛生人が夏希に説明すると梨子はペコリとお辞儀する。その後ろを慌てて着いて来ていた千歌も状況は分かってないものの、梨子につられてお辞儀をする。
「初めまして佐渡先輩。去年学校で何回か見かけましたけど、こうして話すのは初めてですね」
「ん? あぁそうだな。て言うか、俺の事知ってんのな」
「当たり前ですよ。音ノ木坂に来た男子生徒なんですから」
愛生人と千歌は話で盛り上がってる二人を傍目に、お互い自己紹介し始める。
「えっと、初めまして音ノ木坂学院二年の片丘愛生人です」
「あ、私は高海千歌です。えと、浦の星女学院の二年生です」
「同級生なんだね。それじゃあ堅苦しいのは抜きにして」
「うん! よろしく!」
千歌と愛生人は握手を交わすと「穂むら」に向かって歩き出した夏希達の後を追いかける。
場所は変わって愛生人達が離れた数分後の秋葉原駅。長い黒髪の一部を後頭部でリボンで結った少女が、隣を歩く少女に疑いの視線を送る。
「ねぇ遥。本当に古書セールやってるのよね?」
「友実。それ何回目の質問よ? 私が今まで嘘ついたことある?」
「……列挙してみようか?」
「ごめんなさい」
遥こと三条
二人がわざわざ電車を乗り継いで大学の寮から離れた地元の秋葉原に来たのは、遥が古書セールの話を友実にしたからなのだ。さすがの友実も本の為なら、と腰を上げ今に至る。
「ほら遥行くわよ」
「はいはい」
二人は古書セールの行われる本屋を目指して歩きだす。
「そういえば夏休みに入ってからにこ達に会ってないね」
「そりゃあ、夏休みの間寮と買い物以外出掛けてなかったら会わないでしょ」
「せやね。ウチらも用もないのに大学行きたくないし」
「アルバイトとかのことも考えるとね」
友実の呟きに三つの声が返ってくる。友実がそちらを向くとかつてのクラスメイトで同じ大学に通っている、にこ、絵里、希の三人が友実の休日の生活に呆れたように立っていた。
「あら、矢澤さんに絢瀬さん、東條さんこんにちは。それでは私と三条さんはこれから用事があるので失礼させて頂きますね。それではごきげぇ!」
友実が早口でそう言い、遥の腕を引いて足早にその場を立ち去ろうとすると、にこが襟を掴んで止める。
「ちょっとにこ。いくら何でもこの止め方はないんじゃないかな!」
「いや、今のは普通に友実が悪いでしょ」
「そうよ。仮面を付けてまで私達と話したくないの?」
にこの言葉に友実は喉を摩りながらそうじゃないけど、と返す。
「だったらほら、久しぶりに会ったんだから行くわよ」
「行くってどこに?」
「そんなのアイドルショップに決まっとるやん?」
「いーやーだー! 私はこれから本屋にいくのー!」
友実は周りに迷惑が掛からない範囲で駄々を捏ねるも、見かねた遥と絵里に引っ張られてアイドルショップに行くことになった。
「遥、こうなる事知ってたでしょ」
「まぁね、三人を呼んだの私だし」
「呪ってやるぅ~」
「はいはい、人を呪わば穴二つ」
友実が恨めし気に言うも遥は気にする様子もなくそれを流す。
「まったく。あんたも義姉ならちょっとは穂乃果達の事気にしなさいよね」
「えー、だって穂乃果達なら上手くやれてるでしょ」
友実は引き摺られながらも抵抗しようとするも、あまり本気で抵抗していないのかされるがままにされてる。
そして辿り着いたアイドルショップで友実は妹の
「あんた、なんで妹の買ってるのよ」
「え? 普通買うよね、絵里?」
「え、えぇそうじゃないかしら」
友実は隣で亜里沙のブロマイドを手に持っている絵里に聞くと、絵里はサッとそれを背中に隠して適当に相槌を打つ。
「あんた達……」
「まぁ二人とも妹の事大事にしてるからね~」
「大事にされてるんやな~」
そんな二人を見て遥と希はやれやれ、と首を振る。
「あ、見て見て。絵里達がμ'sの頃の写真があるで」
友実が話を逸らそうと、隣に置いてある絵里のブロマイドに手を伸ばすと、他の人の伸ばされた手とぶつかった。
「あ、すいません」
「こ、こちらこそ!」
友実が謝ると、相手もすごい勢いで頭を下げる。その様子を呆気に取られたように相手を見る。短い赤い髪をツインテールにした少女を見た友実は一言
「真姫……?」
「ふぇ?」
「あ、いや、その、知り合いに似ていたので。すいませんでした」
友実はそう謝ると後ろにいるにこにそっと耳打ちする。
「ちょっとにこ。いつの間に真姫とのクローン作ったの? いくら好きだからってまずいんじゃない?」
「それどういう事よ」
「だってあの子、にこと真姫を足した容姿してるのよ?」
友実とにこが先程の少女を見ると、ちょうど遥に絡まれていた。
「いや~それにしても君、本当ににこと真姫に似てるね~」
「え? ええ!?」
「ほら遥、困ってるから」
「あの、妹に何かご用ですか?」
「あ、お姉ちゃん」
友実が遥を止めに入ると、少女の後ろから長い黒髪に口元の
「いえ、ウチの連れがご迷惑おかけしました」
「ほら友実、遥。サッサと行くわよ」
「ダイヤさんにルビィちゃん。マルはそろそろ本屋に行きたいずら」
「「って、えぇ!?」」
にこが友実と遥を、薄い茶髪の少女がダイヤとルビィと呼ばれた少女のもとへ歩み寄ると、ルビィが大きな声を上げる。突然の事にその場にいた全員がビクリと体を震わせる。
「る、ルビィちゃんにダイヤさん。いきなり声を上げてどうしたのずら?」
「あ、あの、取り敢えず場所を移動しませんか?」
絵里が周りを見渡して提案する。その言葉に七人も見渡すと店内の何人かに見られていた。
「そうですわね」
「って言ってもどこに行く?」
「だったら久し振りに「穂むら」行かない? 友実も実家に顔出せるし」
「そうやね。カードもそう言っとるし」
希がタロットを取り出し遥に賛成する。そして八人は自己紹介をしながら「穂むら」に向かって歩き出す。
「ねぇ国木田さん。今古書セールやってるらしいんだけど、行かない?」
「本当ですか! 行きたいずら!」
「てなわけで私と国木田さんはぬげっ!」
シュタっと片手を上げて集団から抜けようとした友実を、にこが襟を掴んで無理やり止める。その隣では国木田さんこと国木田花丸がダイヤに叱られていた。
「だって! そもそも私がこっちに戻って来たのだって古書セールが目当てだし!」
「分かった分かった。分かったから取り敢えず仮面でも被って大人しくしてて」
「それじゃああなた達は静岡から来たのね」
「は、はい! 夏休みなので皆で旅行に行こうってなって、それならって事でμ'sやA-RISEの皆さんのいる秋葉原に行こうって」
「でもμ's本人に会えるなんて、ルビィちゃん達ラッキーだったね」
「はい! 嬉し過ぎです!」
友実が流され、花丸が怒られてるのを無視して絵里、希、遥、ルビィの四人は世間話をしながら「穂むら」に向かう。
現在合計十二人が目指している「穂むら」。その店内は何やら騒がしかった。
「海未ちゃんどうしよう! お兄ちゃんが帰って来ないよ!」
「落ち着くのです。若葉だって買い出し先からの道で迷うはずがないでしょう」
「でも現に買い出しに行ってからもう一時間近く経つわよ?」
店内では一時間前に買い出しにいった穂乃果の双子の兄、高坂
「それにもう少ししたら絵里ちゃん達も来るんでしょ? 久し振りの集まりなのにお兄ちゃんがいなかったら全員集合にならないよ!」
「心配するポイントが少しズレてるわよ。でもどこまで行ったのかしら。携帯も家に置いて行ってるし」
「若葉の事です、きっとアルバイト先の知り合いと話し込んでるんじゃないですか?」
「だといいんだけど」
海未の言葉に真姫がため息を吐いてもう一度窓の外を見る。
その頃、件の若葉は穂乃果と真姫の心配した通り迷子になっていた。それも一人ではなく二人で。
「いや~それにしてもまさか地元で迷子になるなんてね。よし……ヨハネも旅行先で迷子になるなんて大変だね」
「その迷子の原因の殆どがあなたじゃない!」
「それは聞き捨てならないよ。よ……ハネ。会った時から既に君は迷子だったじゃん」
若葉はそう言って隣を歩く青い髪を右側頭部でお団子にしている少女、津島善子を見る。
実は若葉が買い出しに行った先で善子が迷子になっており、また買い出し先が若葉のバイト先だったことも相まって、目的地までの案内を任されたのだ。
「それで津島さんはどこに行きたいの?」
「ふふふ、ヨハネは自由な堕天使なの」
「ヨハネ……? 善子じゃなくて?」
「ヨハネ! 善子じゃなくて!」
善子の必死に言い直させる様子に、若葉はやや引き攣った笑みを浮かべ頷く。それから助けを求めるべく店長に目線を送るも、その目が合う事はなかった。
「えーとそれじゃあ津島さん行こっか」
「い、一体どこに連れて行く気!?」
「いや、取り敢えずウチに連れて行くよ。家には穂乃果とか、あぁ妹ね、がいるし、もし友達とかと来てるなら愛生人が力になれると思うから」
そう言って善子の手を握って店を出る。それから少しして手を握られたことに気付いた善子が顔を赤くして手を放し、走って離れた為若葉も慌てて追い掛け、迷子になったのである。
「え~と、こっちに行けば確か知ってる道に出れたはず」
「ちょ、ちょっとま、きゃあ!」
「津島さん!?」
若葉は後ろから聞こえた善子の悲鳴に振り返る。振り帰った若葉は地面に尻餅をついている善子を見て首を捻る。
「大丈夫?」
「え、えぇ」
伸ばされた手を掴んで起き上がる善子。それから服に着いた汚れを払い歩き出す。
「それにしても何もない所で転ぶなんてね」
「ヨハネは堕天使だから仕方ないの!」
「あ、はい」
善子が胸を張って言うと、その後ろから猫が飛ぶのが若葉から見えた。若葉が何か言う前に猫が善子の背中にぶつかる。
「にぎゃ!」
「っと、大丈夫?」
猫にぶつかられ自分の方に倒れてきた善子を受け止める。受け止められた善子は一瞬の間の後に顔を赤くすると、バッと離れると後ろに転がっていた缶を踏んで後ろに倒れ、そのまま気を失った。
若葉は黙ってそれを見ている事しかできず、気を失った善子の元へ寄ると、安否を確認した後ゆっくりと背負う。
「え~っと、このままだと通報されかねないんだよね」
「あれ? 若葉君だにゃ」
「こんな所で何してって、背中の子は誰!? まさかユウカイシチャッタノォ!?」
若葉が通りに出たタイミングで若葉は凛と花陽に声をかけられる。しかし若葉が善子の事を説明する前に、花陽が顔に手を当て顔色を悪くする。
「違う違う! ちょっと色々あってこの子を「穂むら」に連れて行こうかなって」
「それ、どう聞いても誘拐にゃ」
「取り敢えずここで騒いでたら迷惑だから、「穂むら」に行く?」
花陽の提案に三人は「穂むら」を目指して歩き出す。
「て言うか、若葉君はあんな所で何してたの?」
「買い出しに行って色々あってね」
「「あっ……」」
一方、レンタルコスプレ店お堪能した曜と果南、鞠莉の三人はショッピングと言って近くの洋服店に入って行った。そこで目にしたのはトサカがの髪をした少女、ことりだった。
「ねぇ、あの人、チカの言ってたμ'sのことりちゃんに似てない?」
「What? 何言ってるの曜。もし本人だとしたらとってもPopularなSchool Idolなんでしょ? 変装とかするんじゃない?」
「確かに言われてみれば」
「あのー」
三人がことりから目を離し、洋服を見ながら話していると、不意に後ろから声をかけられる。振り返ると手に袋を持って困ったように笑うことりが立っていた。
「え~っと、初めまして、ですよね?」
「な、何でしょうか」
「その、名前を呼ばれた気がしたので……」
頬を掻きながら言うと、曜、果南、鞠莉の三人は顔を見合わせた後再びことりを見て揃って口を開く。
『本物!?』
「あ、あははは。取り敢えずお店に迷惑が掛かりそうだから、いったんお店から出ませんか?」
ことりが三人に提案した後、店を出てから改めてお互いに自己紹介をする。その後、少し話した後ことりが行く予定だった「穂むら」へと向かう四人。
そして総勢二十名が「穂むら」を目指し始めて約一時間後。全員がほぼ同時に「穂むら」に着く。
「って、若。お前誘拐はどうかと思うぞ?」
「若葉。後でお仕置きね」
「なんでりっちゃんも一緒にやってるのさ」
「って善子ちゃん!? どうしたの!」
「ルビィ! 危険だから離れなさい」
「若葉、誘拐ってどういう事!」
「Wao! 善子誘拐されたの!?」
「誘拐されたのはYouかい? なんてね。あ、今のは誘拐とYouかいをかけた」
「千歌ちゃん説明しなくて良いから」
「あー! アキ君その子誰にゃ!」
「だぁー! 人の家の前で騒がない!!」
「んゅ?」
若葉が叫ぶと一斉に静かになる。次の瞬間、「穂むら」の扉が開く。
「ちょっとさっきから煩い……若葉? 説明してもらえるかしら?」
「い、イエスマム」
「穂むら」から出てきた真姫が善子を背負っている若葉を見た途端、額に青筋を浮かべて笑いかける。その威圧感に若葉は頷くしかなかった。
「あのさ。説明もいいけど、この人数「穂むら」に入りきるの?」
「う~んこの人数はちょっと厳しい、かな?」
冷や汗を流してる若葉をよそに、遥が一緒に出てきた穂乃果に聞くも、穂乃果は首を横に振る。
「あ、それなら学校とかどう? 屋上にシートとか敷けばこの人数でも座れるし」
「それいいな」
「良いですね!」
その様子を見た花陽が手を合わせて提案をする。その提案に真っ先に乗ったのは夏希と梨子だった。
「え! 今から音ノ木坂に行けるの!?」
「Great! それは良いわね!」
「私、音ノ木坂に行ってみたかったんだよね」
「オラも東野さんが過ごした図書室に行ってみたいずら!」
他のAqoursのメンバーも賛成するように頷く。それから音ノ木坂に着くまでの間、若葉は真姫に善子を背負う事になった経緯を話し、他のメンバーは親睦を深めていた。
「それにしても若葉君も罪作りな男だよね~」
「と、言うと?」
「だってさ、買い出しに行った先で迷子を拾って、その後一緒に迷子になって、その子が気絶してお持ち帰りでしょ?」
「言い方があれだけど、あながち間違ってないのが不思議だよな」
若葉に聞こえない距離で遥と友実が話してると、夏希が話しに入って来る。
「夏希君は千歌ちゃんの相手良いの?」
「あー、千歌っちはほのっちと話してるから問題ない」
「あの、佐渡さん。少しよろしいでしょうか」
夏希が二人と話していると、ダイヤが夏希に話しかける。夏希は振り返り、ダイヤと話し始める。
「それで、え~っと。ダーさんは俺に一体……?」
「それです! その「ダーさん」はやめて下さいと何度も」
「諦めた方が良いですよ。私もとうに諦めました」
「うーみんもさり気にヒデェのな」
海未が諦めたように言うと、ダイヤも何かを察したのか、呼び方については何も言わなくなった。
「梨子ちゃん久し振りだね!」
「うん。相変わらず凛ちゃんは元気そうだね」
一方、後ろの方では凛と梨子、愛生人の三人が思い出話に花を咲かせていた。お互い離れてまだ数カ月にも関わらず、話したい事がたくさんあるようだ。
「新しい学校はどう?」
「千歌ちゃん達のおかげで楽しいよ」
「そっか。それは良かったよ」
梨子が楽しそうに笑って言うと、凛と愛生人も嬉しそうに笑って返す。それから二人は談笑を続けた。その後ろでは
「それでね! あそこの地方のスクールアイドルが!」
「あ、分かります分かります! あそこのグループって歌やダンスだけじゃなくてMCも面白いんですよね!」
「あはは。何を言ってるのか分からないずら」
花陽とルビィの会話に着いて行けず、花丸は苦笑いでそれを見つめつつ、後ろで質問攻めをした後、若葉に頭を撫でられ懐柔されている真姫の様子に再び苦笑いを漏らした。
「そう言えば千歌ちゃんはどうしてスクールアイドルを始めようと思ったの?」
「そ、それはその……」
「それはね、穂乃果さん。千歌っちはμ'sにlongingして始めたのよ」
「ロ、ロン……?」
恥ずかしがって答えられない千歌の代わりに鞠莉が答えると、大事な部分が流暢な英語だった為、上手く聞き取れず首を傾げる穂乃果。
「へぇ~千歌っちそうなんや~」
一方、鞠莉の隣を歩いている希は意味が分かったらしく、嬉しそうに笑う。千歌は顔を赤くしてあわあわと手を振って、止めようとする。希はそれを見て楽しそうに笑う。
「ん?」
「どうしたの? 穂乃果ちゃん」
「ん、ううん。別になんでもないよ」
一人の青年と二人の少女と擦れ違った時、穂乃果はその三人をじっと見つめていた。青年の手には青い薔薇、少女達の手にはそれぞれ赤と黄色の薔薇が握られていた。穂乃果は果南に声をかけられると、首を振って返し、歓談に戻った。
「さ、着いたよ。ここが音ノ木坂学院だよ!」
「お~久し振りに見たな~」
音ノ木坂学院に着くと、遥は振り返り両手を広げてAqoursのメンバーに紹介する。
「へぇ~ここが穂乃果ちゃん達が通ってて梨子ちゃんが通ってた学校かぁ!」
「懐かしいなぁ」
「ん? 何か聞こえない?」
曜が耳に手を当て言うと、他の皆も耳を澄ます。すると屋上からかすかに音楽が聞こえてくる。
「誰か練習してるの?」
「今だとゆかりん達かな」
友実が屋上を見上げながら呟くと、隣に立っている夏希が答える。友実はそれを聞いて少し驚いたような、嬉しそうな表情を浮かべ、そそくさと校舎の中に入って行く。それに続いて音ノ木坂にテンションを上げた千歌と曜を先頭に梨子以外のAqoursのメンバーが中に入る。μ'sのメンバーや若葉達は、バラバラになったAqoursのメンバーに連れ添って案内を始める。
「さて、友実は放っておいてマルちゃん。私は図書室行くけど、どうする?」
「図書室!? 行くずら!」
友実と穂乃果、千歌の三人が屋上に向かったのを見ると、遥が花丸を図書室へ誘うと目を輝かせて頷く。二人だけだと心配だから、と希も二人に着いて行く。
にこと花陽、凛に愛生人、ルビィと曜の五人はアイドル研究部の部室へ。
絵里、真姫、若葉、ダイヤ、鞠莉、梨子の六人は生徒会室。
海未とことりは善子と果南の二人を校内の案内にと、ぞれぞれが行動を開始する。
屋上に出た友実は、元気よくダンスの練習をしている友香、月穂、亜里沙の三人を見付けた。
「……! お姉ちゃん!?」
「え! 友実姉!?」
「友実さん!?」
練習をしていた三人は友実の姿を見るや否や、三人は練習を中断させて駆け寄る。
「お姉ちゃん帰って来たの!?」
「友実姉久し振り!」
「友美さ~ん!」
「おっと。三人とも練習中にごめんね。ちょっとこっちに顔出す機会があったから覗いてみたんだけど。私に構わず続けて良いよ」
友美はそう言いフェンス際まで下がると、少し遅れて屋上に現れた穂乃果と千歌を両隣に座らせ、練習を眺め始める。
「こ、ここがμ'sが練習した場所……」
「確か練習場所が無くてここにしたんだっけ?」
「うん。最初はメンバーが少なくてね。ちゃんとした場所で練習できなかったんだ~。でも私達はここで良かったって思ってるよ」
穂乃果はそう言うと友実の肩に頭を乗っける。友実はそれに嫌な顔せずにさらに千歌も自身へと寄せる。いきなり寄せられた千歌は驚くも、嬉しそうに笑みを浮かべると友実の肩に頭を乗せる。
「あー! 二人ともずるいですよー! お姉ちゃ~ん!」
「おっと。よしよし」
友実の肩に頭を乗せている二人を見ると、友香は叫びながら友実の胸に飛び込む。友実は呼び込んできた友香を抱きとめ、頭を撫でる。
他のメンバーも各々親睦を深め、全員がグラウンドに集まる。若葉は集まったメンバーを見て首を傾げる。
「あれ? 夏希はどこに行ったの? 迷子?」
「いやいや迷子は若葉さんの特権じゃないですか」
「それを特権にされても困るんだけど……」
愛生人が若葉に言うと、真姫が溜め息を吐きながら若葉の手を握る。それから夏希がいつからいなくなっていたのか話し合いになる。
「私達の方にはいなかったよ~」
「私達の方にもいませんでしたよ」
「もちろん私の方にもいなかったし、その様子だと誰とも行動共にしてなかったんだね。て言うかよく遥はちゃんと戻って来たね」
友実は報告を聞きながら、よく消える遥がいる事に驚く。遥はいやいや、と手を振る。
「いくら私でも消える時と場合を選ぶって」
「そんなに三条さんってステルス高めなの?」
「う~ん気付けば消える事は茶飯事ね」
友実は隣からの声に対し頷いて答えた。そして皆の視線が友実の隣に立っている二人の人物に集まる。友実も不思議に思いそちらを見て首を傾げる。
「夏希君に……誰?」
「あれ? 私知られてない? これでも結構有名だった自信あったのに」
「いや、帽子にサングラスで顔隠してりゃ分からんだろ」
夏希の隣に立つ人物は手をポンと叩くと、その両方を外すとグラウンドに穂乃果達μ'sの驚きの声が響く。それはAqoursも同様でポカンと口を開けていた。
「あ、あのツバサさんなんでここに? 今日はレッスンって聞いたんですけど」
「えぇそうよ。レッスンが終わって、なっ君から誘われてね。久し振りに高坂さん達にも会いたかったし」
帽子とサングラスを外したツバサは改めて自己紹介をする。そこで初対面の友実とAqoursの九人もツバサに自己紹介をする。
そして互いに自己紹介を終わらせた後、講堂に移動し、急遽ミニライブを行う事に。
「ってなんでだよ! なんで急にライブ!? ツーちゃんだってμ'sの曲踊れないだろうし、A-RISEやろうにも英玲奈とあんじゅだっていないし」
「はいはい。二人の代わりは俺と愛生人で埋められるから」
「そうよ。それにμ'sの曲だったら全て頭に叩き込んであるわよ」
「なんでだよっ! 万が一にだ。お前らが良くてもAqoursの皆はどうすんだよ!」
特に問題がないと返す若葉とツバサに、夏希はAqoursのメンバーを指す。突然指された千歌達はその言葉に少し困ったような笑みを浮かべる。
「ほらな?」
「あ、あの、私達も一通りなら……」
「Why!?」
千歌が気まずそうに言うと夏希は叫びながら振り返る。
「だって私達がスクールアイドル始めたきっかけはμ'sだもん」
「そうですわ。私達はμ'sやA-RISEを見本にしてきましたわ」
「は、はい! なので踊れると言えば踊る事が出来なくもなくはない、です」
曜、ダイヤ、ルビィが夏希の驚きの言葉に返すと、その言葉を裏付けるように頷く。それを見て夏希も堪忍したのか、がっくりと項垂れる。
「もちろん私達も参加するからね!」
「穂乃果さん達と踊れる……ハラショー!」
そしてμ'sとAqoursにツバサ、若葉、夏希、愛生人、友香、友実、遥、雪穂、亜里沙の総勢二十七人のシャッフルユニットによる突発的ミニライブが行われた。
ミニライブ後。音ノ木坂学院の校門前では疲れ切った友実を支える友香や、ハイタッチを交わしている凛と曜。
そして次々と名残惜しそうに帰路に着く。
この日の思い出を胸に刻みつけながら。
簡単な説明
時期としては物語の一年後、絵里達が卒業し、雪穂達が入学したとしかです。季節は未定。
登場人物はなんと豪華に三十名。誰もがどこかしらで繋がりのある人物達です。
それでは「アニライブ!」の話数も(予定では)残り五話となりましたが、これからもよろしくお願いします。