「ラブライブ!」決勝から数日経った日の朝。この日は音ノ木坂学院の卒業式の日でもある。若葉が居間で朝食を済ませていると、音ノ木坂の制服に身を包んだ雪穂と亜里沙の二人が居間に入ってくる。
「お兄ちゃん見て見て~」
「ど、どうですか?」
「二人ともちょっと動かないでね~」
若葉は扉から少し入った所に二人を立たせると二人のもとへ行き、亜里沙の後ろに回り襟を正し、次に雪穂の正面に回りリボンを結び直す。
「うん。これで完璧」
「あ、ありがとうございます」
「うぅ……いくらお兄ちゃんでもこんなことされると緊張しちゃうよ」
少し離れて頷いた若葉に、二人は顔を少し赤らめながらお礼を言う。若葉はそんな二人に笑顔を浮かべ頭を撫でる。その時、二階から階段を駆け下りる音が聞こえ、居間の扉が勢いよく開け放たれる。
「できたよ!」
そこには満面の笑みを浮かべ喜んでいる制服姿の穂乃果がいた。そんな穂乃果に苦笑いを返す若葉と、首を傾げる雪穂と亜里沙。
三人の反応を無視して穂乃果はそのまま玄関から躍るように出て行く。
「お兄ちゃん。何がどうなってるの?」
「たぶん、あの調子からして送辞が完成したんだと思う」
「そっか。穂乃果さん生徒会長ですもんね」
若葉の答えに亜里沙は納得したように頷くも、ふと疑問に思い若葉を見上げる。
「でも若葉さん。送辞って前もって先生に見せてチェックしてもらうんじゃないんですか? 去年お姉ちゃんがそうしてたと思うんですけど……」
「……亜里沙ちゃん。世の中にはね、知らないほうがいいこともあるんだよ」
「「幽霊の正体見たり科学なり」ですね!」
目をそらした若葉とは反対に、目を輝かせる亜里沙。雪穂はそんな二人を見てどこからツッコムべきかを迷い、先ほどの穂乃果のことを思い出す。
「そう言えばお姉ちゃん。何にも言ってくれなかったね」
雪穂は自分の恰好を見直しながら寂しそうに呟く。
音ノ木坂の制服姿を同じ音ノ木坂の生徒である兄姉に見てもらい、感想を言ってほしかった。兄にはもう言ってもらったが、やはり姉にも言ってほしい。
そんな思いが雪穂の心の中を渦巻く。その時再び居間の扉が開かれる。そこにいたのは先ほど家を出て行ったはずの穂乃果だった。
「お兄ちゃん何してるの! 早く行くよ!」
「はいはい。せめてこれくらいは食べなよ」
若葉は入り口でせかす穂乃果の口にテーブルの上の食パンを咥えさせる。
「それじゃあ二人とも。行ってくるね」
「もぐもぐ……あ、お兄ちゃん待ってよ~っと、そうだったそうだった」
荷物を持って先に行こうとする若葉を慌てて追いかけようとした穂乃果は、急に止まり居間に戻る。
「二人ともすっごく似合ってるよ! ファイトだよ!」
穂乃果は居間にいる二人に笑顔でそう言うと、今度こそ若葉のあとを追って走り出す。
若葉は「穂むら」から少し離れた所で立ち止まっており、穂乃果が追いつくと並んで歩きだす。
「二人の制服姿どうだった?」
「うん。とっても似合ってたよ」
「そっか。それにしても二人とも本当に音ノ木生になったんだね」
「もう、今更過ぎるって」
二人が談笑しながら校門を抜けると、少し前に見慣れた四人組が歩いていた。
「四人ともおっはよー!」
真姫、凛、花陽、愛生人の一年生四人組を見つけるや否や、穂乃果は走りだし凛と花陽に抱き着く。若葉もそれに追いつき、挨拶を済ませると同時に真姫の頭を撫でる。
「あの若葉さん。今日って生徒会役員は早めに登校して、生徒会室に集合でしたよね?」
「大丈夫大丈夫。早めって言っても今から行けば間に合うから。ほら穂乃果、行くよ」
愛生人の言葉に頷き穂乃果のいる方を見ると、そこには穂乃果だけでなく一緒にいたはずの凛と花陽もいなくなっていた。
「迷子属性って若葉さんの特権でしたよね?」
「ちょっと愛生人。若葉のは迷子じゃなくて方向音痴よ」
「真姫。そういう問題じゃないから。て言うか否定する場所違くない?」
「「どこが?」」
三人はいなくなった三人を探しながら軽口をたたき合う。そして若葉達は三人とにこに似た女性とこころ達を見つける。
「あれ? 充子さん?」
「あら、若葉君じゃない」
「こころちゃん達も久しぶりだね」
若葉が矢澤
「ママぁ~! 何してるのよ~。早く来てよぉ! 見せたいものがあるんだからぁ~」
「にこ……ちゃん……?」
穂乃果を含めた全員が、普段のにこが見せない甘えてる場面を見て驚いたように口を開く。にこは若葉達がいることに気付くと充子から離れ、咳ばらいをして挨拶をする。
それからにこ先導でアイドル研究部の部室に行こうとするも、若葉は穂乃果の襟を掴んで止め生徒会室へと向かう。
「穂乃果。まさかとは思うけど忘れてた?」
「ハハハ。まっさかー」
生徒会室に向かう道中、若葉に聞かれた穂乃果は笑って返す。しかしその頬を汗が垂れるのを見て若葉はため息を漏らす。
「そ、そんなことよりさ。お兄ちゃんってにこちゃんのお母さんと知り合いだったの?」
「知り合いっていうか、たまにバイト先で話す程度だよ?」
「ふ~ん。そうなんだ」
穂乃果は若葉に横の繋がりの広さに驚く素振りを見せずに廊下を歩く。少しすると前から夏希が走ってくるのが見えた。
「夏希君、おっはよー!」
「廊下走ったらダメなんだよ~」
「んなこと言ってる場合か! うーみんが怒ってるぞ。生徒会長なのに来んのが遅いって」
夏希の言葉を聞いて穂乃果と若葉は顔を見合わせると、夏希を置いて生徒会室に向かって走り出す。
「ちょ、おい! 廊下走っていいのかよ!」
夏希は先ほど言われたことを二人に言うも、それは華麗に無視される。夏希は頭をガシガシと掻くと、走り出した二人のあとを追い走り出す。
「ゴメン海未ちゃん!」
「時間には遅れてないはずだけど謝るから!」
穂乃果と若葉は生徒会室に入るや否や初めに海未に謝罪する。二人から少し遅れて夏希も生徒会室に入ってくる。
「確かに若葉の言う通り遅刻ではありませんので、そこまで怒りはしません。ですが、不測の事態に備えてもう少し早く行動することを心掛けてください。特に穂乃果は」
「まあまあ海未ちゃん。そこまでにして早く体育館に行こ?」
二人に説教を続けようとする海未をことりがなだめる。海未は時計を見ると、そうですね、と頷き机の上に置いてある資料を手に持つ。それを倣って穂乃果達もそれぞれ必要なものを持つと、生徒会室を出て卒業式が行われる体育館へと移動を始める。
「そういやほのっち、送辞はできたのか? 昨夜電話がかかってきた時はさすがに驚いたんだが……」
「あの、今のはいったい……?」
夏希の言葉を不思議に思った海未は、隣を歩いている若葉に説明を求める。若葉は苦笑を浮かべながら事情を話す。
「実は穂乃果、昨日の夜の時点じゃまだ送辞できてなくってね。俺は読んだ経験ないからアドバイスできなくてね。夏希が読んだことあるって言ってたから、アドバイスのための電話をしたんだよ」
「……それで、送辞はできたんですか?」
「今朝できたみたいだよ」
ほら、と若葉が顎で前を歩いていた三人を示す。海未が視線を前に戻すと、穂乃果がポケットから送辞の書かれた紙を取り出し、夏希とことりが覗き込んでいた。二人の反応は異なり、ことりは楽しそうに笑顔を、夏希は苦笑いを浮かべていた。
二人の反応にそれを見ていた若葉と海未も内容が気になり、二人と同じように覗き込む。
「これはまたなんと言うか……」
「穂乃果らしいですね」
そこに書かれたものを読み若葉と海未もことり同様楽しそうに笑っていた。
「そこでね、お兄ちゃんと夏希君にやって欲しい事があるんだけど」
「やって欲しい事? あ~真姫に頼む役?」
「それもあるんだけど」
穂乃果は若葉に首を振って返し、若葉達にやって欲しい事を伝える。若葉は頼まれ事の内容を聞くと頷き、夏希も同様に頷き返す。それから体育館に着き荷物を降ろすと、若葉と夏希はすぐに体育館を出て行く。
「それじゃあ夏希、頑張ってね」
「あぁ、頑張ってみる」
若葉は弱気になってる夏希の背中を叩いて目的地に向かう。夏希も若葉に叩かれた箇所を擦ってから同じように目的の場所に向かって走り出す。
「真姫、凛、花陽、愛生人いるー?」
一年生の教室に着いた若葉は入り口から顔だけを入れ、用事のある四人を呼ぶ。若葉に呼ばれた四人は首を傾げながらも若葉の元へと集まる。
「どうしたんですか若葉さん。今の時間って体育館で卒業式の準備をしてるはずですよね?」
「そうなんだけどね。ちょっと四人に用事があって」
若葉はそう言うと四人に要件を伝えると、そのまま愛生人を追加の手伝いとして体育館に連れて戻る。
「それにしても穂乃果ちゃんもすごい事思いつくよね」
「ま、だからここまでやって来れたのかもね」
「うん、だから凛達もしっかりやらないとね」
二人が去った廊下で花陽、真姫、凛は改めて若葉から伝えられたことを確認し合い、教室に戻っていく。
一方、若葉と別れて行動している夏希は職員室に行き、姫子と話していた。
「なぁ姫、頼むよ」
「そんな事言われてもなぁ。もう配布の準備始めちゃってるだろうし」
「だから印刷して一緒に配るだけでいいんだって。そんくらいだったら出来るだろ? 何だったら俺が配るし」
「そんなこと言ったって、お前は体育館の準備があるだろうに」
夏希の言葉に姫子がどうしたものかと考えていると、不意に後ろから声がかけられる。
「二島先生、別にそれくらいだったら構いませんよ」
「り、理事長!?」
姫子が振り返ると、そこには彩が立っていた。姫子は彩がいることに驚き、思わず立ち上がる。彩は手で姫子を座らせてから夏希を見る。
「あの、本当に良いんですか?」
「えぇ。それに配布も手伝ってくれるみたいですし、その提案をするってことはちゃんと代わりの人を見つけているか、心当たりがあるのでしょう」
「分かりました」
「理事長ありがとうございます!」
姫子が夏希から原本を預かり印刷室に入っていくと、夏希は彩にお礼を言う。彩はそれに手を振って答えると、夏希に向き直る。
「それで、さっきはああ言ったけど、大丈夫なの?」
「もちろんですよ。多分今頃若がアッキーを連れてってますから」
「それもだけど、穂乃果ちゃんからの許可はもらってるの?」
「それこそ大丈夫ですよ。配布に携われってのは、ほのっちからの提案なんですから」
夏希がそう答えると印刷室から印刷されたものを手に姫子が帰ってくる。夏希は姫子からそれを受け取ると彩と姫子に頭を下げた後、卒業式の案内が配布されている昇降口へと向かう。
一方体育館で作業していた穂乃果は、ミカに昨年の卒業式の記録を求められ生徒会室に取りに向かった。それを見送った海未達は卒業式の作業に戻る。
「ところで若葉くんは何やってるの?」
「ん~? ちょっと穂乃果に頼まれ事?」
「頼まれ事?」
皆が作業をしている中、一人邪魔にならない場所でパソコン相手に首を捻っている若葉を見つけ、ヒデコが話しかける。
ヒデコは若葉が何を頼まれたのか気になり、背後から覗き込む。若葉もそれに対して嫌ながる素振りを見せずに画面を見せる。そこに映ってたのは三年生を主とした数多くの写真だった。
「これって」
「サプライズで使いたいから作っておいて! って言われてね」
穂乃果の無茶ぶりに思わず顔を引き攣らせて笑うヒデコ。若葉はそんなヒデコを無視してスライドショーを作り上げていく。
「そういえば夏希くんどこに行ったの?」
「夏希も別の頼まれ事で席外してるよ。人手を心配してるなら大丈夫、そろそろ来ると思うから」
「来るって誰が?」
若葉はその疑問に画面から目を離さずに入口を指す。ヒデコがそちらに目をやると、そこには愛生人が立っていた。
「いつの間に呼んだのよ……あ、この写真とかいいんじゃない?」
「お、サンキュー」
暫くして穂乃果が体育館に戻り、卒業式の準備が終わり準備をしていた生徒達は教室に残り、若葉は夏希のもとへと向かった。
約二ヶ月、お待たせしました。諸事情と言う名のパソコンの故障等で執筆出来なかったり、やる気がなくなったりとで遅くなりました!
多分次話も遅くなります。
あ、宣伝しておきますね。
この作品である「アニライブ!」と有名フリーホラーゲーム「Ib」とのクロスオーバー作品「ラブラIb〜太陽の笑顔が織りなす物語〜」が現在連載中なので、興味のある人は読んでみて下さい。
では次回予告!
「花陽、頼んだわよ」
「最後はここね」
「ちょっと、そっちじゃないわよ!」
「さすがに比べるのは酷だろ」
次回『ありがとうございました!』