アニライブ!   作:名前はまだ無い♪

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歩きスマフォは危険ですので止めてください。


ウチにミカンは置いてないからな?by夏希

 海辺での解散宣言から早くも一週間。ラブライブ決勝が翌日に迫った日。μ'sはいつものように屋上で練習していた。

 

「にしてもまさかあんな事になるなんてな」

「これがあの時にも欲しかったですね」

「まったくだね」

 

 三人はそう話しながら、いつものようにその風景を見ながら、三人は昨日の事を思い出す。

 

 ☆☆☆

 

『エントリーNo.12音ノ木坂スクールアイドル『μ's』』

 

 司会の女性に呼ばれ、九人が立つ。

 

「それにしても、さすがに全国となると多いですね」

「だな。μ's(ウチ)を入れて47グループだもんな」

「人数も二人から九人までバラバラだね」

 

 愛生人、夏希、若葉の三人が二階から一階の抽選場を見下ろしながら各々感想を述べる。

 階下のステージでは穂乃果とにこがくじ引きを引いていた。

 

 ☆☆☆

 

「まさかトリを引くだなんてな」

「まったくですよ。でもトリって事は一番印象を残しやすいですから」

「逆にミスしたら目立つって事だよね。投票の関係上、最後は多くの人が見てそうだし」

 

 三人が話していると、凛のリズムで練習をしていた穂乃果達は休憩に入っていた。これまたいつものようにドリンクやタオルを渡し始める。

 

「お疲れさま」

「あ、ありがとう! それにしても、最近なんだかあったかいよね~」

「穂乃果、いくらあったかいからと言って寝てはいけませんよ?」

「でも今年は桜も咲くのがいつもより早いって言ってたし」

 

 若葉と穂乃果が話していると、海未とことりが穂乃果の隣に座りながら話に加わる。

 また、屋上の他の場所ではステップを刻む凛を囲うように見ている真姫、花陽、愛生人の一年生や、にこにーを練習しているにこ、希、絵里とそれを苦笑いを浮かべ見ている夏希。正面には自分そっくりの顔の若葉、そして両隣には幼馴染の海未とことり。

 

「穂乃果ちゃん。寂しくなっちゃダメ。今はラブライブに集中」

「そうですよ」

「うん、そうだよね。ただ……」

「ただ……?」

 

 若葉が聞き返すと、穂乃果は首を横に振って隣の海未とことりを抱き寄せる。いきなり抱き寄せられた二人は一瞬驚くも、同時に若葉に手を伸ばしその輪に加える。突然の事でされるがままの若葉をことりが右から、海未が左から、そして穂乃果が正面から抱きしめる。

 

「ちょ、いきなりどうしたの?」

「べっつにー! 急に抱きしめたくなったの!」

「私も!」

「偶にはこういったのもいいじゃないですか」

 

 若葉の問いに三人が同じように答え、仕方ない、といった様子で諦める若葉。

 

 それから練習は夕方まで続き、皆帰路に着いた。

 

「もう練習終わりかぁ。ちょっともの足りないにゃ」

「そんな事言っても凛ちゃん、明日が本番なんだから無理して怪我したら元も子もないんだよ?」

「そうよ。それに本番に疲れを残すわけにもいかないし」

 

 愛生人と絵里の言葉に凛だけでなく、その場にいる全員が頷く。そして校門を通り過ぎ、信号が赤になったので立ち止まる。

 

「それじゃあ皆、明日時間間違えないようにね」

「寝坊とかしたら笑えんしなぁ」

「大丈夫です。穂乃果の家には私とことりが行きますので」

「お兄ちゃんがいるから大丈夫だよ~!」

「俺と愛生人は今日、夏希の家に泊まり込みだから帰らないし、その事も母さんに言ってあるからね?」

「えー!!」

 

 穂乃果は若葉に抱き着きながら言うも、若葉の返しに思わず驚いて離れる。そんな穂乃果のオーバーリアクションに皆が笑みを零す。

 そのタイミングで信号が青になり、また歩き出す。数日歩いたところでふと花陽が声を漏らした。それを聞き取った愛生人と凛が止まり、それを見た全員が再び止まる。

 

「もしかして、皆で練習するのって、これが最後なんじゃ……」

 

 花陽の台詞に皆、言葉を失う。

 

「って気付いてたのに言わなかったんだろ? えりち」

「そっか、ごめんなさい」

「ううん。私も少し考えちゃってたから」

 

 絵里が校舎を振り返ると、にこ以外の皆がそれに倣って振り返る。そんな中、にこがダメよ、と言い放つ。

 

「今はラブライブに集中。そうでしょ」

「だな。ほら、お前ら行くぞ」

 

 にこの言葉に賛同し、若葉と愛生人は夏希に肩を抱かれ、夏希宅へと連行されていった。

 

「さ、私達も行きましょ」

「ちょ、ちょっと待って。せっかくだから行きたい所があるんだ。この九人で」

 

 穂乃果は手をパン、と叩いて九人で行きたい場所の提案をする。それはつい先日まで早朝お世話になっていた神田明神。

 お賽銭箱の前で九人が横一列になり、二礼二拍手一礼を済ませる。

 

「これでやり残したことはないわね」

「うん」

「でもこんないっぺんにお願い事しちゃって大丈夫かにゃ?」

 

 凛が不安そうに言うも、穂乃果はそれを平気だよ、と肯定する。

 

「だって、お願いしたことは皆同じだもん。言葉は違ったかもしれないけど、皆のお願いって一つだった気がするよ!」

「そうね」

「じゃあもう一度」

 

 絵里と希の音頭で九人はよろしくお願いします、と頭を下げた。

 そして三年生と二年生が帰り、少ししてから一年生の三人も階段を下りる。

 

「……あ」

 

 階段を下りている途中、花陽は曲がり角から見えるツインテールを見つける。

 

「なんでまだいるのよ」

「それはこっちの台詞よ」

「あれ? 皆……」

 

 階段を下り切るなり、にこと真姫が言い合う。そこに横から穂乃果達がやってくる。凛が穂乃果達が戻ってきた理由を聞くと、まだ残ってる気がして、と頬を掻きながら答える。

 

「これじゃあいつまでも帰れないわよ?」

「そうだね」

「じゃあ朝までここにいる?」

 

 希がいたずら気な笑みを浮かべて言うと、穂乃果は何か閃いた様子で提案する。

 

「じゃあさ、こうしない?」

 

 

 一方、夏希の家に向かった三人はテーブルを囲んで座っていた。

 

「それにしても炬燵はいいですね」

「これにあと、ミカンがあれば言う事ないね」

「ですね」

 

 愛生人と若葉はミシンで作業しながら夏希を見る。見られた夏希はいやいや、と手を振って返す。

 

「いや、ウチにミカンは置いてないからな?」

「なんでないんですか~」

「炬燵にミカンはセットじゃない?」

「ですよね」

 

 若葉と愛生人は何もしないで二人を見ている夏希にジト目を向ける。夏希は首を傾げ見返す。そんな夏希の反応に二人は溜め息を吐いて作業に戻る。

 

「それより若葉さん。さすがにミシンでノールックはやめません?」

「大丈夫大丈夫。見てないって言っても少しの間だし、出来はほら、この通り」

 

 若葉はミシン掛けしていた物を広げ、二人に見せる。その出来はとてもノールックで行った箇所があるとは思えない出来栄えだった。

 

「若って無駄に器用っつーか、なんつーかだよな」

「ですよね。僕はまだ出来てませんし、夏希さんに至っては作業の放棄してますもんね」

「うっせー。お前らの家じゃ作業が出来ないからって事でウチに来たんだろうが」

 

 夏希は立ち上がりながらそう言い、晩飯の注文を取る。

 

「そろそろ晩飯の時間だな。何か作るけど、何が良い?」

「ぶっちゃけ夏希さんより若葉さんの方が料理上手ですよね?」

「俺はそんなに上手じゃないけどね~」

「じゃあそんな事を言うアッキーは飯抜きな」

「やだなぁ。冗談ですよ」

 

 歓談しつつ、結局なんでもいい、となり夏希は台所に消える。

 夏希がいなくなってから二人は黙々と作業に集中する。辺りにはミシンの機械音と衣擦れ音が、少し離れた所からは夏希が料理をしている音が響く。

 

「お前ら~晩飯できたって、なんで黙々とやってんだよ! 怖えよ!」

 

 リビングに戻ってきた夏希は、作業中の二人を見てたじろぐ。夏希が戻ってきたにも関わらず二人は何の反応もせずに作業を進める。

 

「お~い、無視か~? 若~お前の携帯鳴ってるぞ~」

「……え? あ、本当だ。ありがとう」

 

 夏希が若葉に携帯を差し出しながら言うと、若葉は作業を中断し携帯を開く。

 

「穂乃果達、今晩は学校に泊まり込むんだってさ」

「へぇ~……あれ? でも学校に泊まり込むのって、前もって申請が必要なんじゃなかったか?」

「……彩さんが許可出したらしい」

 

 若葉がどこか諦めたように言うと、夏希も納得のいった表情で頷く。

 

「でも晩飯はどうすんだろうな」

「ところで夏希は何を作ったの?」

「ん? あぁカレーだぞ。作り置きできる上に、特に量を考えなくていいからな」

「まぁ夏希さんのことですから適当な量を作ってるんでしょ? だったらおすそ分けに行きます?」

 

 若葉の提案に愛生人も作業を止め、話に入ってくる。それから少し話し合い、夏希と愛生人がカレーをタッパに詰めて音ノ木坂に向かい、若葉は残り作業を続けることになった。

 

「それじゃあ行ってらっしゃい」

「おう」

「……これ、本来は立場逆な気がするんですがそれは」

「「気にすることじゃない」」

「ア、ハイ」

 

 若葉と夏希が声を揃えて言うと、愛生人はどこか諦めたような眼をして遠くを見る。そんな愛生人を夏希は車に押し込み、自分は運転席に乗り込み車を出す。

 二人を見送った若葉は夏希の部屋に戻り、作業を再開する。

 

「それにしても若葉さんが残るなんて、意外ですね」

「だな。若の事だからマッキーやほのっちに会いたいって言うと思ったんだけどな」

 

 音ノ木坂に向かう車の中、夏希と愛生人は率直な感想を言い合っていたことは若葉は知らない。それから少し車を走らせ、二人は音ノ木坂に着く。そして車から降り、明かりの点いているスクールアイドル部の部室の窓を叩く。

 

「は~い」

「おっす、おすそ分けに来たぞ」

「わざわざありがとうございます」

 

 窓が開くと夏希は身を乗り出し、タッパの入った袋を海未に差し出す。また別の窓からは愛生人が乗り出し凛と花陽と話していた。

 

「ねえねえ夏希君。お兄ちゃんは?」

「若? 若ならウチで留守番してるけど」

「そっか」

 

 若葉の所在を聞くと、少し落ち込んだ様子で俯く。夏希は溜め息を吐くと携帯を取り出し電話をかけて穂乃果に渡す。

 

「ほれ、若にコール中だ」

「え、でも……」

「決勝前夜で緊張してんだろ。声聞くだけでも安心するんだろ?」

「う、うん。ありがとう」

 

 穂乃果はお礼を言うと夏希から電話を受け取り、耳にあてる。

 

『もしもし夏希? 今ちょっと手離せないんだけど』

「も、もしもし?」

『あれ穂乃果? 夏希の携帯からどうしたの?』

 

 若葉は夏希の携帯から穂乃果が掛けている事を不思議そうに聞く。穂乃果は夏希から携帯を渡された経緯を話し始める。それを見ていた夏希は穂乃果の緊張が徐々になくなっていくのが分かり、室内を見る。

 

「夏希君達はもう晩御飯済ませたん?」

「いや、俺達はまだだぞ。それ作り終わって泊まり込みの事を知ったからな。これから帰って食う予定だ」

 

 希が夏希に話し掛け、その後も少し歓談していると穂乃果に服を引っ張られる。夏希が振り返ると穂乃果が苦笑いしながら携帯を差し出していた。

 

「あの、お兄ちゃんが代われって」

「おう。もしもし若か?」

『もしもし夏希? なるべく早く帰って来てね。じゃないと、夕飯抜きになる、かもよ?』

 

 若葉はそう言って電話を切る。夏希の頬を一筋の汗が伝う。

 

「アッキー、早く帰るぞ。じゃないと俺らの飯がなくなる!」

「ちょ、それはマズくないですか!?」

「てなわけで俺らもう帰るから! また明日な!」

「じゃあね!」

 

 愛生人は夏希の短い説明で察したのか、二人は部室内の皆に別れの挨拶を済ませると駐車場に向かう。駐車場に着いた二人は、乗って来た車に誰かが寄りかかってるが分かった。

 

「お? 夏希君に愛生人君じゃないか。どうしたんだい? こんな時間にこんな場所で」

「あ、蒼井さん。こんばんは」

「ちょっと野暮用で来たんすよ」

 

 二人が近づくとその人物が蒼井である事が分かり、親し気に返事をする。蒼井は持っていた警棒で肩をポンポンと叩くと二人に笑いかける。同じように笑い返す夏希と愛生人。

 

「それで? その野暮用で来た二人がなんで駐車場(ここ)にいるのかな?」

「なんでも何も今、現在進行形で蒼井さんが寄っかかってるその車、俺のなんだけど」

「そうかそうか。この見かけない車は君のだったのか」

 

 蒼井はそう言うと、警棒で肩を叩くのを止め腰に下げると、ニヤリと笑い二人の肩を掴む。

 

「高校生が自分の学校に車で来るなんてこと、許されるとでも思ってるのかな?」

「いや、その……ごめんなさいでした!」

「殺す前にせめて言い訳を聞いて欲しい!」

「オッケー。愛生人君から聞くから夏希君は覚悟決めようか」

 

 蒼井に腕をキメられ悲鳴を上げる夏希と、それを無視して言い訳をする愛生人。蒼井は愛生人からの言い訳で納得したのか、夏希を放す。

 

「なるほどね。ま、初犯だし反省してるみたいだから今回は見逃すけど、次はないからね。じゃ、気を付けて帰るんだよ」

 

 蒼井はそう言って手を振りながら立ち去る。夏希と愛生人は蒼井が見えなくなるとすぐに車に乗り込み、夏希宅へと帰った。

 リビングに入り、二人が帰ってきたにも拘らず黙々と作業をする若葉に恐怖を覚え、機敏な動きで晩御飯の準備を済ませた。

 

 

 

 




歩きスマフォは本当に危険なので止めましょう。

それはそうと、ここで一つお知らせです。
8月5日から『ラブライブ!~一人の男の歩む道~』を投稿しているシベリア香川さんの企画に参加することになりました。ぜひ読んでみてください。

それでは次回予告!

「おーい、こっちこっち~」

「お~い、なっく~ん」

「ゲッ、母さん!?」

「みんなぁー! ハっチャけてるかーい!」

「まぁ「ラブライブ!」の決勝だしな」



次回『それじゃあ行ってくるね!』

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