でもそれは承諾も無しに休みに仕事を入れた上司が悪いんだぜー
疲れて何も出来ねー
え?夏季休暇?
バイトしてたから半分しか休みなかったよ
残り半分?寝てたよ(人間の屑感
神通がやたらと気合いを入れて夕立と時雨を連れて演習場に行くのを見送ったあと
俺は道中に間宮を見つけたので寄ることにした
うぅむ、まさに甘味処といった店構えだな
中に入ると全ての席が埋まっていた
そういや今日は遠征と出撃が少なかったんだっけ?
店内の状況に圧倒されていると奥から間宮がアイスをお盆に乗せて現れた
「あら提督、珍しいですね半休ですか?」
「あぁまあな、それにしても繁盛してるな」
「ふふふ、甘い物は日常には欠かせませんから特に女の子には」
間宮は俺と世間話をしつつも商品のアイスを届ける
周りは甘味に夢中で俺に気づいてないようだ
「そうだ、限定羊羹はまだ余ってるか?」
そう言った瞬間、店内は静かになり全員の視線が俺に集中する
間宮はやれやれといった感じで首を振る
「ありますよ。ただ少し値を張りますよ?」
「どれくらいだ?……これくらいなら余裕だな三つほど買お」
買おうと言おうとした瞬間、誰かが後ろから抱きついてきた
「テートクー?限定羊羹を三つも買うなんて贅沢デース!」
「こ、金剛?」
「私たち戦艦のポケットマネーでも高くて中々手を出せない代物デース。ここは今日出撃してMVPを取った私にも買うべきデース!」
「待った!それなら私にも買って貰わないと不公平ではないか?」
「な、長門?いやそれ以前に俺は買ってやるとは一言も……」
「待ってください!それなら私たちなんか、毎日皆さんのために遠征で資源を持ち帰ってるんですよ!私たちにも買うべきです」
それなら、いや私たちは…
などと我先にと言わんばかりに店内にいるほとんどの艦娘達が言い争いを始める
どうしよう……下手したら乱闘騒ぎになりかねないぞ……
「提督、ここは私に任せてください」
「間宮、しかし……」
「大丈夫です。提督には迷惑をかけさせませんよ」
はい、商品ですと俺に羊羹を渡して騒動の渦中に向かう
とても素晴らしく恐ろしい笑顔をしながら
「あらあら提督におねだりなんて悪い子達ですね。提督に迷惑をかける悪い子にはもう甘味は売れなくなりますね〜」
間宮がそう言った瞬間全員顔を真っ青にして間宮に土下座をして謝る
「あらあら謝るのは私じゃないでしょう?」
すると土下座の矛先が俺に向かう
「あ、あ〜みんな反省してるようだから今回は多めに見よう。だから頭を上げてくれ」
「らしいです。でも次またこんな事が起きたら……」
『はい!もうしません!!ワガママも言いません!!!』
「よろしい♪では提督、今後ともご贔屓に♪」
「う、うむ……よ、よろしくな間宮」
異様な雰囲気な店内を出て俺は演習場に向かう
間宮は怒らせてはいけない、覚えておこう
俺は少し早歩きにして急いで場を離れる
しばらく歩くと、第一演習場と書かれた看板を見つけたので案内従い歩く
すると神通の後ろ姿とその前に整列する駆逐艦達を見つけた
神通は俺の気配を察したのか声をかけるまえに振り向いた
「提督、丁度いいところに今から始めようとしてたところです」
「そうか、間に合ったようだな」
俺は整列してる駆逐艦達を見る
心なしか顔が青ざめているように見える
「さて、提督も来たので始めましょうか。提督、一言声をかけてやってください」
「む?わかった。今日は偶然にも訓練を見学することになったが、皆緊張せずいつも通りにやりなさい。何、観客が一人増えただけだ気にするな」
そう言うと少しだけ緊張がほぐれたのか雰囲気が柔らかくなる
「では、全員配置につきなさい!……よし、戦闘開始!」
神通の指示のもと、それぞれ配置に着き向かい会う
そして合図を元に戦闘を始める
しばらくその様子を眺めていると神通が話しかけてくる
「提督、あの子達をどう思います?」
「どう…とは?」
「……前の提督は駆逐艦は戦艦や空母の弾除けにしか考えていませんでした」
神通は前を向いたまま絞り出すように声をだす
なるほど、前の奴は火力しか見てなかったのか
「第一艦隊で活躍出来た駆逐艦は夕立達を始め、運が高かったり性能が高い艦、改二まで改造できる子達だけ。それ以外は論外だと言わんばかりに放置されました」
ギリギリと神通の手から強く握りしめる音が聞こえる
「例え旧式艦だろうと改造が一回しかできなかろうと、あの子達は戦えるんです。守れるんです。……提督、あなたはどうお考えなのですか」
「……確かに駆逐艦は火力も低く装甲も薄い」
その言葉に神通は俯く
「だが駆逐艦だからこそ出来る戦いがある」
「……!」
「駆逐艦は素早い、それに潜水艦は軽巡と駆逐艦にしか退治出来ない。戦艦には戦艦の、軽巡には軽巡の、駆逐艦には駆逐艦の戦い方がある。俺はそれに基づいて艦隊を編成するつもりだ」
「提督……」
「ガンガン働いて貰うぞ?」
神通は目元を拭うと俺に向き直り笑顔を見せる
「ええ、お任せください。よい戦果を必ず持ち帰ります」
「ああ、期待してるぞ」
そう言うと同時に演習場では戦闘が終わる
神通はそれを見てみんなを集合させる
「よく頑張りましたね。ですがまだまだ訓練が足りないようですね。操舵ミスや、判断ミスが多く見られました。今日は徹底的に反省点を修正しましょう」
それを聞いた駆逐艦達は全員絶望したような表情になる
助け船を出すか
「神通ほどほどにな」
「御心配なく提督、明日には皆見違えるようになりますので」
あ、こりゃダメだ聞かねえパターンだわ
心の中で駆逐艦達に合掌して俺は演習場を離れる
さて次はどこに行こうかね?
side〜叢雲〜
提督を執務室から追い出してからしばらくして大淀がやってきた
手には幾つかの書類を持ってだ
……あの量をもう終わらせたの?
「流石に終わりませんよ。これは提督の印が必要なものです」
心を読むんじゃないわよ!びっくりしたじゃない!
「それにしても、ふふふ……」
何よ?急に笑ったりして
「いえ、一ヶ月前の提督着任当初の事を思い出してね。随分提督に惚れ込んでるわね〜と」
惚れ……!?
「だ、誰が惚れ込んでるっていうのよ!」
「あら?今日の休みの提案だってあなたからだし、提督が仕事を覚えるまで、付きっ切りで教えてたのは誰かしら?」
ぐ……そのニヤニヤ笑いをやめなさい!
「それに秘書艦だって最初は持ち回りでやりましょうって言ったのに『あんまりにも覚えが悪いから私がしばらく教えるわ』って言ったの誰かしら?」
ぐぎぎ……あの時の台詞を……
「ふふふ……でも今のあなた、前の提督の時よりいい顔をしてるわよ」
………………
「塞ぎ込んで、暗い顔をしてたあの時よりずっといい顔よ」
「……当然よ、だってあいつは、提督は私たち駆逐艦を馬鹿にはしないううん、駆逐艦だけじゃない、みんなの事を理解して平等に出撃させてる」
「ええ、だからみんな提督を慕うし想いを寄せてる。だからあなたは出来るだけ側に居たくて秘書艦をやってるのでしょう?」
そうそうあいつを独り占めしたいって
「な、な、な、何言ってんのよあんたは!!」
がーと怒鳴りたてると怖い怖いと言って笑顔で執務室を出ていく
荒くなった息を整えて提督の執務机に触れる
「…………少しは好きよ少しは」
脳裏に提督を思い浮かべながらそう呟く
パシャパシャ
すると背後からシャッター音が……
「シャッター音!?まさか!?」
振り向くと扉の隙間からカメラを構えた青葉を見つけた
「青葉!聞いちゃいました!これはスクープです!」
そう言って逃げ出す青葉
ふふ……ふふふ……
「逃がすかぁぁぁぁ!!」
私は青葉を捕まえるために走りだす
その後どうなったかって?
私の名誉は守られたわ
青葉?さぁ……ね?ふふふ……