理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

99 / 179
九十九話 戦いの終わり

 戦いは終わった。ビフォアはネギたちに敗れ、野望は打ち砕かれた。そう、麻帆良の未来は守られたのだ。また、超のアジトでは結界の復旧作業を行うものたちが、必死に指を動かしていた。

 

 

「麻帆良大結界、再起動確認!」

 

「よしっ! これならもう安全だろう」

 

 

 そして、麻帆良の結界は復旧され、これで間違えなく安全となった。ビフォアが何を行おうとも、もはや強制認識魔法は発動しないのである。

 

 

「終わりましたね、ドク・ブレイン」

 

「これでようやく歴史は元に戻り、未来におけるビフォアの悪行も消滅するはずだ」

 

 

 一件落着、疲れながらも安堵の笑みでいっぱいとなった葉加瀬。その横で、ビフォアの敗北により、崩壊した未来の麻帆良も元に戻ると語るエリック。

 

 そこでエリックは、懐から一枚の紙切れを出してマジマジと見始めた。それは未来から持ってきた新聞記事だ。暗黒街とかした麻帆良の惨状が書いてあるやつだ。エリックが少しの間眺めていると、少しずつ記事の内容に変化が現れた。まるでフェードアウトするように、記載された記事が消え、別の記事に置き換わったのだ。未来におけるビフォアの悪行が消滅した証拠だ。エリックはその確認を終えると、ニコリと笑って記事を再び懐へと戻した。

 

 

「ならば再び勝利の演奏をさせていただくぜェ――――――ッ!! イエァーッ!!」

 

「少しは自重してくれ!!」

 

「俺たちの勇気が勝利を齎したぜッ!」

 

「あ、アナタも結構うるさいんですが……」

 

 

 本当の勝利を得たので完全にはっちゃける昭夫。またしても演奏を始めたのだ。このすぐに演奏を始めるのは、どうやらクセらしい。

 

 ただ、それがうるさい、めっちゃうるさい、本気でうるさい。横で突如演奏する昭夫に、千雨は我慢の限界に達したようで、うるさくてかなわんと、自重しろと叫んだのだ。

 

 だが、昭夫は当然シカト。と言うか聞こえていない様子で、体を上下に動かしてパフォーマンスを行いだす始末。しかも、その別の場所で大声で勝利宣言する豪。いやまったく騒がしい連中だ。そんな豪にも丁寧語ではあったが、イラつきを抑え震えながら千雨は文句を言うのだった。

 

 そして、その騒ぐ昭夫や豪の横で、縛られている少年。サイバー攻撃を行なった張本人だ。彼はビフォアの敗北を受け、肩を落としてうつむいていた。何せ彼はビフォアが勝利すれば、その幹部にしてもらえるという約束をしていたからだ。しかし、ビフォアは敗北した。ゆえに、彼はがっかりして、今後どうなるかを不安に感じていたのだった。

 

 

 また、広場でも戦いが終わりを告げたことで、鬼神が消滅を始めていた。鬼神は麻帆良の結界の中で、活動することができないのだ。

 

 

「あ、あのデカイのが消えていくよ?」

 

「ホンマや」

 

「終わったみてぇだなぁ……」

 

「グレートな一日だったぜ……」

 

 

 消えていく鬼神を、不思議そうな表情でアキラは眺めていた。そして、ようやく戦いが終わったことを理解したようだ。その隣で同じように、鬼神が消えていく光景を眺める亜子がいた。そんな二人の近くで、背中を伸ばして疲れた様子を見せる刃牙と、疲れた疲れたとしゃがみこむ状助が、やっと騒動が終わったことをしみじみと言葉にしていた。

 

 

「どうやら我々が勝利したようだな……」

 

 

 超竜神もまた、戦いが終わったことを悟ったようだ。そして、夜空に浮く飛行船の方角を眺めながら、戦いの勝利を確信していたのだった。

 

 

 また、別の場所でも鬼神の消滅が確認されていた。鬼神が消滅したことで、戦いが終わったことを誰もが理解したようだ。

 

 

「おお? デカブツがいなくなった!?」

 

「じゃあ私たちの勝ちってこと!?」

 

「やったー!」

 

 

 美砂、円、桜子の三人は、戦いが終わっただけでなく、こちら側が勝利したことを理解したようだ。だからか、三人はこの勝利を喜び笑いあっていたのだった。

 

 

「終わったか……」

 

 

 覇王も同じく、戦いの終了を感じていた。ただ、勝利を喜ぶ以上に、戦いが無事に終わったことに安堵した様子だった。無事にビフォアが倒された。それこそ覇王が最も喜ばしきことであり、安心する要素だからだ。

 

 

「ふぅ……、なんとか勝てたっぽいね」

 

 

 また、裕奈も戦いが無事に終わり、ほっとした表情を浮かべていた。ただ、普段から元気で明るい裕奈だが、今回ばかりは少し疲れたのか、へとへとな様子を見せていた。実際、かなりの数のロボを相手取り、ガンガン魔法を使ったのだ。魔力消費による疲労は少なからずあるだろう。

 

 

「よく頑張ったね、ゆーな!」

 

「わっ! おかーさん!?」

 

 

 そんな疲れた裕奈の後ろから、そっと肩に手を乗せて褒める女性が現れた。突然のことに驚く裕奈だったが、その女性の顔を見て、再び安心した表情へと変えたのだ。それこそ裕奈の母、夕子だった。この戦いで頑張った裕奈に、笑みを浮かべ、ねぎらいの言葉をかけにきたのである。

 

 

「おかーさんこそ、張り切りすぎじゃない?」

 

「久々に頑張っちゃったからねー」

 

 

 夕子の顔を見た裕奈は、疲れていた表情をやめ、笑顔となっていた。また、そう言う母こそ、頑張りすぎなのではないかと言葉にしていた。魔法使いを引退したのに、よくやると思ったのだ。その裕奈の話に、夕子もガッツポーズで久々に頑張ったと豪語して見せていた。少し齢を考えずはしゃぎすぎたと思ったようだが、後悔は無い様子だった。

 

 

 

 テントに設けられた救護室。その外で二人の少女が空を見ていた。それは夕映とのどかの二人だ。そこで、戦いが終わり決着がついたことを、二人は理解したようだ。

 

 

「無事に終わったみたいですね」

 

「そうだね」

 

 

 戦いは無事終わった。ネギたちが勝利したのだと、二人は確信した。二人は視線を移し向き合い、微笑みあっていた。ネギたちが戦いに勝った喜びを分かち合っていた。

 

 

「ネギ先生たちも戻ってくるです。迎えに行きましょう!」

 

「うん!」

 

 

 そこで夕映はネギたちが空から降りてくると考え、迎えに行くことを提案した。のどかもそれに賛成し、元気よく返事したのだ。そして、二人は仲良くネギたちが降りてくる予定の場所へ、走っていったのである。

 

 

 広場の一角にて、バーサーカーが鬼神へと攻撃を仕掛けていた。だが、その時、鬼神は消滅してしまったのだ。それを見たバーサーカーは、スッと大地に降り立ち、自分たちが勝ったことを理解したようだった。

 

 

「おぉ? 鬼神が消えちまったぜ。これから楽しくなると思ったんだが、まぁ俺らの勝ちってところか」

 

「これにて一件落着ですね」

 

 

 鬼神が消えたことに、バーサーカーは多少なりにガッカリしていた。ようやく面白くなってきたというのに、面白そうな相手が目の前で消えてしまったからだ。ただ、勝ちは勝ちなので、それでいいかとも思ったようだ。その横にいつの間にか立っていたマタムネも、一件落着と言葉にしながら表情をゆるめていたのだった。

 

 

 

 こうしてビフォアの手から麻帆良は守られた。司会をしていた和美もそれがわかったようで、次に自分のすべきことを行動したのである。

 

 

「やりました! ヒーローユニットの一人である噂の子供先生、ネギ・スプリングフィールドと天才少女、超鈴音が、悪の根源を倒した模様です! 我ら魔法騎士団は、未来人の侵略から麻帆良を守りきったのです!」

 

 

 そう、勝利の宣言だ。麻帆良を守るために参加した人たちへ、戦いに勝ったことを高らかに告げたのだ。その勝利に和美自身も喜び、明るい笑顔で勝利を叫んでいた。

 

 ただ、()()()()モニターで戦いが映し出された訳でも、戦いを見ていた訳でもなかったので、和美にはどうやって戦いに勝ったかはわからなかった。それでも、超から借りていた通信機にて、勝利の報告があったので、それで戦いに勝ったことを知ることが出来たのである。

 

 また、周りの参加者たちも、その和美の勝利宣言を聞き、喜びの声を上げていた。一時はどうなることかと思われたが、無事に戦いに勝利できたことを喜び笑っていたのである。参加していた転生者たちも、同じく勝利の喜びを味わっていた。麻帆良祭が無事に終わる。それだけで転生者たちは、十分満足していたのだ。

 

 

 喜びの喝采が響き渡る中、くすぶる闘志を燃やす男たちがいた。カズヤと法である。二人も鬼神と戦うために広場へ参上し、攻撃を仕掛けていた。しかし、攻撃を仕掛けた直後に鬼神が消滅したため、カズヤは驚いた様子を見せていた。

 

 

「なっ!? デカブツが消えやがった!!?」

 

「どうやら終わったようだな……」

 

「はっ、そうかい……」

 

 

 どうやら無事に戦いが終わったと、法は厳しい表情から安堵の表情へと変えていた。カズヤも法の言葉に安心したのか、全身の力が抜けていく感覚を受けていた。いや、違う。能力の使いすぎで、限界を超えてしまっていたのだ。ゆえにカズヤは一言述べると、ゆっくりと前に倒れてしまったのだ。そして、倒れた直後に右腕のアルターが解除され、粒子となって消え、普段の腕へと戻っていた。

 

 

「カズヤ!? おいカズヤ……! ……力を使いすぎたか……」

 

 

 完全に意識を手放し、うつぶせに倒れたカズヤを見て、法は能力の使いすぎによる代償だと理解したようだ。ここまで必死になる必要があったかはわからないが、やりすぎてしまったのだろうと法も考えた。また、法も同じくアルターを解除、粒子となって消滅させていた。

 

 

「くっ、俺も人のことを言える状況ではないようだな……」

 

 

 ただ、法も力を使いすぎた。かなり厳しい状況だ。何とか二の足で立っているが、体がほとんど動かない状況だった。この状況でカズヤを抱え、戻るなど不可能。地面に倒れ、気を失ったカズヤの前へとやってきて、救援を求めようと考えていた。

 

 その二人のすぐ近くで、空を眺める男が一人。それはあの直一だ。直一はビフォア打倒のために、超の仲間だった男だ。この戦いが無事に終わったことを、内心喜び安心していた。

 

 

「何とか無事に終わったみたいだな……」

 

 

 長い戦いは終わった。ビフォアは敗れ去った。そう考えると、ようやく一安心できるものだと、直一はニヒルに笑っていた。終わったのだから戻って休憩でもしようと直一は考え、アジトへと歩き出したのだ。

 

 

「ん? おい、法!? そこに居るのはカズマか!?」

 

「直一か……。どうやら俺もカズヤも、力を使いすぎてしまったようだ……」

 

 

 しかし、少し歩くとそこにはカズヤと法が居るではないか。法はかなりだるそうにしており、明らかに疲労の色が見て取れた。カズヤは完全に倒れており、動く気配すらなかったのだ。それを見た直一は流石に驚いた。と言うか能力を派手に使いすぎだろうと、そこまで無茶するとは思っていなかったのだ。

 

 直一の驚きの叫びに、法も直一の存在に気がつき話し出した。苦しそうに立ちながら、力を使いすぎたと説明を始めたのだ。

 

 

「んなもん見りゃわかる! しょうがねぇな、とりあえずアジトまでつれてってやる」

 

「すまない、助かる……」

 

 

 とはいえ、そのぐらい一目瞭然。明らかに力の使いすぎによる疲労なのは、直一も簡単に理解できることだ。そんなことよりも早く休ませなければと直一は思い、倒れたカズヤを背負い、法の肩を貸してアジトの方へと歩き出したのだった。

 

 

 直一たちとは別の麻帆良の一角で、ロボ軍団と戦っていたものたちがいた。数多と焔だ。数多はロボ軍団が突然動かなくなったことを不思議に思ったようである。

 

 

「お? ロボが岩みてーに動かなくなったぞ?」

 

「こっちもだ」

 

 

 ロボが動かなくなったことを見た数多は、戦闘態勢を解きロボへと近づいた。さらに、コンコンと頭をたたき、安全かどうかを確かめてみた。そして、こっちのロボが動かなくなったことを焔へ告げると、同じように別のロボも動かなくなったと、焔は答えていた。

 

 

「鬼神とやらも消えたようだし、どうやら俺らが勝ったようだぜ」

 

「の、ようだな」

 

 

 デカデカと存在感を出していた鬼神も気がつけば消えていた。ならばビフォアとかいうおっさんを倒せたのだろう。そいつの野望を打ち砕いたのだろう。そう数多は言葉にしていた。焔も目の前のロボが動かないならば、そうなんだろうと思ったようだ。また、確かに遠くから勝利宣言が聞こえてきている。ならば、もう戦いは終わったのだと、二人は多少なりに安堵した様子を見せたのだ。

 

 

「しかし、()()()()()、とうとう姿を見せなかったな」

 

「あのヤローとは……?」

 

 

 だが、ひとつ数多には気がかりなことがあった。それは昨日突然現れて、喧嘩を吹っかけてきた男のことだった。コールドと称した男は、この戦いに姿を見せることはなかった。一体何者なのだろうかと、数多は不安げながらに独り言をこぼしていた。その数多の言葉に、焔は反応を見せていた。あの野郎とは一体何者なのだろうかと、そう疑問を感じて数多へと質問したのだ。

 

 

「いかすかねーヤローさ。ロボ軍団の仲間だと思ってたんだが……、どうやら違ったようだな」

 

「そいつは敵なのか……?」

 

「明らかに敵だったが……、目的は不明だった」

 

 

 その質問に数多は答えた、スカした冷血野郎だと。ロボ軍団の仲間だとも考えていたとも。しかし、ついにコールドは姿を現さなかった。ならばロボ軍団の仲間ではなかったのだろうと、数多は考えを改めていた。

 

 そこで、現れなかったならば敵なのかどうかさえわからないと、焔はそこを追求した。その男は本当に敵だったのかどうか、焔は見たことがなかったので、なんともいえなかったようだ。

 

 ただ、数多はそのコールドとは一戦を交えている。一方的にボコられて敗北したのだ。明らかに言動は敵そのものだったのは事実である。それでも目的だけは不明であり、一体何がしたかったかも数多すらわからなかった。

 

 

「……それってひょっとして、昨日”遊び”とか言ってたことか?」

 

「ん? あ、あぁ、そうかもしれねー」

 

「む? 随分歯切れが悪いな……?」

 

 

 と言うならば、どこでその男に出会ったのだろうか。ふと焔はそこに疑問を持った。そして、数多は昨日大怪我を負って、さらにそれを遊びと称した。ならば、その男と数多が戦ったのではないか、そう考えてそのことを数多へ聞いてみたのだ。

 

 すると、やはりはぐらかすような言い方で、数多は質問に答えていた。まさか喧嘩をふっかけられたあげく、ボコボコにされたなど、妹には恥ずかしくて言える訳がなかったのだ。そんな落ち着かない様子を見せる数多に、焔は首をかしげてハッキリしないと思ったようだ。

 

 

「ま、まぁ、いいじゃねーか!」

 

「言いたくなければ無理には聞かないが……」

 

「そうしてくれや」

 

 

 そこで数多は気にするなと、あわてながらに言葉にしていた。そんなよそよそしい数多を見た焔も、まあそれなら聞き出すこともないと、諦めた様子を見せていた。いやはや、それは助かると数多は思い、焔へとヘコヘコとしていた。そんな数多を、まったく持って変なヤツだと焔は考え、腕を組んで横目で見ていたのだった。

 

 

 

 麻帆良湖のほとりは闇に染まり、静けさだけが残っていた。イベントの参加者たちは麻帆良へと戻り、ほとんどの人はこの場所にはいなかった。そんな静けさだけが残った場所に、二人の影があった。月明かりと麻帆良の光に映し出された影は、少年と男のものだった。

 

 ただ、片方の男は仰向けに倒れており、いたるところから血を流し、さらには全体的にやけどしているのも見て取れ、今にも死んでしまいそうな状態だった。そんな男の横で立ち伏せ、男の方を見下ろす少年が居た。

 

 

「終わったみたいだな……」

 

「……の……ようだ……な……」

 

 

 少年は錬だった。ならば倒れ伏せているのはムラジという男だろう。つまり、二人の戦いで勝利したのは錬の方だったのだ。錬もある程度傷を負っているが、ムラジほどではないようだ。

 

 錬は麻帆良の方を見渡すと、お祭りムードが漂ってきていた。ならば戦いが終わり、こちら側が勝利したのだと確信できた。それは瀕死で倒れているムラジも同じだったようだ。

 

 

「生きていたか」

 

「なん……とか……な……」

 

 

 先の言葉は独り言だったが、その言葉に反応したムラジを見て、錬は生きていたのかと言葉にした。あれほどの膨大な雷に打たれ、もはやボロボロだ。生きているのが不思議だったのである。ムラジもその錬の言葉に、苦しそうに話していた。すでに体は動かず、意識が飛びそうになっているような状況だったのだ。

 

 

「俺は……、お前と戦えて……、満……足さ」

 

「俺もキサマほどのシャーマンと戦えて、満足している」

 

 

 それでも話したいことがムラジにはあった。ここまで打ちのめされてしまったが、シャーマンと戦えたことに満足だと、そう言いたかったのだ。また、錬も同じだった。だから錬も、お前のような強力なシャーマンと戦えて、満足していると答えたのだ。

 

 

「俺は少し……休ませても……らう……ぜ……」

 

 

 その言葉にムラジは満足し、笑みを浮かべながら目を瞑った。まあ、実際はサングラスをしているので、錬にその行動はわからなかったのだが。

 

 

「死んだか? ……気を失っただけか」

 

 

 ただ、錬は完全に動かなくなったムラジに、今度こそ死んだのかと思ったようだ。しかし、息はしているのがわかったので、気を失っただけだと考えたようだ。とりあえず錬は救護班にムラジのことを報告し、再び視線を麻帆良へと戻した。この祭りで死人を出すわけには行かないと思ったのである。

 

 

「戦いは終わったみたいだが、あっちの状況はどうなっているのか」

 

 

 そして、この戦いは終わったのはわかったが、今麻帆良がどういう状況なのかはわからなかった。確かにお祭りムードなのだろうが、街の状況までは確認せずにはいられなかったのである。だから錬はムラジを置いて、麻帆良へと足を急いだのだった。まあ、ムラジは後に駆けつけるであろう医療班に任せれば良いと、そう考えていたところもある。

 

 

 

 学園側へマルクを引き渡すために急いでいた真名と楓。ふと空を見上げると、戦いが終わったことがわかった。また、それが自分たち側の勝利だと言うことも、同時に理解したようだった。

 

 

「どうやら私らの勝ちのようだな」

 

「うむ、何とかなったでござるな」

 

「……そうか……」

 

 

 勝ったことを話す真名と楓。その後ろでそれを聞きながら、どうでもよさそうに俯きながら、そうかと一言つぶやくマルク。もはやマルクは生きる希望を失い、死んでもいいというほどの心境だったのである。しかし、運命なのか、またしても転生神のイタズラなのか、彼らの目の前にある人物が現れたのだ。

 

 

「ハッ!!」

 

「どうした?」

 

「あ、ああ、ああああああ……!!」

 

 

 その人物を目にしたマルクは、突如変な声を上げ始めた。一体どうしたというのか、真名はそう疑問に感じた。そして、さらに奇妙な声を上げ、震え始めるマルクに、真名は少し引いていた。

 

 

「急にどうしたでござるか!?」

 

「わからん……。むっ、前に人が居るようだが……」

 

 

 突然のマルクの変貌に、楓も驚かざるをえなかった。まったく理解出来ないマルクの行動に、真名も頭を抱えていた。が、薄暗い夜道に祭りの明かりが照らされ、自分たちの目の前に、誰かいることに真名は気がついたようだ。

 

 

「うおおおおお! 聖・少・女様アァァ――――――ッ!!」

 

「は、はい……?」

 

 

 その人物に、突如マルクが奇声を上げて、ゴキブリのように駆け寄っていった。その動きがすばやすぎたのか、マルクの行動がおぞましかったのか、真名も楓も反応出来なかったようだ。そして、マルクが近寄った人物こそ、あの聖歌だったのである。

 

 突然変なメガネの男に這い寄られた聖歌は、腰を引きながら目を丸くして驚いていた。こんな知らぬ変人が寄ってきたら、誰だって引くのは当然だろう。

 

 

「おおおぉぉぉぉ……、これはまさに運命! 神が私に与えた奇跡!!」

 

「え? な、なんでしょう……?」

 

 

 さらに、マルクは聖歌の顔をまじまじと見るや否や、号泣しだしたのだ。神の奇跡だ運命だと叫びながら、一人で盛り上がり始めていたのである。それを間近で見た聖歌はかなり困惑していた。いきなり目の前でいい年した男が泣き出すのだ、かなり気色悪いとしか言いようがない。少し表情を引きつらせながらも、一体どうしたのかと聖歌はマルクへと尋ねていた。だが、本人は号泣して神だのなんだの叫ぶだけで、ちっとも会話が成り立たなかったのだった。

 

 ――――――このマルク、特典にシャーマンキングのマルコの能力を得た転生者だ。また、そのマルコが居た組織の長である、アイアンメイデン・ジャンヌの熱狂的なファンだったのだ。して、目の前に現れたのは、そのアイアンメイデン・ジャンヌの特典を与えられた聖歌が現れたのだから、運命だと思うのも仕方ないことだった。ただ、特典だのをあまり理解していない聖歌には、非常にはた迷惑な話でしかないのである。

 

 

「突然どうしたんだコイツは……」

 

「うーむ、わからぬ……。あちらは知り合いでもなさそうでござるし……」

 

 

 マルクの謎の変貌に、真名も楓もドン引きだった。一体何がどうなっているのか、理解できなかったのだ。いや、理解などしたくもないだろう。そして、目の前の少女はマルクの知り合いという訳でもなさそうだと、楓は思っていた。何がなんだかわからない様子を、聖歌が見せていたからだ。と、そこへもう一人、その少女に少年が近寄ってきた。

 

 

「おい、キサマ! 何をしている!」

 

「あ、錬!」

 

「な、何イィ!?」

 

 

 錬である。錬はムラジを置いて麻帆良の状況を確認しにやってきて、たまたまここを通ったのだ。そしたら自分の友人たる聖歌が、変なメガネに絡まれているではないか。一体何事だと思い、とっさにこの場へやってきたのである。

 

 聖歌は錬の登場に、安堵の笑顔を見せていた。知らぬおっさんが突然泣き出し困っていたところに、助け舟が来たからだ。しかし、その錬の姿を見たマルクは、今度は仰天して絶叫したのである。同じシャーマンキングの原点の特典を持ち合わせているだろう錬が、目の前に現れたのだ。まあ驚くのは当然だろう。

 

 

「キサマ、彼女に何をした!」

 

「き、貴様こそ何者だ!!?」

 

「何をしたとこっちが聞いている!!」

 

 

 錬は目の前の男が転生者だと一瞬で理解した。原理はマルクと同じである。そこで、聖歌に何かしたのではないかと考え、鋭く睨みマルクを威嚇したのだ。また、マルクも錬に、何者だと叫んでいた。突然現れて目の前の少女になれなれしくするこの少年に、なぜか怒りがわいたようだ。その質問に質問を返された錬は、さらにヒートアップしたようで、先ほど以上に怒気を発し、叫んで再び質問を返したのである。

 

 

「何かさらにややこしいことになったみたいだな……」

 

「一体どうなってるんでござるか……」

 

 

 真名も楓も目の前の光景に置いてきぼりを食らっていた。なんと話が蛸足電線のようにややこしくなってきており、もう近寄るのも億劫な状態だった。だが、そうも言っていられないので、とりあえずマルクを引っ張って、無理やり学園へと連れて行くしかなかったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 麻帆良女子中等部、その校舎の屋根の上で、いまだに三人がにらみ合いを続けていた。戦いが麻帆良側の勝利で終わったことに、安堵したいエヴァンジェリンと学園長の二人。だが、目の前の上人が未だに不気味に微笑みながら、その二人を監視し続けていた。ゆえに、エヴァンジェリンも学園長も、気を抜くことが出来ずにいたのだ。

 

 

「ハハハッ、ビフォアは敗北しましたか」

 

「まったく気にしてないようだな」

 

 

 上人は笑いながらも、ビフォアが敗北したことを語っていた。まるで自分には関係ないと言いたげな、そんな様子だったのだ。その上人をイラついた目つきで睨みつけ、やはりビフォアを気にするようなヤツではないかと、エヴァンジェリンは言葉にしていた。

 

 

「えぇ、別に彼とは契約しただけの仲。特に思いいれなどはありませんから」

 

「……で、貴様はどうするつもりだ?」

 

 

 契約しただけの仲。上人は冷酷にそう述べた。思いいれもなく、仲間意識すらなかったと、そうつまらなそうに話したのだ。もはや上人のそんな態度に慣れたのか、エヴァンジェリンは今の話を無視し、次にどういう行動に移るのかと、上人へと睨んだまま聞いたのだ。

 

 

「私は何もしませんよ。後は帰るだけです」

 

「帰るだと?」

 

「はい、そうです。元いた場所へ帰るだけです」

 

 

 そこで悪びれた様子もなく、帰るだけだと語る上人。もはやこの場所には用済み、長居など無用なのだと言う感じだった。その帰るという上人の言葉に、顔をさらにしかめるエヴァンジェリン。学園長と自分を前にして、何食わぬ顔で帰るなど、簡単に出来ると思っているのか、そうエヴァンジェリンは思ったのだ。

 

 

「私たちがそうやすやすと帰すと思っているのか?」

 

「おや? 先ほどは早くいなくなってほしいとおっしゃられていませんでしたか?」

 

 

 だからそう易々と帰す訳がないと、エヴァンジェリンは言葉にした。コイツをこのまま帰す訳には行かない。先ほどの光といい目的といい、色々聞きたいことがあるからだ。だが、上人はそのエヴァンジェリンの言葉に鋭く切り返した。さっきまでは目の前から消えて欲しいと、確かにエヴァンジェリンが話していたからだ。なんという人の揚げ足を取るのがうまい男だろうか。そういう部分も腹が立つことこの上ない。

 

 

「その後、もう少し付き合ってほしいと貴様も言っただろう?」

 

「おや、そうでしたか? 最近物忘れが激しいものでして」

 

「白々しいヤツだ……」

 

 

 しかし、そこへエヴァンジェリンもしっかりと指摘した。もう少し付き合っていただくと、上人が言葉にしていたからだ。そのエヴァンジェリンの指摘に上人は、白を切りながら笑っていた。とぼけた表情をしながら、憎憎しげにくだらない言い訳をしたのである。なんと白々しい、エヴァンジェリンは上人のその態度に、もはや怒りすら湧いてこなかった。こんなヤツに怒るだけ無駄だと、完全に諦めたようだった。

 

 

「それにだ、こっちのジジイは貴様に用があるらしいからな」

 

「うむ……。おぬしが一体何者なのか、どうしてあのものに協力したのか、聞きたいことが山ほどあるのでのう」

 

 

 また、自分だけではなく学園長もお前に用があると、エヴァンジェリンは上人へと話した。当然、学園長も気になることは山ほどあった。一体何がしたいのか、どんな力を持っているのか、色々と聞きたかったのだ。それに、かなり危険な人物だと予感していた学園長は、学園を守るために何としてでも拘束しておきたいとも考えていたのである。

 

 

「ハハハッ! そんなつまらないことを聞くために、この私を引き止めないで頂きたい」

 

「我々にとっては大変重要なことなんじゃが……」

 

 

 上人はそんな二人に対し、高笑いを始めたのだ。まったく持ってつまらない質問を答えさせ、無駄な時間を使わせないでほしい、上人はそう馬鹿にした様子で言葉にしたのだ。だが、学園長にとってはかなり重要なことだ。上人が何者で、その力は何なのか、さらに学園に対して何か行なおうとしているのではないか。それらを知る必要があったからだ。

 

 

「それに、私はあなた方のように暇ではないのですよ」

 

「ふん、私も貴様と話している時間は惜しいがな」

 

 

 しかし、上人は学園長を相手になどしていない。このような暇なことなど、している時間すら惜しいと言い放つだけだった。エヴァンジェリンもその上人の言葉を聴き、お前との話す時間がもったいないと、少し挑発していた。と言うか、いちいち癇に障る上人に、そのぐらいの皮肉を言わないとやってられないのである。

 

 

「何、時間は取らせんよ。少し話をするだけじゃ」

 

「嘘をついてはいけませんよ? すぐに帰す気がないのぐらい、私だってわかりますよ」

 

 

 それでも何とか上人をとどめたい学園長は、言いくるめようと優しく話しかけた。だが、上人には学園長の魂胆など、最初からわかっていた。話を聞くだけなんて甘いはずがない、嘘だと。自分ほどの強大な力を持った人間を、話をするだけですぐに解放するはずがないことぐらい、誰だってわかるだろう、と。

 

 

「そして、もう私とビフォアとの契約も切れました。ここに居る必要は皆無なのですよ。ですから、私は帰らせていただきます」

 

「待て!」

 

「ぬっ!?」

 

 

 もう用はない、自分が知りたかったことは全て知った。それに、この茶番に付き合ってなど居られないと上人は思い、帰ると言葉にした。すると、なんと上人は突如学園長とエヴァンジェリンの目の前から消えたではないか。

 

 逃げそうな雰囲気を察したエヴァンジェリンが、とっさに右腕を伸ばしたが、すでに遅かった。もうすでに、上人が消えた後だったのだ。学園長もこれには驚かざるを得なかった。突然人が消えるなど、魔法ですら不可能だからだ。

 

 

『では、お二方、また会えるなら会いましょう。それでは』

 

 

 そして、挑発なのだろうか。上人から最後の挨拶として、テレパシーが二人に届いた。

まったくもって最後まで腹が立つ男である。

 

 

「消えたじゃと!? 魔力すら使わずに……、なんと言う力か……」

 

「チッ……」

 

 

 しかし、学園長はそのテレパシーを気にしている余裕などなかった。上人は魔力も使わず、媒介もなく、突然消滅したのだ。はっきり言って異常としか言いようがない光景だ。魔法使いの常識すら超えたその力に、学園長は戦慄を覚えたのである。

 

 エヴァンジェリンも、悔しそうに舌打ちすることしかできずにいた。魔法ならば追跡することが可能だ。転移の魔法などを追跡する魔法だって存在するのだ、エヴァンジェリンがその程度の魔法を使えないはずもないだろう。だが、上人は何も痕跡を残さずに、瞬時に消えて見せた。明らかに透明化して消えた訳でも、幻影でもない。本当に目の前から消えたのだ。

 

 ――――――テレポーテーション、それが上人の使った技。瞬時に自分や他の物体を、別の座標に移動するというものだ。上人の特典は超能力の操作。この程度は朝飯前といったところなのである。この力のおかげで、移動できない場所など存在しないのだ。

 

 

「私が知りたかったものが全てわかりました。理解しました。では、お待ちしておりますよ、皆さん……」

 

 

 麻帆良から遠く離れたビルの屋上で、麻帆良の方向を眺める上人が居た。何度かテレポーテーションを行い、遠くへと移動したのである。上人は麻帆良を懐かしむように眺めながら、次の行動について考え始めていた。そして、気が済んだ様子で麻帆良から背を向け、また別の場所へとテレポートして行ったのだ。自分の計画を遂行するために、待っていると言葉を残しながら。

 

 

…… …… ……

 

 

 同じく、麻帆良から数キロはなれたビルの屋上にて、数人の男が立ち尽くしていた。

一人は赤色のコートを身にまとった、白髪の男だった。

 

 

「ふむ、学園祭も無事におわったようだな……」

 

 

 それは転生者の一人である、あのアーチャーとか言う男だった。アーチャーは自分の目を使って、数キロはなれた麻帆良を監視していたのだ。と言うのもアーチャーには千里眼と言うスキルがある。それを使えば数キロ先まで、何も使わずに見ることが可能なのである。

 

 このアーチャーこそ、麻帆良祭りの二日目で、ネットにネギのプロフィールを載せた張本人だ。何せアーチャーは原作遵守に必死な男、超が敵として戦っていないことを察したアーチャーは、すぐさま原作通りに進めるべく、そういった工作を行っていたのだ。そして、何事もなくとはいかなかったが、無事に麻帆良祭が終わったことに、満足した様子を見せていた。

 

 

「で、お前はアレでよかったのか……?」

 

 

 そこで、アーチャーは後ろに立つ一人の男へと、姿勢を変えずに語りかけていた。多少なりに心配するような、そんな感じの質問だった。

 

 

「あぁ、問題ない」

 

「しかし、あれでは会ったと言えないだろう?」

 

 

 その男は短い茶髪の髪の男だった。服装も茶色をした地味な色で、多少動きやすそうな感じのものだ。その男はアーチャーの質問に問題ないと、淡々とした声で一言答えた。ただ、アーチャーはそれでも気になったようだ。その男には久々に会いたい相手がいたからだ。そして、会いたかった人に、話しかけるわけでもなく、目の前に姿をさらしただけだったからだ。

 

 

「今度会うときは敵になるんだろう? それならこの方がいい」

 

「確かにそうだが……」

 

 

 しかし、その男はそれで良しとした。次に会う時に、その相手が敵となる。ならば、それが一番だと言葉にしたのだ。アーチャーもその男の言動に、多少なりと困惑していた。確かに男が会おうとした相手は、確実にこちらの敵となる人物だ。だからアーチャーも言葉が続かずに、黙ってしまったのである。

 

 

「フッ、いまさらつまらん情が湧いても困る。これでいいのさ……」

 

「そうか……」

 

 

 そんなアーチャーに、男はふと笑って見せた。気にするな、そう言いたげな笑いだった。それに、敵として相手するならば、今さら情が出てきても面倒なだけだと、ならばこれで正解だと、そう男は答えたのだ。アーチャーも、男がそこまで言うのならばと、もうこの話は終わりにしようと思ったようだ。

 

 

「そっちはどうだった?」

 

「俺か? そうだな、俺は面白そうなヤツを見つけた」

 

 

 そして、アーチャーの横に座り込む別の男へと、アーチャーは語りかけた。その男こそ、数多を倒したあのコールドと言う男だった。コールドと言う男もまた、アーチャーの仲間だったようだ。

 

 アーチャーの質問にコールドは、不敵な笑いを見せながら答えた。面白そうなヤツが居たと。まるで、新しいゲームを始めたような、そんな様子を見せていた。その面白いヤツとは、当然数多のことだ。アレは面白くなる、そうコールドは確信したのである。

 

 

「ほう、それはよかったな」

 

「だが、まだまだだ。もっと強くなってもらわないと面白くない……」

 

 

 ならばよかったと、アーチャーは素直な感想を述べていた。コールドも先ほどの男と同じく目的を達成したようで、ある程度満足していた。それでも数多はまだまだ弱い。弱いままでは当然面白くないと、コールドは思ったのだ。だから数多がさらに強くなって、目の前に現れることを望んでいた。次に会うときが楽しみであるよう、そう考えながら。

 

 

「では戻るとしよう。もう用はない」

 

「そうするか……」

 

「だな」

 

 

 三人ともそれぞれの目的は遂行された。ならばもう、この場所に用などない。次の行動に備え、戻ることにしようと、アーチャーは二人へ語りかけた。二人も同じ考えだったようで、三人は転移の魔法を静かに使い、そのビルから姿を消したのであった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。