理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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九十七話 最終段階

 ビフォアはついに本気を出した。そのため超とネギはビフォアを警戒し、動きを見逃さぬよう目を光らせていたのだ。そのはずだった。しかし、なんとビフォアは突如目の前から姿を消し、超とネギが驚いた瞬間、ビフォアは既に超の懐深くへともぐりこんでいたのだ。

 

 

「グアッ!?」

 

「え!? 超さん!?」

 

 

 早い、早すぎる。超は一瞬のことで理解が追いつかず、気がつけば腹部に鋭い痛みを感じ、後ろに吹き飛ばされた後だった。ネギも突如として吹き飛んだ超に、すぐに気がつかなかった。気がついた時には、すでに超は後方に吹き飛ばされ、倒れた状態だったのである。完全にノーガードで受けた超は、その苦痛に表情をゆがませていた。ビフォアの本気がこれほどとは、そう考えながら。

 

 

「遅すぎるぞ!」

 

「うわぁ!?」

 

「先ほどの威勢はどうした? ハッハッハッ!!!」

 

 

 さらに、超に気を取られていたネギは、ビフォアの瞬間的な移動に気がつかなかった。ビフォアの声がすぐ近くで聞こえた時には、既にビフォアがネギの左側へ回り込んだ後だったのだ。とっさにネギは障壁を張るものの、ビフォアは笑いながらそれを砕き、ネギの左頬へとこぶしを突き刺したのだ。拳を受けた痛みを感じるまもなく、ネギも吹き飛ばされ飛行船の上に寝かされてしまったのである。

 

 

「これほどとハ……」

 

「どおりでアスナさんたちが負けるはずです……」

 

 

 何と言う強さか。ビフォアの本気がこれほどのものとは。超は痛い体を押してゆっくりと立ち上がり、ビフォアの強さに戦慄していた。予想以上に強い、もう少し戦えると超は思っていた。だが現実は非情だった。超はビフォアを侮っていたわけではない。ただ、こんなにも強いとは予想していなかった。

 

 ネギもビフォアの本気に度肝を抜かれた。いや、ネギは自分の目の前で、アスナがいとも容易く、赤子をひねるように敗北したのを見ていた。刹那からも、アスナと共同で戦ったのにもかかわらず、敗北したことを告げられた。強いことは承知だったはずだ。それでも蓋を開けてみれば、圧倒的な差があるではないか。ビフォアは特典の力で原作キャラよりも有利に動ける。しかし、それだけではなく、ビフォア自身も相当な強さを秘めていたということだったのだ。

 

 

「どの道貴様らに万が一の勝ち目すらも……、なかったということだなァァ――――――ッ!!」

 

「来るヨ!」

 

「くっ!!」

 

 

 もはや勝ち目などないだろう、無駄なことだと。そうビフォアは叫びながら、さらなる追撃へと移った。来る。ビフォアが攻撃してくる。超はそのことをネギへと張り裂けるほどの声で伝え、自らも立ち上がり構えを取った。ネギも痛みを我慢しながら、ビフォアの攻撃に備えていた。それでも、それでもビフォアを目で追うことが出来なかった。二人はビフォアを一瞬にして見失ったのだ。

 

 

「がぁ!?」

 

「馬鹿ナ……!?」

 

 

 早すぎる。すさまじい速度で、ビフォアはすでに二人を蹴散らしていた。ネギも超も、気がつけばビフォアに殴り飛ばされているという恐ろしい状態だった。強い。ただそれだけが二人の脳裏に過ぎる。こんな強敵に勝てるのか、二人の脳裏に弱い考えが浮かぶ。

 

 

「時間転移で回避しようとしたようだが、甘いとしか言いようがないなぁ!!」

 

「なんてヤツだ……」

 

 

 ビフォアが瞬時に二人を攻撃したのには訳があった。二人はカシオペアを利用することによる、時間操作が可能だ。時間を操って攻撃を回避することだって可能なのである。それをさせぬために、見えぬ速度での攻撃をしたのだ。ただ、それだけで成功する訳ではない。ビフォアの特典があればこそ、可能な攻撃でもあるのだ。

 

 そのビフォアの強さに、流石のネギもたじたじだった。強すぎる。カシオペアの時間操作よりも早く攻撃してくるなど、予想などしていなかった。むしろ予想など出来る筈がないだろう。カシオペアは時間操作が可能なタイムマシンだ。それを利用することで、敵の攻撃など簡単に回避できるはずだ。いや、はずだったのだ。その操作よりも、早く攻撃してくるビフォアに、ネギも恐れを抱かざるを得なかった。

 

 

「甘すぎるんだよオオォォッ!!!」

 

「グックウゥ!」

 

「ううっ!」

 

 

 怒涛のビフォアの攻撃。瞬時にネギと超を同時に殴り飛ばしていた。時間操作を使わず、超スピードのみでビフォアはそれを可能にしていたのだ。特典プラスパワードスーツプラス魔力イコール最強。ビフォアはまさに、それを体現していたのである。すさまじい一撃だったが、ネギは直撃だけは避けていた。おかげですぐに体勢を整えることができたので、とっさにビフォアへ攻撃を行なったのである。

 

 

「このっ!」

 

「魔法など撃たせるものか!!」

 

「グッ!?」

 

 

 しかし、ネギに魔法を使わせるなど、ビフォアが許すはずもない。瞬動により即座にネギへと近づき、その拳でネギを黙らせたのだ。魔法は唱えられなければ撃つことはできない。ネギはビフォアの攻撃の痛みで、詠唱を中断してしまったのである。

 

 

「今ネ! ”アクセルシューター”!!」

 

「オグッ!? 何だと!?」

 

 

 そんなビフォアへと、謎の攻撃が襲い掛かった。ビフォアはネギに拳を撃ちつけた体勢で硬直中だった。そこを超が狙って、魔法を放ったのだ。それは桃色の光弾が、生き物のように空中を飛びまわり、ビフォアへと命中したのだ。そして、その魔法とは、この世界(ネギま)の魔法とは異なるものだった。それに、超は元々潜在的に高い魔力を宿していた。当然補助があるならば、その魔法を操ることは可能だったのだ。

 

 

「むうぅ!? 何だ今のは!?」

 

「ネギ坊主だけが魔法使いではないネ……!」

 

「ぬうう、その杖はまさか……」

 

 

 その魔法にはビフォアも見覚えがあった。そのため、すぐに超へと攻撃せず、ネギから距離をとって驚いた様子で超へと話し始めたのだ。さらに、そこでビフォアが見たものは、思いがけないものだった。それはまさに超が右手で握り締め、ビフォアへ向けていた杖だったのだ。

 

 その杖はこの世界とは無縁のもの。超の不思議な魔法とともに、ビフォアが知る異世界のものだった。だからこそ、ビフォアが驚き戸惑っていたのである。そう、この杖こそ未来の世界でエヴァンジェリンから貰った、デバイスなる杖だったのだ。そして、その内部に登録された魔法を超が使ったからこそ、ビフォアが驚いていたということだった。いや、それだけではない。超がその杖をどうやって手に入れたのか、どうやってその魔法を起動出来たのか、ビフォアにはわからなかったというのもあったのだ。

 

 

「”雷の暴風”!」

 

「”ディバイン・シューター”!」

 

 

 そのビフォアが驚いている隙をつき、ネギと超が魔法を放つ。ネギは強力な雷系の魔法を、超はその杖に登録されているひとつの魔法を。それぞれの魔力を魔法に乗せ、ビフォアへと撃ちはなったのだ。そのすさまじい雷と嵐や、桃色の光の線がビフォアを呑み込まんとしていた。

 

 

「クックックッ……、フッフッフッ……ハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 

 二人の渾身の魔法がビフォアを襲う瞬間、なんとビフォアは、高く大きな笑い声を上げながら軽々と回避して見せたのだ。いや、単純な砲撃魔法だったからこそ、ビフォアにとって回避が容易だったのだろう。そして二人にすばやく近づきながら詠唱を唱えると、両腕を二人へとかざしその魔法を放ったのだ。

 

 

「”燃える天空”!!」

 

 

 燃える天空。空をも燃え上がらせ焦がすほどの、爆発を打ち出す魔法。原作でも超がよく使い、得意にしていた魔法だ。それをビフォアが放ったのである。すさまじい爆発と炎は飛行船上で巻き起こり、闇に染まっていた天すらも明るく照らしたのだ。そして、その衝撃は、波となって周りの空気を振動させていた。恐ろしい破壊力である。

 

 

「なっ!? ぐああッ!?」

 

「うっぐっ……!?!」

 

 

 しまった、そう思った時にはすでに遅かった。超とネギは防御が遅れ、最小限の防御で何とかビフォアの魔法をしのいでいた。だが、やはり最小限での防御、ダメージは相当だった。二人は真逆の方向に吹き飛ばされ、再び飛行船の上で寝かされることになってしまったのだ。

 

 

「派手だねェ、呆れるねェ。こッちのことも考ェてほしィねェ……」

 

 

 そして、今の衝撃は飛行船を揺るがすほどでもあった。ゆえに、白衣の男は科学を駆使したシールドで、衝撃や熱、煙などを防いでいた。さらに、派手にやらかしたビフォアへと、本人に聞こえないような小さな声で、ぶつくさと文句を言っていたのだった。

 

 

「ふん、俺とて元々魔法教師、この程度なら扱えるぞ。機械に頼ってばかりだと思ったのか?」

 

「……そうだたネ……、うかりしていてヨ……」

 

 

 ビフォアが魔法を使った。元々魔法先生でもあったビフォアにとって、魔法が使えることは極当たり前のことだった。機械の鎧以外にも、魔力で身体能力を強化できるのだから、攻撃魔法も使えないはずがないのである。

 

 また、二人はビフォアが戦闘で、機械の鎧のみに頼っていると思っていた。ビフォアが元々魔法先生だったということを、失念してしまっていたのだ。そんな単純なことを忘れていた超は、ウッカリしていたと後悔していた。しかし、すでに遅い、今の攻撃で二人は窮地に立たされてしまったのである。

 

 さらに、駆けつけた仲間たちも、ロボ軍団に阻まれ、ネギたちを助けに行くことができなかった。なんというロボ軍団の数だろうか、まだまだ集まるロボ軍団は、ビフォアに近づけまいと特攻まで行ってきていたのだ。この状況では、到底ネギたちを助けにいけない。アスナたちは二人の安否を心配しながら、一刻も早く飛行船へ近寄るべく、ロボを倒して回るしかなかったのである。

 

 カギも飛行船へと近づきたい。ヴィマーナに乗っている自分が、最も飛行船へ近づきやすい存在だと、カギは思っていたからだ。されどロボ軍団が集団で飛ぶ羽虫のごとく、それを邪魔するのだ。そして、恐ろしいことに王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を使って武器を飛ばしても、ロボが盾となって飛行船に届かせぬようにしているのだ。ただ、カギがビフォアと対峙したところで、ビフォアに攻撃は通用しないだろう。牽制にすらならぬ攻撃で、ネギたちの窮地を救えるかを考えれば、微妙なところでもあったのである。

 

 

「しかし、超とやら。貴様が使った魔法、どうして使えるのかね?」

 

「……」

 

「だんまりか。まあ、どうでもいいことだったがな」

 

 

 もはや二人は体全身が痛み、立ち上がることさえ困難となっていた。もはや今の攻撃で動けず、うつぶせの状態で倒れている超の前へと、ビフォアはゆっくりと歩き先ほどの魔法について質問したのだ。どうしてあの魔法が使えたのか。ビフォアは非常に気になった。あの魔法は”他の作品(リリカルなのは)”の魔法だ。”この作品の世界(ネギま)”の魔法ではない。ビフォアはそれを知っていたからこそ、気になってしかたがなかったのだ。どうやってそれを身に着けたのか、その杖をどこで手に手に入れたのか、知りたかったのだ。

 

 しかし、超は答えない。真上から見下すビフォアへ、反逆の心で睨み返していただけだった。超はビフォアにそのことを話す必要性も、義務も、義理も、何もない。だから話す必要などないと、ビフォアを黙って睨んでいただけだったのだ。

 

 数秒間にらみ合いが続くと、それならまあ仕方がないと、ビフォアも思ったようだ。確かに興味はあったが、知らなくても問題ないことだ。どうせ転生者か誰かが根回ししたか、与えた力なのだろうとビフォアは勝手に完結し、小さく息を吐き出して諦めたのだった。

 

 

「これでわかっただろう? 貴様らと俺では、圧倒的な差があるということが」

 

「えぇ……、痛いほどに……」

 

「またくネ……」

 

 

 どうだ、お前たちと自分では、これほどの差があるのだ、諦めろ。ビフォアは勝ち誇った表情で、二人へと告げた。もはや勝機はゼロに近い、絶望的な状況だ。二人はそれを理解していた。体はビフォアの魔法ですでにボロボロ、限界寸前だ。立ち上がろうとしても、言うことを聞かない。そんな状態だった。

 

 

「ならおとなしく降参しろ。そうすれば悪いようにはしない」

 

「……それはできません」

 

「何?」

 

 

 もはや勝負する必要すらない。ビフォアはそう思ったのか、二人に降伏しろと問いただしたのだ。今ここでおとなしく降伏するならば、悪いようにはしないと。しかし、ビフォアの性格から考えれば、そんなことはありえないだろう。この男は平気で嘘をつく、仲間すらも不要となれば簡単に切り捨てる。そんなやつを信用するなど、出来るはずがない。降参など、出来るはずもないのだ。

 

 だからこそ、降参は出来ないと、ネギは苦痛を我慢しながらも、立ち上がり宣言した。お前の言葉に惑わされないと。そんなネギの否定の言葉に、ビフォアはピクリと反応し、多少苛立った声で一言つぶやいていた。

 

 

「どの道お前は信用できないネ。それに私たちは……」

 

「あなたに負けるわけには……」

 

「いかないネ……!」

 

 

 信用など出来ない、ハッキリと超はビフォアへ向かってそう発した。傷ついた体に鞭を打ちつつ、立ち上がりながらそう言った。そして、ここで負けるわけには行かないと。たとえ99%勝ち目が無くとも、1%の勝機があるならば戦うのみ。そうだ、ここで倒れるわけには行かない。二人はそう、強く大きく言葉にしたのだ。

 

 

「チッ、何度やっても無駄だというのに……。おい儀式はどうなっている!?」

 

「もうじきさァ! 最後の詠唱、その一節を唱ェれば完成するゥ!!」

 

 

 なんと愚かな、なんと無駄なあがきを。何度やっても自分には勝てないと言うのに。ビフォアはもはや呆れてきていた。こんなくだらない茶番など、さっさと終わらせてしまおう、そう思ったのだ。そこで白衣の男へと、儀式の進み具合を聞いたのである。白衣の男は景気よい声で、もうすぐ終わると述べていた。もうすぐ儀式は完遂される、もうすぐ自分の野望は達成される、そう思ったビフォアは、最後の仕上げに取り掛かったのだ。

 

 

「ならば最終段階に入るとしよう! 起動せよ! 鬼神どもよ!!!」

 

「何!?」

 

 

 計画の最終段階、そうビフォアは言った。そして、とうとう鬼神を使うようだ。ビフォアはこの時のために、ずっと鬼神を隠してきたのである。それが今、ここにきて起動されたのだ。そのビフォアの言葉で、超とネギに緊張は走った。この土壇場で、鬼神を出現させる号令を、ビフォアが放ったからだ。

 

 そしてビフォアは号令と共に、腕の篭手のハッチを開け、そのスイッチを押したのだ。すると、工場跡地の地下に存在した格納庫から、小さな赤い光が発せられた。そう、それは鬼神の起動した証拠だったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 地上では異常事態が発生していた。それはまさしく、鬼神の登場だ。しかし、普通に湖の方角から現れた訳でも、空を飛んできた訳でもない。突如として、魔力溜まりとなっている6箇所全ての広場に、鬼神が出現したのである。鬼神は地面から数十メートルのところへ現れ、大地を砕いてその地に立ったのだ。その場に居た人々は走って逃げ、難を逃れていた。ゆえに、怪我人はいなかったようだった。しかし、突然の来訪者に、周りはどよめき始めていた。

 

 

「なっ、何だありゃァ!?」

 

「例の鬼神!? 突然広場の中央に出現しやがった!?」

 

 

 状助も刃牙も、この突然の異常事態に度肝を抜かれていた。いや、まさか広場のど真ん中に、鬼神が出現するとは思わなかったのだ。敵のロボ軍団の半分は、空へと飛んでいったので、戦いが楽になったと思っていた。そんな安心した時に、この不意打ちだ。驚かないはずがないだろう。

 

 また、鬼神は魔力溜まりの広場にて、魔力増幅装置の役目を果たす。それにより儀式が完成し、世界に強制的に魔法の存在を感知させやすくするのだ。それを知っている状助と刃牙は、これはまずい、やばいと思った。このままでは、儀式が完成して強制認識魔法が発動してしまうと、焦ったのだ。

 

 

「どうなっとるんや!?」

 

「広場を占拠されたら負けだよね……?」

 

 

 突然の巨大な訪問者に、亜子とアキラも驚いていた。いやはや、突如として巨大な物体が出現すれば、一体何がどうなっているのかわからないもの当然だろう。亜子は何がなんだかわからない様子で、ただただ混乱して慌てふためくだけだった。アキラは驚きつつも冷静に、広場が占拠されてしまうと自分たちの負けなのではないかと考えていたのだった。

 

 

「まさか敵がこの様な方法で攻撃してくるとは……!!? このままではまずい!!」

 

 

 超竜神もこの事態に焦りを感じていた。瞬間的に巨大なロボらしき物体が、広場中央に転移してきたからだ。このような方法で、敵が送り込まれるとは思っても見なかったのだ。また、同じ攻撃が複数行われれば、こちらはさらに不利となると考え、すぐさま超竜神は鬼神の方へと走って行ったのだった。

 

 

「なんということでしょうか!? 突如として巨大なロボが防衛拠点の中央に出現しました!!? このまま魔法騎士団の敗北となってしまうのでしょうか!!?」

 

 

 この緊急事態を受けて、和美もすかさず実況していた。全ての防衛拠点に巨大ロボが出現したと、危機感を煽るように叫んでいたのだ。そして、状助たちとは違う場所でも、その鬼神は確認されていた。

 

 

「何あれー!?」

 

「あれもデカイよ!?」

 

「ていうか広場奪われたら私たちの負けじゃん!?」

 

 

 桜子、円、美砂も、巨大なロボが突如出現したことに、周りと同じく驚いていた。さらに美砂は、防衛している広場が敵に侵入され乗っ取られたならば、自分たちの敗北なのではないかと焦っていたのである。

 

 

「広場全部にアレが!? まずいよそれ!!?」

 

 

 そして裕奈も驚きまずいことになったと考えていた。鬼神を広場に入れてはならない。鬼神が何に使われるか、どうして広場に侵入させてはならないのか。それは他の魔法先生や魔法生徒と同じく裕奈にも伝えられていたことだった。だが、敵はその裏をかいくぐり、転移で広場に鬼神を落としたのだ。だからこそ、非常に焦っていた。これでは儀式が完成してしまうと、心から焦りを感じていたのだ。

 

 

「そう来たか! 転生者が多く存在するからこそ、安全策を取ったのか!」

 

 

 覇王も驚き、やられたと思った。覇王は鬼神の出現をずっと待っていたのだ。しかし、出現した鬼神は、なんと広場のど真ん中に現れたのである。確かに転移を使えば安全に鬼神を広場に送り出すことが出来る。

 

 それに()()()()では転生者が大勢居る。その転生者たちに邪魔されず、安全に鬼神を送り出す必要がビフォアにあったのならば、その方法こそ確実だったのだ。そうだ、全ては鬼神を破壊されず、確実にタイミングよく広場に送り出す、ビフォアの作戦だったのである。

 

 覇王は驚いた。確かに驚いた。とても有効的な作戦だったが故に驚いた。それでもやることは変わらない。素早く鬼神を沈黙させる。それこそが覇王がこの場所に残った理由だからだ。それこそがビフォアの作戦を潰す一手の一つだからだ。

 

 

 

 その離れた場所で、ロボの頭を踏み潰しながら、一人ごちる男がいた。雷を纏った黄金の斧を肩に担ぎ、屈強な筋肉の男だった。さらにその大男の横で、キセルをくわえて着物を着ているものがいた。

いや、猫だった。

 

 

「ほー、あれが覇王の言っていた鬼神ってヤツか。確かにでけぇが思ったほどのもんじゃねぇな」

 

「そう言っている場合ではないでしょう……。これは厄介なことになってきましたよ」

 

 

 それはまさしくバーサーカー。バーサーカーは鬼神を見て、ニヤリと笑いつつ、率直な意見を述べていた。デカイ、確かにまあデカイ。ただ、それだけだろう。霊格も覇王が味方につけたリョウメンスクナに大きく劣る。ゆえに、この様にのんびりと余裕のかまえをとっていたのだ。

 

 そして、もう片方はマタムネだった。彼もまた、覇王から色々と話を聞いていた。だから、これは結構まずい状況なのではないかと思い、余裕を見せるバーサーカーを叱咤していたのである。

 

 

「んじゃまっ、ぶっ潰しに行くとするか!」

 

「しかありませんね……!」

 

 

 だったら倒せばいい。バーサーカーはシンプルだ。厄介な相手ならすぐ倒せば問題ない。そう考えた。マタムネも同じく、それしか方法はないだろうと、バーサーカーの意見を肯定した。そして、一人と一匹は、即座に最も近い鬼神へと向かったのである。

 

 

 

 同じ頃、麻帆良女子中等部、その校舎の屋根の上で睨みあうものたちがいた。金髪の幼き少女と長い後頭部を持った老人。そして、サングラスをした紫髪のスーツの男。エヴァンジェリンと学園長、上人の三人だ。鬼神が現れたことで、学園長は長く白い眉毛を動かして、焦った様子を見せていた。エヴァンジェリンも顔には出さないが、分が悪いかと考えていた。しかし、動くことは出来ない。目の前に、この腹立たしい男が居るからだ。坂越上人が目の前に居るからだ。

 

 

「フフフ、もうすぐ決着のようですねェ。ですがお二人は動かずお待ちいただきたい。おわかりでしょう?」

 

「ふん、小ざかしいヤツだな……」

 

「む……」

 

 

 上人はもうすぐ戦いが終わると言葉にしていた。鬼神が現れたということは、ビフォアの計画が最終段階に入ったことであり、それを上人は知っていたからだ。そんな鬱陶しい上人に、エヴァンジェリンは機嫌が悪そうにグチをこぼしていた。いや、機嫌が悪そうではなく、実際とても機嫌が悪いのだ。全てはこの目の前の男、上人の癇に障るような礼儀正しい言葉遣いと、見下したような表情が原因だ。また、学園長も動けずに、ただただ心配するしかなかった。ネギたちがビフォアに勝つことを、信じることしか出来なかったのだった。

 

 

 

 そして、完全に死んだ目をして廃人となったマルクをつれ、学園を歩いていた真名と楓。二人も鬼神を目撃していた。鬼神が今頃になって現れた。しかも広場の中央にだ。これには二人も戦慄していた。

 

 

「あれは鬼神か……!?」

 

「まずいでござる!!」

 

 

 だが、マルクを捕えて連行している二人は、鬼神を倒しに行くことができなかった。今すぐ飛び出して鬼神を倒したい。倒さなければ危険だと、二人は思っていた。それでもマルクを放置することは出来ない。このマルクはビフォアに捨てられたことで心が壊れてしまったが、かなり危険人物だった。そんな人間を置いて、鬼神を倒しに行くことは出来ない。二人はそれに歯がゆさを感じながら、他の仲間を信じることにして先に進むしかなかったのだ。

 

 ただ、マルクは鬼神をチラリと見ただけで、何の反応も示さなかった。もはやビフォアに捨てられた身、自分には関係ない。それゆえ、どうでもよいと思ったからだ。完全に生きる気力を失ったマルクは、縛られたまま二人の後を追うしかなかったのであった。

 

 

 

 一方超のアジトでも、鬼神の出現を感知していた。画面で白く輝く鬼神が映し出され、事態が悪化したことをエリックと葉加瀬も理解したようだった。

 

 

「ブレイン博士! 突如として鬼神が六つの魔力溜まりの全ての中央に出現しました! 転移魔法の可能性があります!!」

 

「なんだとォ!? やられたか!! 復旧を急がなければ!」

 

「は、はい!」

 

 

 敵は転移魔法を利用して、鬼神を広場へと飛ばした可能性が高い。そう葉加瀬は焦った様子でエリックへと告げていた。ビフォアは元々が魔法先生である。転移魔法用の魔方陣を用意し、起動させることは難しくないだろう。さらにそこへ未来の科学や白衣の男の技術が加われば、ボタン一つでの転移が可能だったのだ。裏をかかれたとエリックは思った。これはまずい。しかし、エリックたちに出来ることは結界を早急に復帰させることだけだ。だからエリックは葉加瀬へと、結界の復旧を急ぐことを言葉にし、さらに動かす手の速度を上げていったのだ。

 

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「なんということだ! 転移を使うとは!!」

 

「もしかしてやべぇ状況ってやつゥ?」

 

「のようじゃのう……」

 

 

 だが、事態があまり理解出来なかった千雨は、葉加瀬の横でポカンとしながら画面を見ていた。横ではすさまじい速度で手を動かす葉加瀬をよそに、千雨は一体何がどうなっているのかと深く考えこんでいた。実際魔法をあまり理解していない千雨が、この事態をすぐに呑み込むのは難しいだろう。それでも千雨ははっと我に返り、作業の続きを再び始めたのだ。

 

 そんなエリックたちの後ろで豪、昭夫、ジョゼフの三人は先ほど捕えたサイバー攻撃を行った転生者を見張っていた。そして、この状況に気がついた豪は、ヤバイぞこれはと叫び、今にも飛び出していきそうな勢いで、敵の攻撃の狡猾さに戦慄していた。その横でギターを握りながら、この状況を理解で来ていないものがもう一人。あの昭夫だ。昭夫はなんだかでかい敵が増えただけ程度にしか思っておらず、とぼけた表情をしていたのである。と言うのもこの昭夫、原作知識を持っていたはずだが、興味がなかったので忘れてしまったのである。まあ興味がないことを覚えていても仕方がないのは事実なので、仕方がないとしか言いようがないが。

 

 さらにその横で老人が、またまた緊張感のない声を出していた。ジョゼフだ。ジョゼフは声こそ緊張感がなかったが、内心まずいことになったと思っていた。そのため表情こそあまり普段と差がないものの、目つきだけは鋭くなっていた。ただ、ジョゼフにももはや何も出来ることはない。出来ることは仲間を信じ祈るだけだったのである。

 

 

 

 魔力溜まりとなる広場は六つ、その一つに数多は居た。数多も突如出現した鬼神に驚かされていた。

しかし、いきなりの登場だったがための驚きであり、敵の大きさに驚いた訳ではなさそうだった。

 

 

「なっなんだありゃ!? いきなり現れやがったぞ!?」

 

「わからないが、アレが例の鬼神なのでは……?」

 

 

 突然の巨人の襲来、当然驚く。当たり前だ。どこから来たのかわからないが、とにかく突然現れた。そこで数多の横に居た焔が、その巨人が鬼神ではないかと言葉にしていた。

 

 

「だったらまずいぜ! 敵が減ったと思ったらこれか!!」

 

「こちらを油断させるための作戦だったのかもしれない……」

 

 

 数多も鬼神について、ある程度聞かされていた。と言うことは、かなりピンチな状況だと、数多は考えた。敵も倒したり上空へと飛んでいったりと減ってきたというのに、新たな問題が増えたと頭を抱えていたのだった。

 

 また、焔は敵が地上から上空へと移動し、こちらが有利となって安心して油断したところを狙ったと思ったようだ。ただ、本来ならば工場にてロボを生産し続け、地上部隊と空中部隊と分けて運用する計画だった。しかし、工場は破壊されロボが生産不可能となった。だから、地上で戦っているロボの半分ほどを、上空へと移動させて飛行船の防衛をさせるしかなかったのだ。つまり、敵が減ったのは敵の考えではなく、工場を破壊した結果がそうさせたということだったのだ。

 

 

 

 さらに他の場所でも戦う男たちがいた。二人の男はロボを蹴散らし、または切り裂き破壊して回っていた。カズヤと法である。カズヤと法は広場で戦わず、遊撃で色んな場所へと出向いてロボを破壊していたのだ。

 

 

「グッ!? まだデケェのが出てきやがったぜ」

 

「アレも破壊せねばならん!!」

 

「んなこたぁ言われなくてもわかってんだよッ!」

 

 

 ああ、しかし。カズヤの右腕は限界寸前。能力の使いすぎにより、かなりしんどい状態だった。シェルブリットを撃ちすぎて、かなり危険な状態だった。そのため右腕を押さえながら、苦しそうにしていたのだ。そこへ鬼神の出現だ。カズヤは疲労した体に無理をさせながら、疲れた目つきで鬼神を睨んだ。また出てきた、デカイヤツ。あれは特上の獲物だ、喧嘩しがいがありそうだ。疲労してもなお、カズヤの戦意は消えてはいなかった。闘志は失われてはいなかったのだ。

 

 その横で法も鬼神を睨み、破壊すると宣言していた。法もまた、かなり疲労していた。だが、カズヤほどではなく、疲れを表に見せてはいなかった。と言うのも、カズヤの能力は本来強制的に強化したものだ。いや、転生してカズヤ自身が強化した訳ではない。元々そういう能力だ。つまるところ、”元の特典”がそういうものなのだ。ゆえにカズヤは大きなデメリットを抱えて戦い、想像以上の疲労と痛みに体を蝕まれているのだ。

 

 しかし、法は違う。法の能力は元々強力だった。これもまた”元の特典”がそういうものなのだが、その真・絶影とは本来の法の本気であり、多少無理をするがカズヤほど負担は大きくないのである。それでも法にも負担はかかる。能力を使い続ければ、体のどこかにガタがくる。されど鬼神は倒さなければならない。法もまた、闘志に燃えていた。麻帆良を守るという誓いの元、その強い意志に溢れていたのだ。そして二人は鬼神を破壊するために、その広場へと急いだのだ。

 

 

 

 そのカズヤと法の少し近くで、一人の男が戦っていた。銀の足でロボを蹴り、見えざる速さで戦う男。直一だ。直一もまた、カズヤたちのように遊撃していた。すばやくロボを見つけ、瞬間的に破壊する。それを繰り返していたのである。

 

 

「おいおい、このタイミングでそりゃないだろう?」

 

 

 そんな時に突如として現れた鬼神に、直一も多少焦りを感じていた。直一はカズヤや法とは違い、”原作知識”を持っていた。つまり、鬼神が何に使われるかを知っていたのである。こりゃヤバイ、もうすぐ儀式が完成される、その手前で鬼神投入、これほどタイミングがいいものはないだろう。ならばどうする。簡単だ、瞬間的に壊滅させればいい。直一は単純にそう考え、自慢の早さで一直線に鬼神へと向かうのだった。

 

 

 

 そして、簡易施設として設けられた緊急救護室にて、異変を感じたのどかと夕映の二人。少ない怪我人を治療魔法で癒しながら、ネギたちの勝利を祈っていた。だが、そこで外が突然騒がしくなったようだった。さらに、何か巨大な物体が地面に落下する音と、それに伴ったと思われる地響きを感じたのだ。

 

 

「何か外が騒がしいのです……!」

 

「た、確かに……」

 

「少し覗いてみましょう!」

 

 

 とっさに外へ出てみると、なんと光る巨人が広場の方に見えるではないか。これは一体どういうことなのか。確かに鬼神なる存在がこの戦いの鍵を握っているとはカギから聞かされていた。とすれば、あの光の巨人が鬼神なのでは。ということは、まさか。

 

 

「アレってまさか……」

 

「そのまさかだと思うのです……。そうであって欲しくはないのですが……」

 

 

 鬼神らしき巨人を見た二人は、焦りを感じていた。この戦い、本当にどうなるのだろうかと不安になりそうだった。しかし、二人はその不安を押しのけ、ネギたちの勝利を祈った。ネギたちが勝てば、どうってことないと、そう強く思ったのだ。

 

 

「勝ってください、ネギ先生、カギ先生、そしてみなさん……」

 

「ネギ先生……、負けないで……」

 

 

 二人に出来ることは、今はネギたちを信じて待つことしか出来ない。自分たちがもっと役に立てればと、何度も悔やんだことだ。だが、出来ないことを考えても仕方のないことだ。二人はスッパリと意識を切り替え、再びテントの中で少ない怪我人の治療に専念するのだった。

 

 

 

 上空にてロボ軍団と戦闘を繰り広げるものたち。その集団にも鬼神の姿を捉えることが出来た。鬼神は魔力を増幅する時、光の柱となって輝いて見える。だから闇に染まった上空でも、しっかりと確認できたのだ。

 

 

「なんや!? あのデカブツは!?」

 

「あれってまさか……」

 

 

 小太郎は鬼神を見て、一体何事だと思ったようだ。光って見える鬼神だが、すぐにその正体を見破ることは難しいだろう。アスナも同じく何が起こっているのかと考え、ようやく鬼神の出現だと理解したようだった。

 

 

「あんなの聞いてないっスよ!?」

 

「何!? ここでそれを使うかよ!?」

 

 

 そして、それを理解した美空は、鬼神なんて存在知らないと叫んでいた。というかただの現実逃避である。ただ、知らないというのは大きく間違ってはいない。”原作”では麻帆良の地下へ潜り鬼神の存在をいち早く知った美空だが、ここではそれをしていない。麻帆良の地下へと降り立ったのは、直一とアルスという転生者二人組みだったからだ。だからなんだかよくわからない謎の絵も描いておらず、鬼神の存在を目で見て確かめてはいないのだ。

 

 カギも鬼神に驚いていた。いやまさか、この儀式完成ギリギリのタイミングで出してくるとは思ってなかった。むしろ鬼神など不要なのかもしれないとまで考えていた。しかし、やはり鬼神は必要だった。しまった、やられたと思ったようだ。また、自分が地上にいたならば、即座に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で破壊できたと思い、いまさらながら後悔していたのだった。

 

 

「鬼神……!? そうか転送を……、図られたか!!」

 

「はおが気にしておったんはアレやったんか……」

 

 

 刹那は鬼神の出現に、転移魔法を使ったのではと思考していた。そこで、こちらの裏をかかれてしまったのではないかと思ったようだ。鬼神が先に出ていれば、それを当然破壊するだろう。だが、このタイミングならば、もはや間に合わない。ビフォアの策略にまんまと踊らされたと、刹那は悔やんだのである。

 

 木乃香は鬼神にピンと来るものがあった。そう、覇王が気にしていた存在のことだ。覇王は鬼神の出現を待っていた。だから地上で戦うことにしていた。覇王は鬼神とは言わなかったが、何か気になることがあると木乃香へ話していた。だから木乃香は、覇王が気にしていたものが、鬼神だったことを理解したのである。

覇王が地上に何故残ったのか、しっかりと理解できたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:不明、白衣の男

種族:人間

性別:男

原作知識:どうでもいい

前世:機械オタク

能力:ロボを作る

特典:天才レベルの頭脳と機械系の技術

 


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