理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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九十四話 電子世界での戦い

 ビフォアの仲間は次々に各個撃破されて行った。そして、このインターネット内に存在する電子世界でも、ビフォアの部下と戦うものがいた。学園側の転生者であるジョゼフ・ジョーテス、音岩昭夫、獅子帝豪だ。

 

 

「クソッ! このウィルス、倒しても倒してもきりがねぇ!!」

 

「当たり前だっつーの! 俺がこの場で作り出してるのだからな!!」

 

 

 昭夫はスタンドのレッド・ホット・チリ・ペッパーを操り、敵の作り出すウィルスを破壊していた。だが、その数は増えるばかりでまったく減ってはいなかった。なぜなら、敵が倒された分以上にウィルスを作り出していたからだ。この現状に、流石の昭夫も悪態をつくばかりだった。

 

 

「このままでは被害が増えるだけじゃぞ……!?」

 

「わかっているぜ! しかしこのままでは……」

 

 

 敵は減らずに劣勢となる超一派。このままではビフォアの部下の思う壺である。これではきりがない。それをジョゼフは叫ぶと、豪もわかっていることを叫んでいた。わかってはいるが、どうすればよいのか考えているところだった。

 

 

「ハハハハハッ! 諦めろ! そして跪くのだ!!」

 

「なめたこと言ってるんじゃあないぜ!!」

 

 

 そんな状況に追い詰め、高笑いをするこの敵。自分はネットの世界では無敵だという自信があるようだ。ゆえにジョゼフたちに諦めろと、愉快に叫んでいたのである。だが、それでもジョゼフたちは諦めるわけには行かぬのだ。また、昭夫が調子に乗るなと怒気を含んだ叫びをあげていた。お前なんぞまったく恐れるに足らんと言う、そう言いたげな叫びだった。

 

 

「レッド・ホット・チリ・ペッパー!! 全滅させろ!!」

 

「ぬぅ!? は、早い……!!?」

 

「あたりめぇよ! 俺のチリペッパーは雷速で動けるんだからなぁ!!」

 

 

 レッド・ホット・チリ・ペッパー、電線の中へ進入できる、電気と同化しているスタンド。その速度は電気と同じであり、目にも留まらぬすばやさを持つ。そのすばやい動きで、敵が作り出すウィルスを瞬間的に破壊して回ったのだ。めまぐるしい速度で破壊されるウィルスに、流石の敵も驚きを隠しきれなかったようだ。

 

 

「ハッハッハッ! どうだどうだぁ!?」

 

「クソ! スタンドだけにこちらからはダメージを与えられんという訳か……」

 

 

 どんどんウィルスを破壊していくレッド・ホット・チリ・ペッパー。すさまじい猛攻。外でギターを弾き鳴らしながら、高笑いをする昭夫。なんという強さ。電気さえあればほぼ無敵のレッド・ホット・チリ・ペッパーに、敵も舌を巻いていた。何せレッド・ホット・チリ・ペッパーはスタンドだ。スタンドはスタンドでしか倒せないルールが存在する以上、敵がウィルスでいくら攻撃しようとも、レッド・ホット・チリ・ペッパーを傷つけることは出来ないのだ。

 

 

「だが、その程度で勝ったつもりになっては困るなァ!! 行けエェ!!」

 

「何ぃ!?」

 

 

 ならばさらに数を増やせばよい。倒された倍のウィルスを作り出せばよい。敵はそう考えて、さらにウィルスの数を増やしたのである。その数はさっきの三倍。なんという数の暴力。この数には流石のレッド・ホット・チリ・ペッパーもたじろいだ。

 

 

『大丈夫です。私がサポートします』

 

「この声は茶々丸か!? 助かるぜ!」

 

「またしても俺の邪魔を!!」

 

 

 しかし、そのウィルスは魚の大群により消滅させられた。マグロ、カツオなどの魚たちが、いっせいにウィルスへと体当たりし、それらを破壊したのである。なんと、その魚はワクチン攻撃だった。そして、それを操るはやはり茶々丸だったのだ。茶々丸がサポートしてくれたのだ。茶々丸はすでにサイバー攻撃に備え、ネットに接続されていたのである。助太刀としてサポートしてくれた茶々丸に、豪は感謝を叫んでいた。それとは逆に、敵は悔しそうな叫びをあげていたのだった。

 

 

「まあ数が増えても無駄なことだぞ! ここは俺の支配下にあるんだからなぁ!!!」

 

「そうはさせないぞ!!」

 

「言っていろ!!」

 

 

 だが、敵はいまだに地の利が自分にあることを理解していた。だからこそ、豪たちに味方が増えようとも問題ないと思ったのだ。なぜならこの電子の世界は敵の支配下にあるからである。その余裕があるからこそ、敵は笑っていられるのだ。それでもなんとかせねばと、豪も昭夫も戦っていた。こんなヤツに学園をメチャクチャにされたくなどないからだ。ただ、敵も甘くはない。破壊された倍、つまり最初の倍の倍のウィルスを作り出し攻撃させたのである。

 

 

「ハーミットパープル!!」

 

「な、何だとおお!?」

 

「ここから先は通さんわい!」

 

 

 そのウィルスは半分を豪や昭夫に、別の半分は他のネットワークへと侵入させまいと動かしたのだ。しかし、そこで思わぬ障害が発生したのだ。それはなんと紫色の茨だった。そう、ジョゼフのハーミットパープルだ。ハーミットパープルはネットワークの出入り口に網目状に張り巡らされ、防壁となってウィルスの進入を妨害していたのである。スタンドはスタンドでしか破壊出来ない。ただのコンピュータウィルスにハーミットパープルを破壊する術はないのだ。

 

 

「はぁ!! お前が作り出したウィルスの制御は完了したぜ!!」

 

「や、野郎ぅぅ!! ならばこれならどうだ!!!」

 

 

 さらに攻撃を仕掛けたウィルスは、豪がハッキング能力を使い敵から制御を奪っていた。これで敵の攻撃は全て不発に終わってしまったことになる。流石の敵も今の反撃に恐れを抱いたのか、さらなる力を見せたのである。それはなんと、この電子世界を塗り替えるものだった。

 

 

「なっ!? 景色が変わっていくだと!?」

 

「こっ、こいつぁ……」

 

「なんとこれは……!?」

 

 

 突然の周囲の変化に、三人は驚いた。まるでペンキを塗りたくるかのように、突如背景が変化したからだ。海のようだった世界が、いっきにアメリカのスラム街のように変貌してしまったのである。まさしく電子の世界を書き換える能力を持つ、敵のなせる技だったのだ。

 

 

「フハハハハハハハ!! 俺を甘く見るなよ!? このまま貴様らをウィルスに取り込んでくれるわ!!」

 

「か、数が多いぞ!?」

 

「つーかこいつらエージェントなんたらってヤツじゃねーか!! パクリじゃねーか!!」

 

 

 変化はそれだけではなかった。突如として地面から、サングラスに黒スーツの男たちが現れたのだ。その敵の数に、ジョゼフは危機を感じて叫んでいた。しかし、どこかで見たことあるその黒スーツに、昭夫はパクリだと叫んでいたのだった。いや、黒スーツだけではない。周りの建造物などの背景まで、パクリというかそっくりだったのである。また、その自分の能力を自慢しながら高笑いする敵。このままウィルスに取り込んでやると、意気揚々と叫んでいた。

 

 

『あたり一体のプログラムを書き換えて、別のものにしてしまったようです』

 

「なんつーでたらめな……」

 

「だがこっちも負けるわけにはいかないぜ!!」

 

 

 なんということだろうか、敵は恐ろしいことに、周囲のプログラムを書き換えてしまったというのだ。それを茶々丸が三人へと知らせると、昭夫はそのすごさに戦慄していた。たった思い描いただけで、こうも書き換えてしまう敵の能力に、少しだが恐れを抱いたようである。それでもここで負けるわけには行かないと、強く拳を握り締めながら、叫ぶ豪の姿があった。

 

 

「ああ、そうだったな! レッド・ホット・チリ・ペッパー!! やれい!!」

 

「何度倒しても無駄だ無駄無駄ァ!!」

 

「なんと……。倒してもすぐに復活してしまうぞ……!?」

 

 

 そんな豪に、昭夫は感化されたらしく、再び強気な姿勢を取り戻し、自らのスタンドを敵のウィルスへとアタックさせたのだ。すさまじい速度での猛攻は、幾多のウィルスを破壊することに成功した。破壊されたウィルスは、粉々となり地面へと散らばったのである。

 

 だが、破壊されたウィルスの、散らばった破片から黒い影が発生し、そこから新たなウィルスが発生したのである。しかも破壊された破片の数だけ増殖し、数を増やしてしまったのである。そのことに気がつき、倒しても倒してもきりがないと言葉にするジョゼフだった。

 

 

「クッ! 俺も攻撃する!!」

 

「やってみろよ!」

 

「ウィル・ナイフ!!」

 

 

 このままではまずいと思った豪は、昭夫の助太刀として加勢した。それでも敵は余裕を崩さず、クツクツと笑いながら挑発していたのだった。そこで豪は実体化したように自分の姿を電子の世界に作り出し、左腕に装備された一本のナイフを手に取ると、すぐさまウィルスへと攻撃を始めたのである。

 

 

「ハアアアアァァァァッ!!」

 

「いくら倒しても無駄だということがまだわからんのか!!」

 

「ならば無駄ではなくなるまで倒し尽くすだけだぜ!!」

 

 

 豪も風の様なすばやいく流れるような動きで、敵のウィルスをそのナイフで切り裂いていった。だが、いくら倒しても、切り裂いても、バラバラにしても、そこから分裂するようにウィルスは増え続けるのだ。そんな現状を見た敵が、呆れたように無駄なことだと言い放っていた。いくら攻撃使用とも、ウィルスの数が増えるだけだ、無駄なことだと言ったのだ。それでも、それでも豪は攻撃を続けた。無駄だというならば、無駄ではなくなるまで切り刻む。そうだ、敵が全滅するまで倒すと、そう叫んでいたのだ。

 

 

「ならば更なる絶望を見せてやる!! くたばるがいい!!」

 

「何!? こ、これはぁ!?」

 

「おいどうした!?」

 

 

 まったくもって無意味なことを。敵はそう感じながらも、ならば次の攻撃を受けても無事でいられるかと思ったのだ。そして新たな攻撃を、豪へと行ったのである。なんとそれはウィルスが、豪を取り押さえようと集まりだしたのである。豪はその敵に手足をつかまれ身動きが取れなくなってしまっていたのだった。昭夫はその異変に気がつき、別の場所で戦っていたスタンドを豪の元へと戻した。

 

 

「ぐああああああああああッッ!!!???」

 

「ハハハハハハッ! さっきまでの威勢はどうしたぁ?」

 

「お、おい豪!?」

 

 

 そこで昭夫が見たものは、豪がウィルスに捕まり、そのウィルスの右腕が豪の胸に突き刺さっている光景だった。また、ウィルスの右腕に胸を貫かれた豪は、その痛みからなのか喉がつぶれそうなほどの絶叫を上げていたのだ。その姿はまるで地獄絵図だった。

 

 

「ガアアアアググウウアアアアアアアッッ!!! ………」

 

「なっ!? ご、豪!?」

 

「どうなっとる!?」

 

 

 さらに豪の貫かれた胸から、どんどんと黒い泥のようなものが、豪の体を覆いかぶさり始めていた。それが全身に広がると、なんと豪はウィルスと同じサングラスの黒スーツと言う姿へと変貌してしまったのである。それを見た昭夫とジョゼフも、驚愕の声を出さずにはいられなかった。

 

 

「ヤツの意識を俺のウィルスと同化させたのだ! もはやこうなれば死んだも同然よ!! ヒャッハッハッハッ!!!」

 

「なんじゃとぉ!?」

 

「や、野郎ゥゥゥ……!?」

 

『……はたして本当にそうでしょうか……?』

 

 

 あろう事か豪は敵の攻撃により、意識をウィルスと同化させられてしまった。こうなったらもはや豪を助けることは出来ないだろう。つまり、外に居る豪の体は二度と意識が戻らないということだったのだ。

 

 そのことを愉快そうに話し、ご機嫌に笑う敵。それを聞いたジョゼフは心臓が止まりそうなほど驚き、昭夫は怒りに拳を強く握り締めていた。

 

 しかし、茶々丸は生みの親の一人であり、自分の作成に協力した豪が敗北などするとは思っていなかった。ゆえに、この程度で倒されるはずがないと、豪を信用していたのである。

 

 

「安心しろ! お前らも同じ末路になるんだからな!」

 

「冗談じゃあねぇぜ!!」

 

「もう終わりだぁぁ!!」

 

 

 そんな二人へ、敵はお前たちも同じになると笑いながら断言していた。スタンドはスタンドでしか倒せないが、取り押さえることは出来ると敵は考えたようだ。さらに大量のウィルスを拡散し、完全に麻帆良の回線などの情報系等を支配せんと動いたのだ。それでも昭夫は攻撃をやめず、ウィルスへとスタンドを飛び込ませていた。諦めるわけには行かないと、攻撃をやめることは出来ないのだ。

だが、そこで更なる異変が起こった。

 

 

「な、何!?」

 

「これは……!?」

 

 

 なんと豪を取り込んだウィルスから、ヒビがはいったのである。さらにヒビからは光が漏れ出し、そのウィルスは完全に粉々になって散ったのである。そして、そこに経っていたのは、赤茶色の長髪の男、まさしく豪だったのだ。それを見た昭夫とジョゼフは、やはり驚きの声をもらしていたのだった。さらに、その散ったウィルスの破片からは、ウィルスが増殖する様子がなかった。つまり、ウィルスの分裂を防いだということになる。

 

 

「ウィルスの書き換えは完了した!! そっちに返すぜ!!」

 

「なにぃぃ!? ばっ、バカなあ!?」

 

 

 さらにさらに、豪はウィルスの書き換えが完了したことを叫びながら、右腕を別のウィルスへ突き刺した。そして書き換えたウィルスを、そのウィルスへと流し込むと、先ほどと同じようにヒビが入りはじけ飛んだのである。また、その散った破片が他のウィルスに触れると、そのウィルスも同じく粉々に爆散したのだ。それが連鎖的に起こり、ウィルスが次々に砕け散って言ったのだ。

 

 

『うまくいったようですね』

 

「はっ! やっぱそうなると思ってたぜ!」

 

「さて、こちらの反撃と行くかのう」

 

 

 それを見た茶々丸はこうなることを予想していたのか、先ほどと変わらぬ普段通りの冷静な物言いで、豪の反撃が成功したことを述べていた。昭夫も同じく先ほどの焦った表情から一変、余裕の表情となりニヤリと笑っていたのだ。ジョゼフも同じく先ほどの慌てぶりから、瞬間的に冷静な表情となり、反撃だと言葉にしていた。そう、三人は豪の能力からこうなることを予想していた。だが、敵を惑わすために、あえてジョゼフと昭夫は焦ったり驚いたりした様子を見せたのだ。つまり、敵を騙すために、わざとオーバーなリアクションをとっていたのである。

 

 

「クソ!? ウィルスの破壊がとまらねぇ……!?」

 

「このままいっきに倒させてもらうぜ!!」

 

 

 敵も必死にウィルスの破壊を止めようとしていた。しかし、うまくウィルスを操ることが出来なくなっていた。何せ同じような力を豪が持っており、破壊され続けるウィルスを制御しているのは豪だったからだ。もはや敵の手中にウィルスは存在しない。豪はそのままどんどんウィルスを破壊し、着々とウィルスの数を減らしていったのである。

 

 

「ハーミットパープルで念写が完了したぞ!」

 

「ヤツの本体はそこか! 行くぜ! レッド・ホット・チリ・ペッパー!!!!」

 

「な、何をするつもりだぁ!?」

 

 

 ジョゼフはなにやらハーミットパープルで念写しており、それが完了したと叫んだ。その念写対象は、ウィルス攻撃を仕掛けてきた敵の”サイバー外に存在する本体”だった。その本体の位置を昭夫に知らせると、昭夫はスタンドをその場所へと移動させたのだ。敵は彼らが何を企んでいるのか見抜けなかった。そのため一体何をするつもりだと、多少恐れを含んだ叫びをあげていたのだ。そこに敵は攻撃を加えようとウィルスに命令するも、やはり豪に乗っ取られているため、まったく言うことを聞かなかった。ゆえに敵は無防備となり、その昭夫の行動を簡単に許してしまったのである。

 

 

「いたぜ! こいつが本体か! 意識をネットにアクセスしてるせいで抜け殻だぜ!」

 

 

 そしてハーミットパープルの念写どおり、その一室に敵の本体が存在した。見た目は10代の少年だが、顔はヘルメットのようなものをかぶって居るので見えなかった。敵は何本もケーブルが刺さったヘルメットをを使い、そこから意識をネット上へアクセスさせている様子だった。また、敵の意識がネット内に存在するためか、完全にもぬけの殻となっており、動く気配すら見せなかった。その本体をレッド・ホット・チリ・ペッパーが掴むと、そのまま電線の内部へと引き込んだのである。

 

 

「お前ら! 一体何を……!?」

 

「もうわかるころじゃろうな」

 

「あ……?」

 

 

 敵は昭夫たちが何をしているかわからなかった。だから逆に今度は敵が焦っていた。そこで、もうじき自分たちが何をしているのかがわかるだろうと、ジョゼフは敵に静かに語りかけていた。敵はその言葉がまったく理解できず、アホのような顔で呆けるしかなかった。

 

 

「コイツがテメェの体だろう? ご丁寧につれてきてやったぜ?」

 

「なっ!? お、俺の体……!? まさかぁ!?」

 

 

 そして、レッド・ホット・チリ・ペッパーがジョゼフと敵の前に再び姿を現した。その腕には敵の本体、つまり肉体が抱かれていたのだ。レッド・ホット・チリ・ペッパーは電気を使って能力が上昇する。また、それ以外にも物質を電気化し、電線などに引き込むことが可能なのだ。それを利用し、敵の本体である、現在精神と分離している肉体の部分を回収し、脅しに使おうとジョゼフと昭夫は考えたのだ。

 

 それを敵の意識体に見せ付けると、敵は冷や汗を流しだし大きな動揺を見せたのだ。自分の肉体を電気化させられ、ネット内であるこの場で、目の前で見せられれば焦りもしよう。さらに、これから起こりうるだろう出来事を予想し、恐れおののき始めていた。

 

 

「そのまさかじゃよ」

 

「このまま確保させてもらうぞ!!」

 

「やめろぉ! 俺の意識が戻れなくなる!! た、助けてくれ!!」

 

 

 そこでジョゼフは、敵が恐怖で自然に出てしまった独り言に、そのまさかと答えたのだ。そう、敵の肉体を確保すれば、精神体である敵は帰る体を失うことになる。つまり、この電子の海をさまよい続けなければならなくなってしまうということになるのだ。敵は肉体などどうでもよく、このサイバーワールドで好き勝手する人物ならば、この脅しに効果はなかっただろう。だが敵の肉体はある程度健康体。肉体に執着があるということだ。肉体を捨てて電子の世界に生きようとしているわけではなかったのである。

 

 と、いうのも敵の能力、ネット内へ精神を進入させ、その進入したプログラムなどを支配するというものだ。だからこそ、肉体が死ねば精神も死に、ネット内で活動している精神体も消滅してしまうという弱点があったのだ。加えて精神のみネット内に取り残されれば、肉体は衰弱するのみ。すなわち肉体に精神を戻し、生命活動、すなわち食事などを行う必要がある。それが出来なければ、どの道死亡してしまうからだ。

 

 それを知っていた敵は、肉体を奪われることに恐怖を覚えたのである。それゆえ敵は、恐怖に駆られて助けを乞い始めたのだ。先ほどの余裕は消え去り、恐怖と焦りでゲドゲドに歪んだ表情で、助けてくれと叫んだのだ。

 

 

「まあ、おとなしくつかまるっつーんなら、助けてやってもよいが?」

 

「う……、うう……、ううう……」

 

 そこで昭夫はニヤニヤしながら、おとなしく捕まるなら助けてやると敵をさらに脅す。敵はそのことに、相当迷って居る様子を見せていた。ここでこいつらに敗北するのは、敵にとって非常に腹が立つことだった。また、ビフォアから、こいつらに勝利すれば、褒美を与えるとも言われていたからだ。しかし、それでも自分の肉体は命であり、それ以上に大切なものだ。迷わないはずがないのである。

 

 

「わ、わかった! 言うとおりにする! だから助けてくれー!!」

 

「素直が一番だなぁ! まっ、とりあえずテメェの体はふんじばった上で俺らのアジトに幽閉させてもらうぜ」

 

 

 敵はやはり自分の肉体に帰れなくなることが恐ろしいようで、言うことを聞くと言う条件で助けを求めたのだ。それならばと昭夫は、敵の肉体をしっかり取り押さえた上で、元通りにしてやることを約束したのである。もはや敵は戦意喪失、完全に敗北を認めたということだった。

 

 

「計画通りに行ったようで、よかったぜ」

 

「んむ。こういう相手はワシらと同じく本体ががら空きじゃろうからな」

 

 

 しかも、この作戦はすでに考えられたものだった。相手が精神のみを電子世界へ移動させているならば、遠隔操作型スタンド使いのように、本体ががら空きになっているとジョゼフは考えた。そこで目の前に居る敵ではなく、その現実世界に存在する敵の本体を叩くことにしたのである。だが、この作戦はハーミットパープルの念写と、レッド・ホット・チリ・ペッパーの電線を移動する能力があってのものだ。そして、それを悟られないために、豪が敵の攻撃でやられた振りをしていたというものだった。

 

 

「敵をつれてきたぜ!」

 

「なんと! そこまでやれたのか!?」

 

「おうよ!」

 

 

 敵の本体を引き連れたレッド・ホット・チリ・ペッパーが、エリックらの下へと戻ってきた。また、ここに突如出現した謎の少年が、敵だということを昭夫本人が言葉にしていた。スタンドで話せばスタンド使い以外聞こえないからだ。そこで敵を捕まえたという事に、エリックは驚き確認をした。そのエリックの言葉に、自信満々に昭夫は返事をしていた。

 

 

「なんかまたとんでもないコトが起こってねぇか……?」

 

「気にしたら負けですよ」

 

 

 突如として謎の少年が現れた現象を目の当たりにした千雨は、またしても異常な事が起こっていると、頭に手を押さえて悩み始めていた。まあ電気化した人間が電線を通ってワープしてくるなど、普通は考えられないことだ。千雨が驚き呆れるのも無理もないだろう。そんな千雨に気にしないほうがよいと、多少なれた様子で宥める葉加瀬の姿があった。葉加瀬は魔法を知っていたので、ある程度このような現象に慣れているようだ。

 

 

「さぁて、コイツの意識を戻すなら、コイツのかぶりもんのコードを機械につなぐ必要があるらしいが……」

 

「それなら私がやります」

 

「おう、助かる」

 

 

 そして、人質に取った敵の肉体に敵の精神を戻す必要があると考えた昭夫は、敵のかぶっているヘルメットの端子を機械につなぐ必要があると考えた。そこで葉加瀬がそれなら自分がと、そのコードがつながったヘルメットの端子を握り締めていた。昭夫はそれは助かると、礼を述べつつ敵をロープでしっかりと縛っていた。

 

 

「これで一応敵のネットからの攻撃は終わったようじゃな」

 

「しかしウィルス攻撃による被害は大きい……。復旧にはまだ少し時間を要するぞ!」

 

「もうすぐ強制認識魔法が発動する……。それまでに間に合えばよいが……」

 

 

 これにてようやく敵からのサイバー攻撃は終わったと、安心の声を漏らしたジョゼフ。だが、敵の攻撃により学園側の損害は大きかった。これを修復して結界を復活させるには、まだ時間が必要だった。それゆえ豪は肉体に意識を戻し、結界復元のために学園側のサポートに回ることにしたようだ。

 

 さらに、強制認識魔法が発動する時間まで、残りわずか。その時間が刻一刻と迫ってきていた。そのことを心配そうな眼差しで、必死に作業を行うエリックだった。同じくこの場にはいないが、茶々丸も電子世界で必死に普及作業を行っていたのだった。

 

 

「クックックッ、もう間に合わねぇーぜ。お前らはおしまいだ! あのビフォアとか言うやつに負けるんだよぉー!!」

 

「それを決めるのはお前じゃない! 俺たちだ!!」

 

 

 コードがつながったことにより、敵の精神が肉体へと戻ってきた。敵は肉体に帰還できなくなることを恐れ、すぐさま肉体へと帰ってきたのだ。そして、がんじがらめに縛られた状態から、負け犬の遠吠えのような捨て台詞を、最後の悪あがきのように叫んだのである。情けなくあっけない敗北だったが、このまま戦っていればどうなっていたかわからない。そういう意味では強敵だったと言えよう。そんな敵へ、豪は勝敗はお前ではなく自分たちだと、敵へ強気で宣言していた。

 

 

「さて、勝利の演奏をさせてもらうぜェェッ!」

 

「待て待て! まだ終わってねぇだろ!!?」

 

「俺の仕事は終わりさ! 行くぜ!!」

 

 

 自分たちの戦いは勝利に終わった。そう考えた昭夫は、突如ギターを握り締め、演奏を始めようと絶叫していた。しかし、敵を倒すことに成功したが、混乱はいまだに続いている。そのため千雨は、まだ終わってないだろうと昭夫へツッコミを入れていた。

 

 そんな千雨のツッコミなどどこ吹く風か、自分たちの仕事は終わったと断言し、昭夫はついに演奏を始めたのだ。なんと迷惑なやつなんだろうか。

 

 

「また悪い癖が始まったようじゃな……」

 

「いつものことなんですか……」

 

 

 ジョゼフは昭夫が演奏を開始したのを見て、額に手を当て悪い癖が始まったと、悩ましく言葉を溢していた。つまり昭夫は、何かしら成功したり終わったりすると、突然演奏しだすクセがあるらしい。やはり迷惑なヤツだった。それをひょっこり覗いていた葉加瀬も、呆れた様子でいつものことなのかと、ジョゼフに聞き返すように話しかけていた。

 

 

「にぎやかでよいが我々の戦いはまだ続いているぞ! 休んでいる暇などない!」

 

「あっ! は、はい! わかっていますドク・ブレイン!」

 

 

 だが、まだ終わってはいないのも事実。今度はこちらがしっかりする番だと、演奏を見て呆れる葉加瀬に激励の言葉を発していた。それを聞いた葉加瀬は、慌てて自分のポジションへと戻り、学園の結界復活のために精を出すのだった。ただ、後ろで演奏する昭夫は千雨や豪により取り押さえられ、演奏するなら外でやれと言われ、しぶしぶ外へと出て行ったのであった。

 

 

…… …… ……

 

転生者名:不明、見た目10代半

種族:人間

性別:男性

原作知識:あり

前世:コンピュータプログラマー

能力:ネットへの進入し、その場を支配する能力

特典:コンピュータへの精神の進入

   コンピュータ内のプログラムの支配


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