理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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八十九話 夕暮れ

 スナイパーは倒された。その情報は超のアジトへと即座に伝えられた。ならば外はある程度安全になったも同然。行動するならば今だろう。ネギもカギもそう考え、ビフォアを抑えるべく行動を開始していた。

 

 

「スナイパーは倒されたみたいだな。これで自由に動けるってもんよ」

 

「本当にビフォアって人を放っておいていいんですか!?」

 

「アイツが出てくるときゃお空の上なのは間違えねぇ! そう考えりゃマズは雑魚掃除だぜ!!」

 

 

 しかしネギたちの目的はビフォアではなかった。なぜならビフォアが確実に姿を現す場面を知っているからだ。それは数時間後に行われる強制認識魔法の儀式の時だ。

 

 この儀式がどこで行われているか、ネギたちはわからなかった。麻帆良の監視カメラなどを全て探しても、ビフォアの姿が無かったからだ。だが、それは当然のことだ。何せビフォアは飛行船の上で、儀式を執り行っていたのだから。

 

 それを知っていたのはカギだった。カギはビフォアが原作を利用して儀式を行うなら、原作で儀式が行われた飛行船の上だと予想したのだ。また、飛行船の上ならば、麻帆良をくまなく探してもビフォアが見つからないことに合点が行くのだ。だからビフォアが確実に現れるまで、麻帆良を暴れるロボ軍団の数を減らした方がよいと考えたのである。

 

 

「しかしあのスナイパーを倒すとはね……」

 

「拙者がやりあったとしても、ああは出来ぬでござるよ」

 

 

 また、あのスナイパーが撃破されたことを、真名も楓も驚いていた。ハッキリ言えばスナイパーの狙撃技術は真名と同じぐらいであり、能力による跳弾も行うことが出来た。それだけでかなりの脅威であり、能力により死角すらも把握することが出来たのだ。

 

 さらに真名はそのスナイパーに心当たりがあった。同じ傭兵として名を馳せた男、それこそがスナイパーのジョン・Gという男だったのだ。ビフォアがそんな男をどうやって知り、どうやって雇ったかはわからないが、ジョン・Gを撃破されたことで程度安心出来ると思ったのである。

 

 同じく楓も自分がジョン・Gと対峙したならば、どうやって対処したかを考えた。空中で反射される弾丸を、分身でかわせるかどうかだ。だが、シミュレートではどこで反射するかもわからない弾丸を、回避することが出来なかった。加えてジョン・Gを倒した直一のような、遠距離の移動が難しいと思ったのである。確かに気を最大まで使用して高速で跳ぶ技である縮地无彊を使うことは出来る。ただ、それでも今一歩足りないのではないかと考えていたのだ。

 

 それゆえジョン・Gの射程距離外からの感知不可能な速度での攻撃には、楓とて度肝を抜かれたようである。まあ、実際は悪く言えばただのゴリ押し、あまり深く考えず簡単な方法と言っても良いものだ。ただ、それを行うこと自体は非常に難しいことだろう。そして、それを可能にしたのが、最速の特典(アルター)を持つ直一だったのである。

 

 

「つーか私だけすんごくアウェーな気がするんだけど!?」

 

「問題ないネ。はるなサンにも例の杖でロボなら倒せるはずヨ」

 

「そういう意味じゃないんだけどねー!?」

 

 

 そんなところに緊張感の無い声が響く。それを発した主はハルナだった。ハルナはこの戦闘集団の中、一人だけ一般人として混じっていることにいたたまれない雰囲気を感じていたのだ。ただ、ハルナもロボ撃退用の杖を持っており、戦えないと言うわけではないようだ。

 

 そのことを超がハルナへと話すと、そういう意味での言葉ではないと叫んでいたのだった。しかし、超まで外に出てきて大丈夫なのだろうか。

 

 超のアジトには葉加瀬と茶々丸とエリック、それに千雨が残っている。葉加瀬とエリックと茶々丸で、何とかサイバー攻撃を抑えて居るのが現状だ。ただ、千雨もなかなかのやり手であり、機械に強かったので同じくサイバー攻撃を抑えていたのだ。だからこそ、超が外で戦って来いとエリックに言われたのである。

 

 

 そしてネギたちが防衛ラインへと急いで居るところに、ロボ軍団が現れた。やはりロボ軍団はネギたちも倒すよう命令されているのか、突如攻撃を開始してきたのだ。

 

 

「さっそく来たな! くたばりやがれ!!」

 

「僕も……!」

 

 

 ならば撃退しなければと、カギは無詠唱で魔法の射手を唱える。同じくネギも魔法の射手で反撃し、それがロボの体を貫くのだった。

 

 

「ロボに魔法で攻撃ってすごいごちゃ混ぜな感じ……」

 

「相手ながらなかなかよいロボを作るネ……」

 

 

 ハルナも流石に魔法もロボも見飽きたのか、驚かなくなっていた。ただ、考えてみればロボに魔法で攻撃とは、SFなのかファンタジーなのかよくわからない光景だと思ったようである。そう考えながらも、しっかりとロボへと攻撃を行い、足手まといにならぬよう頑張っていた。

 

 超も相手のロボの性能には驚きを隠せない様子だった。今戦っているロボは基本中身がスカスカの手抜きだが、それでも敵ながら動きが機敏で優秀だと高く評価していたのだ。しかし、それでも敵のロボには容赦などしない。超は古菲ほどではないにせよ、なかなかの中国拳法の使い手だ。さらに強化スーツにより身体能力も向上している。その力と技を使い、ロボを蹴散らしていたのである。

 

 また、真名も得意の拳銃を両手に握り、スマートな動きでロボを倒していた。楓も忍術と巨大な風魔手裏剣にて、ロボを殲滅していたのだった。

 

 

「とりあえずここの奴らは全滅させたな」

 

「いやはやいつ見ても魔法って派手だねぇー!」

 

 

 大多数のロボ軍団も彼らには通用しなかった。ロボ軍団はあっけなく全滅させられたのである。敵の全滅を確認したカギは、大きくため息をつき、息抜きをしていた。戦いはこれからであり、緊張しっぱなしでは疲れると思ったのだ。そんなカギの横で、ハルナが魔法をまじかに見れたのか、少しウキウキとしていた。

 

 

「ビフォアのヤツはナゼこちらまで攻撃するノカ……」

 

「確かに……。そいつの能力を考えればこちらを攻める必要などどこにも無いはず……」

 

「こちらの攻撃が通用しなくとも、邪魔になるということなのでござろうか……」

 

 

 そこで超は、ふとビフォアの行動に疑問を感じた。どうしてここまで執拗にこちらを攻撃してくるのかということだ。真名もそのことが腑に落ちない様子で、不思議に感じていたようだった。

 

 何せビフォアの特典の一つは”原作キャラより有利に立ち回れる”というものだからだ。この特典がある限り、ビフォアは常に原作キャラよりも一手も二手も上回ることが出来るのである。さすればいくら強力な攻撃をビフォアに浴びせても、あたる事がほぼないといってもよいということなのだ。ならばそうでなくてもこちらが邪魔なのだろうかと、楓も腕を組んで考えていた。

 

 

「ハッ! んなの簡単さ。ビフォアとか言うやつの性格がクソひん曲がってるってだけだぜ。自分の力を見せびらかしてしょうがないのさ」

 

「ほう、それは先生の勘か?」

 

「いや、何、昔同じような考えを持ってたんでな……。よーくわかるのさ。ヤツはきっと、自分がいかに偉いかを示したいんだろうぜ」

 

 

 そんな疑問をぶちまけるかのように、カギが大きな声でそれに答えていた。ビフォアのやろうとしていることは自己満足であり、自分がいかに強大であるかを見せるために攻撃してきていると、カギは考えていたのだ。

 

 そう言い放つカギへ、真名はその考えが勘から来るものなのかと尋ねたのだ。しかしカギは、それを過去に同じようなものを感じたと言ったのである。なぜならカギも、昔は似たような考えを持っていた。その強力な力に酔いしれ、あまつさえその力を使って空の威厳を見せようと考えていたからだ。だが、所詮はその行為はむなしいもの。カギはそのことに気がついたので、今のカギが居るのである。

 

 

「昔、と言うことは今は違うんだな……?」

 

「タブンな……」

 

「確かに、初めて会った時のカギ先生と、今のカギ先生は若干違いがあると感じるよ」

 

「……そう言ってくれるとありがてぇーぜ!」

 

 

 そこで真名は、カギが昔と言葉にしたことを聞いて、今は違うのかと尋ねてみた。カギはそれに対して、若干自身なさげに、タブン、とだけ話した。カギは未だに、自分が”踏み台”と呼ばれる転生者から抜け出していないのではと考え、自分に自信がなかったのだ。

 

 そんなカギを見て、真名はフッと笑いつつ、率直な意見を述べた。今のカギは初めてあの教室で会った時とは雰囲気が多少違うと、そう感じたことを述べたのだ。カギは真名のその言葉に、嬉しかったようで、少し涙をにじませつつ、高いテンションで喜びをアピールしたのである。

 

 

「しかし先生は私よりも年下なはずだが?」

 

「なぁに、この小さな身にも過去に色々あったってわけさ!」

 

「ならそういうことにしておこう」

 

 

 だが、昔と言う言葉を聞いた真名は、妙な気分だった。明らかに自分よりも年下のカギが、経験で物事を語っていたからである。まあ、真名も10代で非常に濃い人生を歩んできたので、色々あったのだろうと考えることにしたようだ。

 

 カギも恥ずかしい黒歴史は話したくないので、色々あったとだけ話したのだ。ただ、カギは普段からおばかキャラ。ノリで言ってる可能性もあると真名は考えた。なので少し茶化すような物言いで小さく笑むのであった。

 

 

 そして一行は向かってくるロボ軍団を倒しつつ、時が来るのをひたすら待った。移動しているだけでガンガン襲ってくるロボ軍団。探す手間が省けるというものだ。敵を全滅させながら進むと、そこに背を向けて立っている一人の人影を発見した。

 

 

「あなたはシャークティ先生!」

 

「この声はネギ先生?!」

 

 

 それは魔法先生であり美空の上司的な存在のシスターシャークティだった。スナイパーの迎撃を何とかしのいだのか、シャークティはこの場で敵を倒して回っていたようだ。ネギの声を聞いたシャークティは、聞いた声の主を確認するべく、即座に後ろを向いたのだ。

 

 また、超は魔法先生に危険視されているのを知ってるので、こそこそとハルナの後ろに隠れて様子を見ていた。ここで無駄に揉めても仕方がないので、やり過ごそうと考えたのである。

 

 

「大変なことに主力の大部分に特殊弾の攻撃を受け、大多数が壊滅状態に!」

 

「んなこたぁわかってる! だから俺らが援護に……」

 

 

 シャークティは焦っていた。スナイパーの攻撃やロボの攻撃で大半の戦力が消滅してしまったからだ。だが、それはすでにカギたちも承知の事実。そうなったがために、カギたちもロボ掃除を始めたのである。しかし、そこへ招かれざる客が現れた。

 

 

「なっ!? し、しまった!!」

 

「何ィィ!? スナイパーはぶっ潰したはず!!?」

 

 

 なんと突如としてシャークティが黒い渦に飲み込まれ、消えてしまったのだ。それはまさしく強制時間跳躍弾の効果だった。カギはそれを目の当たりにし、表情を歪ませるほど驚いていた。何せ辺りのロボ軍団は壊滅させた上に、スナイパーも倒しきったはずだからだ。ならば一体誰がこのようなことを、そう思ったカギは弾丸が飛んできた方向へと振り返ったのである。

 

 

「麻帆良の悪しき魔法使いどもめ、この私が裁きを与えてくれる!」

 

「て、テメェはまさか……!?」

 

 

 そこには夕焼けを背に、薄暗い表情で立つ一人の男がいた。金髪にメガネ、やや細めの輪郭。それはあのマルクであった。手には拳銃が握られており、それを使って強制時間跳躍弾を放ったのだろうと推測できた。そして、マルクは手に握り締めた拳銃をカギたちへ向け、大層な言葉を叫んだのだ。

 

 

「ビフォア様がこの弾を使うよう命じていなければ、命ごと消し去れたものを……」

 

 

 マルクは拳銃を構えつつも、その拳銃を見ながら一人ごちった。何せマルクにとっての麻帆良の魔法使いは、悪そのものでしかなく、それを殲滅せんがためにビフォアと組んで居るからだ。だが、ビフォアからの命令で、殺生を控え強制時間跳躍弾を使用するように言われていたのだ。だからこそ、今の攻撃で魔法使いを殺せなかったことに、非常に苛立ちを覚えていたのである。

 

 

「あの人は……!」

 

「え? ネギ君あのおっさんの知り合い!?」

 

 

 そしてネギはこのマルクを知っていた。ネギは悪魔が襲撃してきた時、このマルクに殺されかけたからだ。その光景を鮮明に覚えていたネギは、この土壇場でマルクが現れたことに驚きを隠せず声をもらしていたのである。そのことを聞いたハルナが、ネギがメガネのおっさんのことを知ってるのかと思い、それを尋ねていたのだった。

 

 

 

「いえ……。だけど気をつけてください。僕は前にあの人と戦ったことがあります……」

 

「やっぱりあのおっさんも敵かー!?」

 

「そう見て間違えないようだな……」

 

 

 ハルナの質問にネギは表情を険しくしながら、知り合いではないと答えた。それは当然突然戦いをふっかけられた上に殺されかけたのだ、知り合いなどではないだろう。また、その凶暴性も知っていたので、気をつけるように言っていたのである。

 

 それを聞いたハルナは、はやり敵なのかと声を荒げて落胆していた。まあ、突然攻撃してきて銃を向けている相手が、味方などと言うことはマズ無いだろう。

 

 その横で真名も、マルクがどう動くのかを警戒していた。あのマルクには銃以外にも、何か別の隠しダマを持って居る可能性があると考えたからだ。でなければ複数の相手に、銃一つで余裕を見せることはないと思ったのである。

 

 

「アイツも()()()()ってやつか……!!」

 

「ほう、子供先生が二人……。つまり片側は私と同じと言う訳か……」

 

 

 また、カギは別の部分にも戦慄していた。その原因はマルクの外見にあった。マルクはシャーマンキングのマルコの特典を貰った転生者、マルコとそっくりな姿をして居る。ゆえにカギは、マルクが転生者であることを一目でわかっていた。

 

 だが、それはマルクも同じことだった。マルクはカギを見た時、ネギの兄弟だとすぐにわかった。ネギの兄弟で転生者と言うのは、二次のSSでやりつくされたことである。それを知っていたマルクは、カギが転生者だと気づいたようだ。

 

 

「……先生たち、先に行くんだ」

 

「ここは拙者たちに任せてほしいでござる」

 

「え……!?」

 

 

 そこで真名と楓がネギたちの前へ出て、マルクへと立ちはだかった。それを見たネギは、驚きの声をもらすしていた。マルクの凶暴性と強さを、ネギは身をもって知っていたからだ。

 

 

「何言ってやがる! 俺の能力で木っ端微塵にしてくれる!!」

 

「まあ待つんだカギ先生。現在も何が起こるかわからない状況だ、極力体力を温存しておくべきじゃないかな?」

 

「だ、だがよ!」

 

 

 だが、カギはそれに異議を唱えた。それは自分のチートでぶっ飛ばした方が、早くて安全に目の前のメガネを倒せると思ったからだ。しかしそれでも真名は、カギたちには力を温存してもらいたいと考えていた。何が起こるかわからない上に、敵の数がわからない。だから、ここでヘタに消耗するのはマズイと考えていたのだ。それでもカギは引き下がろうとせず、自分が戦うと言わんばかりに、真名へと話しかけていた。

 

 

「それに、私たちを甘く見ないでほしいな」

 

「そうでござるよ。拙者たちは弱くはござらん!」

 

「お前ら……」

 

 

 さらに、自分たちはカギが思って居るほど弱くなど無い。そう自信たっぷりの表情で、真名は断言してみせた。加えて楓も同じように、普段と変わらぬゆるい表情で、同じことを言ってのけた。それを聞いたカギは、そこまで言う二人に感激し、この場を任せようと思ったようだ。

 

 

「わかった……。ヤツの相手は任せるぜ……」

 

「そうでなくてはな」

 

「任せてほしいでござる!」

 

 

 ならばこの場は二人に任せよう。カギはそう考えた。そして二人にマルクの相手を任せ、先に進むことに決めたのだ。真名も楓もそれを聞き、柔らかな表情で強く頷いた。任されたのならば、あのメガネを打倒してみせる。そう言った強い意志だった。

 

 

「おっと、超。この分の金額は上乗せでいいな?」

 

「しょうがないネ……。それで頼むヨ」

 

「ふふふ、それを聞いて安心して相手が出来る」

 

 

 しかし、そこで真名は超の方へ顔だけ向きなおし、さらなる依頼料の割り増しを頼んだのだ。傭兵として雇われているのだから、この危険となる戦いの前に、もう少し金額の上乗せをしておきたかったのである。なんとまあ、ちゃっかりしている。だが、超はそれを断らなかった。目の前のメガネの男の実力は未知数であり、強敵の可能性が高い。ならば快くそれを承諾し、頑張ってもらおうと思ったからだ。真名は超が金額の上乗せを承諾したのを見て、笑みを浮かべながらマルクへ向きなおし、心置きなく戦えると思ったのだった。

 

 

「作戦会議など無駄なことを……! ミカエル!!」

 

「あれは……!?」

 

「やっぱアレか!!」

 

「え? 何か見えるワケ!?」

 

 

 そう話し合っていた一同を見ていたマルクは、とうとう痺れを切らしたのか攻撃を開始してきた。マルクは今の会話を作戦会議だと考え、そのような無駄なことは意味が無いと怒りをこめて叫んでいたのだ。そして、その攻撃とはやはりO.S(オーバーソウル)。機械天使ミカエルを使い、ネギやカギ目掛けて攻撃させたのである。

 

 ネギはあの時戦った機械天使の姿を見て、恐ろしい相手が登場したと改めて痛感していた。カギはやはりかと思いつつも、その天使の姿に驚いた様子を見せた。だが、ハルナはただの一般人、O.S(オーバーソウル)を見ることができず、ネギたちには何かが見えるのだろうかと思いつつ、焦るしかなかったのだった。

 

 

「御仁の相手は拙者たちでござるよ!」

 

「ぬぅ!? 貴様!!」

 

 

 しかし、そのミカエルの剣を、楓が風魔手裏剣で防いでいた。O.S(オーバーソウル)は魔力で破壊できる。すなわち気でも破壊が可能だ。ならば気で強化した風魔手裏剣で防ぐことも出来るというものだ。実際楓はO.S(オーバーソウル)というものを知らないのだが、倒せないと言うわけではなさそうだ。また、楓は影分身を用いて複数でそれを受け止め、ミカエルの動きを封じていたのである。

 

 ただ、楓はO.S(オーバーソウル)をハッキリと見ることが出来ない。ぼんやりと移る巨大な何かとしか捕えられていなかった。それでも、ミカエルの剣を受け止め、動きを封じれたのは、卓越した技術と直感があればこそだ。

 

 

「さっ、はやく行くでござる!」

 

「何!? 逃がすものか!!」

 

 

 楓は今、影分身と共にミカエルを抑えていた。だからこそ、チャンスだと考え、ネギたちに先に行くよう指示したのだ。それを聞いたマルクは、そうはさせぬと銃をネギたちへむけ、強制時間跳躍弾を放たんと構えたのである。

 

 

「お前の相手は私らと言ったはずだが?」

 

「なっ!? 貴様もかァ!!!」

 

 

 だが、そこへ真名が飛び出し、マルクの懐へと入り込んだ。真名は両手に拳銃を握り、その拳銃とマルクの銃をぶつけ、照準を合わせないように妨害したのだ。相手は楓だけではない。自分も相手になるのだと、そう言い放ちつつ、冷ややかな表情でマルクを睨んでいた。また、真名へ妨害されたマルクは焦りと怒りが入り混じった表情で、コイツも邪魔をするのかと喉から大声を出していたのだった。

 

 

「行くぞ! ネギ!」

 

「……う、うん……。二人とも気をつけて……!」

 

「問題ないさ」

 

「ネギ坊主こそ気をつけるでござるぞ?」

 

 

 二人が体を張ってくれているならば、行くしかない。そう考えたカギはネギに先へ急ぐよう叫んだ。ロボ軍団を倒すだけではなく、魔力溜まりとなる広場を防衛しなければならないからだ。ネギはカギの叫びを聞き、同じく先に進むしかないと考えた。そこでネギは二人を心配し、ねぎらいの言葉をかけて走り出した。そのネギの言葉を聞いた二人は、特に問題はない、むしろそちらも気をつけろと声をかけていた。

 

 

「ホラ、はるなサンも早くくるネ!」

 

「あっ! ちょっと待ってー!!」

 

 

 また、超も同じく先を急いだ。そこでマルクの登場で同様するハルナに、超が急いでこの場から離れるよう、叫んでいた。ハルナは超の言葉が聞こえたところでハッとしたのか、あわててそちらの方へと走り出したのである。

 

 ネギたちが走り去ったのを確認した真名と楓は、マルクから離れ距離を取りなおし、仕切りなおしをした。だが、それでは隙を作ってしまい、マルクがネギたちを追う可能性があった。ならばそうさせればよい。マルクがこの場で背を向けて、ネギたちを追うならば、後ろから攻撃すればよい。真名はそう考えていた。

 

 

「この私にたてつこうとは愚かな……!」

 

「愚かかどうか、やってみるか?」

 

「減らず口を!!!」

 

 

 しかし、マルクはネギたちを追うことはしなかった。むしろかなりご立腹な様子で、戦う姿勢を見せる二人を睨みつけていた。この二人を先に始末してからでも、充分ネギどもを追えると、マルクは考えていたのだ。それでも自分の攻撃を防がれたことに、強い怒りを感じていた。

 

 そんな怒りに燃えながら、冷静な口調で二人を挑発するマルクに、真名は皮肉をこめた笑みを見せつつ、さらに煽り立てたのだ。その煽り文句を受けたマルクは、取り繕っていた仮面の冷静さをも壊し、怒りの叫びを吐き出した。相手がなんであれ、中学生相手に大人気ない男である。

 

 

「楓、あのデカブツの相手は任せていいか? アレは銃などではダメージを与えられそうに無い」

 

「わかったでござる。なら真名はメガネを頼むんだでござる!」

 

 

 真名は楓へデカブツ(ミカエル)の相手を任せると話した。重火器ではダメージを与えられそうに無いからだ。実体の無い謎の力、O.S(オーバーソウル)は物理的な攻撃ではダメージを与えられないのだ。また、真名は魔眼を持っている。それを使えばしっかりとO.S(オーバーソウル)を見ることが出来た。

 

 加えてあのデカブツは、覇王が操るO.S(オーバーソウル)と呼ばれる技術と同じだと気がついた。ならば気や魔力で破壊できるはずだ。それなら楓の方が、デカブツを相手にしやすいと真名は考えたのである。

 

 そして楓も丁度同じようなことを考えていたのか、逆に真名へマルク本人を相手にしてもらおうと思ったのだ。それを聞いた真名は楓と視線を合わせると、二人同時に静かに頷いていた。

 

 

「こしゃくな! まずは貴様ら二人を成敗してくれる!!」

 

「さて、一仕事始めるとするか」

 

「……甲賀忍者中忍、長瀬楓、参る!」

 

 

 だが、マルクは二人がどうあがいても、自分には勝てないと考えていた。こちらには膨大な巫力とO.S(オーバーソウル)ミカエル、さらには強制時間跳躍弾があるのだ。たかが女子中学生などに、遅れなど取れるものかと思っているのである。それゆえネギたちを追うことなく、二人を始末することを優先したのだ。

 

 しかし、怒れるマルクの叫びなどどこ吹く風か。真名は普段と変わらぬ飄々とした表情で、仕事を始めようと言葉にしていた。だが、その眼は真剣そのもので、確実に目の前の男を倒すと、依頼料に誓って決意を新たにしていたのだ。

 

 楓も普段のゆるい糸目の表情から、しっかりとマルクを捉えるように目を開き、本気で戦いに望む姿勢を見せていた。そして忍者として、本気でマルクの操るデカブツを相手にする気となっていたのだった。

 

 

 


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