理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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八十五話 麻帆良大戦争開始

 ビフォアからの突然の襲撃に、戦局は混乱していた。だが、所詮はただの脱げビームを撃つ程度のロボ。転生者が多く存在するこの麻帆良においては、あまり役に立たないのである。転生者たちは能力を鍛えていないものが多いが、それでも転生者。ある程度は戦えるのであった。

 

 

「さあ、大変なことになってまいりました!」

 

 

 そこで司会を務め、大きく叫ぶ和美の姿があった。前回は知らぬおっさん(ビフォア)に頼まれたゆえに、司会を断った和美だが、今回はクラスメイトに協力する形で、司会を務めることにしたのだ。敵の奇襲を知った和美は、すかさずアナウンスを入れたのである。

 

 

「開始の鐘を待たず、未来からのロボ軍団が奇襲をかけてきたのです! 麻帆良湖湖岸ではすでに戦端が開かれている模様!」

 

 

 本来ならば開始時間は一時間以上先だった。だが、ビフォアが計画をくり上げたらしく、ロボの軍団が一時間以上早く襲ってきたのだ。だから和美は司会として、参加者全体にすでに戦いが始まっていることを伝えたのである。

 

 

「さあ、魔法使いの皆さん! 準備はいいですか!?」

 

 

 そして、ならばこちらもイベント開始時間を早めればよい。和美は今すぐイベントを開始すべく、ワンクッションおいてイベントを開催したのだ。

 

 

「では……、ゲーム開始!!」

 

 

 和美のゲーム開始の合図が、麻帆良全体に響き渡った。さらに鐘の音が響き渡り、イベントの開催を参加者全員に伝えたのである。

 

 

「”敵を撃て!”」

 

 

 誰もがその合図を聞いて、即座に攻撃へと移ったようだ。手に持つ武器を敵へと向け”敵を撃て”と誰もが唱えた。すると武器の先端から、光線が発射され、ロボを襲ったのだ。それもロボと同じように、世界樹の魔力を利用した魔法であり、その光線が命中したロボは、機能を停止したのである。

 

 

「喰らえや! 俺の必殺……!」

 

「うおらぁ! フォトンランサー!!」

 

「お前ら特典全開すぎんだろー! こっち使えよ!!」

 

 

 しかし、そんなことはかまわず特典で攻撃する転生者の姿もあった。どこかで聞いたような技や魔法が飛び交い、多くのロボを撃退していたのである。ただ、転生者の中には律儀に配られた武器で戦うものもいるようで、特典ばかりに頼る転生者たちに野次を飛ばしていたのだった。

 

 

「やたっ! 効いてる!!」

 

 

 そこで参加していた美砂も、その武器でロボを攻撃していた。そして、それがロボに通用するところを見て、ガンガン倒そうと思ったのだ。また、桜子も同じことを思ったようで、ロボへと武器を掲げ、敵を撃てと叫んでいた。

 

 

「いけるぞ!」

 

 

 ロボの軍団は数が多い。それでも参加者たちがどんどんロボを攻撃し、数を減らしていった。流れに乗った参加者たちは、勢いづきながら、間髪いれずにロボへと集中的に攻撃したのだ。

 

 

「優勝賞金を頂くのはこの俺だぁ!」

 

「俺が言おうとしていたことをコイツ……!!」

 

「賞金……! そういうのもあるのか」

 

 

 転生者も負けてはいなかった。特典を持つ転生者は他の一般人と異なり、多少なりに強い。それがどんな特典でも、ある程度アドバンテージとなっているからだ。まあ、鍛えている転生者は少ないので、大きな差があるかはわからないのだが。そんな転生者たちも、賞金ほしさに必死となっていた。上陸してくるロボを片っ端から特典やら武器やらで、なぎ払っていったのである。

 

 

「うひゃっ!」

 

「やられたっ」

 

 

 だが、ロボ軍団もただやられているだけではない。手や目から光線を放ち、参加者を襲っていた。それを受けた集団は、誰もがパンツ一丁の姿となり、戦闘離脱を強いられたのである。そして美砂や桜子もそれを受けてしまい、あられもない姿にされてしまっていたのだった。

 

 

「ホラ、二人とも! 早く武器とローブ拾ってきなって! やられたらマイナス50ptsだってよ!」

 

「ええっ嘘!? マイナスでかい!!」

 

「取り戻さなきゃ!」

 

 

 そこへ戻ってきた円が、二人へ復帰するよう呼びかけていた。また、やられた場合のデメリットとして、集めたポイントが減ることも伝えたのだ。それを聞いた二人は、恥ずかしそうに体を隠しながらも、ポイントの減少が気になったようである。だから早く戻ってきて、失ったポイントを稼ぎなおさなければと、美砂も桜子もあせっていたのだった。

 

 湖岸での戦いはどんどん規模が大きくなってきていた。しかし、その戦闘領域を抜けたロボの軍団も存在した。数体のロボは空高く跳躍し、戦闘する参加者の真上を抜けたのである。そして、世界樹前広場へと一直線に駆けたのだ。

 

 

「来たみてーだなあ。危険がなさそうで何よりだ!」

 

「うん」

 

 

 だが、世界樹前広場にも、すでに布陣が出来ていた。湖岸の戦闘を抜けたロボを、待ち構える参加者も多くいたのだ。そこには刃牙や三郎といった面々もおり、それぞれ知り合いの近くで待機していたのである。

 

 刃牙はアキラの隣で武器を構え、飛び交うロボを眺めていた。ただ、そのロボの姿を見て、微妙に違うと思ったようだ。それは敵のロボが”原作”と違って殺傷可能な攻撃を仕掛けてくることを警戒してのことだった。しかし、姿に違いはあれどやっていることは”原作”と差がないのがわかった刃牙は、ひとまず安心したようである。

 

 

「状助君も覇王君も、どこへ行ったんだろうか……」

 

「どうしたん?」

 

「いやあ、友達の姿がないから、どうしたのかなーって思っただけだよ」

 

 

 三郎もまたこのイベントに参加し、ロボの迎撃体制に移っていた。ただ、そこに状助や覇王の姿がないことに、少し不安を覚えたようである。何せこのような異常事態に、あの二人が出てこないはずがないと思ったからだった。そんな心配そうな表情で周りを見る三郎へ、亜子はどうかしたのかと聞いたのだ。すると三郎は困った様子で、その二人が見当たらないのでどこにいるのか探していたと、正直に答えたのだ。

 

 そんなところにロボの軍団が三郎たちがいる場所へと到達し、誰もがそこで攻撃を始めていた。女子中等部3-Aのメンバーも、悠々とロボへ攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「どんどんロボが出てくるよ!?」

 

「敵の攻撃に危険はなさそうだし、点数稼ぎにもってこいじゃないかな」

 

 

 だが、さらにロボの軍団はそこへ現れ、そこにいる参加者を圧倒していた。亜子もそのロボの軍団の数に驚き、少しあわてた様子を見せていた。そんな亜子へ三郎は、ならば倒して点数にしてしまえばよいと、手に持った銃型の武器で攻撃を繰り出していたのだった。それに同感だと考える3-Aのクラスメイトたちも、同じくロボへと手を休めず攻撃していた。そんなクラスメイトたちを見ていた古菲は、自分のクラスメイトながらよくやると思っていたのである。

 

 

「そういえばネギ先生やカギ先生と仮契約してるのって、本屋ちゃんや夕映ちゃんぐらいだっけ……」

 

「そうですね……。彼女たちは別行動で、ここにはいませんし……」

 

 

 また、アスナや刹那は戦いが始まったことを、ネギやカギへ伝えようとしていた。だが、携帯電話は通じない上に、仮契約を行っていないので、仮契約カードを使った念話は不可能。そして、その二人と仮契約をしているのはのどかと夕映のみ。さらにその二人は今この場にいないという状況だ。

 

 

「こういう時を見越してこいつを持たされたってわけか」

 

「流石超さんです。これで連絡できるか試してみましょう」

 

「そうね……!」

 

 

 しかし、こんなこともあろうかと、超が通信媒体を協力者全員に配っていたのだ。それは小さな通信機で、片方の耳につけるだけで通信が出来るという優れものだった。その通信機をカモミールが取り出し、二人へ配ると早速連絡が可能かどうか、試したのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 超のアジトにて、ネギとカギは待機していた。だが、カギは”原作”を知っている。もしもビフォアという男が”原作”の真似をするのなら、そろそろ攻撃を仕掛けてくるだろうと予想していたのだ。そして、それはあたったらしく、刹那から連絡が来たのである。また、アジトのモニターでも、そのことを確認することが出来た。

 

 

「やはり先手を打ってきたか!」

 

「やはりって、兄さんはそうなることを予想してたの!?」

 

 

 カギの考えは正しかった。ビフォアも転生者という存在であり、自分で計画を一から練るなど行うはずが無いと思っていた。だから必ず、ある程度は”原作どおり”に事を進めようとするだろうと考えていたのである。カギはそこで、予想通りの展開にニヤリと口元を歪ませ、思ったとおりだと言葉にしていたのだ。それを聞いたネギは、カギがこの展開を予想していたことに、驚きの声を上げていた。

 

 

「いや、そうじゃなくてだなあ……。俺の中に眠る生前の記憶が呼び覚まされたのさ……!」

 

「もうそれは聞き飽きたよ……」

 

 

 しかし、カギは半分は予想していたことだが、半分は”原作知識”から来る考えであり、ネギにそう言われてはり少しだけ沈痛な表情を浮かべたのだ。また、それをごまかすために、いつも通りの自分の中に眠る記憶だと、厨二ポージングと共に豪語したのである。ネギはカギのその態度に、何度も見飽きたという表情をしていたのだった。

 

 

「もう喧嘩が始まってるってのか!? こうしちゃいられねぇ!!」

 

「貴様! どこへ行く!?」

 

 

 そしてテーブルの上でやる気なくぐったりしていたカズヤだったが、戦いが始まったことを知るやいなや、椅子から立ち上がり外へ出ようと駆け出したのだ。そんなカズヤへと叫び、静止する法だった。法はモニターを眺めていたので、戦いが始まったことを、カズヤよりも早く知ったようだった。

 

 

「決まってんだろ? 喧嘩だ喧嘩! まさか止めようってんじゃねーだろうな?」

 

「いや、ならば俺も行こうと思っただけだ」

 

 

 案の定、カズヤの答えは喧嘩しにいくというものだった。そのカズヤの表情は生き生きとしており、まるで水を得た魚のようなものだった。そこで、カズヤは背を向けたまま、法へ止めるなと叫びながらも、握りこぶしに力をこめていたのである。さらに、法はカズヤの行動を止めようとしたわけではなかった。行くのなら自分も行こうと、そう考えていただけだったのだ。本当にこいつら、結構似たもの同士である。

 

 

「ハッ! そうかい! んじゃ行ってくるぜ!!」

 

「ここは任せた……!」

 

「気をつけろよ!?」

 

 

 カズヤと法は外へ出る際、さりげなく千雨へと挨拶をして出て行った。千雨もそんな二人へと、健闘を祈る言葉をかけたのである。まあ、実は千雨はあの二人ならばどんなことがあっても、大丈夫だろうと考えて居るのだが。

 

 

「ならばこちらも動いたほうがよいでござるな」

 

「だが、別の作戦の時間が近い。それが終わってからの方がよいだろう」

 

 

 そこで楓も行動した方がよいだろうと、ネギやカギ、そして真名へと話しかけていた。だが、真名は次の作戦の時間が近いこともあり、それが終わった後でもよいと答えたのだ。

 

 

「そうだなあ。まずは倒れてほしい相手が倒れるまで、ここにいた方が安全かもしれねーしな」

 

 

 カギも真名と同じ意見だった。敵はロボ軍団やビフォアだけではない。ビフォアが雇った転生者らしき存在もいるのだ。そして、その転生者がまた非常に戦いづらい相手なのである。ならば、次の作戦でその転生者の一人を倒した後でも、行動するのは遅くないと、カギも考えたのだ。

 

 

「みんな、無事でいてください……」

 

 

 ネギもまた、早く外へ出て戦いに加わりたいと考えていた。だが、ネギの作戦はロボ軍団と戦うことではない。そのためここで待機して、ある程度安全が保障されるまで動く必要が無いのだ。それでもやはり、外で戦っている一般人や、自分のクラスメイトの心配をしていたのである。いや、今はただ、それしか出来なかったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 世界樹前の広場にて、戦いはさらに激しさを増していた。飛び交うロボへ打ち込まれる光の弾。ロボからの脱げビーム。それを受けて慌てて退却する一般人。もはや乱戦と呼べるほどの戦局だった。それをアスナはその戦いを眺め、そろそろ自分たちも戦おうかと思っていた。そして、刹那はネギたちとの通信を終えたようだった。

 

 

「ネギ先生たちは、次の作戦が終わるまで動かないそうです」

 

「ふーむ。やはり()()を警戒してるってわけか。ならしょうがねぇか」

 

「確かにある意味一番厄介な相手だものね……」

 

 

 通信を終えた刹那は、ネギたちはまだ動かないとカモミールへ説明した。するとカモミールも指を顎に当てつつ、そのことに納得していた。また、アスナも警戒している相手は最も厄介であり、不用意な行動は難しいと考えたのである。

 

 

「それにしても、何かヤバいことになってきたわね」

 

「そろそろ私たちも行った方がよさそうですね」

 

「よ、よっしゃ! 行って来い!!」

 

「あれ? 私も行った方がいいアルか?」

 

 

 アスナは再び戦場へと視線を戻し、戦局が敵側に傾いていることに危険を感じていた。だから刹那も役割として、ロボ軍団の間引きを行おうと思ったのだ。そして、カモミールの怒号とともに、二人は戦場へと跳んで行ったのである。その二人が出た後に、古菲はぽつんと残されてしまい、自分も戦った方がよいか考えていたのだった。

 

 

「ヤバイなこりゃ! 敵の数が圧倒的に多すぎる!」

 

「上の広場を占拠されたら負けだよ。非常にまずいね……」

 

 

 また、戦場ではロボの数に圧倒され、ややジリ貧となった参加者たちの姿があった。その中には刃牙もおり、これは流石にまずいと感じ始めていた。刃牙の隣のアキラも同じように危機感を覚え、世界樹前広場を占領されればゲームオーバーになることを思い出していたのだ。

 

 

「さらに増えた……!!?」

 

「ど、どないしよー!?」

 

 

 しかもそこへさらなるロボの増援が現れた。もはや防衛する参加者よりも、ロボのほうが多い状態となっていた。そのイベントに参加していた三郎も、こりゃキツイと増援に驚いていており、その横で亜子も敵の数に焦りを感じていたのだった。

 

 しかし、そこへ味方の増援が上空から現れた。それは黒を基本にする魔法使いのような格好をした少女だった。

その少女が右手に持つ小さな杖をロボへと向けると、炎の矢が複数飛び出しそのロボを貫いたのだ。

 

 だが、敵のロボもやられっぱなしではない。その少女へと即座に反撃し、ビームを放った。少女はそのビームを横へ飛ぶことで回避し、姿勢を低くしたまま左手で握る拳銃の魔法具で、攻撃してきた残りのロボへ光の弾を撃ち込んだのである。するとロボの軍団は機能を停止し、その場へ倒れこんだのだった。

 

 

「あ、あれはゆーな!?」

 

「フッフッフッ、お助けヒーローの登場だよ!」

 

「え!? どー言ーこと!?」

 

 

 その少女は明石裕奈だった。裕奈も魔法生徒として、この戦いに身を投じていたのだ。誰もが裕奈の登場に、驚きを隠せなかった。また、こんな面白そうなイベントに裕奈が姿を現さないことに、誰もが不思議に思っていたのだ。それゆえ、まさかこのような登場の仕方をするとは、誰も思っていなかったのである。

 

 そこで裕奈はロボの軍団を撃破し、その場で体をゆっくりと起こした。そして、クラスメイトに背中を見せながら、助けに来たことをアピールしたのである。その裕奈の言葉に、クラスメイトたちは疑問に思ったようだった。

 

 だが、敵のロボ軍団は次々にやってきていた。裕奈が撃破した後に、再びロボ軍団が舞い降りたのである。

 

 

「また増えた!?」

 

「ありゃ、これは多いねぇー」

 

 

 倒せど倒せどやってくるロボ軍団に、誰もが少し困惑を見せていた。まあ、それでも点数になるので、とてもおいしいとも思っているのだが。裕奈たちはそのロボ軍団へ攻撃すべく、武器を再びそちらへ向けたのだが、そこへ新たな増援が現れたのだ。

 

 

 集団の中央にいるロボが、突然両断されていた。そして、さらにその辺りから、一直線に多数のロボが胴体を切り裂かれたのだ。その攻撃を仕掛けたのは、アスナだった。だが、それでも倒しきれる数ではなく、ロボはアスナへ目標を定め始めていたのだ。

 

 

「神鳴流奥義”百烈桜華斬”!!!」

 

 

 だが、さらにそこへ追撃が入り、残りのロボもバラバラに切り裂かれた。その奥義が放ったのは、やはり刹那であった。刹那はアスナが倒しきれなかったロボを、その奥義で全滅させたのである。そして、敵の数が大幅に減ったことを確認したアスナは、クラスメイトたちの方を向いて、ニヒルな笑みを浮かべていたのだ。

 

 それを見た誰もが、今の攻撃に驚きの声を上げていた。また、アスナと刹那を見た数名の参加者が、武道会で死闘を繰り広げていた少女たちだと思い出して、そのことをつぶやいていた。あれほどの戦いを見せたのだから、記憶に残っていても不思議ではないだろう。

 

 

「あら、ゆーなに先を越されちゃったみたいね」

 

 

 そこで、先にロボを倒していた裕奈を見たアスナは、先を越されたと思ったようだ。いや、むしろ裕奈が自分たちより早く、ロボを攻撃することなど、わかるはずもないだろう。

 

 

「アスナ……!? それに桜咲さんまで……」

 

「三人とも、一体どういうこと……?」

 

 

 また、アスナと刹那の登場にクラスメイトたちは騒然としていた。突然やってきて、多くの敵を撃退したのだから驚かない方がおかしいのだ。さらに多くの敵を倒す三人に、点数を奪われてしまったと思うクラスメイトもいたのだった。

 

 

「パンフに載ってるけど、うちらヒーローユニット役でね! はぁー、でも普通に参加したかったなー」

 

「本当だ、載ってる!」

 

 

 そんな驚き疑問に感じるクラスメイトたちへ、裕奈は自分たちの役割を教えたのだ。それはヒーローユニットとして、参加者を支援する形で戦う役割だった。ただ、裕奈はそういう役割としてではなく、普通の参加者として参加したかったと嘆いていた。何せ優勝すれば賞金が出るのだ。普通に出たいと思うのも無理はないだろう。

 

 そして、裕奈の話を聞いたクラスメイトたちは、持っていたパンフレットを眺めて、その事実を確認していた。

そこにはしっかりと、ヒーローユニットと協力して点数を稼ごうと書いてあったのだった。

 

 

「というか、ゆーなも()()()()だったんだ……」

 

「それはこっちの台詞だって! アスナがこんなに強かったなんて知らなかったわー」

 

 

 アスナは裕奈が魔法を使ったのを見て、裕奈が魔法使い側だったことを今知ったようだ。裕奈もアスナがあれほどまでに強いとは、思ってなかったようでお互い苦笑しあっていたのである。また、そう会話するアスナの横で、刹那は静かにたたずんでいた。

 

 

「とりあえず私たちは街路の敵を倒してくるわね」

 

「なら私はここで防衛線でも張っておこーかね!」

 

「では後ほど……」

 

 

 そこでアスナはこの場のロボを全滅させたので、いまだ戦いが続いている街路へと移動することにしたようだ。ならば自分はクラスメイトたちと広場を守ると、裕奈は胸を張ってこの場に残ると話していた。確かにヒーローユニットの一人が、最終防衛ラインにいるのは心強いことだろう。それならこの場を裕奈に任せ、刹那が一言残すとアスナとともに街路へと飛んでいったのだった。

 

 

「お待たせしました! ヒーローユニットの登場です!」

 

 

 と、アスナたちの登場を待ちわびたかのように、和美が司会役として解説を始めたのだ。黒一色の服装に魔法使いのような帽子をした姿で、マイクを握って叫んでいた。和美はアスナたちに協力すると言ったので、司会役を任されることになったのである。銀髪の事件が終わり晴れ晴れとした気分で、和美はかなりノリノリで司会役を堪能していたのだった。その姿は、そんな和美をクラスメイトたちが見て、はまり役だなーと思うほどであった。

 

 

「強力な戦闘力を持つヒーローユニットと協力して高得点を目指し、世界樹を防衛してください!!」

 

 

 そう和美が叫ぶと、魔法先生たちや魔法生徒たちがいっせいにロボへと攻撃を仕掛け始めていた。そして、誰もがこの作戦に関心を抱いていたのだ。何せイベントとして戦うのであれば、魔法を気にせず使えるからである。こんな作戦を考えた学園長は、なんてすばらしい人なのだろうと、魔法使いたちはそう思いながら戦いに参加していたのだった。まあ、学園長が考えたわけではないので、学園長も説明中に自分が考えた訳ではないと思っていたのだが。

 

 魔法使いの参戦で、さらに戦いが激しくなっていた。だが、そこへ参加者たちが空を見上げたとき、何か黒い影が現れたのを目撃したのだ。

 

 

「なんだ!? 上から何か落ちてくるぞ!?」

 

「敵か!?」

 

「鳥か!? いや、アレは……!?」

 

 

 それを見た参加者たちは、新手の敵かはたまた鳥かと思ったようだ。しかし、それは加速しながら、戦場へと落下してきていることに、誰もが気がついたようだ。そして、その影は敵でも鳥でもなく、たとえるならば拳の形をした弾丸だったのだ。

 

 

「シェルブリットオォォッ!!!」

 

 

 そう、それはまさしくヤツだった。拳を前に突き立てて、落下してくる男こそ、あのカズヤだったのだ。その落下の衝撃とシェルブリットの破壊力により、中型のロボットへと衝突しそれを破壊、さらに周囲のロボまで吹き飛ばして砕いたのだ。なんというすさまじい破壊力だろうか。今の攻撃による衝撃で、土煙を巻き上げて周囲に吹き荒れさせていた。

 

 

「カズヤさん!?」

 

「あれが噂のシェルブリットの!」

 

「いい特典持ってるなあー」

 

 

 また、今の攻撃とカズヤを見た参加者たちは、驚きながらガヤガヤと騒ぎ始めていた。突然のカズヤの登場に驚くもの、カズヤを噂に聞きこれほどと思うもの、そしてなかなかいい特典を選んだと考えるものが、それぞれ思い思いにカズヤを眺めていた。そんな転生者らしき参加者を無視し、カズヤはさらに迫り来るロボ軍団へと向き、唇を吊り上げながら戦闘態勢をとっていたのだった。

 

 

「さあ、始めるぜ!! ”衝撃のファーストブリット”!!」

 

 

 そしてカズヤは背中に装備した紅き羽の一番下を砕き、そこから発生する粒子による爆発的な加速を行った。さらに何度か弧を描きながら、一体のロボへと突き進んでいったのだ。

 

 

「ウルォオオォォウウゥアァァァッッ!!!」

 

 

 もはや獣ともとてる叫びとともに、カズヤはロボ軍団へと地面をすべるように突き進んでいった。そこでカズヤはすさまじい速度と回転力を利用し、ロボに拳をぶち当てたのだ。するとそれを受けたロボが、その破壊的な衝撃とともに破壊され、後方のロボ軍団へと衝突すると、そのロボ軍団を巻き込み大爆発を起こしたのである。それによりそこに居たロボ軍団は全滅。炎上するロボ軍団を、カズヤは拳を振り下ろした体制のまま、ニヤリと笑い停止していたのだった。

 

 

「もっと来いよ! テメェらまとめて叩き潰してやるぜ!!」

 

 

 そしてカズヤは、さらに敵が増えることを望んでいた。そう喧嘩を吹っかけるような台詞を言いつつ、カズヤはゆっくりと姿勢を戻し、拳を再び握りなおしたのだ。だが、そんなカズヤへ叱咤の叫びを放つものが、その場へと現れたのだ。

 

 

「バカが……! 周りには一般人も戦っているんだぞ!? 少しは抑えたらどうだ!!?」

 

「ハッ! 知るかよ! こっちはこっちのやり方っつーもんがあんのさ!」

 

「貴様!! もしも一般人に被害が出たらどうする!?」

 

 

 それはやはり法だった。法はカズヤの今の攻撃で、周囲の参加者に被害が出ないか心配だったのだ。そのことをカズヤへと叫んでいたのだが、カズヤには知ったことではないらしい。まったく話を聞かないカズヤに、法はさらに怒りのボルテージを上げていくのだった。

 

 

「知らねぇよ! んじゃ二発目! ”撃滅のセカンドブリット”オッ!!」

 

「カズヤ!! クッ、絶影!!」

 

 

 そして、親のごとくうるさく叱る法を無視し、カズヤは再び攻撃を開始したのだ。法が叫んでいる間に、次のロボ軍団が迫ってきていたからである。それを見た法も、同じくロボ軍団へと攻撃を開始したのだった。

 

 

「あれ絶影じゃね!?」

 

「マジか!? マジだ……!!」

 

 

 また、転生者らしき参加者が、その法が作り出し操る絶影を見て驚いていた。いやはや生で絶影が見れるなど、夢にも思わなかったのだろう。ただ、まほら武道会を見学していた転生者は見慣れたようで、単純に羨ましがる様子を見せていた。

 

 

「”絶影”ィィッ!!」

 

 

 しかし、法もそんな転生者を無視し、ロボ軍団へと攻撃していた。絶影の首から生える触手状の剣を使い、ロボ軍団を切り裂いていったのだ。この触手状の剣は列迅と呼ばれ、やわらかな動きで変幻自在に動く。だが、そんなしなやかな動きとは思えぬほどに鋭く、切り裂くことも突き飛ばすことも出来る優れた武器なのである。その鋭い一閃を受けたロボ軍団は、たちまちバラバラに切り裂かれて破壊されたのだった。

 

 

「なんだよ、文句言うわりには、自分だって暴れてんじゃねーか」

 

「貴様と一緒にするな。俺はこの麻帆良を蹂躙しようとする毒虫どもを、処断しているだけだ。そうだ! 奴らは断罪されなくてはならない!」

 

「言ってろよ! 俺はんなことよりも、もっと喧嘩を楽しみたいだけだ!!」

 

 

 カズヤはその法の暴れっぷりを見て、自分も同じように暴れてるじゃねーかと思ったようだ。ただ、法は一応周囲に注意しながら戦っており、カズヤとは違うことを示していた。また、このようなロボで麻帆良を蹂躙しようとするならば、敵として断定し処断すると強い意思のもと、法が言葉にしていたのだった。そんな法の言葉など、カズヤはやはりどうでもよいのだ。カズヤはこの喧嘩を楽しめればそれでよいからだ。だからさらにロボ軍団へと殴りかかり、敵を破壊しつくすだけだったのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 そのカズヤと法のムチャクチャな戦闘を、超たちはアジトのモニターで眺めていた。なんというすさまじい力だろうか。彼らの戦闘力は超が予想していたものよりも、はるかに上回っていたようだ。

 

 

「すごいネ。彼ら」

 

「ああ……。目を逸らしたくなるほどの非常識なバカどもだ……」

 

 

 開いた口がふさがらないとはこのことだろう。カズヤと法はとんでもない力を見せ付けてくれていたのだ。超もそれに驚いていたが、そんなデタラメな強さを再び見た千雨は、少し遠い目をするほどだった。異常だとは聞かされていたし何度か目にした光景だが、流石になれてはいないようだ。

 

 

「しかし、撃破数が2000を超えても、今だ敵の数が減る様子はありません」

 

「やはりロボの工場があるからカ……」

 

「これではいずれジリ貧になるかもしれん……。何とかしなくてはならんのだが……」

 

 

 しかし、それでもなお敵のロボの数が減る様子がなかった。2000と言う数を撃破したと言うのに、まるで敵の数が減らないのだ。それはやはり、地下のロボ工場に原因があると超は睨んでいた。そのロボ工場を何とかしない限り、敵の数が減りそうに無いと、エリックも考えていたのだ。

 

 

「こ、これは!?」

 

「何者かが学園のメインシステムにハッキングを仕掛けているようです……!?」

 

「これもビフォアの仕業カ!」

 

 

 そんな時に緊急事態のアラームがアジト内に鳴り響いた。それは学園のメインシステムへのハッキングの知らせだった。ビフォアのサイバー攻撃が始まったのである。

 

 

「学園側で対処しているようですが、まったく間に合ってないみたいです!」

 

「ならばこっちで対応するだけヨ!」

 

「その通りだ! ワシらでなんとしてでも侵入を食い止めるんだ!」

 

 

 そのサイバー攻撃に学園側は対応し切れていない状態だった。ならばこちらで対処すればよいと、超たちはその攻撃を防ごうと動き出した。

 

 

「早い……! これほどの攻撃を仕掛けられる相手って……」

 

「茶々丸と同速かそれ以上ダト……?! 手動で動かしてるようには思えないヨ!?」

 

「これでは学園の結界が落とされるぞ!!」

 

 

 だが、そのサイバー攻撃の速度は異常な速さを見せていた。まるで手動では操っていないような、そんな速度の攻撃だった。もはや茶々丸での直接的な回線接続による、ハッキングと同等化それ以上だったのである。その速度に誰もが驚き、このままでは学園の結界が消失するということに焦りを見せていたのだ。

 

 学園の結界は機械的に設置されているため、この手の攻撃に弱いのである。そうさせないために、何重にも防壁があるのだが、それすらも軽々突破してきたのが、今の攻撃だった。一体誰がこれほどの攻撃を仕掛けてきているかはわからないが、とにかく危険な状況なのは事実であった。

 


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