理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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八十三話 戦いの前

 女子中等部3-Aの生徒たちなどは、麻帆良祭最終日に行われる全体イベントを宣伝していた。カギの提案により、ビフォア対策としてイベントを利用するため、イベントそのものを急遽変更したのだ。さらにイベントに使う武器の内容を実演しており、小さな杖からバズーカタイプまで様々な形の武器があり、人体には無力な光の弾が出ると説明されていた。

 

 また、生徒たちが宣伝しているところへと朝倉和美もやって来ていた。この和美、ずっと銀髪たる神威を追っかけていたので、麻帆良祭を楽しむことが出来ないでいた。だが、昨日の夜に銀髪は倒され、クラスメイトはすっかり元通り。それを確認した和美は、とりあえず残り少ない麻帆良祭を楽しもうと考えていたのだ。

 

 

「いやー、みんな元に戻ってよかったよ」

 

「これにて一件落着ですね」

 

 

 銀髪の事件が解決し、和美は晴れ晴れとした笑顔を見せていた。あの忌まわしき悪夢から開放されたのだ。当然といえよう。また、その横を歩くマタムネも、同じように笑っていた。

 

 

「おやおや? なんだかにぎやかだねー。何してんだろ?」

 

「何か大掛かりな催し物のようですが……」

 

 

 ここで和美は目の前で光が発射されている異様な光景を見て、何が始まろうとしているのかと疑問に思ったようだ。マタムネも何かイベントらしきものを説明しているのだろうと、みたまま考えたのである。

 

 

「なんか面白そうなことやってるみたいだし、ちょっくら見てみようか!」

 

 

 銀髪の事件も終わり、ようやく学生らしく遊べると思った和美は、普段以上に張り切っていた。そしてそのイベントを説明しているところへ、走っていこうとしたのだ。しかし、そこで通行人とぶつかってしまい、出鼻をくじかれることになったのである。

 

 

「あいたっ!? ってアスナ……?!」

 

「あ、ゴメン朝倉」

 

 

 和美がぶつかったのはアスナだった。アスナはイベントの変更を頼んだ張本人、この場所で色々と手伝っていたのだ。とりあえず作業が一息ついたので、周りを警戒しようとしていたのである。

 

 

「浮かれるのは良いが、しかと前を見て歩くべきでしたね」

 

「し、しょうがないじゃん! やっと肩の荷が下りたんだからさ」

 

「何かあったの?」

 

 

 アスナとうっかりぶつかってしまった和美を、ひっそり窘めるマタムネ。そんなマタムネに、今のテンションでは仕方が無いと和美が少し怒った感じで文句を言っていた。そこでアスナは和美の文句を聞いて、何かあったのだろうかと思ったのだ。

 

 

「うーん。昨日のことなんだけどさ。多分カギ君に聞いた方が早いと思うけど?」

 

「カギ先生が何かやらかしたわけ?」

 

「いや、そうじゃないんだけど……」

 

 

 和美は昨日、最後は全てカギに任せてしまった。だからカギの方が詳しく知っているのではないかと思い、カギに聞いた方がよいとアスナへ話したのだ。だが、アスナはカギが何かやったのだろうかと勘違いしたらしく、首をかしげていたのだった。一応カギはクラスを救ったヒーロー。そのような誤解は流石にかわいそうだと和美は思い、その部分をしっかり否定したのである。

 

 

「まあいいや、後で聞いてみるわ」

 

「それがいいよ。ところで今度はこっちが聞くけど、ここで何やってんの?」

 

 

 アスナは和美がそう言うのなら、後でカギに聞けばよいかと考えた。そこで和美がアスナへと質問を出した。ここでどんなイベントを行っているのか、興味があったからである。

 

 

「あー、そういえば朝倉も魔法知ってるんだっけ」

 

「なに? このイベント、魔法が関係してるワケ?」

 

 

 その質問を聞いたアスナは、ふと和美が魔法を知っていることを思い出したようだ。何せアスナと和美は大きな接点が無い。だから和美が魔法を知っていることを、アスナは半分忘れていたのだ。また、和美もアスナのもらした言葉を聞いて、そこで行われているイベントが魔法と何か関与しているのだろうかと考えたのである。

 

 

「微妙だけどね。まあ、簡単に言えば、麻帆良の未来を賭けてみんなで戦うのよ」

 

「……んんー?」

 

 

 魔法が関わっているのかと和美に聞かれたアスナは、今の戦いではロボが相手なので魔法はあまり関わってない気もすると答えた。そして、自分たちの目的を和美へと教えたのである。だが、和美はそれを聞いて、何か聞き間違えたのだろうかと言う表情で、数秒間フリーズしたのだった。

 

 

悪いヤツ(ビフォア)の魔の手から麻帆良を救うのよ。そうしないと麻帆良がメチャクチャにされてしまうのよ……」

 

「ここがメチャクチャに!? 本当!?」

 

「ウソじゃないわよ……。闇に染まった空、瓦礫と化した町並み、溢れるチンピラ! 今も思い出しただけでゾッとしないわ……」

 

「ちょっとちょっとー! どんな世紀末救世主よそれー!! あんた漫画の見すぎじゃない!?」

 

 

 さらにフリーズする和美へ、アスナは待ったなしに話を始めた。麻帆良を守るためにビフォアを倒すのだと。ビフォアを倒さなければ、麻帆良は破壊されつくしてしまうと。

しかし、突然そんなことを言われても、何を言っているのかわかるはずもない。和美はアスナの言葉に、少し混した様子を見せていたのだ。それこそアスナが漫画の見すぎで頭がやられてしまったのではないかと和美が思うほど、アスナの話は突拍子なものだったからだ。

 

 

「だから本当なんだって! だから何とかして麻帆良を守ろうと、今もみんなで対策してるところなんだから!」

 

「うーん、にわかに信じられないけど……」

 

 

 普通に考えればそんな話、意味不明の妄想に聞こえるだろう。それでもアスナはウソではないと、和美に訴えかけていた。何せアスナも地獄めいた麻帆良を体感したのだ。あれがウソだったなら、どんなによいかと思うほどなのである。だが、アスナの必死の説明を聞いても、和美は信じられないと言った態度を見せていたのだった。

 

 

「……まあ、無理に信じろだなんて言わないけど……」

 

 

 アスナは和美の態度を見て、あまり信用していないなと思ったようだ。普通に考えれば、今の話はありえないことだらけであり、信じられるわけが無いからだ。アスナもその辺りはわかっていたので、無理に信じなくてもよいかと考えたのである。しかし、和美はまったく信じていなかったわけではないようだった。

 

 

「んー……。何かヤバそうな雰囲気だねぇ……」

 

「あれ? 信じてくれたの……?」

 

「いやね、別に魔法があるワケだし。何があっても不思議じゃないかなって思ってさ」

 

 

 必死に叫ぶアスナを見て、和美は冗談にしては少しオーバーすぎると思い始めていた。実際魔法なんてものがあるのだから、そんなことがあっても不思議ではないかもしれないと、和美は考え始めたのである。それになんだかアスナも必死で、冗談言ってるには少し本気すぎると思ったのだ。

 

 また、突然和美が今の話を信じたことに、アスナは驚いた様子を見せていた。まったく信用してないと思っていたアスナは、和美が今の話を信じてくれたことに、戸惑いを感じたのである。

 

 

「……そうだ。私も協力しようか?」

 

「朝倉が協力……?」

 

「そう意外そうな顔しないでさ! この麻帆良がヤバイ事になるなら、私も無関係って訳じゃなさそうだし、出来ることがあればやるよ!?」

 

「確かにそうだけど……」

 

 そこで和美は、今のアスナの話を聞いて、それなら事件解決に協力すると言い出したのである。突然の和美の発言に、アスナはきょとんとした表情を見せていた。まさか和美が協力すると言い出すなんて、思いもよらなかったからだ。しかし、和美も麻帆良がどうかなってしまうなら、自分にも被害があるのではないかと考えた。ゆえに自分も何か出来ることがあれば、手伝おうと思ったのである。

 

 

「お話中失礼。小生も多少ながら覇王様から、なにやら不穏な動きがあると聞かされております」

 

「覇王さんから……?」

 

 

 と、そこでアスナと和美の話の間に、マタムネが割り込んできた。マタムネは昨日の夜、覇王にビフォアの情報を教えられていたのだ。そのことについてアスナが話しているのだろうと察したマタムネは、話に乗ってきたのである。

 

 

「相手は強敵、さらに陰湿にて卑怯。ならば小生も協力したいと思います」

 

「おっ! マタっちも?!」

 

 

 覇王の情報によれば、ビフォアと言う男は危険な存在で、覇王も手を焼くほどだと言う。そこで和美がアスナへ協力するのであれば、自分もそうするのが当然だと、マタムネは考えたのだ。また、マタムネの協力発言に、和美は驚きながらも喜ばしく感じた様子を見せていた。

 

 

「小生は覇王様から、戦わずに木乃香さんや刹那さんを探しだして逃げてくれと言われておりました」

 

「あっ、そういえばそんな感じだったっけ……」

 

「え? マタっちが勝てないほどの相手なの……!?」

 

 

 そしてマタムネは覇王から、情報と共に指示も受けていた。それは木乃香や刹那を探し出し守れと。そして、自分に何かあれば、そのまま麻帆良から脱出しろとのことだった。そのマタムネの話を聞いたアスナは、未来で聞いた情報と照らし合わせ、確かそうだったと思ったようだ。和美はその敵が、マタムネすら勝てぬ相手なのかと考え、驚きを隠せずにいたのだった。

 

 

「いえ、小生ならば勝てる可能性があるとは言われてました」

 

「アイツの能力のことね……」

 

 

 だが、マタムネは覇王から、マタムネならば勝機はあると聞かされていた。それがどういう意味なのかはわからないが、マタムネならばビフォアを討つことが出来るということだった。そこで、そのマタムネの言葉に、アスナは大きく反応していた。アスナは作戦会議の時、覇王からビフォアの能力について聞かされていたからだ。そのためビフォアの能力を思い出したアスナは、ほんの少しだが怒りをあらわにしていたのである。

 

 

「そのとおり。さらにあやつは隠れるのが得意との事で、探して倒すならば先の二人を探した方が良いと言われたのですよ」

 

「本当にずるがしこいんだから……!」

 

「なになに? 何の話?」

 

 

 ビフォアは非常に狡猾な男だ。自分が絶対勝てる相手以外、戦うことはしない。さらに隠れるのがうまく、一度隠れられたら探し出すのは容易ではない。また、アスナはビフォアの能力を考えて、卑怯者めと思いながら苛立ちを見せていた。

 

 しかし、和美には今の話がよくわからない。和美は一応ビフォアと言う男は一度会ったことがある。何せ一度ビフォアに、武道会の司会をしてくれと言われたことがあったからだ。だが所詮は程度で、それが敵だともわからない。ゆえに和美は、二人の話についていけなかったのである。

 

 

「まあ、協力してくれるなら、色々話してあげるわ」

 

「そーでなくっちゃね!」

 

 

 とりあえずアスナは、和美が協力してくれると言うのであれば、少しばかりビフォアについて話そうと思ったのだ。アスナが話してくれると聞いた和美は、目を輝かせて喜んでいた。そんな和美の様子をマタムネは、喜ばしく思う反面心配していたのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 外でイベントの準備が進む中、超のアジトで作業をするものがいた。それは千雨である。千雨はイベントのためのホームページやらを作成したりと、色々忙しそうにパソコンを睨んでいたのだ。そんな千雨に話しかける男が居た。それはあのカズヤだった。

 

 

「器用なことやってんなぁー」

 

「なんだ? 作業中だからあっち行ってろ」

 

 

 カズヤは千雨が使うテーブルの上に腕を乗せ、千雨が操るパソコンを覗いた。そこでとてつもない速さでキーボードをたたき、作業する千雨に感心していたのだ。だが、千雨は作業中なので、気が散るから離れていてほしいと思い、カズヤへ離れるよう少し強気で言ったのだ。

 

 

「そうかい。こっちは暇で暇でしょーがねーんだがなぁー」

 

「……それは悪いことをしたな……」

 

「あぁ? なんでお前が謝るんだ?」

 

 

 カズヤは千雨に呼ばれ、この作戦に加わった。だから作戦決行までの時間、暇をもてあましていたのだ。そんな訳で千雨に話しかけたのだが、邪険に扱われたのでわざとらしくグチをこぼしたのである。それを聞いた千雨は、静かに申し訳なさそうに謝っていた。突然謝られたカズヤは、まさか謝ってくるとは思ってなかったのか、少し驚きつつもどうして謝ったのかを聞いたのだ。

 

 

「だって私がお前を呼んだんだぞ? 麻帆良祭最終日だってのに一日潰させちまったんだ。そりゃ謝りもするだろ?」

 

「クックックッ……」

 

 

 千雨はカズヤがここへ来たことで、麻帆良三日目を潰してしまったと考えていた。本来ならば学園祭最終日、しかも中学生最後である。こうやって計画を待っている時間、学園祭をふらついて遊ぶことも出来たはずだ。ゆえにそれはとても申し訳ないことであると思ったのだ。だが、それを聞いたカズヤは突然静かに笑い出したのである。

 

 

「ハッハッハッハッハッ!」

 

「な、なんだよ、いきなり笑い出して!? 私がなんかおかしなことでも言ったか!?」

 

 

 そして次第にカズヤの笑いは大きくなり、腹を抱え始めたのだ。その様子を見ていた千雨は、自分がなにか変なことでもいったのかと思ったのである。

 

 

「いやね、普段強気なお前から、そんな言葉が聞けるなんてなっと思っただけさ」

 

「ななななな……!?」

 

 

 カズヤは普段から喧嘩の仲裁で殴ってくる千雨から、謝罪の言葉が聞けるなど思っていなかった。というのもカズヤは千雨の誘いを喜んで参加したのだ。いまさら謝られるようなことはないと思っているのである。そんなカズヤの言葉を聞いた千雨は顔を赤くし、少し戸惑ってしまい言葉がうまく発せ無かったのだった。カズヤのやつが、そう言ってくるなどと、千雨も考えたことが無かったのである。

 

 

「まっ、邪魔だっつーんなら、離れてるけどよ」

 

「う……」

 

 

 まあ、千雨からあっちに言っていろと言われたのだから、離れておこうとカズヤは考えた。また、千雨も邪魔だと言うほどは思ってなかったので、カズヤの言葉に黙ってしまったのだった。そしてカズヤがテーブルから手をどかし、立ち去ろうと後ろを振り向いたところで、千雨はようやく口を開いたのである。

 

 

「……つーか、今すぐ喧嘩させろとか言わねーんだな……」

 

「はぁ? こいつはお前らの喧嘩だろう? 俺はお前に呼ばれて、喧嘩の手伝いに来ただけだ」

 

 

 千雨はカズヤが喧嘩してーだなんだと文句を言ってくると思っていた。だが、そんなことは言わずに、ただ静かにしているカズヤへ、そのことを話したのだ。カズヤは千雨の疑問に、再び千雨の方を向き、半分あきれた態度で語っていた。この喧嘩は千雨たちの喧嘩であって、自分の喧嘩ではない。だから、自分がしゃしゃり出て暴れるのは筋違いだと、そう千雨へ話したのだ。

 

 

「これ喧嘩か?」

 

「あったりめーだろうが! そのビフォアとか言う奴がお前らに売った喧嘩だ! それを買ったのもお前らだろう? なら、それはお前らの喧嘩だ!」

 

「そ、そうか……。それで早く喧嘩させろって騒がねーのか」

 

 

 千雨はいつも喧嘩にたとえるカズヤに慣れていたが、この戦いも喧嘩なのかと少しだけ疑問に思ったのだ。しかしカズヤは、この戦いすらも喧嘩であり、ビフォアが売った、千雨たちが買った喧嘩だと、そう叫んだのである。そんなカズヤに少し引きながらも、それでカズヤが喧嘩だなんだと騒がなかったのかと思ったようだった。

 

 

「それもあるけどよ、コイツは一応計画的に動いてんだろ? だったら従うさ。お前らの喧嘩だしな」

 

「本当にお前は変なやつだな……」

 

 

 カズヤがそうしなかったのは、他にも理由があった。何せこの喧嘩、計画的に動いている。ならばその計画通りに動かなければならないと、カズヤなりに遠慮していたのである。そんなカズヤを見た千雨は、カズヤを改めて変わったやつだと思ったのだった。

 

 

「ハッ、お前に言われたかねーよ!」

 

「なっ!? 何!?」

 

 

 その千雨の台詞を聞いたカズヤは、それはこっちの台詞だと言わんばかりに千雨には変わっているなど言われたくないと言葉にした。千雨もその言葉には大きく反応し、それでは自分も変人ではないかと少しばかり怒りを感じたのである。そんなところへもう一人、男がやってきた。それはあの法だった。

 

 

「おい貴様! 長谷川の邪魔をしてるんじゃない!」

 

「おお、これはこれはハカル先生じゃございませんかー?」

 

 

 法もまた、カズヤと同じく千雨に呼ばれて、この作戦に参加していた。また、法はカズヤが千雨の邪魔をしているのかと思い、カズヤを注意しにやってきたのだ。カズヤは法にそう注意されると、いやみったらしい言葉を法へと投げかけたのである。

 

 

「長谷川は作業中だろう!? そうやって居ると邪魔になる!」

 

「ヘーヘー、わかーってますよ」

 

「べ、別に邪魔ってほどじゃねーけど……」

 

 

 法は千雨がパソコンで作業しているのに、話しかけているカズヤが邪魔しているのだと思ったのだ。だからカズヤを叱咤して、立ち去らせようとしているのである。そう言われたカズヤも、ここは素直に従った方がよいと思ったのか、反論せずにただ憎たらしい返事をするだけだった。ただ、千雨はカズヤを邪魔だとまでは思ってなかったので、流石に言いすぎだと思ったようである。

 

 

「アイツがうるせーから、俺は退散するとしますか。じゃーな」

 

「お、おう……」

 

 

 そしてカズヤは法がうるさいので、千雨へと挨拶して早々に立ち去っていった。千雨はそのカズヤの挨拶に、ぶっきらぼうに答えることしか出来なかった。そこへ法が歩いてきて、今度は法が千雨の横へ立ったのである。

 

 

「カズヤのヤツ、わからんやつだ」

 

「いや、お前もわかってねーよな……?」

 

 

 法はカズヤがまったく気がきかないやつだと、あきれたように言葉にしていた。だが、千雨は法も同じようなもんだと思い、一言こぼしていたのである。

 

 

「ん? 何がだ?」

 

「なんでもねー……」

 

 

 その千雨の一言に反応した法が、何がわかっていないのかを千雨へ聞いたのである。千雨はそんな法を見て、完全に駄目なやつだとあきれはて、どうしようもないやつと思ったようだ。普段は冷静なくせに、カズヤに関わると喧嘩腰になる。それで毎回喧嘩しているのだから、そろそろわかれよと思う千雨だったのである。

 

 

「しかし、ビフォアという男。一体なぜ麻帆良を乗っ取ろうと考えたのか……」

 

「んなこと私もわかんねーよ。だが、それで迷惑するは私たちだからな」

 

「ああ、だからこそ、ヤツを見つけて断罪しなければならない!」

 

 

 法はそこで、ビフォアが麻帆良を乗っ取る必要性を考えていた。この麻帆良を乗っ取った後のメリットなどを考えても、どうしてそうしたいのかがあまりわからなかった。とはいえ、多分麻帆良を自分のものにして優越感に浸り、暴れたいのだろうとは考えて居るのだが。

 

 千雨もまた、どうしてビフォアが麻帆良を暗黒街にしたいのかわからなかった。だが、それで迷惑をこうむるのは許せないと、千雨も怒りを燃やしていたのである。そして、だからこそビフォアの行いを断罪しなければならないと、右腕の握りこぶしに力を入れる法だった。

 

 

「……おっと、すまなかったな。そっちも頑張ってくれ」

 

「おう……。もう終わるけどな……」

 

 

 その後法は、自分もカズヤのように千雨の邪魔をしていると思い、謝罪の後に離れていった。千雨は作業がもう終わるし、別に気にする必要はないと思ったのだった。

 

 

「よし、終わった……」

 

「お、流石千雨ちゃん! やるじゃん!」

 

 

 法が立ち去った数分後に、千雨は作業を追えたようだ。ふう、とため息をつき、作業終了を実感していた。そんなところへハルナがやってきて、千雨の仕事をねぎらってきたのだ。

 

 

「なんだよ早乙女!?」

 

「いやー、あの二人と千雨ちゃん、けっこー仲いいなーっと思ってさ!」

 

 

 突然の来客に、千雨は戸惑き驚いていた。いきなり横に現れ話しかけられたのだ。そうリアクションを取ってしまうのも無理は無い。そしてハルナは、千雨が二人の男子と話しているのをみて、仲がいいと思ったようだ。だから二人が千雨とどういう関係なのか、かなり気になったのである。

 

 

「ぶっちゃけ聞くけど、どっちが彼氏?」

 

「なっ!? 何言ってやがる!?」

 

 

 ハルナは法とカズヤ、どちらかが千雨の彼氏なのだろうと思ったようだ。だが、千雨はそんな風に考えたことなど一度も無いので、茶化されているとしか思わなかった。しかし、そう戸惑う千雨の姿に、ハルナは怪しいと思ったのである。

 

 

「違うの?!」

 

「当たり前だろーが! 全然違う!」

 

 

 さらにハルナは法とカズヤ、どちらかが千雨の彼氏なのではないかと考えていた。まあ、女子しかいない女子中等部の生徒たる千雨が、男子二人も呼べばそう思われても仕方の無いことだろう。それに中学生と言う思春期真っ盛りな年頃なのだから、そういう話で盛り上がりたいのもあるのだ。だが、千雨は絶対にNO! そんなは事は無いとハルナの言葉を全否定して叫んでいたのだった。

 

 

「そっかー。片方じゃなくって両方だったってわけね! かーっ! 千雨ちゃんもスミにおけないねぇー!」

 

「だー! ちげーよ! ふざけんなー!」

 

 

 まあなんということか。ハルナはその千雨の言葉を良い方向にとらえたのか、二人とも彼氏だったのかと考えたのである。まったくそんな気がない千雨は、ハルナの今の言葉は聞き捨てならぬものだった。千雨は唐突に立ち上がり、ハルナの両肩を掴んで怒りが篭った声で叫び、その言葉を否定したのである。

 

 

「まーまー千雨ちゃん。こういう時こそ正直な気持ちになったほうがいいって!」

 

「むしろこういう時だからこそマジメにやれっつーんだよ!」

 

 

 それでもハルナは、千雨がただ照れくさいだけだと思ったようで、素直になってはっきりさせた方が良いと言い出したのである。麻帆良がヤバイ状況で、この作戦が失敗したらどうなるかわからない。だからこそ、こういう時にしっかりと告白の一つでもしておくべきだと、ハルナは考えたのだ。しかし、千雨はその逆で、こういう時なんだからマジメにやれと思ったのである。まあ、それも当然の意見だろう。

 

 とりあえずは作戦前まで時間がまだある。色々と忙しくなるのはこれからだ。超のアジトでこうやって、リラックスをしながら、ただただ作戦の時間を待つばかりとなったのだ。

 

 

 


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