理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

82 / 179
八十二話 頼み

 辛くもネギたちはビフォアの改変した未来、暗黒の麻帆良から脱出することに成功した。全てにおいてギリギリだったが、なんとか麻帆良祭三日目の朝へと戻ってこれたのだ。そこで一度超のアジトへと戻り、ひと時の休息を味わっていたのだった。

 

 

「何とか戻って来れましたね」

 

「そうね……。一時はどうなることかと思ったけど、何とかなってよかったわ」

 

「あんな麻帆良はもうこりごりやなー……」

 

 

 ようやく明るい平和な麻帆良へと戻ってこれたことを、誰もが話し合っていた。あの地獄めいた麻帆良は、二度と味わいたくないと言うのが全員の一致した意見だったようである。それは当然のことだろう。闇が支配しチンピラが横暴する崩壊した麻帆良など、誰だって見たくないはずだ。だからこそ、現在平和な麻帆良に誰もが安心と安らぎを感じていたのである。

 

 

「超さん、助けてくれてありがとうございます」

 

「気にする必要はないネ」

 

 

 ネギも同じ気持ちだったようで、助けに来てくれた超にとても感謝していた。また、超もネギを何とか助けられたことを喜び、嬉しそうに笑っていたのだ。

 

 

「しかし、まさかネギ坊主が未来に飛ばされるとは思わなかたヨ……」

 

「僕も突然のことだったんで、何がなんだか……」

 

 

 超はネギが未来に飛ばされるなど、思ってなかった。いや、確かに猫山直一の情報では、ネギが未来に飛ばされる可能性が暗示されていた。しかし、ビフォアがネギへ直接干渉したこともなかった上に、カシオペアをあのような手に使うことなど予想していなかったのだ。さらにネギも、いきなり未来に飛ばされてしまったので、まだ微妙に頭の整理が終わっていなかったのだった。

 

 

「あ、これ、超さんのですよね? 返しておきます」

 

「おお、カシオペアカ! ありがたいネ……!」

 

 

 ネギはそこで、ふと思い出したかのように、カシオペアを取り出し、それを超へと渡したのである。未来にてロボ少女から、このカシオペアは元々超が発明したものだと説明されたからだ。だからネギは、本当の持ち主である超へと、カシオペアを返したのである。

 

 また、超もカシオペアを受け取ると、ネギへと礼を言っていた。そして、超はカシオペアを手に取り、懐かしむような目でそれを眺め、喜びを隠さず微笑んでいたのだ。何せこのカシオペアは、最初に自分で開発したタイムマシン第一号。超にはこのカシオペアに、とても深い思い入れがあったのである。と、そこに一人の少女がやってきた。丸いメガネをかけた黒髪の少女だった。

 

 

「超さん! それにブレイン博士もご無事で!」

 

 

 それは葉加瀬聡美だった。葉加瀬はネギを迎えに未来へ行った二人を心配し、顔を出したのである。

 

 

「おお葉加瀬君か! いやー心配をかけたようでスマンな」

 

「少々危険だたが、何とか戻ってこれたヨ。ありがとうネ」

 

「いえ、二人とも無事で安心しました」

 

 

 そんな心配してくれた葉加瀬へ、超とエリックは感謝と謝罪を同時にしていた。葉加瀬もそう言う二人が無事だったことを喜び、表情を緩ませていたのだった。

 

 

「そして早々だが、ハカセにはこのメモリーの中身を分析してほしいネ」

 

「これはまさか……。……わかりました! 任せてください!」

 

 

 そこで超は、未来から持ち帰ったデータを葉加瀬に分析するよう頼んだ。それを受け取った葉加瀬は、そのメモリーの中身が未来の情報だと言うことを察し、力を入れたのである。そして葉加瀬はそのままデータベースへと移動し、メモリーの情報分析に移るのだった。

 

 

「みんな聞いてほしいネ。ここからは危険な戦いになるダロウ」

 

 

 葉加瀬が去った後、超は全員に話しかけていた。それはこのビフォアとの戦いが、想像以上のものになる可能性を考慮したことだった。

 

 

「ビフォアのことは私の責任ヨ。関係のないみんなを巻き込んでしまたことを許してほしいネ」

 

 

 超はビフォアとの戦いに、関係のないクラスメイトを巻き込んでしまったことに責任を感じていた。この事件、超が悪い訳ではない。はっきり言えばこんな計画を企てたビフォアが悪いのだ。だが、その発端に超が発明したカシオペアが存在している。その部分に超は負い目を感じていたのである。

 

 

「だから、このまま抜けて麻帆良祭最終日を楽しんでほしいと思うヨ」

 

 

 それゆえに、このまま抜けて普通に麻帆良祭を楽しんでほしいと思っていた。何せビフォア側の戦力はかなりのものであり、あの坂越上人と言うリーサルウェポンまで存在するのだ。危険極まりない戦いになる可能性は十分ある。だから超は、みんなにこのことを忘れて麻帆良祭りへ戻ってほしかったのである。

 

 

「超、水臭いアルヨ! 私は全力で協力するアル!」

 

 

 しかし、そんな超の心配をよそに、古菲は超へ協力すると強く宣言した。こんな危険なことを友人である超だけに任せてはいけないと、友人を助けなければと古菲はそう思ったのだ。

 

 

「そうです! 私たちで何とかするです!」

 

「うん、そうだね」

 

 

 夕映ものどかも同じ気持ちだったようで、この事件は自分たちで何とかしないとならないと考えたようだった。魔法と言う不思議な力を習い、それなりに危険を覚悟してきた二人。麻帆良の危機ならば、なんとしてでも食い止めなければならないと思ったのである。

 

 

「なんだかよくわかんないけど、ここからが正念場ってやつだね!」

 

「ま、まあ、あんな未来じゃ平穏なんてありゃしねーしな……」

 

 

 微妙に理解出来てなさそうなハルナだが、このままではマズイことだけは理解していたようだ。何が出来るかはわからないが、とりあえず協力する姿勢を見せていたのだった。

 

 さらに千雨もあの地獄めいた麻帆良になったら平穏が崩れると思ったのか、協力しようと思ったようである。こんなファンタジーめいたことなど触れたくも無いのだが、そうも言っていられないと考えたようだった。

 

 

「みんな……。だが、かなり危ない戦いになるヨ!? それでもいいのカ!?」

 

 

 誰もが協力を惜しまない姿勢を見せたことに、超は感激していた。しかし、それでもビフォアとの戦いは危険が伴うだろうと予想されるため、本当にそれでよいのか、聞き返したのだった。

 

 

「超さん、わかってると思うけど、うちらのクラスはこうなったら止まらないわよ?」

 

「うむ、それに協力者は多いほうがよいでござるよ。別に戦うだけがすべてではござらんだろう?」

 

 

 そこでアスナは自分のクラスメイトが、この程度で降りる訳が無いと話し出した。ノリの良いクラスメイトたちは、巻き込まれたとは言え一度始まったことから、逃げ出すと言う選択はないと言うことだった。また楓も、協力者は多いほうが良いと言っていた。戦闘などの危険なことをさせるだけが全てではないのだと。

 

 

「超が麻帆良を救おうとしているのだけはわかったアル。だから私は超の力になりたいアル!」

 

「明日菜サン、かえでサン、それに古……」

 

 

 古菲も超の力になりたいと頼み込んできた。古菲は超の友人である。友人のピンチを助けたいと思うのは当然のことだった。そんな三人の言葉に、超は嬉しくなっていた。

 

 さらに周りを見渡せば、誰もが強い意志の表情で笑みを浮かべていた。全員超に協力し、ビフォアの野望を阻止しようと言う意思の表れだったのだ。

 

 

「ありがとう、みんな……」

 

 

 そんなクラスメイトたちを見渡し、超はとても感激していた。なんという人たちだろうか。巻き込んでしまったと言うのに、危険な目に遭ったと言うのに未だに協力してくれようとしている。超はそれがたまらなく嬉しく、ほんの少しだが涙を見せていた。

 

 また、そんな超やクラスメイトたちを、エリックは少し離れたところから眺めていた。その表情はやさしいもので、超は良い友人を持ったと心から思っていたのである。

 

 全員が協力してくれることとなり、誰もがビフォアを倒すことに賛同していた。しかし、それだけでは足りない。ビフォアを倒すにはあまりにも足りないのだ。

 

 

「だけど問題は山ほどあるわね……」

 

「あのビフォアと言う男が、まさかアスナさんを軽々気絶させるほどの実力をもっているとは……」

 

「はおも勝てへんと言ーたみたいやしなー……」

 

「難しいことはわかりませんけど、覇王さんに協力してもらえないんですか?」

 

 

 あのビフォアと言う男は強かった。何せアスナを一撃で下すほどだったからである。アスナがビフォアに負けたことに、刹那も戸惑いを隠すことが出来なかった。刹那はアスナと試合を行い、一度負けていた。だからアスナが簡単に負けたことが、信じられないと言うほどのことだったのである。

 

 さらに言えば、あの覇王ですらダメージを与えられないほどに、ビフォアは危険な存在だった。だが、それなら覇王に協力してもらえばよいと、木乃香の横にドロンと出てきたさよが言ったのだ。

 

 

「そーやな。はおに協力してもらおか」

 

「うんうん」

 

「それがよいと思います」

 

 

 木乃香はさよの言葉を聞いて、それがよいと考えたようだ。アスナも刹那も、そのことに賛同していた。

 

 

「なら兄さんも呼びましょうか」

 

「な、ならアイツらも呼んだ方がいいのか……?」

 

 

 ネギもならば自分の兄であるカギを呼ぼうと思ったようだ。あのカギは自分でもわからない不思議な力を持っていることを、ネギは知っていたからだ。加えて千雨も、カズヤと法を呼んだ方がよいのか考え込んでいた。あの二人は喧嘩ばかりして居るが、こういう話には乗ってくるだろうと思ったのだ。まあ、カズヤの場合この戦いすらも喧嘩だと思うだろうが。そんな感じで、まずは協力者を増やし、作戦会議を行うことにしたのである。

 

 

…… …… ……

 

 

 ビフォアの計画を阻止するための作戦、それは大体”原作通り”となったようだ。何せ原作知識を持つカギが居るのだ。その手の作戦を立案しない訳が無かった。また、ビフォアが基本的に麻帆良の住人の殺傷を、行っていないのが大きかった。

 

 ビフォアにとって麻帆良を支配することこそが目的であり、麻帆良の住人を攻撃したい訳ではないようだ。いや、ビフォアは麻帆良を乗っ取った後の、平和に浸かった住人を絶望させようとしているのかもしれないが。

 

 

 そして作戦が決まったことで、全員それぞれ出来ることを始めていた。アスナも麻帆良祭の主催者である雪広コンツェルンの娘であるあやかに、イベントの変更を頼みに自分の教室へと足を運んだのである。そのアスナに古菲もついてきており、さりげなくあの状助の姿もあったのだった。

 

 状助は覇王と行動していたので、木乃香に呼ばれた覇王についてくる形で協力者となっていた。本人はあまりこういうことはしたくないのだが、麻帆良の未来がかかっているのなら話は別だった。闇の支配する麻帆良など状助も望んでおらず、そうならないために戦うなら協力を惜しまなかったのだ。まあ、原作と微妙に違う点に、多少悩んだのではあるが。

 

 

「くーふぇさんにアスナさん、それに東さんまでどうしたんですの?」

 

 

 突然の珍客にあやかは少しだけ驚いていた。というのも状助までやってくるのは非常に珍しいからだ。

 

 

「ど、どうもっス……」

 

「アスナがいいんちょに頼みがあるみたいアルヨ」

 

「頼み? 珍しいこともありますわね。それでどんなことでしょう?」

 

「いいんちょ、お願いがあるんだけど……」

 

 

 状助はやはり緊張しており、カチコチに身を固めていた。本当にどうしようもないほどのヘタレっぷりである。まあ、そんな状助など、あやかも見慣れていたので大して気にはしていなかった。そして、一体どうしたのかと言う顔を見せるあやかに、アスナは例の作戦のために頼み込んだのである。

 

 

「今から大会を!?」

 

 

 そのアスナの頼みごとを聞いて、あやかは大声を出していた。何せいまさら麻帆良祭三日目の行事を変更しろというのだから、驚かない訳がないのである。また、理由すら説明されないのに、このような暴挙が許されるはずがないからだ。

 

 

「理由もわからないのに、そんな無茶苦茶出来るわけないでしょう!?」

 

「そ、そうだけど……!」

 

 

 理由がわからないのに、突然そんなことを言われても、はいそうですかと言われるはずも無い。アスナもそのことは十分理解していた。だが、理由を話す訳にも行かないのだ。さらに理由を説明したところで、理解されるはずもないと思っていたのである。そりゃ未来が危険だから何とかしてくれなど、普通の人間が理解出来るはずがないだろう。

 

 

「出資者の娘だからって、そんな無理を言ったらただのわがままお金持ちお嬢様でしょう!?」

 

「いいんちょがそういうのが嫌いなのは十分わかってる……! けど、こっちにも事情があるのよ……!」

 

「だから事情をまずお話なさい!」

 

 

 あやかは自分が出資者の娘として、そういう権力を笠にした行動を嫌っていた。だからこそ、そんな無理難題など許可したくはないのである。アスナも当然それをよく知っていた。しかし、それでも麻帆良の未来のために、あえてそれをあやかにさせなければならなかったのだった。

 

 それなら事情を話すべきではないかと、あやかも激しく抗議していた。説明を求めるのは当然のことだろう。その当然のことが出来ずにいるアスナは、とても大きなもどかしさを感じていたのだった。そして、説明はできないが今出来ることがあると、アスナはそれを実行したのだ。

 

 

「おねがい、いいんちょ……」

 

「……っ アスナさん……」

 

 

 説明も出来ない上に無茶を言っているのは百も承知。ならば頭を下げるしかない。アスナはあやかへ、深々と頭を下げて無茶を聞いてほしいと頼んだのである。その頭を下げるアスナに、あやかはとても驚いていた。幾度と無く勝負してきたライバルが、頭を下げて願ってきたことなどなかったからだ。また、古菲もアスナが頭を下げたことに、少し驚いた様子を見せていたのだった。

 

 

「俺からもお願いします……」

 

「あ、東さんまで……」

 

 

 さらに状助もアスナの横で頭を下げた。状助もあやかとは小学校からの付き合いだ。ある程度のことは知っているのである。だからこそ、ここはしっかりと頭を下げるべきだと思ったのだった。

 

 深々と頭を下げる二人を見たあやかは、ため息をついてどうするか考え始めていた。そして、まったく頭を上げる気配の無い二人に、その考えを言葉にしたのだ。

 

 

「……わかりましたわ。二人がそこまでするのなら、何か大きな事情があるのでしょう」

 

「……いいんちょ……?」

 

 

 あやかがその言葉を発した後、アスナと状助はようやく頭を上げてあやかの顔を見上げた。そのあやかの表情は、世話のかかる友人だと言いたげな、困ったように笑っていると言うものだった。

 

 

「それに……、いえ、その頼みを聞いてあげますわ」

 

「いいんちょ……、ありがとう……」

 

 

 あやかは昔、弟が危ないと聞かれた時、アスナが元気付けてくれたことを今でも感謝していた。その時に一緒に悲しんでくれたことや、弟が無事だったことを共に喜んでくれたことを、恩だと考えていた。それならその恩を返せるのは、今なのかもしれないとあやかは考えたのだった。だが、そのことはあえて言わなかった。なぜならアスナが、それに対して借しだと思っていないのをわかっていたからだ。

 

 そして、こんな無茶な頼みを聞いてくれたあやかに、アスナは心から感謝を述べていた。そこでアスナはあやかの手を取り、申し訳なさそうに笑って見せたのである。

 

 

「よかったなあ~、これで何とかなりそうだな!」

 

「状助もありがとう……」

 

「お、俺は別に何もしてねぇっスよぉ~」

 

 

 さらに、一緒に頭を下げてくれた状助にも、アスナは礼を言っていた。自分だけでなく、状助も頭を下げてくれたおかげでだと思ったからだ。だが、状助は特に何かしたワケではないと、テレながらに語っていたのだった。

 

 また、古菲もこの三人の光景を見て、なにやら暖かな気持ちになりほっこりした笑顔を見せていたのである。これでようやく次の段階へ、物事を進めることが出来るようになったのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 同時刻、木乃香と刹那やカモミール、それと覇王が学園長と対面していた。あのビフォアの企みと地獄めいた未来のことを話し、協力を取り付けるためだ。

 

 

「これは本当かね!?」

 

「はっ、事実です」

 

「おじいちゃん、信じてー!」

 

 

 二人から説明されたことは、にわかに信じられないようなものだった。ビフォアの企みによる麻帆良の支配と、地獄めいた麻帆良の未来。どちらも信じろと言われても、すぐに飲み込めるものではなかったのである。

 

 

「ふむ、ビフォアのことは色々と報告が入っておる。しかし、それが本当ならビフォアは非常に厄介な相手じゃぞ……」

 

 

 だが、ビフォアが何か企んでいるという報告は、学園長にもすでに来ていた。当然ビフォアが怪しいのはわかっていたのである。そして、ならばいっそう力を入れて、ビフォア捕獲に乗り出さなければと、学園長は考えたのだ。

 

 

「報告はわかったぞぃ、刹那君や。このかも後はワシらにすべて任せ、学園祭を楽しんできなさい」

 

 

 しかし、ならば生徒である刹那や木乃香の手を煩わせることは無い。ビフォアの問題は魔法使いの問題でもあるだろう。それは大人である自分たちで決着をつけようと、学園長は思ったのである。だから生徒である二人に、学園祭へと戻るよう学園長は話したのだ。

 

 

「それじゃ無理だ。この麻帆良の魔法使いが束になっても、あのビフォアには勝てはしない」

 

「むっ……、どういうことかね!? 覇王君……!?」

 

 

 そこで口を挟んだのは覇王だった。覇王は目を瞑りながら腕を組み、色々と考えていたようであった。そして目を開き、学園長の方へと向きなおしたのである。

 

 

「あのビフォアという男は、()()()()()()だ……。だから今回は僕らに任せてほしい」

 

「ふむ……」

 

 

 覇王が言うそういう存在とは、転生者という意味がこもっていた。それをある程度察したのか、学園長は難しい表情で長く伸びた顎鬚をなで始めたのである。

 

 学園長は転生者の存在をある程度知っていた。何せ麻帆良にも何人もの転生者が存在し、学園都市の防衛などにも関与しているのだ。その中に自分がそういう存在(転生者)だと学園長へ説明したものも少なくは無いのである。

 

 また転生者には特異能力を持つものが多く存在する。魔法以外で驚異的な破壊力を生み出す力だって存在するのだ。そのため覇王がそう言うのであれば、魔法先生では勝ち目が無いのだろうと学園長は考え、厳しい表情を見せたのである。

 

 

「まっ、そういうことだからここは俺っち達に任しておきな」

 

 

 そこですかさずカモミールが、今後のことについて話を始めていた。そして、なにやら魔法具を学園長に用意させようと、説明しだしたのだ。

 

 

「最低2000でかまわねぇ! 別ルートですでに用意してくれるところが見つかってるからよー!」

 

 

 すでにカモミールは魔法具を別ルートで入手することに成功していたようだ。そのため数は最低1000でかまわないと、悪役面で学園長へ説明したのである。そのカモミールの説明に学園長は眉毛をピクリと動かしたが、一般人がビフォアを直接相手にする訳ではないと聞かされたので、肩の力を抜いたようである。

 

 だから学園長もそれを了承し、カモミールが提示したルートで魔法具を入手することにしたのだった。こうして少しずつだが、確実にビフォアの野望を阻止するための計画は進んでいくのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 カギが考案した作戦は原作通り、一般人を巻き込んだものだった。まあカギは転生者なので、そうしてしまうのも無理は無い。また、ビフォアもある程度それを意識した戦略を用いてきていた。だからこそ、この作戦が出来ると、カギは思ったのである。

 

 

「……本当にこんな作戦でいいんでしょうか、兄さん」

 

「不満か?」

 

「少しは……」

 

 

 そしてネギたちはとりあえずビフォアから隠れるため、超のアジトで待機していた。そこでネギはこの作戦に、少しだが疑問を感じていたのである。あの地獄めいた未来を何とかするには、確かにカギの作戦なら問題ない。そこにはネギも感心し、賛同していた。だが、やはり一般人を巻き込んでしまう部分に、あまり納得出来ないでいたのだ。

 

 

「お前が不満な部分は大体わかってる。だが、麻帆良を賭けた戦いになるんなら、ここの住人の問題でもある」

 

「だけど、それじゃビフォアと言う人と同じだと思うんです……。多くの人に迷惑をかけてまで、戦いに勝つというのは……」

 

 

 しかし、カギは転生者。ネギがどうして悩んでいるか、少しだけわかっていた。それにビフォアとの戦いに敗れれば麻帆良は壊滅する。それは一般人にも被害が出るということだ。ならば一般人にも協力してもらうことが、決して悪いことではないとカギは考えていたのである。

 

 それでもネギはカギの作戦に少し晴れぬ思いがあるようだった。ビフォアは未来で民衆を駆り立てて、自分たちを捕まえようとしていたことを、ネギは思い出していたのだ。それとカギの作戦が、少しだけビフォアが行った行為とかぶって見えてしまったのである。だから、それではあのビフォアと同じ事をしようとしているのではないかと、疑念を感じてしまっていたのである。

 

 

「……俺の知ってる偉人が言っていたぜ? ”力だけではただの暴力だが、力なき正義もまた無力”ってな」

 

 

 そこでカギは、自分の知る中で有名な言葉を一つつぶやいた。力のみで暴れれば、ただの暴力となってしまう。だが、力がない正義では、悪には太刀打ちできない。カギはそれをネギへと、ゆっくりと聞かせたのである。

 

 

「俺たちがビフォアを倒さねぇと麻帆良がヤベーんなら、こっちも同じ力で対抗するしかねぇのさ……」

 

「兄さん……」

 

 

 ならば力を有した正義でなければならないと、カギはネギを説得していた。ネギもカギの話を聞いて、カギが何を考えているかを察することが出来たようだ。

 

 

「それにビフォアとの戦いは勧善懲悪。気にする必要なんてどこにもねぇ。これは俺たち麻帆良の住人とよそ者であるビフォアとの、麻帆良の未来を賭けた戦いなんだからな!」

 

「……それでも、僕はやっぱり一般人まで巻き込むのは賛同しきれません……」

 

 

 さらにカギは、ビフォアが全部悪いのであって、自分たちはその悪を打ち砕くヒーローだと、その悪と正義が未来を賭けた戦いなのだと、ネギへと強く力説したのだ。それでもなお、ネギは迷っていた。一般人を巻き込むのは、ネギにとってあまり好ましくないことだからだ。

 

 

「確かにカギ先生の作戦は無茶です。一般人を巻き込むのは、私もあまり良い気分ではないです」

 

「ゆえ……?!」

 

「ゆえさん」

 

 

 そんな二人へ、夕映がやってきて話しかけていた。夕映もネギ同様、一般人を巻き込むカギの作戦に納得しきれない様子を見せていたのだ。

 

 

「しかし、カギ先生がさっき言ったように、力なき正義は無力です。私たちだけで何とか出来ないのなら、カギ先生の作戦は妥当だと思うのです。ただ、ベストではなくベターと言うだけです」

 

「……僕もわかってるんです。ただ、やりきれないだけなんです……」

 

 

 しかし、カギの言ったことは間違いではない。自分たちでビフォアに勝てないなら、一般人に協力してもらうこともやむをえないと考えていたのだ。また、それに伴い戦いを大会イベントと称することで、こちらも派手に暴れられるということも作戦の一つだ。また、幸いビフォアは一般人への殺傷は行っていないようだった。

 

 だから色々な観点から見ても、この作戦に一般人は必要だったのである。ただ、この作戦は他者を巻き込むため、ベストとは呼べないベターなものだと、夕映も考えていたのだった。ネギも、そのことは重々承知だった。それでも、自分たちだけで何とか出来ない無力さに、胸を締め付けられる思いを感じていたのだった。

 

 

「それはここにいるみんなも同じはずです。カギ先生だって、そうなんでしょう?」

 

「あったりめーだろう!? 俺のチートでさえビフォアとか言うやつには勝てねぇ! これほど悔しいことがあってたまるか!!」

 

「兄さん……」

 

 

 だが、それはネギだけではないと、夕映はそう叫んでいた。夕映だって、自分たちで何とか出来るのならば、そうしたいと思っていた。しかし、ビフォアの戦力は非常に強力であり、十数人程度では太刀打ち不可能なレベルだったのだ。その力の無さを夕映も感じ、どうにもならない思いを秘めていたのだった。

 

 同じくカギも悔しさを感じていた。銀髪を倒すほどに成長し最高のチートを持つ自分でさえ、あのビフォアには勝てないことをカギは知ってしまったからだ。この場で飛び出し、ビフォアを見つけ出してぶっ倒し、つるし上げられればどれだけよいか。カギはそれが出来ないことに、かなりのもどかしさを感じていたのだ。

 

 

「でも、ネギ先生のそういうところは美徳だと思います」

 

「そうですか……?」

 

「はい。ですが、ネギ先生は少し肩の力を抜くべきです」

 

 

 そこで、ネギのそうやって他を巻き込むまいとする姿勢は、夕映にも好感を覚えたようだ。それこそがネギの優しさであり、よい部分だと思ったのである。ただ、それが弱点になりえなければ良いとも、夕映は考えたのだった。また、そうやって悩んでばかりでは、いずれネギが重圧に潰されないか心配になった。だから夕映は、力を抜いてリラックスした方がよいと、ネギへと静かに話したのだ。

 

 

「まっ、ネギが甘ちゃんなのは今に始まったことじゃねーだろ?」

 

「カギ先生は、その辺りを見習うべきなのでは?」

 

「な、なにぃ!?」

 

 

 そんな夕映の前で、カギはネギが砂糖菓子並みに甘い性格なのは昔からだと、言葉にしていた。一応カギはネギの兄、さらに転生者としての知識が、そうネギを認識させていたのだ。しかし、カギがそれを言った矢先、夕映にネギのよい部分を見習った方がよいと、窘められてしまったのだった。

 

 

「チクショー! 俺はどうせ鬼畜な悪魔さ! ケッ!」

 

「そ、そこまでは言ってないです!」

 

「ゆえさん、いつもの兄さんのジョーダンですよ、それは」

 

 

 その夕映の言葉を聞いたカギは、大層な態度で地面に伏せ、グチをこぼしはじめていた。そんなカギを見た夕映も流石に言い過ぎたと思ったのか、そういう意味で言った訳ではないと、フォローに回っていたのだった。ただ、ネギはカギのことをよく知っていたので、それがいつもの彼流イギリスジョークなオーバーなリアクションだと見抜いたのである。

 

 

「クックックッ、悟ったネギじゃ面白くねーが、ゆえはまだまだイジり甲斐がありそーで何よりだ」

 

「なぜそうなるです……」

 

「ま、まあ、そのうち慣れますから……」

 

 

 そこへゆっくりと立ち上がり、表情をニヤつかせながら夕映を見るカギが居た。ネギはカギのこの手にひっかからなくなってしまったが、夕映は簡単にひっかかると思い、今後少しイジってやろうと思ったのだ。それを聞いた夕映は流石にピクリと反応し、どうしてそうなったのだろうかと考えていたのであった。また、カギの横にいたネギは夕映に、慣れれば問題ないと話していたのだった。

 

 

「あ、そういえばカギ先生、よくあの作戦を思いつきましたね?」

 

「あー? そ、それはな……」

 

 

 夕映は今の冗談はおいておくとして、カギがあのような大胆な作戦を思いついたことを本人に聞いたのだ。何せ普段からチャランポランなカギ。あんな作戦を思いつくような人間には思えなかったのだ。ひどいと言えばひどい思われぶりだが、普段のカギの態度が悪いのであって、夕映が悪い訳ではない。だが、それを聞いたカギは突然焦りだし、申し訳なさそうな表情で、ネギの方をチラりと見た。

 

 

「?」

 

 

 ネギはカギにチラ見され、なんだろうかと不思議に思ったようだった。ここでなぜカギがネギを見たかと言うと、カギのこの作戦は”原作”ではネギが提案したものだったからだ。人の功績を掠め取ったように感じたカギは、少しそのことを気にしていたのだ。

 

 その行為はカギが数ヶ月前まで、率先してやろうとしたことだ。しかし、今はそういう考えがすっぽり抜けてしまったカギに、ネギの手柄を奪う行動に罪悪感を感じていたのだ。加えてこんなくだらないことに、昔は必死になっていたのだなと、改めて昔の自分のバカさを実感していた。

 

 また、それを初めて行った時に、なんと情けないことなのかと、カギは思ったのだった。他人が得るはずだった手柄を掠め取るなど、ただの泥棒でとても恥ずかしいことなのだと、カギは学んだのである。だからネギを見たのも、その罪悪感から申し訳ないと感じたからなのである。

 

 

「いや、俺の過去の記憶が呼び覚まされて、ふと思いついただけだ……」

 

「何ですかその設定は……」

 

「兄さんは時々謎の記憶が蘇るそうなんですよ……」

 

 

 そこでカギは、あえて冗談を言って話を逸らした。まあ、実際は冗談ではなく本当のことなのだが。さらに、冗談に聞こえぬよう右手を開き左目の前へ持っていくという厨二病溢れるポージングを取っていた。そんなカギを見た夕映は、多少引いた表情で色々こじらせてるのかと思ったようだった。また、ネギはそんなカギをよく知っているので、夕映に補足を入れていたのである。

 

 

「ま、まあ、そんなこといいじゃねーか。それより今はまだやることねーし、トランプでもやろうぜー!」

 

「緊張感がまったくないです……」

 

「兄さんですから……」

 

 

 とりあえずごまかすことに成功したカギは、暇なら遊ぼうと言い出したのだ。まったく持って緊張感の無いカギに、夕映もネギも呆れ返った様子を見せるしかなかったのである。だが、カギはこの場を和ませようとしているのかもしれないと、夕映もネギも考えたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 外では女子中等部の3-Aのクラスメイトたちなどが、麻帆良祭三日目のイベント変更を周りに知らせ、参加を促していたのだ。また、宣伝する女子中等部3-Aのクラスメイトたちは、みんなそれぞれ目立つような衣装を纏っており、目を引くような姿となっていたのである。さらにそのクラスメイトたちはチラシを配り、イベント参加を促していたのだ。そのイベントはやはり”原作どおり”学園防衛魔法戦士団だったが、対戦相手が未来からの侵略者となっていた。

 

 去年のイベントは鬼ごっこだったようで、とんでもないものだったようだ。だから今年はかくれんぼとして、イベントの自粛をする感じだったようである。そのため新しくなったイベントを、誰もが楽しそうだと感じた様子を見せていた。また、武器の実演やルールの説明も行われ、どんどんにぎやかになってきたのだった。

 

 

「こんちわ、亜子さん」

 

「あ、三郎さん!」

 

 

 そこにフラりと現れたのは、三郎だった。三郎は昨日の銀髪とのやりとりのことで、亜子が気になっていたのだ。カギが言うにはあの出来事は夢だと思うだろうと言っていたが、実際確認しないと気が済まなかったのである。亜子も三郎に声をかけられ、笑顔で名前を呼んだのだった。

 

 

「最近どう? 変わりない?」

 

「急にどうしたんです? 別に変わりあらへんけど……」

 

 

 だから三郎は、ある程度濁してそのことを亜子へと聞いてみたのだ。亜子はそんな三郎を妙だと感じたようであったが、三郎の問いに素直に答えていた。

 

 

「そういえば昨日の夕方から、記憶があやふやなんやけども……、どうしたんやろ……」

 

「そ、それは多分ライブの疲れが出たんだよ!! あれだけ頑張ったんだから疲れるのも当然だって!!」

 

 

 ただ、亜子も不思議な現象として、昨日の夕方から記憶が曖昧となっていることを、三郎へと話したのだ。何せ銀髪の暴挙を見てしまった亜子を、カギが気遣い眠らせたのだから当然だった。それを聞いた三郎は、少し慌てつつも適当なことを言って、亜子をうまくごまかしたのである。

 

 

「うーん……。きっと、そうかもしれへんな」

 

「そうだよ! きっとそうさ!」

 

 

 三郎のその言葉に、まだ何かひっかかる様子を見せた亜子だったが、三郎がそう言うのならそうなんだろうと納得したようだった。そこで何とかごまかせたと、三郎はため息をついて安堵したのである。

 

 

「そうや! 三郎さんも是非参加してほしいんやけど、どうやろか?」

 

「学祭イベントの変更?」

 

 

 そこで亜子は、今の話を流してイベントのことを三郎へと話し出した。加えて持っていたチラシを三郎へと手渡し、イベント参加を頼んだのである。また、三郎はそれを見て、少しピンと来るものがあったようだ。

 

 

「急遽変更になったそうなんやけど、こっちの方が楽しそうやと思わへん?」

 

「ふむー」

 

 

 今年のイベントはかくれんぼだった。確かにそれは味気ないと、誰もが思うことだった。だから亜子は、急に変更となったイベントの方が、なんだか楽しそうではないかと思ったのである。

 

 だが、三郎は別のことを考えていた。それは昨日状助に言われたことだった。麻帆良祭三日目の今日、何か大きなことが起こると、状助から言われていたのである。そのことを考え、もしかしたらこの急なイベント変更が何か関わっているのではないかと、三郎は考えたのだ。そう考え難しい顔をする三郎を、亜子はどうしたのかと覗き込んでいた。

 

 

「……気が乗らへんのなら、別にええんやけど……」

 

「あっ!? いや、確かに楽しそうだなーって思ってさ」

 

「そっか、なら参加してくれはるん?」

 

 

 なんだか難しい顔をする三郎に、亜子はこのイベントにあまり興味が無いのだろうかと思ったようだった。しかし、実際は状助の言ったことを考えていただけで、イベント自体は悪くないだろうと思っていたのだ。だから三郎もイベントに参加し、状助が言っていたことが何なのか、見てみようと思ったのである。

 

 

「そうだね、俺も参加するよ! なんだかワクワクするイベントだなー! 今から楽しみだよー!」

 

「突然大声出してどないはったん? 変な三郎さんやな」

 

 

 さらに三郎はこのイベントが大きな意味を持つならば、参加者を増やす必要があるのではないかと考えた。そこで突然大声で、このイベントが楽しそうなものだと叫びだしたのだ。単純に言えばサクラと呼ばれる行為で、三郎は客寄せをしようとしたのだ。そんな三郎を見た亜子は、普段物静かな三郎が叫んでいる姿を見て、どうしたんだろうかと首をかしげていたのだった。

 

 

 と、そこへさらに一人の男がやって来た。それはあの鮫島刃牙だった。昨日の銀髪との戦いで負傷しており、あちこち包帯を巻いていたが、普通に元気そうな様子を見せていた。

 

 

「確かカギだったか……。昨日あの銀髪を倒したのか聞きてぇが……。さて、どこにいるのやら……」

 

 

 刃牙は昨日、自分がアキラと逃げた後、カギという少年が銀髪を倒したかどうか、気になって仕方がなかったのだ。だからカギを探すため、適当に麻帆良をふらついていたのである。そこでふと、青年が大声で叫んでいるではないか。それがいったい何なのか、刃牙は興味を持ったようだ。

 

 

「これ、なんかの宣伝か?」

 

「あ、はい。学園祭最終日の全体イベントが変更になったので……刃牙?」

 

「お? お前アキラか?」

 

 

 そこで刃牙はチラシを配る女性に声をかけた。するとそれは、髪を下ろしたアキラだったのである。普段ポニーテールのアキラが髪を下ろしていたので、刃牙は名前を呼ばれるまで気がつかなかったようだ。

 

 

「え? 私を見つけたから声をかけたんじゃないのか?」

 

「いやっ、オホンオホンッ。そ、そう! 何してんだろうなーって思ってよ!」

 

「……本当かな……」

 

 

 アキラはてっきり自分だと知って、刃牙が声をかけてきたものだと思ったようだ。だが、刃牙はそう言われて、しきりにごまかそうと必死になっていたのである。そんな刃牙の様子を見たアキラは、流石に変だと思ったのだった。

 

 

「そんなことより何してんだよ? チラシ配りなんてしてよー」

 

「ああ、学園祭の最終日、学園全体の恒例イベントがあるよね? あれが急に変更されたみたいで、それの宣伝なんだ」

 

「あー、そんなのもあったなー……」

 

 

 刃牙はアキラが何かのチラシを配っていることに、少し疑問を感じたようだ。だから何をしているのか、アキラへ聞いてみたのである。アキラは刃牙の質問に、イベントの変更の知らせをしていると言ったのだ。それを聞いた刃牙は、”原作知識”を思い出し、そういえばそんなこともあったようなと考えたのだった。

 

 

「あれ? 刃牙はもう知ってた?」

 

「え? ああいや、何でもねぇよ! 俺もそれ、参加するかな!」

 

 

 そんな刃牙のつぶやきに、アキラは刃牙がすでにこのイベントの内容を知っているのかと思ったようだ。だが、刃牙は今の言葉を紛らわすように、慌てて両手を振りながらイベントの参加を表明したのである。

 

 

「大歓迎だけど、体の傷は大丈夫?」

 

「別にちょいと痛いぐらいさ。そっちこそ何か変わったことはなかったか?」

 

 

 アキラは刃牙がイベントの参加をすると聞いて、昨日の怪我は大丈夫なのだろうかと質問してみた。何せ昨日の刃牙は、血まみれでボロボロだったのだ。一日しかたっていないのに、運動量が多そうなこのイベントに参加して大丈夫なのかと思ったのである。

 

 しかし、刃牙は力こぶを作り、痛みはあるが元気だと言い張り、自分が問題ないことをアキラへアピールしたのだ。まあ、実は刃牙もこの体が”ジョジョのキャラ”でなければ死んでいたのではないかと思ったほどの怪我ではあったのだが。むしろ刃牙は自分の体よりも、アキラがその後何か無かったか心配だったので、そっちを聞いてみたのだった。

 

 

「んー、特にはないかな……? ……そういえば、昨日のことは夢じゃないんだよね?」

 

「あー……。まあ、世の中にゃ不思議なことがいっぱいあるってことよ……」

 

「何か言いたくなさそうだけど……」

 

 

 アキラは特に変わったことはないと、思い出しながら答えた。ただ、気になることがあるとすれば、昨日のこと全般であった。何せ神威が謎の力を発したり、刃牙が噴水から別の水場にテレポートしたのだ。普通に考えても理解しがたいこの力に、アキラは夢ではないのかと思ったのである。だが、やはりあれは夢ではなく現実。昨日のことは本当に起こったことなのかを、刃牙に尋ねたのだ。

 

 刃牙はアキラのその質問に、目を逸らして答えづらそうに話し始めた。と言っても、はぐらかすように昨日のことは夢ではないと教えたのだが。そうやって何かを隠そうとしている刃牙を見たアキラも、教えたくないことがあるのだろうと思ったのでそれ以上は聞かなかった。

 

 

「いや、まあそれは今度ゆっくり話すわ。今日は祭の最終日なんだからよ、余計なことなんて忘れて楽しまなきゃ損だろ?」

 

「……そうだね……!」

 

 

 刃牙も本当のことを話してもよいかと思ったが、今は麻帆良祭最終日。祭りの最中に頭を悩ますようなことをいせる必要はないだろう。今すぐそれを教えなくとも、後でじっくり教えてやればよいと考えたのだ。アキラも刃牙の今の言葉に賛成し、とりあえずは麻帆良祭を楽しもうと思ったのである。

 

 




学園長が転生者を多く雇っているなら、その存在を知らぬはずが無い
自分が転生者であると暴露した人もいたはず

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。