理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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八十一話 過去へ

 ネギとアスナはメトゥーナトを残し、ビフォアの追跡から逃げていた。だが、ビフォアもその二人を、三体の衛兵ロボと共に追いかけていたのだ。さらに行く手にもロボが道をふさぎ、なかなか前に進めないネギとアスナだった。

 

 

「また前から……!!」

 

「突破するしかありません……!」

 

 

 後ろからはビフォアが追ってきている。そして前には別のロボの集団。完全に囲まれた中で、ネギとアスナは突破以外道は無いと考えた。だから目の前のロボ集団へと攻撃を仕掛け、そこを通り抜けていったのである。

 

 

「出口はまだ……!?」

 

「もうすぐだと思うんですけど……」

 

 

 しかし、倒せど倒せど湧く敵に、二人は疲弊し始めていた。何せ相手はロボであり、そのロボには披露は存在しない。そんなロボを大量に相手をしてきた二人は、疲れを感じ始めてきたのだ。また、アスナのハマノツルギは対魔法用のアーティファクトであり、ただの機械の塊であるロボにはただの剣でしかない。

 

 咸卦法のパワーにより、その鋼鉄の装甲をいとも容易く切り裂いてはいるが、所詮その程度でしかないのである。そうこうしているうちに、後ろからビフォアが追いかけてきていたのを、二人が目視できるほどまでに迫られていたのだった。

 

 

「追いついたぞ!!」

 

「!? もう来た……!」

 

「外に出れればいいんですが……」

 

 

 ビフォアに追いつかれそうな二人は、何とか脱出しようと出口へと急ぐ。だが、やはり行く手を阻むかのようにロボが大量に出現するのだ。ネギも雷の暴風を使い、前方に出現した多数ロボを吹き飛ばす。アスナも同じようにハマノツルギでロボを切り裂き、爆破していくしかなかったのだ。そうやって追いつかれそうになった二人だが、ようやく出口を発見し、地下から出ることが出来たのである。

 

 

「やっと出口……!」

 

「こ、ここって?!」

 

 

 出口から外へ出た二人は、自分たちの現在地に驚いていた。そこは教会の敷地内だったからだ。そう驚いていた二人だったが、下からはビフォアが迫ってきていた。こうしては居られないと二人は考え、教会から脱出したのである。

 

 

「とりあえず隠れるしかないわね……」

 

「そうですね。外に出ても何があるかわかりませんし……」

 

 

 二人は教会の中へと入り、そこに身を潜めることにした。この荒廃した麻帆良をむやみに走り回るのは危険だと判断したのだ。何せビフォアが集った危険な転生者や、謎のチンピラ集団がたむろしている。そのような場所を逃げ回るのは、明らかに自殺行為に他ならないだろう。

 

 また、それを追うように、ビフォアも教会へと足を踏み入れてきたのだった。その後ろには衛兵ロボが三体おり、当然ネギとアスナを見つけようとセンサーを光らせたのである。

 

 

 「どこへ逃げても無駄だ……」

 

 

 ビフォアもまた、教会の全ての部屋をくまなく探し、二人を見つけ出そうとしていた。だが、どの部屋にも二人は居ない。しかし、ビフォアが見つけずとも衛兵ロボが見つければよい。衛兵ロボのセンサーに死角などはないのだ。ありとあらゆるセンサーを駆使し、衛兵ロボらも三つに分かれ、教会内部を検索していた。

 

 そしてアスナとネギはどこへ隠れたのだろうか。二人が隠れた場所、それは天井だった。天井に張り付き、とりあえず様子見をしていたのである。

 

 

『ネギ先生、聞こえますか? のどかです』

 

「こ、この声は……?」

 

「声?」

 

 

 そこへネギに念話が届いたのだ。誰が念話をしてきたかと言うと、従者となっているのどかからだった。のどかは仮契約で得たパクティオーカードのコピーを持っている。つまり、それを使ってネギに連絡をしたのだ。

 

 

「のどかさんとは仮契約してました。だからパクティオーカードで念話してきたんです!」

 

「そういえばそうだったわね」

 

 

 そのことを失念していたのか、ネギはのどかからの連絡に驚きながらも喜んでいた。これで他の人たちがどうなっているか、今どうしているかがわかるからだ。また、アスナもネギの説明を聞いて、仮契約のことを思い出していたのである。

 

 

『のどかさん、そっちは大丈夫でしたか?』

 

『はい、ネギ先生のおかげでみんな無事です。それよりネギ先生の方こそ大丈夫だったんですか?』

 

 

 ネギはまず、残してきた生徒たちの現状をのどかへと聞いてみた。するとのどかは元気そうに、全員の無事を教えたのだ。それを聞いたネギは、安堵したのか小さくため息をついていた。だが、のどかはむしろネギの方が心配だったのか、そのことをネギへと聞いたのである。

 

 

『今は大丈夫です。心配しないでください』

 

『そうですか? よかったー……』

 

 

 ネギは現在ビフォアに追われており、身を潜ませている状態だ。ハッキリ言えば大丈夫とは言いがたいだろう。しかし、のどかを心配させまいと、問題ないとネギは答えたのだ。その言葉にのどかは心から安心し、嬉しそうな声をもらしていた。

 

 

『ネギ先生は今、教会に居るんですか?』

 

『そうです。でも何で僕の居場所がわかったんですか?』

 

 

 次にのどかがネギへ、今の居場所は教会であっているかを質問した。ネギはその質問に、間違えないと答えたが、どうして自分の居場所がわかったのか疑問に感じたいようだ。

 

 

『ネギ先生が持ってる手紙に、発信機がついているんです。それで居場所がわかりました』

 

『そんなものがついていたんですか!?』

 

 

 のどかはネギの疑問を解消すべく、その問いに答えた。その答えにネギは、大変驚いた様子を見せたのだ。何せ手紙に発信機がついているなど、誰も予想していなかったからだ。当然ネギもそのことを知らぬまま、ただ握り締めていただけだったのである。

 

 

『今そちらに向かってますから、待っててください』

 

『こっちに向かってる!? でも僕たちは今追われていて、こっちに来ると危ないかもしれません』

 

 

 そしてのどかは、今ネギがいる教会へと向かっていることをネギに話したのだ。だがネギは、それは危険だとのどかに教えていた。なぜなら今ネギは、あのビフォアに追われているからだった。そんな状態で他の生徒たちがくれば、全員捕まってしまう可能性を考えていたのだ。しかし、ネギは生徒たちが空を飛ぶ機関車型のタイムマシンに乗り込んで、その教会へ向かっていることを知らなかった。だからネギは、そう考えてしまったのである。

 

 

『大丈夫です。もうすぐ到着するんで、教会から出て来てください』

 

『どういうことでしょうか?』

 

 

 のどかは今、タイムマシンの中でネギと連絡を取っている。また、そののどかへネギを誘導させているのは超だった。教会に居るのなら、外へ出て来てこのタイムマシンに、ネギとアスナを乗せて連れ去ろうと考えたのである。

 

 

『過去から超さんがタイムマシンで迎えに来てくれました。だからそれに乗ってもらいます』

 

『超さんが……!? ならわかりました。今すぐで大丈夫ですか?』

 

『はい! では後で!』

 

 

 そののどかの説明にネギは、のどかの今までの会話のことに納得した様子を見せていた。確かに超なら過去から迎えに来てくれても不思議ではないだろう。何せカシオペアを作ったのはあの超だからだ。そうネギは考えたのである。だからネギは、のどかの指示に従って、教会の外に出ることにしたのだった。

 

 

「アスナさん。みんなが迎えに来てくれるようです。ここから出ましょう」

 

「みんなが? 一体どういうこと?」

 

 

 そこでネギは、アスナへと今の念話で決定したことを話したのだ。しかし、アスナはその結果だけを聞かされたので、何がなんだかよくわからなかった。なのでネギへ、何を話したのかを聞こうとしたのだが、そこへ衛兵ロボがネギとアスナを発見したのだった。そして間髪居れず、手に握るワイヤーを飛ばしてきたのである。

 

 

「見つかった!?」

 

「こうなったらネギ先生の言うとおり、外に出た方がいいわね!」

 

 

 衛兵ロボに見つかり、飛んできたワイヤーをかわして地面へと着地する二人。見つからないとは思っていなかったが、思ったより早く見つかったとネギは考えていた。また、アスナは見つかったのなら、ネギの言うとおりに動いた方がよいと思ったようである。

 

 

「逃がさんぞ! 二人を捕まえろ!!」

 

「アイツまで来た……!」

 

「早く外へ出ましょう!」

 

 

 さらにビフォアまでもがやってきて、ネギとアスナを捕らえようと走ってきたのだ。アスナはビフォアの登場に心底うんざりした表情を見せ、ネギは急いで外へ出ようと走り出していた。しかし、出口をふさぐように衛兵ロボが待ち構えていたのだ。

 

 

「この、邪魔!」

 

 

 アスナは待ち構える衛兵ロボへ、ハマノツルギを振り落とした。だが、衛兵ロボはそれを白羽取りし、アスナの攻撃を防いだのだ。

 

 

「なっ!?」

 

 

 それを見たアスナは、こうも簡単に防がれたことに驚いていた。そこへさらに、別の衛兵ロボがアスナへと攻撃を仕掛けてきたのだった。

 

 

「クッ!? 抜けない!?」

 

「アスナさん! 危ない!!」

 

 

 さらに衛兵ロボにガッチリとハマノツルギをつかまれ、アスナは抜け出せないで居た。その状態のアスナへと、別の衛兵ロボが攻撃のために近寄っているのを見たネギは、とっさにアスナへ叫んでいたのだ。アスナもこのままではまずいと考え、別の手を使って抜け出そうと考えたのだ。

 

 

アベアット(され)!」

 

「何!?」

 

 

 ハマノツルギはアーティファクトである。すなわち仮契約カードへと戻してしまえば、つかまれた状態から抜け出せるというものだ。アスナはそれに気付き、すぐさまハマノツルギを仮契約カードへと変化させた。さらに近寄る衛兵ロボと、先ほハマノツルギをつかんでいた衛兵ロボを、同時に蹴り飛ばしたのだ。それを見たビフォアは、そのように抜け出すなど思ってなかったのか驚嘆の表情を見せていた。

 

 

「甘いわね! アデアット(こい)!」

 

 

 そこで再びハマノツルギを呼び出し、先ほど立ちふさがった衛兵ロボの左腕を即座に切り落としたのだ。これではもはや白刃取りなど不可能。衛兵ロボはハマノツルギにより綺麗に切断されたその面を、無表情で確認していた。アスナはそこで止まることなく、今度はそのロボの両足をぶった切ったのである。これで衛兵ロボ一体は、完全に無効化されたも同然となったのだ。

 

 

「行くわよ! ネギ先生!!」

 

「はい!!」

 

 

 二人はそのまま教会の外へと飛び出し、遠くが見えるようにその屋根へと移動した。すると遠くから改造された機関車が、暗くよどんだ空を飛んでくるではないか。もしかしたら、と思った矢先に、知った声がそこから聞こえてきたのだ。

 

 

「ネギ先生ー! アスナさーん!」

 

「のどかさん!」

 

「本屋ちゃん!」

 

 

 それはのどかの声だった。また、その機関車の開いた扉から、のどかが上半身を除かせ、大きく手を振っていたのだ。その横で夕映がのどかを必死につかみ、落ちないようにと踏ん張っていた。そして、のどかを確認したネギは、あの機関車こそがタイムマシンなのだと確信したのだった。しかし、そこへビフォアも現れてネギとアスナの前へと立ちはだかったのだ。

 

 

「なんだかわからんが、逃がさす訳にはいかねぇ!」

 

「アンタ、本当にしつこい!」

 

「僕たちは元の時間に帰ります!」

 

 

 ビフォアはなんとしてでもネギとアスナを再び捕らえようと、教会の屋根の上で二人と対峙していた。そこでネギとアスナも、ビフォアを睨みつけながらも、なんとかあの機関車へ乗り移ろうと模索していたのだった。

 

 

「ふん、お前たちの考えはわかってるぞ! あれに乗って逃げるつもりだな? だがそううまく行くと思うなよ!!」

 

「何ですって!」

 

「ま、待ってください! あれは!!?」

 

 

 だが、なんとそこには巨大ロボが二体、機関車とは反対の方向から飛んできたのだ。さらに、教会付近に着陸すると同時に、その機関車へと握ったライフルで攻撃させたのだった。すさまじい轟音と共にライフルから放たれる弾丸に、機関車を運転していたエリックはとっさに回避行動を取って見せていた。

 

 

「クソ! これでは教会に近づけんぞ!」

 

「ネギ坊主たちはもう目の前なんだガ……」

 

 

 しかし、その攻撃によりタイムマシンの機関車は、教会へ近寄ることが出来無いばかりか、攻撃を避けるのに必死となっていたのである。加えて体を乗り出していたのどかが、その急旋回による回避行動で、車内から飛び出し落下しそうになっていた。

 

 

「のどか!」

 

「ゆえ!!」

 

 

 のどかを支えていた夕映は、落ちそうになったのどかの右手を握り締め、落とさないように踏ん張っていた。また、楓や古菲なども夕映の体をつかみ、夕映が落ちるのを阻止していたのだ。そして、なんとかのどかは落ちまいと、夕映の手をつかみ這い上がろうと頑張って左手を伸ばしていたのだった。

 

 

「のどか!?」

 

「のどか! こっちに手ー伸ばすんや!」

 

 

 だが、巨大ロボの攻撃を避けるために上下にゆれる車体により、なかなかうまく這い上がれずに居たのだ。その様子を心配そうに見つめるハルナの姿があり、木乃香は床に倒れこみ、のどかの左手をつかもうと、必死に右手を伸ばしていたのである。加えて刹那も木乃香が落ちないよう抑えながらも、この状況では空を飛んでのどかを救出出来そうにないと悔やんでいた。そんな後ろで千雨はこの状況に混乱し、それでも何か出来ることはないかと考えていたのだった。

 

 

「のどかさん!?」

 

「本屋ちゃん! 危ない!!」

 

「どこを見てるんだ? 他人を心配する前に自分を心配するんだな!!」

 

 

 さらに、そんな状態ののどかに気を取られたネギとアスナは、ビフォアの接近を許してしまったのである。ビフォアはパワードスーツを装着しており、足を少し動かしただけで、数メートルの距離を一瞬で移動したのだ。そして、その電撃を帯びた右腕で、アスナへと殴りかかっていた。

 

 

「クッ!!」

 

「甘いぞ!! ソラソラァ!!」

 

「アスナさん!」

 

 

 アスナはそのビフォアの攻撃を、紙一重でかわしていた。だが、ビフォアはさらに攻撃を繰り出し、何度もアスナへとその拳を叩き込んだのだ。流石のアスナもその連続の拳の突きに、多少なりとかすり傷を追っていたのである。また、電撃が帯びた攻撃のため、かすっただけでも感電し、アスナは徐々に痺れを感じ始めていた。それを見たネギは、アスナへ焦りの叫びを上げながら、ビフォアへと魔法を詠唱したのだ。

 

 

「アスナさんから離れろ! 魔法の射手、”光の一矢”!!」

 

「無駄だぞ! クソガキ!!」

 

 

 ネギの魔法の射手はビフォアとアスナの間へと入り、一瞬だが隙を作ることが出来た。その隙にアスナは後退し、ビフォアとの距離を開けることに成功した。しかし、ビフォアはそれを無駄なことだと嘲笑い、今度はネギへと攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「どちらかを捕まえられれば、どのみち勝ちなんだよ!!」

 

「くっ!!」

 

「アイツ……!」

 

 

 ビフォアはアスナでもネギでも、捕まえるのはどちらでもよかった。何せどちらかを捕えれば、人質にして全員を捕らえることができると考えているからだ。そしてネギは、ビフォアの攻撃を必死に避けていた。さらにネギは風の障壁を利用し、その攻撃を防いでいたのだ。そのおかげか、アスナのようにかすり傷を負うことなく、ビフォアの攻撃をいなしていたのである。そんなネギを攻撃するビフォアを、アスナは睨みつけながらも上空の機関車の方へ少し目をやっていた。

 

 すると、その間にものどかが機関車から落ちかけており、とても危険な状況なのは先ほどと変わりなかった。のどかは左腕を伸ばしてなんとかつかまろうとするが、攻撃を回避するたびに大きく車体が揺れるので、うまくつかまれずにいたのだ。また、のどかの右腕をつかむ夕映も、必死で持ち上げてはいるものの、とても窮屈な車内では思うように持ち上げられないで居たのである。

 

 

「のどか、早く左手を伸ばすです……!」

 

「はよ、つかまるんや……」

 

「わかってるけど……きゃっ……!」

 

 

 なんとか必死に左手を、木乃香へと伸ばそうとするのどかだったが、大きく車体が傾きうまくいかない。そしてそのたびに、夕映ものどかの手を離しそうになっており、もはやギリギリの状況だった。

 

 

「ちょっとおじーさん! もう少しうまく運転出来ないの!?」

 

「無茶を言うな! こっちだってギリギリだぞ!?」

 

 

 そんな状況を見たハルナは、運転しているエリックへと文句を飛ばしていた。このままではのどかが落下してしまいそうだったからだ。しかし、エリックもまた必死で運転していた。何とかしてやりたいと思っていても、巨大ロボの攻撃を回避するので精一杯だったのだ。のどかのために動きを少しでも遅くすれば、たちまち巨大ロボの攻撃の餌食になりかねない状態だったのである。

 

 

「う、ううー……」

 

「もうちょっとやえ……!」

 

「くっ……のどか! 頑張るです!」

 

 

 この危険な状況であせ、決死の救出劇はいまだに続いていた。夕映がのどかを引っ張り持ち上げ、木乃香がのどかの左手をつかもうと手を伸ばしていたのだ。そして、後もう少しで木乃香の手とのどかの左手が触れそうだったのである。だが、そこでも敵の攻撃はやまず、またしても車体が大きく揺れてしまったのだ。

 

 

「キャッ!?」

 

「のどかぁ!!」

 

 

 その今の揺れはかなり大きく、夕映も手前へ滑ってしまうほどだった。ただ、夕映は古菲と楓に抑えられており、その程度で済んだのである。しかし、そのせいでせっかくのどかの左手がつかむチャンスを逃してしまったのだ。さらに今のでのどかはさっきよりも下がってしまい、左手でつかめる場所すらなくなってしまったのだ。

 

 

「このままじゃまずいです……」

 

「ウチの手はまだとどく……! のどか! もう一度手を伸ばすんや……!」

 

「は、はい……!」

 

 

 それでものどかを助けようと、再び木乃香が手を伸ばした。夕映もそれを見て、再び引っ張ろうと力を入れたのである。だが、やはり揺れが収まることは無く、なかなかのどかを引き上げられないで居たのだ。上がそんな危険な状況の中、下でもやはり危険な状況となっていた。

 

 

「お前らはもう終わりなんだよ! さっさとつかまって言うことを聞け!!」

 

「嫌です! 僕たちは元の時間帯に帰るんです!」

 

「何を戯言を!! 出来るわきゃねーだろお!!」

 

 

 ビフォアに何度もネギは攻撃され、ネギはそれをなんとか防御して防いでいた。そこでビフォアはネギの防御に苛立ちを覚えたのか、段々と言葉遣いが荒くなってきていたのだ。また、ネギもこのままでは埒が明かないと感じながらも、ただビフォアの攻撃を防ぐしかなかったのである。

 

 

 だが、ここでアスナがビフォアの背後から、攻撃を仕掛けたのだ。無音、無言、ビフォアに気づかれぬよう細心の注意を払い、その渾身の一撃が放たれた。そして、その高速で横なぎに振り出されたハマノツルギが、ビフォアを捕えかけたのである。

 

 

「ふん、甘いぞ!!!」

 

「な、何で……!?」

 

「言ったはずだぞ!! 貴様らでは俺を超えることは出来ぬと!!」

 

 

 しかし、そのアスナの攻撃は容易くビフォアに防がれたのだ。ビフォアはパワードスーツの一部である、鋼鉄のグローブを使ってハマノツルギを受け止め、握り締めたのである。アスナもそのビフォアの行動に、驚きを隠すことが出来ずに居た。何せ完全な死角からの奇襲だったからだ。音を立てぬよう細心の注意を払ったはずだった。一瞬で間合いをつめたはずだった。それでも今の攻撃を、ビフォアに防がれたことが不思議でたまらなかったのだ。

 

 

「どうして……!!」

 

「学習しないヤツだな! 所詮ガキだな!!」

 

「何ですって……!!!」

 

 

 そこでガキだと挑発されたアスナは、驚きよりも怒りの方が増してきたようだった。その掴まれたハマノツルギをさらに強く握り締め、力をこめてビフォアを押し切ろうとしたのだ。だが、ビフォアの手で掴まれたハマノツルギは、まったく動かなかったのである。なんという力だろうか。咸卦法のパワーをもってしても、片手で掴むビフォアを動かすことすら出来なかったのだ。

 

 

「ど、どうしてよ……!」

 

「何度も同じ事を言わせるな!! このノータリンが!!」

 

「アスナさん!!!」

 

 

 ビフォアに手玉に取られるアスナを見たネギも、ビフォアの謎の強さに疑問を感じ始めていた。しかし、こうしては居られないと、再びビフォアに魔法の射手を発射したのである。その魔法の射手はビフォアの手前ではじけ、拘束のための縄となったのだ。

 

 

「甘いんだよ! クソガキ!」

 

「えっ!?」

 

 

 なんということだろうか。その拘束魔法すらもビフォアには通じなかった。ビフォアはそれが命中する手前で、まるでサーカスのライオンが火の輪をくぐるかのようにして、その魔法の縄の間を通り過ぎたのだ。この現象にネギもアスナも驚くばかりだった。いや、もはや何がなんだかわからなくなってきていたのだ。さらに、驚きで思考が一瞬止まったネギへと、ビフォアの拳が近づいてきていたのだった。

 

 

「これで終わりだな!!」

 

「し、しまった……!」

 

「ネギ……!」

 

 

 もはや遅い。その拳はネギを完全に捕えており、避けることなど不可能な状況だった。だが、そこで突如教会の屋根が切り裂かれ、闇を纏った人影がネギの目の前へと飛び出してきたのだ。その人影は右手に握る剣を立て、ビフォアの拳をいなして方向を変えたのである。これにはビフォアも驚いた。突然の出来事であり、自分の攻撃が簡単にいなされたからだ。

 

 

「なにぃぃ!?」

 

「地下のロボは全滅させたぞ……!」

 

「来史渡さん!!」

 

「パパ!!」

 

 

 その人影は仮面の騎士、メトゥーナトだったのだ。メトゥーナトは地下のロボを全滅させ、地面を切り裂き地上へと脱出してきたのだ。また、メトゥーナトの姿を確認したネギとアスナは、とても大きな喜びにつつまれ笑顔を見せていた。そこでさらにメトゥーナトは、マントを蝙蝠のような翼へと変化させ、上空へと高らかと舞い上がったのである。

 

 

「受けるがいい、我が奥義を! ”光の剣”!!」

 

 

 そしてメトゥーナトは、飛行する機関車を狙い打つ巨大ロボの一体へと、その剣を振り下げた。するとそこから三日月形のエネルギーが発生し、巨大ロボを真っ二つに切り裂いたのだった。その切り裂かれた巨大ロボはバチバチと火花を散らし、数秒後の大爆発を起こしたのである。

 

 爆発して破壊された巨大ロボを眺めるように、もう一体の巨大ロボは攻撃の手を止めていた。そこで突如、巨大ロボの握るライフルと、握っていた右腕が切り裂かれて輪切りとなったのだった。さらにその腕を切り落とされたロボの頭部の天辺に、一人の少女が立っていたのである。

 

 

「大丈夫でしたか? 超」

 

「マサカ……!」

 

「ロボ娘じゃないか!!」

 

 

 なんと、超たちがアジトを脱出する際に、囮役となったロボ少女がそこに居たのだ。だが、出撃前に重武装していたロボ少女の武器は、もはや右腕に握るクリアグリーンの刃を持つウィルナイフのみだった。それでもそのウィルナイフのみで、その巨大ロボの攻撃を封じてしまったのである。

 

 

「今のうちにアレに乗り込んでください」

 

「はい!」

 

「ありがとう……!」

 

 

 ロボ少女は今がチャンスだというばかりに、ネギとアスナへ機関車へ乗り移るよう呼びかけたのだ。その言葉にネギとアスナも強く返事をし、礼を述べていた。だが、ビフォアがそのような真似などさせるわけもなく、ネギとアスナへ攻撃を仕掛けていたのだった。

 

 

「逃がさん!! 絶対に逃がさんぞ!!」

 

「お前の相手はわたしだ……!!」

 

「き、貴様ぁぁぁ!!」

 

 

 しかし、それを阻止すべくメトゥーナトが、ビフォアの前に立ちはだかる。その姿を見たビフォアは、頭の血管をピクピクと痙攣させ、完全に怒り一色の表情となっていたのだ。また、機関車ではのどかを引き上げるべく、夕映と木乃香が奮闘していたのだった。

 

 

「今ですのどか! はやく左手をこっちに!!」

 

「もうすぐ届くえ! あと少しや!!」

 

「……はい! うー……! えい!」

 

 

 そして木乃香の右手とのどかの左手が、少しだけ触れた後、再び持ち上がったのどかの左手を木乃香の右手が捉えたのだ。さらにのどかの左手を木乃香はしっかり握り締めたところで、夕映を支える古菲と楓や、木乃香を抑えていた刹那が一斉に後ろに引っ張りあげたのである。するとのどかが引っ張りあげられ、ようやく機関車の内部へと戻ってこれたのである。

 

 

「よかったです!」

 

「みんな、ごめんなさい。そしてありがとう……!」

 

「一時はどーなることかと思ったわー」

 

 

 のどかの無事を確認した仲間たちは、思い思いに安どの表情を浮かべていた。また、夕映はのどかへと抱きつき、助かってよかったと心から安心していたのだ。そこで、それを確認した超とエリックは、そのタイムマシンである機関車を教会の屋根へと近寄らせ、ネギとアスナの回収を開始したのだった。

 

 

「ネギ坊主! 明日菜サン! 今この汽車が教会の横を通り過ぎるネ! その瞬間を見計らって乗り移ってほしいネ!」

 

「わかりました!」

 

「オーケー……!」

 

 

 超はそこで、ネギとアスナへと大声で指示を出していた。それは教会の屋根を機関車が通り過ぎる一瞬、その一瞬のタイミングで乗り移ってほしいというものだった。なかなかシビアな作戦だが、ネギもアスナも自信を感じる表情で、それにわかったと返事を返したのだ。だが、それを聞いたビフォアは、なんとしてでもそれを阻止しようと行動に移ろうとしていたのだった。

 

 

「そうは、そうはさせねぇ!!」

 

「お前の相手は、わたしだと言ったはずだが?」

 

「テメェー!!」

 

 

 しかし、それでもメトゥーナトに取っ組まれ、完全に動きを封じられたビフォアには、それを行う余裕がなかった。そして機関車が上空で旋回して、教会の屋根の上スレスレを移動したのである。そこでアスナはネギを左手で掴み、虚空瞬動を使って機関車の入り口へと移動し、扉に右手をかけて乗り移ったのだった。

 

 

「くっ! 衛兵ロボ! やつらを逃がすな!!!」

 

「その衛兵ロボとは、コレのことでしょうか?」

 

「なっ!? なぁー!?」

 

 

 飛び去る機関車を逃がすまいと、ビフォアは衛兵ロボへと指令を出した。そのビフォアの叫びに反応したのは、なんとロボ少女だった。ロボ少女はすでに残った衛兵ロボをしとめており、切り裂かれたロボの頭部を右手に掴み、それをビフォアへと見せびらかしていたのだった。完全に原型を失った衛兵ロボを見たビフォアは、アホのような表情で驚き、先ほどまでの余裕の態度はすでになくしていたのである。

 

 

「アスナ! 掴まるんや!」

 

「その前にネギ先生をお願い!」

 

「アスナさん……!?」

 

 

 また、飛行する機関車の扉に掴まるアスナに、木乃香は自分の手を掴むよう言葉を投げかけていた。アスナは今、左手で扉のふちを掴み、小さな段差に両足を乗せている不安定な状況だった。そんな危険な状況だからこそ、木乃香は焦りの声でアスナに声をかけていたのだ。しかし、アスナはその前にネギを回収してほしいと、ネギに自分の腕を使わせて、そちらへと歩かせたのだ。

 

 

「ネギ先生!」

 

「のどかさん……!」

 

 

 ネギは何とかアスナの腕を掴みながら、機関車の扉の近くへと移動し、扉の中に片足を乗せることに成功していた。加えてのどかもネギを捉えようと、入り口で手を必死に伸ばしていた。さらに、そんなのどかを二度と落とすまいと、夕映がのどかをしっかり掴んでいたのである。

 

 

「ネギ先生……! えい……!」

 

「わっ!」

 

 

 そこで、のどかはそのネギの腕を掴み、引っ張りあげて車内へと引き込んだ。その反動でネギとのどかは後ろへ倒れこんでしまっていた。そのせいで、ネギはのどかに覆いかぶさるような体勢となってしまったが、なんとか機関車の内部へと無事に入ることが出来たようだ。

 

 

「の、のどかさん!?」

 

「ね、ネギ先生……!」

 

 

 なんというハプニングだろうか。ネギものどかも顔を真っ赤にして、慌てていたのだった。だが、それを気にしている暇は今はない。ネギはとっさに立ち上がり、アスナの方を気にかけていた。そしてのどかもすぐに立ち上がり、ネギの無事を喜び、ほんの少し涙ぐんでいたのである。そんなのどかとネギの様子を、ほっとした様子で夕映が見ていたのだった。

 

 

「今度はアスナの番や! こっちに手を!」

 

「このか!」

 

 

 そこでアスナは自由となった左手で、機関車のつかめる部分を握ると、右腕を木乃香へと伸ばしたのだ。木乃香も刹那に掴まれながら、アスナへと手を伸ばす。そのアスナと木乃香の手が触れたところで、しっかりと両者の手がつながり、アスナを車内に引きずり込むことに成功したのだった。

 

 

「ありがとう、このか」

 

「アスナも無事でよかったわー」

 

「これで全員揃いましたね」

 

 

 アスナは木乃香に今の助けの礼を微笑みながら言っていた。木乃香もアスナが無事でよかったと思い、同じく笑みを浮かべていたのだ。そして、その隣で刹那も全員が揃ったことで、過去へ戻れると考えたようだった。さらに、この場に居る全員も安心した表情で微笑みあっていたのである。

 

 

「これで元の時間帯に戻れるネ!」

 

「よし、このまま二週間前に飛ぶぞ! みんな、掴まって居るんだぞ!!」

 

 

 超も刹那と同じ事を考えていたようで、これで暗黒の麻帆良とはさようならだと思っていた。エリックも全員が揃ったことで機関車の扉をしっかり閉め、このまま元の時間帯へと移動する準備に取り掛かっていた。そこでエリックはタイムサーキットを起動させ、ネギたちが飛ばされた2003年6月22日の9時ごろへと時間設定を変更したのだ。こうして機関車はすさまじい一度旋回した後、飛行する速度を加速させ、光の中へと消えて行ったのである。

 

 

 その機関車が光に消えるのを、ビフォアは間抜けな顔で眺めていた。まさかこんな現象が起こるなど、知る由も無かったのだ。また、メトゥーナトとロボ少女はその光景を見ながら、彼らの無事を祈っていたのだった。


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