ここは魔法世界のシルチス亜大陸のほぼ中央。
ここに一人の少年が、何も使わずに空を飛んでいた。いや、使ってはいるが、普通の人には見えないので、まるで”立ったままの姿勢”で人が飛んでいるシュールな光景に見えるのだ。
その彼は赤蔵家次期頭首、赤蔵覇王である。彼は夏休みを利用して、魔法世界へと足を運んでおり
しかし、彼が今なぜ、魔法世界にいるかというと”この世界の転生神”の使命を全うするべく、他の危険な転生者を倒して回るためだ。
いや、すでに倒して回っていると言った方が正しい。何せ、転生者の数がとてつもなく多いのだ。彼が500年前、転生者と戦い続けた時よりも圧倒的に多かったのだ。やはり”原作前”というのが大きな影響を与えているのだろう。
「ちっちぇえな」
「ピギャピー」
また、誰かが
「ふん、
だが、覇王はそれを
「ほぅ、我が聖剣の一撃を防ぐとは、何者だ?」
完全に防御されたというのに、余裕を見せるこの青年。
彼も転生者であることには変わりないが、何をしたというのだろうか。その余裕そうな青年を
「僕の名は赤蔵覇王」
「未来王というやつか」
「なんだ、知ってるのか。だが僕は未来王ではない」
「貴様が名乗ったのなら、名乗り出ないのは失礼だな。我が名はガーヴェン、貴様を倒すものだ」
この時覇王は、なぜこいつ攻撃してきたの?と疑問に思っていたが、どうせ戦闘狂か他の転生者を跳ね除けて、主役になりたいと考えている輩だろうと結論付けた。
そう考え、どうでもよさげに騎士の青年を見下ろし、周りを警戒しながら互いに自己紹介と言葉を交えつつ、次の攻撃に備え、どちらかが先手を打つか待っていた。
「我が剣は太陽の剣、それは太陽の炎だ! 所詮貴様の炎は地球の炎、すでに勝敗は決している、潔く散るがいい!」
「ふぅん、ならば試してみればいい」
この会話の後、膠着状態が数秒続き、やはり先手を打ったのは騎士の青年だった。
「先手必勝!”
騎士の青年がそれを発動すると、剣を横なぎに振り回した。その直後、すさまじい熱力の火炎が覇王を襲った、だがしかし。
「その程度で太陽の炎? 笑わせるなよ。
そう覇王が命令すると、騎士の青年が放った百熱の炎を、いともたやすく
「うぎゃああああ、焼けるぅぅ!? ひぃぃうおおおぉぉ!!? た、たすけてぐぇえええ!?」
「情けないな、さっきまでの威勢と紳士な態度はどうした?」
「ヒギャアアアアッ!!」
騎士の青年の先ほどまでの態度は仮面にすぎなかったようだ。もはや覇王の言葉すら聞こえておらず、火炎に焼かれる苦しみを味わいつつ、醜い本性をさらけ出し、のた打ち回っていた。
いや、本来ならばその”特典”の力を考えると、この一撃で騎士の青年が倒れるはずがない。何せ彼の選んだ特典は、Fate/EXTRAで登場したセイバーのサーヴァント、
そのガウェインは日中ならば能力が三倍になる”聖者の数字”スキルを持っている。これにより陽が出ている時ならば、無敵に近い力を得ることができるのだ。
が、この青年はその能力を過信しすぎ、能力を鍛えていなかったようだ。自身を鍛えなければそれが3倍になろうとも、あまり意味がないのである。太陽の騎士の名に恥じぬ力を得たいならば、それに見合った苦労が必要だということだ。
「ちっちぇえな」
その醜く焼きただれていくその騎士の青年を、粗大ごみのような目で見下ろす覇王は、そう小さくつぶやいた。
「ふん、もういいよ、
すると、騎士の青年の炎は消え、完全に事切れた彼だけが残された。その騎士の青年の魂は、彼の体の上に浮いており、彼が死んでいることがわかる。そこへ覇王は
「
「ぐひぃ!? 俺を生き返らせたことを後悔させてやる!!! ”
騎士の青年はとてもあせった、”特典”がまったく機能しなくなったのだから。そこへ、あきれ返っていた覇王が、さもめんどくさそうに説明する。
「お前の特典はもうない。僕の
「はぁ!? ありえねぇだろ!? ざけんなよ!! 返せよ!! 返せよおおおお!!」
特典がないというのに、先ほど敗北した相手に怒りをぶつける騎士の青年のその姿は、まさしく醜悪そのものだった。覇王はそんな彼を捨て置き、
「返せるわけないだろ? じゃあね、せっかく蘇らせたんだ、せめて平穏に暮らせよ」
「ふ、ふざけんじゃねぇ!? 俺はこれからどうすりゃいいんだよ!? 主役にすらなれねぇのかよ!! テメェ待てよ!! おーい! クソオオオオオオオオ!!!」
その場で放置された哀れな騎士の青年は、うなだれながら呪詛をはくように覇王を罵倒した。しかし、転生者と転生者の戦いにおいて、その敗者たる彼がこうして生きていることは逆に幸運なことなのだが、彼はそれを知るよしもなかった。
「しかし、なぜ転生者というのは、ああいう輩が多いのか。僕には理解できない……、まあ、どうせこの世界を、”漫画の世界”と勘違いしているんだろう」
覇王が言うとおり、この世界を”ネギま!という漫画の中”と思っている転生者が圧倒的に多く、その中でも魔法世界は”幻”という扱いだった。だから転生者の多くは、この魔法世界で暴れまわっているようだ。
「やれやれ、久々にアルカディア帝国にでも、向かってみるか? 僕は500年前、敗北して死んだから、あの後行方不明扱いになっているかもしれない」
彼が500年前契約した、アルカディア帝国に向かってみようと考えた。自分を知っているものがいるかはわからないが、自分の残した資料はあるはずだからだ。そう考えて覇王は、そちらに方向を変更し、
「テメェハオだな? いいチート具合じゃねぇか!」
「誰だお前? 僕の名前を気安く呼ぶな」
「俺は最強の転生者だ! 一通って呼ばれているぜェ!」
突然最強を名乗るこの男は、いったいなんだろうか。もはやすでに覇王には、彼を眼中に入れていなかった。それに、自分の
「……ちっちぇえな」
「あんだと!? この岩を食らってろ!!」
転生者は足で岩をけると、それを高速で飛ばしたのだ。しかし、覇王は
「
ただ、その一言で、
「ナゼダァァァアァァ!?」
「君は霊とやらを反射できるとなぜ思えた? 霊というものがわからなければ、反射のしようがないだろ?」
この転生者の特典は、感知しているあらゆる存在のベクトルを支配し、操るものだったが何てことない、この転生者はシャーマンではないので、霊や魂といった概念を知らないのだ。この世界の魔法なら、炎、雷、水、氷、岩などを具現化させて飛ばすので、ある程度は反射できるだろう。
しかし
「くだらない、本当にくだらない。この世界に
もはや、こういった転生者に覇王はあきれ果てていた。500年前よりも多く沸いている頭がおかしい転生者に、完全に無関心になってきていた。しかし、転生者の中でも、いいやつもいることは、彼も知っていた。
500年も前のことだが、一時的とはいえ一緒に戦った仲間がいたし生産を得意とする転生者に、何度も世話になった。それを思い出しつつ、後数年で始まる”原作”に不安と期待を募らせるのだった。
「原作開始で、どう転生者が動くのやら……。まあ、どうでもいいか」
彼はもう、将来的に赤蔵家を継ぐことに決めており、麻帆良に行く気もまったくないのだ。さらに”原作”なんて半分も覚えていないので、どうでもよくなっていたのだ。
しかし、そんな考えを否定するかのような運命が、今後の彼に降りかかるとは
今の彼には予想もできないことであった。
…… …… ……
転生者名:ガーヴェン
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:30代会社員
能力:聖剣ブッパ
特典:Fate/Extraの白セイバーの能力、オマケで
剣の技術
転生者名:一通
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:10代学生
能力:反射
特典:とある魔術の禁書目録一方通行の能力
高い演算技能