理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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七十八話 袋のねずみ

 ネギたちは超のアジトの入り口を見つけ、ようやくそこへ入ることが出来た。そして、アジトの電源は生きており、まだしっかりと動いていたようである。エレベーターから降り、廊下を進むと一つの扉があり、ネギがその前に立つと、自動的に横へ開いたのだ。すると、その奥には広い部屋があり、麻帆良を監視するカメラから、映像が送られていたのである。

 

「これ全部超が作ったアルかー」

 

「テレビがいっぱいあります……」

 

「これ、麻帆良を映してるのよね……」

 

「これが……今の麻帆良……」

 

 

 そのモニターに映し出されている麻帆良は、もはや跡形も無くなっていた。チンピラが集い、暴力に支配された世界となっていたのだ。ネギたちはそれを見て、ここが本当に麻帆良なのかと、改めて疑うのであった。

 

 

「一体コレはどうなってしまっているのでしょうか……」

 

 

 このおぞましい光景を見せられた夕映は、震えた声でそう言った。それはここにいる誰もが疑問に思うことだった。朝、ネギへ会いに来て、ネギが懐中時計を拾った時、それは突如として起こった。その謎の現象により、平和でにぎやかな麻帆良が一変し、暗い闇に支配された崩壊した麻帆良になってしまったからだ。

 

 はっきり言ってこんな場所、さっさと逃げて元の麻帆良へ帰りたい。それも誰もが考えることだ。しかし、その方法がまったくわからないのである。ネギも一体何が起こったのかさえ、理解で来ていないのだ。当然帰る方法すら考え付かない。そしてここに居る全員が、どうしたらよいのか悩んでいると、別の誰かが声をかけて来たのだ。

 

 

「お待ちしておりました」

 

「あ、あなたは茶々丸さん!?」

 

「それは私の姉に当たります。ここでみなさまを待つよう、超から言われておりました」

 

 

 そこに立っていたのは茶々丸を幼くしたような感じの、ゴスロリのメイド服を着た少女だった。ネギはその少女を見て、茶々丸だと思ったようだ。しかし、その少女が言うには茶々丸は姉に当たるという。つまり、この少女は茶々丸の妹機に当たるガイノイドということになる。また、茶々丸の後継機と言うことで、茶々丸以上に人間らしい外見となっており、継ぎ目がまったく存在しないほぼ完全な人型となっていた。

 

 

「待っていた……ですって?」

 

「あの、超さんはどこに居るんですか?」

 

 

 ロボ少女の待っていたと言う言葉に、アスナは反応した。待っていたと言うことは、ある程度の時間ここに居たことになる。さらには自分たちが必ずここに来るということを、知っていたと言うことだからだ。ネギは超に言われてここに来たので、超も居るのだろうとロボ少女へ質問していた。

 

 

「超はここにはおりません。いえ、すでに()()()()()()といったほうが正しいでしょう」

 

「い、居なくなった……!?」

 

「はい、そのとおりです」

 

 

 ネギの質問に、ロボ少女は表情を変えずに答えていた。そしてネギはロボ少女の言葉に、驚きのあまり目を大きく見開いていた。なんと超は”居なくなった”のである。つまり、この場にはもう存在せず、どこか言ってしまったということなのだと、ネギは考えるしかなかったのだ。

 

 

「今はまだ私にも記録されておりますが、時期に消滅してしまうでしょう」

 

「ど、どういうことなんですか!?」

 

「それは説明しがたい部分もありますので伏せますが、今に至るまでを説明しましょう」

 

 

 しかし、ネギが考える以上に、超の消失は深刻な問題だった。ロボ少女が言うには、自分はまだ超を記録しているが、ほうっておけばその記録が消えてしまうと言うのだ。それはつまり、超がビフォアの計画を阻止できずに、存在が消えてしまった、または消えてしまいかけているという状況に、追いやられてしまったと言うことだからだ。

 

 だが、それをネギへ話すことは出来ない。ネギの子孫たる超の全貌を明かすことは、許されないからだ。だからロボ少女は、あえてそのことは言わなかった。その代わりに、この麻帆良がどうしてこんなことになっているのかを、ネギたちへと静かに語り始めたのだ。

 

 

「ビフォアという男は麻帆良祭三日目にて、大規模な戦いを仕掛けました。死傷者は出ませんでしたが、圧倒的な戦力に麻帆良の魔法使いは敗北してしまったのです」

 

「嘘……!?」

 

「そ、そんなことが!?」

 

 

 ビフォアは麻帆良祭三日目にて、麻帆良へ攻撃を仕掛けたのだ。死者や重傷者は居ないようだが、魔法使いは完全に敗北したとロボ少女から告げられたのだ。アスナはその敗北に驚きの声をもらし、ネギも先ほど以上に驚いた様子を見せていた。

 

 そこでネギは何か奇妙な感覚に襲われた。今の話を聞くに、まるで麻帆良祭三日目が終わったような言い草だったからだ。だからそのことをネギは、ロボ少女へと尋ねたのである。

 

 

「あの、先ほど麻帆良祭三日目に、と言いましたよね? 今はいつなんですか!?」

 

「今はその二週間後の2003年7月7日です」

 

「つまり私たちは時間を飛んで未来へ来てしまったのですね……?」

 

 

 ネギがそれを質問すると、ロボ少女が今の正確な日付を静かに答えた。なんということだろうか。今ネギが居る時間は、麻帆良祭三日目から二週間経った、七月の七日だったのである。それを聞いた夕映は、未来に飛ばされたことを察して驚いていた。

 

 

「そのとおりです」

 

「一体どうやってそんなことを……!?」

 

 

 ロボ少女は誰もが驚く中、そのことをなんとも思わない様子で、ネギたちを眺めていた。そこでネギはどうしてそんなことが起こったのか、かなり気になったのだ。何せ自分たちは何もせず、突然時間跳躍したのだから当然だろう。一体何がどうしたのか、まずは知りたかったのだ。

 

 

「ネギさん、あなたが持つその懐中時計、正式名称はカシオペアと呼びます。それがタイムマシンの役割を果たしていました」

 

「この懐中時計が……!?」

 

 

 ネギは焦った様子でそのことをロボ少女へ問いただすと、ロボ少女はしっかりとその原理を答えていた。その答えとは、あの懐中時計が原因ということだったのだ。この懐中時計こそ、あの超が作り出し、ビフォアに盗み出されたタイムマシン、カシオペアだったのである。そのことをはじめて知ったネギは、カシオペアを取り出して驚きの眼で眺めていた。まさかこんな懐中時計が、タイムマシンになるとは思っても見なかったのだ。

 

 

「魔力を使って時間跳躍する機能を持つカシオペアにより、みなさまはこの時間帯へと飛ばされてきたのです」

 

「あの謎の現象は時間跳躍だったのでござるな」

 

「はぁー!? そんなワケがわかんねぇことに私が何で巻き込まれてんだよ!?」

 

 

 さらにそれは魔力を利用した仕掛けだった。そしてあの時の謎の現象こそが、時間跳躍だったのである。そのことを思い出した楓は、時間を移動したことを理解し、腕を組んでうなずいていた。だが千雨が、その近くで騒ぎたてて暴れていた。と言うのも、千雨は麻帆良二日目でようやくネギと真っ向から話しただけだった。だからこんな訳がわからなことに、なぜ巻き込まれたのかまったく理解出来なかった。いや、理解したくなかったのである。

 

 

「なら、どうやったら僕たちは元の時間帯に、麻帆良祭三日目の朝に帰れるんですか!?」

 

「もはやみなさまではどうにもなりません。数時間程度ならばネギさんの魔力を使って飛べますが、大規模な時間移動となると世界樹の魔力が必要になります」

 

「世界樹の魔力……。あの発光現象の時か!?」

 

 

 とりあえずそんな暴れる千雨をスルーし、ネギはならば元の時間に戻るにはどうすればいいかを、ロボ少女へと尋ねて見た。しかし、こうなってはもはや無理だと、ロボ少女は言い放ったのだ。なぜならカシオペアは魔力を使って時間跳躍するタイムマシン。その使用する魔力の量で、飛べる時間が変わるのだ。

 

 数時間程度ならばネギや木乃香の魔力で飛べるかもしれない。しかし、二週間となると、それ以上の膨大な魔力が必要となる。つまり、世界樹が大発光し、魔力を放出している間でなければ、それはなしえないのである。その説明を聞いた刹那も、世界樹が発光して居なければならないことに気がつき、どうすればよいかを考えていた。

 

 

「そうです、その現象を利用してビフォアはみなさまを罠にかけ、この時代に飛ばしたのでしょう」

 

「そ、そんな……」

 

 

 もはや打つ手なし。戻ることさえかなわぬと言われ、ネギはそこにひざまずいてしまっていた。また、他の生徒たちもショックの余り言葉が出なかったようで、シンと静まり返ってしまったのだ。だが、ロボ少女はそれを関係ない様子で見ながら、説明の続きを始めていたのだ。

 

 

「説明を続けさせていただきます。その三日目の戦いにて、銀河来史渡、ギガント・ハードポイズン両名も強制時間跳躍弾の奇襲を受け無効化、戦闘から離脱させられてしまったようです」

 

「……な、なんですって……!?」

 

「お師匠さまが……!?」

 

 

 なんとさらに、魔法使いだけではなく、皇帝陛下の部下たるあの二人すらも、無効化されたというのだ。その言葉にネギとアスナはかなり驚いていた。いや、驚いていたというよりも、完全に絶句して固まっていたのだ。

 

 何せネギもアスナも二人の強さをよく知っている。たとえ奇襲だとしても、そう簡単にやられるはずがないと思っているのだ。当然その二人が奇襲を受けて無効化されたなど聞かされれば、驚かないほうが無理なのである。

 

 しかし、納得出来る答えでもあった。あの二人が戦えば、勝利は間違えないからだ。それがかなわなかったのだから、こうなってしまっても無理は無いとネギとアスナはうすうす感じていたのである。

 

 

「……あの、わかったらでええんですけど……、はお、……赤蔵覇王はどうしたんですかえ?」

 

「赤蔵覇王も当然、ビフォアに対抗するべく戦いました。また、赤蔵覇王は確かにすさまじい強さでした。敵の戦力をひっくり返すほど圧倒的でした」

 

 

 そこで木乃香は、ならば覇王はどうしたのか気になったので、ロボ少女へと恐る恐る質問したのだ。するとロボ少女は、淡々と話しはじめた。あの覇王の強さを、恐ろしいまでの殲滅力を。木乃香はそれを聞き、少し笑みを見せていた。しかし、その次のロボ少女の会話で、その笑みは驚きに変わった。

 

 

「しかし、その赤蔵覇王ですら、ビフォアには勝てませんでした」

 

「覇王さんが勝てなかった……!?」

 

 

 ロボ少女は覇王の無双の話の後、一呼吸入れて衝撃的なことを言い出した。それは恐ろしい驚愕の真実だった。なんとあの覇王ですら、ビフォアには勝てなかったというのだ。これには刹那も木乃香も驚かざるを得なかった。自分たちが最強だと思っていたシャーマンですら、ビフォアに勝てなかったのだから。

 

 

「そ、そんな……、はおが……」

 

「あの覇王さんが敗北するほど相手だったの……!?」

 

 

 木乃香はとてもショックを受けていた。あのもっとも強いと思っていた覇王が、ビフォアに敗北したと知らされたからだ。覇王ならば勝てると信じていた。ビフォアを倒し、麻帆良を平和にしてくれると思っていた。

 

 いや、だが現実的に考えれば、それならこの未来の麻帆良の惨状はありえない。木乃香はその事実を、受け入れざるを得なかった。この状態を見れば、間違いなく覇王が敗北したことを、嫌と言うほど知らしめるからだ。

 

 また、アスナも同じく強い衝撃を受けていた。アスナも覇王の本気を見たことがあるので、覇王の実力は十分知っていた。そんな覇王が、勝てなかったほどに、あのビフォアと言う男が強いのかと思い、とても驚いていたのである。

 

 そうショックを受けて膝を突く木乃香に、刹那が寄り添っていた。そんなところに、ロボ少女が慰めるように次の言葉を木乃香たちに言い聞かせていた。

 

 

「また、赤蔵覇王は麻帆良祭三日目、敵を殲滅しつつ、あなた方を探している様子でした」

 

「……はお……」

 

 

 ロボ少女は、慰めになるかはわからないが、そこへ一言話した。覇王は戦いの中で、木乃香たちを探していたということだ。覇王はあのビフォアの特典を知っていた。なので、万が一を考えて木乃香や刹那を探し出し、安全を確保しようとしたのだ。覇王は、木乃香や刹那が時間跳躍でこの時間に飛ばされてしまったことを知らないまま、麻帆良三日目にてずっと戦いながら、二人を探していたと言うのである。

 

 その言葉に木乃香はとても嬉しく感じ、頬に一粒の雫を流していた。覇王は戦いの最中、自分たちを探してくれていた。最後まで足掻いてくれていた。そして木乃香は再び立ち上がり、その涙を右手でぬぐっていた。

 

 

「それに赤蔵覇王が負けたのは、倒されたからではありません。ビフォアの野望を打ち砕けなかっただけです」

 

「つまり、覇王さんが直接の戦闘で敗北した訳ではないと……?」

 

「はい。しかし、赤蔵覇王ですら、あのビフォアに傷を負わせることはできなかったようです」

 

「……そこに何か大きな謎が隠されているのかな……」

 

 

 さらにロボ少女は続けた。覇王がビフォアに敗北したというニュアンスは、正しくないと。戦いでは負けてはいなかったが、ビフォアの野望を食い止められなかったが故に、負けたのだと。

 

 刹那はそれを聞いて、覇王が戦いで敗れた訳ではないことを理解した。むしろ、ビフォアと言う男があの覇王と直接戦い敗北させれるならば、こんな回りくどい方法など使わないはずだと、刹那は考えた。

 

 が、ロボ少女の次の言葉は、それ以上のものだった。あの覇王の力でさえ、ビフォアにダメージを与えられなかったというのだ。つまり、覇王の能力でビフォアを倒せなかったが、ビフォアも覇王を倒すことができなかったということだ。それでもビフォアの勝利は野望の達成であり、その差で勝敗が決したということだ。

 

 アスナはそれを聞いて、そのノーダメージという点に何かがあると考えた。あの覇王の攻撃で無傷と言うのは普通に考えればありえない。何か大きな仕掛けが隠されているのではないか、と思ったのである。

 

 

「……説明を続けさせてもらいます。麻帆良祭三日目の最後、ビフォアは強制的に魔法を認識する魔法を使い、世界樹の力でそれを世界に拡散しました。それにより麻帆良の魔法使いは責任を問われ、全員本国へ強制的に連行されてオコジョにされました」

 

「……あの人たちも同じことを言ってましたが、そういうことだったんですか……」

 

 

 ロボ少女は覇王の話しを終えたので、再び説明を開始した。その説明によれば、ビフォアは超が言ったように、魔法を世界にバラしたようだ。そして麻帆良の魔法使いは、全員オコジョにされてしまったのである。だからあの職員二人は自分を捕まえようとしたんかと、ネギは今深い理由を知ったのだった。

 

 

「だがあのビフォアと言う男も魔法先生。彼もまた責任を問われるのでは?」

 

「はい、()()ならそうなります」

 

 

 しかし、ビフォアもまた魔法先生。この責任は確実に攻められるのが道理のはず。刹那はそれをロボ少女へ質問すると、本来ならばと付け加えてそうなると言われたのだ。本来なら捕まるはずだったが、現に今ビフォアは捕まっていないようだ。ならどうしてなのだろうか誰もが疑問に思うことだろう。それをロボ少女は、静かに淡々と話し始めた。

 

 

「しかしビフォアは計画完了後身を隠し、麻帆良の実権を握るまで隠れとおしました」

 

「麻帆良の実権を……」

 

「握るまで……!?」

 

 

 ビフォアは計画が完了すると、すぐさまどこかに消えたという。そして、麻帆良を買収して実権が移るまでの間、ひっそりと潜伏したのだ。その実権を握るまでと言う言葉に、刹那とアスナは反応を見せていた。まさか麻帆良の実権をビフォアが握っているなど、考えたくも無いことだからだ。

 

 

「今の麻帆良の代表はビフォアという男です。ビフォアはその後本国と取引し、難を逃れました」

 

「ずるいです……」

 

「そ、そんな……」

 

 

 ビフォアは麻帆良の実権を握り、いまやその代表となった。その代表と言う建前と、多額の金を使って本国と取引したビフォアは、その罪を問われることなくのうのうと暮らしているのだ。さらに言えば、麻帆良の代表となったがゆえに、メトゥーナトやギガントも表立って手が出せない状況となってしまったのである。だからこそ、ビフォアは安全にこの麻帆良を支配できるのだ。また、そんなことが許されるのかと、夕映は思ったようで、隣に居たのどかも、こんなことおかしいと感じたようであった。

 

 

「さらにビフォアは柄の悪い連中や魔法世界で暴れるものたちを集め、麻帆良を暗黒の街へと変えてしまったのです」

 

 

 そしてビフォアは、魔法世界で暴れていた荒くれものの転生者たちや、麻帆良や魔法使いアンチと言った連中を呼び集め、麻帆良を荒廃させてしまったのだ。加えて他のそういった転生者も勝手に集まるようになってしまい、完全に収拾がつかない状態まで落ちぶれてしまったのである。さらにチンピラ連中やワケがわからない人々も集まりだし、もはや暗黒の都市麻帆良へと変貌してしまったという訳だった。そこで夕映は気になったことがあった。だからそれをロボ少女へ質問したのである。

 

 

「街の人々はどこへ行ったですか!? 外を歩いていても不良やチンピラばかりで一般人が見当たりませんでしたが……!?」

 

「麻帆良の住人は速やかに移住しました。銀河来史渡、ギガント・ハードポイズン両名がそうさせました」

 

 

 その質問は麻帆良に住んでいた一般人のことだった。この荒廃した麻帆良にはチンピラのような、お世辞にもガラが良いとはいえない人ばかり集まっていた。そんなチンピラの集まりの中に、一人も一般市民と呼べる人物が居ないことに、夕映はおかしいと感じたのだ。また、クラスメイトの大半は一般人であり、彼女たちがどうなったのか夕映はとても気になったのだ。だからロボ少女に、一般人はどうしたのかを聞いたのである。

 

 そこでロボ少女も、その質問の答えを無表情で答えた。麻帆良の住人はメトゥーナトとギガントが、ビフォアが代表となったのを見てすぐさま移住させたと言う。あのビフォアをどうにか出来ないのなら、それしか手がなかったのである。

 

 

「つまり、麻帆良の住人はなんとも無いんですね?」

 

「はい、元々麻帆良に居た人たちは、みな無事に他所で生活しています」

 

「よかった……」

 

 

 そして移住したと言うことは、今はこの麻帆良では無く別の場所で暮らしているということだろう。ロボ少女は夕映の二度目の質問に、誰もが無事に避難し終わり他所で安全に生活していると、無機質に答えていた。それを聞いた夕映はその答えに満足し、安堵の声をもらしていた。

 

 自分たちのクラスメイトや家族、それ以外の住人もみんな無事だったことに、喜びを感じていたのだ。また、それは夕映だけではなく、ロボ少女の答えを聞いたのどかやハルナなども安堵の表情を浮かべていた。だが、そう安心しているのもつかの間、突如地上から爆発音が聞こえ、アジトが大きく揺れたのである。

 

 

「な、何この揺れ……!?」

 

「ビフォアがこの場所に気づき、攻撃をしてきたのでしょう」

 

「そ、そんな!?」

 

 

 その揺れで誰もが転びそうになり、何とかバランスを立て直していた。しかし、ロボ少女はなんとも無い様子を見せ、さらにそれがビフォアの攻撃だと察し、やはり淡々とそう答えていた。ネギはビフォアにこの場所がバレたことに焦り、非常にやばいと感じ始めていたのだった。

 

 

『聞こえるかな、諸君』

 

「この声はビフォア……!?」

 

 

 なんとさらに、ビフォアの声が突如としてアジト内部へ響き渡っていた。そのビフォアの声に反応したのは刹那だった。そしてどこから声が聞こえているか調べると、アジトのモニター下にあるマイクからだった。ビフォアはアジトの場所を特定したためか、ハッキングして声をアジト内に送っているのである。

 

 

『速やかに降伏するならば、手荒な真似はしない。だが、そうでないのなら、その場所ごとつぶれてもらうことになるが、どうするかね?』

 

「見てください! この部分を!」

 

「巨大ロボ……!?」

 

 

 ビフォアは脅すような口調で、ネギたちに降伏を呼びかけていた。さらに夕映がアジト外を映しているモニター画面を見ると、そこには巨大なロボが立っていたのだ。それを夕映は周りの人に言うと、ハルナがその光景に目をパチクリさせて驚いていたのである。魔法の次は巨大ロボなのだから、驚いて当然である。

 

 

『5分間時間を与えよう。もしそれが過ぎても出てこなければ、つぶれてもらう』

 

「ど、どうしよう……」

 

「どうなってんだよ!! むちゃくちゃすぎるぞ!!」

 

 

 そしてビフォアはさらに脅しを仕掛けてきた。五分以内にアジトから出てこなければ、なんとアジトをロボで破壊して潰すと宣言したのだ。それを聞いたのどかは怯えた様子を見せ、夕映やハルナの横に引っ付いていた。また、千雨ももはや完全に訳がわからない状態となってしまったようで、怒りの叫びを上げて暴れていたのである。

 

 

「どないするん……?」

 

「どうしたものでしょう。ここで出て行っても安全などあるはずがありませんし……」

 

 

 木乃香は刹那へどうしたらよいのか、不安そうに尋ねていた。明らかに詰みの状態。どうやってこの危機から脱出出来るか、わからなかったのだ。だが、流石の刹那ですら、この状況にはお手上げだった。安全だと思っていたアジトを、むしろ武器代わりに使って脅してくるなど思ってなかったからだ。

 

 さらに外に出たとしても、ビフォアが安全を約束してくれるはずがないと考えた。だから立てこもっても、外に出ても地獄なのは変わらないと、刹那は頭を悩ませるばかりだった。しかし、そんな誰もが静まり返り、どうしたらよいか悩む中、一人アジトの出口へ歩くものがいた。

 

 

「……僕だけ行きます……」

 

 

 それはネギだった。ネギはこの状況にここに居る生徒たちを巻き込んだことに、責任を感じていた。それゆえ一人囮となり、何とかみんなを助けたいと考えたのだ。

 

 また、アスナや刹那はあの巨大ロボを倒せるか考えた。確かに倒せないことは無い。いや、むしろ倒せると考えた方が自然である。ただ、自分たち以外のメンバーを見て、無理は出来ないと考えたのだ。

 

 この今の麻帆良はビフォアの支配下、救援が駆けつける可能性もある。そうすればあの巨大ロボ以外も相手にしなければならなくなる。加えてアジトに残して戦いに行けば、アジトを狙われる可能性もあった。全員で出て行っても、同じ結果になる可能性が高いと考えたのだ。

 

 それだけに、無理をして誰かを危険に晒すのであれば、黙ってビフォアに従う方がよいのではないかと、アスナも刹那も考えたのである。その横で楓も同じようなことを考えていたようで、二人が楓を顔を見ると、厳しい表情をしながら静かに頷いていたのだった。

 

 

「ね、ネギ先生!?」

 

「一人で行くつもり!?」

 

「はい、僕だけ行って、みなさんには手を出さないように交渉してきます」

 

 

 そのネギの勇敢か蛮行かわからぬ言葉に、のどかとアスナは驚いていた。一人で行くなど、正気の沙汰ではないからである。だがネギは、一人でビフォアと対峙し、ここに居る生徒には手を出さぬように話し合うつもりだったようだ。しかし、そんなことは明らかに無謀。成功するなどありえないことだろう。そう誰もが思うことだった。

 

 

「無茶です!」

 

「そうですよ、ネギ先生……」

 

「それでも、やってみないとわかりません」

 

 

 だから夕映とのどかはネギを止めようと、必死に叫んでいた。こんなことをしても、あのビフォアと言う男の思惑通りなのだと考えたのだ。加えてネギが一人で外へ出て、何かあったら悲しいと感じていたのである。そう訴える二人をよそに、ネギはそれでも何かしなければと、歩む足を止めることをしなかった。

 

 

「なら、私も一緒に行く」

 

「アスナまで……!?」

 

 

 そんなネギを見て、アスナもついていくことを決断した。ネギ一人で行かせるならば、自分もついていき力になろうと考えたのだ。そしてネギの後ろを歩き出したアスナに、木乃香は手を口元に当てて驚いていた。アスナがネギを止めるのではなく、むしろついて行くなんてと思ったのだ。

 

 

「一人で行きます。アスナさんはみなさんと一緒に居てください」

 

「一人で何とかなるわけないでしょ? 来るなと言っても勝手について行くわ」

 

 

 だがネギはつっぱねて、一人で行くと突き放すように言葉にしていた。ネギはアスナにもここに残って、みんなと安全に待機していてほしいのだ。しかしアスナも、それならそれで勝手について行くと、普段と変わらぬ語気で話したのだ。アスナはネギだけ行くよりも、二人で出て行ったほうが有利に立てるかもしれないと考えたのである。

 

 

「……わかりました……。でも何かあればすぐ逃げてください」

 

「それはこっちの台詞よ」

 

 

 ネギはアスナのその言葉に、諦めたのか認めたかはわからないが、ついてくることを許したようだ。ただ、そこに自分を置いて逃げてほしいと付け加えての許可だった。そう言うネギへ、むしろそれが言いたいのはこっちの方だと、アスナは強気の姿勢でそれを言い放っていた。

 

 そして二人は再び出口へと歩き出したところを、誰もが見て居るしか出来なかった。この状況となってしまっては、全員出て行くか、誰かが出て行くかしかないのを理解していたからである。そんな中、夕映がやはり止めようと必死に叫んでいたのだ。頭では理解が出来ても、感情はそうではないからだ。

 

 

「本当に行くんですか……!?」

 

「行かなければ、みなさんを巻き込みます……」

 

「だけど……!」

 

 

 夕映の必死の叫びに、ネギは静かに答えていた。このままではどの道全員、このアジトと共にしてしまうだろう。それだけは有ってはならないことだと、ネギは教師として、巻き込んでしまったものとして考えていたのだ。それでも外へ行かせたくない夕映と、その横で涙目になりながらもどうしてネギが行かなければならないのかと、葛藤するのどかが居たのだ。しかし、そこでビフォアのカウントが無情にも告げられたのだ。

 

 

『後1分となったが、さあどうするのかね?』

 

「……行ってきます」

 

 

 後一分となったビフォアのカウントを聞いて、ネギは走ってエレベーターへと乗り込んでいた。また、アスナも同じくネギの横に立ち、エレベーターに乗っていた。

 

 

「ネギ先生!!」

 

「ね、ネギ先生……!?」

 

 

 夕映ものどかも、もはやネギの名を叫ぶことしか出来なかった。コレばかりはどうしようもない状況で、二人ともこの状況を打破する最善の手が思いつかなかったからだ。もっと自分が利口ならば、頭が回ればと後悔する二人に、ネギは小さく微笑んでいた。大丈夫だと二人に言い聞かせるように、笑って見せたのである。そのネギの表情を見た夕映とのどかは、涙を流しながら見送るしかなかったのだ。

 

 

「みんな、少しだけ待ってて……」

 

 

 またアスナも。同じようにここに居るクラスのみんなに、手を振っていた。その表情は不安を感じているようには見えず、普段通りのアスナだったのだ。それはまさに、心配する必要はないと全員に言い聞かせ、必ず戻ってくると言うことだったのである。

 

 

「アスナ!?」

 

「アスナさん……!」

 

 

 そんなアスナを木乃香と刹那が見た直後、エレベーターの扉は閉まり、地上へと上がっていったのだ。木乃香も刹那もアスナを止めることが出来ず、ただエレベーターが上に上がるのを見ているしかなかった。いや、どの道アスナは止めたとしても、絶対に出て行っただろう。そう二人は考えて、互いに向き合いアスナの無事を祈るしかなかったのである。そして残されたクラスメイトも、この状況に歯がゆい思いを感じ、悔しい気持ちを抑えるしかなかったのだ……。

 

 


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