理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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大きいもの、硬いもの、雄雄しいもの
それは、辰巳リュージのビッグ・マグナムである

世紀末過ぎてるね


七十五話 暗黒の麻帆良

 ネギは突然落下してきた懐中時計をキャッチしたのだが、その直後謎の現象により暗闇に染まった麻帆良へと飛ばされてしまった。さらに謎の手紙により、多数の生徒もそれに巻き込まれてしまったのだ。そして、その薄暗く不気味な麻帆良にやって来たネギご一行は、すでに彼らを狙うものたちに包囲されてしまっていたのだった。

 

 

「さぁて、このままおとなしく降伏すると言うのであれば、手荒な真似はせずに優しく保護をしてやろう」

 

「保護……ね……」

 

 

 そのネギたちを囲う集団のリーダーである、辰巳リュージは偉そうにそう述べたのだ。ネギたちは今、このリュージの特典(アルター)である大砲並みの巨大さがある拳銃、ビッグ・マグナムに狙われていた。だから反抗の意思を見せずに捕まれば、それを使うことはないと脅していたのだ。

 

しかしアスナは保護と言う言葉に苛立ちを覚えたようだ。この状況で捕まれば、どんな目に会うかは明白だ。そのような状況で、それを受け入れることなど、出来るはずがない。ゆえにアスナはこう考えた。保護、なんと聞こえのいい言葉か。この現状で保護や救助だと言うのか。もし、そうだと言うのなら――――

 

 

「虫唾が走る……!」

 

「ナマイキな口を利くじゃねぇかよ! なら交渉は不成立だな! この場でお前らを打ち抜いて、強制連行させてもらおうか!」

 

 

 アスナは強く怒りを表し、その言葉を発していた。それを聞いたリュージは、今の脅しが通用しないと考え、右手に持つ照準機の引き金を引きビッグ・マグナムを操った。するとビッグ・マグナムから大砲の弾丸ほどの大きさの銃弾が発射され、それがアスナたちへと襲い掛かったのである。さらに、リュージの部下らしき男たちも、一斉にネギたちへと襲い掛かったのだ。

 

 

「神鳴流奥義、”斬鉄閃”!」

 

 

 しかし、その発射された弾丸を刹那がすばやく切り裂いた。その神速とも言えるほどの斬撃により、弾丸が破裂する前に分断されたのである。

 

 

「炸裂する前に切り伏せるか! だが俺の太くて硬いビッグ・マグナムは、いまだ暴れっぱなしなんだよ!!」

 

 

 だが、リュージはさらに弾丸を打ち出す。このビッグ・マグナムの弾丸はほぼ無尽蔵。アルター能力で弾丸を構築すればよいので、弾切れがおきないのである。だからこそ、何度も何度も連射出来るのだ。

 

 その連射される弾丸を、幾度と無く刹那が切り伏せ、破壊し続けていた。神鳴流に飛び道具は通じない。いくら弾丸が大きかろうと、それに関係なく刹那には通用しないのだ。最初の一撃は初見だったために不意を突かれた形となったが、ネタがわかれば怖くないと言うものである。

 

そうやって弾丸をいともたやすく切り伏せる刹那だったが、連射される弾丸を切断し、後ろのクラスメイトを守るので精一杯だった。これでは埒が明かないと、心の中で焦り始めていたのだ。

 

 そこでさらにリュージの部下らしき連中が、ネギたちへと襲い掛かったのだ。

なんと下品な叫び声をあげながら、どたどたと走ってやってきたのである。

 

 

「ヒャァー! 襲え!」

 

「女だぁー! 中学生だぁー!」

 

「ガキもいるぜぇー!」

 

 

 その部下の連中は、まず夕映たちへと襲いかかろうと飛び掛った。そんな連中から身をたじろぎ、夕映たちは守りの体制となっていたのだ。

 

 

「ら、乱暴するつもり!? 同人誌みたいに!!」

 

「言ってる場合じゃないです!」

 

「こ、怖い……!」

 

 

 ここでまだ冗談を言えるハルナはなかなか肝が据わっているようだ。そこでツッコミを入れれる夕映も、結構余裕があるようだった。しかしのどかは襲い掛かる男たちに、完全に怯えてしまっていたのである。

 

 

「みんな、私の後ろに下がって……!」

 

「ぼ、僕はどうすれば……」

 

 

 アスナは戦えそうに無いハルナや千雨たちを後ろにさげ、ハマノツルギを握り締めていた。そして襲い掛かる部下の連中を牽制していたのだ。だがネギは、ここで魔法を使えばハルナや古菲などに魔法が知られてしまうと思い、悩んでいた。加えて相手はリュージ以外ただのチンピラ風の男たちであり、彼らを魔法で対抗してよいか考えていたのだ。

 

 

「今はただ、みんなを無事に帰すことだけを考えたら……?」

 

「……そうですね、わかりました!」

 

 

 そう悩むネギに、アスナはとっさにその悩みの答えを打ち明けた。今は魔法使いなどのしがらみを考えず、先生としてここに居るクラスメイトを普段の明るい麻帆良へ返すことを考えればよいと言ったのだ。それを聞いたネギは、悩みを奥へしまいこみ、キリッとした表情で決意を固めたようである。

 

 

O.S(オーバーソウル)、前鬼! 後鬼! みんなを守ってな!」

 

「不良のスタイルが十年ぐらい古いですよこれ!!」

 

「こいつらただのチンピラアルか!? 殴っても問題ないアルか?!」

 

 

 木乃香はそこで前鬼と後鬼を操り、ハルナたちの近くに配置した。それで襲い掛かるリュージの部下たちから、クラスメイトを守ろうとしているのだ。また、その襲い掛かる集団を見たさよは、肩パッドにモヒカンスタイルのチンピラに十年前のスタイルだと思ったようだ。そんな木乃香たちの横で、古菲は襲い掛かる男たちを殴っていいものかと、少しだけ悩んでいたのだった。

 

 

「女どもは黙って俺たちの言うことを聞けぇ!」

 

「痛い目見たくねぇならなぁ!!」

 

 

 そこで部下の男たちが、とうとう彼女たちの数歩手前まで飛び込んできた。勝手なことをほざきながら、拳を握り攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 

「そう来るのであれば、こちらも少し手荒な真似をせねばござらんな」

 

「お、おい! 大丈夫なのかよこれ……!?」

 

 

 楓は彼らの行動を見て、ならば戦うしかないと普段のゆるい表情から真剣な表情へと変え、戦闘体勢を取っていた。それを見ていた千雨は、何かやばい感じを受けて顔を青くしながら、のどかたちの方へと身を寄せていた。そして男たちは一斉に攻撃を開始し、その握る拳を振るい始めた。しかし、古菲や楓にはその動きが遅く感じたのか、あっさりとかわしていたのだ。

 

 

「くたばれ! ギニャァ!?」

 

「このクソ! グアー!!?」

 

「女の癖にギャース!!」

 

 

 さらに遅い来る男たちを、楓と古菲が返り討ちにしていた。むしろ弱すぎるとさえ感じた楓と古菲は、ハッキリ言って拍子抜けしていたのだ。いやはや、見た目はゴツくて悪そうなのだが、なんとまあ虚弱なことか。

 

 

「あれ? なんか弱いアル……」

 

「数だけで質は低いようでござるな……」

 

 

 その男たちの弱さにがっかりしたのか、古菲はひっそり肩を落としていた。また楓も、あのリュージとか言うやつの部下なので、少しはやれる相手だと思ったようだが、考えすぎだったようである。むしろこの程度の相手に、本気モードになってしまった自分が恥ずかしいとさえ、楓は思っていたのだった。

 

 

「チクショー! こいつらは駄目だ! あっちのちっこいのとメガネを狙え!!」

 

「うわー! こっちにきたー!」

 

 

 楓と古菲の強さを見て、男たちは夕映やのどかといった小さな子や、おとなしそうだったり強そうではないハルナや千雨を狙い始めた。弱い相手にとことん強く出るのがチンピラの基本、弱い相手を狙おうと動き出したのだ。

 

 

「ギニィィヤァァー!」

 

「チニャーッ!」

 

 

 しかし、そっちには木乃香が操る前鬼と後鬼が存在した。この男たちはシャーマンではないのでO.S(オーバーソウル)が見えなかったのだ。何か不思議な力でボカスカと吹き飛ばされる男たちは、とてもシュールなものだった。さらにアスナもハリセン型のハマノツルギを振り回し、男たちをぶっ飛ばしていた。まさに大乱闘でスマッシュを受けたかのように、男たちは面白いほどよく飛ばされていたのだった。

 

 

「こっちには前鬼、後鬼がおるんや! みんなには手ー出させへんえ!」

 

「あんたら弱くない……?」

 

 

 木乃香は友人たちには指一本触れさせまいと、結構本気で守りを固めていた。それは表情でもわかるように、普段のほんわかした顔が、キリっと気を引き締めた顔をしていたのだ。だが、その横のアスナはやる気がなさそうに、ハマノツルギを肩に担ぎ、男たちの弱さに拍子抜けしていたのである。そんなボコボコにされる部下の男の一人が、リュージの下へと駆け寄っていた。

 

 

「ボスゥゥ! こいつら強いですぜ……!?」

 

「チッ! テメェら何してやがんだ!? マホー使えや! マホーをよう!!」

 

「魔法……!?」

 

 

 リュージは本当に弱くて役に立たない部下へ、魔法を使えと命じていた。このチンピラ連中の中には魔法が使えるものがいるらしく、そいつらに魔法を使って応戦するよう叫んでいたのだ。また、その魔法という単語を聞いたネギは、まさかと感じたようである。

 

 

「そういやそうだったなぁ……! 俺たちゃ魔法使いだぜ……!」

 

「テメェらのマホーなんぞ、鼻くそ以下じゃねぇか! 魔法使いモドキだろうが!」

 

「ボスゥゥ!? そりゃないでしょうー!?」

 

 

 なんとまあチンピラの癖に魔法が使えるようだ。ただリュージが言うには魔法使いと呼べるほどのものではないらしい。モドキ扱いされたリュージの部下が、その言葉にひどいと感じて泣き叫んでいた。

 

 

「魔法!? 今あいつら魔法って言ったよね!?」

 

「え? そ、そうですか? 私は聞こえなかったです……」

 

 

 その魔法と言う単語に、ハルナは反応して夕映にそれを確認していた。だが夕映は魔法がバレるのを恐れている。それは魔法がバレれば規則どおり記憶を消され、普通の学生に戻らなければならないからだ。だから夕映は、少し焦った表情で、すっとぼけていたのだった。そんなところにリュージの部下の数人が、魔法を使い出したのである。

 

 

「んじゃマホー使わせてもらうぜぇ!! ”風花・武装解除”!!」

 

「クッ! ”無極而太極斬”!!」

 

 

 その魔法はやはりと言うべきか、武装解除だった。と言うのもこのチンピラ魔法使いたちは、基本的に武装解除しか覚えていないのだ。武装解除のみに力を注ぎ、必死に習得したのである。なんというスケベ根性だろうか。もっと別の部分に力を入れるべきだろう。そして武装解除の突風が、夕映たちへと襲い掛かった。しかし、アスナはそこで無極而太極斬を撃ち出し、武装解除を消滅させたのである。

 

 

「なにぃ!? 俺たちのマホーが消えた……!?」

 

「あんたらもそれバッカなのね! この……! ヘンタイども!!」

 

 

 自分たちの魔法が消されたことで、目を見開き驚く部下たち。またアスナは、そんなリュージの部下たちを見て、それしかないのか、やはりヘンタイなのかと怒りの叫びを上げていた。さらにその叫びと共に、アスナはそのリュージの部下たちへハマノツルギを振り払い、なぎ払っていったのである。

 

 

「ギャースッ!!」

 

「くそー! 一斉に武装解除だ!!」

 

 

 仲間たちが次々にアスナの攻撃で吹き飛ばされていく中で、一人の部下が一斉に武装解除をしろと焦りながらも大声で叫んでいた。それを聞いたリュージの部下たちは、初心者用の杖を取り出して魔法を唱え始めたのだ。

 

 

「”風花・武装解除”!!」

 

 

 しかしそこへ、何者かが先に武装解除を唱え終わっていたようである。その呪文を聞いた部下の一人が、誰が唱えたかを探し辺りを見回していたのだった。

 

 

「一斉にっつったろーが!!」

 

「ち、違う! 俺じゃない!」

 

「俺も違う!」

 

「誰だ!?」

 

 

 だが唱えた仲間が見つからなかったのか、命令を聞かなかったことに怒鳴り声を上げていた。その声を聞いた部下たちは、誰もが自分ではないと、一斉に叫びだしたのである。また、その瞬間に武装解除の突風が、なぜかリュージの部下たちへと襲い掛かったのだ。

 

 

「なにぃ!?」

 

「うわああああ!? 俺らが脱げてどーするんだ!?」

 

 

 そしてステテコパンツ一丁となったリュージの部下たちが、焦りと怒りを感じながらもうろたえていた。まさか自分たちが先に脱がされるなど、思っても見なかったのだ。そこでその武装解除を使ったものが、強気の声を大きく上げていた。

 

 

「使ったのは僕だ!」

 

「こ、このクソガキィ!!」

 

「くたばりゃぁ!!」

 

 

 今の武装解除を使ったのは、なんとネギだった。ネギはリュージの部下へと武装解除を放ち、無力化を図ったのである。リュージの部下たちは、ネギの言葉に怒りを感じ、殴りかかろうと飛び出したのだ。

 

 

「甘いアル!」

 

「余所見は禁物でござるよ!?」

 

 

 しかしそこへ古菲と楓が現れ、逆にあっさり返り討ちにあってしまったようだ。古菲の拳法でやはり吹き飛ばされる男や、楓の巨大手裏剣を受けてのた打ち回る男が続出し始めたのだ。その恐ろしい光景を見た男が、恐怖のあまり震え始めていた。

 

 

「こっこ、こいつら強すぎんだろ!?」

 

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

 

 

 ただの中学生と侮っていた。中学生なら簡単に捕まえられると思っていた。そう思っていたと言うのに、現状は中学生にボコボコにされる自分たちという、夢だと思いたい光景だった。完全に逆転されてしまったリュージの部下たちは、恐れおののきしゃがみこんでガタガタ震えだしたのである。

 

 

「テメェら! 大人数でかかってるってのに一人も脱がせねぇのか!? クソの役にもたちゃしねぇ……!」

 

「余所見とはよほど余裕のようだな!」

 

 

 そんな不甲斐ない部下どもを見たリュージは、眉間にしわを寄せながら叱咤を叫んでいた。リュージは刹那に押さえ込まれ、身動きが取れなくなっていたのである。また、刹那は高速で飛び回りながら、発射される弾丸を全て切り捨てていたのだった。

 

 

「チィ! ナメやがって、この剣士!!」

 

「ナメているのはそっちのほうだ! 受けろ!”斬鉄閃”!!」

 

 

 刹那の猛攻に、リュージも痺れを切らせてた。早く刹那を倒して、他の連中を相手にしなくてはならないと考えていたのだ。しかし刹那はリュージが焦りで鈍ったところへ、すかさず奥義を叩き込む。

 

 

「グッァ!? だったらあのガキどもにぶち込んでやるだけだ!!」

 

「やれるものならやってみるんだな!」

 

「あぁやるとも! そうするとも! そして俺の弾丸に撃ちぬかれなぁ!!! ”ビィイイィッグ! マグナァアァムッ!!”」

 

 

 もはや刹那を相手していてはジリ貧だと感じたリュージは、戦いを眺めながらも縮こまる夕映たちへと、その照準を向けたのだ。そしてその凶弾は、夕映たちへと打ち出され、一直線にその場所へと飛び込んで行ったのだ。だが刹那はそれを見ても焦りはせず、リュージへと攻撃すべく、そちらへと移動していた。

 

 

「”二重障壁!”」「”二重障壁!”」

 

 

 そこで夕映とのどかは子供用の杖を使い、障壁を張り巡らせた。二人で二重の障壁を張り、その防御で巨大な弾丸をはじき返したのである。また、その横にはアスナが待機しており、そのはじき返された弾丸を切り刻んだのだった。刹那が安心して攻撃に移れたのも、アスナが側に居たからだったのだ。

 

 

「な、なにぃ!? チビ女のマホーごときで俺の弾丸をォォ!?」

 

「今だ! ”雷鳴剣”!!」

 

「ギイッィィィァァァァ!?」

 

 

 リュージは夕映とのどかが自分の弾丸を受け止めたところを見て、驚嘆して叫んでいた。まさかあんな小さな女の子に、自分の巨大な弾丸を受け止められるなど、考えてなかったからだ。そんな目を見開き驚き叫ぶリュージへと、刹那は奥義を解き放った。それは雷鳴剣であり、雷を剣に纏わせ相手を攻撃する技だった。それを受けたリュージは、雷によるショックで全身が麻痺したようである。

 

 

「こっちにも居るわよ!?」

 

 

 さらにアスナがそこで追撃を繰り出し、リュージが操るビッグ・マグナムを横一直線に一刀両断したのだ。その今のアスナの攻撃で、ビッグ・マグナムは具現化が不可能となったのか、銃身の先端から粒子となって消え始めていた。加えて弾丸が装填された部分が大爆発を起こし、リュージを飲み込んだのだった。

 

 

「ヒィィィハアァァァァァァァッッ!!?」

 

 

 リュージはその爆発で吹き飛ばされ、瓦礫の山に突っ込んで気を失ったようだった。その姿はまさに犬神家状態であり、下半身のみを瓦礫の山から出し、だらしなく股を開いた姿であった。また、リュージの敗北を見たその部下たちは、もう勝ち目がないと考え撤退を始めていたのだ。

 

 

「ぼ、ボスの反応が消えたぁ!?」

 

「ずらかるしかねぇ!!」

 

「に、にげろぉぉ!!」

 

 

 そして部下も情け無く、女子中学生からよろよろと逃げ出していた。なんという醜態だろうか。確かに女子中学生とは思えぬ戦闘力だったが、美少女たちに怯える男たちは、本当に情けないものだった。

 

 

「情けないわね……」

 

「ありがとな、前鬼、後鬼!」

 

「あれ? 私の出番は!?」

 

 

 アスナもそんな男たちを見て、なんと根性の無いことかと考えていた。その横で木乃香は、友人たちを守ってくれた前鬼と後鬼へお礼を言っていたのだ。前鬼と後鬼は礼を言われ、木乃香へペコリと頭を下げた。そんな様子を見ていたさよは、自分の出番が無かったことに少しショックを受けていた。

 

 

「ねぇ! ゆえ吉君、今魔法とか使ったよね? どういうことかね?」

 

「え? そ、それは……」

 

「ど、どうするゆえ?」

 

 

 しかしこちらの方が深刻な状況だった。ハルナは夕映とのどかが魔法を使ったところを見て、それを質問していたのだ。だが魔法は隠蔽するもの、夕映はどうするかを考え頭を抱えて悩んでいた。のどかも同じく、ハルナのことをどうしようかと、必死で考えていたのである。

 

 

「あの銃の化け物、ただ弾を撃つだけでしたね……」

 

「しかしそれだけでも脅威となりえるのは恐ろしいことでござる」

 

「むむ、その銃のお化けを相手したかったアル……」

 

 

 悩んでうんうんうなる夕映をよそに、刹那はあのビッグ・マグナムのことを考えていた。確かに散弾には肝を冷やしたが、それ以外はただの巨大な大砲。宙に浮いていること以外は、大砲と変わらないと感じたようだ。しかしそれでも弾切れが起きない上に連射が可能と言う点では、とても脅威だと楓は考察したのだ。また、古菲はあのビッグ・マグナムと戦ってみたかったと、いまさらながら言葉にしていた。

 

 

「今の、あのバカどもと同じ現象……。そしたらさっきのヤツもアルター使いとか言うやつなのか……?」

 

 

 さらにその横で、千雨は一人腕を組んで考えていた。それはあのビッグ・マグナムとか言う能力のことだった。アレは明らかにカズやや法が操るアルター能力と同じものだった。つまり、あのリュージとか言うチンピラも、カズヤや法と同じ能力の持ち主だったのだろうと予測していたのである。各々で色々話しているところで、ネギはみんなに話しかけた。

 

 

「みなさん、怪我などはありませんか!?」

 

「今のところは大丈夫よ」

 

「はいな! 問題ないえ!」

 

「死んでいることを除けば問題ありません!」

 

 

 ネギはここに居る自分の生徒たちの状態を把握すべく、そのことを質問していた。アスナは特に異常はないようで、力こぶを作るように腕を曲げ、ガッツポーズを見せていた。木乃香も元気そうな笑顔を見せ、特に問題ない様子だった。だがその横でさよが、問題発言をしていたのである。と言うか死んでいることは十分問題な気がしなくもないだろう。

 

 

「身体的には問題ありませんです……」

 

「ハルナに魔法がバレたこと以外は、問題ありません」

 

「ふっふっふっ……、そうかそうか。二人ともこんな面白そうなことを隠してたんだね……!」

 

 

 そして夕映たち図書館島探検部組みは、ハルナに魔法がバレたこと以外は問題ないとしていた。むしろハルナに魔法がバレてしまったことを、かなり問題視していたのだ。まあ、こんな現状では魔法を使わざるを得なかった上に、相手も魔法を使ってきたので仕方ないといえば仕方ないのだが。しかしハルナは木乃香が魔法を知っていることを知らないため、夕映とのどかだけが魔法のことを隠していたと思っているようだった。

 

 

「私も先ほどの傷はこのちゃんに治してもらったので平気です」

 

「なかなか奇怪なものを見れたでござる」

 

「全然問題ないアルヨ!」

 

 

 また刹那はビッグ・マグナムの散弾を受けたが、木乃香の巫力治療で傷は癒えていた。そのため無傷の状態で、刀を握り締めて立っていたのだ。それを見た楓は、魔法以外にも不思議な力があるものだと、少し関心していたようである。古菲もチンピラを蹴散らした程度だったので、怪我などはしておらず、元気にはっきり返事をしていた。

 

 

「だー! 何が問題ないだよ! 問題だらけじゃねーか! どうすんだよこの状況!!」

 

 

 だが誰もが問題がないと言うなか、千雨一人苛立ちながら叫んでいた。この状況のどこが問題ないと言うのかと、怒りを感じていたのだ。そうやって叫び荒れる千雨を少し置いておき、ネギは次の目的をみんなに話し出したのだ。

 

 

「……みなさん、僕はある場所へ移動します。みなさんも一緒についてきてください」

 

「それはどこなのですか?」

 

「あっ、超さんが言ってた場所ね!」

 

 

 それは超が昨日の夜にネギへ話した場所だった。ネギは何かあった時のために、超からその場所へ行くよう言われていたのだ。夕映はそれがどこなのかネギへ訪ね、アスナはそのことを思い出し、ハッとした表情を見せていた。そしてその場所とは、なんと言うかターニングポイントにでもなっているのではないかと、思うほどの場所だった。

 

 

「噴水公園です。あの場所に安全な施設があるそうです。そこへ行こうと思います」

 

「え? 噴水公園ってあの? でもあそこは開けた場所で、建物すらなかったよね?!」

 

「それはわかっています。ですがそこに何かあると超さんから聞いてます」

 

 

 ネギが超から言われた場所はなんと噴水公園だった。しかし、あの場所にはハッキリ言えば噴水以外何も無い。だからハルナはそれをおかしいと感じたようだ。それはネギも承知の上でのことだったようで、とりあえず言われた場所へ行くべきだと考えたのである。

 

 

「ここに居ても何も始まらないです。何かあると言われたのなら、そこへ向かうべきです」

 

「ネギ坊主がそう言うなら、きっと何かあるはずアル」

 

「そうですね……」

 

 

 夕映もどの道この場所に居てもあまり意味が無いと感じたのか、そこへ行けば何かあるだろうと思ったのだ。また古菲も同じ意見だったようで、ネギがそこまで言うのであれば、場所なら何かあるはずだと考えていた。夕映の横ののどかも、同じく移動に賛成のようで、ネギを信じることにしたのである。

 

 

「クソー! 一体どうしてこうなっちまったんだ!? 私が何をしたっていうんだ!?」

 

「千雨ちゃん、おちついて……!」

 

 

 だが千雨はこの現状に焦りと不安を抱いていた。そしてイライラしながら、八つ当たりをするかのように叫んでいたのだ。それを見たアスナが、とりあえず千雨を落ち着かせようと話しかけていた。

 

 

「落ち着けるか! この超人類代表が!」

 

「何とでも言っていいから、まず深呼吸!」

 

「くそー。本気で魔法を習おうか考えるぜ……」

 

 

 しかしアスナから落ち着くよう言われて、ますます怒り出して今の理不尽に思う気持ちを吐き出していた。罵倒なのかは微妙だが、それに近いことをアスナへ向けて大声でそれを浴びせていたのだ。そこでアスナはそんな千雨に対し、怒る訳でもなく、むしろ冷静にその言葉を受け流していた。そして何を言われてもかまわないので、とりあえず落ち着くようにと涼しい表情で言い聞かせた。千雨はアスナにそういわれても、落ち着くことが出来ず、魔法を覚えるかどうかを検討し始めたのである。

 

 

「とりあえず、その場所へ行くでござるよ。話はそれからでも遅くないでござろう」

 

「私もそれに賛成です。何があるかは行ってみないとわからないです」

 

「みなさん、ありがとうございます。では行きましょう……!」

 

 

 また、大抵のクラスメイトの意見は、その噴水公園へ移動するというものだった。まあ、大抵と言っても今の現状が受け入れきれない千雨以外は全員賛成なのだが。ネギはそこで、移動すると生徒たちに宣言すると、千雨以外は頷き移動を開始したのである。そんな千雨はアスナが強引に手を引き、無理やり連れて行くことにしたようだった。

 

 そして、その移動中、街の人と出会うことは無く、廃墟となった麻帆良だけが静かにたたずんでいた。しかし、遠くを見渡せば麻帆良とは思えぬネオンの光や、明らかに賭博場にしか見えない建物も、ちらほら見えるようになっていた。そこにはバイクの集団が走っており、柄の悪い男たちがたもろっていたのだ。本当に一体何があったのか、辺りを見回しながら進んでいたのだ。

 

 

「まさか、これは超さんが言っていた未来の麻帆良……!? だとすれば僕たちは未来に来てしまったことになるけど……」

 

「そのまさかなんてことないわよね……?」

 

 

 ネギはこの暗黒街とかした麻帆良を見て、超が言っていた未来の麻帆良を思い出していた。超は確かに近い未来で麻帆良が滅びると話していたのだ。だからネギはこの麻帆良が、実は未来なのではないかと考え始めていたのだ。だが、それは突拍子なことであり、にわかに信じがたい部分でもあったのである。

 

 また、その横のアスナも、ネギのその独り言を聞いて、まさかそんなことある訳がないだろうと思っていた。しかし、アスナも超から話を聞いていたので、この惨状が超が話した麻帆良と一致する点が多いことを気にしていたのである。

 

 

「ここ、本当に麻帆良なの? まるで地獄へ来たみたいじゃん!?」

 

「でもここから世界樹が見えるです……。麻帆良で間違えないでしょう」

 

「ここが麻帆良なら私たちどうなっちゃうんだろう……」

 

 

 荒廃した都市、瓦礫の山、ここが本当に麻帆良なのだろうか。そんな疑問をハルナは抱いていた。いや、こんな廃墟と化した都市が、麻帆良だと思いたくないのかもしれない。しかし、夕映はそこから見える世界樹で、ここが麻帆良であることをしっかり確認していた。非情にも、この荒廃した都市は麻帆良だったのである。だとすればどうなるのか、そう言った不安をのどかは感じ、怯えていたのだ。

 

 

「クソー……。意味がわかんねぇ……。私の普通の日常はどこへいっちまったんだ……」

 

「薄気味悪いアル……」

 

 

 そんな雰囲気だと言うのに、普段通りグチる千雨。小さく振るえながら、この現状を受け入れたがいものだと考え、早く元に戻ってほしいと考えていたのである。まあ、こんな現状でも普段通りのグチが出るなら、結構余裕があるのかもしれない。その近くで歩く古菲も、この廃墟の雰囲気に薄気味悪さを感じていた。

 

 

「墓地か何かですよ、これじゃ……」

 

「ホンマやなあ……。ゆーれいさんが出てきても違和感ないえ……」

 

 

 さよもこの瓦礫の街を見て、墓場に見せるようだと思っていた。それほどによどんだ空気が、この街に漂っていたのだ。さよのすぐ横に居る木乃香も、幽霊が出ても不思議ではないと考えていたようだ。ただ、そんな二人の表情はこわばっており、この現状に不安を感じているのは間違えなかった。

 

 

「しかし、どうして麻帆良がこんなことに……」

 

「そのビフォアなる男が、何かしたとしか思えないでござる……」

 

 

 そこで麻帆良がこのようになった原因を、刹那は顎に指を当てて考えていた。魔法使いや転生者が守護し鉄壁だった麻帆良が、こうもあっさり廃墟になるはずがないのだ。

 

 また楓はビフォアと言う男が何かを起こし、麻帆良を荒れ果てた都市にしてしまったと考えたようだ。普段のゆるい糸目ではなく、うっすら目を開いて現状をしっかり把握しようとしていたのである。そして出発地点からある程度歩いた場所で、アスナは掲示板らしきものを発見した。しかしそこには、驚くべきものが張られていたのである。

 

 

「ちょっと、これを見て! ネギが賞金首にされてる……!」

 

「ほ、本当だ……!? でもなんで……」

 

 

 それはネギが賞金首となり、捕獲したものに金を出すという張り紙だった。なんということだろうか。ネギはこの麻帆良でお尋ねものにされてしまっていたのである。ネギはその張り紙を見て、どうしてこんなことになっているのか驚きの表情をしていたのだ。そんな時、突然後ろから声が聞こえたのである。それは男の声だった。

 

 

「それはぁ、お前がぁ、ビフォアにはむかうからだぁ。っつってたぁ……!」

 

「だ、誰!?」

 

 

 ネギたちのすぐ背後に、なんとハゲたガリガリにやせたおっさんが立っていたのだ。そしてネギたちに、張り紙の意味をネギへと話したのである。また、アスナや刹那などはその男を警戒し、武器を持って構えたのだった。

 

 

「キシシシシシシシ。お前たちはぁ、常に狙われているのさぁ!」

 

「ま、また変な人が出たー!?」

 

「なんてことなの……!?」

 

「なんかゾンビみたいな人ですね……」

 

 

 不気味な笑い声を発する痩せた男は、ネギたちが狙われ追われていることを教えだした。見た目に反して随分親切、いやおしゃべりな男のようだ。そんなガリガリの男を見たハルナは、またしても変人が現れたことに驚き慌てていた。だがその男の話を聞いて、アスナはまずい状況なのではないかと、考えたようだった。

 

 しかし、さよはその男を見て、ゾンビっぽいと言う感想を述べていた。なんとのんきなことだろうか。死んでいるからこその余裕なのかもしれない。そこで痩せた男が両手を広げ、またしても変な笑いを始めたのだ。

 

 

「キシシシー! お前たちはぁ、すでにぃ、多くのやつらから狙われているのだぁ!」

 

 

 男がそう笑うと、なんと男の後ろから数十人のチンピラっぽい男たちが湧いて出たのだ。その男たちも薄気味悪い笑いをしており、値踏みするかのような目で、彼女たちを眺めていたのである。

 

 

「うわ、またいっぱい人が……!」

 

「こいつらもさっきのヤツらと同じ……!」

 

 

 ネギは増えた男たちを見て、少しピンチなのではと慌てながら考え始めていた。またアスナも、先ほど倒したリュージやその部下と同じような変態の集まりなのではと思い、ハマノツルギを強く握り締めていた。だが、チンピラはこれだけではなかった。なんとネギたちが来た道の方から、続々とやって来ていたのである。

 

 

「後方からもかなりの数がやってくるでござる……」

 

「こいつらは一体どこから来たんだ……!?」

 

「またチンピラアルか?」

 

 

 それを察知した楓は、後方からの多数の敵を警戒していた。刹那はどこからこんな数の敵がやってきたのか考えたが、答えは出なかったようだ。そんな状況にも古菲は、チンピラ相手じゃ面白くないと言う表情をしていたのである。

 

 

「ここはぁ、俺らのシマにぃ、なったのさぁ。もはやぁ、一般人なんてぇ! 誰もいねぇ!」

 

「なんてこと……」

 

 

 痩せた男はこの場所を、自分たちのものだと主張していた。そして、一般人はもう麻帆良に居ないようなことも口に出していたのだ。それを聞いたアスナは、驚きの声を上げていた。まさか一般人が誰も居ないなどと、夢にも思わなかったからである。まさに囲まれて絶体絶命のネギたちだったが、そこで夕映が何かひらめいたようだった。

 

 

「あっ、噴水公園なら水があります。ここに水さえあれば魔法で転移できるのですが……」

 

「水を出す魔法とかないワケ?」

 

「ゆえさん、そんな魔法が使えるんですか!?」

 

 

 目的地が噴水公園ならば、水があるのではないかと夕映は考えた。だから自分が覚えている水の転移魔法(ゲート)で瞬間移動できないかと考えたのだ。だが、ここには水がないのでそれが出来ないと考え、水をどう確保するかを模索していた。

 

 アスナはその提案に、水が出る魔法はないのか夕映へと聞いたのだ。何せ火を灯す魔法や、風を操る魔法があるのだ。水を出す魔法があってもよいはずだと考えたのである。また、ネギは夕映が水の転移魔法(ゲート)が使えることに驚いていた。流石のネギも転移魔法は使えないからである。

 

 

「そ、そういえばそんな魔法を教えてもらったような……」

 

「あっ! 火を灯す魔法や風を起こす魔法と一緒に、水を出す魔法を教えてもらったです!」

 

「そんな魔法もあるんやなぁ……」

 

 

 のどかは水を出す魔法を教えてもらったはずだと、思い出していた。風を操る魔法と同じく、水を出す魔法は基本として教えてもらったものだったからだ。夕映ものどかの言葉を聞いて、それと一緒に教えてもらったことを思い出したようである。その横で木乃香が、いろんな種類の魔法があるものだと関心していたのだった。しかし、そうのんきにしている暇はなさそうでだ。チンピラ集団がすぐそこまで迫ってきていたのだ。

 

 

「オラオラァ! やっちまえぇ!!」

 

「クッ、結構数が多い……!」

 

「どうするでござるか!?」

 

 

 刹那も襲い掛かるチンピラを跳ね除け、近づかれないように必死だった。同じく楓や古菲も、そのチンピラ集団を蹴散らしながら、ネギたちがどするのかをチラチラ見ていたのだ。

 

 

「おれもぉ! いるぞぉお!!」

 

「あっちからも来たアル……!」

 

「囲まれとる……」

 

 

 そこで先ほどから親切に色々教えてくれていた痩せた男も、そのチンピラの加勢に加わろうと動き出していた。さらにその後ろに居る別のチンピラ集団も、それを見て一斉に飛び掛ってきたのだ。流石の古菲もその数には少したじろぎ、まずいかもしれないと考え始めていた。木乃香はひっそりと前鬼、後鬼を呼び出し防衛していたが、囲まれていることに気づきアカンと思っていたようだ。

 

 

「まずいんじゃない? この状況って……」

 

「まずいとか言うレベルじゃねーだろ!」

 

 

 ハルナもチンピラ集団に囲まれていることに、少し焦りを感じたようだ。額に汗をかき、どうしようかと考えていたのだ。だが千雨は、この現状がそれ以上のヤバイと思ったのか、叫びながらテンパっていた。

 

 

「みなさん、水を出す魔法を唱えた後、水溜りに入ってください!」

 

「何をする気でござるか!?」

 

「水を使った転移の魔法です! だからまず水を用意するです!」

 

 

 夕映はとりあえず水の転移魔法を使うため、水呼びの魔法を使うことにしたようだ。そこで水を放出したら、それで出来た水溜りに全員入るようにと説明を入れていた。しかし、魔法を知らぬものには何がなんだかわからない行為だった。そのため楓が何をしたいのかを、夕映へ聞いたのである。だから夕映は、その場で転移の魔法に水が必要なことを叫んで説明したのだ。

 

 

「待ってゆえ、もし噴水に水が無かったら、噴水が壊れてたらどうするの!?」

 

「どうしようもありません……」

 

「それじゃ意味ないんじゃ……」

 

 

 しかし、水の転移魔法(ゲート)には欠点がある。それは水が無いところには転移できないことだった。のどかはもしものことを考えて、それを夕映へと言ったのだ。こんな荒廃した麻帆良なのだから、噴水公園の噴水に水が無くなってるかもしれない。いや、破壊されてすでに無くなっているかもしれないと、のどかは最悪の状況を考えたのだ。それを横から聞いていたハルナも、それでは転移しても意味が無いのではないかと思い、ポツリとそのことをこぼしていた。

 

 

「でもこのままではチンピラに囲まれたままです! 賭けになってしまいますが、それでも試みる価値はあると思います!」

 

 

 夕映は噴水へと転移することを、一つの賭けだとした。それは水が無かったらどうしようもないからである。だが、ここで慌てていても仕方が無いと、夕映は考えたのだ。噴水に水が無くとも、このチンピラに囲まれた状況から脱出出来るなら、それだけでも十分だと思ったのである。

 

 

「……わかりました! 僕が風で周囲に障壁を張ります! そのうちにやってください!」

 

「ならみんな、ネギの近くによって!」

 

 

 またネギも、夕映の今話した作戦に賛同し、自分たちを囲うように発生する風の障壁を使うことにしたようだ。

このチンピラに囲まれた状況は、あまりにも不利だと感じたのだ。このままではジリ貧で、危険な状況だと判断したのである。だからこそ、この状況を脱出出来るだけでもよいと、ネギも夕映と同じ考えにいたったようだった。さらにアスナもそれを聞いて、全員ネギの近くへ集まるように誘導したのだ。だが、そんな時でもチンピラ連中は襲い掛かってくるのである。

 

 

「何をする気だぁ! させねぇ!」

 

「せんてひっしょうぅ!」

 

 

 チンピラ連中はネギたちが何かしようとしているのを察知して、勢いよく襲い掛かったのだ。その数20人以上で、一斉に飛び掛ったチンピラ連中は、もうすぐネギたちへと到達するほどだった。誰もが危ないと感じたその時、ネギの魔法がタイミングよく発動したのである。

 

 

「”風花旋風、風障壁!”」

 

 

 その魔法は周囲に竜巻を発生させ、安全地帯を作り出す魔法だった。ネギたちは荒れ狂う渦巻く風に守られ、ひとまず安心したのである。

 

 

「なんじゃこりゃぁー!」

 

「ヒッ!?」

 

 

 また、外のチンピラ連中はこの竜巻を見て、驚き戸惑っていた。さらに襲い掛かったチンピラが、その風で吹き飛ばされ、遠くへ投げ出されていたのだった。

 

 

「今がチャンスです!」

 

「はい、任せてください!」

 

 

 そして今がチャンスだと、ネギは声を大きくして夕映へと話した。夕映もすでにそれがわかっていたので、詠唱はすでに完成していたのである。そこで夕映が最後の言葉を述べると、子供用の小さな杖の先端から、水が蛇口をひねったかのように飛び出したのである。

 

 

「”水よ”!」

 

「おー、杖から水が出てる!」

 

「マジか……」

 

「凄いアルなー」

 

 

 ハルナはその光景を見て、魔法は便利だと考えていた。あわよくば使ってみたい、面白そうだと思っていたのである。だが、その横の千雨は魔法を見て、クラスメイトが魔法使いとなったことに驚嘆し、現実逃避をしていたのである。古菲も杖から水が出て居るのを見て、なかなか凄い光景だと感じたようだった。

 

 何せ何も無いところから水が出るのだ。その光景は、本当に種も仕掛けも無いマジックショーのようだったのだ。そして、水溜りがここに居る全員が入れるほどの大きさになったのを見た夕映は、自分にしがみつくように全員へと話したのだ。

 

 

「みなさん、私につかまってください! このままいっきに噴水公園までジャンプします!」

 

「ゆえ、お願い!」

 

「魔法とはそんなことまで出来るでござるか。いやはやすごいでござるなぁ」

 

 

 その夕映の言葉に、みんな一斉に夕映へとしがみついたのだ。のどかは夕映に転移を頼み、楓は水の転移魔法を不思議に感じていたのである。

 

 

「本当に大丈夫なのかよ……」

 

「随分人数多いけど……」

 

「大丈夫です……、たぶん……」

 

 

 しかし、千雨はそれでもかなり不安だった。と言うか、水溜まりから噴水へ転移できるのか、本気で信じられなかったのである。のどかも人数が多いことを気にしており、この大人数を一瞬で転移できるか少し心配になったようだ。そこで夕映も、少し自信がなさそうな表情で、たぶんと口に出していたのだった。

 

 

「おい! 今タブンって言わなかったか!?」

 

「い、いいから行きますよ!」

 

 

 千雨は夕映がたぶんと言ったのを聞き逃さなかった。だからさらに不安になり、本当に行けるのかと疑心暗鬼の視線を夕映に送っていたのである。夕映は少し不安になったが、やるしかないと思ったようで魔法に集中を始めていた。

 

 

「頑張って、ゆえちゃん!」

 

「ゆえさん、自分を信じてください」

 

「ゆえ吉! ゴーゴー!」

 

 

 アスナやネギは少し心配そうな表情をしながら、そんな夕映を応援し成功を祈っていた。ただ二人が心配なのは成功するかどうかではなく、夕映がこのプレッシャーに負けないかどうかであった。また、ハルナはなぜかノリノリとなっており、右腕を空に掲げて叫んでいたのである。

 

 

「ゆえならやれるはずやえ!」

 

「そうですよ! 絶対いけます!」

 

「そうアル! 大丈夫アルよ!」

 

 

 木乃香もさよも、ネギたちと同じように夕映を応援していた。こちらは強気な表情で、夕映ならやれると力強く言葉にしていたのだ。そして古菲も、絶対に行けると握りこぶしを作りながら、そう言っていた。

 

 

「ゆえ、いっぱい練習したことを思い出して!」

 

「うむ、普段通り力を抜いてやるでござるよ」

 

 

 さらにのどかも、夕映に練習通りやれば大丈夫だと言っていた。のどかは夕映と共に魔法を修行した仲であり、夕映の頑張りを一番身近で知って居る人物だ。だから夕映がこの魔法を、必死で習得していたのを知って居るのだ。なのでのどかは夕映のことを、一番信用しているのである。

 

 また、楓ものどかの言葉を聞いて、それならいつも通りやればよいと、夕映へ助言していた。そのみんなの応援に答えるべく、夕映は力を入れるのではなく、逆に力を抜いて魔法を使ったのだった。

 

 

「ありがとうみなさん……! それでは行くです!」

 

 

 ネギやここにいるクラスメイトに応援された夕映は、とても嬉しく思っていた。この窮地を抜けれる魔法が自分の魔法と言うところにも喜びを感じていたが、こうやって応援されると俄然やる気が出るというものだ。夕映は今はじめて、魔法を覚えてよかったと実感していた。この水の転移魔法(ゲート)を習得してよかったと、心からそう思っていた。

 

 そして夕映としがみつくクラスメイトやネギは、水の中へと沈み消えていったのである。それは夕映がこの大人数をいっぺんに転移したことだった。夕映はしっかりと転移を成功させたのである。夕映が転移したその瞬間、ネギが使った竜巻の障壁が消え、そこに残った水溜りだけがチンピラ連中を迎えたのだ。

 

 

「風が治まったぞ!!」

 

「やっちま……あれ!?」

 

 

 風がやみ、次こそは追い詰められると思ったチンピラ連中も、この光景には驚きを感じざるを得なかった。なぜならチンピラ連中が見たのは、残された水溜りだけだったからである。あの数の人間が、突然姿を消すなどあるはずがないと、チンピラは思っていたのだ。

 

 

「消えやがった……!?」

 

「水がまいてあるが、奴ら水にでもなっちまったのか!?」

 

「キシー!! にがしたぁ! だとぉ!? 探せぇ! 探すんだぁ!!」

 

 

 あるものは神隠しだと、あるものは人間が水になったと各々の意見を叫んでいた。また、痩せた男は逃げられたと考え、部下のチンピラどもに叫び、探すように命令していたのだ。するとそれを聞いた部下のチンピラは、必死で周りを走り回り消えた少女たちを探し始めたのである。だが、すでにその場にはネギたちは居なかった。いや、すでに遠くへ移動しているので、居るはずが無かったのだ。

 




所詮ただのチンピラ

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