理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ103:転生者ではないオリ敵

お前だったのか……


六十五話 何者

 猫山直一と黒いフードは、下水道の地下深くへと落下していった。そして一本の橋へと着地していたのだ。そこで直一と黒いフードは、またしても対立していたのだ。また、直一はずっと沈黙を貫いていた黒いフードが、先ほどしゃべったことに驚いていたのである。

 

 

「今しゃべったな?」

 

「……ふむ、そろそろいいか」

 

 

 すると黒いフードはそのフードを持ち上げ顔を見せ、正体を明かしたのだ。その正体を見た直一は、口を開けて驚愕していた。その黒いフードの正体は、予想など出来ないものだったからだ。

 

 

「お、お前はアルス!? 何してやがる!!」

 

「何って、そりゃなあ」

 

 

 なんと黒いフードの正体は、マルクに殺されたはずのアルスであった。そしてアルスは悪びれた態度も見せず、その橋の柵に寄りかかってリラックスを始めていたのだ。それを見た直一は、流石に少しイラついたようで、叫びをあげたのである。

 

 

「俺はテメェを探すためにここに来たようなもんなんだぞ!? そりゃないだろう!?」

 

「あー、悪いなー。でも俺も危なかったんでな」

 

 

 しかし、なぜアルスは死ななかったのだろうか。確かにあの時、ミカエルの剣に切り裂かれ、惨死したはずだ。だが、このアルスの特典は無詠唱での魔法支配。何か魔法を使ったとしか思えなかった。

 

 

「ビフォアと報告に出てた白いメガネに挟まれてな、危うく殺されかけたってわけさ」

 

「そりゃ災難だったな……。で?どうやって抜け出した?」

 

「簡単さ、幻覚魔法を使った」

 

 

 幻覚魔法。それは他者の感覚を騙す魔法である。アルスはビフォアの特典の答えを聞いた後、こっそりとそれを使ったのだ。そして、自分を死んだことにして、この下水道を調べていたのだ。また、魔力もある程度回復させたので、直一の攻撃を最大障壁で防いでいたのである。だが、右腕で腹部をさすっており、先ほどの直一の攻撃で、多少ダメージを受けていたようだった。

 

 と、言うのもこのアルス、一応メガロメセンブリアのエージェントでもある。この程度の危機なら、幾度と無く乗り越えてきた猛者なのだ。つまり、この程度で生存することなど、アルスにとっては朝飯前も同然だったのだ。

 

 

「つーか、俺とお前が戦う意味あったのか?」

 

「ああ、ない」

 

 

 そこで直一は、なら今の戦いはなんだったのかと思ったのだ。実際、アルスからは攻撃していなかったが、直一は本気で3発ほど、蹴りをぶちかましたからだ。しかし、直一がそれを聞くと、アルスはないときっぱり無意味だと答えたのだ。

 

 

「はぁ!? お前バカだったのか!?」

 

「いや、下水道内が暗かった上に、黒いフードかぶってたろ?だからよく見えなかっただけだ……」

 

 

 直一にバカだと言われたアルスは、とっさに言い訳を始めていた。それは下水道内の闇と、黒いフードによる視界の狭さで、直一を確認しづらかったと言うものだった。また、アルスは死んだことにして、この下水道をくまなく調べていた。それで直一がやって来たことを、敵に見つかったと勘違いしてしまったのだ。その言い訳を聞いた直一は、そこで額に手をあて、やれやれと首を左右に振っていた。

 

 

「後、直一の最初の蹴りで粉塵が舞ったからな。それで視界が悪くなってよ……」

 

「お前なあ……、半分俺のせいにしてんじゃねえよ……」

 

 

 アルスはさらに、直一の最初の蹴りで発生した土煙で、視界をさえぎられてしまったと言い出したのだ。さりげなく直一も悪いと言うアルスに、直一はさらにあきれて文句を言っていた。そこで直一は、なら声で判断できるだろうと、それをアルスへと指摘したのだ。

 

 

「つーか声で判別しろや……」

 

「下水道の音で、微妙に聞きづらかったのさ……」

 

「むしろ、あの速度での蹴りは俺しかできんだろう……。そこで察するべきじゃねぇのか?」

 

 

 アルスはそれにも言い訳していた。下水の流れ込む音で、声が聞き取れなかったと言い出したのだ。それを聞いた直一は、ならば自分の最速で放つ蹴り技を受けて、察してもよかっただろとうんざりした表情で文句を嘆いていた。また、アルスは今の直一の言葉に、言われて見ればそうであると、少し落ち込んで反省したようだ。

 

 と、アルスは直一に説明したが、実はまだ理由があった。それは直一とあえて敵対することで、自分が麻帆良の魔法使いの敵であると思わせることだった。どこで監視されているかわからない状況だったので、あえてこの手を選んだとも言えるのである。

 

 しかし、直一もまた、黒いフードがアルスだと気がつかなかった。だが、それはアルスが黒いフードに強力な認識阻害をかけていたからである。そのおかげかそのせいか、直一はアルスに気がつかなかったのだ。

 

 

「悪かったって。でもまあ、この先のもんを見れば、そんなことどーでも良くなるかもしれねーぜ?」

 

「この先?橋の先ってことか?」

 

 

 アルスは魔法で精霊の分身を作り出し、下水道をくまなく調べた。そこでこの下水道の地下深くの深部に、なにやらヤバそうなものを見つけたのだ。そのことをアルスは、直一へと教えてたのである。また、それを見れば、今のことがどうでもよくなる可能性があると、崩した態度で直一へと言っていた。そして直一はこの先と聞いて、闇で隠れた橋の奥のことだと考えたようだ。しかし、アルスはそれを否定したのである。

 

 

「いや、そこはダミーだ。本当に重要な部分はさらにこの()にある」

 

「この下だと!?どこまで深いかわからんぞ!?」

 

「終点はあるさ。その終点のずっと奥に、それがあるってわけさ」

 

 

 そのアルスの言葉を聞いて、直一は下を覗き込んでいた。この下は闇に閉ざされ、底が見えぬのである。だがアルスは、底の底の奥に、お目当てのものがあると言ったのだ。直一はならば行くしかないと考え、飛び降りようと考えたのだ。

 

 

「なら急ぐしかねぇな。ハァ!」

 

「元気なこった……。ホッ!」

 

 

 そして二人は柵を飛び越え、さらに地底の底へと落ちて行った。直一は脚部に装着されたアルター、ラディカル・グッドスピードを使い壁に足をめり込ませ、急な落下を防いでいた。また、アルスは浮遊術で宙を浮き、ゆっくりと底へと下がって行くのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ネギは図書館島の探検大会を終えて、少し疲れたのでベンチに座り休憩していた。この麻帆良祭、周りのテンションがかなり高いので、気疲れしてしまったのだろう。また、これからまだ多くの場所を回る予定があるネギは、ここで休んでおかないとつらいと考えたのだ。だが、そこへ一人の男性がやって来た。それはあのタカミチであった。

 

 

「やあ、ネギ君」

 

「タカミチさん!」

 

 

 タカミチは武道会の試合で、アスナからネギに謝るように叱られていた。だからネギに一度正面から向かい合い、今まで過剰に期待してきたことを謝ろうと思ったのだ。そう言う訳で、ビフォア対策により忙しい中、合間をぬってネギに会いに来たのである。

 

 

「今の時間、少し大丈夫かい?」

 

「はい、大丈夫です」

 

 

 そこでネギとタカミチは、近くにあったベンチへと腰かけた。ネギは何か話しでもあるのだろうかと思い、タカミチが話し出すのを待っていた。そしてタカミチは沈痛な表情で、ネギへと話しかけたのだ。

 

 

「僕はネギ君に謝らなくちゃいけない」

 

「え? 一体何を……?」

 

 

 タカミチはネギとナギを重ねて見ていた部分があることを、痛感していた。また、そのせいでネギに、ナギのようになってほしいと、強く望んでしまっていたのだ。だからこそを、ネギへと話し、謝ろうとしていたのだ。だが、ネギはタカミチに謝られることがないと思っているので、一体どういうことなのかわかっていなかった。

 

 

「……ネギ君、僕は君に対して、自分の気持ちを押し付けてまっていたんだ」

 

「それはどういうことですか……?」

 

 

 そしてその気持ちを、知らず知らずにネギへ押し付けていた。そうタカミチは、それを実感したのである。それをタカミチは、ネギへと正直に話し始めたのだ。しかし、ネギはそういう感覚が無かったので、やはり疑問しか浮かばなかったようだ。

 

 

「僕はネギ君に、ナギのようになってほしいと、そう考えてきた……」

 

「僕が、父さんのように?」

 

「うん。でも今日のアスナ君との試合で、彼女にそれを怒られちゃってね」

 

 

 ネギはタカミチの今の話を聞いて、不思議そうな表情でタカミチを見ていた。あの父親ナギと同じように、そうなってほしいと言われたからだ。だが、タカミチはそれのことでアスナに叱られたと、苦笑いをしながらネギへと語りかけていた。

 

 

「アスナ君に怒られて、それは確かに大人として恥ずかしいことだと気がついたんだ……」

 

「僕は別にそんな……」

 

 

 また、それは大人としては最低だったと、タカミチは反省したのだ。さらに言えば、アスナに言われないと自覚できなかった自分を、とても恥じていた。なんてカッコが悪い大人なんだろうと、そう思っていたのである。

 

 しかしネギは、そう言われても実感がないので、特に気にはしていなかった。確かに自分に向けられる視線に、多少なりと期待がこめられているのを感じてはいたと、ネギは思った。それでもそのことで、特にどうこう考えたことがなかったので、まったく気にしていなかったのである。そこでタカミチは立ち上がり、ネギの前へと出て向かい合ったのだ。

 

 

「……いいんだよ。すまなかったね……」

 

「え、いえ、僕は特に気にすることなんかありません!」

 

 

 なんとタカミチは、ネギへと謝罪し深々と頭を下げていた。それを見て驚いたネギは、気にする必要はないと、慌てながらに言葉にしたのだ。また、タカミチは今のネギの言葉で、顔をあげてネギの顔を見た。その表情はとても渋く複雑な気持ちを表していたのだった。

 

 

「……そうかい?」

 

「僕はタカミチさんによくしてもらっています。それに何かを強制するようなことはされた覚えはありませんから」

 

 

 タカミチはネギがあっさりと気にしないでほしいと言ったことに、少し戸惑いを感じていた。こうも簡単に許されるようなことではないと、真剣に悩んでいたからだ。だがネギはそこで、その理由をタカミチへと語ったのだ。その理由は、ネギがタカミチからそうするように強要されたことが無かったというものであった。

 

 

「しかしだね……」

 

「それに、僕も今日のタカミチさんとの戦いで、強くなりたいと思えるようになりました」

 

「ネギ君……」

 

 

 しかし、タカミチはそれでも納得できなかった。こんなにあっさりと許されたくなかったのだ。そんなタカミチへ、ネギは今日の出来事での心境の変化を、タカミチへと話したのである。それはタカミチに敗北したことで、強くなりたいと思ったと言うことだった。

 

 確かにネギは、悪魔の襲撃の後、自分の生徒を守りきれなかったことを悔やみ、強くなろうと思った。だが、今回はそう言った義務感や使命感などではなく、自らの意思で本気で強くなりたいと願うようになったのだ。また、そこでさらにネギは笑みを浮かべ、タカミチへと優しく語りかけた。

 

 

「それに、タカミチさんと僕は友達じゃないですか」

 

「……ははは、そうだったね。僕とネギ君は、友達だったね」

 

「だからタカミチさんが気にすることなんて、何も無いんです」

 

 

 それは自分とタカミチは友人だと、そうネギは微笑みながら言ったのだ。タカミチはそのネギの言葉に、一瞬だが目を見開いていた。ああ、そうだった。まだネギが小さい時、一度ネギが住んでいた村へ行ったんだった。そこで、ネギと自分は友人になったんだった。そうタカミチは感慨深く思っていた。そして、こんな自分を友人だと慕ってくれているネギに、タカミチは感動していたのだ。

 

 

「……そうか、ありがとうネギ君……」

 

「いえ、わかってもらえればそれでいいんです」

 

 

 タカミチはネギの優しさに触れ、ネギへと微笑み返していた。また、タカミチはそこでネギへ、許してくれたことに、そして友人だと言ってくれたことに感謝を述べたていた。それを見たネギも、気にしなくても良いことがわかってくれたことがわかり、嬉しく思っていた。

 

 そんなネギは、タカミチへと右手を差し伸べていた。それは握手の合図だった。それは友人として、これからもよろしくという意思表示だったのである。タカミチはそのネギの行動を見て驚きながらも、その右手を握り締めた。

 

 これで二人は本当の友人となったのだろう。いや、それはタカミチがそう感じていただけかもしれない。なぜならネギは、最初からタカミチと友人だと思っていたからだ。そしてネギは、先ほどの会話を思い出し、それをタカミチへと話していた。

 

 

「タカミチさんは、僕が父さんのようになってほしいって言いましたよね?」

 

「ああ、うん。前まではそう考えていたんだ」

 

 

 そのネギの話を聞いて、前まではそう考えていたと、タカミチは話していた。だが、ネギが聞きたかったことは、それではなかった。ネギは今の話を聞いて、タカミチが本当に自分の父を尊敬していたのだと、改めて知ったのだ。だから、それをタカミチへと、聞いたのである。

 

 

「つまり、タカミチさんは父さんのことを、本当に尊敬してたんですね」

 

「うん、前にも言ったけど、彼らは僕の憧れさ……」

 

 

 その質問を聞いたタカミチは、空を眺めながらそれの答えを述べていた。まるで空ではなく、もっと遠くを見つめるように、そう話していたのだ。紅き翼のメンバーたちを思い出しながら、ナギのことを思い出しながら。そしてタカミチは、どうして彼らに憧れたかを、ゆっくりとネギへと語りかけていた。

 

 

…… …… ……

 

 

 まほら武道会が終わり、再び麻帆良祭へと戻ってきた数多と焔は、適当に歩いていた。そこで数多は、行く気の無かった大会へ連れ出したことを、焔に謝っていたのだ。

 

 

「すまねーなー、大会につき合わせちまってよ」

 

「別に悪くは無かったし、兄さんが気にするほどでもないぞ?」

 

 

 だが焔は、あの大会のレベルが高かったので、そこそこ満足していたようだ。また、友人を応援できたのが大きかったらしい。それを聞いた数多は、それはよかったという感じで、安堵の笑みを浮かべていた。

 

 

「しかし派手な大会だったなー。あれなら俺が参加しても大丈夫だったぜ……」

 

「そういえば兄さんは、なぜ参加しなかった?」

 

 

 しかし、そこで大会を思い出した数多は、あれほどのレベルならば参加すればよかったと、いまさらながら後悔していた。そこで焔は、なぜ数多が大会へ出場しなかったのか、その疑問を数多へと打ち明けていた。何せこの数多、修行バカで強くなるために必死なのだ。あのような大会に、出たくないはずが無いと思っていたのである。

 

 

「ん? ああ、俺の技は炎が派手だからなー。ちっと目立ちすぎると思ったワケ」

 

「ふむ、確かに……」

 

 

 そこで数多は焔へ、その理由を答えていた。それは自分の技が炎を操るものであり、いちいち派手な攻撃となると言う理由だった。というのも、数多の技は炎を纏った攻撃が多く、目を引くものばかりだなのである。それを聞いた焔は、指を顎に当てながら頷き、納得した様子を見せていた。

 

 

「でもよー、どいつもこいつもすげー派手だったから、気にしすぎて損した気分だぜ……」

 

「アスナも刹那も、派手な技を使い放題していたしな……」

 

 

 だが、今回のまほら武道会は色々はっちゃけてたのか、誰もが派手な技ばかり使っていた。タカミチを筆頭に、アスナも刹那も大技を披露しており、超人決戦状態となっていたのだ。そんな目立ちまくる技が並ぶ大会なら、炎なんて霞むだろと数多は考え、出なかったことを損したと思っていたのである。また焔も、後悔でうなだれながら歩く数多の言葉を聞いて、あいつらやりたい放題だったと、改めて考えていた。

 

 

「あークソ! あれなら参加すりゃよかった! 失敗したぜ!」

 

「ま、まあ、見物出来ただけでも、よしとした方がいいのでは……?」

 

 

 そこで数多は、出場しなかったことを悔いて、顔を上に向けて叫んでいた。焔はその姿を見て、周りの視線を気にしたのかやや恥ずかしそうにしていた。そして、それでも大会が見れただけでも十分だと、数多へと話したのだ。というか、そもそも最初は大会が見れるか否かの話だったのである。そう焔が思うのも当然のことだった。

 

 

「そうだな、そうするか!」

 

「……もう元気になったんだな……」

 

 

 なんとまあこの数多、その焔の言葉で簡単に復活したではないか。あの派手でレベルの高い大会が見れただけでよしと、数多はそうしたようである。そんな簡単に機嫌を直す数多を見た焔は、あきれながら冷ややかな視線を送っていた。

 

 

「常に熱血してねーと、いざというとき動けねぇからな!」

 

「今のに熱血の要素があったのか……!?」

 

 

 さらに数多は今の焔の一言を聞いて、常に熱血でなければと語り始めたのだ。しかし、今の部分にまったくもって熱血要素がなかったので、焔は本気で意味がわからんと思ったようだ。そんな風に数多にあきれていた焔だが、兄の現状のことでふとした疑問がわきあがったのである。

 

 

「そういえば、兄さんはこっちに来て、結構力をもてあましてるんじゃないか?」

 

「まーなー。親父もいねーし、一人修行するしかねーのが現状よ……」

 

 

 そう、数多はこの麻帆良へやって来てから、あまり強い相手と戦っていなかった。さらに言えば、父親とのガチ修行のようなことが出来ず、一人でひっそり山篭りする程度に収まっていたのだ。それゆえ数多が力をもてあまし、悩んでいるのではと焔は考えたようだった。そしてそれは正解だったようで、数多の悩みの種の一つだったようである。

 

 

「つまり相手がいないと……」

 

「まあな! そういうことだな」

 

 

 そして数多の最大の悩みは、そう言った修行の時、組み手や模擬戦をしてくれる相手がいないことだった。それを数多の話を聞いて察した焔は、そのことを数多へと指摘したのだ。すると数多は、その質問にYESと答えたのである。それならばと焔は、友人たるアスナなどに頼んでみればよいのではと、数多に提案を持ちかけたのだ。

 

 

「ならば、アスナたちと戦えばいいと思うのだが?」

 

「確かにそれはよさそうだが……なあ……」

 

「何か問題でも?」

 

 

 しかし、その提案に数多は、難しい顔をして渋っていた。だが、焔は実力を考えれば、さほど問題がないと思ったようで、どうして数多が渋っているのかがわからなかった。そこで、数多はその答えを、悩みながら焔へと話した。

 

 

「いやね、年下の、焔とおんなじ年の子と張り合うのもなんかなーって思うのよ」

 

「む? 年下が悪いのか?」

 

「いや、そーじゃねーんだがよー」

 

 

 その答えは焔ほどの年齢の少女と模擬戦したりすることに、気が乗らないというものだった。というのも、この数多はアスナたちよりも二つほど年齢が高い。つまり自分よりも年下の、しかも女の子と好き好んで戦おうと言うのは気が引けるようだった。

 

 

「女の子と戦うのってのは、あまり得意じゃねーからさ」

 

「女性が殴れないというのか?」

 

「んー、アレだ。敵対してんなら容赦しねーが、それ以外だと気が引けるのさ」

 

 

 そこで焔は、数多は女が殴れないフェミニストなのかと聞いていた。しかし数多は、そうではないと答えていた。相手が敵対者だと言うのなら、容赦はしないと言ったのだ。だが、それ以外ならば、たとえ修行の一環でさえも、そういうことは極力控えたいと答えたのである。まあ、数多も単純に男子として、女子に怪我を負わせたくはないのだ。

 

 

「しかしそれでは、ずっと一人で修行するしかないじゃないか」

 

「そーだがよー。気分は重要なんだぜ?」

 

「そ、そういうものなのか?」

 

 

 その数多の答えに、ならば現状維持して一人寂しく修行するしかないと、焔は言葉にしていた。それを聞いた数多は、それでも少女と戦うならその方が気分が良いと話したのだ。そして、その気分こそがモチベーションとして最も重要だと、焔へと説明していた。そんな数多の説明に、焔は半分疑問を浮かべ、微妙に納得できていなかったようだ。何せアスナや刹那はあれほど強いのだ。少しぐらいなら気にすることも無いと思っていたのである。

 

 

「へっ、まーな。つーか時間大丈夫なのかよ」

 

「ああ、そう言えばもうすぐ学祭の当番だったか」

 

 

 その話が終わったところで、数多はふと思い出したかのように、時間のことを焔へと話した。それは焔がクラスの催しの当番だと言うことであった。そして数多のその言葉に、焔もそれを思い出したようであった。

 

 

「まあ、頑張って来いよ!」

 

「ああ、なんとかやってくるさ」

 

 

 そこで焔も自分のクラスへと戻ろうと、そちらの方へと歩き出した。それを数多は見送りながら、手を振って応援していたのだ。また、焔も振り返りながら、同じく手を振って数多へと別れを告げていた。

 

 

「焔のやつも随分と変わったな……」

 

 

 そして焔が見えなくなったところで、数多は一人ごちっていた。あの焔が随分元気に、普通の女子中学生をやって居ることに、変わったなーと思っていたのだ。昔は本当に無愛想で、何かを恨まずにはいられない。そんな危なっかしい少女だった。そんな焔が今では友人を作り、この麻帆良に溶け込んでいることに、数多は懐かしさと嬉しさを感じていたのだ。だがそんな時に、数多は強い視線を感じたのである。

 

 

「んで、人が感傷に浸ってるところを見ているのは誰だ?」

 

 

 そこで数多はその視線の相手へと、振り向かずに話しかけたのだ。すると、数秒後にその相手から返事が返ってきたのである。

 

 

「……ばれていたか……」

 

「ハッ、おめーの鋭く冷たい視線、バレねーと思ったのか?」

 

 

 相手は自分の隠れていたことがバレたと驚いた様子を見せていた。だが、本気で驚いた訳ではなさそうで、その言葉にかなり余裕が感じられたのだ。そして、数多もそんなに見つけりゃバレるだろうと、その相手を挑発していた。

 

 

「で、やんのかおめーさんよ?」

 

「そういう目的ではなかったが、少し遊ぼうか……」

 

 

 そこで出てきたその相手に、数多は向かい合っていた。また、数多はすでに臨戦態勢へと入っており、相手の出方を待っていたのだ。その相手も、数多の挑発的な態度に、少し乗ってやろうと思ったようだ。

 

 

「やっぱやるって訳か!」

 

「ああ、その通りだ。だからさっさとかかって来い……」

 

 

 そして相手は数多と戦う気になったようだ。数多は最初からこの相手が、戦う気だったと考え、いつでも攻撃できるようにしておいたのである。そんな数多を見た相手も、その数多へと攻撃してくるように挑発したのである。

 

 

「先手譲ってくれんのかよ! だったら食らえ!!」

 

「ほう、”炎”か。なかなか面白くなってきたな……」

 

 

 その挑発に乗るように、数多は炎を腕に纏い、殴りかかったのだ。それを見た相手は、炎ということに興味を示し、薄ら笑いを浮かべていた。そこで相手も蹴りを放ち、その数多の拳を受け止めていたのだ。

 

 




やっぱり死んでなかった

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