しかし、カギって友達がカモぐらいしかいなかった
ビフォアを追って下水道へと進入した猫山直一は、謎の敵と戦っていた。黒いフードで全身を隠した人物。その謎の黒いフードと戦闘していたのだ。
「テメェ、一体何もんだ!?」
「…………」
「どうしても答えねぇつもりか!!」
しかしこの黒いフード、先ほどから何もしゃべらないのだ。何を聞いても、攻撃してもだんまりだったのである。それを不気味に感じながらも、直一は追撃を繰り出す。
「ならばこいつはどうだ!? ”壊滅のセカンドブリット”オォ!!」
すさまじい速度から放たれる蹴り。それが黒いフードへと突き刺さる。だが、それを受けても黒いフードにはダメージがまったくないようであった。
「こいつは一体……!?」
直一もそれを見て驚いていた。何せ今の蹴りは直撃したはずだからだ。その衝撃は岩をも簡単に砕くものだ。そう簡単に防がれるはずがないのである。いや、確かに完全に防ぎきれてはいなかったようだ。今の直一の攻撃で、黒いフードは下水道の終点へと飛び出したのだ。そこは崖となっており、底は闇で染まった奈落であった。
「何……?」
それを見た直一は、この黒いフードが逃げようとしているのかと考えた。また、それ以外にも、誘っている可能性も考慮し、追撃を出すか迷っていた。しかし、ここで逃がす手はないと、直一はさらなる追撃を黒いフードへと仕掛けたのだ。
「しょうがねぇ、その誘いに乗ってやる! ”ヒール・アンド・トゥ”ーッ!!」
直一はその場で飛び、壁へと一度蹴りを放ち、その壁を使ってさらなる加速を行った。そして、その加速を利用して、落下していく黒いフードへととび蹴りを放ったのだ。それが下水道の奈落へと落下する黒いフードへと炸裂し、爆発音と間違えるほどの衝突の音が発生した。さらに、そのすさまじい衝撃で、黒いフードと直一は、さらに加速して落下して行ったのだ。
「どこまで行きたいかは知らないが、このまま落下してもらうか!」
「……それでいい……」
「なに……?」
すると今の攻撃で、初めて黒いフードは言葉を発したのだ。それは直一の今の行動を肯定する言葉だった。それを聞いた直一も、驚いた様子を見せていた。そしてそのまま二人は急速落下し、一本の橋へと墜落していったのだ。
…… …… ……
カギは今どこで何をして居るのだろうか。確かにまほら武道会は、上空から眺めていた。しかし、それが終わった後、どこへ行ったというのだろうか。その答えは、図書館島にあったのである。
そしてカギは図書館島へとやって来ていた。なぜかと言うと麻帆良祭の初日に、夕映に誘われたからである。また、その夕映が活動する図書館探検部で、探検大会が行われている。つまり、それの参加のために、カギはそこへと足を運んだのだ。
「ヒャッハー!! 我が世の春がきたぁぁ!!!」
この前は燃え尽きていてテンションダウンしていたカギだったが、今は復活したようだ。いや、初従者を得てあのテンションの低さは逆におかしかったのだが。そして今は普段どおり、テンションが上がって叫びだしていた。本当に危ない人だった。
「まさかゆえが従者になってくれるなんて、夢にも思わなかったぜ!! ついに来たか、俺の時代!!」
「この調子でどんどん従者を集めよーぜ!」
はやり燃え尽きたままの方がよかったようだ。完全に舞い上がっているカギは、とてもうるさいのである。その頭の上でカモミールもカギを煽り、従者を増やそうと叫んでいた。あの時は自分の契約魔方陣で仮契約できなかったので、次こそはそうしたいと思っているのだ。
「まあそれは後々ってことで。今はとりあえず、図書館の探検大会だぜー!」
「後々ぃぃ!? 今の兄貴ならすぐに従者なんてできちまうぜー!!?」
「現実を見ろよー。それならすでに多くの従者をはべらせてるぜ!!」
そしてるんるん気分でスキップしながら、図書館島へ移動するカギ。そのカギの後々と言う言葉を聞いて、カモミールは今のカギなら従者を集め放題だと言い出したのだ。しかし、流石にカギは、そのカモミールの言葉を否定した。それが出来たなら、すでに従者ハーレムになっていると思ったからだ。
「最近の兄貴はみょーに謙虚っすなー。昔のがっつきっぷりはどこへいっちまったんだ!?」
「がっつく醜さを知ったからさ、キリ!」
「ヒューっ」
そこでカモミールは、昔のカギと今のカギを比較し、何か謙虚になったと思ったようだ。というのも、あの銀髪イケメンオッドアイのクソったれが、ニコぽを使って自分の生徒を手篭めにしていたのだ。それを見て流石にドン引きしたカギは、そういうことの醜さを知ったのである。そして、それを気取った風に言うカギに、カモミールも握手していた。こいつら本当に乗りだけは最高だった。
また、カギは図書館島へと到着したようだ。そこで夕映を探すべく、とりあえず辺りを見回しつつ、歩いていたのである。
「ついたついた。さてさて、ゆえはどこにおるじゃろのう」
「におうぜー! こっちだぜー!!」
カモミールはそこで、夕映の匂いを感じて、その方向を腕を刺していた。それを見たカギは、微妙に引きつった表情で、頭に乗るカモミールを見上げていた。
「え?! それ引くわー」
「ちょ!? 別に匂いフェチじゃねーっすよ!?」
カモミールは地味に鼻が利く。まあオコジョだし、きっと人間よりもずっと鼻が優れているのだろう。それを踏まえてカモミールは、カギへ別に匂いフェチではないと否定したのだ。しかし、カギは知っている。このカモミールの鼻のよさを知っているのだ。
「え? でも匂いで数十キロ離れた相手もわかっちゃうんでしょ? 私知ってるんだから!」
「ウソ!? 俺っちそんなすげーの!? マジ!?」
カギは魔法世界でのカモミールの活躍を思い出していた。それは相手のパンツの匂いで、その相手の位置を特定するというものだった。また、その鼻のよさは、あのジャック・ラカンが自分よりも精度が高いと言わしめるほどのものだったのだ。だがそれを踏まえても、やはりパンツの匂いをかぐのには、カギも抵抗があったようだ。
「うん、すげーわ。けどドン引きだけどなー!」
「ひでーぜ兄貴!!?」
そこで冗談っぽく引くわーと言うカギに、カモミールもひでーわーと叫んでいた。そんなバカなやり取りをして居ると、そのカモミールが示した方向に夕映を発見した。さらに、そこには夕映だけではなく、図書館探検部の仲間である、のどかや木乃香、そして早乙女ハルナも居たのである。実はさよも居るのだが、今は木乃香が持つ位牌の中で休憩しているようだ。
その四人はこの探検大会用の特別衣装を身にまとっており、係員だと一目でわかる姿をしていた。基本的には、黒のタートルネックにノースリーブの服装で、その上にブレザーを好みで羽織るような形であった。また、係員としてわかるように、上腕に腕章を、頭にはベレー帽つけていた。しかしなぜか木乃香だけは、猫耳をつけていたのである。
「あ、カギ先生。来てくれたのですね」
「あったりめーよー!! 来ない方がおかしーぜ!!」
また、その先を見るとネギもやって来ていたようだ。ネギは千雨とエヴァンジェリンとの話の後、この図書館島へとやってきたようである。
そのネギはのどかと楽しそうに会話していたのである。カギはネギやのどかの邪魔をしないように、ある程度離れた場所に立つことにした。しかし、ハルナはそれに興味があるようで、ニヤニヤとそれを眺めていたのだ。
「いやあ、あの二人ラブいですなあー」
「クッ……我が弟ながらやりおる。流石主人公、流石
ネギとのどかの仲を見て、ラブだラブだと言っているのは、やはりハルナである。また、そこで自分の弟ながら、ようモテるわいと思うカギだった。そんな中、カモミールは会話に参加したそうに、カギを見つめていた。だが、このハルナはまだ魔法を知らないみたいなので、黙って見ているしかなかったのだ。
実はこの数分前、ハルナに魔法がばれそうになっていた。勘がよいハルナは、あのまほら武道会の試合を見て、魔法があるのではないかと感づいたのだ。それを聞いて焦ったのが残りの三人である。
木乃香はシャーマンだが一応魔法のことを教えられており、隠蔽することも知っていた。さらに夕映とのどかは魔法がバレると、ギガントとの規則で記憶を消されてしまうので、顔を青くして慌てていたのだ。そこで木乃香がアレは幽霊ってやつの仕業なんだと言ってごまかし、難を逃れたのである。あんなびっくりドッキリトリック大会が、幽霊のせいだと聞いたさよは、地味にショックを受けていたが。
そして、とりあえず探検大会へと足を運ぶその五人と一匹。この探検大会とは、図書館島を練り歩くツアーなのだろう。というのも、この図書館島、随分と有名な観光スポットらしき場所があるのだ。そこで、その一つである北端大絶壁である。巨大な本棚から、水が流れ落ちて滝となっている謎の名所なのだ。カギはその場所の解説を聞きながらも、その周りを眺めていた。
「これ本とか大丈夫なのかよ……。ぱねぇってレベル超えてね?」
「カギ先生が言えたことなのでしょうか……」
カギはその巨大な本棚の滝を見て、そうツッコミを入れていた。しかし、そこで夕映は、そのカギへツッコミを入れたのだ。と言うかカギ、魔法使いの癖に何を言っているのだと、夕映はそう思ったのである。そしてカギは、少し前を並んで歩くネギとのどかを見て、いい雰囲気だと思ったようだ。
「なあおい、あいつらデキてんの?」
「カギ君もそう思う!? いいカンジだよね、あの二人!」
そう感想をカギが述べると、ハルナもそれに同意していた。遠くから見れば、明らかに彼氏彼女のような関係に見えるから仕方が無いだろう。その二人を見て、木乃香はほんの少し羨ましそうにしていた。
「ネギ君ものどかも嬉しそうやなー」
「おやおや、このかも羨ましそうに見てどうしたのかね?」
「んー、少しなー」
ネギとのどかを羨ましそうに見る木乃香へ、ハルナが話しかけていた。しかし、ハルナは木乃香が何を羨ましがっているかなど、すでにお見通しなのである。
そこで木乃香は覇王のことを少しだけ考えていた。この場に覇王がいればよいのにと、そう思っていたのだ。だが、覇王は妙に多忙らしく、今日も時間が合わなかったのである。まほら武道会で話したりしたけど、やはり麻帆良祭を一緒に回ってみたいという気持ちが強いのだ。
「ふふーん、あの彼氏のこと考えてたのかなー?」
「ほえ、わかるん?」
「いや、バレバレなんだけど?」
ハルナが言う彼氏とは、明らかに覇王のことだった。というのも、木乃香が覇王とラブい関係だということは、3-A共通の話題だからだ。そして木乃香は、ハルナがなぜか今自分が覇王のことを考えているのがわかって、少しだけ驚いていた。
いや、わからないほうがおかしいだろう。そのぐらい、木乃香は恋する乙女な表情をしていたのである。しかし、ハルナは木乃香をイジろうとは思っていないようだ。むしろ木乃香がその辺りに吹っ切れすぎていて、イジり甲斐がないと考えて居るのだ。だがそこで木乃香は、ハルナに覇王が彼氏と言われたことを、否定したのである。
「せやけど、まだ彼氏やあらへんのよ」
「え!? アレで彼氏じゃないってどー言うことよー!?」
明らかに付き合っているような態度で、木乃香が覇王に接している。そのはずなのに、彼氏ではないと木乃香は申すのだ。それを聞いたハルナは、少し頭が混乱し始めた。彼氏とは、付き合うとは一体何なんだと考え始めるぐらいだった。
「んー、ウチら約束しとるんよ。その約束を果たさんと、そー言ー関係にならんことにしとるんや」
「何それー!? ただの生殺しじゃない!!」
確かに他人から見れば、それは完全に生殺しであった。もう付き合っても良いぐらい、二人の仲は近いはずなのだ。だが、それでも約束のためにそうしないなど、なんとまあ律儀と言うか純情と言うか。しかし、そこで木乃香は少しだけその言葉に訂正を入れていた。
「ううん。そーやないんよ。それはウチが約束したんやから」
「うむむ……、なかなか面白い彼氏なんだねえ……」
「ふふ、ちょっとズレとる人やけど、すごーええ人やえ?」
そう、この約束は木乃香自身がしたものだ。だからしっかりと守りたいと思っているのだ。そこでハルナは、そんな約束をする彼氏は、面白いというかヘンテコなヤツだなと考えていた。また、そのハルナの面白いという意見に、木乃香は反応して笑顔を見せていた。そして木乃香は、覇王が普通の人とは少し変わっているが、とてもいい人、優しい人だとハルナへ伝えていた。
「さりげなくのろけてるよ、この娘!!」
「えへへ。ウチもあーやって一緒に並んで歩きたいわー」
「このかのラブは濃厚すぎるわ! だがそれがいい」
そう笑顔で答える木乃香を見てハルナは、この娘さりげなくのろけてやがると思ったようだ。そんなハルナをよそに、木乃香は再び前で並んで歩くネギとのどかを眺めていた。それを見て木乃香も、あんな感じに覇王と並んで歩けたら、どんなに幸せかと考えていたのだ。また、ハルナはそんな木乃香を見て、すさまじいラブ力を感じていた。しかし、それでこそ木乃香だなと思いニヤリと笑っていた。
そして、その木乃香たちの先を歩くネギとのどかも、いい雰囲気を作り出しながら会話をしていた。ネギは図書館島の奥地まで行ったことがあるのだが、それでもいつ見てもすごい場所だと眺めながら思っていた。
「図書館島はいつ見てもすごいですね」
「そうですねー。でも、どういう意図でこんな大きなものを作ったんでしょうね?」
「うーん、何か大きな意味があるんでしょうか」
のどかはそのネギの話で、夕映から聞いた言葉を思い出していた。この麻帆良は魔法使いが築き上げた街だと。なら、この図書館島はどういった意図があって建造されたのか、少し気になったようだ。しかし、ネギもそれを知るよしもなく、首をかしげることしか出来なかった。また、そこでのどかはまほら武道会で、ネギがタカミチとの戦いにより負傷していることを思い出したのだ。
「あれ、ネギ先生。そういえばあの大会で怪我してませんでした?」
「はい。でもしっかり手当てしてもらったから、大丈夫だと思います」
「そうですか」
そののどかの質問に、ネギは腕をさすりながら、大丈夫だと答えたのだ。手当ても行き届いており、少し痛いぐらいでなんともないと思っているからである。のどかはネギの答えに納得したようだった。しかしのどかは、それでも少し心配そうな眼でネギを眺めていた。また、そんな心配そうにするのどかに、ネギは自分で治療魔法が使えることを、ほのめかしたのである。
「それに、自分である程度治療できますから、気にすることないですよ」
「そ、それなら、私が治療してあげましょうか……?」
「え? のどかさんがですか!?」
ネギのその言葉を聞いたのどかは、ならば自分が魔法で治療するとネギへ進言していた。そもそものどかは、治療魔法を先行して覚えていた。だから治療魔法は、ある程度得意なのである。自分がネギを治療できるのなら、そうしたいと思うのは、ネギが好きなのどかとしては当然のことだった。
……その会話で、二人はさりげなく”魔法”という単語を使っていなかった。それは魔法バレを防ぐためなので、そこに気を使っているのである。
「は、はい。私、頑張って治癒が出来るようにしましたので……」
「そうでしたね。のどかさんも、頑張ってるんでしたね」
「い、いえ。別にそんなことは……!」
そこでネギは、のどかが魔法を頑張って練習しているのを思い出していた。ネギはたまに、のどかや夕映と混じって魔法の練習をすることもあった。さらに、その二人に魔法を教えたりもしていた。それを思い出し、ネギはのどかを頑張っていると、微笑みながら褒めていたのだ。また、ネギに褒められたのどかは、顔を紅色に染め、照れくさそうにうつむいていた。その様子を見たネギは、自分の考えていたことを、のどかへと語り始めたのだ。
「……僕は最初、のどかさんたちがこの力を知って、教えてもらうことに、不安を感じていました」
「……ネギ先生?」
「ですが、一生懸命になるのどかさんやゆえさんを見ていると、これでよかったのかもと、最近思うようになりました」
ネギは最初、のどかや夕映が魔法を使うことに反対だった。それはやはり一般人の二人が、魔法と言う未知なる力に触れることに不安を感じたからだ。それ以外にも、魔法は一般的に裏と呼ばれている部分もあった。そういう面で考えると、やはり危険だとも思ったからだ。
しかし、必死に魔法を頑張る二人を間近で見たネギは、少し考えを改めていた。一生懸命、めげずに魔法に打ち込む二人に、ネギは感服したのである。また、師であるギガントが打ち出した規則もしっかりと守り、学校の勉強もおろそかにすることがなかったのだ。だからネギは、二人が魔法に触れたことを、悪いことだけではなかったと思うようになったのである。
「だけど、やはり少しだけ、普通に生活してほしいと思う部分もあります」
「やっぱりそれは、危険なところもあるからですか?」
だが、ネギはそれでも魔法を知らずに、普通の人として生活してほしいとも考えていた。やはり、魔法はよいものもあれば、悪いものもある。そしてそれは、使う側にも言えることだと思っているからだ。のどかや夕映は、あまり人を傷つける魔法を良しとしていない。しかし、他の魔法使いはそういう訳でもないのだ。
「はい。この力は優しいだけではないものですから……」
「そうですね。確かに怖いものも多くあるのも、わかってます……」
そしてネギは、その考えをのどかへと話すと、のどかもわかっていると答えたのだ。のどかも悪魔襲撃事件の時、スライムによって、一度危機な目に遭ったのだ。水中へと飲み込まれ、どこかへ連れ去られるという恐怖感を、そこで味わったのだ。だから、魔法には危険な部分もあることを、身をもって実感していたのだ。しかし、のどかはそれ以上に、魔法は人の役に立てるとも思っていた。
「でも、人を癒せることは、とても良いことだと思います」
「……のどかさん」
そう、魔法で人を癒せるということは、とてもすばらしいことだ。のどかはそう考え、治癒系の魔法を必死に覚えてきたのだ。そのことをのどかは、笑顔でネギへと話すと、ネギも困った表情だったが、微笑み返していた。また、のどかの話を聞いたからか、ネギは今の自分の目標を、のどかへとゆっくり話したのだ。
「……僕は、この力を使う使わない関係なく、人のためになることをしたいと思ってます」
「人のため?」
「はい。誰かの役に立ちたいと、そう考えています」
それは魔法を使わずとも、人の役に立ちたいという思いだった。ネギは魔法なんてなくても、人のためになることはたくさんあると考えているのだ。小さいことから大きなことまで、魔法など使わず、人を助けられるはずだと、そうずっと胸に秘めてきたのだ。
さらに、この世界の大半の人は、魔法と言う力を持たない。だが、そんなものを使わずとも、偉業を成しえた人は数多く居る。それを知っているネギは、魔法に頼らずとも、立派な人間になりたいと、理想を掲げてきたのだ。
「それは力を使わないでも、と言うことですか?」
「そうです。特別な力を使わなくても、人の役に立てることはたくさんあると、僕は思っていますから」
そこでのどかは、魔法を使わずともと、ネギへと質問したのだ。ネギはその質問に、魔法なしと答えたのだ。また、そのネギの答えにのどかは、はやりネギは優しい人だと、そう感じるのだった。
「……ネギ先生はやっぱり優しいんですね」
「いえ、それを言うなら、のどかさんだって優しいじゃないですか」
「そうですか? でも私は……」
のどかはネギへ、優しい人だと褒めたのだ。そこでネギも、それを返すようにのどかも優しいと言葉にしていた。しかし、のどかはそのネギの言葉に、つっかかりを覚えてしまうのだ。なぜならのどかは、ネギの側に居たいから魔法を覚えた。さらにネギの役に立ちたいから、魔法を使えるように練習したからだ。だから、そんな大層なものではないと、のどかは思ってしまうのだ。そう考え、少し表情を暗くするのどかに、ネギはそれならとアドバイスを送ったのである。
「……別に最初から知らないを助けなくても、まずは友達や知り合いを助けることから、始めればいいんじゃないでしょうか」
「……あ」
ネギがのどかへ話したことは、難しいことではなかった。知らない人を助けるのは難しい。それは他人に触れることを恐れる部分があるからだ。だからネギはそれならまず、友人やクラスの人を助ければよいと、のどかへと笑顔で提案したのだ。
そして、そのアドバイスを聞きながら、ネギの表情を見たのどかは、ネギの優しさとその表情に、一瞬動きが止まるほどに心臓が高鳴っていた。また、その表情は真っ赤であり、熱があるのかさえ疑うほどのものだった。だが、のどかはその数秒後、すぐに再起動して、笑顔でネギに向かい合ったのだ。
「そうだ、では後ででもいいので、怪我を治してもらえますか?」
「……は、はい!」
またネギはそこで、それなら練習として、まず自分を治療してほしいと、のどかに頼んでいた。そのネギの頼みに、明るい笑顔ではいと答えるのどかだった。そして二人は仲むつまじく、この図書館島の探検大会を楽しむのであった。
…… …… ……
のどかとネギがいい雰囲気で歩く中、カギは夕映と話していた。このカギと夕映も魔法使いの主と従者という関係なので、自然といえば自然だろう。
と、そういえば夕映は、ここでネギが好きなのを完全に認識するはずだ。だが、ここではそういう訳ではないらしい。なぜならネギと夕映は、さほど大きな接点がないからだ。一応魔法を一緒に練習したり、魔法を教えてもらう仲ではあるが、それ以上でもそれ以下でもないのだ。さらに言えば、ネギの過去の記憶を見たりするイベントも発生していないので、特にネギに傾く必要がなかったのも大きいようだ。
そんな夕映だが、別にカギが好きになった訳でもない。ただ、魔法を知れたのがカギのおかげであり、そういう恩を感じたからこそ、カギの従者になったのだ。またそれ以外にも、のどかに遠慮しているので、ネギと契約したくなかったというのも大きな理由である。したがって、カギと夕映の現状は、教師と生徒、主と従者程度にとどまったままなのだ。
「ゆえよ、俺の従者になった気分はどうだ?」
「え? そうですね。特に普段と変わりないです」
カギは夕映が従者になって、何か変化と言うか、思うところが無いか聞いてみたようだ。しかし、夕映はこれと言って気分的な変化はないらしい。と言うのも、別に従者になったからと言って、大きく変わるものでもないからだ。また、そんな話をしだしたカギを見て、夕映はこっそりと認識阻害を使ったのである。夕映は普段から借り物の小さな杖を持っていたので、それが行えたのだ。
「はあ!? 何かもっと、何かあんだろ!?」
「いえ、特には。しいて言うなら、パクティオーカードを眺めてる時間が出来たぐらいです」
「そんなに嬉しいもんなんか? そのアーティファクト手に入れたの」
だがカギは、それでもなお、夕映に対して何か変わっただろうとしつこく聞いていた。そこで夕映は、確かに変わったことをカギへと話した。それは仮契約カードを眺める時間が増えたということだった。それを聞いたカギは、アーティファクトが手に入って、そんなに嬉しいのかと疑問に思い、それを質問したのだ。
「はい! それはもう!」
「そ、そうなのか……」
夕映はアーティファクトを手に入れたことを、本当に心の底から喜んでいるのだ。その魔法アイテムを手に入れたということは、夕映にとってはそれほどのものだったのである。しかし、カギはその夕映の喜びようを見て、あれ? 俺っていらなくね? と思い始めていた。
「つまり俺って、アーティファクト製造マシーンだった訳かー! かーっ! フラグ製造マシーンじゃなかったのかー!」
「ま、待つです! 別にそういう訳ではないです!!」
カギは自分が夕映に仮契約をさせられただけの生贄だと思ったようだ。実際はわざとらしく言っているだけで、本気でそこまでは思っていないようではあるが。そう考えたカギは、ゆえにアーティファクト製造マシーンだなんだと、アホ面で叫び出したのである。いやはや、まだ人が回りに居るのだから、この行動は恥ずかしい。そして、かなり迂闊であった。そんなカギを夕映はなだめるために、そうではないと慌てながらに否定したのだ。
「どういうこっちゃね? アーティファクトを生む機械ってことか!?」
「意味が変わってないです!?」
しかし、カギはそれなら何だと思ったようだ。そしてやはり、アーティファクトを生み出す何かなのだろうと、夕映へ口にしたのだ。それを聞いた夕映は、先ほどの叫びと意味が同じだと、鋭くツッコミを入れたのだ。
「じゃー俺って何なんだ……!!」
「それは何気に深い哲学ですね……。ではなくて!」
カギはもはや自分が何なのかわからないようなことを言い出していた。ハッキリ言えば、お前はただの転生者だ。バカだ、クズだ、甲斐性なしのろくでなしだ。また、そのカギの言葉に夕映は、哲学的だと一瞬だけ考えていた。この夕映、哲学研究会にも所属しているのである。だから、哲学っぽいカギの台詞に、反応したのだ。
「カギ先生には感謝してるです。だから落ち込まないでください」
「感謝だぁ? 機関車の間違えじゃねーのー!?」
「つ、つながりがまったくないです……」
夕映はカギに感謝していると言っていた。それは間違えなく本心である。何せ魔法を知れたのはカギのおかげであり、仮契約もしてくれたのだ。感謝しない訳がないのだ。しかし、カギはそこでアホな顔してボケていた。自分が感謝されるようなことなど、していないと思っているからだ。そこで夕映は、さらに鋭くツッコミを入れていた。まったくつながりが無い言葉を、カギが並べたからだ。
「ん? 今感謝してるって言ったよなぁ」
「はい、言いました」
そのツッコミを受けたカギは、夕映に感謝していると言ったか、聞きなおしていた。夕映はカギの質問に、YESと答えた。間違えなく言ったのだから、それしか答えようが無いのだ。するとカギは一瞬だけ考えるそぶりを見せ、突如夕映に人差し指を指し、訳がわからないことを叫んだのだ。
「よし、ならば俺の命令を聞けー!」
「えー!? な、何でそうなるのですか!?」
なんとこのバカ、じゃなかったカギ、それなら夕映に自分の命令を聞けと言い出したのだ。まったくもって、今までの会話と関連性がないカギの言葉に、夕映は驚いてでかい声を上げてしまったようだ。そんな夕映を、カギは少しスケベな視線で眺めていた。流石変態筆頭である。
「感謝してるなら、少しぐらいええやろ? な? ええやろ?」
「うー……。ちなみにどんな命令を……?」
「え? あ? うーん?」
よいではないかいではないか。カギは気分を悪代官にして、夕映へ話しかけていた。そこで、夕映はどんな命令をするのかと、カギへ聞いたのだ。確かに感謝しているし、アーティファクトも出してもらった。だから、まあ出来ることならしてもよいかと、少しだけ考えたのだ。だがカギはその質問を受けて、首をかしげて悩み始めていた。
「あ、あのー?」
「別に思いつかないや、テヘペロ!」
「は、はぁ……」
そんなカギの態度に、どうしたのかと夕映が覗き込んでいた。そしてカギは、悩みぬけたところで、まったく思いつかないと言い出したのだ。なんというバカな男か。自分で言い出しておいて、このザマである。そのカギのバカっぷりに、流石に夕映も疲れた顔でため息を出すしかなかったようだ。
と、言うのもカギは、ちょっとエッチなことをしようかなー、と一瞬考えては見た。だが、こんなチンチクリンな夕映にそんなことをしても、楽しいのかを妄想したのだ。すると、別にどうでもよくなってしまったのである。
このカギ、そういうことをするなら、もっとボインちゃんのほうが良いと思うヘンタイだったのだ。まあ、はっきり言えばカギもヘタレ、そこまでする度胸が無いのも理由にあるが。そこであきれ果てた夕映を見たカギは、引かれたことにショックを受けていたようだ。
「ちょっとしたジョークじゃないか! そんな引かなくてもいいじゃんじゃん!」
「ま、まあカギ先生ですから……」
「何その納得のしかたはー!? 俺っていつもそんな感じに思われてんの!?」
カギはそんな夕映に、ジョーク、ジョーク、ここはジョークアベニューDEATHと答えていた。ジョーダンだから真に受けないでくれと、必死に語りかけていたのだ。なんと恥ずかしい男なんだ。そこで、夕映もカギの言葉を信じたようだが、なんとカギだから仕方が無いという納得の仕方をしたのだ。その納得の仕方に、カギはさらにショックを受けて、やはり叫びだしたのである。また、普段からそう思われていたのかと、カギは思ったのであった。
「はい、そうです」
「し、ショックだ……」
しかし現実は非情だったらしい。夕映はカギを前々からそう感じていたようだ。それを聞いたカギは、流石に陰鬱な雰囲気を出して膝を突いてうなだれていた。そんなカギを見た夕映は、言い過ぎたと思い元気を出してもらおうと、必死に励ましだしたのだ。
「で、でもカギ先生にもいいところぐらいあるです!」
「何!? どこどこ!!?」
そこで夕映はカギにもいいところがあるから、そう落ち込まないでほしいと発言したのだ。だが、カギはそれを聞いて、どこがいいのか質問をしたのだ。その質問を受けた夕映は、あれ? どこがいいんだろうか? と一瞬悩んでしまったのだ。
「あー。えー? 外見とかでしょうか?」
「内面には無いってことじゃねーかー!!」
夕映はカギのいいところを悩んで探し出した。すると一ついいところが思い当たったようだ。それは外見だった。ネギと同じような顔で、少し目つきが釣り目で悪っぽい表情。そしてネギと同じ髪の色、髪の長さ。それを逆毛にした髪型。それだけを見れば、確かにイケメンと言えなくも無い。それを夕映は、カギへと話したのだ。しかし、それは外見だけであって、内面でいいところがないと言う、残酷な答えでもあったのである。
「す、すみませんです……」
「まーしょうがねーや。だって俺が駄目なだけだしー」
「そ、そんなことは……」
それでますます暗くなるカギへ、夕映は頭を下げて謝っていた。いや、謝る必要などどこにもない。全部カギの因果応報なのである。そこでカギはそれを悟ったのか、突然開き直りだしたのだ。その開き直ったカギの言葉に、夕映もどう反応していいかわからない様子だった。
「そういう態度が一番傷つくわー」
「あう、ごめんなさいです」
しかし、そういう曖昧な態度を取られることが、カギにとって最もショックが大きいことだったようだ。それを夕映へとこぼすと、夕映はまたまた謝っていた。いや、だから謝る必要などどこにもないのだが。
「そ、そんな謝られるとむしろ心が痛むんですけど!?」
「は、はぁ……」
そしてそんなにも夕映謝るものだから、カギも少し良心が痛んだようだ。というのも、別に夕映が悪い訳ではないので、謝らなくてもよいと、カギ自身も考えていたからだ。そのカギの言葉を聞いた夕映は、やはり抜けた返事をするしかなかったようである。
また、いつの間にか図書館島の探検大会も終わりに近づいてきたようだ。すでに図書館島の入り口付近まで、戻ってきていたのである。
「あ、もうすぐツアーも終わりですね」
「もうか。なんか話してばかりになっちまったなー」
そこで夕映は、このツアーも終わりかと、少し名残惜しそうに、そうカギへと話していた。それを聞いたカギは、話てばかりでまったく図書館島を見ていなかったと思ったようだ。しかし、夕映は会話しながらも、ネギとのどかを見ていたらしい。だから、その二人がいい雰囲気になっているのを嬉しく思っていた。
「そうですね。そして、のどかはしっかりやれたようで、何よりです」
「のどかの恋を応援してんだっけ?」
「はい、のどかには幸せになってほしいです」
カギはのどかの行動を喜んで話す夕映を見て、そういえばのどかの恋愛を応援していたんだっけと、思い出していた。そしてカギは、それを夕映へと言うと、友人たるのどかに幸せになってほしいとはっきりと言葉にしたのだ。そんな夕映を、カギは友人思いなヤツだと、関心していた。
「友人思いなんだなー」
「べ、別にそういう訳では……」
そこでカギは、夕映にそれを言うと、夕映は照れながら、違うと言っていた。しかし、明らかに友人思いであり、カギは照れてるだけだろうなと思っていた。だがカギは、自分の新たな真実を発見してしまった。それは自分に友人がいないことだったのだ。
「待てよ……。俺友達いねー……」
「え!?」
それを聞いた夕映は、目を開いて驚いていた。また、カギは友人がいないことで、ショックを受けてまたしてもうなだれていた。そしてカギは、友人といえばカモミールぐらいで、人間の友人がいないと嘆き始めていたのだ。
「やべー。俺の友達ってオコジョのカモぐらいじゃねーかー! 人間の友達いねー!!」
「あ、あの」
そんな哀れなカギを見て、たまらず夕映は声をかけた。それをカギは、ゾンビのような表情で、錆びたネジを動かすように、首を夕映へと向けたのだ。そこでカギは、一体何の用かと世界の終わりみたいな顔で、夕映へと質問していたのだ。
「何かねゆえ君……」
「なら、私と友達になるです!」
「え? マジ?」
夕映は哀れにむせび泣くカギへ、友人になろうと言ったのだ。それを聞いたカギは、一瞬にして明るさを取り戻し、輝きの眼で夕映を見ていた。なんという身の代わりの早さよ。
「はいです! カギ先生の従者ですし、むしろ友達でもいいと思うのですよ」
「う、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
また夕映は、すでにカギの従者なのだから、友達でいいじゃないかとカギへ微笑みながら話したのだ。そんなことを言われたカギは、夕映が眩しく見えたようで、腕を頭の上に持ってきていた。なんというぐう聖なんだと、心から思っていたのである。
「か、カギ先生、泣いてるですか?」
「ち、ちげーやい! 心の洗浄液だわい!」
そこで夕映はカギが涙していることに気がつき、それを指摘したのだ。だが、カギは男なのだ。男ゆえに、少女に涙を見られたのを恥ずかしがっていた。そして言い訳として、夕映に適当な言い訳をしていたのである。
「そういうことにしておくです」
「そーしてくれると嬉しーなー」
その言い訳を聞いた夕映も、カギが照れているのを察して、そういうことにしたようだ。それを聞いたカギは、ありがてーありがてーと心の底から思いながら、そうしてくれて助かったと述べていた。また、カギが元気になったのを見た夕映は、そこで自分とカギは今から友達だと、笑みを浮かべて宣言していたのだ。
「では、今からカギ先生と私は友達です!」
「よーそろ」
「はい、よろしくです」
その宣言を受けたカギは、適当な返事でよろしくと言った。しかし、心の中では超嬉しいと思っており、それを隠すために適当な言葉を発したのだ。そして夕映も、それを返すようによろしくと言っていた。そこで探検大会のツアーが終了したようで、夕映とカギは別れの挨拶をしていた。
「んじゃ、俺はまたテキトーにフラつくわ」
「来てくれてありがとうです」
「なーに、生徒の頼みを聞くのは、教師の務めだ」
カギは二日目に予定があまりないので、適当に麻帆良を練り歩くつもりのようだった。また夕映は、カギがこのツアーに来てくれたことに再度礼をしていたのだ。その礼を受け取ったカギは、お決まりの台詞をキザったらしく言葉にしていた。
そしてカギは立ち去りながら、右腕を左右に振り、夕映に別れを告げていた。それを夕映は眺めながら、同じく右腕を振って、またですーと叫んでいたのだ。そして、ようやくカモミールと会話できる環境になったカギは、早速それをカモミールに話したのだ。
「やったぜカモよ、あのゆえと友達になれたぞ!!」
「いやー兄貴、かなり青春してたぜー」
「だろだろ!! この今の人生で最高の気分ってやつだ!!」
カギは夕映と友達となったのをとても喜んでいた。何せ友達がカモミールぐらいしかいなかったのだ。その喜びようは人類が初めて月面を歩くほどのものだった。そのカギの様子を黙ってみていたカモミールも、若いっていいなーと思っていたようである。
「この調子で従者を集めようぜー!」
「は? ゆえとの関係の強化じゃないんか!?」
そこでやはり、カモミールはさらに従者を増やそうと叫んでいた。今度こそ自分の魔方陣で仮契約をさせたいのだ。出なければ金が入らないからである。しかし、そこでカギはカモミールの考えとは別のことを言葉にした。それは夕映と親交を深めるというものだったのだ。
「何!? 兄貴、まさか!!?」
「ち、ちげーし! 別になんとも思ってねーし!」
それを聞いたカモミールは、カギが夕映に気があるのかと勘ぐった。だが、そのカモミールの驚きようを見たカギは、なぜかテンパっていた。これではまるで、本当にカギが夕映に気があるようではないか。そのカギの態度を見たカモミールは、目を光らせてイジりだした。また、カモミールはこういう恋愛的なものに敏感だった。だからカギが、夕映のことをなんとも思っていないと考えたのだ。
「ヒュー! 兄貴、俺っちにはそういう言葉は通用しねーぜ?」
「だからちげーって!! ちげーからな!!」
「いやいや、兄貴もそーいうお年頃ってやつかー!」
しかし、カギはさらに慌てだし、何度もそれを否定していた。というか、その態度でバレバレなのだが。いやはや、普段のカギからは想像できぬほどに、今のカギは慌てふためいていた。そんなカギの姿を見たカモミールは、目を細めておっさんのような笑いを出していた。そして、さらにちょっかいを出していたのだ。
「クソー! カモのバカ! アホ! ヘンタイ! パンツマニア!」
「ちょ!? 最後のだけは否定できねーけど言いすぎだろ!?」
そこでカギは反論すら出来なかったのか、やけくそになってカモミールの悪口を言い出したのだ。なんという子供っぷりだろうか。転生者が言う実年齢としては50代越えたおっさんなのだが、これではただの子供である。また、カギの今の発言に、流石にひどい、あんまりだとカモミールは叫んでいた。だが、最後の一言だけは否定しなかった。
「悪い悪い、つい言い過ぎちまったぜ……」
「まあ俺っちも、ちょいとからかいすぎたわ……」
カギは叫ぶカモミールを見て、言いすぎたと謝ってた。それを聞いたカモミールも、自分もやりすぎたと謝ったのだ。この二人、種族を考えなければ最高の友人同士と言ってもよいだろう。
「お、おう。わかってくれりゃいいんだ」
「流石兄貴だ……。なんつー心の広さなんだ!」
カモミールの謝罪を受け取ったカギは、普段通りのカギへと戻ったようだ。そして、カギはカモミールを許したようで、カモミールはそれに感動していた。いやはや、この程度で大げさなやつらである。そんなカギは調子に乗ったのか、さらに自信過剰な台詞を、カモミールへと放っていたのだ。
「フフフ、俺の心は大海原よりも広くて深いのさ!」
「あ、兄貴。それは少し誇張しすぎやしませんかね!?」
「そこで否定すんのかよ!?」
しかし、流石に大海原は言いすぎだと、カモミールは言っていた。それを聞いたカギは、否定されたことにショックを受けていたようだ。またしてもそれで落ち込むカギを、再び励まそうとカモミールは、カギの右肩に移動し振り向いた。だが、そこでカモミールは、恐るべきものを目撃してしまったのだ。
「ちょっ!? 兄貴待つんだ!! あそこを見ろよ!!」
「ああ? な、何……だと……」
そこでカモミールは、来た道を腕で指した。その場所は図書館島の正門だった。カギがそこへ目をやると、夕映が誰かと話していたのだ。しかし、それはまさかのあの男だった。そう、それはなんと、銀髪の神威だったのだ。あのクソ銀髪の神威が、ふざけたことに夕映と親しそうに話していたのだ。
「ば、バカな……」
「あ、兄貴……」
それを見たカギは、それが現実なのかわからなくなっていた。いや、現実として受け止めたくなかったと言った方が正しいだろう。また、その横に居るカモミールも、相当ショックを受けていた。何せ今さっきカギと友人となった夕映が、あの銀髪のニコぽで惚れされてしまっていたからだ。流石にこの状況でカモミールは、カギにかける声が見つからなかった。
「許さん……」
そこでカギは、小さいな声でポツリと一言こぼしていた。だが、その声は震えた声であった。さらに、カギは唇をかんでおり、そこから血が流れていたのだ。そしてカギは、目を見開き去っていく銀髪を睨みつけ、怒りと悲しみを含んだ叫びをあげていた。
「許さねぇぞ……クソだれが!」
「あ、兄貴がキレた!?」
そのカギの雄たけびに、カモミールも戦慄していた。このカギがここまで怒りをあらわにしたことなど、一度も無かったからだ。自分の思い通りにならない時ですら、カギはここまでプッツンしたことがなかったのである。それだけカギは、夕映が銀髪に取られたことに怒りを感じていたのだ。
すると銀髪を追跡する人影を、カギは目撃した。それはやはり朝倉和美だった。この和美はあの銀髪の悪行を、なんとしてでもクラス全員に公表したいと思っていた。しかし、それをしたところで信じてもらえない上に、逆に追い詰められてしまうだろう。だからこそ、今はただ、銀髪の悪行三昧を記事に書き留めるだけにしているのだ。そんな和美の横で、マタムネが護衛のよう周囲を警戒していた。
「む、朝倉のやつ、またアイツを尾行してんのか……」
「気持ちはわかるがあぶねーぜ……」
またカギは、和美がまだあの銀髪を追っていることに驚いていた。あれほど恐怖の対象にした銀髪を、追跡するなんて普通は考えられないからだ。そこでカモミールも、気持ちはわかると同情していた。だが、それでも銀髪を追うのは危険だと、あまり賛同はしていなかった。
「とりあえず、前のように朝倉と行動してみるか……」
「おう、俺っちもついて行くぜ!」
そしてカギは、それなら和美と合流し、あの銀髪を倒すチャンスを伺うことにしたのだ。カモミールもそれを聞いて、ついて行くと胸を張っていた。微妙にチキンなカモミールですら、あの銀髪だけは野放しにしておきたくないのだ。さらに言えばカギのことが心配なので、何かあった時に誰かに連絡できるようにと、ついて行くと考えていたのだ。これで役者が揃い始めてきた。あの銀髪を倒すのは、一体誰になるのだろうか。
ネギがイケメンすぎてつらい……
さらに、ここに来てようやく銀髪の登場……