理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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ネギ君ほとんど空飛ばない


六十一話 昼の会談

 まほら武道会はこれにて終了した。そこで栄光の優勝者であるアルビレオは、その表彰台の頂点で立っていた。加えて二位はアスナ、三位がタカミチである。しかしタカミチはすでに姿が無かったので、3位の表彰台には誰もいなかった。というか自主退場が多すぎた大会でもあったと言えよう。

 

 また、いつの間にかやって来たビフォアが、営業スマイルで閉会式の宣言を行っていた。そしてさりげなく、この大会の優勝賞金は一千万円である。なんという太っ腹な賞金だろうか。それを模した巨大な板をアルビレオに贈呈したのである。

 

 

 だがそこになんと、マスコミらしき取材班が殺到してきたのである。そのマスコミはまず優勝者のアルビレオをターゲットとしたようだ。そこでアルビレオに取材を持ちかけると、一千万円とかかれた巨大な板を抱えたアルビレオが、スッと消えていったのである。

 

 それを見たマスコミは、アスナとネギにターゲットを変更したようだ。何せアスナは最後まで、派手に戦い抜いた美少女だ。注目を浴びないはずがなかったのである。さらにネギも子供先生と言う噂が出回っており、その辺りの聞きこみのために追跡する気のようだ。

 

 だからネギたちもさっさと会場から立ち去り、その取材から逃げて行ったのである。捕まったら面倒ごとになりかねない上に、これ以上注目されたくないからだ。いやはや波乱のまほら武道会は、こんな形で決着がついたようであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 いや、まだ決着はついていない。ビフォアがその神社を歩いていると、魔法先生がそれを囲っていた。そこにはあのタカミチの姿があった。タカミチはあの場から脱出した後、他の魔法先生に全てを話したのだ。それを聞いた魔法先生たちは、このビフォアを捕まえることにしたのである。

 

 

「おやおや、みなさんおそろいで、どうしましたかな?」

 

「ビフォア、君に聴きたいことがある。アルスのこともそうだが、とりあえず我々と一緒に来てもらおうか」

 

「フフフフフフ、警察の真似事ですかな? 面白くはないですぞ?」

 

 

 ビフォアはふざけた態度で、近寄る魔法先生へと話しかけていた。そこへタカミチが、アルスの所在を含めて取り調べるべく、捕まってもらうとビフォアへと宣言したのだ。だが、囲まれている状況にも関わらず、ビフォアはさらにふざけた冗談を口にしたのである。

 

 

「……いまだに信じられないが、高畑先生の言葉を信じるならば、あなたを拘束せねばなるまい」

 

「……フフフフハハハハ、出来ると?」

 

 

 タカミチの横にいた魔法先生。黒い肌のメガネの男である、ガンドルフィーニはタカミチの話を全て信用してはいなかった。ただ、信用するならばタカミチなので、半分は信用しているのだが。そして、もし本当にそうならば、拘束してでも捕まえなければならないと、覚悟を決めていた。しかし、その言葉にビフォアは、出来るはずがないと言ったのだ。

 

 

「我々のこの数に、抗えるとお思いで? ビフォア先生……」

 

「ハハハ、数など無意味ですぞ?まあ、今回は事を荒くしないで起きましょう」

 

 

 そこで多勢に無勢、完全に包囲した状態から、ビフォアが抜け出せるはずがないと、ガンドルフィーニはそう言った。だが、ビフォアは余裕の態度を崩さず、むしろ今はまだ、魔法先生たちに被害を出さないと笑いながら話したのだ。するとビフォアの目の前に、あの男が現れた。古菲を圧倒し、真名を痛めつけた最低の男。そう、あの坂越上人だ。

 

 

「あなたがたでは相手になりません。ですが雇い主の慈悲にて、ただ今は逃亡に徹しましょう」

 

「お、お前は……。まずい、攻撃を優先するんだ!」

 

 

 その上人の姿を見たタカミチは、その能力を知っていた。だから攻撃を優先せよと、他の魔法先生へと叫んだのである。だが、すでに遅かった。ビフォアと上人はその場から消え去り、どこに消えたかわからなくなってしまったのである。

 

 

「なんということだ……。これはまずいことになるかもしれない……」

 

 

 あの上人とビフォアもつながりがあることがわかった。それは大きな収穫とも言えよう。しかし、それ以上に絶大な危険を感じざるを得ないのだ。そう考え、タカミチは普段見せない悔しさの表情を見せていた。他の魔法先生も、同じように危険を感じ、次に備えることにしたようだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 龍宮神社近くの下水道。その中を一人の男が突っ走っていた。それは茶色い髪をオールバックにして、左右が釣り上がったサングラスをかけた男だった。また服装は革ジャンで、特に服装を整えた感じではなかった。そう、その男こそ猫山直一だったのである。直一は囮として残ったアルスを探すため、そして超の依頼でビフォアを追うために、この下水道へやってきたのだ。

 

 直一の特典(アルター)の名はラディカル・グッドスピードである。それは乗り物を改造し、スーパーモンスターマシーンへと変貌させる能力だ。だが、もう一つの能力は自分の脚部にうっすらと薄紫に見える銀色の装甲を装着し、自らも高速で移動できるようにするというものだ。その装甲は足の側面の中央をギザギザとした線が入っており、ややヒールの高いブーツのようなものである。それを使い、超音速で下水道をかっ飛ばしていたのである。

 

 

「川の流れは早ければ早いほど、その力を増していく! そして巨大な岩でさえ、押し流して破壊する! さらにその水の力により大地は浸食され、その地形をも変えてしまう!」

 

 

 なんだかよくわからないことを早口で口走る直一。そんなことを語りながらも、高速で下水道を突っ走っていた。というか、しゃべりながら走っていて、舌をかまないのだろうか。とことん恐ろしい男である。

 

 

「それはすなわち速さも同じことが言えるのではないだろうか? そうだ! 同じ場所を何度も最速で攻撃すれば、いつかは分厚い装甲も、削りきる!! ヒャッハー!!」

 

 

 そう直一は早口で独り言をしゃべりながら、最後にそう叫ぶと、目の前に居たガードらしき巨大なロボを蹴り飛ばし、それを破壊して見せた。ここまで来るのに、地味にロボを踏み台にしたり、蹴り飛ばして破壊して回っていたのだ。そしてそこに、回転を加えつつスピードを殺し、その下水道の通路へと綺麗に着地した直一は、顔を上にあげて一言つぶやいていた。

 

 

「また、世界を縮めてしまった……」

 

 

 そこで直一は、その自分の速さに酔いしれ快感を感じているようだ。また、それを終えると直一は、辺りを見回すように目を配る。だが、直一のお目当てのものは、そこにはなかったようだ。

 

 

「まだ先があるって訳か……。しっかしアルスの野郎、どこへ消えたんだ?」

 

 

 その直一が居る場所は、下水道の終点だった。その先は崖となっており、下が見えない高さだったのだ。さらに囮となって残ったアルスの姿もなく、直一はどうするかを考え始めていた。

 

 

「なあ、教えてくれねーかな?そこの誰かさん?」

 

「……」

 

 

 そう直一は口にすると、影となっている場所から謎の人物が現れた。全身黒いローブを身に纏い、顔や性別すらわからぬものだった。しかし、そこからにじみ出る敵意は本物であり、直一はそれを感じてそのものへと声をかけたのだ。

 

 

「テメェ敵だな? アルスはどこへやった?」

 

「……」

 

 

 直一はその姿を現した黒いローブへと向きなおし、余裕の態度で接していた。また、そこでその黒いローブに、直一はアルスの所在を聞いたのだ。だが、答えは返ってこなかった。いや、その黒いローブは何も語らなかったのである。それを見た直一は、とりあえずぶっ倒してから考えようと思ったようである。

 

 

「何も言わねぇのなら、とっ捕まえてから吐かせればいいか!」

 

「…………」

 

「しゃべらないだけで、聞こえてはいるみたいだなあ! だったらよく味わいな、俺の速さを!!」

 

 

 しかし、その黒いローブも直一の言葉に反応し、戦闘態勢へと入ったようだ。直一はそのローブの姿を見て、言葉を発さないだけで自分の言葉は聞こえているのだけはわかったようだ。そして直一はその自らのアルターを使い、黒いローブへと攻撃を仕掛けたのだ。

 

 

「”衝撃のオォ!ファーストブリット”オォッ!!」

 

 

 その攻撃は超高速での蹴りであった。ラディカル・グッドスピードのかかと部分に存在するパイルが一瞬で飛び出すことで起こる、反動と衝撃による瞬間的超加速。それを使った爆発的な蹴りこそが、直一の攻撃方法だ。

 

 そして、その蹴りの衝撃で、下水道内で爆発が発生した。その土煙は下水道内に充満し、内部がどうなっているかわからなくなってしまった。だが、この直一の速さに追いつけるものはいないだろう。それこそが、直一の最大の能力なのだから。

 

 

…… …… ……

 

 

 まほら武道会が終わり、各自解散となった。しかし、この武道会はインターネットに映像が流出したせいなのか、随分と話題となったようで、マスコミが押し寄せてきていた。だから各自、即座に退散して、とりあえずマスコミから逃げたのだ。

 

 そこでネギはアスナとマスコミから逃げ出し、麻帆良へと戻ってきていた。そして麻帆良の建物の影へと身を潜め、とりあえず逃げ切ったことに安堵していたのだ。また、そこでアスナは丁度よいと考え、ネギに自分の保護者たるメトゥーナトを紹介しようと考えた。

 

 

「そうだ、丁度いいわ。今から私の保護者、銀河来史渡を紹介するわね」

 

「え? 今からですか?」

 

 

 メトゥーナトもあのまほら武道会の会場へと足を運んできていた。だからまだ近くにいるだろうとアスナは考え、紹介程度にネギに会わせようと思ったのだ。また、どの道今日は、メトゥーナトと麻帆良祭を回る予定であり、待ち合わせるより呼び出そうとも考えたのである。

 

 

「そっちも次の予定があるだろうし、手短にだけどね」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

「今電話してみるから待っててね」

 

 

 ネギはネギで次の予定がある。だからこそ、アスナは紹介程度にと考えていたのだ。そしてネギも、父親の幻に会ったばかりだというのに、別の父親の友人に会えることを、少し嬉しく思っていた。そこでアスナはメトゥーナトへと、携帯電話を取り出して呼び出しの電話をしたのである。

 

 

「もうすぐ来るから待ってて」

 

「はい」

 

 

 そしてすぐにアスナは電話を切った。つまり二言返事で了解を得たようだ。アスナはネギへとそれを伝えると、嬉しそうに返事をしていた。そして数分経ったところで、建物の屋根から一人の男が降りてきた。それこそ黒のスーツだというのに黒いマントを翻したメトゥーナトだった。

 

 

「はじめまして、ネギ君。わたしが彼女の保護者を勤めている銀河来史渡。いや、本名はメトゥーナト・ギャラクティカと言う。以後よろしく頼むよ」

 

「どうもはじめまして。ネギ・スプリングフィールドです」

 

 

 メトゥーナトはネギたちがいる場所へと着地すると、ネギへと自己紹介をして右腕を差し出した。そこでネギも、同じく自己紹介をしてその右腕を握り握手したのである。そんなネギの態度や仕草を見て、メトゥーナトは父親のナギとは正反対な人間だと思ったようだ。

 

 

「ふむ、話に聞いていたが、あのナギとは本当に正反対だな……」

 

「父さんを知る人からは、大体そう言われます」

 

「だろうな……。では何か聞きたいことはあるかい?」

 

 

 それをメトゥーナトはネギへと話すと、ネギもナギの友人からもそう言われると話したのだ。メトゥーナトもそのネギの言葉を聞いて、うなずきながら納得していた。そして、メトゥーナトはそのままネギへと、何か質問があるかを聞いたのだ。

 

 

「えーと」

 

「ああ、名を二つ名乗ったから混乱してしまっているのか。すまなかった、ここでは来史渡で頼むよ」

 

 

 しかし、ネギはそこでメトゥーナトを、どちらの名前で呼べばいいか迷っていた。というのも、あのアルビレオがふざけたことに、クウネルと名乗っていたからだ。だからこそ、ネギはどちらの名前で呼べばいいか、考えてしまったのだ。メトゥーナトもそれに気付いたようで、この麻帆良で使っている名前で呼ぶようネギへと伝えた。

 

 

「じゃあ、来史渡さん。あなたから見た父さんは、どんな人だったんですか?」

 

「そうだな。大体は仲間と同じ意見になってしまうだろうが……」

 

 

 それを聞いたネギは、メトゥーナトへと再び話しかけ、質問をした。その質問はやはり父親のことだった。

ただ、大体の人からナギのことをネギが聞かされている思ったメトゥーナトは、ある程度かぶる意見もあることを事前に口にした。そしてゆっくりと、自分が見て感じたナギの行動やその理念、あとバカな行動をネギへと話したのである。

 

 と、そこへアルビレオがやってきたようだ。突然幽霊のように出現したアルビレオに、アスナは声をかけていた。

 

 

「あら、ヘンタイさんいらっしゃい」

 

「おや、アスナさんに来史渡まで居たのですか……」

 

 

 アルビレオはネギに会いに来たようであった。だが、そこにはすでに先客として、アスナとメトゥーナトが居たのだ。それを少し不満そうに、アルビレオは述べていた。それを聞いたアスナは、少しあきれた顔で残念そうだと言葉にしていた。

 

 

「残念そうねえ」

 

「いえいえ、幻とはいえ、父親との再会を果たしたネギ君を見に来ただけですよ」

 

「ふーん」

 

 

 そのアスナの言葉を聞いたアルビレオは、自分のアーティファクトで見せたナギと出会ったネギの様子を見に来たと話したのだ。また、アルビレオはその言葉の後に、メトゥーナトと会話するネギの方を眺めていた。

 

 いやはや元気そうにメトゥーナトの話を聞き入れるネギを見て、自分好みに歪んではなさそうだと、アルビレオは改めて思っていた。まあ、そうであっては少し困るとも考えてはいるのだが。

 

 と、いうのもこのアルビレオは性格がとても悪い。幻ではあるが父親と出会ったネギが、今どんな事を考え、どんような感情を持っているかを確認しに来たのである。そのことをある程度察したアスナは、そんなアルビレオへと冷たい視線を送っていた。そこでアルビレオは向きなおし、幻のナギとの戦闘で出来た傷を治そうかとアスナへと質問したのだ。

 

 

「そういえばアスナさん、その怪我を治してあげましょうか?」

 

「む……。そうだ、あの後色々ごちゃごちゃしてたから、エヴァりんに頼もうとしてたのをうっかり忘れてたわ」

 

「おや、あのエヴァンジェリンにですか」

 

 

 アスナはエヴァンジェリンに怪我の治療を頼もうと考えていた。しかし、マスコミなどの騒動で、うっかり忘れてしまったようだ。また、アルビレオもエヴァンジェリンの名を聞いて、少し反応していた。かれこれ一応アルビレオも、エヴァンジェリンとは旧知の仲だからである。

 

 

「まーね。でもまあ、今はどこに居るかわからないし、お願いしようかしら?」

 

「フフ、お安い御用ですよ。それと、あなたのような美少女の柔肌が傷ついたままなのは、あまり好ましくありませんからね」

 

 

 そこでアスナはその提案を呑んだようだ。というのも、今エヴァンジェリンがどこに居るか、わからないからだ。そのアスナの承諾を得たアルビレオは、治療魔法をかけながらも、アスナを美少女と称してからかおうとしたのである。

 

 

「そ。褒めてくれてありがとさん」

 

「本当に私の扱いを手馴れていますね……」

 

「当然でしょ……?」

 

 

 しかし、アスナはこのアルビレオの扱いに慣れている。こういうことに反応すれば、さらに面白がることを知っているのだ。だからそっけない態度で、美少女と褒めてくれたことへ礼を言うだけにしたのである。そんな態度のアスナに、アルビレオも少し慣れすぎではないかと考えていた。というか、あのエヴァンジェリンならもう少し面白い反応するのにと、アルビレオは考えたのである。

 

 

「アスナさんも、エヴァンジェリンのようにムキになっていただくと、さらに可愛げがあるのですが……」

 

「それはつまり、私は可愛げがないってこと?」

 

 

 そこでアルビレオは、アスナとエヴァンジェリンを対比していた。アスナももう少しだけ、エヴァンジェリンのようにあわあわと焦ってくれれば面白い、じゃなく可愛げがあるのにと言ったのだ。それを聞いたアスナは、つまり自分は可愛くないのかと、プリプリと怒った態度を見せていた。

 

 

「いえいえ、十分可愛いですよ。しかし、少しばかり意地になって突っかかってくれたほうが、もっと可愛いというものです」

 

「あっそ。でも普段毅然とした態度のエヴァりんがイジられて慌てふためいてる姿は、確かに可愛いからねえ」

 

 

 しかし、アルビレオは今のアスナの言葉を否定した。アスナが可愛くないなら、どんな美少女も可愛くなくなってしまうからである。だが、もう少しイジられて、テンパってくれたほうが可愛いだろうと、アルビレオは言葉にしていたのだ。

 

 そこでアスナはあろうことか、普段は大人の態度を崩さないエヴァンジェリンをイジると、必死に叫んで顔を真っ赤にしてるなあ、と思ったのだ。そしてそのギャップが、またたまらなく可愛いと言い出したのだ。ここでさりげなく、アスナが考えるエヴァンジェリンの印象が語られたことになる。

 

 

「アスナさんもそう思いますか?」

 

「あら、ヘンタイと意見が合うなんて、少しヘコむわ……」

 

 

 それを聞いたアルビレオもそう思っていたらしく、アスナへ同意を求めたのだ。そして、アスナはそれには同感だと思いながらも、アルビレオと意見が合うなんて気分が悪いと考えたのだ。しかし、アルビレオはそんなアスナの態度に、嬉しいだなんだと述べていたのだ。流石である。

 

 

「フフフ、そう言ってもらえると、私としては嬉しい限りですね」

 

「……本当に性格の悪いヘンタイね……」

 

 

 アスナはその悪い表情で微笑むアルビレオを見て、うわ、こいつダメだと本気で考えていた。また、性格最悪のヘンタイだと、ついつい口に出していたのである。当然のことだろう。そんなアスナの表情は、ガチでドン引きしている引きつった表情であった。

 

 そこでネギとメトゥーナトの会話が終わったようだ。自分の質問にしっかりと答えてくれたメトゥーナトへ、ネギは感謝の意を語っていた。

 

 

「ありがとうございます、来史渡さん」

 

「何、気にすることはない。さて、君の父、ナギは10年前死んだとされているが……」

 

「はい。でも僕は6年前、あの雪の日に見たんです。僕たちを助けようと、村に現れた父さんの姿を……」

 

 

 メトゥーナトはアルビレオが、ナギの遺言をネギへと言い渡したのを見ていた。だから10年前、ナギが死んだということを、ネギへと話したのである。だが、ネギは6年前のあの雪の降る日に、ナギが助けに来たのを見ていたのだ。それをネギは、メトゥーナトにも話したのである。

 

 

「そのようだね。わたしも同僚からその話は聞いているよ。それに、そこのアルビレオ……クウネル・サンダースなる人物のアーティファクトが生きているというのが、君の父の生存の何よりの証拠だ」

 

「え……?」

 

 

 それを聞いたメトゥーナトも、ギガントから報告を受けており知っていたようだ。そこでさらに、メトゥーナトはとんでもないネタバレをはじめたのだ。それはアルビレオのアーティファクトの契約主が、あのナギだということである。そして、それはつまり、ナギの生存を意味することだと、ネギへと説明したのだ。

 

 

「来史渡、それは私が後で話そうと思ったことですよ?先に人の台詞をとらないでほしいものです」

 

「それは悪いことをしたな。だが、後でも今も似たようなものだ」

 

 

 そのメトゥーナトの会話を聞いたアルビレオは、自分が後で話そうと取っておいたことを盗まれたと、文句をこぼしていた。表情こそ変わらないものの、アルビレオも流石に気分を悪くしていたようだ。だが、そんなアルビレオに対して、まったく罪悪感も無く、メトゥーナトは平謝りをしていたのだ。さらに、後でも今でもどうせ話すなら同じだと、アルビレオへと言ってのけたのである。本当に地味にひどいヤツである。

 

 

「やれやれ……」

 

「残念だったわね、クウネルさん」

 

 

 そこで今のメトゥーナトの態度に、アルビレオは完全にあきれ果てていたようだ。そして肩をすくめながら、ため息をしていたのである。また、そこでアスナも、残念無念と声をかけていた。だが、その表情は少しニヤついていたのである。いやこの二人、ヘンタイには厳しすぎる。そのアスナの表情を見たアルビレオは、お前もかと思っていた。しかし、まったく残念そうではない表情で、自分の計画を粉砕されたとをアスナへ話し出したのである。

 

 

「ええ、非常に残念です。私の計画を台無しにしてくれましたから」

 

「その計画がなんだかすごい不穏なんだけど……」

 

 

 その計画とか言う言葉を聞いたアスナは、不穏すぎると思っていた。というか、このヘンタイの計画とか、胡散臭すぎると考えていたのである。だが、そのメトゥーナトの話を聞いたネギは、そんな会話そっちのけで、アルビレオへと質問していたのだ。

 

 

「その話は本当なんですか? クウネルさん!?」

 

「仕方ありませんね。では話しましょうか」

 

 

 そこで、こうなってはもう遅いかと考えたアルビレオは、渋々とそのことを説明しだしたのだ。その説明を必死の形相で聞き入れんとするネギを見たアルビレオは、まあいいかと思ったようだ。そしてアルビレオは、その説明に使うため、仮契約のカードを数枚取り出し、ネギへと見せていた。

 

 

「この仮契約カードは、ナギとの契約の証です。そして、こちらが契約者がすでにいない、所謂死んだカードとなります」

 

 

 契約の主が生きている仮契約カードは鮮やかで、カードの絵にはアルビレオの背後に無数の本が螺旋を組んで描かれていた。だが契約主がすでにいない、死んでしまっているカードは、それらが無くさびしいものとなっていた。

 

 

「だから来史渡はこのカードが、彼の生存の証と言ったのです」

 

「ということは、やはり父さんはどこかで生きているんですね……」

 

「そうなりますね。しかし、今どこで何をしているかまでは私にも……」

 

 

 その説明を聞いたネギは、自分の父親がどこかで生きていることを確信したようだ。またアルビレオも、生きていることはわかっているが、どこで何をしているかまでは知る由も無いと言っていた。

 

 だが、実はこのアルビレオ、そのことも含めて全て知っているのである。しかしまだ、まだ早い、全てを教えるにはネギはまだ幼すぎる。そう考えているかはわからないが、とりあえず今はまだ、そのことを教えようとは思っていないのだ。

 

 そんな今のアルビレオの話を聞いたアスナも、メトゥーナトの横へ来てひっそりと、そのことを質問していた。アルビレオは絶対に教えないだろうが、メトゥーナトなら教えてくれるかもしれないと思ったのだ。

 

 

「……ねえ、来史渡さん。本当にナギの所在がつかめないの?」

 

「ふむ。すまないが今は話せそうにないな……」

 

 

 だが、メトゥーナトも何かを知っているようだが、あえて話せないと申し訳なさそうに述べていた。アスナはそのメトゥーナトの言葉を聞いて、つまりは何か知っているのだと察したようだ。と言うのもこのメトゥーナト、ウソをつくのが苦手のようだ。だからあえて、何もいえないと言葉にしたのである。そこでアスナは、そのメトゥーナトの答えを聞いて疑問に思い、もう一度質問していた。

 

 

「む、それって知ってるってこと?」

 

「さあ。ノーコメントと言わせていただこう」

 

「ふーん、ケチんぼね」

 

 

 しかし、それすらも教えられないと、アスナに話したのだ。アスナはそんなメトゥーナトの態度に、文句を言っていた。だが、このことを言えない事情がメトゥーナトにはあるのだ。まあ、そんな態度のアスナではあるが、ある程度察しており、仕方ないかと思っているのである。

 

 

「そう言われても仕方がないが、事情があるものでね……」

 

「そう。でも来史渡さんがそう言うなら、何か大きな事情があるのね……」

 

「すまないな……」

 

 

 また、アスナからケチだなんだと言われたメトゥーナトは、申し訳なさそうな態度を見せていた。アスナならば知る権利ぐらいあるだろうと、メトゥーナトは考えている。しかし、結構ヘヴィーな話になるので、ある程度物事が解決した後にでも、話そうと思っているのである。そして、アスナもメトゥーナトの話を聞いて、納得は出来無そうだったが、理解はしたようだった。

 

 

「いいのよ。ナギはまだ生きているってことだけでも、わかったんだから……」

 

「そう言ってくれると助かる」

 

「うん」

 

 

 そこでアスナは、申し訳なさそうにするメトゥーナトへと微笑みかけた。そして、ナギが生きていることがわかったのなら、それで十分だとメトゥーナトへと語りかけていた。また、そんなしけた空気を吹き飛ばすように、アスナは予定していた麻帆良祭の見物をしようと張り切った様子で発言したのだ。

 

 

「それじゃ、私たちは麻帆良祭を回ろっか」

 

「そうだな、予定通り、そうするとしよう」

 

 

 そのアスナの元気な声を聞いたメトゥーナトも、態度を改めてそうしようと同意した。とりあえず、二人は適当に麻帆良祭を回ることにしたようだ。そこでネギも、次の予定を考えて、行動に移らないとまずいと考えたようだ。

 

 

「あ、僕も生徒のみなさんたちと約束をしていたんだった」

 

「そうですか。では私も麻帆良祭をひっそりと楽しむとしましょう」

 

 

 ネギも自分の生徒と約束をしていたようだ。そして、それなら急がないとと思ったネギは、今すぐにでも移動しようとあわてていた。また、そのネギの言葉を聞いたアルビレオも、自分も麻帆良を見て回る予定だと言葉にしていた。

 

 

「ありがとうございます、クウネルさん。それではまた今度!」

 

「ええ、ネギ君も麻帆良祭を存分に楽しんでください」

 

「はい!」

 

 

 そこでネギは、父親の生存を教えてくれたアルビレオに、お礼を言ってお辞儀したのだ。そして、今度また、図書館島の地下のアルビレオの住む区画へ足を運ぶ旨趣を、アルビレオへと伝えたのだ。アルビレオもそれを聞くと、ネギへと祭りを堪能して来なさいと、そう最後に答えていた。ネギは今のアルビレオの言葉に、笑顔で元気よく返事をしたのだ。その後、各自予定のために、別行動をとるのであった。

 

 

 




麻帆良祭中だからマントぐらい目立たないさ

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