理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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幻ではない、本物が相手だ
地味に咸卦法同士の戦いでもある


五十八話 心の強さ

 まほら武道会はすでに第十一試合目となっていた。あの上人は完全にこの会場から消えており、消息を絶ったようだ。またしても、あのような転生者が現れ、覇王もこの麻帆良祭では、より一層警戒しようと考えた。いや、すでに警戒していたのだ。

 

 なぜならこの大会の主催者である”ビフォア”という男も転生者だとわかっていたからだ。しかし、このビフォアの特典を見た覇王は、どうするべきかを考えていた。そう覇王が深く思考していると、ついに第十一試合が行われたようである。

 

 

 第十一試合は準決勝であり、タカミチとアスナの試合だった。なぜなら一組は両者とも敗退となり、もう一組は勝者の錬が大会を辞退したからである。

 

 

 また、試合前に超がアスナの下へとやってきて、魔法バレの危険性を話し、あまり派手な試合にしないでほしいと頼んでいた。だが、アスナは無理の一言で切り捨ててしまった。何せ相手はあのタカミチ、手を抜くことなど不可能だからだ。さらに、自分が使うのは魔法ではないので大丈夫だ問題ないと、アスナはそう超へと話したのである。

 

 超もアスナの決意を見て、しかたなくそれを諦めることにした。そして葉加瀬に連絡し、この試合の映像流出を防ぐ手伝いをしてもらうことにしたのだ。

 

 

 ……ちなみに葉加瀬と茶々丸はこの試合会場へは来ていない。そもそもこの武道会、ビフォアと言う男が企てたものであり、その二人は何の関係もないからである。当然、そんな明らかに敵地と呼べる場所に、ホイホイとやってくる訳がないのだ。だから葉加瀬と茶々丸は、超のアジトで待機しながら、超から送られてくるデータなどを分析していたのである。

 

 

 

 そして、すでにアスナとタカミチはリングの上で待機していた。司会の叫びのゴングを待つばかりだったのである。そこで二人は、試合前の短い間を使い、会話をしていたのだった。

 

 

「いやあ、まさかアスナ君と戦うことになるなんてね……。考えても見なかったよ」

 

「そうでしょうね。私も高畑先生と戦うなんて、思っていませんでしたから」

 

 

 タカミチは普段と変わらぬ笑みを浮かべながら、アスナへと話しかけていた。しかし、アスナは逆にまったく表情を見せず、淡々とタカミチに答えていたのだ。一体どうしたのだろうかと、タカミチは少し考えたが、それはアスナにしかわからないことだった。そこでアスナは、そんなタカミチへ宣戦布告を告げたのだ。

 

 

「高畑先生、私はネギの仇をとるためにあなたを倒します」

 

「おや、ネギ君の仇のためにかい?」

 

「それ以外にも色々考えていましたが、まずは仇をとりたいと思います」

 

 

 そこでタカミチはネギの仇のためと聞いて、本当にそうなのかと考えたようだ。アスナもそれ以外の理由で戦いに参加したが、まずはネギの仇を優先しようと思ったのである。そして、司会が試合開始を告げ、戦いが始まったのである。

 

 

「左腕に魔力」

 

「右腕に気」

 

「合成!」

 

「”咸卦法”!!」

 

 

 どちらも咸卦法の使い手だ。両者とも交互に、咸卦法の手順を言葉にしながら使ったのである。その直後、両者とも眩い光と共に、嵐のような暴風を周囲に撒き散らしていた。すさまじい光景に、司会も観客も驚きの声を上げていた。そして、それが収まると同時に、タカミチはアスナの右側へ瞬間的に近づいたのだ。

 

 

「”豪殺居合い拳”!」

 

 

 その豪殺居合い拳による、すさまじい衝撃の塊がアスナへと襲い掛かった。しかし、アスナはそれをものともしない態度で、ハマノツルギを構えていた。それはまるで、最初からそうくるとわかっていたかのような行動であった。

 

 

「何のこれしき!!」

 

 

 しかし、アスナはそれをハマノツルギで打ち消し、逆にタカミチへと攻め込んだのだ。だが、タカミチもそれを知っていたので、通常の無音拳でそのアスナを迎え撃っていた。そのタカミチの、音すら出ないほどの速度で放たれる拳の連打に、アスナは攻め切れずに後退を余儀なくされたのだ。

 

 

「アスナ君、君の間合いには入らないよ。”豪殺居合い拳”!!」

 

「クッ! この!!」

 

 

 そこでまたもやタカミチは、アスナへと豪殺居合い拳を打ち下ろす。アスナはそれを防ぐため、ハマノツルギを振り回す。だが、それは大きな隙となるのである。そこへタカミチは通常の無音拳をアスナへ放ち、アスナはそれを左肩に受けて軽く後ろへと飛ばされていた。

 

 

「いっ……、やっぱ高畑先生は強いわ」

 

「それはそうさ。僕はずっと師匠に追いつくために、必死に修行してきたんだからね」

 

「そうね……。でもそれは、高畑先生だけじゃない……!」

 

 

 タカミチはずっと師匠であるガトウを追っていた。そして、そのガトウを並ぶため、さらには越えるためにひたすら修行に明け暮れた。だが、それはアスナも同じことだった。

 

 アスナは自分が足手まといになることをとても嫌っていた。それは自分のせいで魔法世界が崩壊するという理由からくるものである。しかし、それ以上に自分の恩人や友人である紅き翼の面々が、自分のために傷つくことが嫌だったのだ。あのガトウが瀕死になった時、それをはっきりと認識した。だからこそ、ずっと強くなりたいと思い、メトゥーナトに頼んで鍛えてもらったのだ。

 

 そしてアスナは、至近距離から豪殺居合い拳を連打するタカミチの猛攻を避けながら、ハマノツルギを振るっていた。また、その振るうハマノツルギの力で、豪殺居合い拳を消し去っているのだ。それを見て驚いたタカミチは、アスナがどんどん強くなっていることを実感していた。

 

 

「そうだね。アスナ君がこれほどまでになっているなんて、知らなかったよ」

 

「そりゃどうも!」

 

 

 しかし、アスナはそれでも、自分の間合いにタカミチを入れることが出来ずにいた。アスナはタカミチの豪殺居合い拳は無効化できる。しかし、ただの無音拳だけは無効化できないからだ。その無音拳を豪殺居合い拳の間に入れることで、タカミチはアスナを牽制しているのだ。そこでアスナは、近づけないのなら同じ射程の攻撃をすればいいと考えたのだ。

 

 

「”光の剣・波”!!」

 

「それは!?」

 

 

 アスナが刹那との戦いで見せた、光の剣のバリエーションの一つ。手刀にて強力な光の衝撃波を飛ばす技である。タカミチはとっさにそれを回避すべく、右へと移動した。だが、そこにはすでにアスナがおり、ハマノツルギをタカミチ目掛けて横なぎに振るっていたのだ。

 

 

「くっ!? フェイントか!」

 

「あんな大技、高畑先生に当たらないのはわかってますもの!」

 

 

 そしてそのハマノツルギがタカミチの左肘へと命中したのだ。そこでアスナは、そのままハマノツルギを振りきり、その勢いで左わき腹にも衝撃を与える。今の衝撃に、タカミチは紅い液体を口から吐き、リングの端へと吹き飛ばされたのである。だが、アスナはそれでタカミチをしとめたとは思っていない。だからすでに、タカミチが吹き飛んだ方へと移動し、追撃を仕掛けたのだ。

 

 

「まだまだ!」

 

「アスナ君が、これほどとは……。なら、僕ももう少し本気を見せよう」

 

 

 今のアスナの位置は、丁度タカミチの頭上だった。だが、その位置こそが、タカミチが最もよい位置だと感じたのである。そこで、タカミチはアスナへ向けて、無音拳を放った。だが、それはただの無音拳ではなかったのだ。

 

 

「”七条大槍無音拳”!!」

 

「うっああ!?」

 

 

 タカミチの拳から、すさまじい光の柱が放たれた。それはまるで、宇宙戦艦の主砲のような、とてつもないエネルギーだった。この技は威力が尋常ではないため、このような狭い場所では使えない。だが、上空に打ち上げるのなら話は別だ。当然空には何もない。だからこそタカミチは、自分の真上にアスナへと、この技を使えたのだ。

 

 また、タカミチもこの技を本気でアスナに使う気はなかった。本気となれば、複数の巨大な相手を吹き飛ばすほどの威力だからだ。だがタカミチは、豪殺居合い拳を打ち消すハマノツルギを見て、この技を使わなければハマノツルギの無効化能力を抜けないと考えた。だからこそタカミチは、この技を選んで使ったのである。

 

 そして、その攻撃の直撃を受けたアスナは、高く高く空へ舞い上がり、そのままリング場外の池へと落下していった。手加減されていたとはいえ、大技である七条大槍無音拳を直撃してしまったのだ。ただで済むはずが無いのである。

 

 また、アスナはハマノツルギで攻撃しようとそれを振り上げていたために、防御が一瞬間に合わなかったようだ。そのため、ハマノツルギを使って防御するまでの間、その衝撃の直撃を受けてしまったのだ。もはや今のタカミチの技により、アスナは全身に傷を作り、着ていた可愛らしい衣装もボロボロで、見るも無残な姿となっていたのである。

 

 

「あまりこの場では使いたくなかったけど、使わなければ危なかった。許してくれよ、アスナ君……」

 

 

 そこでタカミチは、この技を使ったことで、一人アスナへ謝罪していた。だが、当の本人は池の中に沈んでおり、聞こえるはずがないのだ。

 

 というか、タカミチがここでガチでやりあって、アスナに勝利する意味など本来ならないはずである。しかし、なんだかんだ言って、タカミチも男。これほどまでに成長したアスナとの戦いで、その闘志に火がついてしまったようだ。また、師匠であるガトウのようになるために、修行してきたタカミチは、先に咸卦法を操れたアスナを、少しばかり意識していたのである。

 

 

 そして、誰もが今ので試合が終わったと考えた。どう見ても今の一撃で、アスナが敗北したとしか見えなかったからだ。だがそんな中、刹那や木乃香はあれでアスナが終わったとは思っていなかった。どうしてそんなことが言えるのかは、本人たちにもわからない。しかし、なぜかそう思えてしまうのがアスナであった。

 

 

 またアスナも、今の攻撃で朦朧とした意識のまま、池に沈んでいた。全身の傷が痛み、体に力が入らないのである。しかし、ああしかし、そこで諦めてなるものか。アスナは諦めたくはなかった。いや、まだそれでも諦めていなかった。

 

 ネギに仇をとると約束しただけではない。あのネギの父親、ナギの強さは”諦めない”心の強さだった。その心の強さを、アスナはずっと欲していたのだ。あの人たちと、隣に並んで歩きたい。もう一度一緒に旅がしたい。アスナはいつだって、それを夢見てきたのだ。だからここで諦めたら、このままタカミチに敗北したら、それすらもまだまだ遠いと考えたのだ。

 

 

 アスナはそこで目を見開き、池の底へと沈んだ体に力を入れ、再び水上へと飛び上がったのだ。そして、カウントが9秒を越えかけたその時、アスナはそのリングの床へと着地したのだ。

 

 

「……まだやるのかい? アスナ君……」

 

「当たり前……じゃない……。私は絶対に、負けない……!」

 

 

 その傷だらけのアスナの姿はタカミチですら、どうして戦えるのかさえわからないほどのものだった。観客も騒ぎだし、もう止めた方がよいと言う声まで上がっていた。だが、それでもアスナは止まらない。止まってはいられないのだ。

 

 

「高畑先生……。いえ、タカミチ……! 私はあんたにちょっとばかしイラついてるんだからね……!」

 

「あ、アスナ君……急に何を……!?」

 

 

 しかし、そんな全身傷だらけで、誰が見てもボロボロで、立つのがやっとに見えるアスナは、それでも威風堂々としていた。そこで、タカミチに突然怒りを感じていると宣言し、腕を伸ばして人差し指をタカミチへと向けていた。また、それを聞いたタカミチも、一体何を言っているのだろうかと、少し戸惑っていたのだ。

 

 そしてアスナは、その戸惑っているタカミチの懐へ、虚空瞬動を使い進入し、ハマノツルギで突きを放った。タカミチはそれに気づくのが遅れ、それを腹部へと受けてしまう。その一撃でタカミチは、数メートルも吹き飛ばされたのだ。そこでタカミチは吹き飛ばされた場所に立ち、ダメージを受けた腹部を左手で押さえながら、アスナの方を真っ直ぐ見ていた。

 

 

「あんた、ネギに何期待してるのよ……。ネギはナギの息子だけど、あのアリカの息子なのよ?」

 

「え? いや、違うんだ、僕は……」

 

「ネギはネギで、ナギはナギなんだから、無茶な期待なんてするもんじゃないわよ……!?」

 

 

 タカミチはネギに過大な期待をしていた。それは憧れのナギの息子だからである。そして、ネギもナギのように、強くなってほしいと思っているのだ。だが、それはタカミチのエゴである。確かにタカミチが憧れたナギは、チートじみた強さを持っていた。10歳という歳でありながら、魔法使いだというのに虚空瞬動やら浮遊術やらを操り、過去にてこの大会で優勝したほどだ。

 

 しかし、ネギは違う。ネギはそういう”身体能力的”なチートは持っていないのだ。だからこそ、ナギのように強くなることは、ネギには出来ないのだ。それを期待するのは、ネギには過酷すぎるのである。まあ、ネギも上達力や成長性はチート級なので、ナギのように魔法学校中退して旅をすれば、そうなった可能性もなくはないのだが。

 

 また、それをアスナは見抜いていた。毎回タカミチがネギに会うその表情は、どこかナギを重ねて居る部分があったからだ。だからその考えを改めさせようと、タカミチが参加した時に、アスナもこの大会に参加したのだ。また、ナギに憧れるのなら、もっと芯の部分を見てほしいとも、アスナは思っているのだ。

 

 

「僕はそういう訳じゃ……」

 

「じゃあどういう訳なのか、教えてもらうわ……!」

 

 

 そう言いつつもタカミチは、豪殺居合い拳をアスナへ放つ。しかし、アスナは右手に持つハマノツルギを、仮契約カードへ戻し、素手でそれに挑んでいた。なんという無謀な行動か。そのアスナの行動に、タカミチも正気なのかと思ったようで、かなり驚いた表情をしていた。

 

 だが、アスナは咸卦法の力を用いて、拳を大きく前へと突き出した。それは単純な正拳突きであった。しかし、その拳を突き出した直後、すさまじいエネルギーを拳から放出したのである。それによりタカミチの放った豪殺居合い拳を打ち消したのだ。

 

 

「それは一体!?」

 

「さしずめ”光の拳”ってところね……、今命名!」

 

 

 アスナはしっかりと咸卦法を使いこなせている。だからこそ出来る芸当だった。また、そのアスナの今の技を見たタカミチは、驚きの表情をしながら、それを言葉に出していた。まさかアスナが、豪殺居合い拳のようなエネルギー放出を行うなど、思っても見なかったのだ。そこでアスナは、適当にその技に名前をつけていたのである。それはあのジャック・ラカンの真似であった。また、その攻撃方法は、タカミチが放つ豪殺居合い拳に通じるものがあったのだ。

 

 

「クッ!?」

 

「ほらほらタカミチ! あんたのアドバンテージはもうないわよ……!」

 

 

 タカミチは豪殺居合い拳の間に無音拳を入れて放っている。だが、その無音拳のダメージを無視し、アスナはタカミチへ光の拳を叩きつける。咸卦法によるポテンシャルの増強で、無音拳を防いでいたのだ。まさにそれも、ジャック・ラカンの気合防御と似たようなものであった。

 

 それを見たタカミチは、とても渋い表情をしていた。これはまずいと思ったのだ。だが、アスナは生き生きとした表情で、タカミチへ攻撃を繰り出していた。あれほど手傷を負わされたというのに、それでもここまで動けるというのは、恐ろしいものである。

 

 

「本当に……強くなったね、アスナ君……!」

 

「当然……!」

 

 

 そこで両者とも、相殺し合っていては埒が明かないと考え、接近戦を試みた。そこでタカミチは、やはりやや斜め上から豪殺居合い拳を放つ。アスナは消していた仮契約カードから、ハマノツルギを呼び戻した。そして、タカミチの放つ豪殺居合い拳をハマノツルギで消し去りつつ、左腕から光の拳を使い、タカミチへと攻撃していた。

 

 だが、それもタカミチは虚空瞬動により回避し、隙を見て豪殺居合い拳を放つ。しかし、アスナはその斜め上にいるタカミチへ、新たな必殺の技を繰り出したのだ。

 

 

「新必殺技! ”閃光波動刃”!!」

 

「何だって……!?」

 

 

 アスナは左手を手刀として振り下ろし、その技を解き放った。それはなんと、閃光波動刃、それは光の剣と光の拳を融合させた技だった。光の拳での強力な光の衝撃波を、斬撃の形として放ったのである。その衝撃波はタカミチの豪殺居合い拳を切り裂き、タカミチを襲った。タカミチはそれを見てあっけに取られ、それを左胸から左肩にかけて受けてしまったのだ。

 

 

「しまっ、ぐっ!?」

 

「遅い!!」

 

 

 そしてタカミチは、今の衝撃で上空へ吹き飛んだ。そこへアスナはすかさず虚空瞬動を使い、タカミチの背後へと回ったのだ。だが、タカミチは同じく虚空瞬動を使い、アスナの方を向きなおした。そこで、タカミチは、あの技を再び使ったのだ。

 

 

「”七条大槍無音拳”!!!」

 

「二度目はないわ!”閃光波動刃”!!!」

 

 

 その七条大槍無音拳を、アスナは閃光波動刃を用いて、二つに切り裂いたのだ。今のはかなり無謀な博打だったはずである。タカミチの大技である、七条大槍無音拳を二つに切り裂くなど、普通に考えれば出来るかなどわからないからだ。しかし、アスナは、それをやってのけてしまったのだ。また、それを左右に分断し、回避したアスナを見たタカミチは、さらに技を繰り出すのだ。

 

 

「なら、”千条閃鏃無音拳”!!!」

 

「クッ! ”連続・光の剣・波”!!!」

 

 

 もはや同時と呼べるほどに放たれた無数の無音拳、それが千条閃鏃無音拳である。その威力もただの無音拳などでは比較できないほどだ。さらに、その威力だけではなく、広範囲にわたって攻撃できる優れた技なのである。だが、そこへアスナも負けじと連続・光の剣・波を放ったのだ。それは光の剣・波を瞬間的に連打するという単純な技だった。その連続的に打ち出される衝撃波により、タカミチの技を正面から相殺したのである。

 

 

「アスナ君がここまでだとは……。恨むよ、来史渡(メトゥーナト)さん……!」

 

「来史渡さんだけじゃない……。紅き翼の人たちや今の友人たちからも、私は色んなものを貰ったもの……! だからもう、私は()()()なんかじゃない!」

 

 

 そこでアスナは攻撃をやめ、その連続して放たれる千条閃鏃無音拳へと突撃していった。すさまじい衝撃の連打を受けながらも、アスナはそれを防御しつつ虚空瞬動を使い、タカミチへと近づいたのだ。また、タカミチもその攻撃を止めることなく、むしろさらに速度を増していた。しかし、その猛攻を傷を増やしながらも受け止め、アスナはタカミチの懐へ入ったのである。

 

 

「なっ!?」

 

「”閃光波動刃”!!!」

 

 

 そしてすかさずアスナは、タカミチへ閃光波動刃を打ち込んだ。タカミチは、それを体に直撃を受け、苦痛と共に苦悶の表情をしていた。だが、アスナも今の攻撃は最後の力を振り絞ったものだった。

 

 

「ぐおおおっ!?」

 

 

 ほぼゼロ距離でそれを受けたタカミチは、ダイナマイトの爆発で吹き飛んだように、上空へと跳ね飛ばされた。しかしアスナも今のタカミチの攻撃で、すでに満身創痍だった。その技を出したとたん、力が抜けてリングの床へと落下していった。

 

 なんとかアスナは着地に成功したものの、体力が入らない状態で、ハマノツルギを杖代わりにして立っているのがやっとであった。そこへタカミチが落下してきて、その床に着地してみせたのだ。だが、タカミチも満身創痍のようで、立ってはいるが、もう動けそうな感じではなかった。

 

 

「……アスナ君、最後になぜあんな無茶を……」

 

「……無茶なんかじゃ……ない。……出来るって確信してた……」

 

 

 タカミチはあの千条閃鏃無音拳を受けながらも、自分の懐へと入ったアスナに、なぜそんなことをしたのかと質問していた。普通に考えれば正気の沙汰ではないからだ。拳から放たれる咸卦法の力を上乗せした無数の拳圧を、アスナは防御していたとはいえ、何度も受けていたからだ。

 

 だが、アスナはそれが出来ると確信していた。耐え切れる、一撃入れられる、行けると、そう思ったからだ。だからその方法を選び、タカミチを攻撃したのである。その答えをアスナは、肩で息をしながらも、なんとかタカミチへ伝えたのだ。

 

 そのアスナの答えを聞いたタカミチは、目を瞑りながら考えていた。アスナもまた、ナギのことを尊敬していたのだと。そして、ナギの本当の強さに気がついていたことを。

 

 

「……そうか……。君もまた、ナギのことを……」

 

「そうよ……。私だってナギのこと、好きだもの」

 

 

 ナギは迷惑なバカで、考えなしの不良で破天荒で、本当にどうしようもないバカだった。だが、ナギは人を惹きつける何かがあった。それはなんなのかはわからないが、仲間たちはナギに惹かれていた。腐れ縁やライバルだったりと関係は違えど、やはりナギは多くの人や仲間たちに愛されていたのだ。アスナもまた、その一人だったのである。

 

 そしてタカミチは、アスナが先ほど言っていた言葉を考え、ネギには少し期待しすぎていたと思ったようだ。ナギの息子だからと言って、強くなれと言うのは少し押し付けがましかったと、そう思ったのだ。そこで、そのことをアスナへと、ゆっくりと話し始めた。

 

 

「……そうだね、アスナ君の言うとおり、少し僕はネギ君に、過剰な期待をしていたかもしれない……」

 

「絶対してたわ……。というのもナギの息子だからって強くなきゃいけないなんて、ちょっと横暴すぎるわよ……」

 

「ははは、そうだね……。確かにネギ君は力と言うよりは頭脳タイプだったみたいだ」

 

 

 そのタカミチの言葉を聞いたアスナは、少し怒気を見せながらも、微笑みながら文句を言っていた。タカミチもその文句を聞いて、ネギの才能は力ではなく頭脳にあると言っていた。だが、タカミチもナギに憧れたものの一人。ナギの本当の強さを知らない訳ではなかったのだ。

 

 

「……だけど、僕はネギ君に、諦めてほしくなかったんだ。ナギのように、諦めないでほしかったんだよ」

 

「……はぁ、タカミチは本当に脳筋すぎよ。ネギの言葉をしっかり聞いたの?」

 

 

 だからタカミチは、ネギが潔く敗北を認めたことにショックを受けたのだ。あの場で諦めずに立ち上がり、再び向かってきてほしかったのである。そこでアスナはタカミチに、そのネギの言葉をしっかり聞いたのか質問した。

 

 

「ああ、聞いたよ。今回は負けです、と……」

 

「……そうよ、()()は、負けなのよ。だから次があれば負けないってことでしょ?」

 

「……!! ……そうか、そういうことだったのか……。ははは、僕はまだまだだったみたいだね」

 

 

 そう、ネギは今回は負けだと言ったのだ。つまり次こそは負けないという意思表示だったのだ。それをアスナはわかっていたので、それをタカミチへ説明したのである。するとそれを聞いたタカミチは、その言葉に驚いた後、自虐的に笑ったのだ。なんという思い違いをしていたのかと、自分はバカだったと考えたのだ。

 

 

「まったく、修行ばかりで頭が筋肉にでもなっちゃったのかしら?」

 

「ははははは、いやまったく、アスナ君の言うとおりだ。やれやれ、これじゃ大人失格だね……」

 

 

 そしてアスナはタカミチがずっと修行しているのを知っていた。だから修行のし過ぎで脳まで筋肉となったかと、笑みを浮かべながら冗談を言ったのだ。タカミチもそのアスナの冗談に、大笑いしながらも、自分の思い違いに大人失格だと発言したのだ。

 

 

「本当にそうね。ガトーさんが見たら怒られるわよ?」

 

「それには何もいえないかな。むしろ久々に叱られたい気分さ……」

 

 

 いやまったく、そのとおりだ。アスナもそう思ったようで、そんな失敗するなら、師匠に怒られるとタカミチへ言っていた。その言葉を聞いたタカミチも、むしろ叱られたいほどに、自分のミスに罪悪感を感じていた。

 

 なぜ自分はネギの意思に気づいてやれなかったのか。そう考えれば考えるほど、タカミチは自分を追い込んでいたのである。そんな少しずつ暗い表情となるタカミチに、アスナはまずやることがあるだろうと、それを言葉にしたていた。

 

 

「バカね、タカミチ……。そう思うなら、……まずネギに謝ればいいんじゃない?」

 

「……そうだね、まったくアスナ君に言われないと気づかないなんて、やっぱり僕はまだまだみたいだ……」

 

「そのとおりよ……。っ……まったく世話が焼けるんだから……」

 

 

 アスナから、ネギに謝るよう提案されたタカミチは、それすらも言われないと気づかなかったと、自分を責めていた。だが、そうアスナに言われてタカミチは、少しだけ身が軽くなった気分だった。

そこでアスナは微笑みながら、冷や汗をかいていた。すでに全身ボロボロで、すでに膝が笑っているような状態だった。

 

 もはやハマノツルギを杖代わりにして立っているのすら、限界だったのだ。だが、ここで倒れたら負けてしまう。だから絶対に倒れないのだ。それを見たタカミチは、言葉を言い終えた後に、仰向けで大の字となって倒れたのだ。

 

 

「……()()はアスナ君、君の勝ちだ……」

 

「……ネギの真似? 恥ずかしいわよそれ……」

 

「違うけど、そうかもしれないかな」

 

 

 そしてカウントが10となり、タカミチの敗北が決定した。そこでアスナが勝者となり、片腕を腕を高らかに持ち上げられ、勝利を祝われたのだ。しかし、そんなアスナも限界に達し、その場にへたり込んだのだ。そこで木乃香と刹那がやって来て、アスナを抱えて救護室へと運んでいったのだ。また、タカミチは上半身を起こし、その三人の光景を眺めていた。彼女たちはきっと、自分よりも身も心も強くなれるだろうと考えながら。

 

 こうして第十一試合は終了し、アスナが決勝へと進むことになった。そして、出場者が消えたアルビレオは、そのまま決勝へと足を運んだのである。運命の決勝は、アルビレオとアスナの戦いになるのだった。

 

 




アスナがどんどん強くなっていく……
いや、元のポテンシャルを考えれば十分いけるはず……

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