理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ101:原作キャラを圧倒する転生者


五十七話 危険人物

 まほら武道会第八試合も終わり、第九試合を控えるばかりであった。そんな中、救護室へとやって来た刹那は治療を受けていた。その横でアスナも控えており、少し心配そうに刹那を見ていた。そこへ第八試合で破壊されたリングの修復中と言うことで、木乃香が刹那に会いに来たようだ。

 

 

「せっちゃん! 大丈夫なんか!?」

 

「こ、このちゃん!?」

 

「あ、このか」

 

 

 木乃香は先ほどの試合で怪我をした刹那を心配し、救護室までやってきたようだ。そして木乃香が刹那を見ると、右肩を重点的に包帯が巻かれていた。それは随分と痛々しい姿であった。その刹那の姿を見た木乃香は、少し怒った表情で二人を窘めた。

 

 

「アスナもせっちゃんも無茶しすぎや」

 

「ほんとゴメン。ついつい熱くなっちゃって」

 

「でもそれはお互い様ですので……」

 

 

 お互い互角であり、一瞬の隙が命取りとなる勝負だった。だからこそ両者とも、ある程度の怪我は想定して戦っていた。また、なかなか決着がつかない試合だったので、ついついどちらも本気で技を使ってしまったのである。まあ、それでもこの程度で済んでいるのなら、まだいい方だろう。そんな二人を怒る木乃香も先ほどの戦いにて、そういうことがある程度わかったので、本気で怒ってはいないようだ。

 

 

「ウチはもう巫力ないんやよ……。巫力が残ーとればせっちゃんの怪我を治療するんやけど」

 

「気にしないでください。このぐらい平気ですから」

 

 

 木乃香は前の試合で巫力を使いきってしまったのである。だが、木乃香は本当なら刹那を治療したくて仕方がない。それを木乃香は必死に抑えているのである。その治療を我慢する木乃香の表情を見て、刹那は微笑みながら平気だと言っていた。

 

 

「このちゃんはこのちゃんの戦いをした後ですから、落ち込まないでください」

 

「う、うん……。ゴメンなー、せっちゃん」

 

 

 まあ実際、刹那も無茶な戦いをしたので、こうなっても仕方がないのだ。そのことを刹那はわかっているので、木乃香にそこまでしてもらうのも気が引けるのである。第七試合にて、木乃香もすさまじい戦いを繰り広げていた。だから刹那は、木乃香の治療したいという気持ちだけで満足であった。

 

 そして、そう刹那に言われた木乃香も、申し訳なさそうに謝っていた。そうやって二人が互いに気を使い、しんみりとしつつも暖かな場面の真っ只中に、アスナは鋭い指摘を入れた。

 

 

「だったら覇王さんに治療してもらえば? さっき木乃香だって覇王さんから、治療してもらったんでしょ?」

 

「あ、そやったな」

 

「そういえば……。私もすっかり忘れていました……」

 

 

 アスナは木乃香が治療出来ないなら、同じことが出来る覇王に治療してもらえばよと思ったのだ。何せ木乃香の師匠は覇王だ。その巫力治療ですらも、覇王が教えたのだから当然である。というのも、前の試合で負傷した木乃香を治療したのは覇王であった。そのことを木乃香も刹那も失念していたらしく、言われてみればそうであると思ったようだ。

 

 

「なら、試合を見に戻った方がええなー」

 

「そうですね。ですが覇王さんが治療してくれても、包帯はこのままの方がよいでしょう」

 

「そうね。このかもそうしている訳だし」

 

 

 木乃香も前の試合で覇王から治療を受けていた。しかし、何か不審に思われないように、あえて包帯などは巻いたままにしてあった。だから刹那も、木乃香と同じようにしておこうと思ったのだ。そして、木乃香とアスナは刹那を抱えながら、観客席へと移動していくのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 リングの修復が終わり、すでに第九試合が行われていた。だが、その試合はあまりにもあっけない決着で幕を閉じていた。というのも、対戦していた選手はやはり小太郎とアルビレオだったのだ。やはりと言うべきか、勝者はあのクウネル・サンダースであった。まあ、あれは一種のチートを使っている状態なので、勝てる相手などまず居ないだろう。あの楓ですら、あっけなく敗北するような相手なのだ。仕方のないことである。

 

 そして、小太郎は治療を終えて目覚めた後、悔しさのあまり、やはり外へ出て行ったらしい。というのも、あれほど簡単に敗北してしまったのだ。流石にショックだったのだ。そんな小太郎を追ったのは、なんとあのバーサーカーであった。

 

 

「よう、突然飛び出してどうしたよ?」

 

「……なんや、バーサーカーの兄ちゃんか」

 

 

 小太郎は体育座りをしたままバーサーカーに背を向け、そのまま話し出した。バーサーカーはそれを気にせず、普段通り気楽な態度で小太郎に接していた。

 

 

「俺、弱いんかなぁ……」

 

 

 小太郎はそう言うと、過去の敗北を思い出していた。最初に敗北したのはいつだろうか。そうだ、あのアーチャーとか言うやつに負けたのがはじまりだ。その次に悪魔、そして天使を操るメガネの男だ。さらに今回のフードの男に負けてしまった。最近連敗で一勝もしていないじゃないか。小太郎はそう考えて、さらに気分を暗くさせていた。そこで今の小太郎の言葉に、バーサーカーは答えたようだ。

 

 

「ああ弱ぇー。たまらなく弱ぇーぜ」

 

「そうやろな……。俺は、弱い……」

 

 

 バーサーカーは弱いとはっきり答えた。それを聞いた小太郎は、さらに気分を暗くし、縮こまってしまったのだ。だが、そこでバーサーカーは、その言葉の続きを話し出した。

 

 

「そんな気持ちじゃ誰にも勝てねぇ。強くなりたきゃ心も強くしねぇと駄目だぜ?」

 

「……それはどういうことや?」

 

 

 ふと、そのバーサーカーの言葉に疑問を浮かべた小太郎は、顔を上げてバーサーカーの方を向いていた。そこで見たバーサーカーは、最初に会った時のように、威風堂々とした態度だった。そして、不敵な笑みを浮かべながら、小太郎をサングラスごしに見ていたのだ。

 

 

「な~に、強い奴ってのはな、最後まで気持ちが折れないもんさ。だからウジウジしてるようなやつに、勝利は手にはいらねぇってことよ」

 

「俺は……。確かにさっきの戦い、気持ちが折れていたのかもしれへんわな……」

 

 

 小太郎は先ほどの試合にて、アルビレオに一撃目を防がれた時から、気持ち的に勝ち目がないと感じていた。いや、それ以前にあの楓とアルビレオの試合を見た時から、うっすらとそんな気がしていたのだろう。だが、それを必死に押し殺してでも、何とか勝ちたかった。なぜなら、ネギに仇をとると約束したからだ。

 

 しかし、それはかなわなかった。あれだけ豪語しておいて、あっさり敗北したのが悔しかったのである。また、ネギでさえあのタカミチ相手に食らいつき、勝利目前まで頑張ったのだ。ネギのライバルだと公言した手前、自分は相手に傷一つ与えられなかったことにも許せなかったのだ。そこでバーサーカーは、励ましの言葉を小太郎へと送った。

 

 

「何度黒星貰おうとも、生きてりゃそれ以上の白星を稼げる。悔しいなら立ち上がって、強くなればいいのさ」

 

「……そうやな、こんなんで落ち込むなんて、俺らしくないで……!」

 

「そうそう、それでいい! それに俺と戦う約束しただろう? だったら、さらにお前さんを強くしてやるよ、この俺がな!」

 

 

 生きていれば負けた分以上に勝つことも出来る。バーサーカーはそう言っていた。それはバーサーカーが今は死んだ人間だということも意味していた。また、その言葉で小太郎は元気を取り戻したようだ。負けっぱなしは性に合わない、このままへこたれてるのは自分らしくないと、奮い立たせたのだ。そこでバーサーカーは、小太郎と勝負することを思い出し、それと同時に鍛えてやると言ったのである。

 

 

「兄ちゃんがどんだけ強いかわからんが、そんなら兄ちゃんにも勝つだけやで!」

 

「ハッハッハッ、その威勢が出せりゃもう大丈夫だろう。早く会場へ戻ろうぜ! 次の試合も面白そうだぜ?」

 

 

 そして調子を取り戻した小太郎は、いつものようにバーサーカーへ宣戦布告を叫んでいた。そう豪語する小太郎を見たバーサーカーは、もう大丈夫だろうと思ったようだ。そこで次の試合のことを考えて、帰ることにしたのである。

 

 また小太郎は、飛び回って試合会場へと戻るバーサーカーを追うことにした。その最中に、この男がどのぐらい強いかわからないが、たとえ強くても追い越してみせると考えながら、バーサーカーの後を追うのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そして、アスナたちが観客席へ戻ってきた時に、第十試合が行われようとしていた。それは第四試合にて古菲に残虐ファイトを繰り広げた、あの坂越上人と真名の試合だった。両者とも睨み合い、試合開始を待っていた。

 

 

「さっきは私の友人を随分と痛めつけてくれたな」

 

「ああ、あの拳法の娘ですか。いやあ、私としても、あのようなうら若き娘を痛めつけるのは心が痛みましたよ」

 

 

 真名は古菲を、あれほどまでに痛めつけた上人に、多少なりに怒りを感じていた。確かにこれは試合で、怪我などは避けられないだろう。自分も古菲と戦えば、骨の一本ぐらいは折っただろうと考えていた。しかし、両肩をあれほどの怪我を負わせ、全身を床へと打ち付けて追い討ちをかけはしないとも考えた。

 

 元々古菲は一般人で、気などを操れない。だから防御力などを上げることができないのだ。つまり、あれほどまでに痛めつける必要性は、どこにもなかったのである。だが、あろうことか上人は、戯言とも取れる冗談を口にしていたのだ。

 

 

「ふん、冗談ならもう少しマシなことを言うんだな」

 

「本当のことなんですがねぇ。まあ、いいでしょう……」

 

 

 そして、真名は上人へそう挑発していた。上人はそれでも冗談ではないと言っていたが、本心はそうは思っていないだろう。だが、そんな真名であるが、内心焦りを感じていた。何せあの謎の力を解明しなければ、上人には勝てないと考えたからだ。

 

 また、古菲と上人の試合にて、ためしに魔眼を使ったのだが、その謎の力を捉えることはできても、どんな力かまではわからなかったのだ。そんな最中、ついに司会の叫びで試合が開始されたのだ。

 

 

「それに、あなたはあの娘と同じ運命をたどるのですからねぇ」

 

「そううまく行くかな?」

 

 

 そう言うと真名は、500円玉を上人目掛け連射した。しかし、やはり上人には命中せず、その横を通り抜けるばかりであった。そんな真名を、上人は鋭い視線で眺めていた。なにせ上人がターゲットとしていたのは、この真名だったからだ。

 

 

「無駄ですよ。あなたの現在の力では、私に届くことはないでしょう」

 

「ッ、そうは言うがな……!」

 

 

 しかし真名は諦めず、羅漢銭にて500円玉を連射する。いや、それしか今は出来ないのである。この大会にて武器を持ち込めれば何とかなった可能性はある。だが、それが出来ないのだから、これしか手がないのだ。だが、この攻撃では上人を倒すことは到底かなわないだろう。現に上人は何もせずに立っているだけだというのに、無傷なのだから。

 

 

「もういいでしょう、そろそろあなたには飽きました」

 

「そう言わずに、もう少し付き合ってもらうよ」

 

 

 真名はそう言った瞬間、突然真名の背後に上人が現れた。今のは明らかに瞬動などの超高速移動ではなかった。一体何が起きたのだろうか。そして上人は真名の背後から、一言残した。

 

 

「いえ、もう終わりですよ」

 

「なっに!?」

 

 

 そこで真名はとっさに振り向こうとしたが、その瞬間に謎の力により吹き飛ばされたのである。そして、リングの上を数メートル吹き飛ばされ、何とか体勢を立て直した真名だが、周りを見渡すとおぞましい光景が写っていたのだ。

 

 

「こ、これは……!!?」

 

「あなたがばら撒いた、その安いコインで身を滅ぼしなさい」

 

 

 なんと真名が打ち込んだ500円玉が宙を舞い、横に回転していたのである。まるで円盤のように回転し、空中で停止している500円玉の群れに、真名は驚愕していたのだ。そこで上人が腕を上げ、人差し指を下に下げると、その500円玉が真名へと襲い掛かったのである。

 

 

「グッ!?」

 

「どうです? 自分の巻いた種の味は?」

 

「……鉄の味だね……」

 

 

 そう皮肉を言う真名であったが、すでに全身に500円玉を打ち付けられ、ボロボロとなっていた。この500円玉は円盤のように横に高速で回転しており、その軌道で体にぶつけられていたのだ。ただの撃つだけではなく、そういう回転でのダメージの上昇もあるため、真名が撃つ羅漢銭よりも威力がでかいのだ。しかし、そのおかげで真名は、この上人の能力の正体を大体察することができたようだ。

 

 

「……お前の能力、それは念動力か何かだな?」

 

「ほぉー、当たらずとも遠からずと言っておきますか。ですが、それがわかったところで勝ち目はないのですよ?」

 

「クッ、それもそうだ……」

 

 

 真名はこの男の能力が判明したからそれでよいと考えた。だから試合をギブアップしようと考えたのだ。だが、その考えを上人は読み、そうはさせまいと真名の喉を攻撃したのだ。

 

 

「ガッ……!?」

 

「途中退場など、私に失礼だと思いませんか? だから、そうはいかないのです」

 

 

 そしてまたもや、喉を痛め声が出ない真名の右側へと、上人は瞬間的に移動してきたのだ。それに気がついた真名は、とっさに左側へと移動し、上人との距離を取った。だが、その時点ですでに、上人が真名の背後へと移動していたのだ。そこで真名の背後で、上人は自分の目的を真名へとこっそり話したのだ。

 

 

「私の目的はあなたを再起不能へと追いやることです。これは依頼主からの任務ですので、申し訳ありませんがここで瀕死になってもらいますよ?」

 

「……くっ……」

 

 

 すると上人は腕をアーチを描くように振り回した。それにつられて真名も、その軌道で振り回されたのだ。そしてリングの床に何度も打ち付けられ、その衝突で何度も激痛を味わっていた。また、その真名が衝突した床には、いくつものくぼみが出来ており、その衝突した衝撃の威力の想像は難しくなかった。それを何度も何度も繰り替えし、それを眺めながらほくそ笑む上人が居たのである。

 

 

「グッアッ!?」

 

「もういいでしょう、ではさようなら」

 

 

 そう上人が言うと、真名は神社の本殿の方へと投げ捨てられた。そして観客席へと真名は突っ込み、完全に動かなくなっていたのだ。幸い観客に怪我はなく、吹き飛ばされた真名を驚きの眼で見ていた。だが上人は任務を達成したことで、その達成感に浸っていた。そこで、司会は上人の勝利を断定し、すぐさまタンカを呼んだのである。

 

 今回の試合でも、観客は誰もしゃべらなくなっていた。それほどまでにおぞましい光景だったのだ。しかし、ネギたちはそれに怒りを感じていた。クラスの生徒や、クラスメイトである真名をこれほどまでに痛めつけたのだ。怒らない方がおかしいのである。

 

 

「そう睨まないでほしいものですね。子供先生とその生徒がた……」

 

 

 そのネギたちの視線を感じたのか、上人はネギたちへ聞こえる声でそう言ったのだ。また、楓はすでに真名の下へと駆けつけ、声をかけていた。だが、真名は一応魔族とのハーフであり、体が丈夫であった。だから何とか意識をそこで取り戻し、問題ないと言っていたのである。しかし、それを聞いた上人は、そこへやって来て真名へとトドメをささんと行動したのだ。

 

 

「まだ動けるのですか?ならばしっかりと、トドメをさして差し上げましょう」

 

「御仁、一体何の真似でござるか!? もう試合は終了しているでござるよ!?」

 

 

 その行動に楓は驚き質問していた。いや、質問以前にすでに戦闘態勢となっていたのだ。何せ謎の能力を操る男が瀕死の真名を襲ってきたのだ。警戒しないはずがない。

 

 

「私の任務はそこの娘を”再起不能”へと追いやることです。ですから邪魔をしなければあなたは見逃してさしあげましょう」

 

「そういうことでござるか! しかし、真名を見捨てるという選択は、拙者にはござらん!」

 

「ならばあなたも、そこの娘のようにしてさしあげるだけです」

 

 

 そして上人は楓に向けて謎の能力を使おうとした。楓は影分身を作り出し、それに応戦する構えを取っていた。しかし、そこで上人は突然楓への攻撃をやめたのだ。なんとそこにはアルビレオがやってきており、重力魔法を上人へと使ったのである。

 

 

「むっ……、これはまさか……?」

 

「その辺にしておいてほしいものですね。彼女たちは美しくて若いのですから、傷物にしてしまうにはおしいでしょう」

 

 

 そう冗談めいたことを言うアルビレオであったが、表情に笑みがなく、無表情であった。それほどまでに上人を警戒し、本気で潰そうと考えていたのだ。そんなアルビレオの表情すらも、上人はどうでもよさそうにしていた。また、その上人の後ろにはタカミチも立っており、すでに両手をポケットへと入れていたのだ。さらに、覇王もやって来ており、すでにS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を操っていた。

 

 

「それ以上、僕の元生徒を傷つけるなら、こちらも本気で行かせてもらうよ……?」

 

「お前、やりすぎだぞ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()ですか……」

 

 

 そこにネギたちやメトゥーナト、さらにはエヴァンジェリンもやって来て、完全に上人は包囲された形となっていた。誰もが上人を逃がさんとしているのが、みんなの表情を見ればすぐにわかるほどであった。だが、そんな状況下でさえ、上人はほくそ笑んでいたのだ。なんという余裕の態度か。

 

 

「それ以外にも多数に無勢、まあいいでしょう。私の目的の半分はすでに達成しました」

 

 

 そして上人はそう言うと、徐々に空中へと浮かんでいった。それを追うようにアルビレオも魔法を使う。また、タカミチも無音拳を使い、上人を追撃せんと攻撃したのだ。さらに、覇王もS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の腕で串刺しにせんと襲い掛かっていた。

 

 

「では、みなさん。またの機会にお会いましょう」

 

 

 しかし、それらが命中する前に、上人はそういい残すと瞬間的に消えていった。それはやはり浮遊術や虚空瞬動のような、移動の類ではなかったのである。だが、上人が消えたことで、周りはとりあえず安堵のため息をするのだった。あの上人の能力は、まだ真名ぐらいしか解明していなかったからである。いや、もう一人あの上人の能力を割り出したものがいた。それはやはりアルビレオであった。

 

 

「ふむ、あの男の力はおそらく念動力、いや超能力と言った方がよいでしょうね……」

 

「そうだね、あの男の”能力(とくてん)”は”超能力を操る”のようだ……」

 

 

 覇王には転生者の特典を見抜く力を持つ。つまり、あの上人は転生者だったらしい。そして、覇王はその能力で上人の特典を見抜いたのだ。それが”超能力を操る”というものだったのである。

 

 超能力とは色々あり、読心、念動力、テレポート、未来予知などさまざまだ。だが、あの上人の特典は、そう言ったものを全てまとめた能力の総称であった。さすればその能力は、想像以上の強さを持つことになるだろう。この覇王とて、そう簡単に倒せる相手ではないと、覇王はそう考えていた。

 

 そして上人が消えたことで、とりあえずネギたちは真名を救護室へとつれて行ったのだ。大人数で救護室へと担ぎこまれる真名は、流石にその状況が恥ずかしいようであった。当たり前である。また、エヴァンジェリンがそれに同行し、真名の怪我をこっそり治療魔法で回復していたようだ。

 

 

 ……とりあえず第十試合は終了となり、勝者である上人も消えたことで失格とされたようだ。しかし、次の試合もなかなかハードなものだろう。なぜならタカミチとアスナの試合となるからである。

 

 

…… …… ……

 

 

 真名はエヴァンジェリンに回復してもらったが、とりあえず安静のために救護室で休んでいた。先ほどまでは心配して駆けつけてくれた、ネギや多数のクラスメイトがこの救護室に集まっていた。だが。今はすでに解散したようで、救護室には真名しかいなかった。そこへ一人の少女がやってきた。それはあの、超鈴音だったのだ。

 

 

「手ひどくやられたネ、龍宮サン」

 

「む、超か……」

 

 

 超は雇い主として、そして友人として真名を見舞いに来たのだ。表情は普段通りの不敵な笑みであったが、超は内心かなり焦っていたのだ。なにせあの真名を一方的に痛めつける敵が現れたからだ。さらに、あれほど痛めつけられた真名が大丈夫か、心配だったのである。

 

 

「体の方は大丈夫カナ?」

 

「ああ、そっちは平気さ。何せ謎の魔法使いが治療してくれたからな」

 

「フム、それはありがたいネ」

 

 

 謎の魔法使いとは、あのエヴァンジェリンのことである。一応真名とエヴァンジェリンは顔見知りであり、ある程度知った仲なのだ。それと、一応超に、エヴァンジェリンは協力している形なので、真名の仲間とも言えるだろう。そしてそのエヴァンジェリンが、さりげなく真名を治療したことを聞いた超は、安堵の表情を浮かべていた。

 

 

「しかし、あの力は厄介ネ……」

 

「そうだな。それに奴は何者かに雇われ、私を狙ってきたようだ。そして、雇ったのはあのビフォアと見て間違えないだろう……」

 

 

 超は上人の能力が、想像以上に厄介だと考えていた。何せ物理的な攻撃が一切通らなかったのだ。そう考えて、ではあの力をどうすれば抜けれるかを、超は試合後に深く深く考えていた。また、あの上人と言う男は、何者かに雇われて真名を襲ったと言っていた。それをなぜか上人は、真名へとしゃべったのである。それを聞いた真名は、その雇い主がビフォアだと考察していた。

 

 また真名は、あの上人は自分が治療されることを、すでにわかっていたのだろうと考えていた。上人はあの時、目的の半分は達成されたと言っていた。つまり、真名を再起不能にするという目的が、あの時点は達成されていないと言うことでもあった。だからこそ、トドメをささずに消えたのだろうと、真名は上人の行動を考察していたのだ。だが、その別の半分の目的が何なのかまでは、真名も予想がつかないでいたのである。

 

 

「私もそう思うヨ……」

 

「それよりどうした?私のところなど来て。アフターサービスって言うやつかい?」

 

 

 そこで真名は超を見ながら、どうしてここへやってきたかを質問していた。一応雇い主の超だが、こうしてやってくる必要を真名は感じてなかった。何せ雇われているのは自分である。そこで何が起ころうとも、全ては自己の責任だと思っているからだ。だが、そんな真名へ、超は驚くことを話し始めた。

 

 

「……龍宮サン、契約を解除するなら今のうちヨ」

 

「……何?」

 

 

 なんと超は雇っている真名に、抜けても良いと言っていたのだ。超はあの試合でビフォアが自分が思っていたものよりも、危険な存在だと考えた。そして、あの上人と言う人物も、相当危険な存在だった。だから、このまま自分と共にビフォアと戦えば、最悪真名が命を落とす可能性があると、思ったのである。

 

 

「ハキシ言えば、このままでは龍宮サンの命が危ないネ。だからこの戦いから身を引くなら、今しかないヨ……」

 

「……何の冗談かは知らないが、一度受けた仕事を抜けるのは私のプライドが許さないね」

 

 

 しかし、真名はここで契約破棄などする気はまったくなかった。傭兵としての意地があるのだ。一度請けた仕事なのだ、完遂させなければならないと思っているのである。その真名の言葉に超は、信じられないと言った驚きの顔をしていた。あれほどの相手に一方的に攻撃されて、なおも戦おうと言うのだから当然だ。

 

 

「冗談ではないヨ! 私の目算が甘すぎたネ。これは雇い主である私の責任ヨ」

 

「しかし、相手の実力を把握しておきながら、それに対応できなかったのは私のミスだ」

 

 

 超は自分の考えが甘すぎたことを悔いていた。だからこそ、真名があれほどの攻撃を受けたことに責任を感じていたのだ。だが真名も、先ほどの戦いでの負傷は自分のミスだと断言した。それは相手の能力がわかったというのに、後手に回ってしまったからだ。あの時すぐさまギブアップ出来ていれば、あれほどまでに痛めつけられることなど無かったと、そう考えてたのだ。

 

 

「そういう訳だから、これからもよろしく頼むよ」

 

「……本当にいいのカ?」

 

「ああ、当然だ」

 

 

 そして真名は、止める気は無いという旨趣を言葉にしていた。それを聞いた超は、最後の確認を真名へと送った。本当に自分たちの仲間として、あのビフォアや上人と戦うのかと。しかし、そこで真名は少ない言葉で、戦う意思を示したのだ。

 

 

「そうカ……。わかたヨ、これからもよろしく頼むネ」

 

「それでいいのさ。……おっと、そんな危険となったこの仕事の報酬は、今の3倍ぐらい増やしてくれるんだろう?」

 

 

 二人の契約は再び強固に結ばれた。だがそこで真名は、この仕事の報酬を増やしてくれるよう、超へと交渉していたのだ。それを聞いた超は、多少引きつったが、命に関わることなので、快くそれを承諾したのだ。

 

 

「ム、そうネ……。そのぐらいお安い御用ヨ」

 

「ふふふ、話がわかってくれて助かる」

 

 

 その超の了解を聞いた真名は、普段以上にニヒルな笑みを見せていた。また、超はなかなか商売上手だと、真名のことに感服していた。いやはや、この状況ですら、報酬のことを考えられるのだから、肝が据わっているのだろう。まあ、実際真名は、幾度と無く命と隣り合わせな状況となっているはずなので、このぐらいなんとも無いのである。そして、超は手を振りながら、救護室を後にした。それを真名は眺めながら、とりあえず傷が癒えているなら、この会場を見回ろうと考え、準備を始めていたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:坂越上人(さかごえ かみと)

種族:人間

性別:男性

前世:30代教師

原作知識:あり

能力:超能力での攻撃や防御

特典:超能力を操る

   自分の力に振り回されない

 

 


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