理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ97:オリジナル魔法

明らかに不利なネギ


五十四話 新旧教師対決

 さて、この第六試合はあのネギとタカミチの戦いである。”原作”ならばネギは中国拳法を習得していた。だがここのネギはそれを習得していない。つまり、完全な魔法使いスタイルなのである。そんなネギが、どうタカミチと戦うのか、それは本人しかわからないことだった。

 

 

 そして、とうとうまほら武道会第六試合が始まった。子供先生ネギに対するは学園広域生徒指導員、通称デスメガネ、高畑・T・タカミチである。ネギは今回の大会に杖を持って来ており、それを握り締めてタカミチへと挑むようだ。そこで、両者とも規定の位置につき、開始の合図を待つのみであった。アスナたちも静かにそれを眺めていた。

 

 

「さあやろうか、ネギ君」

 

 

 タカミチがそう言うと、両腕を上着のポケットへと入れていた。この一見ふざけたかのような構えこそ、タカミチの戦闘態勢なのである。また、タカミチから放たれるプレッシャーに、ネギは少し圧せられていた。しかし、当たって砕けろ、砕ける前に砕け、その精神でそのプレッシャーを跳ね除けたのだ。そして誰もがこの試合を息を呑み見守る中、ついに火蓋は切られた。

 

 

 ネギはまず”戦いの歌”と”風楯”を使用した。しかし、このネギは殴り合いや”瞬動”などを行うことが出来ない。ではどうするか。防御しながら魔法の射手で攻撃しかないのだ。つまり、攻撃技は全て無詠唱の魔法の射手のみで戦う以外ないのである。だが、相手のタカミチも中距離での戦闘を得意とする。ということは、詠唱も無くただ拳を打つだけで攻撃できるのだ。したがって、タカミチのほうが圧倒的に有利となる。

 

 

 するとタカミチの無音拳、ここでは”居合い拳”と呼ばれているものが、ネギに向かって飛んできたのだ。これは音も無くポケットから飛び出す、拳からの拳圧による遠距離攻撃である。この攻撃は目に見えぬほどの拳の打ち込みであり、見切らなければ何が起こって居るかもわからないほどの攻撃なのだ。

 

 だが、ネギはそれを防御で耐えていた。なんという堅牢さか。このネギが目指すものは、近距離戦闘も出来る魔法拳士ではない。遠距離戦闘に特化した魔法使いなのである。

 

 しかし、完成された魔法使いは、距離を関係なく戦うことが出来る移動砲台となることも可能なのだ。つまり、今のネギが目指すものは、その移動砲台なのである。また、この居合い拳を無傷で耐えたネギに、タカミチは驚いていた。

 

 

「やるね、ネギ君。この攻撃を無傷で防ぐなんてね」

 

「出来るかは賭けでした。でも成功する自信もありました」

 

 

 ネギは魔力の操作の基礎の基礎から叩き込まてきた。それは魔法に使用する魔力量を増やすことによる、魔法の強化も出来るということだ。だからネギは普段よりも多くの魔力を”風楯”に使用することで、その障壁の強度を高めたのだ。だが、防御だけではタカミチは倒せない。さあ、どうするネギよ。

 

 

「だけど守っているだけじゃ僕には勝てないよ?」

 

「わかってます。だから僕も攻めに行きます!」

 

 

 するとネギはいったんしゃがみ、杖を床につき一秒だけ待った。そしてその次の瞬間、高速でタカミチへと接近したのだ。だが、これは瞬動ではない。ただの”戦いの歌”により魔力での身体強化を利用した移動でしかない。つまるところ、今のネギでは瞬動が使えるタカミチを、捕えるのは難しいのだ。

 

 しかしネギは、そのタカミチの移動を追いながら、遅延魔法による無詠唱での魔法の射手を溜め続けていた。また、その間にもタカミチの居合い拳がネギへと突き刺さる。

 

 

「それじゃ僕には追いつけないよ、どうするんだい? ネギ君」

 

「はい、それもわかってます」

 

 

 しかしネギは、タカミチの居合い拳を防御し、魔法の射手を撃ちつつ、タカミチを追うしかなかった。だが、魔法の射手もタカミチの操る居合い拳の拳圧によりはじかれ、命中することはない。これではただの鬼ごっこでしかないのである。

 

 いや、そもそもあのネギが、闇雲にこのような真似をするだろうか。そんなはずがないだろう、何か意図があるはずだ。そう何度もネギがタカミチを追跡していると、タカミチが最初にネギのいた場所へと移動したのだ。その瞬間ネギは、魔力を使いトラップを起動したのである。

 

 

「”重く沈む万有の檻”!」

 

「これは!?」

 

 

 ネギがトラップとして使用した魔法は重力魔法であった。その魔法にとらわれたタカミチは、数十倍という重力の力により、足が床に沈み身動きが取れなくなったのだ。そう、ネギは闇雲にタカミチを追いながら、単純に魔法の射手を飛ばしていたのではなかった。この自分の仕掛けたトラップを引っ掛けるために、タカミチを追い込んでいたのだ。

 

 あの時、最初しゃがんだ時に、ネギはこの魔法を設置したのである。はっきり言えばこれも大博打であった。なぜなら設置がバレれば意味もないし、タカミチがトラップに引っかかる可能性も高くはないからだ。

だが、ネギは運と実力をもって、そのチャンスを物にしたのだ。

 

 しかし、ネギはなぜ重力魔法を覚えたのだろうか。それは難しいことではない。あのアルビレオに重力魔法を教えてもらったのである。このネギが見た魔法で最も印象が強かったもの、それは師匠であるギガントが用いた引力の魔法だった。つまり、ネギが重力の魔法を覚えたいと思うのもまた、必然だったのである。

 

 

「まさか重力魔法での束縛とはね」

 

 

 その罠にはまったタカミチも、まさかネギが重力魔法を使用してくるとは思っていなかった。なにせタカミチが知る中で重力魔法が得意なものは、あのアルビレオぐらいしかいないからである。また、ネギがすでにアルビレオに出会っていることを、タカミチは知らなかったのだ。そして、この絶好の機会を逃すことは許されない。だからネギは溜め込んだ雷の魔法の射手11発を近距離でタカミチへと放ったのだ。

 

 

「魔法の射手! ”集束、雷の11矢”!!」

 

 

 その雷の魔法の射手がタカミチへと命中すると、タカミチは吹き飛ばされ池の方へと飛んでいった。だが、この程度でタカミチが倒れるはずがない。そうネギは考え、次の攻撃の準備へと移っていた。そこへ池の上を歩き、平気な顔をするタカミチが居たのだ。しかし、実際タカミチは、今の魔法でそこそこダメージを受けていた。ただ、平気そうに見えるだけなのである。

 

 

「今のには驚かされたよ、流石ネギ君だ」

 

「やっぱり、今ので勝てるほど甘くはないですか……」

 

 

 平気そうなタカミチを見たネギも、この結果をわかっていた。だからこそ攻撃態勢を解かないのだ。そこでタカミチはそろそろ本気を出そうと考えたようだ。なにせ自慢の無音拳、いやここでは居合い拳ではネギに思うようにダメージを与えられないからだ。だからこそ、男と男の勝負として本気を出すことにしたようだ。

 

 

「ネギ君、僕は今日、嬉しいことばかりだよ」

 

 

 と、その前にタカミチはネギへと微笑みながらネギへと語りかけていた。流石は自分が憧れたナギの息子だ、これほど嬉しいことはないと。そして、ネギを少年ではなく男として認め、本気を出そうと、静かにネギへと話したのだ。そこで、タカミチは左手に魔力を、右手に気を集中させたのだ。

 

 

「”合成”!」

 

 

 タカミチがそう言うと、気と魔力を混ぜたのだ。するとすさまじい衝撃がタカミチを中心に放たれたのである。また、本来、気と魔力は反発しあうものである。しかし、これを合成することにより、とてつもない力を得ることが出来るのだ。これが、咸卦法というものである。

 

 しかし、しかしネギは知っている。この力を知っている。何せアスナが平気でよく使っていた、あの技術なのだから、知らないはずがなかったのだ。ほんの少しだけしか、アスナの咸卦法を見たことがないネギだが、あの技術のすさまじさを近くで感じていたのだ。だからこそ恐ろしい、これからが本番だと、ネギは考えていた。そこでタカミチは、ネギへ一言忠告を入れた。

 

 

「一撃目はサービスだ、避けろネギ君」

 

 

 そのタカミチの言葉の直後、すさまじい轟音と共に、大砲のような一撃が床を揺らした。そして、それが命中した場所には、まるで砲弾が着弾したかのような、巨大なくぼみが出来ていた。なんという威力だろうか。これこそが”豪殺居合い拳”というものだ。

 

 その一撃に流石のネギも戦慄し、少し怯えた表情をしていた。今の一撃、自分の風楯をもってしても防げそうにないからである。

 

 と、その光景を見ていたアスナは、ずっと細い目でタカミチを見ていた。そこへやってきたのは、メトゥーナトであった。

 

 

「どうやらタカミチのやつ、少し本気を出すようだな」

 

「まったく、大人気ないわねえ」

 

 

 メトゥーナトはアスナへ話しかけるように、タカミチが本気を出したと言っていた。それを聞いたアスナも、試合を見ながら大人気ないと答えていた。また、刹那や小太郎はこのネギの試合に夢中で、回りを気にしている余裕がないようだった。そんな中、微妙にしかめ面をしたアスナだけが、メトゥーナトの存在に気がつき話しているようだ。

 

 

「さて、どうするのやら。高速回避が出来ない少年には、あの状態のタカミチはつらいだろう」

 

「砕け散るしかないんじゃない? この状況をひっくり返す力がネギにあるなら、それはそれですごいことなんだけど」

 

 

 なんせあの豪殺居合い拳、とんでもない威力なのだ。あれが避けれなければ厳しいとメトゥーナトは判断していた。またアスナも、砕け散って当たり前、これで逆転できるのなら、とんでもないやつだろうと考えていた。

 

 そうアスナとメトゥーナトが会話している間に、ネギは防御をしつつ、なんとか豪殺居合い拳をいなしていた。なんとかネギが豪殺居合い拳を回避できているのは、タカミチが観客席に気を使い、斜め下へとそれを放っていたからだ。

 

 

「守りきれない……!」

 

 

 この状況にネギは焦っていた。この威力の居合い拳を防ぎきれないからだ。ギリギリで何とか直撃だけを回避し、余波を障壁で防いではいるが厳しい状況だ。だが、タカミチはネギのほぼ真上へと飛び、直撃ルートの豪殺居合い拳が準備したのだ。そこでネギは最大の防御”風花・風障壁”にてそれを防御したのだ。しかし、防いだのはいいがネギはタカミチを見失っていたのだ。そして、その隙にタカミチはすでに、ネギの背後へと回っていたのだ。

 

 

「風障壁は優れた対物理防御魔法だが、効果は一瞬。連続での使用は不可能という弱点がある」

 

 

 律儀にタカミチはネギが今使った障壁の説明を述べていた。だが、ネギはその言葉を聞いて振り向く暇などなかった。そこへ豪殺居合い拳が襲い掛かろうとしていたからである。

 

 しかし、ネギはとっさに魔法を使った。それはなんと”火を灯れ”であった。それをタカミチの顔へと使うと、一瞬タカミチは目をくらまされたのだ。そのおかげで、タカミチが今放った豪殺居合い拳はネギに直撃せず、かすっただけにとどまったのである。

 

 

「まさか、そんな手で今のを避けられるなんてね……」

 

「防御や攻撃だけが魔法じゃない!」

 

 

 火を灯れは簡単に使える魔法である。ゆえに無詠唱も簡単に出来るのだ。だが、これを無詠唱で唱えようという魔法使いは誰もいないのである。なぜならライターを使った方が、効率が良いからだ。しかし、基礎として火を灯れを練習してきたネギは、これを無詠唱で使えるようになっていた。

 

 しかし、今の手はもう二度とタカミチには通用しない。ネギはそれがわかっていた。

だから次の手に移ることにしたのだ。

 

 

「この距離なら……”足引く枷”!」

 

「むっ!?」

 

 

 するとネギは次に周囲の重力を少しだけ重くする魔法を使ったのだ。弱い重力魔法だが、今のネギが使える無詠唱での重力魔法はこれが精一杯なのである。しかし、先ほどのトラップの数分の一程度の重力の増加でしかないが、タカミチは一瞬動きが鈍くなった。突然の重力上昇に、あのタカミチも反応が遅れたようだ。そこへネギは、今まで再び溜め込んでおいた魔法の射手をタカミチへと放つ。

 

 

「魔法の射手! ”集束、雷の22矢”!!」

 

「クッ!?」

 

 

 今度は先ほどの倍の魔法の射手だ。それを再び近距離でタカミチに命中させたのだ。この攻撃に流石のタカミチも、苦悶の表情と共に苦痛の声を漏らしていた。だが、ああ、だがしかし、そのネギが魔法を撃った隙を、タカミチはついたのである。

 

 そこへ豪殺居合い拳がネギへと直撃したのだ。なんということだ、まさかのカウンターとは。ネギも今のは予想できなかったため、一瞬混乱したようだ。また、風楯こそ張ってはいたが、この直撃には耐えることが出来なかったのだ。

 

 そしてさらに、そこへもう一撃、床とネギを挟むように、豪殺居合い拳が放たれた。その一撃により、ネギは完全に動かなくなってしまったのである。

 

 

「今のは効いたよ、はっきり言って危なかったかな……?」

 

 

 今の魔法の射手はかなり効いたようで、タカミチも少しだがふらついていた。しかし、最後に立っていたのはタカミチだった。司会はネギの状態を見てタカミチの勝利としたのである。だが、タカミチはネギの方を見ていた。それは、こんなもので終わってしまうのかと言う、期待と失望の目であった。

 

 

「だけど、これで終わりなのかい……? ネギ君……」

 

 

 ネギはタカミチの顔を見ながら、その言葉を聞いていた。諦めるのか、君の想いはその程度なのかと。しかし、このネギは父の強さを求めていた訳ではない。人々の役に立つため、立派な人になるために、魔法を求めていた。だがそれとは別に、父の諦めないという強い意志を求めていたのだ。だからこそ、ここで諦める訳にはいかないだろう。

 

 ただ、ネギはそこでさらに考えた。この戦いにおいて無理をする必要があるのかと。ネギは師であるギガントから、無理をしないように言われていた。無理とは自らを壊しかねない恐ろしいものだと教わってきた。妥協しろと言うわけではない。諦めないことと無理をすることは、似ているようでまったく違う意味だ。

 

 ああそうだ、無茶ならいいだろう。まだあがきの範囲だ。しかし無理はいけない。それは出来ないことなのだから。自分の父であるナギは、きっと絶対に出来るという確信のもと、諦めずに戦ってきたはずなのだ。いや、無理した場面があるならば、それは絶対にひくことの出来ない場面だったのだろうと、そうネギは考えた。

 

 そこで、ここで無理をしてまで、タカミチに勝利する意味があるのかを考えたのだ。確かに今のタカミチは強大な壁である。だが、どの道タカミチはここで真の本気は出さないだろう。本人もそう言っていたし、これがタカミチの全力ではないことを、ネギはうすうす気づいていた。だからこそ、ここで無理してタカミチに勝つ必要がないと、ネギは悟ったのだ。

 

 

「……()の僕ではここまでです。()()は、僕の負けです……」

 

「……ネギ君……」

 

 

 ネギはタカミチに勝利することと、今後のことを天秤にかけて負けを認めた。確かにもう少し、もう少しだけ戦えば、今の魔法のダメージが抜け切っていないタカミチを、倒せたかもしれない。そう考えながらも、ネギはあえて負けを認めた。そして、負けを認めることはとても難しいことだ。しかし、それでもネギは認めたのだ。

 

 だが、()()と付け加えた。そうだ、今はまだ勝てない。しかし、いずれは追い抜くぐらいにはなりたい、そうネギは考え始めていた。それは諦めではない。諦めで負けを認めたのではない。次こそは勝つという意思にもとで、あえて敗北を選んだのだ。

 

 ネギは戦いを好まない少年だ。しかし、それでも少年なのだ。それゆえ敗北を笑って許せるような人間ではないのである。だからこそ、戦いを好まないながらも、もう少しだけ力がほしいと思ったのだ。自分の生徒を守れるぐらい力が、タカミチに負けない力が、ほしいとそこで思ったのである。

 

 

 だが、この結果にタカミチは少しがっかりしていた。あのナギの息子なら、ここで粘ってくれると考えていたからだ。そう信じていたからだ。しかし、ネギは敗北を選んだ。それをとても悲しく思い、そして本当に少しだが落胆の色が見て取れたのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 そして試合は終わり、ネギは救護室へと移動していた。そこにはアスナだけがやって来ていた。あの小太郎や試合を見物していた他の生徒たちは、刹那や木乃香に呼び止められ、ここへは来ていなかったようだ。アスナは敗北したネギを、励ましに来たようであった。だが、励ましに来た割に、第一声はやはりアスナらしかった。

 

 

「やっぱ砕け散ったのね。粉々にされちゃったかしら?」

 

「あ、アスナさん……?」

 

 

 だが、その普段どおりのアスナの対応が、今のネギにはありがたかった。別に慰めの言葉がほしい訳ではない。ただ、この悔しさを打ち明けたかったのだ。

 

 

「……僕は、負けてしまいました……」

 

「仕方ないじゃない。負けて当たり前でしょ?」

 

 

 ネギは敗北したことを悔しく思い、顔を下に向けていた。そしてアスナからは、その表情が見えないようにしていたのだ。だが、アスナは今のネギが、とても悔しく感じていることに気がついていた。ゆえに、少しだけ言葉を選んで、そのネギへと優しく語りかけたのだ。

 

 

「だけど悔しいなら、無理しないで泣けばいいんじゃない?」

 

「あ……」

 

 

 アスナはそう言うと、姿勢を低くしてネギを抱きしめていた。ネギは教師で魔法使いだが、10歳である。我慢することはない、お前は今泣いていい、泣いていいんだ。アスナはそうネギへと言ったのだ。するとネギも感情を抑えられなくなり、アスナの胸の中で静かに泣いていた。

 

 敗北を認めた、諦めずに次は勝つと決めた。だが、やはり悔しかったのだ。もうすぐだったと思った、あと一歩で勝てると思った。だが、ネギは最後の一手が届かなかった。だからとても悔しかったのだ。そこでアスナはネギを抱きしめながら、ネギの頭を撫でてやっていた。本当に泣く子をあやすように、撫でていたのだ。

 

 大きな声ではなく、静かであったがネギは涙をとめどなく流した。そして、一分は過ぎただろうか。ようやくネギは落ち着いたようで、アスナの体から離れてその彼女の顔を見上げていた。

 

 

「どう? 少しは落ち着いた?」

 

「……はい、ありがとうございます。いえ、むしろ申し訳ありません、こんな見苦しいところをお見せして……」

 

「気にしないのよ。私はあんたよりずーっと年上なんだから、このぐらいどうってことないわ」

 

 

 ネギは今の号泣が気恥ずかしいのか、照れた表情で礼と謝罪をしていた。また、アスナも気にしないと言っていた。なんせ100歳超えたお姉ちゃんなのだから、一応遠い遠い親戚の関係なのだから、このぐらい当然だと思っているのだ。ただ、アスナから見たネギは、孫というよりもやはり弟のようなものだった。そして元気になったネギを見て、アスナはある決意を固めていた。

 

 

「ネギ、私があんたの仇を取ってあげるわ」

 

「え……? アスナさんが!?」

 

「ちょっと高畑先生を、懲らしめよーと思うのよ」

 

 

 アスナはなんとネギの仇をとるために、タカミチをぶっ飛ばすと言い出したのだ。流石にネギも、今の言葉に驚いていた。あのタカミチを倒すというのだから当然だった。しかし、アスナは本気だった。それは表情にも見て取れていた。

 

 そのアスナの表情を見たネギは、そのことはそれ以上何も言わなかった。だが、アスナの対戦相手は、あの刹那だ。楽に勝てる相手ではないだろう。それはアスナもよくわかっていた。

 

 

「でもまずは刹那さんを倒さないとならないのよね、楽には勝たせてくれそうにないわ」

 

「そうですね。とても手ごわいかと」

 

 

 神鳴流の剣士であり、バーサーカーと覇王に鍛え上げられたあの刹那。はっきり言えば五分五分だとアスナは考えていた。だがアスナも決して弱くはない。皇帝直属の部下であり、あの紅き翼の一員だったメトゥーナトに、鍛え上げてもらってきたからだ。しかし、相手が刹那であろうとも、絶対に勝つ。そうだ、ここで負ける訳にはいかない。そうアスナは本気で意志を固めたのだ。

 

 

「だけど、刹那さんと戦うのは、ちょっと楽しみだったりもするんだけどね」

 

「どうしてですか?」

 

「だって強いじゃない。それに他の剣士と戦うのって、めったにないことだもの」

 

 

 アスナはメトゥーナトとはよく模擬戦をしていた。だが他の剣士と戦う機会はなかった。それゆえアスナは、詠春と同じ神鳴流の剣士である刹那との戦いを、少し楽しみにしているのだ。強者こそが正義と言うほどに、あの刹那との戦闘を待ちわびていた。

 

 

「アスナさんって結構戦い好きなんですね」

 

「別に好きじゃないし、普段はやらないけどね。でもこういう機会だからこそよ」

 

 

 アスナ普段なら特に戦おうという気はない。突然バトルしようぜなど言ったら、完全なバトルジャンキーみたいだからだ。ただ、こういった大会ならば、話は別である。何せ戦いの場なのだから、本気でぶつかり合えると考えていたのだ。そこで、ネギは観客席へと戻ることにしたようだ。

 

 

「そうですか、じゃあとりあえず戻りましょうか」

 

「そうね、次の試合はこのかが出るし、応援してあげないとね」

 

「はい!」

 

 

 そしてネギは次の試合を見物すべく、観客席へと戻っていった。またアスナは途中でネギと別れ、木乃香を応援しに、木乃香が準備しているであろう更衣室へと移動移動して行った。さて、次の試合もまた荒れそうである。何せあの木乃香の試合なのだ。きっとまたしても嵐のような、すさまじい戦いになるだろう。なんとまあ、波乱な武道会はまだまだ終わる気配がないのだった。

 

 




テンプレ97:ネギ、敗北

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