理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ93:転生者に従者


五十話 コンテスト 従者

 *コンテスト*

 

 

 うっかり忘れていたが、麻帆良祭初日にて、コスプレコンテストが図書館島で開催されていた。このドマイナーなイベントは公式プログラムには載っていない秘密の大会である。そんな大会の中に、なにやらガン○ムエ○シアや忍○戦士○影っぽいのもちらほら見てとれた。

 

 そして、そんなところに居たのは、やはり長谷川千雨だ。彼女はこのコンテストに出るか否か迷っていた。それもそのはず、この千雨は人前に出ることや目立つことに臆病なのだ。だから、現実(リアル)で人前に出るこのコンテストの出場に迷っていたのだ。

 

 と、そこへ一人の少年がやってきた。世界樹パトロールをサボっていた一元カズヤだ。カズヤは世界樹の枝で一眠りした後、ここへやってきたのである。単純に暇つぶし目的だ。それに気づいた千雨は大層驚いていた。

 

 

「な、なんでテメェがここに居んだよ!」

 

「あぁ? 居ちゃ悪ぃのか?」

 

「悪いに決まってんだろ!」

 

 

 なぜこんなところにカズヤがやってきたのかわからない千雨は、カズヤに叫んでいた。だが、その叫びを適当に受け流しまわりを見回すカズヤだった。そこでカズヤはここが何なのかを千雨に質問したのだ。

 

 

「なあ、ここで何がはじまんだ? 喧嘩か?」

 

「喧嘩な訳あるかバカ! コスプレコンテストって書いてあるのが読めねーのか!」

 

「あー? そういえばそう書いてあるな。わりぃわりぃ」

 

 

 このカズヤ、頭が悪い。すこぶる馬鹿だ。そこにクズとウスノロを足してもいい。目の前に堂々と書いてあるコスプレコンテストを読まずに千雨に質問したのである。そんなカズヤに心底あきれつつ、千雨はまたしても叫んで、それをカズヤに教えていた。だが、さらにカズヤは千雨に質問した。

 

 

「で、コスプレって何だ? 食えるのか?」

 

「食えねーよ! コスプレってのはなぁ……!」

 

 

 千雨は自分の趣味であるコスプレとなるとすぐに熱くなる性格だ。このわからずやのカズヤにコスプレの一から十を詳細に教えてやったのだ。だがカズヤは、その一ぐらいしか解らなかった。まあ、とりあえずアニメや漫画のキャラになりきるということだけはわかったようだ。そして、このコンテストに千雨が居るなら、当然出るのだろうとカズヤは思い、それを千雨に言ったのだ。

 

 

「あーわかったわかった! ところでよ、お前もこれに出んのか?」

 

「い、いや私は出ねーよ……」

 

 

 しかしその質問に答えられず、千雨はどもってしまった。何せ出場するということは、大衆に身を晒すことだからだ。ゆえにどうするか、ずっと踏ん切りがつかずに迷っているのである。そこでカズヤは千雨の表情で、それを少し読み取ったようだ。

 

 

「本当か? まっ、出ないんなら気にする必要なんてねぇだろ?」

 

「あ、ああ……」

 

「でもさ、お前。本当はこのコンテストに出たいんだろ?」

 

「そ、それは……」

 

 

 カズヤは千雨の核心に触れていた。そう、千雨はこのコンテストに出場したいと思っていた。だがやはり、人前に出るのが恥ずかしいのだ。だからずっと考え込んでいたのである。そんな千雨のどっちつかずの態度に、カズヤは少しイラっとしていた。どちらかはっきり決めるのが、カズヤの生き方だからだ。

 

 

「おいおい、それじゃどうしたいんだ? 出たいんだろ? だったら出ればいいじゃねぇか」

 

「た、確かに出場してーと思ったよ。だが私は普通の女子中学生、他の人に比べて凡の凡。明らかに結果は見えてるんだよ」

 

 

 千雨は自分が普通の一般的な中学生レベルだと思っていた。また、ネットであげる画像も修正しているので、自分に自信が無かったようだ。だからこのコンテストに出てもいい結果は出せないと考えていた。だからリスクが高い勝負はしたくないと思い、出場を拒んでいたというのもあったのだ。しかし、今の言葉はカズヤにとって聞き捨てなら無いものだった。戦う前から負けているというのが、少し気に入らなかったのだ。

 

 

「はぁ? 喧嘩する前から負けを決めてんのかお前? そんなもん、やってみねぇとわからんねぇだろ?」

 

「わかってるから、そう言ってんだろーが! わかれよ!」

 

「あのなぁ……。喧嘩は勝ちに行くんもんだろ? はなっから諦めてたんじゃ勝てるもんにも勝てねぇよ」

 

 

 カズヤは千雨が最初から負けを考えているのが許せなかった。だが千雨は、その負けがわかっているから、そう言っていると叫んでいた。しかしカズヤは、そんな千雨に対して淡々と言葉を送っていた。千雨はそれを聞くと、どうすればいいとカズヤへと質問していた。

 

 

「なら、どうすればいいんだよ。どうせ負けるとわかってんだ。出たってしょうがないじゃねーか」

 

「だから勝手に勝敗を決めんなって。それはただお前が自分に負けてるだけじゃねぇか」

 

 

 自分に負けてる。千雨はその言葉に衝撃を受けた。身を震わせ、目を開いてその言葉を聞いていた。確かにその通りだった。出てもいない大会で、最初から負けを認めているなど、大会以前に自分に負けているということだ。その千雨の様子をカズヤは見て、さらに言葉を続けた。

 

 

「だったら何も気にせず、自分のやりたいようにすればいい。負けるのがいやなら勝ちにいけばいい。お前にはそれが出来るだけの力があんだろ?」

 

「あ、ああ。確かにそうだよな……。ん? 力があるだろって……まさか……」

 

 

 千雨はカズヤの言葉で少し勇気がわいたようだ。だが、それ以上に、おかしい、何かおかしい、千雨はそう考えた。力がると言うのは、つまり自分がコスプレしていることを知られて居るのではないだろうか?

 

 さらに言えばこの会話、最初からカズヤが自分がコスプレをして居ることを、さも知って居るかのような流れだったような。千雨は今の会話を思い出し、いや、まさかと思い始めていた。そこで千雨はそれの確信を得るために、カズヤに叫びながらも質問したのだ。

 

 

「て、テメェまさか、私のHPを知ってやがるな!?」

 

「ん? ああ、アレね。俺じゃねぇよ、俺のルームメイトがお前のファンなんだよ」

 

「なん……だと……」

 

 

 なんてこったい。カズヤは千雨のHP、”ちうのホームページ”を知っていたのだ。そしてカズヤが言うには、カズヤのルームメイトが千雨のファンということだった。まさかそのような経由でバレるとは、千雨も考えていなかった。これにも千雨は衝撃を受けていた。あの流法にもずっと隠してきたこの趣味が、あろう事かこのカズヤに、ばれていたのだから当然だ。だが、そんなショックを受けている千雨に、カズヤはどうと言うことはないと言っていた。

 

 

「別にいいじゃねぇか。アレだって、他人に見せるためにやってんだろ?」

 

「そ、そうだが、知り合いに知られるのと他人に知られるのでは大違いだ!」

 

「だってお前の趣味なんだろ? だったら自信を持てよ」

 

 

 HPに掲載するのだから、当然人に見られたいはずだ。カズヤはそう考えた。だが千雨は、知らない人には見られてもいいが、知り合いに自分の趣味がバレるのを恐れていた。こんな趣味を持っているなんて知り合いにバレたら、何を言われるかわからないからだ。しかし、カズヤはまったく気にしていなかった。

 

 

「な、なんだよ。何も言わねーのかよ……。笑わねーのかよ……」

 

「んなもん知らねぇよ。むしろ俺の趣味なんか喧嘩だぜ? 周りから見りゃはた迷惑なもんだろ? だがお前の趣味は違う。別に誰にも迷惑がかかってねぇ」

 

「だが変だと思わねーのか!? 知り合いがこんな趣味で恥ずかしくねぇのか!?」

 

 

 千雨は不安だった。この趣味がバレてバカにされることが、とても怖かった。しかしカズヤは気にしていない。むしろ自分の趣味のほうが悪趣味だと言い張っていた。だが、それでも千雨はそんなカズヤの態度が信じられなかった。だから叫んで問いただしたのだ。

 

 

「だから別にいいじゃねぇか、お前の趣味だろ? それにお前の趣味に賛同してるやつだって結構いるんだろ? そんな態度じゃそいつらに失礼じゃねえのか?」

 

「うっ……」

 

 

 カズヤが言っていることは単純だった。変な趣味だとしても、それを応援しているファンがいるのだ。それを否定してしまっては、彼らが可愛そうだと言ったのだ。千雨はそのカズヤの言葉に、何も言えなくなっていた。そもそもパソコンの前では、随分とえらそうなことを豪語しながらHPを更新している千雨だ。そんなことを言われたら、流石に言葉を失うもの当然であった。

 

 

「俺のルームメイトも、お前の大ファンみたいでよ、毎日うるせぇのさ。だけどよ、お前がそう言っちまうと、そんなあいつが報われないだろ?」

 

「……確かにそうかもな……」

 

 

 そうカズヤに言われ、千雨はこのコンテストに出場するかを深く考えていた。また、自分のHPでもファンに出ないかと聞かれ、迷っていると答えていた。だから一部のファンはこのイベントを見にきている可能性があるだろう。そこで自分に期待して来たファンが居て、自分がこのコンテストに出場しないのなら、そのファンに失礼かもしれないと考えた。だから結果はどうあれ、とりあえず出てみるかと千雨は決心したようだ。

 

 

「はぁ……わかった、私の負けだ。このコンテストに参加してやるよ」

 

「はっ、やっぱはなっからやる気だったんじゃねぇか」

 

 

 千雨はカズヤの言葉でコンテストに参加することに決めたようだ。いや、ここに来た時からすでに参加しようと決めていたのかもしれない。ただ、あと一歩踏み出せなかっただけなのだろう。それをカズヤが背中を押した形となったのだ。

 

 そして千雨は着替えて出番を待っていた。その千雨の格好は、あの魔法少女ビブリオンの敵幹部、ビブリオ・ルーラン・ルージュだった。主人公である魔法少女ビブリオンは二人一組のセットなので、一人ではパッとしないと考えたようだ。また、その横でダルそうにしながらも、それを眺めるカズヤが居た。

 

 

「よく出来てんだな、それ」

 

「当たり前だろう? 誰が作ったと思ってるんだ?!」

 

「超人気ネットアイドル、ちうタンさんだろ?」

 

「う、ウルセー! くそー、どうもやりずれぇ……」

 

 

 カズヤは純粋に千雨のコスプレの出来を褒めていた。なにせ自分が出来ないような器用なことだ。ものめずらしいのである。そこで褒められて自慢げに自分を語る千雨だったが、カズヤの次の言葉で自爆したと感じたようだ。また、邪念がなく純粋にそういうことを言うカズヤの前に、千雨はたじたじとなっていた。そこで千雨の出番となり、名前を呼ばれていた。一応ハンドルネームの”ちう”で登録したようだ。

 

 

「呼ばれてるぜ。頑張れよ」

 

「あ、ああ……。自分の番になってから急に緊張してきた……」

 

「気にすんな、誰も見んな、天井を見ろ」

 

 

 出番となって急に緊張しだす千雨。その横でぶっきらぼうなアドバイスをカズヤが送っていた。そしてステージに千雨が立つと、はやり緊張と恥ずかしさで体が硬直してしまったようだ。やはり短期間で人は変われるものではない。千雨はあまりの恥ずかしさと緊張から顔を真っ赤に染めて、両手で顔を隠し膝を突いてしまったようだ。

 

 そこで、もはやどうしてよいかわからなくなった千雨は、自分の醜態を謝り始めていた。しかし、それを見ていたカズヤはやれやれと言う表情をしながら、多少嬉しそうに笑っていた。すると観客から歓喜の声があがり、千雨は一躍人気者となっていた。さらにそのまま優勝してしまったではないか。

 

 もはやこうなるなど予想すらしていなかった千雨だが、適当な理由をつけて自分を納得させていた。これにて無事にコスプレコンテストは終了し、再び着替えた千雨がカズヤの元へ戻っていった。

 

 

「優勝おめでとう、ちうタン?」

 

「ウルセーな! その名前でいちいち呼ぶな!」

 

 

 ケタケタと笑い皮肉っぽく優勝を祝っているカズヤ。そこでそのハンドルネームで呼ばれることを嫌がる千雨が居た。しかし蓋を開けてみればあっけないものだった。まさかこうも簡単に優勝してしまうとは、千雨もまったく思いもよらなかったのである。そこでカズヤは先ほどの話を振り返って、こう言うのである。

 

 

「どうだ? 喧嘩はやらなきゃわかんねぇもんだろ?」

 

「そうだな……。さっきまでの、勝手に負けた気分でいた自分が、バカらしくなっちまったよ。でもあれ、喧嘩じゃねーだろ?!」

 

「どんな形であれ喧嘩は喧嘩だ。お前が買った喧嘩ってやつさ」

 

 

 カズヤはなんでも喧嘩にたとえる癖があるようだ。そして千雨は先ほどまで負け戦だと思っていた戦いで優勝したことで、最初から負ける考えはバカな事だと思い始めていた。だが、やはりカズヤの喧嘩という言葉にツッコミを入れていた。まあ喧嘩というより試合だからだ。しかし、そうカズヤにツッコむ千雨は、とてもいい笑顔だった。こういうコンテストに参加して、優勝できたというのは彼女にとって大きな自信となっただろう。

 

 

「そうだ、お礼を言ってなかったな。ありがとう一元」

 

「んなもんいらねぇよ。俺が勝手にお前を応援しただけだからな」

 

 

 そういえばカズヤに優勝を祝ってもらった礼をしていなかったことを千雨は思い出した。それと、このコンテストに参加して賞を取れたのも、こいつのおかげだとも考えた。だから千雨はしっかりとカズヤに礼を言った。だが、その表情は照れくさそうで、そっけなく横を向いていたが、声ははっきりと発音していた。しかしカズヤは、そんな礼など不要、勝手に自分がやったことだと言い張った。そこで千雨はこいつはツンデレってやつかと思ったようだ。

 

 

「なんだ? 素直じゃないんだな。ツンデレキャラだったかお前は?」

 

「あぁ? ツンデレって何だ? 食えるのか?」

 

「食えねーよ! つーかこのやり取りさっきもやったぞ!!」

 

 

 カズヤはツンデレを知らなかったようだ。そして、またしても食えるのかと聞き出すカズヤだった。それを聞いて千雨はデジャブを感じ、叫ぶようにツッコミを入れていた。その後適当に二人で麻帆良祭を回って居たが、そこへ流法がやってきてカズヤと喧嘩を始めたのである。いつも見ていた二人の喧嘩に慣れた千雨は、自分がこの状況に慣れきっていることに驚愕し、頭を抱えていたのだった。

 

 

――― ――― ――― ――― ―――

 

 

 *従者*

 

 

 さて、麻帆良祭にて、ネギはのどかとデートをしていた。転生者が多く警備をしていたためか、ネギは随分時間を使うことが出来たようである。そしてこのネギ、魔力溜まりをうまく避けてエスコートしていた。なかなかやりおる。

 

 

 

 そんな中、一人寂しく歩く少年がいた。カギだ。カギは世界樹パトロールが終わり、やることも無くただ一人でぽつんと立っていたのだ。パトロールで本気を出しすぎて、完全に燃え尽きていたのだ。

 

 だが、そこへ一人の少女がやってきた。魔法使い見習いとなった、綾瀬夕映である。その夕映はのどかとネギのデートを覗くことなどせず、ある目的のためにカギに会いに来たようだ。そこで夕映は完全にボッチなカギへと声をかけたのだ。

 

 

「あの、カギ先生」

 

「ふぁ~、あん?」

 

 

 もはややる気のかけらも無く、ただぼけーっとしていたカギ。そのカギは突然夕映が声をかけてきたことに、少しだけ驚いていた。だが、どうでもいいことなのだろうと構え、適当に返事をしたのである。しかし、夕映の表情は真剣であり、何かをカギに頼もうとしていたのだ。

 

 

「カギ先生、折り入って相談があります」

 

「そーだん? なんのじょーだん?」

 

 

 夕映が相談をカギに持ちかけていた。それを聞いたカギは、洒落だと思ったようで、ふざけた態度を取っていた。そんなカギの態度を無視し、夕映は話を進めた。

 

 

「冗談なんかじゃありません。私と仮契約をしてほしいのです!」

 

「かりけーやく? いいよいいよ、かりけーやくね…………仮契約ぅぅ!?」

 

「な、何ぃー!? 兄貴と仮契約ぅぅ!?」

 

 

 なんと夕映はカギに仮契約の相談を持ち出したのだ。そのカギはボケていたようで、仮契約という言葉を流しかけた。が、その仮契約という言葉に気が付き、やる気の無い態度から一変、すさまじく驚いた後に興奮していた。なんせ、これが本当なら初めての従者が出来るのだから当然だ。そのカギの頭で半分寝ていたカモミールも、それを聞いて驚き飛び跳ねていた。

 

 

「はい、そうです。最近仮契約について学びましたので、試して見たいのです」

 

「まさか兄貴にパクチャンスが来たー!! いっちょ張り切りますか!」

 

「はあ? 学んだ? 誰から? まさかネギか!?」

 

「あれ? カギ先生は私の師匠のことをご存知ありませんでしたか?」

 

 

 カギは夕映がギガントから魔法を教わっていることをまったく知らなかった。弟のネギも、このことはカギに話していなかったようである。しかし、”原作知識”に当てはめればこういうことを教えるのは、あのエヴァンジェリンなはずだとカギは考えた。

 

 だが、この世界のエヴァンジェリンに師事しているのは自分だけで、他には誰も居なかった。だからこそ、誰がこの夕映の師匠をやっているのかわからなかったのだ。そのことを考えているカギの頭の上で、カモミールはカギのパクチャンスと聞いて喜びの雄たけびを上げて張り切っていた。

 

 

「いや、全然知らねーんだけど?」

 

「そうでしたか。師匠はカギ先生のことを多少知っていたようなので、すでにわかっていると思ったのですが……」

 

「んん~? 俺のことを知ってるだと!?」

 

 

 ギガントはカギのことをある程度知っている。同じ村で数年も過ごしたのだ、知らないはずがないのである。だが、このカギはそのギガントとあまり接点を持たなかった。ネギがギガントの弟子となって数年たった時に、ようやくその存在を知ったぐらいである。そこでカギは某怪獣博士の姿の転生者程度にしか考えなかった上に、そこまで気にする存在でもないと思ったからだ。

 

 ただの老いぼれ爺には興味を抱かないのである。だからこそ、夕映の師匠がギガントであることに気付かないのだ。また、先ほどはテンションが上がっていたカモミールも、カギと夕映の会話を邪魔しないように、黙っていた。が、内心ははよパクろうぜと考えていた。

 

 

「私の師匠はギガントさんです。白髪のおじーさんです」

 

「あ、ああ~! あのジジイか! え? 何!? あのジジイ魔法使いだったのか!?」

 

「カギ先生はあまり師匠のことを知らないのですね。ネギ先生は師匠の弟子だったのですが」

 

「なんだと!? どおりでよくあの村でジジイんとこに行っていた訳だ!」

 

 

 ここでようやくカギは、ネギがあのギガントの弟子であることを知ったようだ。そして、あの山奥の村で魔法薬店に通っていた理由もわかったのだ。そこであのアーニャも同じくギガントの弟子である可能性が高いと、カギは考えた。だが、別にそのぐらいどうでもよいと、その考えを投げ捨てていた。それよりも、今は夕映の仮契約の件を考えようとカギは考えたのだ。

 

 

「ま、いいや。で、仮契約だっけ?」

 

「はい! カギ先生が主として仮契約をしてもらいたいのです!」

 

 

 夕映は最近仮契約とアーティファクトをギガントから学んだようだ。のどかも同じように学び、アーティファクトを起動できるようになっていた。

 

 また、のどかのアーティファクトはいどのえにっきであり、他者の考えを読むものだ。だからギガントはあまり使わないように、一応言ってあるのだ。そののどかも他人の心を読む行為には流石に罪悪感があるので、あまり使わないことを約束していた。

 

 だが、のどかのアーティファクトを夕映は見て、少しうらやましく思ったのだ。そのため自分も仮契約をしてアーティファクトがほしいと考えたのだ。

 

 

「なんで俺に? 別にそれなら弟子同士ネギでもいいんじゃね?」

 

「あ、兄貴!? 何言ってんだ!? 待望の初従者候補ですぜえ!?」

 

 

 しかしそこで、仮契約をするなら弟子同士でしてもよいだろうと、カギは考え夕映にそれを言った。そもそもカギは、自分よりも紳士なネギのほうがよくね?と思っていたのである。世界樹パトロールにて、目の前でイチャコラするカップルに当てられて、自暴自棄になっているのである。先ほどは夕映とカギの会話の邪魔をせんと黙っていたカモミールだったが、このパクチャンスを逃す必要などないとカギへと必死に叫ぶカモミールが居た。

 

 

「だってよー、俺しょっぺーしー。変態だしー、しかもモテねーしー」

 

「兄貴ぃ!? そういうことじゃねーっしょ!?」

 

「ネギ先生はのどかと仮契約してます。だから私はカギ先生に頼みたいのです」

 

 

 夕映は単に、のどかからネギを奪いたくないと思った。だからネギとの仮契約に戸惑いを感じたのだ。だが、やはりそれでも、うんと言わないカギであった。

 

 

「じょーだんはよしなされ。俺なんかと仮契約してもいいことねーよ?」

 

「ほらほらパクっちまおうぜ兄貴! あっちはめっちゃヤル気だしパクっちまおうぜ!!」

 

「カギ先生と仮契約しようとした理由はもう一つあります!」

 

 

 もはやカギは冗談ならやめてけれーと夕映に言っていた。その横で騒がしくパクれーパクれーと叫びまくるカモミールが居た。必死すぎる。そんなカモミールをスルーして、夕映はもう一つ目の理由をカギに話していた。

 

 

「私が魔法を知ったのはカギ先生のおかげです。カギ先生がどう考えて、あの時魔法を使ったかはわかりませんが、魔法があることを知ったのは、カギ先生が私の目の前で魔法を使ってくれたからです!」

 

「ん? あー、そんなこともあったね」

 

 

 夕映は魔法を知れたのはカギのおかげだと感謝していた。カギが図書館島の地下で魔法を使わなければ、魔法を知ることなく生きていたと、夕映は考えたからだ。だからこそ、カギと仮契約をしたいと思ったのだ。だが、そのカギはどーでもよさそうな顔で、そんなことあったねと言っていた。

 

 何せこのカギ、原作崩壊を知るまでは必死で原作どおり物事を進めようと考えていた。あの時魔法を使ったのも、それのためでしかなかったのだ。だからそのことで感謝されても、実感が沸かないのである。そこで、気の乗らないカギに、夕映は頭を下げていた。

 

 

「はい、だから仮契約をするならカギ先生だと思いました。どうかお願いします!」

 

「ほら! お嬢ちゃんが頭下げてるんだぜ!? 兄貴も男を見せる番だろう!?」

 

 

 そこで頭を下げられてはカギも断るに断れなくなってしまったようだ。カモミールもこのチャンスを逃す手は無いと、カギを必死に説得しようとしていた。その頭を下げる夕映を見て、まあ減るもんじゃないしいいか、とカギは考えた。

 

 

「はあ、俺でいいならしてやるよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「っしゃあ! 契約魔方陣用意しますぜ!」

 

 

 仮契約の方法は基本的にキスである。これが最も楽な方法とされているからだ。だからオコジョ妖精のカモミールは仮契約の魔方陣をとっさに用意しようとしたのだ。だがしかし、それを夕映はいらぬと申し出た。

 

 

「あ、それには及びません。これを師匠から貰ってきましたので」

 

「なにそれ?」

 

「簡易式仮契約ペーパーです。これに拇印を押すだけで仮契約が出来るそうです」

 

「はあああ!? うそだろおお!?」

 

 

 夕映がポケットから取り出した一枚の紙。印と書かれた円が二つ、左右の端に書かれており、中央には魔方陣も描かれていた。これが簡易式仮契約ペーパーである。この紙に拇印を押すだけで、簡単に仮契約ができるすさまじい魔法具なのだ。皇帝印の一つであり、仮契約魔方陣などが使えない場合に簡単に仮契約を済ませられるという優れものである。

 

 それを見てカモミールは断末魔のごとき叫び声をあげていた。これで仮契約されればお金が入ってこないからである。だが、それをカギは気にせずよしとした。このカギは従者がほしいのであって、別にキスがしたい訳ではなかったのだ。というのも、カギは前世にてそういう経験がない。つまり、色々豪語しているが、いざとなるとウブなのが、このカギであった。

 

 

「はい、これが朱肉です。ここに拇印を押してください」

 

「おう、これでいいんか?」

 

「じゃあ、私も」

 

「なんてこったああああ!? 俺っちの出番はどこへ!?」

 

 

 そこで二人がその紙に拇印を押すと、光が輝き仮契約が完了された。カギを主として夕映が従者となったようだ。また、拇印を押す方向で主と従者を決定することが出来るため、拇印を押す方向を逆にすれば、従者と主を逆転できるのである。これでカギは待望の従者を手に入れたことになる。

 

 だが、なぜかは知らないが、カギはあまり嬉しさを感じてはいなかった。むしろこんなもんか、と思う程に冷めていたのである。これが所謂燃えつき症候群である。なんせ世界樹パトロールで暴れ散らしてしまったので、色々発散したせいか、完全にクールダウンしまくっていたのだ。また、展開的に感動するようなシチュエーションでもないというのも大きいだろう。しかし逆に、夕映は従者となり仮契約カードを得たことを、心から喜んでいた。

 

 

「こんなもんかあ、まあ夕映よ。なんか主とかどうでもいいけど、これからよろしく」

 

「はい、カギ先生! これからよろしくお願いします」

 

「うおお、俺っちって一体何なんだ……」

 

 

 とりあえず主と従者という枠組みとなったので、適当に挨拶をする二人。カギは主とか従者とかどうでもよく、教師と生徒の関係で十分だと思ったようだ。もはや完全に冷え切ったカギ。まあ劇的なものではなかったので仕方が無いことだろう。

 

 そこでカモミールは自分の役目を紙一枚に取られたことを嘆き、自分はなぜ存在しているのかと哲学的なことを考えていた。そして、夕映は仮契約カードを使ってアーティファクトを呼び出してみようと思ったようだ。

 

 

「これが仮契約カードですか! 早速使ってみましょう、来れ(アデアット)!」

 

「あ、やっぱそれなんだ。俺もネギも差がねぇのか」

 

 

 夕映のアーティファクトは”原作どおり”世界図絵であった。単純な魔法百科事典であり、魔法に対する質問を自動検索し正しい回答を教えてくれるものだ。カギはそれを見て、やはりそれなのかと思っていた。だが夕映は自分のアーティファクトを目を輝かせながら眺め、手で撫でてその感触を実感していた。

 

 

「すごいです、魔法のことなら何でもわかる本みたいです」

 

「すりゃよかった。じゃあ俺はもういいよな?」

 

「俺っちの出番、俺っちの役割……」

 

 

 夕映は自分のアーティファクトを使い、色々検索しているようだ。そういう知識は溜め込みたい夕映。自分が知った魔法知識を使って、色々な事を調べていた。それをどうでもよさそうに眺め、カギは役目は終わったと思い立ち去ろうとしていた。また、カギの頭の上でカモミールは、再起不能レベルまで落ち込み、次からの出番すらも心配していたのである。

 

 

「じゃ、またな」

 

「あ、待ってください、カギ先生」

 

「え? まだ何かあんの?」

 

 

 カギはもう用はないだろうと、さっさと退散しようとした。別にやることが無いので、適当にフラフラしようと思ったようだ。しかし、そんなカギを夕映は呼び止めたのだ。何事かと思い、カギは再び夕映の方を向いて話しかけた。

 

 

「カギ先生は暇ですよね? 一緒に麻帆良祭を回りましょうか?」

 

「はぁ? なんで?」

 

「一応形だけとは言え、仮契約の主と従者となったのです。少しぐらい親交を深めてもよいではないですか」

 

「まあ、そう言うならいいけどよー」

 

 

 夕映はカギへ一緒にこの麻帆良祭を回ろうと言ったのだ。しかし、それを聞いたカギは、なぜという質問をする始末だった。昔なら喜んでYESと即答しただろう。これも、やはり燃え尽き症候群のせいである。まあ、謎テンションで喜ばれるよりマシだろうから、これはこれでよいだろう。

 

 そこで夕映は仮契約した仲となったなら、多少なりに仲良くしてもよいのではと言ったのである。それを聞いたカギは、しぶしぶと許可をしたのである。そして、とりあえず適当な場所を見つつ、歩く二人だった。そんな二人をよそに、カモミールはカギの頭の上で青くなり、ブツブツと何かを呟いていた。

 

 

「ところでカギ先生は、どんな魔法が得意なのでしょう?」

 

「あぁ? 俺自身は火系と地系の適正が強いっぽいが、それ以外は風系だな」

 

「火と地と雷ですか、結構多いのですね。私は風が得意のようです」

 

 

 カギの得意とする属性は火と地である。だが、特典の力により風も得意なのだ。そして夕映は風などが得意のようであった。得意のようと不確定な言い方なのは、まだ攻撃の魔法を覚えておらず、適正のみを教えてもらったからだった。

 

 しかし、魔法の会話など人が多いこの麻帆良祭のど真ん中で話しててもよいのだろうか。だが、夕映はこっそりと認識阻害の魔法を使っており、他人にはゲームの会話ぐらいしにか聞こえないようにしているのだ。ギガントが言い渡した規則の、他人に魔法を知られないということを、しっかりと守っているのである。しかし、普通はそれをカギがやらなければならないことなのだろうが。

 

 

「へぇー、風ねえ。どんな魔法を覚えたん?」

 

「対物衝撃用障壁や、水の転移魔法、それから最近はようやく杖での飛行を教えてもらいました」

 

「は? 水の転移魔法?マジで使えんの?」

 

「はい、頑張って覚えました!」

 

 

 夕映は逃げる魔法、飛ぶ魔法、防御の魔法を覚えたようだ。そこで夕映の水の転移魔法を覚えたという言葉に、かなり驚いていたようだ。なにせカギが思い当たる中で、この水の転移魔法で最も有名な使い手はあのフェイトなのだ。だからこそ、影の転移魔法ほどではないにせよ、かなり強力な転移魔法であることを知っていたのである。そんなすごい魔法を使えるようになったと言った夕映に、カギはとてつもなく戦慄していたのだ。

 

 

「何かおかしいですか?」

 

「い、いやいや。何でそんなパねえ魔法覚えちゃったわけー?」

 

「師匠が何かあっても、すぐ逃げれるようにと教えてもらったのです」

 

 

 ギガントは夕映やのどかに攻撃魔法をまったく教えていない。だから何かあった場合、抵抗や反撃が出来ないということだ。それゆえ、転移魔法や防御などをみっちり教え、何かあった時でもすぐ逃げれるようにしていたのである。その一つが転移魔法である。影や水を使って転移する魔法であり、覚えているととても便利なものだ。

 

 

「そう聞けば確かにそうだなあ。世の中逃げるが勝ちと言うしな」

 

「はい、それに私は攻撃魔法を覚えていないので、こうやって逃げるしかないのです」

 

「攻撃魔法を覚えてねぇだと!? 魔法の射手もか!?」

 

「はい、まだ覚えてません」

 

 

 カギは夕映が逃亡、防御特化だと話でわかったようだ。だがその夕映は攻撃魔法を覚えてないとカギへ言った。そこでカギは魔法学校でも覚える魔法の射手も覚えていないのかと夕映へと質問したのだ。そして夕映の答えは、やはり覚えていないというものだった。その答えにカギは少し驚いていた。普通は魔法の射手ぐらい使えてもいいはずだからだ。

 

 

「なんで覚えねぇんだ? 別にそれなら使えねー訳じゃなさそうだが?」

 

「師匠はあまり、攻撃魔法を教えたくないと思っているみたいですので……」

 

 

 ギガントは攻撃魔法を教えるのを渋る。それはあまり他人を傷つけてほしくないからだ。それに、職業柄、そういうことを教えたくないと考えているのである。まだ判断の甘い若い娘には、攻撃魔法を使ったことで後悔してほしくないのだ。

 

 しかし、カギはその話に納得行かなかった。なんせ普通に覚える魔法だからだ。だから駄々をこねれば教えてくれるだろうと夕映へと話していた。

 

 

「それでも教えてくれっつえば教えてくれんだろー!?」

 

「かもしれません。ですが私も攻撃魔法を使うのが少し怖いのです……」

 

「怖い? なんで!?」

 

 

 夕映は攻撃魔法を使うことを恐れていた。それはギガントがはじめて、攻撃魔法を見せてくれた時の光景が、記憶に焼きついていたからだ。また、それだけではなく、他者を傷つける攻撃魔法を使うことに、ほんの少し恐れを抱いていたのだ。だがカギは、魔法学校で普通に教えてもらうので、魔法の射手ぐらい怖くないだろうと考えているのである。

 

 

「攻撃魔法は他人を怪我させてしまうものです。私は神秘的な魔法に憧れて魔法使いになりたいと思いましたが、誰かを傷つけたいと思った訳ではありません」

 

「なーるほど。確かに攻撃魔法はそういう観点から言えば、凶器になるわな」

 

 

 カギは夕映の説明に納得したようだ。確かにそうだ、怪我させる攻撃魔法は普通に考えて凶器である。このカギもストレス発散のために、他人を攻撃するほどクズではないので、それがよくわかったのだ。それに、無抵抗の人間に魔法の射手を使ったあの銀髪の光景が、今でも目から離れないのだ。

 

 

「でもま、自分の身ぐらい自分で守れるようにならねぇと一人前じゃねえからな。最終的には覚えた方がいいぜ?」

 

「はい、最後には覚えたいと思ってるのです。だけど今はまだ、覚悟がないですから……」

 

「覚悟かあ。生まれつき魔法使いの俺にゃあまりわかんねぇことだわ」

 

 

 攻撃魔法を使うのに覚悟などはいらんだろうと、カギは考える。だが夕映は、他人を怪我させたくは無いので、どうも踏ん切りがつかないのだ。だからとりあえずカギは、気にすることはねーと夕映に話したのである。

 

 

「まあなんだ、あんま気にしすぎてもしゃーねーぞ? おめぇが攻撃された時、抵抗ぐらい出来た方がいいたー思うがね」

 

「やはりそうですか。私も少し考えさせられることがあったので、そう思っているんです……」

 

 

 夕映はへルマンが麻帆良にやってきた時、スライムに襲われた。その時、自分が何も出来ず、ただマタムネに守られているだけだったのを思い出していた。実際は杖も何も無かったので、何か出来るという状況でもなかったのだが。しかし、あの時杖があって攻撃できれば、あのスライムを逃がさずにすんだかもしれないと思っていたのである。まあ、それが出来たかわからないから、夕映は水の転移魔法を必死に覚えたというのもあるのだが。

 

 

「ふむふむ、まあいいんじゃね? 今はそれでもよ。その内出来るようならぁ!」

 

「そうですね。今はまだ、攻撃魔法よりも別の魔法を覚えたいと思います」

 

「そうそう、それでいいんだって。攻撃魔法だけが全てじゃねぇしな!」

 

 

 そのカギの言葉に夕映は、とりあえずは現状維持でよいと考えた。今すぐ攻撃魔法を覚えずとも、とりあえず逃げる魔法は覚えたのだから、十分だと思ったのだ。またカギも、攻撃魔法だけではなく、他の魔法を使ってみようと考えた。カギはエヴァンジェリンとの修行で、攻撃魔法でのゴリ押ししかしてなかったのだ。

そこに絡め手として、それ以外の魔法を使ってみようと考えたのだ。

そして二人は現時点での答えを出し、とりあえず麻帆良祭を楽しむことにしたのであった。

 




カズヤは知っていて、わざとボケている確率50%です
また、カズヤはただの喧嘩バカです

あとカギ君はずっと燃え尽きてればいいかもしれない

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