四十八話 狂戦士と翼の娘 未来の事情
*狂戦士と翼の娘*
ついに麻帆良祭が始まった。世界樹の魔力で告白が成功してしまう呪いも発動したようである。そのため魔法使いたちは告白しそうな人たちを、気絶させるなどの対策を行っていた。
また覇王も面倒そうに、小鬼を飛ばしてそれを行っていた。
…… …… ……
覇王が今を忙しそうに動いている中、桜咲刹那はバーサーカーと麻帆良祭を回っていた。あの修学旅行での最終決戦時に、バーサーカーへ連絡せずに置いていってしまったからだ。
流石のバーサーカーもその時だけはずいぶん不貞腐れたようだった。まあ今はもう気にはしていないようだ。その穴埋めをいつかすると、刹那はバーサーカーへ言ったのを思い出し、こうして一緒に歩いているのだ。
「あの時は本当にすいませんでした」
「もう気にしてねぇよ」
刹那は数ヶ月前の、京都就学旅行での襲撃事件の最終決戦に、バーサーカーを置いて行ってしまった。一応バーサーカーへ連絡する手段はある程度あったはずなのに、それすらもしなかったのである。
だから刹那はそのことを、今更ながら謝っていた。まあ、あの事件が終わった後、随分と謝ってたりしてるのだが。その謝罪を聞いたバーサーカーも、何ヶ月も前のことなので、すでに気にしていないと言っているのだ。
「しかし、あの後随分と不貞腐れていたじゃないですか……」
「そりゃそうさ、なんたって一番楽しそうな場面を逃しちまったんだぜ? グレねぇほうがおかしいぜ」
バーサーカーは、あのリョウメンスクナを見逃しただけでも随分とショックだったらしい。しかも、それと戦えた可能性もあっただけでなく、刹那たちに置いていかれたことで、あの時は随分と機嫌を悪くしていたのだ。その割には鹿と戯れたりと、結構バカなことをやらかしていたが。
「まあ惜しむんなら、あの覇王の本気が見れなかったことだぜ。アイツは本気をあまりださねぇからな」
「覇王さんのあの姿ですか?」
「おうよ、たしか甲なんとかっつー
「あれが黒雛……」
覇王の本気モード、つまり甲縛式
また刹那は、あの覇王の姿が黒雛という名が付いていたことを、今さらながら知ったようだ。そこで刹那はあの時の覇王の姿を思い出していた。すさまじい炎の力と、リョウメンスクナを一撃で破壊したあの超火力をだ。
「あの黒雛、まあ普段見せねぇっつーか、見せる必要がねぇからな。あれを出したってこたぁ何かアイツを本気にさせることでもあったんだろうな」
「それは多分このちゃんのことでしょう。覇王さんとこのちゃんの会話から、それを感じました」
「あー、それだ! 絶対にそれだ! 間違いねぇぜ!」
あの時から随分信頼しあっていた師と弟子。そう考えると、今の木乃香が覇王にべったりなのも、頷けるというものである。そして覇王もまた、普段からまったく素直ではないが、あの時だけは随分と素直に木乃香を褒め、本気を出したのだから。バーサーカーはその場に居なかったが、刹那の話で覇王が黒雛を見せた理由がすぐにわかったようだ。
「あの野郎も隅に置けねぇよなあ、しかも全然素直じゃねぇし」
「素直じゃないと言う事は、やはり覇王さんはこのちゃんのことを……?」
バーサーカーは覇王の部屋で居候をしている。つまり毎日覇王を見ているのだ。時たま覇王は弟子の木乃香のことを話すことがある。状助もそれを聞かされているが、大抵は弟子自慢であった。そんな会話ばかりする覇王が、木乃香のことをなんとも思っていないという訳ではないのを、バーサーカーは知っているのだ。
だが実際バーサーカーが考える好きと、その時の覇王の好きが同じ意味かはわからないが。そこで、そのバーサーカーの話を聞いて、刹那もそのことを察したようだ。
「多分、いや絶対に好いてんだろうぜ? 見てりゃわかる。なんつったって、なんだかんだでオレもアイツと長い付き合いだかんな」
「そうなんですか。やはりと言うべきなのか。でも、それならもう少し反応してあげてもよいのでは……」
「ああ、アイツも昔はある程度、年相応な反応を見せたんだがな、今じゃアレだもんなあ……」
しかしあの覇王、どうしようもなく態度が枯れていた。木乃香に抱きつかれようが腕を組もうが、微動だにせず平常心を保っているのだ。年齢的に中学生の健全な男子ならば、少しはドギマギしてもよいというものだろう。
だが、あの覇王はその程度では慌てることなど無いのである。そんな覇王の態度は、周りから見ても、あの態度はないだろう、少しぐらい何かするだろう、そう考えさせられるほどなのである。まあ、流石に木乃香から告白されたりキスされたりした時は、一瞬だがその余裕を崩されていたのだが。
「まあ、そこは私たちがどうこう言うことでもないですし、このちゃんの頑張りに期待しましょう」
「そうだな、このかちゃんならアイツの枯れた精神を復活させれるかもしれねぇしな」
また、木乃香は好きな相手が自分を好いているとわかったならば、随分と積極的になれる。覇王が自分のことを好いていることを知った木乃香は、随分と大胆なアタックを覇王にしかけていた。それが何度も続けば、あの枯れ木な覇王も潤うのではないかと、バーサーカーは考えていたのだ。
が、本当にそうなるかは別問題である。そんな会話をしながら、刹那はふと思い出した。あの覇王はかれこれ1000年前に一度生まれていたことを。そこでそれをバーサーカーに聞いてみることにした。
「そういえば、バーサーカーさん。覇王さんは1000年前に一度生まれていると聞きましたが?」
「ああ、そうだぜ! 覇王は1000年前から今に蘇った、大陰陽師だかんな!」
「それはこの前聞きましたね。だからなぜバーサーカーさんがそれを知ってるのかと思いまして」
覇王が今に蘇った大陰陽師なのは、1ヶ月前ほどにバーサーカーから聞かされていた。しかし、なぜバーサーカーがそのことを知っているのか、刹那は気になったのである。
「ああ、話してなかったっけ? オレと覇王は戦友で盟友だったってことを」
「え!? は、初耳ですよそれ!!」
なんということか。あの覇王とバーサーカーはまさかの戦友だったのである。その情報に流石の刹那も飛び出しそうになるほど驚いていた。そして、なんとまあ世の中狭いものだと感じていた。そこでバーサーカーが覇王の過去を知っているなら、ちょっとだけ聞いてみようと刹那は考え質問した。
「それなら1000年前の覇王さんがどうだったか、知っていますよね?」
「おう! 知ってるぜ! まあ、ある程度だがな」
「では、覇王さんって1000年前はどんな人だったか、教えてもらえますか?」
1000年前の覇王は今と同じ感じだったのか、それとも別人だったのか。刹那は少しだけ気になった。また、その質問を聞いたバーサーカーは、少し思い出すなそぶりを見せ、その質問に答えた。
「昔の覇王……か。基本的には今と変わんねぇが、ぶっちゃけわりと普通だったぜ。それになんつぅか、今よりも随分と臆病だったけどな?」
「臆病な覇王さんですか? まったく想像できないんですが……」
なんたって今の覇王は不敵。どんなことにもドンと構え、まったく微動だにしない男だ。だが昔は随分と臆病だったとバーサーカーから聞かされ、想像できないと刹那は思った。誰だってそう思うだろう。そんな信じられないと驚く刹那に、ある程度臆病だった理由を知るバーサーカーは、それを刹那へ説明したのだ。
「アイツは生粋のシャーマンだったからな。昔は霊が見えるだけでも恐れられたもんよ」
「そんな時代だったんですか」
「まーな、だからアイツは臆病に生きてきたみてぇなのさ。んでもって、アイツはそれを隠しながら随分とシャーマンとして鍛えてきたみてぇだったぜ? まっ、オレが会った時はすでに陰陽師だったがな」
「シャーマンということを隠して……ですか」
鬼が溢れる平安京にて、それを操る力を持つものは味方としては頼もしいが、裏を返せば恐怖の対象でもあった。また覇王は。”シャーマンキングの知識”で行動していたので、ある程度臆病に生活していた。
そして、バーサーカーは1000年前の少年時代の覇王を知らないが、話しだけは聞いたことがあった。そこで刹那は、今の覇王の話しの中の、隠しながらという部分に反応した。自分もバーサーカーが居なければ、この白い翼を隠しながら生きただろうと考えたからだ。
「……オレもそこんとこはよく知らねぇが、何かと対策を練りに練って動いてたからなぁ、1000年前の覇王は」
昔の覇王はまだまだシャーマンとしての技術が半端であった。それゆえ戦闘にはかなり気を使っていたのである。今はただ
「今では考えられないことですね」
「まったくだぜ。あの時の面影は、もはや見た目ぐらいしかねぇ」
いやはや今は完全に悟ってしまった覇王。なんと1000年前とは半分ほど別人であった。それはシャーマンとしての技術の向上による自信から来るものでもあるのだが。さらに平和な東京で生きてきた覇王が、突然平安京に投げ出され、それまでの価値観を砕かれたこともある。しかし一番の原因は、この世界の転生神に地獄で修行させたり、数多くのイカれた転生者と戦って来たことが、一番覇王に影響を及ぼしているのだ。
だが、バーサーカーはそれでも芯の部分は変わっていないと思っていた。人間としての根本的な部分だけは、1000年前と同じ覇王だと感じているからだ。また刹那も、臆病に策を講じる覇王を想像できず、少しおかしく感じて笑っていた。そこで刹那は新たな質問をバーサーカーにしたのだ。
「そういえば、覇王さんは1000年前は結婚とかしていたんでしょうか?」
「おおう、やっぱ気になっちまうか? だよなぁ、気になるだろうよなぁ……」
「まあ、多少は……」
「オレが言っちまっていいもんかねぇ。つーか、これ勝手に言って殴られるのオレじゃん?」
1000年前から居る覇王、今はその子孫として誕生している。つまり、覇王は子孫を残したことになる。だが実際、刹那はそこまで教えられていない。いや、それでも、こういうことは多少気になるのも当然のことである。そこに興味を持った刹那は、ちょっと気になってバーサーカーに尋ねたのだ。
しかしバーサーカーは、正直それを教えてよいものかと考えた。勝手にそこまで覇王の過去話をしてもよいのだろうかと。下手をすれば覇王に殴られるような内容でもあるからだ。刹那もそれを聞いて、確かにそうだと考え、バーサーカーに聞くのをやめることにした。
「そうですね、それは覇王さん本人に聞いてみようと思います」
「そうしてくれや。オレはアイツに殴られたくはねぇ」
覇王はある程度鍛えているので、殴られると結構痛い。しかし、別の本人が殴らずとも、
「では、バーサーカーさんの生前はどうだったんです?」
「オレのことか? さぁてねぇ……」
その質問を聞いたバーサーカーは自分が1000年前どうしていたか、少し思い出していた。正直言えばただ暴れていただけだったので、さほど言うほどのことはなかったようだ。
敵がいると聞けば倒しに行き、味方がピンチだと聞けばそこへやってきて加勢する。それの繰り返しだったので、さほど話すことが無かったのだ。バーサーカーはそれを思い出し、さて何をどう話したらいいか考えた。
「今とぶっちゃけ差がねぇ。今も昔も敵を倒して仲間を守る、これをずっと繰り返してきただけさ」
「そうではなくて、バーサーカーさんの恋愛の話です」
「お、おおう……!!?」
刹那が聞きたかったのは、バーサーカーの地雷であった。それこそバーサーカーが最も聞いてほしくないことなのだ。しかし、バーサーカーは一度刹那に、自分の過去を話してやると豪語してしまった。後には引けないのである。だが、この話はめちゃくちゃ暗い。正直言えば、たとえそれがマスターたる刹那であっても、話したくないのである。
「そいつはちとへヴィーな質問だな……。ここで話していいもんか、悩むぐらいにゃヘヴィーでブラックな話だぜ?」
「え……? それはどういうことなんでしょう!?」
さらにバーサーカーは刹那がそういう話を聞いて、きっと心を痛めると考えた。だから自分も話したくないが、刹那にも聞きたいか忠告したのだ。そこで質問した刹那も、どういうことなのか考えていた。このバーサーカーが忠告するほどの話である。きっとあまりよい話ではないのだろうと刹那も少し思ったのだ。
「
バーサーカーは、少し遠い目をして、過去を思い出すようなことを語りだした。刹那にはバーサーカーが言う”アイツ”と言うのがわからないが、多分好きだった相手なのかもしれないと、そう思えた。
「あの、別に話したくなければ無理しなくていいんですけど……」
「いや、話せるっちゃ話せるが、こういう場で話すにはちょいとブルーな話ってだけさ」
刹那はバーサーカーの微妙な顔を見て、無理に聞く気はないと話した。思い出したくない過去なら、思い出さなくてもよいと思うからだ。それが特に暗い過去ならなおさらだ。
ただ、バーサーカーは話すことは問題ないと言った。それでもこの祭りの中で話すには、雰囲気が台無しになってしまうだろうと思った。
気分が台無しになったり、落ち込まれても困る。こういう祭りは楽しむもんだ。そういう陰鬱な話はこの場でするには場違いだと、バーサーカーは気を利かせたのだ。
「そうですか……。なら、次の機会にでも……」
「そうだな。オレも男だ、二言はねぇ。祭りが終わって落ち着いたら、ちゃんと話す」
刹那はそれなら、別の機会に取っておこうと考えた。口ぶりからすれば、いずれ話してくれると思ったからだ。バーサーカーも、この学園祭が終わって、少し経ったら話すと言った。約束をした。
「まっ、んなことよりも、この祭りを楽しもうぜ! でなきゃせっかくの祭りがもったいねぇじゃん?」
「……ですね!」
そうだ、祭りは楽しくなきゃいけねぇ。バーサーカーは考えを切り替え、にやりと笑ってそう言った。今は祭りの真っ最中だ。遊んで遊んで遊んで、愉快にならなきゃ意味がねぇ。だから、しんみりした空気はいらねぇ。バーサーカーはそう考え、テンションを上げていったのだ。
刹那もバーサーカーの言うことに一理あると思った。せっかくの学園祭、一年日度しかない祭り。楽しまなければ損だと、そう思ったのである。
「おっしゃ! んじゃ早速、あのアトラクションでも入って見っか!」
「それはバーサーカーさんが行きたいだけなのでは?」
「おうよ! 1000年前はそんなの無かったかんな! ちっとばかし付き合ってくれてもいいだろ?」
「別にダメだなんて言ってませんよ。ではあのあたりから試して見ますか」
だったら、面白そうなゲームをしようとバーサーカーはそこを指をさし、ニカッと笑う。刹那もバーサーカーが言う楽しそうなアトラクションへと、それに同行する意思を示した。その後刹那とバーサーカーは大抵のアトラクションで遊びながら、つかの間の楽しいひと時というものを実感するのであった。
――― ――― ――― ――― ―――
*未来の事情*
麻帆良祭が始まった。この大きな祭りに心を躍らす少年が居た。
主人公のネギである。ネギはこのような盛大な祭りが初めてで、随分と楽しそうにしていた。そこで、とりあえず見回っているとそこに行列を発見した。それは自分が受け持つクラスのお化け屋敷であった。なんと随分繁盛しているようだ。そこで生徒たちはネギにも、このお化け屋敷を体験してもらうことにしたのである。
…… …… ……
兄のカギもまた、同じようにお化け屋敷を体験したようだ。
その後ネギの自由時間の間、ある程度の世界樹伝説へのパトロールをしていた。このカギ、ネギと仕事を分担したのである。あのネギはデートを含めて忙しそうだったので、俺が半分受け持ってやると言ったのだ。
だが、その時の表情は、とても悔しそうではあったが。なんせデートですから。それを含めて内心リア充どもめ、許さん!と思いながらも、淡々と世界樹パトロールをこなしたのである。カモを頭に乗せ、カギとは思えぬ仕事ぶりを発揮していた。
「ケッ! リア充どもめ、くたばれ!!」
「兄貴! くたばらせちゃあかんだろー!?」
「そういう思念でやってるだけだ! ジョーダンだよジョーダン!!」
その執念がなかなか高い成果を出していた。
このカギ、執念深ければそれだけ成果を残せるようだ。基本的にスケベ根性でしか動かないが、まともにその根性を運用出来れば優秀だったらしい。まあ、なんといっても特典がかなりチートなのだ。そうでなくては困る。しかし、その表情は目を充血させて涙を流しながらという、なんとも哀れな表情だった。
「どいつもこいつも告白だとお!? 前世でもされたことねぇのにクソッタレー!!」
「いつも以上に冴えた魔法捌き! 今の兄貴を止めれるやつはいねぇ!!」
このカギが役に立っているだと……。きっと明日は雹が降るだろう。末恐ろしい。今カギが行っているのは、相手を眠らせる魔法による告白の妨害である。魔法使い相手には効きにくい魔法だが、たかが一般人ならば効果覿面で、簡単にかかるお手軽魔法だ。それを告白しそうな人に手当たり次第に当てて、眠らせているのである。なかなかうまくやっているようだ。本当にカギへ憑依転生者が入ったとしか思えない活躍ぶりであった。
「テメーら全員、この床に這い蹲らせてやるぜー!!」
「悪役のセリフだそれー!?」
「うっせーカモ! 俺は悔しいんだ!! 魔法学校でモテモテだったこの俺が、今じゃこの有様だぜ!!? 悔しいんだよおおお!!」
カギはメルディアナの魔法学校では常にモテモテだった。しかし麻帆良へ来てからはまったくモテなくなってしまった。そんな中、こんなにも告白している輩が大量にいることに、カギは悔しくて仕方が無かったのだ。だが、その悔しい中で眠らせる程度で済ませるカギは、やはり外道ではないようだ。
「テメーらの血は何色だああーーーッ!!!」
「兄貴ー!? 血の涙が!? 大丈夫かよー!?」
「ちくしょー! チクショー! 俺の青春はまだまだこれからだぁぁー!!」
言われてみればそうである。カギはまだ10歳だ。きっとこの先、いい出会いがあるかもしれない。しかしカギは、今すぐに従者がほしいと思っていたりする。まあ、堅実に生きていれば、多分従者が増えるかもしれない。かもしれないだが。
また、この仕事ぶりはとてもすばらしいものだった。だが見た目が怖すぎたので、その姿を見たカップルがドン引きし、別の場所に移るほどだった。いやはや二重の攻撃とは、このカギやりおる。本人が意図したわけではないが。
「オラオラー! 嫉妬に狂う醜い少年が見たくなけりゃここから消えろー!! ヒャッハッハッハ!!」
「兄貴ー!?」
そんな血の涙を流し嫉妬に狂うカギに、カモミールは同情しつつ、少しだけ引いていた。まあ、そんなバカなカギだからこそ、カモミールもついて来たのだからしかたがない。もはや破れかぶれで笑い出したカギを、まさに痛ましいものを見る目でカモは見つめ、一緒に涙を流していた。
「兄貴ぃ、兄貴にもきっといい従者が現れらぁ……。それに俺っち、ずっと着いていきますぜ!!」
「うおおお、カモよおお!! モテないもの同士、頑張ろうなあああ!!」
「あにきぃぃー!!」
今度は感動の涙を流し、オコジョと抱き合うカギ。やはり周りはドン引きで、立ち去るものが続出した。そのおかげか今回の仕事は完了したようだ。カギはここには人が居なくなったことを察して、別の場所へ移動したのだ。
…… …… ……
恐怖のお化け屋敷を抜け出したネギは、麻帆良祭を回っていた。そして、そのネギと共に行動するアスナが居た。また、今ネギは超を探していた。なぜならあの事件の後直一に、超はある程度見逃されたと言われたからだ。だから、どういう訳なのかを超に聞くために、ネギは超を探すことにしたのだ。
と、いう訳で、とりあえず超を探しながら、ネギは色々な施設に入り遊んでみるのであった。
しかし、遊んでばかりのネギに、アスナは探す気がないのではと思い始めていた。
「探す気がないなら、別に探さなくてもいいじゃない」
「いえ、こういうのは初めてでして、つい遊びたくなってしまうんです」
「だったら遊べばいいんじゃない? あまり気にしすぎてもしかたないわよ?」
ネギは半分遊ぶ気でいた。というのもあまり真剣に超を探していなかったのだ。アスナはそこに鋭いツッコミを入れると、ついやっちゃうんだ、と答えが返ってきたではないか。だったら遊べ、遊び倒せと思うアスナであった。
「それでいいんでしょうか?」
「それを決めるのは私じゃないもの。ネギ先生本人が決めることじゃ?」
人間二つのことをするのはなかなか難しい。どちらかが出来ないなら、どちらかに絞るしかない。それを決めるのは自分自身だと、アスナはネギへ言っていた。ネギもどうしようか考えていた。
だが、転生者が多く麻帆良に居るため、ネギの仕事は随分と楽となっているようだ。また、カギもネギの変わりに頑張っているため、ネギにはそこそこ自由時間があるのだ。
そこで、ネギはもうしばらく遊ぶことにしたようだ。
「そうですね。ならもう少しだけ遊びたいです」
「それでいいのね? なら私も付き合うわ」
「いいんですか? アスナさんも予定とかあるのでは?」
とりあえずこの麻帆良祭を楽しもうと考えたネギに、動向することにしたアスナ。だがネギは、アスナがそう言うなら、逆にアスナにも、やりたいことがあるのではないかと考えた。
「今日はさほど予定がないのよ。だから問題ないわ」
「そうですか?では一緒に麻帆良祭を回りましょう!」
「そうそう、それでいいのよ、子供なんだから」
今日の予定があまりないとアスナは言った。まあ実際暇なので、そのぐらいしてもよいと考えたのだ。そこでネギは、そのアスナの言葉を素直に聞きいれ、なら一緒に遊ぼうと嬉しそうに言っていた。
しかし子供嫌いのアスナが、なぜネギと同行しようと思ったのだろうか。ネギもアスナが子供が苦手だと聞いていたので、そこを質問したのだ。
「そういえばアスナさんは、子供が苦手と聞きましたけど」
「そうねー、バカなガキが嫌いなだけ。ネギ先生はそこまでバカじゃないから、さほど気にならないわ」
「そ、それは褒められているんでしょうか……」
そこまでバカじゃない、とは褒めているのかどうなのか。ネギはそこに少しもやっとした。まあ、アスナの考えるバカなガキと言えば、うるさいカギのほうが真っ先に浮かぶのである。そして二人が歩いていると、目の前に飛行船が現れた。ネギはそれに乗ってみたいと言ったので、アスナも同行したのであった。
その飛行船の中で、その窓から景色を見ながら喜びの声を上げるネギが居た。アスナも窓の外を眺め、麻帆良の街を眺めていた。そこでアスナは、ネギが杖で飛べることを思い出し、こう質問した。
「普通に魔法で空を飛べるのに楽しいの?」
「杖で飛ぶのとは違いますし、最近空なんてあまり飛んでませんから」
「そういえばそうねえ」
ネギは基本杖を持ち歩かないので、麻帆良の空を飛ぶことなどほとんどなかった。つまるところ、麻帆良の街を空からのんびりと眺めたことが無かったのだ。だからこそ、こうしてネギは景色を見て喜んでいるのである。アスナもそういえば空を飛んでいるところをあまり見たことが無かったので、そうだったと思い出していた。
「そういえば、僕とアスナさんだけでと言うのも、珍しいですね」
「確かに、基本的にこのかや刹那さんと一緒だし、そこにさよちゃんと焔ちゃんも入るから、そうなるかもね」
このアスナとの二人きりの状況に、とても珍しい組み合わせだと、ネギは思った。アスナも普段なら木乃香と刹那とよく行動していた。さらに木乃香の横にはいつもさよも居るのである。また、たまにそこに焔が加わり、基本的に5人で行動することが多かった。そこにネギが加わり6人行動となることが、基本的な組み合わせとなっていた。だから、そう考えると、ネギと二人と言うのは、確かに珍しいと思った。
「そういえばアスナさん。前に聞いたことですが、アスナさんの保護者さんは、僕の父さんの友人なんですよね?」
「そうよ。そういえばネギ先生は、私の保護者に会ってなかったっけ?」
「いいえ、ないです。だから今度会わせてもらえますか?」
「別に会って困ることなんてないし、いいわよ」
ネギはアスナの保護者、メトゥーナトが自分の父、ナギの友人だということをふと思い出した。それを言うとアスナも会わせてなかったなーと考えたようだ。ネギは今度でもよいから是非会いたいと申し出たのだ。アスナも特に会わせない理由がないので、快くそれをよしとした。
「ありがとうございます、アスナさん!」
「お礼言われるほどじゃないけどね。会って話すのは私の保護者だから気にしないでいいのに」
「でも会わせてくれるんですよね? なら礼ぐらいしないと!」
「律儀ねぇ。まあとりあえず連絡しておくから、後日会える日を教えるわ」
ネギはアスナが保護者に会わせてくれるといったことに感謝していた。また別の人から父の話が聞けるからだ。そこで礼を言われたアスナも、礼なんて要らないと思いながらも、少しくすぐったそうな表情をしていた。また、ネギも教師で、メトゥーナトも忙しい。そのため連絡してから日程を決めようとアスナは考えた。だが、その会話している二人に、近づくものが居た。
「いやあ、仲よさそうにしているネ」
「あ、あなたは超さん!?」
「あら、超さん」
偶然か必然か、そこへやって来たのは、なんと超であった。遊びながらではあったが、ネギが探していた本人が自らやって来たのだ。それに驚くネギと、あっけなく見つかったと考えるアスナだった。
「何を驚いているネ? まるで宇宙人を見たような顔だナ、ネギ坊主?」
「いえ、超さんは一応見逃されたと猫山さんから聞いたもので、どうしたのかと思っていたんです」
「アア、そういうことカ。別にどうってことはないヨ?」
超は魔法使いから一時的にだが見逃されたと、ネギは直一から聞かされていた。だからどうして魔法使いに追われていたのか、どういう訳で追われることになったのかを超に質問したかったのだ。しかし、これも全部超が仕掛けたことであり、直一にネギへそう伝えるように伝言しておいたのだ。
「一体何をしたら魔法使いに追われることに……?」
「私は特に悪いことなどしていないヨ。少しヤンチャをしただけネ」
「それは本当なんですか!? ですが三回も警告を出されたって」
ネギは超は魔法使いに追われるような悪いことをしたのではないかと考えていた。だがそんな超は、特に罪悪感もなく、悪いことなどしていないと言ってのけた。確かに超は、監視などの調査ばかりで、基本的には悪いことなど行っていないのだ。
しかし超は、一応一般人として扱われている。だから、魔法を知ってしまったという扱いで、魔法使いに追われているのである。そこで超は、ネギを仲間に引き込むために、少しだがネギたちに未来の情報を教えることにしたようだ。
「ネギ坊主、私がやろうとしていることは、ネギ坊主の未来にも関わることヨ」
「僕の未来がどうというのです?!」
「あまり大きな声では言えないガ、ネギ坊主の近い未来に、かなり悪いことが起こるネ」
「な、何で、どうしてです!?」
超はネギが近いうちにオコジョにされてしまうことを知っている。つまりそれは、ネギの未来が暗いということだ。だから超は、ネギへ近い将来、災厄が訪れると言ったのだ。その言葉を聞いたネギは、どういうことなのか混乱していた。だが、そのネギの横に居たアスナは、目を細めて超を眺めていた。
「超さん、変なことをネギ先生に教えないでちょーだい?」
「おや、明日菜サン。これはネギ坊主の将来のための話しヨ?ウソではないネ」
「本当に? まったく信用できないわ」
まあ突然未来で悪いことが起こるなど言って来るやつを信用などできないだろう。アスナは超を目を細めて見ていた。本当に信用できないやつだと思っているのである。しかし超は、そんなアスナを流して、ウソではないと証言した。
「そうだナ、私の正体をお教えしようカ」
「え? 超さんの正体ですか……!?」
「まさか、宇宙からの遊星X……!?」
信用できないなら、正体を教えようと超は考えた。いや、どの道正体を教えても信用してもらえるはずがないのだが。しかしネギは、やはりよくわかっておらず、混乱したままだった。そこでボケを入れているアスナは、やはりいつも通りであった。
「当たらずとも遠からズ、私は火星人でさらに未来人なのだヨ!」
「火星からの未来人!?」
「ちょっとあんた、属性つけすぎじゃない?かなり際物じゃないそれ」
まあ宇宙から来たことは否定しなかった超。そして火星人で未来人だと自称したのである。ネギはもはや意味不明な正体に、頭を抱えていた。当たり前である。そんなアスナは属性つけすぎてバカキャラになっていると考えていた。ツッコむ場所はそこではない。
「火星人はウソつかないヨ」
「ほ、本当なんですかそれ!?」
「かく言う私も火星人なんだけど……」
「え、ええー?!」
ネギはさらにショックを受けた。まさかアスナまで火星人だったとは思うまい。アスナは魔法世界が火星だよーと、こっそりメトゥーナトから教えられたので、ああそうなんだ、程度の認識で覚えていた。むしろ、それを教えられたころは、火星ってなんだろうと考えるぐらいでしかなかったのだが。
「フム、明日菜サンは知ていたのか、その事実を」
「教えてもらったのよ。こっちに来るまで火星が何なのかなんて、知らなかったけどね」
「この会話に地球人が僕しかいないんですけどー!?」
超は、まさかアスナが魔法世界が火星だと、知っているとは思っていなかったらしく、少しだけ驚いた。しかし、別にそこに大きな問題がある訳ではないので、さほど気にするほどでもなかったようだ。だが、この会話に地球人が自分しかいないと考えたネギは、さらに頭を抱えていた。
「とりあえずネギ坊主。私が言いたいのは、ネギ坊主に協力者となってほしいということヨ」
「きょ、協力者……!?」
「そうネ、私がやろうとしていることは、ネギ坊主の未来に関わるからネ」
このままではオコジョになる運命のネギ。それを何とかしなければならない。そしてその未来を変えれるのも、またネギだろう。まあ、実際はネギが協力者になれば、ある程度心強いと超は思っているのである。その超の言葉に、ネギは混乱しながらも、どうするかを考えていた。そこで口を挟んだのは、やはりアスナであった。
「信用できない相手に、協力する必要ある?」
「だ、だけど」
「……確かにそうネ。だけどこのことは明日菜サンの未来にもある程度関わることヨ?」
「む? それはどういうことよ?」
ネギがオコジョになる未来に、ある程度アスナも関わっているようだ。その言葉にアスナは疑問を感じた。まあ、ネギとは無関係と言うほどでもないので、間違ってはいないかもしれないとは考えていた。だがここで超は、更なる恐ろしい未来を語りだしたのだ。
「はっきり言えば、この麻帆良は滅びるネ。いや、地獄へ変わると言ったほうがよいかナ?」
「ま、麻帆良が滅びるー!?」
「なにやら、ただ事ではないことが起こるって言うの?」
このままでは麻帆良は滅びる! な、なんだってー!? 普通に考えればやはり信用できない言葉である。しかしネギはその言葉に驚いていた。その横のアスナも、地獄へ変わると聞くとなにやら不穏な感じだと思ったようだ。
「私は先ほど言ったとおり未来から来たネ。本来ならば平穏で安全な麻帆良が続く未来が存在するネ」
「本来なら、とは一体どういうことなんですか!?」
「専門的になってきた……」
本来なら麻帆良は平和のままだと超は言った。だが”本来なら”である。そこにネギは疑問に感じた。どういうことなのかと。しかし、その横でアスナは段々と専門的な会話になってきたと感じていた。また、ここのアスナは頭が悪い訳ではないので、とりあえず理解はできているようだった。
「何者かが私が作ったタイムマシンを盗み、この時代の麻帆良を変えて、未来を破壊しようとしているのヨ!」
「え!? それじゃあ超さんが未来人だとして、さらに別の未来人がこの麻帆良に来ているんですか!?」
超が作ったタイムマシン、それは懐中時計型航時機、カシオペア。魔力を用いたタイムトラベルを可能とする機械である。それを何者かが超の手より盗み出し、悪用しようとしていると言われたのだ。ネギはそれを聞いて、超以外の未来人がこの麻帆良に来ていると考えた。とても突拍子なことだが、この話が事実なら、とんでもないことになるからだ。
「そういうことネ。その本来の平和な麻帆良を、その誰かが時代を改変したのヨ。そして麻帆良を自分の支配下に置いて、好き勝手する未来になってしまったのダ」
「ひ、ひどすぎますよそんなの!!」
「最低じゃないそれ……」
さらにその誰かが麻帆良を乗っ取り、自分の欲望通りに操れる街にしてしまうらしい。とても恐ろしい未来である。それを聞いたネギも、流石に怒りの表情を見せていた。また、アスナもそんな未来などゴメンこうむると考えていた。この話を終えると、超は一枚の記事を取り出した。やはり未来の新聞の記事であった。
「あまり未来の情報は伝えてはならないのだガ、これを見てほしいネ」
「こ、これは僕!? しかもオコジョにされて刑務所に!!?」
未来の日付の新聞に映っていたのは、なんといかつい男性に取り押さえられたネギであった。さらに見出しには”英雄の息子、オコジョになる”と書いてたのである。これはネギにはショックだった。それをチラりと見たアスナは、作ったのではないかと疑った。
「これ、特殊な技術で作ったんじゃないわよねえ?」
「ドッキリするなら、こんなチャチな手は使わないヨ。もっと色んな技術を使って、アッと言わせるネ!」
「こ、これが本当だったら、僕はオコジョにされてしまうんですね……」
いやはやオコジョにされる未来を教えてもらったネギは、ショックのあまり膝をついて涙を流していた。当然である。アスナもそのネギの姿を見て、流石に可愛そうに思ったようだ。だが、超はさらに言葉を続ける。
「これは本来の未来ではないネ! それを正しい歴史に戻すために、私がこの時代へとやて来たのヨ!」
「つ、つまり超さんは、僕の味方ということですか?」
「そうヨ! まあ、自分の作ったタイムマシンが原因でもあるから、そうせざるを得ない部分もあるのだガ……」
まさか自分が作ったカシオペアが盗まれるとは思っていなかった。しっかり保管し、誰にも教えていなかったはずなのだから。だが現実に盗まれ悪用されてしまった。それを解決するのも、製作者たる自分の役目であると、超は言っていた。アスナは半信半疑だが、これが事実なら大変になると考え、とりあえず超の言葉を信用することにした。
「なら、僕は超さんに協力します! このままオコジョにされるのは、ゴメンです!」
「そうね、なら私も手伝おうかな? ウソだったら、ちょっと痛い目見せるだけで済むしね」
「それは怖いネ、でも本当のことヨ? しかも二人が協力してくれるなら心強いネ!」
とりあえずは契約成立のようだ。ネギも本気で信じ込んではいないが、この未来が本当ならば阻止しなければならないと考えた。アスナもまあ、ウソなら少しだけ殴るぐらいで許そうと思ったのである。その話を続けてネギを説得していた超は、ようやくネギとアスナが味方になったことに安堵し、明るい表情を見せていた。
「そうだ、言い忘れていたヨ。アリガトウ!」
「い、いえ、これが事実なら何とかしないといけませんから」
「まったくね、こんな未来なんてノーサンキューよ!」
一応はネギを味方にした超。これで一応手札は揃ったと考えた。あとはそのカシオペアを盗んだ男の計画を打ち砕き、未来を元へ戻すだけである。だが、その期間はさほど長くない。短期決戦となるだろうと超は予想していた。
「ところで、協力すると言ましたが僕は何をすれば?」
「とりあえずは麻帆良祭を楽しんでいればいいネ。指示はおって出すヨ」
「そうですか、わかりました」
実際はまだエリックと超は計画を練っている最中である。ネギを仲間にできるかで計画を変更する必要があったからだ。だから、とりあえずは普段通りに行動してもよいと、ネギへと伝えたのだ。それは無論、アスナもである。
「明日菜サンも同じく普段どおりでかまわないヨ。まだ計画を考えているところだからネ」
「そう? じゃあそうさせてもらおうかな」
「じゃあ、麻帆良祭を存分に楽しむといいネ!」
そう言うと超はその場から立ち去って行った。この会話が終わった時、丁度飛行船は着陸したようであった。とりあえずネギはアスナと別れ、次のスケジュールのために行動するのであった。