四十七話 未来人
さて、麻帆良祭も間じかに迫ってきた。女子中等部3-Aは幽霊が教室に居るということで、”原作と同じ”お化け屋敷をするようだ。また、覇王の通う教室は、状助がベアリング飛ばそうぜと言ったら、なぜかダーツ投げになっていた。そんな感じでとりあえず、決まったようなのでとにかく良し。
そして麻帆良祭といえば告白の噂、世界樹伝説である。世界樹の力で、告白すると呪いが発生するというものだ。基本的には22年周期に訪れる、世界樹の魔力放出が原因で、世界樹を中心とした六ヶ所の地点に魔力が溜まる現象。その現象が人の心に作用し、告白のみ願いがかなってしまうというものだ。いやはやはた迷惑な話である。いちいちそのつど対策をとるなら、さっさと解決しとけと言いたいほどだ。
しかし、本来22年周期で発生する現象なのだが、今年は1年早くそれが起こってしまうという。そこで、魔法先生、魔法生徒が世界樹前広場へと集まり、緊急の集会を行ったのだ。
その世界樹前広場には色々な人が待っていた。魔法使いではないが、夜の警備をするものの姿もちらほらあった。無論覇王の姿もあったが、どうでもよさそうでもあった。また、小太郎も普通にやって来ていた。さらに、さりげなくカギも来ていたようだ。一応仕事をしてくれるらしい。そしてネギと刹那がその場所へとやってきた。どうやら学園長に呼ばれたようである。そこでネギたちは、世界樹伝説の説明を学園長から受けているようだ。と、その間に誰かが口論しているようだ。
「あーだりぃ、俺は抜けさせてもらうぜ」
「貴様、何を言っている!! この任務は生徒の心を守るためのものだ! 精神の死は肉体の死よりも重いんだぞ!!」
「は、知らねぇよ」
その口論を繰り広げているのは法とカズヤだった。このカズヤはこういうことにとても疎い。だから面倒だと感じているようだ。と言うよりも、どうやって阻止すればいいのかわからないのである。なぜならカズヤは殴ることしか出来ないからだ。だが、それを知ってか知らずか、そのやる気の無いカズヤの態度に、法が怒っているのだ。
「ならば苦痛を与えてでも従わせるしかないようだな!」
「へっ、やるってか?いいぜぇ?相手になってやるぜぇ!!」
もはや一触即発。すでに喧嘩の体制が出来上がっていた。本当にこいつら、喧嘩ばかりである。しかし、その二人の真ん中に高速でやってきて、喧嘩を止めるものがいた。
「おい、お前ら何やってんだ? 喧嘩してる場合じゃねーだろぉ?」
「て、テメェは直一!?」
「猫山直一か!?」
「カズマ、お前はすぐ熱くなる。冷静になれよ」
「俺はカズヤだ! 間違えんな!!」
この直一、カズヤの名前を間違える癖があるらしい。そこでカズマと呼ばれたことを、カズヤは叫びながら訂正していた。多分半分はわざとだと思われる。
「俺たちの戦いの邪魔をするというのか、直一!!」
「だから言ったろぉ、そんなことをしている場合じゃないって」
いやまったくだ。緊急集会を行っている間に喧嘩するバカはいない。しかし彼らはバカだったようだ。その言葉を受けて素直に聞き入れたのはやはり法であった。だが、カズヤは喧嘩を止められて腹が立ったようで、今度は直一に喧嘩を売っていた。
「じゃぁ次にテメェが俺の喧嘩相手って訳だ!」
「やめとけ、カズマ。俺の速さに追いつけると思ってんのか?」
「カズヤだ! 追いつくとか追いつくじゃねぇ、勝つか負けるかだ!!」
そしてカズヤはアルターを形成し、攻撃態勢へと入った。だがしかし、その時点で顔面に蹴りが入っており、そのまま吹き飛び壁に激突していた。さらに言えばこの直一も、すでにアルターを装着した状態だったのだ。その時間、わずか1秒足らずであった。
「だから言ったろぉ、誰も俺には追いつけないって」
「ぐ、い、いきなり蹴るやつがあるか……!?」
「おいおい、喧嘩買ってやったんだ、文句ないだろ?」
完全に直一にあしらわれるカズヤだった。まあ、カズヤもこんな場所で本気で喧嘩しようとも思っていなかった。だからとりあえず、今はおとなしくしていようと考えたようだ。
そしてあらかた学園長からの説明が終わると、いつの間にか人払いがされたこの広場の空に、一つの監視カメラが飛んでいた。そこで、魔法先生の一人がその空からの監視カメラを破壊したようだ。つまり、何者かがこの会話を盗聴、盗撮していたことになる。そこで学園長の最後の挨拶が終わると、直一はその場から消えていた。侮れん男だ。
…… …… ……
麻帆良の空を飛び回る影が一つ。それは超鈴音である。”原作どおり”監視カメラがばれて、魔法使いに追われているのだ。だが、ここにはそれ以上の速さを持つ男が居た、先ほどの直一である。直一は建物の屋根を飛びながら逃げる超を、同じく屋根を飛び回りながら追っていたのだ。
「は、早いネ、流石と言ったところヨ」
「はっはー、お嬢ちゃん。俺よりも早く逃げるつもりかい?」
早い、早すぎる。超は逃げても逃げても追いつかれていた。いや、直一は捕まえられる速さで動いているのにも関わらず、捕まえようとしていない。完全に遊ばれていたのだ。そして超がネギの近くへ飛び込むと、すでに直一の右足が超の首元に置かれていた。なんという速さだ。
「お嬢ちゃん、ここから逃げるには、俺より早く動かないと不可能だ。さあどうする?」
「クッ……」
もはやチェックメイト。完全に身動きが取れなくなっていた。だが、そこにはネギが居た。その光景を見たネギは、とりあえず説明を求めたのである。
「あの、彼女は僕の生徒です。一体何があったんですか?」
「んんー? あー、そうだったな。別にお前さんが気にする必要はないことさ」
つまるところ、話すつもりは無い。直一はそう言っているのだ。ならば、捕まった超がどうなるかを、ネギは次に質問した。
「じゃあ、超さんはどうなるんですか!?」
「さーなー、どうなるのかは俺にもわからん。三度の警告無視したようだし、規則的には記憶が消されるかもしれないとしか言いようがない」
「そ、そんな!?」
直一はどうなるかは予想できないが、よくて記憶が消されると言った。ネギはそれはあまりに不憫だと考えたが、この件についてよくわからっていなかった。それに三度も警告が出されているのに、それをやめなかった超にも非がある。そう考え、仕方ないがネギはあえて身を引くことにした。
「そうですか……。僕はこの件について詳しく知りませんので、何もいえません。ですが超さんにはあまりひどいことをしないでください」
「ほおー? 素直なことだな。まっ、どうなるかはわからんが、ある程度交渉ぐらいしといてやる、じゃな!」
ネギの素直な言葉を聞いた直一は、即座に超を抱えて消えていった。もはやその瞬間が見えないほどの速度であった。その消える寸前に、ネギに助けを求める超の声が聞こえたが、その直一の移動で発生した風で、かき消されていた。
…… …… ……
ここは超のアジトの内部。多数のモニターが設置され、機械仕掛けの部屋だった。そして、そこに二人の影があった。直一と超である。直一は超の仲間だったということだ。まんまと出し抜いたという訳である。
「ネギ坊主があんなことを言うとはネ」
「つうか、最初からわかってたんだろ?」
この直一の速度を知覚できるやつなどいない。つまりステルス以上にステルスなのだ。だからこそ、こうも簡単に魔法使いから逃れることが出来たのである。そこへもう一人やってきた。白髪の老人、エリック・ブレインという男である。
「やあ超、危なかったようだな! さて、目的の人物は発見できたか?」
「ドク、バッチシ取れたヨ。魔法使いにバレたけど、猫山サンに助けてもらったネ」
「そうかそうか! ありがとう直一君!」
「ま、俺が勝手にやっているだけだ、気にする必要はない」
エリックは超を見て近づき、無事を確認した。超は無事と新たに得た情報をエリックに教えていた。その表情は嬉しそうであった。またエリックの言葉から、ある人物の特定が目的のようだ。そこで、エリックに感謝された直一は、どうやら超に雇われている身の様だ。ただ、自分の好きなようになっているだけで、実際は雇われていると言う意識がない直一であった。そして直一はそう言うと、暗闇の廊下に消えていった。麻帆良の魔法使いに適当に説明しに行ったのだ。はて、この計画はどうやら”原作”とは違うらしい。一体どうなっているのだろうか。
「うむ、二年かけて探してきたやつが、どうやらこの男のようだ。照合して99%一致したぞ!」
エリックは入手した画像を映し出すと、その画面を照合していた。そしてその画像に映る人物こそ、彼らが二年を費やして探していた人物と一致したようだ。しかし、一体誰を探していたというのか。
「この男が私のカシオペアを盗んだやつカ」
超はそう言うと、その画像に映る男を憎憎しげに見つめていた。このエリックが探していた男は、どうやら超が開発したタイムマシン、カシオペアを未来の世界で盗んだようだ。そして、この時代の麻帆良へやってきて、平気な顔して生活しているようであった。
「そのようだ。このワシとタイムマシンでこやつを追って来なければ、危うかったな」
「そうだネ、ドクには感謝しているヨ」
「ああ、しかしまだやることがある。この男がやろうとしていることを阻止せねばならん! でなければスプリングフィールドの一族は、絶望に落とされることになる!」
なんとこのエリック、タイムマシンを開発したと言ったのだ。そしてそれを使って超と共に、この時代の麻帆良へとやって来たようであった。また、エリックは大げさに言っているが、この男は過去を改変しようとしているようだ。それはとてつもない危険なことであり、最低最悪の行為でもある。その行動を阻止すべく、エリックと超はこの時代の麻帆良へとやって来たらしい。そこでエリックは胸元のポケットから一枚の新聞記事を取り出した。それは未来の新聞記事であった。
「この記事を見たまえ、あと数週間後にネギ少年がオコジョにされてしまう。これが引き金となりスプリングフィールドの一族を破滅に導く連鎖反応が生じるのだ!」
「そうさせないために、ここまで来たネ。なんとしてでも食い止めて見せるヨ」
「その意気だ! 出なければ最悪、君が生まれなくなってしまうかもしれん! なんとしてでも食い止めるしかない!」
つまり超の開発したカシオペアを盗んだ男の行動により、ネギがオコジョの刑となる。それによりスプリングフィールドの一族は崩壊の道をたどることになるようだ。だからこそ、エリックと超はそれを阻止すべく、この時代へとやって来たということだった。
「しかしだ、この男がまさか魔法先生などということをやっているとはな。いや、手を出しづらい地位を得たと言ったほうがよいだろうか?」
「そのせいで危うく捕まるところだったヨ。敵はなかなか手ごわいネ」
さらにその男は魔法先生をしているらしい。だからこそ超は危険を冒してでも、あの世界樹前広場に監視カメラを設置したのだ。そしてそれは、その男が捕えづらい地位に居るということだった。さらに超は無理をしすぎて、麻帆良の魔法使いからブラックリストに載ってしまった。つまり超はこの男の監視すらもできないということである。このことにエリックは怒り出し、超を叱っていた。
「まったく超、お前と言うやつは無茶をするなとあれほど警告しておいたはずだぞ! 何で味方につけなければならない麻帆良の魔法使いを敵に回したんだ!」
「し、しかたなかったのネ。多少無茶をしなければ、情報が手に入らなかったヨ……」
「ああー、なんということだ! ここまで調べてお前がその男に手を出せないのでは、何の意味もないではないか!」
「ゴメンヨ、今は反省しているヨ……」
エリックの叱咤に超も確かにそうだったと思い、落ち込んでしまったようだ。それを見てエリックはため息をつきながらも、ならばどうするかを考えた。そして、とりあえず落ち込んだ超を元気付けようと、エリックは話し始めた。
「超よ、落ち込んでいる場合ではないぞ! こうなればお前が雇った人物を頼りに監視をしてもらうしかあるまい」
「そ、そうだネ……。どの道やらないと、ネギ坊主の将来も私の未来もないんだから、落ち込んでなど居られないネ!」
エリックの励ましで、復活した超。少し早すぎるだろと思うが、自分の祖先の未来、ひいては自分の運命すらもかかっているのだ、仕方の無いことである。またエリックは、超が監視等が出来ないなら、他人にやってもらえばいいと考えたようだ。
「うむ、その通りだ。さて、ならば直一君にでも監視を頼もう。彼ならうまくやってくれるかもしれん」
「それか龍宮サンに頼むのも手だネ。むしろ両方に監視してもらうのがよいカ」
「そうしよう。ならばすぐさま頼みに行くとしよう。ネギ少年の、ひいては君の将来がかかっているのだからな!」
計画は決まった。その男を追跡し、どういう行動に出るかをエリックは予測することにした。しかし超は懸念があった。いや、どうしても仲間にしたいものがいるのだ。
「ネギ坊主を仲間に引き入れられれば、とても力強いんだガ……」
「確かに彼の未来に関わることだ、出来れば仲間にしたほうがいい。しかし無理やりではいかん。逆に不審を抱かせてしまう恐れがある!」
「わかってるヨ。今日の出来事を正直に話し、仲間に勧誘してみるネ」
この事件はネギにも関わってくることだ。出来れば超はネギにも協力してもらいたいのである。またエリックも同じ意見であった。ただし、仲間にするにあたっての注意をエリックは超へ強めに言った。
「それがいいだろう。ただし、くれぐれも未来のことに関してはネギ少年に言うなよ!? わかっていると思うが自分の未来を知ることは危険なことなのだからな!?」
「わ、わかってるネ。未来のことを言わずに仲間にしてみせるヨ」
「それでいい! よし、では早速計画を練るとしよう!」
ネギに未来のことを教えることは許さないと言った。それは当然危険なことで、未来に関わることでもあるからだ。だが、そのリスクを負ってでも、ネギを仲間にしたいのである。それほどに、超のカシオペアを盗んだこの男を警戒しているという訳だ。そしてエリックと超は、この男の行動を阻止し、捕獲する計画を考えるのであった。
…… …… ……
転生者名:
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:電設工業社員
能力:アルター、ラディカルグッドスピード
特典:スクライドのストレイト・クーガーの能力
適度に快適な人生
未来がある程度安定するなら魔法バラす必要なんてないね
でも未来は不確定で、どうなるかは予想つかないからね