理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ87:少し修行しただけで強くなる転生者


四十四話 魔法の修行

 このカギ・スプリングフィールドは変態だ。正直言えばスケベ根性丸出しで、どうしようもない存在である。だが、それでも外道には落ちていない。無理やり生徒を手篭めにするほど、腐ってはいなかったようだ。

 

 しかし、そんな時、腐った外道に敗北してしまった。あの憎き銀髪オッドアイのイケメンだ。この敗北はカギにとって衝撃だった。最強だったはずの特典が、簡単に打ち破られたからだ。だからこそ、あの銀髪を倒してあわよくば生徒に好かれたいと考えていた。そこで、あのエヴァンジェリンに頼んで鍛えさせてもらっているのだ。

 

 

 そしてここはエヴァンジェリンのログハウスの内部。そこにある別荘と呼ばれるダイオラマ魔法球の内部である。数ある魔法球の中からリゾート島が内包されている魔法球を使って、エヴァンジェリンはカギの修行に付き合っているようである。

 

 

「ちょ!? おま!? なんだよありえねぇぜ!! あれ師匠(マスター)の劣化コピーなんじゃねぇの!?」

 

「ああそうだ、私が生み出した人造霊だ。あれを倒せないのなら、その銀髪には勝てんぞ?」

 

「ギャニ!? すでに魔法の射手に囲まれてる!!?」

 

「無詠唱が基本だ。貴様の()()ならば切り抜けられるはずだろう?」

 

 

 エヴァンジェリンとカギは戦うことができない。というのも、カギが契約により、エヴァンジェリンに攻撃できないからだ。だから修行をつけるのは、エヴァンジェリンの劣化コピーである人造霊だった。その劣化コピー、エヴァンジェリン二号とここでは勝手に呼ばせてもらうとしよう。

 

 そしてなんとまあ、このエヴァンジェリン二号、原作とはまるで別物だった。なんとその姿は白一色のゴスロリ衣装だったのだ。しかし、その数十分の一の強さははずのエヴァンジェリン二号は、やはり化け物クラスの強さであった。そこで1001の氷の魔法の射手をなんとか防御したカギだが、その不甲斐なさにエヴァンジェリン二号はため息をついていた。

 

 

「おい、従者もなく、本体の劣化であるこの私が相手だというのに情けないではないか」

 

「う、うるせー! 俺だって情けないと思ってらぁ!!」

 

「そうか、ならもう少し強めに行こう」

 

「その術がチートすぎんだよ!! 体で覚えろってかチクショー!!」

 

 

 この劣化コピーのエヴァンジェリン二号でさえ、あの”術具融合”が使えるのだ。それを覚えさせようと、戦わせているのが本物のエヴァンジェリンである。ガチンコスパルタで鍛えてほしいとカギから言われたので、普段スパルタなんぞしないエヴァンジェリンも、そうしてやっているのだ。

 

 そしてこのカギ、今は大人の姿である。なぜその姿になっているかというと、特典を伸ばすためである。このカギは父親ナギの能力をもらっている。それならば、その父親の強さがイメージしやすい、大人の状態のほうがやりやすいだろうと、エヴァンジェリンが考えてそうさせたのだ。動きも魔法もイメージが重要だ。その特典をすばやく伸ばすために、そう言った些細なことにも気を使っているようだ。ちなみに年齢詐欺薬を買った後で、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の中に年齢を変化させる薬があったのを思い出したカギであった。やはりバカなのは直らないようだ。

 

 

「ええい、”千の雷”!!」

 

「ほう、随分とやるようになったじゃないか。だがその程度の魔法が通用すると思うな!」

 

「それも耐えるのかよ! 術具融合いかれすぎだろ!!」

 

「バカがよく見ろ! 単純に魔力の流れを読んで避けているにすぎん!」

 

 

 劣化だというのにこの強さ。本物はどんだけ強いのか。カギは戦慄し、やっぱり戦わなくてよかったと思っていた。しかし着実にカギは強くなっていた。千の雷もまともに扱うことができるようになった。体術なども、エヴァンジェリン二号のクレイジーな弾幕を避けることで、随分と磨きがかかってきていた。なんとまあ、元々特典がチートだったので、育つのが早いらしい。そんなカギへ、エヴァンジェリン二号は”氷神の戦鎚”を向けて放ったのだ。

 

 

「耐えて見せろ」

 

「耐えられるか! 俺は避ける!!」

 

 

 そこでカギは虚空瞬動を用いてその魔法を回避した。しかしそれこそ罠だったのだ。いつの間にかエヴァンジェリン二号はカギの背後へ移動していたのだ。もはや今のエヴァンジェリン二号の動きを、カギは捉えきれなかったようで、背中へ視線を向けて驚いていた。

 

 

「なんだとおお!?」

 

「だから耐えろと言ったんだよ」

 

 

 その動揺するカギの背後から、エヴァンジェリン二号は闇の吹雪を打ち込んだ。カギはとっさのことで避けきれず、その魔法に直撃してしまう。そして闇の吹雪に吹き飛ばされ、カギは地面へと落下していた。

 

 

「うかつだったぜ……。俺としたことが……」

 

「今のすら反応できんなら、銀髪とやらを倒すのは不可能だと思うのだな」

 

 

 あの銀髪、神威はバグの転生者である。この程度回避できなければ、カギに勝ち目はないだろう。それを身をもってカギにエヴァンジェリン二号が教え込んでいる状況だった。その様子を見ていたエヴァンジェリンが、カギを少し休ませやろうと考えたようだ。そこでズタボロとなって地面に転がるカギへ、エヴァンジェリンは近づき話しかけた。

 

 

「おい、とりあえず少し休め」

 

「お、俺はまだやれるぜぇ!!」

 

「ダメだ、今ので随分と魔力を使っただろう? 少し休まんと修練にならん」

 

 

 エヴァンジェリンはカギの魔力が残り少ないことを見抜き、休ませようと思ったのだ。魔法を習得したいカギにとって魔力はとても重要なのだ。しかし、魔力がなければ魔法が使えない。つまり、ある程度休ませてから、また修行させたほうが効率がよいとエヴァンジェリンは考えたのだ。

 

 

「わーったよ師匠(マスター)

 

「それでいい、貴様にはまだまだ覚えてもらう魔法が山ほどあるのだからな」

 

 

 しかしこのカギ、本気でチートであった。1ヶ月ぐらいしか鍛えてないはずだが、随分魔法剣士、いや魔法拳士として形になってきていた。やはりあの”ナギの能力という特典”とやらがすさまじいのだろう。すでにボロボロになったカギを休ませながら、エヴァンジェリンはそんなことを考えていた。

 

 

「本当に貴様の親父はチートだったのだな。貴様を見て常々思わされるぞ」

 

「俺もそう思うぜ! だが、あの野郎はそれ以上だった! あの野郎だきゃーぶっ潰す!!」

 

「思うのだが一度負けたからといって、どうしてそんなに拘る?」

 

 

 カギのあの野郎とはやはり銀髪の神威のことだ。その神威の特典こそカギが選んだ”ナギの能力”に対なる”ジャック・ラカンの能力”なのである。そういう意味ではある意味因縁めいたものを感じざるを得ないだろう。実際カギは、まだあの神威の特典を知らないのだが。また、そこでエヴァンジェリンは思った。確かに完全敗北は悔しいだろうが、そこまで拘ることなのかと。だからエヴァンジェリンは、カギへとそのことを質問したのだ。しかしカギの答えはやはりカギらしかった。

 

 

「あの野郎がニコぽ使ってハーレム作ったら、俺がハーレム作れねぇだろ!!」

 

「あ、ああ。やはり貴様の原点はそこなのか……」

 

「俺は正統にハーレム作りてぇんだ! 別にハーレムじゃなくてもかまわねぇけど、とりあえず従者がほしいんだよ!!」

 

「そ、そうか。まあ頑張ってくれ」

 

 

 なんか一気に応援する気が失せたエヴァンジェリン。まあ本人もやる気があるようだし、とりあえず鍛えてやろうと考えたようだ。というのもこのエヴァンジェリン、他人にものを教えるのが好きなのだ。だからこそ、研究を繰り返しているのだ。

 

 

「今に見てろよクソ銀髪! 俺が必ずテメーの顔面を歪ませてやる!!」

 

「まあ、確かにその銀髪が下衆なのは認めよう」

 

 

 エヴァンジェリンもカギから話を聞いて、流石にドン引きした。その後覇王が戦ったということも聞いて、さらにドン引きしたようだ。自分に惚れることが幸福とか、本気で何様のつもりなのか。とりあえず、運悪くそいつに会ったら、ボッコボコにしてやろうとエヴァンジェリンは考えていた。そして、休憩開始から数十分ぐらい過ぎたようだったので、エヴァンジェリンは修行の再開をカギに指示した。

 

 

「さて、そろそろ続きをしてもらうぞ」

 

「ええ!? も、もう少し休ませてくだされー!!」

 

「ダメだ、さっさと行ってこい!」

 

「自分が頼んだからしかたねぇが、きちーぜー!」

 

 

 エヴァンジェリンは今の休憩でカギの魔力がある程度回復したと考えたようだ。そこでつかの間の休憩が終わり、またしてもエヴァンジェリン二号にボコボコにされるカギであった。だがあのナギの能力は優秀で、ボコボコでも随分耐えるのである。なんと殴り甲斐があるサンドバッグではないか。まあ実際、まだまだ手加減されているカギなのではあるが。

 

 

「ほら行くぞ”こおる大地”!!」

 

「うお!? 連弾、魔法の射手”火の111矢”!」

 

「魔法の射手は無詠唱となったか! だがそれだけでは勝てんぞ!!」

 

 

 カギはすでにこの数の魔法の射手をも無詠唱で出せるほどになっていた。流石バグ能力、鍛えれば鍛えるほどバグっていく。だがまだまだ、この程度では甘いのだ。甘い、甘すぎる。砂糖菓子のように甘いのである。

 

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

「ハンサム・イケメン・イロオトコ!」

 

 

 二人は同時に詠唱を始めた。エヴァンジェリン二号は、カギの魔法の射手を回避しながら、それを行っているのだ。この程度命中するようなやわな存在ではない。だからこそ、それを牽制にしてカギは詠唱を唱えているのだ。

 

 

「”氷槍弾雨”!!」

 

「”奈落の業火”!!」

 

 

 無数の氷の槍と爆炎の衝突。その衝突により爆発した水蒸気が発生し、視界を悪くした。だが、その煙の中で、両者とも接近戦を繰り広げていた。

 

 

「俺テメーの特典にすりゃよかったかもなぁ! そすりゃテエーの兄にでもなれたかもしれねぇや!」

 

「それは本体に言うんだな! 私は所詮コピーだよ!!」

 

「そりゃそうか、オラオラァ!!」

 

 

 空中での接近戦。拳と蹴りが衝突し、そのつどすさまじい衝撃が空気を揺らしていた。そして両者の拳が衝突すると、その力で煙が吹き飛び視界が晴れた。両者はそのまま接近戦を繰り返していたが、エヴァンジェリン二号は手に光の剣を作り出した。これが有名な”断罪の剣”である。

 

 

「ならば、これぐらい使えるようになってくれ!」

 

「あ、明日やってやらぁ!」

 

「明日っていつだ?」

 

 

 まあこの状況でも軽口が叩けるカギは、かなり図太いのであろう。その断罪の剣を的確に振りながら攻撃するエヴァンジェリン。カギは断罪の剣を避けるのが精一杯となり、簡単に劣勢となった。そしてエヴァンジェリン二号が放っていた無詠唱の魔法の射手がカギへと迫ったのだ。そして、それを避けた一瞬動きが止まったカギへ、断罪の剣が迫った。さらに、エヴァンジェリン二号の断罪の剣が、カギの頭を捕えたところであった。しかし、このカギの特典はバグっていた。

 

 

「お姉ちゃん! 明日って今さ!!」

 

「誰がお姉ちゃんかッ!?……ほう、流石だ」

 

 

 カギはなんと断罪の剣を同じ魔法で受け止めていた。つまりカギも断罪の剣が使えるようになったのだ。大きさは短いが、間違えなく断罪の剣であった。それを見たエヴァンジェリン二号は驚きながらも、喜んでいるようであった。

 

 

「まだまだ魔力の練りが足りんが、よくぞ出来たと言ったところか」

 

「俺をなめるな大魔王!!」

 

「だから誰なんだ、大魔王」

 

 

 このカギのネタについていけないエヴァンジェリン二号。まあついていけるのは多分、転生者ぐらいだろう。そしてその後、嬉しさのあまりに本気を出したエヴァンジェリン二号から、フルボッコにされて凍り付けにされたカギが居た。それを見ていた本物のエヴァンジェリンは、やっちまったかーと涼しい顔で眺めていた。

 

 

…… …… ……

 

 

 こちらはうって変わって随分と雰囲気がいい修行だった。ギガントと、その弟子の夕映とのどかである。その二人はギガントが用意した魔法球の内部で、魔法の練習を行っているのだ。また、たまにネギも一緒に魔法を教えられたり、その二人に教えているのだが今日は居ないようだ。そこで基本的にギガントは、治療・防御・逃亡の三つをその二人へと教えているのだ。

 

 

「夕映君、君は優秀のようだ。すでに水の転移魔法(ゲート)を使えるようになるとはな」

 

「ありがとうございます。これも師匠の教えの賜物です」

 

「すごいなー、ゆえは」

 

 

 なんと夕映は水の転移魔法(ゲート)を習得したようであった。逃亡としてみれば影の転移魔法(ゲート)には劣るものの、かなり優秀な魔法である。そんな夕映のすさまじい成長ぶりに、のどかは素直に驚いていた。そして、友人がどんどん魔法を覚えていることに、嬉しく感じていたのだ。だが、そんなのどかも、結構成長していたりする。

 

 

「何を言う。のどか君も状態異常の解呪の魔法を随分と習得したではないか」

 

「で、でも……」

 

「そうですよ! のどかも十分すごいです!」

 

 

 解呪には色々あるが、基本は麻痺、毒、石化、忘却、凍結などがある。それらを習得することは、なかなか難しいことである。のどかは麻痺と毒の解呪魔法を習得していた。そこでギガントは二人のことをやさしく褒めていた。

 

 

「いや、二人とも優秀だよ。まだ教えて一ヶ月ぐらいだというのに、よくここまで成長した」

 

「それも師匠さんのおかげです」

 

「はい、師匠のおかげです」

 

 

 一般人だった二人だが、一ヶ月ぐらいである程度魔法を使えるようになっていた。ギガントはそれを見て優秀な少女たちだと思った。また、その魔法を覚えたいという強い気持ちも感じていた。だが、それで学校の勉強をおろそかにしてはならないと、ギガントは窘める。

 

 

「まあ、魔法を覚える熱意もよいが、学業も忘れぬことだぞ?」

 

「う、わ、わかってるです。それも師匠からの約束ですので」

 

「はい、ネギ先生には迷惑かけたくないし、そっちも頑張ってます」

 

 

 のどかはまだ勉強をしっかりしているタイプである。だが夕映は、興味が無いことにはあまりやる気を出さないタイプだ。そこでギガントは魔法を教えるなら、ある程度学校の勉強もするよう約束したのだ。だから試験で赤点を取れば、規則どおり魔法を教えないと言う、厳しい態度を取ったのだ。夕映はそれだけは絶対にいやだったので、学校の勉強もある程度するようになった。また、わからないところがあれば、ネギやこのギガントに聞くなりするようになっていた。

 

 

「うむ、学生の本業は学業なり。それさえ守ってくれればよいのだよ」

 

「あの師匠、ところで次は何を教えてくれるのでしょうか?」

 

「水の転移魔法(ゲート)を覚えたのだったな。ふむ、趣向を変えてそろそろ杖で飛ぶ魔法でも覚えてみるかね?」

 

「杖で空を!?」

 

 

 魔法使いっぽさNO1の杖で空を飛ぶ。これがなくて魔法使いと呼べないだろうという代表的な魔法。夕映はその魔法を聞いて、絶対に覚えることを決意した。その夕映の燃える瞳を見ていたギガントは、元気でよいと考えていた。

 

 

「では、少し長めの杖を貸そう。二人とも、受け取ってほしい」

 

「師匠、ありがとうございます! 絶対に飛んで見せます!!」

 

「師匠さん、ありがとうございます」

 

 

 それを受け取った二人は、すごい魔法使いっぽくなったと笑いあっていた。空を飛ぶ魔法は落ちる危険があるので、ギガントはもう少し経ってからでもよいと考えていた。だが、二人ともとても勤勉で優秀だったので、そろそろ大丈夫だろうと考えたようだ。そして、ネギが握るような長い杖を貸し与え、二人に空を飛ぶ魔法を教えることにしたのだった。

 

 

 




カギが修行してる……

夕映の上達速度が異常すぎた……

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