三十一話 銀髪イケメンオッドアイ
さて、修学旅行も終わり、再び平穏な麻帆良へと戻ってきた一同。麻帆良はとても平和だった。いや、本当に平和なのだろうか。ネギの兄で転生者の一人のカギは、原作と完全に乖離してしまったこの世界で、どうするかを考えていた。もはや原作の知識など無意味、無駄。だからこそ、もうネギのお膳立てなどせず、自分の欲望に生きてもよいだろうと考え始めていた。
そしてもう一人。ここに欲望にまみれた転生者がいた。銀髪オッドアイのイケメン。彼の名は
…… …… ……
図書館島。多くの本が存在するこの大図書館。巨大であり地下にはダンジョンがある。だが、地上なら安全なのだ。多くの人が利用する図書館として、普通に存在していた。
宮崎のどか。おとなしい性格で、普通は引っ込み思案な彼女。だが、ひとたび勇気を出せば、大胆な行動ができる強い心の持ち主でもある。そんなのどかは、ネギ先生にあわい恋心を抱いていた。京都修学旅行にて、とりあえず友人としてネギに接するようになったこともあり、それだけでのどかは喜んでいた。そののどかは図書委員であり、本が好きである。今日もその図書館島で本を選んでいた。そこに神威がやってきた。のどかを、自らの手中に収めようというのだ。
「ふふふ、彼女はあんな英雄の子にはもったいない……。僕がもらってあげよう」
この神威は、自分に愛されることこそ至高の幸福だと思っているナルシストである。そこでのどかに声をかけ、ちょっと笑えばよいと、のどかに近づいていった。しかし、声をかけようとした瞬間、別の人がのどかを呼んだのだ。
「のどか、こんにちわ」
「あ、聖歌さん、こんにちわ」
その娘の名は聖歌、転生者である。この聖歌、あの錬と呼ばれた少年といっしょにいた、あの少女だ。聖歌もまた、クラスが違えど図書委員であり、のどかの友人として接していた。
「今日もそんなに本を読むのですか?」
「はい、聖歌さんも一緒にどうです?」
「では、私も一緒に読みましょうか」
二人は同じテーブルで仲良く本を読むことにしたようだ。だがそこで神威は焦った。なぜなら聖歌の見た目は、シャーマンキングのアイアンメイデン・ジャンヌだからだ。ヘタに攻撃すれば、単純に拘束具で殺される恐れがあった。いや、この神威、自分の特典を信じている。負けるはずが無いと確信しているのだ。しかしここで戦っては意味がないと考えた。だから、あえて引くことにした。そして振り向くと、一人の少年が神威を鋭い視線で睨みつけていた。
「キサマ、何を見ている」
そこに居たのはあの錬と呼ばれた少年だった。錬は聖歌に会いに来たのである。あの陽との戦い以来、聖歌が他の転生者に襲われていないかと、少し心配性になっているのだ。で、来て見れば案の定、近くに銀髪イケメンオッドアイが居るではないか。このままではまずいと思い、錬と呼ばれた少年は声をかけて神威を牽制したのだ。
「……突然つっかかってくるなんて、暇なのかな?」
「挑発か? まあいい、俺はキサマの相手などしている暇はない」
「おやおや、逃げるのか?」
「そう思いたければ思っているんだな。俺はキサマを相手にはしない」
しかし、戦おうとは思わない、あえて牽制だけなのである。だから神威の安い挑発に乗らず、聖歌のほうへと歩いていった。また、神威は今日は運が悪かったと思い、図書館島を後にした。だが、この神威は諦めない。原作キャラを手篭めにするため、麻帆良を練り歩くことにした。
…… …… ……
神威が麻帆良を歩いていると、一人の少女が歩いていた。丸いメガネ、やや橙色に近い髪。長谷川千雨である。テンプレで、よくハーレム入りを果たすこの千雨。神威はそんな千雨を手に入れようと考えた。いいところに来たと思った。だから、そこで声をかけたのだ。
「やあ、君、そんな急いでどこへ行くの?」
「うわ……ありえねぇ……」
「は?」
この千雨、普通が好きである。そこに突然銀髪イケメンのオッドアイが声をかけてくる。これが普通かと言われたら、まったく普通でないだろう。千雨は悪いものを見たと思い、手を頭に当てていた。神威はニコぽをする前に、アホみたいな顔で千雨を見ていた。というか、突然見た目だけで引かれるというのは、ちょっとかわいそうではある。
「あ、いえ、すいませんでした。私はこれにて失礼します!」
「え!? ちょっと君!?」
千雨は早々に立ち去った。そりゃ当然だ。こんな変なやつにナンパなどされたくないのだ。神威はダッシュで逃げる千雨を、目で追うことしかできなかった。完全に失敗した神威は、少し機嫌が悪くなった。まあ当然である。二度の失敗。これは自分に自信がある神威にとって、とてつもないストレスであった。しかし何とか平常心を保ち、別の原作キャラに声をかけようと探していた。
そしてまた、そこにもう一人原作キャラがやってきたようだ。あのアスナである。アスナは久々に状助と会って、情報交換をした帰りであった。この神威はアスナの過去もよく知っている。というよりも”原作知識”で知っている。だから不幸なアスナを自分のものにして、幸福にしてやろうと考えたのだ。そこでやはり、神威はアスナに話しかけたのだ。
「どうも、こんにちわ」
「……誰?」
「失礼したね、私は天銀神威と言うんだ、よろしくね」
「ふーん」
「ね、ねえ、こっちが自己紹介したなからさ、そっちも名前ぐらい教えてほしいんだけど」
アスナは本気で興味が無いというような態度を取った。というのも突然知らないやつが声をかけてくる時は、決まって碌なことが無かったからだ。小学三年の時は変態が来たし、いい思い出がまったく無いのだ。そのアスナの態度に、ピクピクと頭にきている神威であった。だが、なんとか冷静な態度を取り繕い、名前ぐらい教えてほしいと言ったのだ。全てを知っているくせに、ずうずうしいやつである。
「……ゴメン、私急いでるから、それじゃあ」
「え!? 何でそうなるんだ!?」
「じゃあ、さよなら」
「な、何、待ってくれよ!」
即逃げ。アスナはさっさと退散したのだ。こういう場合、下手に会話すると碌な事にならないと考えたのだ。神威はそのすさまじい逃げっぷりに、やはり見ていることしかできなかった。なんということだ、二人連続で逃げられてしまった。そんな感じで神威のこの最低な計画は失敗に終わったのだ。これにより、さらにイライラを募らせる神威。もはや怒り心頭であった。三度目の失敗、もう三度目である。神威は我慢できなくなった。どうするか考え始めていた。
…… …… ……
「が、ぎゃ……」
「ふぅー、弱い弱い。やはりサンドバッグには君のような醜いやつがよく似合う」
建物の影で、揺れる銀髪を赤く染め、人を蹴り上げる少年がいた。神威である。神威はその苛立ちを抑えることなく、適当な転生者を見つけてストレス発散していたのだ。この転生者もまたある程度強かった。だが完膚なきまでに敗北したのである。
「特典はしっかり鍛えないと使えない。そんなこともわからない醜い脳みその君は、本当にその姿がお似合いだ」
「ぎ……な、なぜこんなことを……」
「イライラしていたからさ。理由なんてないよ。君が目に入ったからやっただけさ」
「ぐ……ひ、ひでぇ……」
「まあ、もうスッキリしたよ、ありがとう」
スッキリして帰ろうとしたところに、もう一人転生者が現れた。そこでボコボコにやられた転生者の友人である。そのボロボロの友人の姿を見たもう一人の転生者は、キレて神威に攻撃を仕掛けた。
「てめぇぇぇ!! 何してやがんだ!!!」
「ハハ、君も醜い人種の分類か……」
「黙れぇぇ!! 切り殺してやる!!」
「あたらない、あたらないなぁ!!」
もう一人の転生者は剣で神威を攻撃した。だが神威にはあたらないのだ。そのあたらなさに、さらに暴れるように攻撃するもう一人の転生者。しかし、大振りとなった隙をつき、神威はもう一人の転生者の腹部へ拳を刺した。
「ぎが……!?」
「弱いなあ、剣の使い方もなっちゃいない、醜い攻撃だね」
「ぐ、う、うるせぇえ!!」
「ほらほらほらほらぁ! 弱い弱い!!」
「ぐ、ぎゃ!?」
神威はさらに顔面に連続して二人目の転生者へ蹴りを入れる。それが全部顔に命中し、吹き飛び壁に背を打ちつけるもう一人の転生者。だがさらに追撃の拳を神威は放ち、それがまたもう一人の転生者の腹部に突き刺さったのだ。
「あああああああ!?」
「醜い弱さだねぇ……」
「が、がる……」
「醜すぎる存在は、こうだね! ホラァ!!」
そしてトドメに神威はアッパーを仕掛けた。もう一人の転生者はそれを避けるすべも無く、顎に命中した。その一撃で完全に意識を手放し、もう一人の転生者は伸びてしまったようだ。それを見て本当に醜いクズだと吐き捨て、神威は帰るために移動を始めた。
「ふぅー、本当に醜い。君達のような醜い存在は、僕のストレスのはけ口がお似合いさ」
そう最後に気を失った転生者二人に吐き捨てた。そしてスッキリした顔で、自分の部屋へと戻っていくのだった。今回は収穫なしであったが、またやればよい、そう神威は考えながら歩くのであった。
…… …… ……
その神威が転生者二人に当り散らしている影で、それを見ているものが居た。朝倉和美である。和美はクラスメイトの友人らしき神威を目撃し、面白いことがあるかもしれないと思い追跡していた。なんたってクラスメイトの数名は、この神威に惹かれているからだ。あわよくば修羅場や、そのクラスメイトと神威がイチャラブしているところを見れればいいと考え、神威を追っていたのだ。しかし、そこで見たものは想像を絶するものだった。この神威という少年は、とんでもないやつだったのである。
「な、何してるのあれ……」
「ふむ、喧嘩を売って、ただ相手をいたぶっているのでしょう。ひどいことをしなさる」
「そんな……。私のクラスメイトの憧れの彼が、こんなことしてるなんて、記事に出来る訳ないじゃない」
「あまり声を出さないほうがいいと思いますよ。見つかれば何をされるかわかりませんので……」
和美は神威の行動に怒っていた。人を人をと思わぬいたぶりように、目を背けながらも許せないと感じていた。またクラスメイトの憧れである神威がこんな行動をしているなど、想像できなかったのだ。
その横でマタムネは、見つかると危険だと忠告していた。すると神威は満足したらしく、こちらへやって来たのだ。和美は怖くなり、すぐさま退散していった。だからなんとかバレずにすんだようである。
「怖かった……。一体なんなの、アイツ?!」
「わかりませぬ、人の闇は深いということでしょう」
「でも、でもさあ……、このことを、みんなになんて言えばいいんだろう……」
「今はまだ、静観を決めているしかないでしょう。しかし、必ずや好機は訪れますよ」
この元気なパパラッチである和美すらも恐怖を覚えたあの神威の行動。恐ろしい何かを垣間見てしまったと思ったようだ。そしてこのことを誰にも言えない、どうすればいいのか悩んでいた。マタムネもまた、人の闇を垣間見たと感じていた。しかし、この世に悪が栄えたためしなし、マタムネはきっとチャンスがやってきて、あの神威の闇を暴くことができると和美に話したのであった。
…… …… ……
転生者名:一人目の転生者
種族:人間
性別:男性
原作知識:あり
前世:30代会社員
能力:不明
特典:不明
転生者名:もう一人の転生者
種族:人間
性別:男性
原作知識:なし
前世:20代大学生
能力:剣での攻撃
特典:不明
気がつけば踏み台より性質の悪い銀髪イケメンオッドアイになってた