理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ71:兄弟キャラが敵組織へ移動

設定されたポイントへ行けばクリアになるステージで、わざわざ敵を全滅させた状態


三十話 総本山と赤蔵家

 修学旅行三日目。本来なら京都編において、とても重要な日なのだ。しかしすでに、その重要なイベントは解消されてしまった。だから平和な一日を過ごしていた。その道中にてネギは学園長の任務を全うすべく、関西呪術協会の総本山へと足を運んだ。同じく、アスナたちも一緒に向かった。当然刹那のサーヴァントたるバーサーカーも同行したのだ。また、さりげなくカギもついていったが、誰も気にしていなかった。

 

 そして覇王も、リョウメンスクナとの約束のために京都中を回っていた。それで随分と遅くなったが、一応報告のために総本山へと赴く事にしたのだ。また、いつも共に行動する状助と三郎であったが、流石の覇王もそこへは誘わなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 関西呪術協会、総本山。そこは木乃香の実家でもある。それは大きな屋敷であり、流石総本山といわざるを得ないだろう。その木乃香が先導して、ネギたちはその場所へとやって来ていた。そして盛大な歓迎と共に、関西呪術協会の長である近衛詠春は、ネギたちを歓迎したのである。

 

 しかしカギはまた驚いた。おかしい、まずこの総本山へ移動しているメンバーがおかしい。本来ならもっと多くのクラスメイトと行くはずだった。少し後にネギと合流するはずなのだ。さらに、ここであの犬上小太郎が待ち構え、ネギと戦うはずだからだ。そしてのどかのアーティファクトによって、窮地を救われるはずだからだ。だが、そのようなことは起こらず、普通に通り抜けられてしまった。というか、あの金髪のあんちゃんなんでついて来たんだ?とも思っていた。これらはカギにとって隕石が落ちるほどの衝撃的事実だった。

 

 

「ようこそ、明日菜君、このかのご友人。そして担任のネギ先生にカギ先生」

 

「詠春さん、お久しぶり。なんか老けたわね」

 

「お父様! 久しぶりやー」

 

「こ、このか……」

 

 

 アスナは記憶が封印されていないので、詠春に久しぶりに会ったことを喜んでいた。また、アスナは詠春が随分老けたことに、時間の流れを感じていた。そして普段どおりに父親として接し、詠春に抱きつく木乃香が居た。だが詠春はそんな中、なぜか遠くを見ていた。なにせ木乃香の大胆な行動で今回の騒動の首謀者を、間接的に土下座させてしまったからだ。覇王君は一体何を教えたのだろうか。そう思わずには居られないほど、この詠春には衝撃的なことであった。

 

 

「このか、相当無理をしたようで……」

 

「お父様、もう知っとるんやなー。でも無理はしてへんよ! ししょーが居るんや、無理なんてあらへんよ!」

 

「そ、そうだったね……」

 

 

 詠春は本気でショックであった。あの覇王君、娘を遠くへ持っていきおった。そう思った。これはもう責任とってもらわんと困る。そう考えるぐらい、娘の変貌振りに驚いているのだ。だが実際、変貌した訳ではない。元々そんな要素が木乃香にあっただけである。ちょっとだけシャーマンとして自信をつけた木乃香だからこそ、これほどアグレッシブになったのだ。

 

 

「とりあえず、積もる話は後にしようか」

 

「そうやねー」

 

「あのー、長さん、これを」

 

 

 ネギが親子の会話が終わったと思い、そこで学園長からの親書を取り出した。それを詠春に渡し、無事任務を達成したのだ。その親書、内容が原作と同じ部分もあった。しかしそれ以上に覇王の行動が書かれていた。夜の警備で、西の術者をボッコボコにして、恐怖で纏め上げて信者にしてしまったという、おぞましい内容だった。そこでさらに顔が引きつる詠春。いやはや最近術者たちが真面目に京都を防衛していると思ったら、そういうことだったのかと思ったのだ。まあ、とりあえず任務を達成したネギに詠春は労いの言葉をかけた。

 

 

「任務御苦労! ネギ・スプリングフィールド君!」

 

「はい!」

 

「な、何かおかしいぞ。おかしい……」

 

「兄貴どうしちまったんっスかー!?」

 

 

 この光景、やはりカギはおかしいと思った。完全に原作と乖離していたからだ。いやはやおかしい、どうしてこうなっているのかと頭を悩ませていた。

 

 その親書を受け取った詠春は、今から山を降りれば日が暮れるという理由で、この総本山へと泊まることを提案していた。しっかりと身代わりを立てるので、問題ないとしたのだ。だが、ネギは一応先生なので、自分だけでも帰ろうと言ったのだ。

 

 

「僕にはまだ仕事がありますので、とりあえず戻ります。そして明日にでも迎えに来ようと思います。魔力強化で走れば、日が暮れる前に戻れそうですので」

 

「ふむ、ネギ君は真面目なんですね。わかりました、ではこの札をお使いなさい。ここに居る人に姿を変えて、身代わりになってくれるはずです。そしてカギ君はどうしますか?」

 

「ありがとうございます! ありがたく使わせてもらいます」

 

「へっ俺は一応残るぜ! 何があるかわからねぇからな!!」

 

「そうですか、ではネギ君。また明日よろしくお願いします」

 

「はい、わかりました! ありがとうございます、長さん!」

 

 

 ネギはそう言うと旅館へと戻っていった。魔力強化、いや”戦いの歌”という強化魔法で走って行ったのだ。ネギは杖さえ持ち歩いてはいないが、ギガントから貰った魔法媒体の腕輪を、現在杖代わりにしている。普段はしないが、こういう場合に備えて持っているものである。それにより、魔法を使うことが出来るのだ。そして残った、アスナの班とカギのために歓迎会が行われるのであった。

 

…… …… ……

 

 

 にぎやかな歓迎会。色々な和食が出され、アスナたちはそれに舌鼓を打っていた。木乃香も久々の実家なので、妙にテンションが高いようであった。その傍らで、チビチビと酒を飲んでいるバーサーカーがいた。流石に少女だらけの宴会に入っては行けないようだ。そんな歓迎会が行われる中、詠春は刹那を呼んだ。自分の娘、木乃香を護衛してくれたことを労うためだ。

 

 

「刹那君」

 

「ハッ、なんでしょうか、長」

 

「この二年間、このかの護衛をありがとうございます」

 

「いえ、私は別に何もしてはおりません。結局覇王さんとバーサーカーさんがほとんど解決してしまいましたし……」

 

「近右衛門殿の手紙にも書いてありましたね。しかし護衛をしてくれたのは事実です。この感謝を受け取ってもらいたいのですよ」

 

「私のようなものに、そのような言葉、もったいなく思います!」

 

「そうかしこまらなくてもよいのですよ」

 

 

 なんか護衛に行ったけど覇王が大体全部終わらせちゃってた。それが刹那の感想である。だが詠春も、しっかりと護衛を全うしてくれた刹那を、とても感謝していたのだ。同じくバーサーカーにも、後で声をかけようと詠春は考えていた。と、そこで覇王が到着したようで、詠春の前に現れたのだ。

 

 

「お久しぶりです、長」

 

「ええ、お久しぶりです、覇王君。そちらも大変だったようですね」

 

「いえ、そのようなことはございません」

 

「そして、なにやら事件を解決してしまったようで……。さらにあの大鬼神を味方につけたようですね」

 

「情報が早いようで。しかし、それは弟子たる木乃香を守るため行ったことですので、どうかお許しを」

 

「そういうことではないのです。最近のこのかが何故か遠くに行ってしまった気がしましてね……」

 

「ああ、それなら問題はございません。きっと遠くでも、うまくやっていけるでしょう」

 

 

 いやそうではない、だからそうではないのだ。詠春はそう考えた。完全にズレた思考で会話するこの覇王。しかし覇王は木乃香を弟子としか見ていないので、そういう物言いになってしまうのだ。父親として考える詠春は、とても複雑な心境であった。

 

 その会話を終えると覇王は、バーサーカーの横で食事を楽しむことにした。知り合いの男性は、詠春含めてもこのバーサーカーぐらいだからだ。状助たちは流石に呼べなかったし、話し相手がほしいのである。

 

 そこでアスナと同じ班で一緒に来ていた焔は、覇王の登場で少し恐縮したが、すぐに慣れたようで出された料理を口へと運んでいた。また、さよは二日前に覇王の持霊となったヒトダマモードのリョウメンスクナと会話していた。なんと肝の据わった娘だろうか。そんな中、アスナが詠春に話しかけた。

 

 

「詠春さん、はっきり言えば、最近のこのかはあんな感じよ?」

 

「明日菜君も元気そうですね。そして、最近のこのかとは?」

 

「麻帆良に図書館島あるでしょ? あの地下で変態を見つけるぐらいやってのけるのが、最近のこのかなのよ」

 

「変態……? あ、ああアルビレオのことでしょうか。そうか彼はそんなところに……」

 

 

 変態アルビレオ・イマ。紅き翼の最年長にて最高の変態。あのロリ吸血鬼、エヴァンジェリンに変態衣装を着せようとしたりする変態だ。それでなくても趣味が他者の人生の収集。その時点ですでに変態だとアスナは思っているのだ。

 

 そして、さりげなくアグレッシブすぎる木乃香に、アスナも手を焼いているのである。アスナと詠春がそんな会話をしているところに、木乃香の持霊となったさよもやってきた。一応友人の木乃香の、父親である詠春に挨拶をするためである。

 

 

「どーもはじめまして。私は相坂さよと言います。今はこのかさんの友人と持霊をやっております」

 

「これはわざわざ、はじめまして、このかの父、詠春です。以後お見知りおきを」

 

 

 詠春は普通に会話しているが、内心驚いていた。シャーマンとして確実に成長している木乃香に驚いているのだ。そしていつのまにか持霊を得て、シャーマンとして一人前となっていたからだ。

 

 いやはや、あの小さかったこのかはどこへ行ってしまったのか。詠春は父親として、ほんの少し寂しくなったのだ。そしてアスナは今日の汚れを落としたく思い、近くに居た木乃香にそれを尋ねた。

 

 

「このかー、お風呂借りてもいい?」

 

「ええよー、むしろみんなで入ろかー」

 

「そうね、じゃあみんなで行こっか」

 

「お風呂いいなー。幽霊だから入れないんですよねー」

 

「さよー、なら憑依合体で入ればええやん。多分やけどお風呂に入る気分だけは味わえるかもしれへんよ?」

 

「それは名案ですね! ありがとうございます!」

 

 

 木乃香は憑依合体すれば感覚が味わえるかもしれないと考え、さよにそれを提案した。膳は急げとさよをつれて、木乃香たちは風呂へと向かった。実際霊が風呂に入るならマタムネのごとく、本人の姿のままO.S(オーバーソウル)してしまうのが一番だろう。感覚があるかはわからないが。また、この総本山の風呂は大きく、数十人ぐらい余裕で入れるのだ。

 

 それを聞いたカギは、覗きをしようと考えた。しかし敵襲に備えるためにあえてやめたのだ。カギはさりげなく死亡フラグを回避していた。覗いていれば、アスナにボコられることは必至だからだ。

 

 そして娘たちが風呂へと行ったので、その間に詠春はずっと外ばかり眺めているカギに、その父親の話をしようと思ったのだ。あの千の魔法の男、ナギの話だ。

 

 

「カギ君、父親のことをお話しましょうか?」

 

「いんや、別に興味ねーしー。気にせんでくれや!」

 

「本当にそうなんですか?」

 

「親父とかどーでもいーんだよね」

 

「そ、そうですか……」

 

 

 カギはナギのことなどどうでもよいのだ。なぜならほっといても、最終的にはいつの間にか復活するからだ。それに居場所も現在どうなっているかも知っている。だからカギはどうでもよいのだ。そしてカギは来る事もない敵襲を待ち構え、戦う準備をしていたのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 総本山の夜。”原作”ならフェイトがやってきて、クラスメイトを石化する。しかし、それは起こらない。というのもリョウメンスクナ復活が目的で動いていた千草は、完全にその手段を絶たれてしまったからだ。さらに言えば、その千草と仲間の小太郎は、すでに反省部屋に入っており、もう何も出来ないのである。

 

 あのアーチャーという男も、何もかも終わったと言う連絡が来たで、あの月詠を連れてとさっさと戻っていってしまったのだ。だからもう敵は居ない。だからもう戦う必要が無いのだ。

 

 

「敵がこねぇー!! どうなってやがんだよ!!!」

 

「兄貴ぃー、どうしたってんだい!? 今日は様子が変ですぜ!?」

 

「本来ならここに人形っぽいやつがやってきて、攻撃されるはずなんだ! だが誰もこねぇ!!」

 

「そうなんっスか。でも平和でいいじゃないっスかー!」

 

「いい訳ねぇだろ!! 俺が活躍できねぇじゃねーか!! くそー!! もう寝る!!!」

 

「あ、兄貴ぃー!」

 

 

 カギはもうどうにかなりそうだった。ゆえにすさまじい変な顔で叫んでいた。計画的には復活したリョウメンスクナとフェイトを同時にぶっ倒し、人気者になる予定だったからだ。

 

 しかし、誰も敵がこない。むしろ襲われる気配すらないのだ。これにはカギも参った。

 

 というのも、カギは覇王がリョウメンスクナを倒し、持霊にしてしまったのを知らないのだ。近くでさよが、ヒトダマモードのリョウメンスクナと会話していたのに、気がつかなかったのだ。いや、まさかあの巨大なリョウメンスクナが、小さなヒトダマモードになっているなど、わかるはずもなかったのである。

 

 完全に空振りしているこのカギ。もうどうでもよくなって不貞寝したのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 覇王は次の日の朝、つまり修学旅行四日目に、自分の実家へ帰ることにした。そして状助と三郎も同行することになった。また朝方、ネギが総本山へとやってきて、アスナの班員を迎えに来たのだ。そして、とりあえずそのまま旅館へと帰っていった。

 

 

 そして覇王は状助と三郎を連れ、実家の赤蔵家へとやってきていた。その見た目に状助も三郎も驚いていた。

 

 

「ここが僕の実家さ」

 

「これが赤蔵家……」

 

「シャーマンキング、麻倉家と同じような感じなんだね」

 

 

 そう、赤蔵家はシャーマンキング、麻倉家とほぼ同じ作りである。覇王は家へと入り、客として二人を家へと招いた。

 

 

「ヤッホー、はじめまして、僕は覇王の父の御木久、どうぞよろしく!」

 

「あ、ど、どうもっす、東状助っす」

 

「は、はじめまして、川丘三郎です……」

 

 

 状助と三郎は驚いた。なにせシャーマンキングの主人公、麻倉葉の父親、麻倉幹久と同じ姿の父親が登場したからだ。この時点で驚かないはずが無い。

 

 

「なんだ御木久、帰ってきてたのか」

 

「覇王、パパって呼んでくれてもいいんだよ?」

 

「年中家に居ないのに?御木久は御木久だよ」

 

「ひどいなあ、パパと呼ばれることなら、僕なら全然かまわないよ?」

 

「こりゃ驚いたぜ……」

 

「あ、うん」

 

 

 さらに状助と三郎は驚いた。なんたってシャーマンキングの幹久同様、名前で呼び捨てにされているからだ。これには状助も三郎も別次元にトリップしたのかと思うほどだった。

 

 

「御木久、その仮面ダサいからはずしたいほうがいいぞ」

 

「僕なら全然かまわないさ、それよりご友人がた、何もないところだけど、ゆっくりしていくといいよ」

 

「ありがとうっす……」

 

「あ、はい……」

 

 

 この御木久、あの仮面をつけている。これには色々と深い事情があり、その仮面をつけているのだが。覇王はダサいと思っているので、はずせばいいのにと思っていた。祖父の陽明も、家ぐらいはずせと思っているのだが。さて、その驚く二人は赤蔵家へと上がっていった。

 

 

「ほう、覇王よ。友人を連れてきたか」

 

「やあじーさん。久しぶりだね」

 

 

 覇王は基本的に、陽明にフランクに会話する。重要な話の時だけは、敬語で話すようにしているのだ。単純に雰囲気を出すためというか、まあそんなところなのである。

 

 

「久しいな、元気そうでなによりだ。お前のおかげでずいぶんと京都も安定したぞ」

 

「そうでなくては、僕が東に行った意味がない」

 

 

 覇王が麻帆良へ行った目的の一つは、京都の術者をボコして回収するということだった。そして覇王はその任務を全うし、随分と京都は安定したのである。陽明はそれを労うと同時に覇王に報告したのだ。

 

 

「グレート……」

 

「まさかここまでとは……」

 

 

 状助も三郎も、まさか祖父までそっくりさんとは思わなかった。この赤蔵家は、麻倉家なのだろうと思ってしまうほどだった。

 

 

「じーさんや、マタムネが帰って来たみたいだけど、会ったかい?」

 

「一昨日の朝挨拶したぞ。まあ、またそのまま出てってしまったがな」

 

「そうか。まあ今後は多分僕の近くに居るかもしれないから、とりあえずそう覚えておいてほしい」

 

「マタムネのやつも、やはりお前が居るなら、お前のそばに居たいのだろうな」

 

「おい、グレート、マタムネって言わなかったか!?」

 

「言った言った!」

 

 

 さらにマタムネまで居るらしい。状助はネギまだよなあ!?と思っていた。三郎もシャーマンキングなんじゃ……と考えていた。まあ半分間違っていないだろう。とりあえず出てきたお茶を飲みつつ、現実と向かい合う二人であった。

 

 

「とりあえず適当に寛いでくれよ。何も無いところだけどね」

 

「すでに寛いでるぜ!!」

 

「なあ覇王君、この状況、驚きの連続だよ」

 

 

 普通に考えて驚かないほうがおかしいだろう。何せ別世界みたいなものなのだから。あの覇王ですら最初は驚いたことなのだ。当然なのである。

 

 

「だろうね、僕も正直最初は驚いたからね」

 

「マジかよグレート……。覇王も驚いていたとはよぉ~」

 

「当たり前じゃないか。ネギまと言われたはずが、シャーマンキングだよ? 今となってはどうでもいいことだが、そりゃ驚くさ」

 

「だよねえ……」

 

 

 とりあえず、お茶を飲みながら、覇王は自分の人生を語っていた。そして、いつの間にかシャーマンキングの雑談となっていた。転生者三人、有意義な時間を過ごしたのであった。ちなみに陽はいないようであった。さてどこへ行っているのだろうか……。

 

 

…… …… ……

 

 

 赤い男、アーチャー。今回の敵の一人だった転生者だ。バーサーカーにボコボコにぶちのめされ、負け逃げした悲しい転生者だ。その横に二刀の女剣士と、もう一人、二刀の少年がいた。

 

 

「いいのか? 私についてきてしまっても」

 

「ハッ、もうあんな家に居る意味なんてねぇ、オレはオレのしたいように生きるんだ!」

 

「ウチもセンパイと斬り合えるなら、何でもえ~わ~」

 

 

 この少年、あの赤蔵陽であった。もう赤蔵の家に居たくない陽は、アーチャーと出会い仲間となったようである。もはや麻帆良に行っても戦う必要があるのなら、完全なる世界の仲間となって敵対したほうがよいと考えたのだ。また、あわよくば、敵対して原作メンバーに会えればいいとさえ考えていた。

 

 この二刀の女剣士月詠も、刹那の剣術に見惚れてしまい、また戦えればいいと思って傭兵としてアーチャーと契約したのだ。

 

 

「それならいいがな。あとで文句を言われても困る」

 

「クソ兄貴のヤツに全部持っていかれるのは気にくわねぇ! ぜってぇほえ面かかせてやる!」

 

「ふん、まあいい、行くぞ」

 

 

 アーチャーはこの陽という転生者が本当に使えるか、微妙な気分であった。さらに突然文句を言い出して我侭を言い出さないか、とても心配であった。だが陽は、絶対についていくという意思があるようだ。だからこそ、ある程度使ってみるかとアーチャーは考えたのだ。

 

 そしてアーチャーは次の任務のために、移動をすることにした。このアーチャーは結構多忙らしい。また、バーサーカーにボコられた傷は、なんとか治療したようだ。なかなかタフである。そういう訳で、彼らはその後、京都から姿を消したのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 アスナたちは旅館へと戻り、自分たちを模した式神を片付けていた。そしてとりあえず部屋へと戻り、ゴロゴロしていた。そこに和美がやってきた。昨日何があったか聞きにきたのだ。

 

 

「やっほーアスナ。昨日の夜はどこ行ってたのかなー?」

 

「げ、朝倉じゃん……。なんでそれがわかるのよ!」

 

 

 なぜか昨日の夜、アスナはここに居た自分たちが式神だということが、和美にばれていたのかわからなかった。そしてアスナは、和美に総本山へ行っていたことがバレるのを恐れた。だが別に、総本山に行った以外何もしていないので、まったくやましい事はないのである。するとその理由を一匹のネコが教えてくれた。

 

 

「それは申し訳ないことをしたかな。小生があの式神のことを教えたのですよ」

 

「ネコ!?」

 

「わー、かわええやん」

 

「わ、このネコさん幽霊ですよ!!」

 

「自己紹介させていただく。この度和美さんのお供となった、名をマタムネと申す。以後お見知りおきを」

 

 

 どうやら夜に居たアスナたちが式神だとマタムネが和美に教えたようである。あの式神、微妙に変だったからだ。それに不審に感じた和美が、マタムネに質問したのだ。まあまだストリップしてないだけマシなのであるが。そして木乃香やさよは、マタムネに興味津々だった。

 

 

「おや、そこのお前さん。シャーマンでしたか」

 

「ウチのこと?そうや、ウチは近衛このかと言いますえ」

 

「あ、はじめまして、相坂さよです。幽霊同士、仲良くしましょうね!」

 

 

 マタムネは木乃香がシャーマンだと気がついた。横に霊が居たからだ。この娘の霊が木乃香の持霊だと察して、シャーマンだと確信したのだ。そしてマタムネに自己紹介をする木乃香とさよだった。

 

 

「ネコに自己紹介してるってのはすごいシュールねぇ……」

 

「あのネコはねこまたのようですね……」

 

 

 その木乃香とさよの行動にシュールさを感じるアスナだった。確かにシュールな光景だろう。なんたってネコに自己紹介をしているのだから。そして刹那は、あのネコがねこまただと推測していた。

 

 

「で、アスナー。どこに行ってたのか説明よろしく!」

 

「何もしてないわよ、このかの実家に行っただけだから」

 

「なんだー。それだけじゃ記事にならないかなー」

 

 

 和美はとりあえず、アスナたちがどこに行ってたのか知りたいようであった。アスナは面倒だが、木乃香の実家で遊んだだけと説明した。間違っていないのでそれしか説明しょうがない。和美はそれじゃ面白くないと思い、それ以上は聞かなかった。

 

 

「近衛といえば、あの関西呪術協会の長の娘さんですかな?」

 

「そうやえー、……およ、マタムネはんはO.S(オーバーソウル)なんか?」

 

 

 マタムネは覇王に仕えて1000年もO.S(オーバーソウル)をしている。木乃香はシャーマンとしてある程度修行を積んでいたので、それがわかったようだ。

 

 

「お気づきになりましたか。小生、1000年もの間、赤蔵の家に仕えておりますゆえ」

 

「ししょーの家やなー。ししょーもこんなかわええネコを持ってるなら、教えてくれてもえーのになー」

 

「師匠? それは陽明殿のことですかな?」

 

「うん、そうやえ。でももう一人、はおもししょーや!」

 

「おや、なんと覇王様のお弟子さんでしたか……」

 

 

 木乃香は赤蔵と聞いて覇王のことを思い出した。そして、それに仕えているマタムネなら、覇王も見せてくれてもよかったのにと木乃香は思っていた。また、マタムネも近衛家の娘の木乃香が、覇王の弟子であることを今知ったようである。まさか覇王がこのような娘を弟子にしているとは、マタムネも思ってなかったのだ。

 

 

「ししょーを様呼びしとるー!?」

 

「覇王さんのネコだと……!?」

 

 

 その短い会話であの覇王が育てた娘、とてもやさしそうなこの娘を、マタムネも気に入ったようである。そこで覇王のネコだと反応する焔であった。覇王ファンとしては当然である。

 

 

「小生、覇王様が生み出されしO.S(オーバーソウル)。ゆえに覇王様は我が主ということです」

 

「ししょーの持霊やったんか。ししょーは持霊が多いんやなー」

 

 

 覇王は修学旅行初日にて、リョウメンスクナを持霊にした。さらにマタムネも持霊ならばS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を入れれば三体も持霊が居ることになる。木乃香はそれが少し羨ましく思ったようだ。

 

 

「なんと、覇王さんの操るものは、あの全ての炎の精霊の主だけではなかったのか……!?」

 

 

 その言葉に焔は覇王が操る霊がS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)だけではないことを知り、驚いていた。そこで焔は、昔彼しか居ないと覇王が言っていたので、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を貸してもらえなかったことをほんの少し思い出していた。

 

 

「このかさんも、一応私と鬼さんを持霊にしてるじゃないですか」

 

「せやったな。さよは自慢の持霊や!」

 

「私もこのかさんは自慢の友人です!」

 

 

 しかし、さよの言うとおり自分も三体持霊がいたので、気にする必要がないと思ったようだ。そしてさよを友人としても、持霊としても自慢に思っている木乃香が居た。その答えに同じく木乃香を自慢の友人と言うさよであった。いやはや一昨日魔法を知った和美は、ここにきてシャーマンをも知ることになったようである。

 

 

「アスナ、アスナ! 近衛がなんかマタムネと話してるけどわかる!?」

 

「私シャーマンじゃないから、わかるわけないじゃない」

 

「シャーマン! 面白そうな単語が出てきたー!」

 

「そういえばシャーマンは、隠蔽とかするのでしょうか……」

 

 

 本来魔法使いは基本的に魔法を知られてはならないため、隠蔽している。しかしシャーマンは別に基本的に霊という、普通は見えないものを操るため、隠蔽する必要がないのである。だから隠蔽などは基本的にしない。そのようなルールも存在しないのだ。そんな感じの会話を午前中ずっとしていた、一同であった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここはナギ・スプリングフィールドが隠れ家だったところである。京都にこっそり拠点を構え、ナギは麻帆良の地下を調べていたという。そこにネギがやってきたのだ。また、アスナの班も一緒にやってきていた。だがカギは居なかった。ナギのことなど、とうに知っているからだ。そしてそこで、一枚の写真を詠春はネギたちに見せたのだ。

 

 

「これが、サウザンドマスターの戦友たちです」

 

「戦友……?」

 

「ええ、二十年前の写真です」

 

 

 そこに映っていたのは、若きナギたちであった。ジャック・ラカン、アルビレオ・イマ、近衛詠春、ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグ、そしてナギの師匠、ゼクト。と、その後ろで隠れるように映る仮面の男、メトゥーナトである。

 

 

「お父様、わかーい!」

 

「ほんと、懐かしい面子ね……」

 

「私の隣にいるのが、15歳のナギです」

 

「父さん……」

 

 

 木乃香は若い自分の父を笑いながら見ていた。アスナはこの面子が集まる日は来るのか考え、少しだけセンチな気分であった。ネギは若きナギを見て、これが自分の父親なんだと実感していた。

 

 

「そういえば明日菜君、メト、いや、こちらでは来史渡でしたか。彼は元気にやってますか?」

 

「たまに様子を見に行くけど、元気そうだったわ」

 

「それはよかった。彼も私と同じく、随分ナギに苦労させられましたからね」

 

「あー、来史渡さんって元々苦労人ポジションだったのね」

 

 

 昔は毎日アスナが見ていたあのメトゥーナト。確かに苦労人の雰囲気があったと感じていた。しかし、まさかこの時代からすでに苦労人だったとは。苦労人というポジションは一度請け負ったらなかなか抜け出せないのだと、アスナはこの時に悟った。

 

 

「そーいえば、この仮面の人がアスナの保護者に似てるんやけど?」

 

「え、そうなんですか?」

 

 

 木乃香はたまにアスナの家へ行くことがあった。その時にメトゥーナトと顔を合わせていた。だが、この写真では仮面をつけているので素顔がわからない。しかし木乃香は、雰囲気や体格、髪型などが似ていると感じたようだ。

 

 

「当然、それが私の保護者の来史渡さんだもの」

 

「あ! そういえばアスナさんが最初にあった時、そう言ってました!」

 

 

 そこでネギはアスナと最初にあった時、自分の父とアスナの保護者が友人だということをアスナが言っていたのを思い出していた。

 

 

「そうなんか、ウチ知らんかったわー。アスナの保護者がお父様の友達やったなんて」

 

「ごめんね、別にいいかなーって思って教えなかったのよ」

 

 

 アスナは木乃香に、自分の保護者たるメトゥーナトが、木乃香の父親たる詠春と友人であることを、木乃香に話してなかった。まあ、別にそこまで気にするほどでもないと、思っていたからである。また、木乃香もメトゥーナトとはさほど会わなかったので、メトゥーナト本人から説明されてはいなかった。

 

 木乃香はその真実を聞いて、世の中せまいんやなーと思っていた。そんなことを考えていると、木乃香はこの写真に写る一人の男のことを思い出した。

 

 

「そーや、お父様とは逆の位置に居るこの人に会ったんやけど」

 

「そういえば明日菜君がそんなことを言ってましたね……」

 

「本気で何を話したか心配なんだけど……」

 

 

 そこに映るはアルビレオ・イマ。木乃香はすでに図書館島の地下にて出会ってしまったらしい男。色々ひどい会話が得意なあの変態。木乃香に何か変なことを吹き込んでないか、アスナはとても心配していた。まあ、流石にそこまでするほど、常識外れてはいないだろうとも思っているのだが。

 

 

「そう長く話はせんかったけど、お父様は元気かーとは聞いてきたんよ」

 

「このか、本気で今度連れて行ってね。近くに居て挨拶しない旧友(へんたい)には、お灸をすえないと」

 

「明日菜君、お手柔らかにしてあげてほしい。というかこうさせてしまったのは、あの来史渡か……」

 

 

 アスナはそのアルビレオに対して、近くに居るのに顔も見せないとはいい度胸だ変態のやつめ、と思っている。だから近々会うなら、軽く懲らしめてやろうと考えていた。そういう考えにさせているのはあの来史渡だと、詠春はすぐわかった。変態には容赦をするなと、いつも教えていたからだ。何やってんだよあのバカ騎士はと、詠春は本気で頭を悩ませた。

 

 

「アスナもこの人を知っとるんやったな。なら修学旅行が終わったら、すぐにでも行って見よかー」

 

「あのー、それなら僕も一緒に行っていいですか?」

 

「ええよー! ネギ君なら大歓迎やえ」

 

 

 そして木乃香は行くなら修学旅行が終わったら、すぐ行こうかと計画していた。ネギも自分の父親の友人に会いたいと思ったので、それに参加を申し出た。するとすぐに木乃香からOKを貰ったのだ。

 

 そして詠春はネギに、ナギと旧友にて戦友だったことを話した。また10年前消息が絶ってしまったこと、図書館島の地下を調べていたことを説明した。ネギもまた、大体のことを師であるギガントから聞かされていたが、やはり戦友で腐れ縁である詠春からの話は新鮮であった。最後に詠春は、ネギへナギが調べていたと言う麻帆良の地図を手渡したのであった。


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