理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ69:大鬼神を仲間にする


二十八話 大鬼神

 京都、修学旅行で宿泊している旅館。その近くの橋で、一人の少年と四人の少女たちが待ち合わせをしていた。アスナと刹那、木乃香とネギ、オマケにさよだ。

 

 彼女たちは一度部屋へと戻りしっかりと私服に着替えて、ある人物を待っているのだ。焔はやはり戦力外であると考え、部屋で待つことにした。そしてその待っている人物はただ一人、覇王である。と、そこへS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に乗って飛んでくる覇王がいた。

 

 

「やあ、みんな。待たせたかい?」

 

「ぜーんぜん待っとらんよー! むしろゴメンなー、こんな夜遅くに連絡して来てもろーて」

 

「いえ、むしろ早いと感じるぐらいです」

 

「しかし、いちいち登場が派手ねえー」

 

「覇王さん、その精霊はやっぱりすごいですね!」

 

「あわあわ、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)さん、こんばんわー」

 

 

 覇王は木乃香から連絡を受けて、ひっそりと宿の部屋から抜け出してきたのだ。というのもこの覇王、実は寝てないのである。一応念のため、すぐに動けるようにしておいたのだ。本当に素直じゃないやつである。そして覇王が来たので、木乃香は先ほどの出来事を説明し、協力を求めたのだ。

 

 

「ふうん、そういうことがあったのか」

 

「そうなんやよ。でもウチ頑張ったんよ?」

 

「頑張った、ねえ。さて、どうするかな」

 

「む、ししょー褒めてくれへんの?」

 

「ハハハ、この程度の敵を撃退したぐらいで、強くなったと思われては困るよ」

 

 

 この覇王、実は木乃香が成長したことを嬉しく思っていた。だがあえて、こういうことを言っているのだ。少しばかり強くなったことで、安心してはならないと言っているのである。というかはっきり言って、ただ素直ではないだけなのだが。

 

 

「うー、ししょーのケチー! いけずー!」

 

「何とでも言うがいいさ。まあ、頼みぐらいなら聞いてやるよ」

 

 

 そして木乃香も、この程度で褒めてくれる覇王ではないことをよく知っている。だからケチとは言うものの、さほど気にはしないのである。だが、ほんの少しだけ寂しさを覚えていた。しかしそこで、覇王のその言葉を聞いて、木乃香は元気を取り戻したのである。

 

 

「あ、ありがとー、ししょー。ほな今からウチの作戦を説明するわー。さよー」

 

「はい! 敵さんの目的はこのかさんの魔力を使って、リョウメンスクナとかいうのを復活させるようです!」

 

「へえ、まあまあやることは、やろうとしていたんだね。あのまま馬鹿なことだけを、やってくるだけじゃなかったんだ」

 

 

 千草たちの作戦は、あまりに単純であった。木乃香の膨大な魔力を使い、リョウメンスクナを復活させることだ。そして、その木乃香の魔力でリョウメンスクナを操り、西を支配し東に復讐することなのだ。だからこそ、木乃香はこう考えたのだ。

 

 

「そうなんよ。だから、先にそのりょーめんすくなを倒してしまうんや!」

 

「は? こ、このちゃん……!?」

 

「な、何でそうなるの!?」

 

「え、ええー!?」

 

 

 その作戦に誰もが驚いた。驚かない訳が無い。突拍子な作戦だったからだ。だが木乃香は真剣そのもの。自分の魔力を使ってリョウメンスクナの封印を解いて操るなら、自分の魔力を使って復活させて、さっさと倒してしまおうというものなのだから。だからこそ覇王に協力してもらおうと思ったのだ。

 

 あの千草が赤蔵の小僧すら倒せると考えていたリョウメンスクナである。だが敵の言葉より、ずっと弟子として側にいた覇王を信頼するのは当然のことだった。

 

 だからこそ、覇王ならばそのリョウメンスクナを倒せると木乃香は考えたのだ。そして、このガンガン行く恐ろしい作戦に、覇王だけはとても愉快そうに笑っていた。

 

 

「ハハハハハハハ! 面白いよ木乃香! 君がそんな面白いことを考えるなんてね」

 

「だからししょーに協力してもらいたいんやけど」

 

「フフフハハハ、いいよ。面白そうだ、その提案を呑もうじゃないか」

 

「流石ししょーや! きっとそう言ーと思ーたわー!」

 

 

 木乃香は覇王を信じている。きっと協力してくれると期待していた。覇王もまた、木乃香を信じている。きっと敵を撃退すると期待していた。だからこそ、覇王は木乃香の提案を簡単に呑んだのだ。

 

 

「このちゃん……大丈夫なんでしょうか……」

 

「シャーマンになると、ああなるのかしら……」

 

「つまり、一体何どうするんです!?」

 

「このかさん、楽しそーですね」

 

 

 しかし周りは本気でドン引きだった。こんなイケイケな作戦に、アスナも刹那も完全に疲れた顔をしていた。ネギはもう何がなにやらわからないようであった。だがさよだけは、木乃香が楽しそうだなあーと、やはりのんきであった。

 

 そして、その作戦をさっさと終わらせるために、覇王はS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に全員乗せて、そのリョウメンスクナが封印されている祭壇へと飛んでいくのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 湖に浮かぶ巨大な岩。そこにはリョウメンスクナが封印されている。”原作”ならば、もう少し後にここまでやってきて、ネギがフェイトと激戦を繰り広げるのだ。だが、その数日も前に木乃香が自分から、この場所へとやってきたのだ。

 

 ”原作”では戦いにより騒がしかった場所ではあるが、今は何も無くとても静かであった。念のため、人払いと認識阻害の結界符を周囲に張り、外界とこの祭壇とを分離させた。そして、とりあえずどうやってリョウメンスクナを復活させるか、全員で考えていた。

 

 

「ウチの魔力で復活させるんやろーけど、どうするんやろなー?」

 

「何か呪文のようなものが必要なのでは?」

 

「覇王さんはそういうの知ってるの?」

 

「まあ、知らないことは無いよ。はっきり言って長いけど、儀式ならしてやるさ。じゃあ木乃香、その祭壇の上に座っててくれないか?」

 

 

 覇王は1000年前から存在する大陰陽師である。ある程度京都のことは熟知していた。それはこのリョウメンスクナの封印を解く儀式も、知識として持っているということであった。

 

 

「とりあえずウチの魔力で復活させるんやな?」

 

「そうなるね。少しダルいかもしれないが、まあ耐えてくれ。君が考えたことだからね」

 

「わかったえ! ししょーにまかせる!」

 

 

 そして覇王がリョウメンスクナ復活の呪文を詠唱した。木乃香の魔力を使って、復活させるのは”原作”と変わらない。

 

 だが別に木乃香が生贄まがいの姿で強制的に魔力を使われている訳ではない。木乃香自身がそれを望み、覇王がその儀式にて、あえて木乃香の魔力を用いた復活を選んだからだ。そこで覇王は儀式発動の術を使った後、儀式を始めた。

 

 

「―――――高天の原に神留りまして……」

 

「このか、何かあったら言いなさいよ?」

 

「このちゃん、無理をなさらずに」

 

 

 覇王が詠唱を始めると、天まで貫く光の柱が木乃香から発されていた。膨大な魔力の光だろう。アスナも刹那も木乃香の心配をし、声をかけていた。

 

 

「んっ、何か変な感じや……。みんな心配してくれてありがとー」

 

「このかさん……」

 

「うわ! このかさん、私のような幽霊にならないでくださいねー……」

 

 

 またさよは、木乃香がこの光で幽霊のようにならないか、気が気ではない様子でオドオドと落ち着かない様子だった。そしてネギも、木乃香に何が起こっているのかわからず、とても不安を感じていた。その儀式の中、木乃香はこの儀式に何か奇妙な感覚を体で感じながらも、みんなに心配されて嬉しく思っていたのだ。

 

 その長い長い詠唱、ひたすらにその詠唱唱えながら、儀式を目を瞑り遂行する覇王。木乃香はその覇王を信じて身を任せていた。そして、その長い詠唱を、終えるときが来たようだ。

 

 

「―――――生く魂、足る魂、神魂なり……!」

 

「眩しーわー」

 

「す、すごい……」

 

 

 長い詠唱が終わると岩から巨大な光の柱が発せられた。そして、その後にリョウメンスクナが封印されている岩から、光に満ちた巨人が現れた。

 

 四本の腕に後頭部に二つ目の顔を持つ鬼神。これこそがリョウメンスクナノカミ。千六百年前に打ち倒された、飛騨の大鬼神の姿であった。

 

 その巨大な岩から半身のみが出現する中途半端な状態にも関わらず、その巨大さに威圧を感じるほどであった。覇王以外はその巨大さと禍々しさに驚きの声を出していた。

 

 

「これがりょーめんすくなかー……おーきーわー……」

 

「こ、これが……!」

 

「あいつら、このかを使って、これを操ろうとしてたって訳なのね……!!」

 

「な、なんて大きさなんだ……、僕の魔法じゃ太刀打ちできるかわからないほどです……!」

 

「前鬼さんや後鬼さんよりもずっと大きい!?」

 

「ふうん、流石大鬼神と呼ばれるだけはある」

 

 

 だがやはり覇王はこの姿を見ても余裕の表情であった。また木乃香は、リョウメンスクナの封印解除に魔力を使ったため、少し疲れてしまったようだ。体をふらりとふらつかせ、近くに寄ってきた刹那に抱きつく木乃香だった。その姿に、周りはとても心配していた。

 

 

「こ、このちゃん、大丈夫ですか!?」

 

「ちょ、ちょっとこのか! フラフラして大丈夫なの!?」

 

「このかさん!?」

 

「ししょー、ちょっと疲れてしもーたわ……」

 

「こ、このかさん! 死なないでくださいよー!?」

 

 

 みんなに心配されながらも、大丈夫だと笑顔を見せる木乃香。この仲間たちに心配されることを嬉しく思いながらも、心配しなくても大丈夫だという表現なのだ。また、木乃香は今の自分を見つめる覇王の目が、普段よりも優しいと感じていたのである。

 

 

「……木乃香、ここは僕に任せるんだ。すぐ終わらせよう」

 

「うん、全部ししょーに任せてしもーて、ごめんなー……」

 

「気にする必要はないさ。木乃香も立派に敵を撃退したみたいだしね」

 

「わー、ししょーに褒められたえ」

 

 

 覇王は木乃香が捕まったことを知っていた。だがあえて何もしなかった。それは木乃香の試練であり、これを乗り越えなければシャーマンとしても長の娘としても、やっていけないと考えたからだ。

 

 さらに言えば、数年も自分の弟子として教えていた自信もあった。この程度、何てこと無いはずだと考えていたのだ。

 

 そしてその考えどおり、木乃香はそれを難なく乗り越えた。さらに敵の目的すらも暴いてしまったのだ。だから覇王は素直ではない言い方だが、ここに来てようやく木乃香を褒めてたのだ。だからこそ木乃香の計画に賛同し、本気を出す気になったのだ。

 

 

「さて、明日も早い。せっかくの修学旅行、眠いまま過ごしたくは無いだろ?」

 

「ししょー、頑張ってーな」

 

「覇王さん、お願いします……」

 

 

 刹那は木乃香を抱え、祭壇から距離をとった。アスナもネギもそれの後を追って距離をとる。そして木乃香は刹那とアスナに支えられ、そのリョウメンスクナの近くでたたずむ覇王を眺めるのであった。

 

 だがリョウメンスクナは木乃香の魔力で制御していた。すなわち暴走が始まろうとしていたのだ。しかし、その程度、この覇王の前では、意味の無いことであった。

 

 

「さあ、久々の本気と行こうか……。O.S(オーバーソウル)S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)……」

 

 

 まさにこの時こそがふさわしい。この時だから使う。この状況だからこそ見せてやる。覇王が誇る最強のO.S(オーバーソウル)、黒雛。最初から本気だった。一撃で終わらせるなら終わらせてやろう。覇王はカギにそう言った。だからこの場で終わらせてやろうと思った。それに、明日も修学旅行だ。眠いまま過ごすのはつらいだろうとも思ったのだ。

 

 

「あれはししょーの最終形態や、本気の本気や……!」

 

「あれが覇王さんの本気……」

 

「覇王さん、やっちゃって!」

 

「精霊を身にまとっている……!?」

 

「とても大きな巫力を感じます……!」

 

 

 その覇王の黒雛を見た仲間たちは、そのすさまじさに驚いていた。あの巨大なS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を圧縮して体にまとい、徐々に空高く浮いていく覇王の姿に、誰もが感想を言葉にしていた。そして誰もが黒雛から、覇王からとてつもない力を感じていた。そこで覇王は、本気で一撃にて終わらせる行動に出た。

 

 

「ハハハハ、リョウメンスクナノカミ。お前に恨みなどない。だが弟子のためだ、潔く滅べ」

 

 

 覇王がその言葉を出した瞬間、背中にある二本の蝋燭が肩に垂れかかるように下がった。そしてその蝋燭が開くと、チリチリという音と共に、すさまじい熱量が発生した。これこそが黒雛の最強の攻撃。最強と称される由縁。覇王はその技名を、死刑宣告するように述べた。

 

 

「”鬼火”」

 

 

 鬼火。それは黒雛の背中に搭載された、二本の蝋燭から発射される超高密度の炎弾。その破壊力は霊力47万を誇る超大型O.S(オーバーソウル)アザゼルさえも、一撃で爆破するほどの威力である。

 

 その鬼火がリョウメンスクナに命中すると、爆発と共に炎の柱が上がり、リョウメンスクナは一瞬にして消滅してしまった。なんというあっけなさ、なんという幕引き。またしても一撃。リョウメンスクナでさえ、一撃で終わってしまった。

 

 いや、当然の結果であった。あのアザゼルさえも一撃でしとめる鬼火だ。この中途半端な復活状態のリョウメンスクナが、耐えれるはずも無いのである。

 

 そして炎上した炎が消え去ると、覇王はリョウメンスクナが封印されている岩へと降り、黒雛を解除した。そこで覇王はリョウメンスクナの魂を呼び覚まし、ヒトダマモードとなったリョウメンスクナが覇王の前に出現したのだ。

 

 

「お前がリョウメンスクナの魂だな?」

 

「いかにも、我がリョウメンスクナなり、しておぬしは一体……」

 

「今さっき、お前を倒した陰陽師だ。お前に三つ、選択をやろう」

 

「ぬう、あの力を操るものか……。してその選択とやらは?」

 

「なに、別の場所で封印されるか、僕の持霊となるか、さもなくばS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に喰われるかだ。さあどれを選ぶ?」

 

「その後ろのものが、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)というものか……!?」

 

 

 その覇王の後ろには巨人としてO.S(オーバーソウル)されたS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)が立っていた。威圧するように、脅すように立っていたのだ。

 

 また、覇王はリョウメンスクナを倒して封印しただけでは、また同じことが起こると危惧したのだ。だから別の場所にこっそり移すか、自分が持ち歩くか、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に喰わせて消滅させようと考えたのだ。

 

 しかし、半分は自分の持霊となってもらいたいという部分もあるのだ。そこでリョウメンスクナが選んだのは、二つ目の選択だった。

 

 

「……このまま封印されるもの癪である。して喰われるのも困る。ならば選択は一つ。おぬしの持霊となろう」

 

「フフ、話がわかってくれて嬉しいぞ。リョウメンスクナよ」

 

「だが一つ条件がある」

 

「条件? できることならしてやるよ」

 

「我は封印されて長い。この今の京の都とやらを見てみたいと思うのだが」

 

「なんだ、その程度ならお安い御用さ。契約成立だな」

 

 

 覇王はリョウメンスクナさえも持霊としてしまった。飛騨の大鬼神が覇王の持霊となれば、さらに強力なカードとなるだろう。はっきり言えば過剰戦力にほかならない。

 

 しかし、500年前の敗北のことを考えると、このぐらいしておかなければならないと、覇王は考えているのだ。そこでリョウメンスクナは、聞いていなかったことを思い出しそれを聞いた。

 

 

「うむ、だがおぬし、名を聞いてなかったな。主となるおぬし名はなんと申す?」

 

「覇王、陰陽師にしてシャーマンの赤蔵覇王だ。これからよろしく頼むぞ、リョウメンスクナ」

 

「覇王殿か、理解した。では、覇王殿について行くことにするとしよう」

 

 

 覇王はリョウメンスクナを持霊にすると、悠々とS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に乗り、自分を待つ仲間の下へと戻った。

 

 そして木乃香とさよ以外の仲間たちは、リョウメンスクナを仲間にしたことに、ドン引きしていた。当たり前である。誰もが驚き、すさまじいほどの奇妙な顔をしていたのであった。

 

 

「流石ししょーやなー」

 

「流石というか、なんと言うか……」

 

「あの鬼神を仲間にしちゃったんですか……!?」

 

「でたらめ系術師シャーマン、ほんとにでたらめねえ……」

 

「あ、私このかさんの持霊の相坂さよと言います。これから持霊同士お願いします」

 

「そんな目で見られると悲しいんだけど。木乃香の計画の穴を埋めてあげたのにねえ」

 

「ほう、人間霊ではなく精霊であるか。こちらこそ、よろしく頼む」

 

 

 いやはや、ここでのんきにしているのは、もはや木乃香とさよぐらいであった。さよはリョウメンスクナに挨拶するほど、余裕だった。というか挨拶しないと気が済まないのだ。友人となるなら、まず挨拶。これこそが友人を作るための秘訣だと、さよは思っているからである。

 

 その他の仲間は、デタラメすぎる、バグシャーマンと思っていた。思わないほうがおかしいのである。なんということか、修学旅行一日目にして、すでに京都の重要イベントが終わってしまった。

 

 とりあえず明日も修学旅行だし、人払いの結界を破棄しながら、旅館へ帰って寝ることにした一同であった。

 

 ……ちなみにバーサーカーは、おいていかれてグレていた。いや、のんびりして帰ってきたら誰もいないのは、流石にグレる。刹那も教えてあげればよかったのに、うっかりしていたのだ。仕方ないので、今度その穴埋めをしようと思う刹那であった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここで突然ではあるが、あの場にいた人物は覇王たちだけではなかった。黒い髪、犬耳の少年、犬上小太郎。彼は木乃香たちがなにやら不穏な動きをしているのを察知して、追跡していたのだ。

 

 そして、なぜかリョウメンスクナが封印されている祭壇へとやってきたのを不審に感じ、とりあえず千草を狗神を使い呼び寄せた。そんでもって、その祭壇の近くの木陰で、こそこそと覇王たちの様子を見ていたのだ。

 

 しかし、そこで見たものは恐ろしい何かだった。恐ろしすぎた。というかここまでするか普通というものだった。

 

 

「ちぐさの姉ちゃん、あいつら頭どーかしとるで……」

 

「そ、そーやな……。どーかしとる……」

 

 

 二人はその光景を見て、ドン引きだった。なぜなら覇王がリョウメンスクナを復活させ、あっさり倒してしまったからだ。

 

 いやはや自分たちがやろうとした計画をそっくり真似された上に、その場でそれを倒されるなど誰も思うまい。しまいにはその倒されたリョウメンスクナが連れ去られてしまったのだ。

 

 また千草は、リョウメンスクナさえ復活できれば、あの覇王すらも倒せると考えていた。だが実際は一撃で倒されてしまったのだ。これほどの覇王の行動に、もはや顔が青ざめ、生きていてよかったとさえ思う二人であった。

 

 

「あれ、あかんで……。戦わんで正解やった……」

 

「ウチらがたとえ計画を成功したとて、あの赤蔵の次期頭首に一撃でやられとったんやろな……」

 

 

 あの戦闘マニアの小太郎ですら完全に引いてしまい、戦わなくてよかったと言うほどの、凶悪ぶりだった覇王の黒雛。実際、覇王は別にO.S(オーバーソウル)などなくても、佐々木小次郎の技能で近接戦闘さえもこなせるバグぶりなのであるが。

 

 また、千草はうまくリョウメンスクナを支配できたとしても、あの覇王にどの道一撃でぶっ倒されたと思うと、何かむなしくなったのだ。ここまで完膚なきまでにボコボコにされてしまうと、千草も流石に何もかもが、どうでもよくなってしまったのである。

 

 

「あー、なんかもうどーでもよくなってきおったわ……。こうもあっさり計画を台無しにされてもーては、色々どーでもよくなってしまうわ」

 

「う、うん。そやな……」

 

「小太郎はん、明日長の前で土下座するでな……。きっと説明したら許してくれるはずや……」

 

「そ、そーしよか……」

 

 

 そして次の日、詠春の前で綺麗に土下座する小太郎と千草がいた。さらにその話を聞いて、娘が遠くへ行ってしまったと感じた詠春も、どこか遠くを見つめていたという。

 

 なんやかんやで、ただボコられただけの千草と何もせずに終わってしまった小太郎は、罰として数日間は反省部屋に入っておくよう言われたのであった。

……だが月詠は”原作どおり”いつの間にか消え去っていた。

 

 

…… …… ……

 

 

持霊名:リョウメンスクナノカミ

霊力:45万

媒介:刀、物干し竿

 

 




これにて一件落着!
攻撃を待つだけが戦いではない

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