理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ66:京都の刺客より断然強い味方

テンプレ67:フルボッコされる千草一派

テンプレ68:千草一派へつく転生者

ネギま版式神VSシャーマンキング版式神


二十七話 鬼と鬼、狂戦士と弓兵

 露天風呂から上がり、ネギは就寝時間をクラスに通達していた。刹那はその間に式神返しの結界を施していた。その後、なぜ木乃香が襲われたのか、どういう状況なのかを話し合うために、刹那とアスナ、ネギにカギ、そして覇王とカモミールが集まっていた。そこでカモミールはアスナの恐怖に怯えながらも、さきの無礼を詫びていた。

 

 

「す、すまねぇ! 剣士の姐さんに謎の兄貴!」

 

「わかってくれたのなら、それでいいんです」

 

「僕も気にしてないさ」

 

「そういえば、さっきのサルは何だったんですか? 僕も協力しますから襲ってくる敵について、教えてくれませんか?」

 

 

 敵対者の一部の勢力が操る力である、関西の魔法使いである陰陽道、そして呪符使いのことを、刹那はネギにわかりやすく説明した。また、自分が操る神鳴流の剣術のことも多少なりに触れた。

 

 そこに覇王もその説明の補佐をしていた。カギは大体わかっているので、どうでもよさそうに座っていた。ネギはその説明を聞いて、覇王の力が微妙に異なることに気が付き質問した。カモミールもそれを聞いて、驚きながらも納得していた。

 

 

「あれ、覇王さんの力って、それとは少し違うんじゃないでしょうか?」

 

「そ、そういや確かにそうだぜ! あの赤い巨人は、さっきの式神とかいうやつとは別もんっぽかった!」

 

「へえ、よくわかったね。僕は陰陽師でもあり、シャーマンでもある」

 

「シャーマン!?」

 

 

 シャーマンとはあの世とこの世を結ぶもの。霊の力を借りて、巫力にてそれを具現化させる。式神も、さきの術者が使うものと、シャーマンが使うものと二種類あるのだ。

 

 

「先ほどの力はO.S(オーバーソウル)と呼ばれる技術でね。霊を自らの力を使い具現化させることができるんだ」

 

「すごいですね。魔法で精霊を操るようなものなんですか?」

 

「近いと言っておこうか。だが、魔力ではない力で精霊を操る、それがO.S(オーバーソウル)だ」

 

 

 O.S(オーバーソウル)は術者の巫力を使って幽霊や精霊などを具現化する。魔法は魔力を使い呪文を唱えることで発動する。だが、O.S(オーバースル)は呪文を必要とせず、直接巫力を精霊などへ与え具現化して操ることができるのだ。

 

 しかし持霊と呼ばれるパートナーが必ず必要となる上、高い力を持つ霊を操るには、それなりに高い巫力が必要となる。

 

 そしてO.S(オーバーソウル)には魔法には杖などの媒体が必要なように、必ず媒介が必要となり、それを行うための道具が必要なのだ。

 

 S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)は基本的に空気を媒介としているが、これは覇王が必死に習得したからできる荒業であり、基本的にはそう簡単にはできないことである。

 

 

「そんな技術があったんですね。つまりあの炎の精霊は覇王さんのパートナーってことですか」

 

「しかもその精霊を具現化させる力ってかー、すげぇもんだぜ」

 

「シャーマンなら当然のこと。そして彼とは長い付き合いだよ」

 

「でたらめ系術者シャーマンだもんね」

 

 

 ネギはシャーマンの説明を受けて、すごい技術だと思っていた。カモミールも同様であった。またアスナは木乃香がシャーマンなのを知っている。最近よく、木乃香がさよとO.S(オーバーソウル)の練習をしているのを見ている。

 

 そしてシャーマンは星の王となれば地球すらも支配できる頭がぶっとんだ存在だ。だからこそ、アスナはそのシャーマンをでたらめと称するのだ。

 

 

「それだけは君に言われたくないね」

 

「それはどういう意味かしら?」

 

「そういう意味だろ”お姫様”?」

 

「そういうあんたは”星を統べるもの”じゃないの?」

 

「あ、あの、二人とも落ち着いてください!!」

 

 

 覇王は状助からある程度原作知識を教えてもらった。そこに友人であるアスナの正体も含まれていたのだ。黄昏の姫御子として、魔法世界を終焉させる力と、復活させる力の両方を持つことも教えられた。覇王はそのあたりを地球を支配する星の王と、どこが違うのかと考えているのだ。

 

 またアスナも、その辺は完全に黒歴史扱いなので、掘り返されたくないのだ。両者が睨みつけるところを、止めようとするのが刹那である。やはり苦労人らしい。

 

 そしてとりあえずネギたちは、クラスを関西呪術協会の一部勢力から守ることを誓っていた。しかし、覇王は乗り気ではない様子だった。当然といえば当然である。

 

 

「僕は適当にやらせてもらうよ。君たちは君たちでがんばるといい」

 

「おいおい! テメーが暴れれば一発だろうが! 何でやらねぇんだよ!!」

 

「それじゃ面白くないだろ? まあ、()()()()()()()()()()なら、そうするけどね」

 

「確かに覇王さんに頼りっぱなしではいけませんね」

 

「お、おい! 何納得してんだ刹那! 仲間に引き込めよ!!!」

 

 

 カギはその様子が微妙に気に入らないらしい。覇王はあのハオの力を持っている。ぶっちゃけちょっとなでるだけで、敵なんて滅ぼせるのだ。だが覇王はそれをしない。刹那もずっと覇王に頼ってばかりはではよくないと考え、あまり強く呼びかけないのだ。

 

 だからカギは文句を言っている。が、内心安心しているのだ。これで原作どおりに進むだろうと考えているのだ。そして、自分の王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)でリョウメンスクナを倒してちやほやせようと考えているのだ!

 

 

「ふん、まあいい! 俺が何とかしてやるぜ! じゃあ外周り行ってくるぁー!」

 

「付いて行きやすぜ兄貴ー!」

 

「ほんと元気ねぇ……」

 

「兄さん、守りを固めた方がいいんじゃ……」

 

 

 カギは原作どおり進めたいので、”原作”のネギの真似をして外へと出て行った。アスナはただ元気なやつだと思い、ネギはそれなら木乃香の周囲で見張っていた方がいいのではと考えていた。そしてカギは”原作どおり”従業員にぶつかっていた。その後、アスナたちはとりあえず部屋へと戻っていった。

 

 そしてアスナは、自分たち五班が就寝している部屋へとたどり着いた。刹那とネギは廊下周りを警戒として見回りをしに行くことにしたようだ。

 

 そして、アスナが帰ってきた時に、木乃香はトイレへと起きたところだった。アスナはトイレぐらい大丈夫だろうと考えたようで、流石に付いてはいかなかった。いや、普通に考えても、流石にトイレまで付いていかれると、少し鬱陶しいと考えるであろう。

 

 しかし十分ほど経っても、いまだ戻らない木乃香が心配となり、アスナはトイレへと向かった。すると、一人の少女がトイレの前で立ち往生をしていた。綾瀬夕映である。

 

 

「も、もるです」

 

「あれ、ユエちゃん?」

 

「こ、このかさんがずっと入ったままで入れないです」

 

「それは変ね……」

 

 

 アスナは何かおかしいと感じた。そこへ刹那もやってきて、トイレをこじ開けると、お札がしゃべっているではないか。

 

 

「やられた……!!」

 

「まさか、すでにこのかは敵に!?」

 

「後を追いましょう!今ならまだ近くにいるはずです!!」

 

「な、何でもいいから早くトイレに入れてください!!!」

 

 

 アスナも刹那もやられたと感じ、敵を追うことにした。そこへネギも杖を持ってやってきて、同じく敵を追跡するのだった。一方カギは、”原作どおり”なら問題ないだろうと放置し、適当にふらついていた。本当にどうしようもないやつである。

 

 ……ちなみに同じ班の焔は、旧世界では力が発揮できないので、戦力外としてあえて追わずに部屋に残ったのである。さらに言えば、覇王はとりあえず放置しているだけであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 木乃香を抱えるきぐるみを着た敵の後を追う、ネギ、アスナ、刹那。だがここへもう一人やってきた。ゴールデンなバーサーカーである。彼もまた木乃香の護衛としての任務を受けている。この修学旅行にも、霊体となってやって来ていたのだ。そこへ刹那からの連絡で、すぐさま追跡に加わったのだ。

 

 

「あいつが敵か!? チッ、あの式をまとって身体能力を上げてんのか?」

 

「そのようです。気をつけてください」

 

「わ、またしても知らない人が!?」

 

「あら、バーサーカーさん、久しぶり」

 

 

 ネギはバーサーカーをはじめて見るので、驚いていた。アスナは刹那の友人なので、バーサーカーと何度か会っているのである。バーサーカーも、ネギへ自己紹介したいが、今はそれができる状態ではないので、あえて無視して走っているのだ。

 

 不気味なまでに静まり返った駅。敵は駅から電車に乗り込もうとしているようだった。また、駅の周辺にはすでに人払いの結界が張られており、人っ子一人いなかった。

 

 そして敵は駅から電車へと乗り込んだのである。さらに電車がすぐさま出て行ってしまったのだ。なんということだろうか、アスナたちは一手遅かったようである。

 

 

「しまった! 遅かったか……」

 

「で、電車が……」

 

「なんてこと! もう少し気付くのが早ければ……!」

 

「はっ、この程度問題ねぇ! オレは先に行くぜ! 後を追ってきな!」

 

 

 バーサーカーはそう言うと、建物の屋根を飛び回り、電車を追っていった。流石サーヴァントである。刹那も後を追うべく、即座に作戦を立てた。

 

 

「ネギ先生、その杖で空を飛べますね?」

 

「はい、でも刹那さんとアスナさんは!?」

 

「私も飛べますから、空から追いましょう」

 

「え? でもどうやって……」

 

 

 その質問を受けると、刹那は白い翼を生やした。烏族と人のハーフたる象徴。過去に戒めとして呪った、その白い翼であった。

 

 

「私はこの翼があります。アスナさんを抱えて飛びますので、それで追いましょう」

 

「すごい、綺麗な羽ですね……」

 

「うん。私もはじめて見るけど、本当に綺麗よ……」

 

「ありがとうございます、これは私の()()です。さあ行きましょう」

 

 

 その白い翼を刹那は誇りと言った。バーサーカーが教えてくれた。木乃香が理解してくれた。綺麗だと言ってくれた。この翼に、コンプレックスなどもはやない。だから、もうすでに迷いは無いのだ。ネギは杖を使い空を飛び、刹那はアスナを抱えて先ほどの電車を上空から追うのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 天ヶ崎千草、今回の首謀者で関西呪術協会の呪符使いである。計画どおり木乃香をさらい電車で京都駅へと移動し、全てがうまくいったと考え、笑いを浮かべていた。

 

 しかし、京都駅の階段を上っている最中に、気絶させたはずの木乃香が突然暴れだし、うっかり手を滑らせてしまった。そして階段の下へと降り、綺麗に着地する木乃香がいた。だが、その木乃香の雰囲気が、微妙に違っていた。

 

 

「ど、どうなっとるんや?!」

 

「……あなたが敵さんなんですね。どうして私を攫うんですか?」

 

 

 そこで突然木乃香は、敵である千草へと質問した。どうして攫う必要があるのかと。また千草は木乃香が、ただの小娘としか思っていなかった。実は木乃香の情報は隠蔽されており、魔力量以外ほとんど知られていないのである。だから笑って教えたのだ。どうして木乃香が必要なのかを。

 

 

「知ったところで意味あらへんでしょーが、お教えしましょーか。お嬢様」

 

「なんで? どうしてなんです?!」

 

「簡単なことや、お嬢様の魔力を使うて、封印されとる飛騨の大鬼神、リョウメンスクナノカミを復活させ、京都を牛耳り東に復讐するんや! リョウメンスクナさえ復活できれば、あの赤蔵の小僧など取るにたらんわ!」

 

「そんなことを……、教えてくれてありがとうございます」

 

「そりゃどーも。さて、もう一度つかまってもらいますえー」

 

 

 木乃香は千草の計画を教えてもらい、素直に礼をしていた。そして千草は、もう一度木乃香を捕獲することにしたのだ。しかし、ここで木乃香は、意味不明な行動に出た。

 

 

「このかさん、このかさん。起きてください!えいえい!!」

 

「んんー!? な、何しとるんや!?」

 

「起きてくださーい!!」

 

 

 なんと突然木乃香は自分の頭をポカポカ叩き、起きろーと言い出したのだ。その光景に、流石の千草もドン引きだった。だが、そんなことはお構いなしに、千草は自慢の式神を操った。

 

 

「まあえーわ。行きなはれ! 猿鬼(エンキ)熊鬼(ユウキ)!」

 

「はわ、おはよーさよ。助こーたわ」

 

「おはようございますー」

 

 

 二匹の式神から攻撃を受けそうになっているのにもかかわらず、のんきにおはようと誰かに言う木乃香。そして、その誰かは木乃香の体から抜け、はやりのんきにおはようと返すのであった。

 

 

「何漫才しとるんか知りまへんが、もろーたでお嬢様!」

 

O.S(オーバーソウル)”前鬼、後鬼”! 思いっきりやってーなー!」

 

 

 すると木乃香は千草の式神のほうを向くことなく、二枚の紙でできた人形を懐から取り出した。そして、それを千草が放った二体の式神の前へと放ると、その言葉を述べた瞬間に二つの鬼が出現した。

 

 片方の鬼は木乃香を守護するように盾を構え、もう片方の鬼は持っていた大鎌で、千草の二つの式神を一撃で破壊したのだ。

 

 それには千草も驚いた。当然である。何せ木乃香をただの小娘としか思っていなかったからだ。それぐらいしか情報がなかったからだ。

 

 前鬼、後鬼。かつて1000年前、大陰陽師、赤蔵覇王が使役した最高の鬼である。その霊力は1万であり、他の式神を寄せ付けぬ強さを誇る。そんな化け物じみた鬼の一撃である。

 

 千草が強力だと自慢する式神たる猿鬼、熊鬼でさえも、たった大鎌の一振りで全滅するのは当然の結果であった。これには流石の千草もたじろいだ。自慢の式神がたった一撃で破壊されたからだ。

 

 

「な、何なんや、その式神は!?」

 

「ししょーが貸してくれた、さいこーの鬼たちやえー。ねーさよ?」

 

「はい、さいこーです!」

 

「なん……やて……」

 

 

 ショック。呪符使いとして、これほどショックなことはない。自慢の式神が、ただの小娘だと思っていた少女に、一撃で倒されてしまったからだ。さらに、その小娘は幽霊らしき少女と、気の抜けた会話をしていたからだ。

 

 さて、なぜこうなったかというと、難しいことではない。憑依合体である。木乃香は自分の意識が失っても大丈夫なよう、京都ではさよと常に憑依合体した状態にしておいたのだ。

 

 木乃香は自分の立ち位置と膨大な魔力により、狙われる可能性を考慮していた。だからこそ憑依合体でさよに、いつでも体を受け渡せるようにしておいたのだ。

 

 さらに、どうして狙われるかを質問してくれるよう、さよに頼んでおいたのである。完全に計画通りであった。罠にはめられていたのは、逆に千草のほうだったのだ。これこそ、アスナがして恐ろしい娘と称する、現在の木乃香なのである。

 

 

「こうなれば、二枚目のお札ちゃん、お嬢様を捕まえておくれやす!」

 

 

 その札は水の札であった。千草がその呪文を唱え札を投げると、大洪水が起こったのだ。そして重力に逆らわず、階段の下へと流れ落ちるその大きな水の波が木乃香を襲ったのだ。

 

 

「こ、このかさん! 水が襲ってきますよ!?」

 

「さよ、心配あらへんよー」

 

 

 さよはその洪水を見て、流石に慌てていた。しかしそれを見ても慌てず、ドンと構えている木乃香。まったく心配などする必要が無いと、慌てるさよに言うほどであった。そんな木乃香の様子を見て、これは決まった、そう千草は思った。だがそうはいかなかった。

 

 

「”無極而太極斬”!!」

 

 

 そこへアスナが到着し、上空から落下と同時に魔法を消滅させるハマノツルギ専用剣術、無極而太極斬を放ったのだ。その一撃で札の効力である水が消滅し、完全に無効化されたのだ。

 

 

「な?!」

 

「すごい! 水が一瞬で消滅しました!」

 

「ほら、心配いらへんかったやろ?」

 

 

 これにも千草は驚いた。自分の自慢の札さえ、完全に無効化されてしまったのだから。さらに空から刹那とネギも降りてきて、木乃香の前に立ち並んだ。なんと千草は完全に逆転されてしまったのだ。

 

 そこでのんびりとしていた木乃香は仲間たちを信じ、こうなることを予想していたのだ。絶好のタイミングで、仲間たちが助けに来るのを待っていたのである。

 

 

「待たせたわね」

 

「大丈夫でしたか、このちゃん?」

 

「このかさんも、シャーマンだったんですか!?」

 

「ありがとー! みんなのおかげでこのとーり、全然なんともあらへんよ!」

 

「みなさん来てくれたんですね!」

 

 

 もはやこの時点で千草は完全に追い詰められたいた。しかし、どういうわけか一人追っていたバーサーカーの姿が無かった。だが、いなくてもどうということはないほどの、戦力であることには違いが無い。完全な逆転。相手が勝ち誇った時に、すでに相手が敗北しているのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

 天ヶ崎千草は完全に追い詰められていた。完全に焦っていた。なぜかと言うと、前鬼、後鬼を従えた木乃香、神鳴流剣士の刹那、そして破魔剣士のアスナ、さらに魔法使いのネギが目の前にいるからだ。

 

 こんなフルメンバー、一人で相手にできるヤツがおかしい。強い転生者ぐらいでなければ、不可能だ。だからこそ、千草は今回は諦めて、さっさと逃げる算段を立てていた。

 

 

「バーサーカーさんは来てないようですね……。多分そうなると、別に敵がいる可能性があります」

 

「かもしれないわね。まあとりあえず、あっちを捕まえようか」

 

「僕の生徒に手を出す人は、許しませんよ!」

 

「一体どうなっとるんや!? 完全に逆転されてしもーとる!!」

 

 

 千草は焦りに焦って混乱しそうになっていた。順調だったはずの計画が、完全に逆転されてしまっていたからだ。そして、このメンバー相手に逃げ切れるかわからないからだ。

 

 しかし、ここで諦めるわけにはいかないのだ。憎き東を倒すまで、ここで諦めるわけにはならないのだ。だから、ここで千草は三枚目の札を出した。今度は火の札だ。

 

 

「お札さんお札さん、ウチを逃がしておくれやす。喰らいなはれ! 三枚符術、京都大文字焼き!!」

 

「水の次は火ですか?!」

 

 

 その符術が完成すると、巨大な大の文字の炎が発生した。京都名物大文字焼きである。ハゲたグラサンの熱血クイズ親父の必殺技である、あの燃える大技大文字である。

 

 それが千草とアスナたちを横断するように、発生し、完全に行く手を遮断していたのだ。その光景を見て、さよは水の次に火だと驚いていた。だが、その他の仲間たちは、あまり驚いていなかった。

 

 

「ししょーの炎の方がもっとすごー炎なんやなー」

 

「あれ、どこかで見たことある術ね……」

 

「奇遇ですねアスナさん、僕もです」

 

「三人とも、緊張感のかけらもないですね……」

 

 

 もはや余裕、この程度の火など、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の魂を焼き尽くす炎に比べたら、たいしたことは無い。木乃香は覇王の弟子で、それをよく知っているため、まったく驚かなかった。

 

 そしてアスナとネギは、この炎の形をどこかで見たなあ、と考えていた。そんな三人に、もう少し緊張感を持ってほしいと思う刹那。やはり苦労人である。

 

 

「並の術者ではその炎は超えられまへんえ! ほなさいなら!」

 

「とりあえず消火するわね、”無極而太極斬”!!」

 

 

 だがしかし、アスナはこんなもん、どうということはないのである。ハマノツルギから放たれる魔法無効化現象。それこそが無極而太極斬なのだから。

 

 アスナはそれを放ち、大文字を吹き払ったのだ。そして炎すらも消滅させられ、あんぐりするしかない千草。そもそもあの水を無効化されたのだ、少し考えればわかったことである。

 

 うっかりというか、まあ単純に慢心していたのだ。これで千草は手札を全て使ったことになる。もう後が無いのだ。

 

 

「な、なん……やて……」

 

「すごい、あの炎も一瞬で消してしまうなんて……」

 

「ほえー、アスナもすごい人やったんかー」

 

「アスナさん、すごいです!」

 

「幽霊でもないのに、こんなことできるんですねー」

 

 

 次々に感想を述べる仲間たち。アスナにとって、この程度訳ないのだ。木乃香もある程度アスナの強さは知っていたが、まさかこれほど強いとは思ってなかった。

 

 また、刹那もさよもネギも、そのすごさに驚いていた。そこでアスナはその”大文字焼き”が何に似ていたかを思い出したようだった。

 

 

「あ、思い出した。この炎はギガントさんの技だわ! ”大文字(ビッグ・ファイヤー)”!」

 

「そ、そういえばお師匠さまの大技! ……あれ、アスナさんは、お師匠さまを知っているのですか!?」

 

「私の保護者の友人で、ある程度知ってるわ」

 

 

 というか、この二つの符術、ギガントの操る技にそっくりだったのである。さらに一つ目の水符にアスナとネギは”波乗り(ダイダルウェーブ)”を連想していた。完全に一致というレベルではなかった。まさか似たような技があろうとは、千草も思うまい。しかし、そんなのんきにしているアスナに、剣客が舞い降りた。

 

 

「ハッ! 危ないアスナさん!」

 

 

 刹那はそれに気づき飛び跳ね、刀を刀で受け止め、それを跳ね返したのだ。間一髪、結構のんきにしていたアスナも、その降りかかる剣には驚いた。

 

 

「あ、ありがとう刹那さん、助かったわ」

 

「アスナさん、そうのんきにしていると危ないじゃないですか! ……そして、この剣筋、神鳴流のものか……!?」

 

「どうも神鳴流です~、おはつに~」

 

 

 なんとも気の抜けた声でしゃべる、この新たに出てきた女剣士。大きな丸い帽子にゴスロリ、そして眼鏡という剣士っぽくない姿であった。

 

 この剣士、名を月詠と言う。どうやら護衛として千草に雇われているようで、本気で攻撃してくるようだ。だが、ここで刹那に焦りは無い。そう焦る必要など、まるで無いからだ。

 

 月詠がお手柔らかにと言うと、その瞬間攻撃が始まった。刹那はその剣を防ぎつつ、反撃をする。この月詠は二刀流、対人を仮定した装備のようだ。刹那は退魔用の大きな野太刀であり、普通に考えれば不利であった。

 

 だが、この刹那はその程度では倒せない。刹那は思い出していた。あのバーサーカーの怪力を、覇王の技など必要としない、完成された剣術を。得物の長さがどうした。覇王はこの倍ある刀をいともたやすく操り、自分以上の剣術で圧倒していた。

 

 二刀流がなんだ。バーサーカーのあの怪力で、腕が悲鳴を上げた時に比べれば、何てこと無い。そうだ、あれに比べれば今の相手など、取るに足らない存在だと思い出していたのだ。

 

 またアスナは、刹那が操るその剣術を見て、すごいと思っていた。美しい剣術だと感服していた。

 

 

「神鳴流奥義”斬鉄閃”!」

 

「はれまー!?」

 

 

 一撃、またしても一撃。敵が刀を使うなら、ぶっ壊せばいいという単純な思考。バーサーカーの怪力のおかげで考え出せた、最良の撃退法。月詠の二刀は根元から切り裂かれ、剣としての機能を完全に失っていた。これではもはや、月詠は剣士として戦うことが不可能となった。

 

 

「な、月詠はん!?」

 

「おー、せっちゃんほんま強いわー。一発で終わらせてしもーた」

 

「いえ、まだ終わっていません。神鳴流は武器を選ばない、まだあの剣士は戦えます」

 

 

 そうだ、神鳴流は武器を選ばない。素手での戦闘も可能なのだ。だからこそ、刹那は隙を見せず、刀を構えていた。月詠は刹那の剣術のすごさの惚れ惚れしており、紅潮して喜んでいた。とんでもない変態戦闘狂である。

 

 

「センパイ、いけずやな~。こんな美しい剣を魅してもろ~て、剣を使わせてくれへんのやからな~」

 

「……これが世に言う戦闘狂(バーサーカー)というやつか……」

 

「風の精霊11人! 縛鎖となりて敵を捕まえろ!!」

 

「し、しもーた!」

 

「魔法の射手”戒めの風矢”!!」

 

 

 ネギは月詠が倒され、驚いている千草に捕獲の魔法を使った。いや、その前からすでに詠唱を始めており、アスナはそれを見て、下手に動かず構えていたのだ。そしてこのまま無効化して、捕えてしまおうという考えだ。

 

 もはや完全に逃げ口を失った千草と月詠。捕まるのは時間の問題であった。しかし、その魔法が届く手前に、千草たちとアスナたちの間で、巨大な爆発が起きた。それによりネギの捕獲魔法はかき消されてしまったのだ!

 

 

「クッ! みんな無事!?」

 

「は、はい! でも一体何が!?」

 

「別に敵がいたのでしょう!」

 

「煙たいえー」

 

「今や! 今度こそもろーたで! お嬢様ぁ!!」

 

 

 煙で視界が悪くなったところを、すかさず式のきぐるみを着て木乃香に飛び掛る千草。誰もがその爆発に目を奪われ、煙によって動きが取りにくい状況だ。木乃香を攫うなら、チャンスは今しかないと思ったのだ。だが、その状況でも木乃香は冷静だった。というか、結構のんきにしていた。

 

 

「前鬼、式神ツッコミ!!」

 

「ポピー!?」

 

「ち、千草はん!?」

 

 

 なんということだ。千草の渾身の特攻すらも、あっけなく跳ね除けられてしまった。しかもただのツッコミによってだ。いや、前鬼のツッコミは、半端が無い。普通の人では耐え切れるものではないのだ。これをいつも耐えて、平気にしている学園長がおかしいだけなのである。

 

 この一撃で千草はきぐるみの式を破壊され、吹き飛ばされて目を回して気絶していた。当然の結果である。月詠はこりゃまずいと思い、自分の切り札を使う。

 

 

「ひゃっきやこぉー!」

 

「これは!?」

 

「ファンシーなやつらがいっぱい出てきた!?」

 

「かわええなー」

 

「不思議ですねー」

 

 

 月詠の趣味である、大量のファンシーな式神たち。ネギはその数の式神に驚いてたじろいだ。アスナと刹那はこの数の敵をどう対処しようか考えた。しかし木乃香とさよはやはりのんきな感想を述べるだけであった。この式神たちを惜しみなく使い、月詠は千草を掴んで逃げたのだ。

 

 

「さいなら~」

 

「あ!? 逃げる気!?」

 

「後鬼、守ってーなー」

 

「私も何かできればいいんですけど……」

 

「クッ!神鳴流奥義”百烈桜華斬”!!」

 

 

 アスナは応戦しつつ、逃げる月詠を目で追う。木乃香は後鬼に守ってもらっていた。その近くでさよは、自分も何かできないか考え込んでいたのだ。

 

 そして刹那は数が多い相手に有効な神鳴流奥義、百烈桜華斬をたまらず使った。その攻撃により、ファンシーな式神は全滅させたのだった。だがしかし、千草たちをも見失ってしまったようだ。

 

 

「……逃げられたか……」

 

「だけどさっきの攻撃があるから、ヘタに追跡できそうにないわね……」

 

「さっきの爆発はただの爆発じゃないみたいです。多少なりに魔力を感じました」

 

「つまり他に敵さんがおるってことかいなー」

 

「バーサーカーさんが抑えている敵もいるはずです。今日は一度戻ったほうがよいかもしれませんね……」

 

 

 まだ見ぬ敵がいる可能性を考慮して、一度撤退を進言する刹那。アスナもそれがよいと考え、ネギもそれを承諾した。とりあえず、木乃香はさよが知った、千草の目的を教えてもらおうと考えた。

 

 

「そうや! せっちゃん、さよが敵さんの目的を教えてもろーたようやえ!」

 

「何ですって? それは本当なんですか!?」

 

「は、はい。しっかりと教えてもらいましたよ!」

 

「どうしてこのかさんが襲われるか、わかりますね!」

 

「流石さよちゃん、ナイスね」

 

 

 さよは先ほど千草から教えられた情報を、仲間たちに伝える。すると仲間たちは納得と同時に、怒りをあらわにするのだった。特にアスナはキレかけていた。自分の過去と照らし合わせ、そういう生贄まがいなことが本気で許せないからだ。

 

 

「そんなことでこのちゃんを……。許さん! ……ってアスナさん……!?」

 

「…………」

 

「あ、アスナさん……!? そんなすごい顔してますけど、大丈夫なんですか!?」

 

「アスナが静かになる時は、本気で怒っとる証拠や……。あかんわー……」

 

「まるで般若みたいですよー!?」

 

 

 本気でキレたアスナは怖い。木乃香はそれをよく知っている。特にこうやって黙る時は、完全にキレてしまった時であることをわかっているのだ。このままではあかん。敵さんがぶった切られて星になりかねない。木乃香はそう考えた。だが、木乃香はそこでいい考えが浮かんだ。これこそ最大の攻撃である。

 

 

「みんな、ししょーに連絡させもろーてええー? いいこと思いついたんやけどー」

 

「……いいこと?」

 

「このちゃん、覇王さんに連絡して一体何を……!?」

 

「簡単や。あっちの目的はわかっとるんや。こういう場合、ガンガン行くんや!」

 

「ガンガン……!?」

 

「行く……!?」

 

 

 そうと決まれば話は早い。木乃香はさっそく覇王に連絡するため、一度宿泊している旅館へと戻ることにしたのだった。だが、その木乃香の計画は、アスナたちが想像していたものよりも、ずっと恐ろしいものであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 バーサーカーはアスナたちより先に天ヶ崎千草を追っていたはずだが、アスナたちが到着した時にはその姿が無かった。ではどこで何をしていたのだろうか。それは他に敵がいたからである。

 

 先ほどより少し時間を遡ると、バーサーカーは建物の屋根を使い、高速で千草が乗る電車を追っていた。しかし、京都駅にてその屋上に、一人の男を発見したのだ。

 

 それは赤い外套、白く短い逆毛の髪、そして黒い肌の男だった。そしてバーサーカーは少しだけ、自分と似たような力をその男から感じたのだ。さらにこの辺り一帯には人払いの結界が施されていた。だから敵かどうかを確認するため、その男と対峙したのだ。

 

 

「おいテメェ、何もんだ? 普通のやつじゃねぇな?」

 

「……貴様こそ何者だ?」

 

「おいおい、質問してんのはこっちだぜ? テメェは質問に質問を返せと教えられて育ってきたのかぁ?」

 

「ならば名乗らせてもらおう、私はアーチャーというものだ」

 

弓兵(アーチャー)? だがテメェ人間だろ? サーヴァントじゃなさそうだが?」

 

「ふっ、人間ではあるな。さらに言えば貴様のほうこそサーヴァントではないのかね?」

 

「ま、隠してもしょうがねぇ。その通りだぜ! オレのクラスは狂戦士(バーサーカー)さ。それ以上は教えねぇがな!」

 

「何!? バーサーカーだと!? 馬鹿な……、なぜ理性を保っている!?」

 

 

 アーチャーと名乗った男はバーサーカーのクラスを聞いて驚いた。なぜならバーサーカーのクラススキルは狂化であり、理性を無くして戦闘に特化させる能力だからだ。だが、このバーサーカーは理性を保ち、特に暴れる気が無い。つまりバーサーカーとしては異例なのだ。

 

 それもそのはず、このバーサーカーの狂化はEランクであり、特殊な効果を持っているからである。特に隠す必要のないバーサーカーは、赤い男が偽名であると悟りながらも、あえて自分のクラスをさらしたのだ。

 

 

「さあな、で? テメェここで何してんだ? 夜景の観賞なんてもんは無しだぜ?」

 

「貴様には関係の無いことだ」

 

「ほおー? つまり敵ってことでいいんだな? んじゃあ行くぜ?!」

 

「何!?」

 

 

 関係ないと言われれば、まあ敵だと思うだろう。やましいことがなければ、説明されてもいいからだ。バーサーカーはそう考え、宝具である黄金喰い(ゴールデンイーター)を持ち出した。そして、それを赤い男へと振り回す。赤い男はそれをなんとか避け、後ろへと飛び射程から逃げた。

 

 

「チッ、サーヴァントの正体がわからんが、”トレース・オン”!」

 

「それがテメェの武器って訳か! さぁかかってきやがれ!!」

 

「あまり舐めてもらってはこまるな!!」

 

 

 アーチャーはその呪文を唱えると、黒と白の剣を取り出した。これは宝具の一つであり、夫婦剣と呼ばれるものだ。その名を干将(かんしょう)莫耶(ばくや)と言う。互いに引き合う性質を持ち、投げても片方を持っていれば、自分の手元へと戻ってくる。

 

 また、投影による劣化でランクが下がっているが、本来のこの干将、莫耶は怪異のものへ大きなダメージを与えることができる。この劣化品がその力を持つかはわからないが、あるとすれば妖怪の子たるバーサーカーには弱点となりえるのだ。

 

 だが、いくら武器がすごかろうと、操るものが強くなければ、さほど意味がない。当然のようにバーサーカーに押されているアーチャーがいた。

 

 

「おいおいどうしたぁ! その程度かよ!? その白黒剣、簡単にぶっ壊れるじゃんかよぉ!!」

 

「クッ! なんて馬鹿力だ!? これでは攻撃のしようがない!!?」

 

「しかもスロォリィだぜ!! もっと根性見せてみやがれ!!」

 

「グッ!!」

 

 

 バーサーカーの怪力により、あっけなく破壊される干将、莫耶。それをアーチャーは瞬時に何度も投影し、なんとかバーサーカーの猛攻をしのいでいるのだ。

 

 このアーチャーという男は、その名の通りFateの顔である赤いアーチャーの能力を貰った転生者である。Fateのアーチャーのステータスは筋力D、耐久C、敏捷C、魔力B、幸運Eというものだ。そのステータスどおりならば、それ以上のステータスを持つバーサーカーと、普通に打ち合うのは手厳しいだろう。

 

 また、アーチャーの操る投影魔術を、完全な形で使えていないのが大きい。骨子の想定が甘いのだ。さらに言えば本物のアーチャーは、長い年月をかけて戦い続け、その経験と勘を培ってきたはずだ。つまり、このアーチャーという男がFateのアーチャーの能力を貰ったからといって、簡単に扱えるものではないのである。

 

 

「おら! その程度かよ!!」

 

「クッソ……、このままではまずい!! あれを使うしかない!!」

 

「おう、使えるもんがあんならどんどん使え!」

 

「―――――体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

「それがテメェの切り札(ジョーカー)って訳か。いいぜ! 見せてみな!」

 

 

 バーサーカーは余裕であった。だからこそ、この男の切り札とやらが見てみたくなった。このままアーチャーを倒してしまっても、なんの面白みもないからだ。というかバーサーカー、完全に自分が何のために戦っているのかを忘れていた。

 

 だが、この男を抑えるという意味では、十分活躍しているといえよう。だからこそバーサーカーは詠唱を止めようとはせず、適当にアーチャーと打ち合っていた。そしてアーチャーは、その詠唱を完成させた。

 

 

その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, unlimited blade works)

 

「ほおー! すげぇじゃん! こんなクレイジーなこともできるなんてよ!」

 

 

 その詠唱を終えると、そこには荒野が広がっていた。そして空には歯車が回り、荒野にはいくつもの剣が刺さっていた。これが固有結界と呼ばれる存在。これがアーチャーの心象風景。いや、特典としてもらった最大の能力といった方がよいだろう。

 

 そう、これこそがあの有名な固有結界”無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)”なのだ。これにより、外の世界から切り離されたアーチャーとバーサーカー。本来ならばこの状況となったことで、バーサーカーはアーチャーを倒さない限り、ここから出れないことになる。しかし、この状況下でさえ、バーサーカーは笑っていた。楽しそうに笑っていたのだ。

 

 

「ご覧のとおり貴様が挑むのが無……」

 

「オイオイ! さっさとかかって来いよ! これが完成しただけで満足してんじゃねぇぞ!!」

 

「何!? チィ、少しは待つのが礼儀だろうが!!」

 

 

 バーサーカーは面倒な御託など必要ない。さっさとアーチャーがかかって来ることを望んでいた。しかし、この固有結界が完成したところで、アーチャーはそれに酔いしれていたのだ。だから面倒になって、瞬時に攻撃へとバーサーカーは移った。アーチャーは少しだけでもいいから、待ってほしかったのだが。

 

 

「どうしたぁ!? 武器だけが多くても意味ねぇぞ!!」

 

「クッ! 馬鹿な!!?」

 

「これが本気かよ、つまんねぇぜ!!」

 

「ありえん……!? どうして押されているのだ!!?」

 

 

 無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)により、その結界内部の全ての剣を支配できる力を持つアーチャー。だが、その数ある剣すらも、バーサーカーには届かない。ただ闇雲に剣を飛ばすだけでは、バーサーカーの黄金喰い(ゴールデンイーター)の一振りで破壊されてしまうのだ。

 

 これが本物のアーチャーならば、届いただろう。サーヴァント同士での戦闘であり幾多の戦いを経て、その心眼に磨きをかけてきた本物のアーチャーならできただろう。

 

 しかし、このアーチャーは所詮能力だけを貰ったまがい物の転生者。この転生者を本物のアーチャーが見たらどう思うだろうか。まさか贋作者の贋作者がいるとは思わないはずだ。まさに皮肉としか思えないだろう。

 

 

「もう面倒になっちまったぜ! こいつを受けて倒れねぇなら、もう少し遊んでやるぜ!!」

 

「クッ! ソードバレル、フルオープン!!!」

 

「カートリッジリロード!! 受けろ必殺! ”黄金衝撃(ゴールデンスパーク)”!!」

 

 

 アーチャーこのまま押されてはまずいと考え、焦りをこらえながらも大量の剣をバーサーカーへと飛ばした。もはや先ほどとあまり変わらぬ攻撃だが、アーチャーはこの攻撃方法が最善だと考えていた。いや、実際は物量で押し切るこの方法しか、頼れるものがないのだ。だからこそ所詮はアーチャー・エミヤの能力をもらっただけの、ただの転生者に過ぎないという訳である。

 

 しかし、その攻撃を見たバーサーカーは、瞬時に黄金喰い(ゴールデンイーター)を小刻みに振り回した。すると、その力でグリップ部分が稼動し、グリップの根元にあったトリガーが斧頭と三度ほど衝突。それにより、搭載されたカートリッジが三つ炸裂し、膨大な雷が発生したのである。

 

 そして、バーサーカーはその黄金喰い(ゴールデンイーター)を大きく縦に振り下ろすと、刃が地面に衝突し突き刺さったと同時に、膨大な雷の衝撃波が発生したのだ。さらに迸るほどの膨大な雷がアーチャーの剣を呑み込んで破壊しつくし、アーチャーへと向けられたのだった。その光景に驚いたアーチャーだが、それを見て即座に防御へと回った。

 

 

「”熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)”!」

 

「盾も使えんのかよ! ならば突撃あるのみだぜ!!」

 

「な、にぃ!?」

 

 

 熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)とは飛び道具に有効な七枚の盾である。だが、このアーチャーの使う熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)では、バーサーカーの黄金衝撃(ゴールデンスパーク)を耐えるのが精一杯だった。一撃で七枚すべての盾を破壊された直後、カートリッジを二つほど炸裂させアーチャーの目の前で、その斧を振り上げるバーサーカーがいたのであった。

 

 

「余所見してんじゃねぇぜ!! ”黄金喰い(ゴールデンイーター)”!!」

 

「が、ぐあああああ!!?」

 

 

 カートリッジ二つ分の雷が上乗せされた黄金喰い(ゴールデンイーター)が命中し、吹き飛ばされるアーチャー。アーチャーは何とか直撃を回避したものの、その雷の衝撃だけは受け止められず、大きなダメージを受けてしまった。

 

 そしてその一撃で、もはや戦闘不能となってしまったのだ。なんとかギリギリ立ってはいるが、もはや戦闘などできそうな状況ではなかった。

 

 するとアーチャーが戦闘不能となったせいか、固有結界が解除され景色が戻った。その戻った景色でボロボロのアーチャーが見たものは、ネギが放った魔法に捕まりかけている千草だった。

 

 

「”トレース・オン”、さ、させん!」

 

「何!? 野郎!!」

 

 

 アーチャーはその眼下に映る階段へ剣を一本投擲し、”壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”を使ったのだ。するとネギの魔法は吹き飛ばされ、消滅していった。それを確認したアーチャーは、転移魔法符を使い逃げていったのだ。

 

 このアーチャー、完全なる世界のメンバーであり、抜けたフェイトの穴の補充として、この京都に来ていたのである。アーチャーに今の攻撃をさせたことや逃がしたことを、うかつだったとバーサーカーは思った。最後の最後でしくじったと。

 

 

「ケッ! 逃げやがったか!! まあいいかあ……、大将たちに怪我はないみてぇだしな」

 

 

 だがバーサーカーは、とりあえずアーチャーを撃退したことで、それをよしとした。またバーサーカーは下の階段で、相談している刹那たちを見た。攫われた木乃香をしっかり助けられたようだし、とりあえずは問題ないとしたのだ。

 

 そして刹那たちは宿泊施設へと戻るようだったので、霊体化してのんびり帰ることにしたのだ。だがそののんびりしたせいで、まさか取り残されるとになろうは、この時バーサーカーは思っても見なかったのだった。

 




ネギま版式神は、札の文字で何を出すか決めれるみたいですね

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