理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ64:男子も京都に修学旅行

テンプレ65:混浴でドッキリ

風呂と言えばハオ
ハオと言えばその特典を持つ覇王


京都修学旅行編
二十六話 やはり京都か


 京都。昔は魑魅魍魎が暴れ、それを守るために陰陽師などが活躍したといわれる都市である。また、多くの寺などが残っており、観光地としても有名だ。

 

 さて、”原作”にてこの京都、修学旅行の行き先となっていた。その通りにここでも京都が修学旅行の行き先となったようだ。またネギとカギはエヴァンジェリンから、京都に父親の手がかりがあることを前々から教えられていた。

 

 ネギはあわよくば修学旅行中に、その手がかりを見つけられればいいと考えた。だがカギは全部知っているので、別にどうでもよかった。

 

 そしてネギとカギは、その修学旅行の件で学園長に呼ばれていたのだ。

 

 

「修学旅行中に、一つ頼まれてほしい、ですか?」

 

「うむ、そのとおりじゃ。こちらの特使としてあちらの先方、関西呪術協会に親書を渡しに行ってほしいのじゃよ」

 

「こちらの特使として?」

 

「実はワシ、関東魔法協会の理事もやっとるんじゃが、関東魔法協会と関西呪術協会は昔から仲が悪かったのでのう」

 

「あぁん!? かった? なぜ過去形!?」

 

「うむ、こちらに一人、関西呪術協会から派遣されたものがおっての。その一人が関西呪術協会の、仲の悪い人たちの大半を纏め上げたようなのじゃ」

 

「そうなんですか、すごい人が来ていたんですね」

 

「はぁ!? どういうこっちゃ!?」

 

 

 ネギは純粋に、仲が悪かったものを仲直りさせたことに関心していた。そしてカギは”原作”なら西と東は仲が悪く、いまだに喧嘩していると思っていたのだ。さらに、東へ来た西の一人が、それらを纏め上げてしまったという。どういうことだ!?と焦っているのだ。

 

 

「しかしじゃ、まだあちらにも、関東魔法協会を快く思っとらん人もおる。じゃから道中、向こうからの妨害があるやもしれん。彼らも魔法使いである以上、生徒たちや一般人に迷惑が及ぶようなことはせんじゃろうが……」

 

「ぬぬー……。一応”原作どおり”に動くか?」

 

「兄さん、学園長先生がお話中ですよ」

 

「シーット! わかってんだよ!」

 

 

 カギは今の学園長の話を聞いて、取り合えず”原作どおり”妨害されるかもしれないと考えていた。だがそれが、言葉に漏れていたことを、ネギに窘められた。カギはそれで逆ギレしていたのだ。本当にどちらが兄なんだかわからない。

 

 

「ネギ君やカギ君にはなかなか大変な仕事になるじゃろ……どうじゃな?」

 

「わかりました、任せてください。学園長先生」

 

「大船に乗ったつもりでいるんだな! 俺が全て解決してやる!!」

 

「おっと、もう一件、用事があったのう……」

 

「もう一件? それはなんでしょうか?」

 

「ふむ、ワシの孫、このかのことじゃ」

 

「このかさんのことですか?」

 

 

 近衛木乃香。関西呪術協会の長、近衛詠春の娘であり、膨大な魔力を抱える少女。木乃香はその立場上と身に宿す魔力の関係で、東を快く思っていないものたちに狙われる可能性があった。

 

 すでに木乃香はある程度魔力を制御できてはいるが、その魔力量を一部の者達が知っているのだ。そういう訳があり、学園長も木乃香を守ってほしいと、ネギとカギに依頼したのだ。

 

 ……ちなみにそれ以上の魔力を持つはずの覇王は、それを知るものもかなり少ない上に、強すぎるのでスルーされている。あれに手を出せる訳がないだろう。

 

 

「……ということなのじゃよ。どうか、このかを守ってはくれんかのう?」

 

「そういうことだったんですか。わかりました、このかさんも僕の生徒です! 必ず守って見せます!」

 

「はっ、俺にかかればその程度なんてことないぜ!」

 

「うむ、すまないの。では、修学旅行を楽しんで来るといい。頼むぞ、ネギ君にカギ君!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

 

 ネギは大きく返事をした。カギも同様だった。だがカギにはいろいろ考えなければならないことがあった。転生者は複数いるということだ。西から来た一人というものが、多分転生者なのだろうと予想は付いていた。さらに京都で、妨害してくるものに、転生者が含まれている可能性も考慮していた。この修学旅行、荒れるだろうと考えていたのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 修学旅行当日。この修学旅行、京都へ向かうのは女子中等部だけではない。男子中等部もまた、同じであった。その道中である新幹線の中で、つまらない顔をする少年、覇王の姿があった。

 

 

「京都かぁー、前世でも修学旅行でしか行ったことがねぇぜ!」

 

「状助、君はお気楽でいいね。僕なんてただの里帰りさ」

 

「おめぇーよー! 他人がテンション上げてる中で下げるやつがいるか!!」

 

「上がると思ってるのかい?本当にお気楽だねー」

 

「おめぇーなー!」

 

 

 前世ぶりの京都ということで、状助はテンションが高かった。だがその逆で、1000年前も今も京都出身の覇王は、本気でテンションが低かった。覇王はそれならハワイがよかったなーと、考えているのだ。

 

 そこにもう一人転生者がいた、川丘三郎だ。今この三人は、新幹線の座席でトランプのばば抜きをしてながら雑談しているのだ。

 

 

「俺も前世ぶりだなあ。京都なんてこういう時以外、行く機会がないからねえ」

 

「まったくだぜ」

 

「僕はハワイのほうが、行く機会ないと思うんだけどね」

 

「それ言うんじゃねーぜ!」

 

 

 あーつまらない、覇王は本気でつまらなかった。”原作”はほとんど覚えていないが、何か起こるだろうと思っているところもあった。そういえば状助はそれを覚えているのか、覇王は少し聞いてみることにした。

 

 

「状助、あっちで何かイベントでもあったかい?」

 

「イベント? ああ、”原作”かぁ……。ありすぎてどう言おうか迷うぜ」

 

「そんなにか、やれやれ……」

 

「原作? ああ、状助君が言っていた、この世界が漫画っぽいっていうあれのことか」

 

 

 三郎も状助から、この世界が”漫画であるネギま”に酷似していることを聞かされていた。だからどうということも考えなかったが、そういう危険なイベントも多数あることを知らされていたのだ。だが、三郎は”原作知識”がないため、正直釈然としていないのだが。

 

 

「そうだ! おめぇの弟子のこのかが危ねぇ! 敵に攫われて利用されちまうんだ!」

 

「ふうん。そうなんだ」

 

「な、なんでそんなに淡白な感想なんだよぉぉー!!? おめぇの弟子じゃねーのかよ!!」

 

「逆だろ? 僕の弟子だからこそ、淡白なんだよ。その程度乗り越えられないようなら、どうしようもないね」

 

「ツェペリさんかよ、おめぇーはよおおお!!」

 

 

 覇王は木乃香が心配ではなかった。むしろその程度乗り越えなければ、やっていけないと思っているからだ。それに、自分の全てを数年かけて教え込んで来たからだ。

 

 シャーマンキングにて、主人公麻倉葉は一年で急成長を遂げたのだ。数年も大陰陽師であり最高のシャーマンたるこの自分が、ずっと教えてきたのだからこの程度、乗り越えられない訳がないと考えているのだ。まあつまり覇王はツンな言い方をしているが、弟子の木乃香を信用しているのだ。

 

 

「状助、僕の弟子を見くびらないでくれないか? ”原作知識”に囚われすぎだよ」

 

「お、おう。まあ師匠のおめぇが言うなら大丈夫なんだろうがなあ……」

 

「まあまあ、状助君。覇王君だってああ言ってるけど、実は心配なんだよ」

 

「そうかなぁー……」

 

「はっきり言って心配なんてしてないさ。最悪僕がやれば全てかたがつく」

 

「そ、そうだがよお~」

 

「流石、プロは言うことが違うなあ」

 

 

 さらに言えば、何かあれば自分が出向いて終わらせればよいと、覇王考えているのだ。京都は自分の庭だ。何があろうとも、問題ないということである。

 

 鬼門には御霊神を配置してあるし、ある程度簡単に対処できるからである。それに、実家赤蔵家もある。自分の父親が家にいるならば、簡単に対処してくれるだろうとも思っているのだ。

 

 そう覇王たちが会話をしていると、なにやら隣の列車が蛙だなんだ騒いでいるのを、どうでもよさそうに聞いている覇王であった。

 

 

「おい、早速”原作イベント”だぜ!? 蛙の式神が暴れて、ネギの親書がツバメの式神に奪われるんだ!」

 

「でも、そのイベント何とかなるんだろ? 触る必要すらないじゃないか。特に被害らしきものもないみたいだしね」

 

「だ、だがよおー!!」

 

「呪詛返しでもしてほしいのかい? きっと犯人死ぬよ?」

 

「そ、そこまでしたらいろいろ危ねぇだろうが!」

 

 

 覇王はシャーマンであり陰陽師だ。蛙が式神ならば、それらを破壊して呪詛返しができる。しかしその膨大な反動は全てその術者へと向かう。覇王が本気を出せば、その場で犯人の命を奪うことさえ可能なのだ。

 

 だがそんなことをすれば、せっかくの修学旅行も中止になりかねない。だから覇王はほとんどスルーしているのだ。そこに術者を探す刹那が現れた。覇王は適当に挨拶をした。

 

 

「やあ、おはよう、刹那。術者探しかい?」

 

「あ、どうもおはようございます。そのとおり、あれの術者を探しているところです。覇王さんは助けてくれないんですか?」

 

「今の騒動なら刹那だけでも何となるだろ? それに、木乃香なら自分で何とかできるさ」

 

「そうでしたね、覇王さんはこのちゃんを信頼してましたね。では私は行きますので」

 

「ま、頑張ってよ」

 

 

 そう言うと刹那はすぐさま別の車両へと移動していった。覇王はそれを目で追いながら、よくやるなあと考えていた。状助はその覇王と刹那のやり取りに、驚いていた。とても仲がよさそうだったからだ。

 

 

「おめぇよー、本当に仲がいいんだなあー」

 

「そりゃね。剣で斬り合った仲だしね」

 

「そう言われると殺伐な関係に聞こえるんだけど……」

 

 

 覇王は何てこと無い、剣での模擬戦をしたぐらいだと言った。しかし三郎にとって、それはとても危険な関係に感じてしまったらしい。単純に生活の違いではあるのだが。と、そこへツバメの式神が手紙を加えて飛んでいった。

 

 

「おや、ツバメの式神って、あれだろ?誰も追ってこないじゃないか。つまり問題ないってことさ」

 

「誰も追ってこない!? な、何でだぁ……」

 

「状助君、君の番なんだから早く引いてくれないか?」

 

 

 状助は本来ならネギがツバメを追っているのを”原作知識”で知っていた。だがここでは、ネギがツバメを追わないのだ。状助は頭を抱えてどうするか考えていた。

 

 覇王は問題ないとして、完全にスルーしていた。三郎はばば抜き中だというのに、頭を抱える状助に、番だから一枚カードを引くように言っていた。

 

 

…… …… ……

 

 

 さて、こちらは先ほどから数分前の原作メンバーのいる車両。アスナは木乃香、刹那、焔とさよの班に入っていた。さよは欠席扱いなのだが、一応班として入れてあるのだ。そのメンバーは、この不穏な京都修学旅行に、期待と不安を募らせていた。

 

 

「京都ねえ。大丈夫なの?」

 

「きっと大丈夫や。ししょーもおるし、せっちゃんもおるし、さよだっておるんやから! それにアスナも守ってくれるんやろ?」

 

「このちゃんは私が全力でお守りします」

 

「問題ないですよー!」

 

「覇王さんがいれば大丈夫だろう。心配など不要ではないのか?」

 

「そ、そうね……」

 

 

 一応アスナたちは覇王の修学旅行は同じく京都行きだと知っていた。だからあの覇王が近くにいれば、確かに安全なのだろうと思った。だが、いつも近くにはいないとも考えられる。

 

 しかし、ここには自分と刹那がいる。そうアスナは考え、大丈夫かもしれないと思った。とりあえず新幹線の座席にて、適当にくつろぐのだった。そしてそのメンバーが適当にトランプで遊んでいると、突如蛙が沸いたのだ。

 

 

「蛙?」

 

「術者の式でしょう。私は術者を探しに行ってきます」

 

「せっちゃん気ーつけてなー。さてウチはどないしよか。ししょーみたいに鬼たちの大きさを変化できればえーんやけど」

 

「ここはあえて放置でいいのでは?」

 

「ここは私とのO.S(オーバーソウル)で吹き飛ばしましょうよ!」

 

 

 刹那は術者を探しに席を外した。アスナは半分スルーしていた。あまり被害らしきものがないからだ。焔も同じくあえて放置でいいと判断したようだ。

 

 また、木乃香はどう対処しようか考え、前鬼、後鬼を使おうと考えた。だが覇王のようにO.S(オーバーソウル)をうまく調整できない木乃香は、大きめの鬼たちの大きさを操れない。だからその辺りを悩んでいた。

 

 そこでさよは自分とのO.S(オーバーソウル)でぶっ飛ばそうと言い出していた。確かにO.S(オーバーソウル)ならば、基本的に人に見えない。何をしているかわからないのだ。ただ、変人扱いされる恐れだけはあるのだが。

 

 

「さよとのO.S(オーバーソウル)かー。せやけど、まだよー形にできへんからなー。も少し練習せんと難しーと思うんよ」

 

「そうですねー。もっとイメージを固めないと!」

 

「周りが騒いでるけど、ここは本当にどうでもよさそうねー」

 

「そう言うアスナが一番どうでもよさそうにしているような……」

 

 

 もはや完全に放置。蛙なんていないというレベルでスルーするこの四人。異常事態に慣れすぎである。まあ、仕方がないとしか言いようが無いのだが。そこでアスナはネギとカギのほうをちらっと見ると、ネギが親書を奪われた所だった。しかし、ネギはそれをスルーしていた。それはダミーだったからだ。

 

 

「あっ親書が!? ……なんちゃって。実は本物はしっかりしまってあるんでした」

 

「て、テメェ本当にネギかよ……」

 

 

 ダミーを用意して時間稼ぎしようとするこのネギに、兄のカギもドン引きだった。まさかこれほど頭が回るとは、10歳児とは思えない。カギはそれならいいや、と放置し、蛙を処分していた。ネギもとりあえず、蛙を拾うほうを優先していた。そこへ刹那がやってきて、回収したダミー親書をネギへと渡していた。

 

 

「ネギ先生、こちらが奪われた親書です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「これ、ダミーだったんですね。逆に申し訳ないことをしてしまったようで……」

 

「いえ、そんな! わざわざ取り返してくれたのに、謝る必要なんてありませんよ!」

 

「そ、そうですか。そう言われるのであれば……」

 

 

 刹那は渡す直前に親書がダミーだと気づき、ネギに謝っていた。だがネギは、気にしないでほしいと言ったのだ。せっかく取り返してくれたのだ。ネギは怒る理由がなかった。カギはなんだか訳がわからなくなってきて、頭を抱えていた。

 

 この状態で、本当に京都でやっていけるのだろうか。カギはかなり心配していた。普通は逆に安心するはずなのだが。そんな心配はよそに、新幹線は京都へと到着したのだった。

 

 

…… …… ……

 

 京都、清水寺。清水の舞台があると有名な寺である。飛び降りるアレではない。普通は飛び降りるなんてことはしないのだから。

 

 さて、ここでもやはり”原作と同じように”妨害があった。落とし穴に蛙や、水に酒を混ぜるなど、いたずらレベルではあるが。そのたびにネギは、報告や介抱などを行い、忙しそうにしていた。カギはその妨害があることに安堵しながら、面倒になると考えた。そして覇王は遠目で、どうでもよさそうに見ていた。むしろあきれていたのだ。

 

 

「ねえ、状助。あれが妨害なのか?」

 

「お、おう。そうだぜ、あれが”原作”での妨害だぜぇ!」

 

「そうか、もうどうでもよくなってきたよ」

 

「こ、これからが大変だっつーのよー!」

 

「ふうん、でも、もうどうでもいいや」

 

「確かにあれじゃねえ……」

 

 

 状助は”原作どおり”妨害だと言った。しかしそれを言った状助も、微妙にあきれていた。覇王はもう、完全にどうでもよくなり、スルーすることにしたらしい。その横で三郎も、やはりあきれていた。当然である。そんな感じで一日目が終わり、宿泊施設へと移動するのであった。

 

 

…… …… ……

 

 

 ここは修学旅行で泊まっている旅館の中、その露天風呂である。かなり広い露天風呂でなかなか豪華と言えるであろう。そこに一人の少年がいた。覇王である。覇王は特典のせいなのか、温泉などが好きなのだ。

 

 だが、さらにそこへ少年が増えた。主人公のネギである。覇王は初めて、主人公であるネギに出会ったという訳だ。

 

 しかし、この覇王”原作知識”がほとんど無い。子供で先生をしているネギとしか、思っていないのだ。まあ、そんなことも関係なく、ネギへと声をかける覇王がいた。

 

 

「そこの少年」

 

「は、はい!?」

 

「今晩は、僕は覇王、赤蔵覇王さ」

 

「どうも、はじめまして、ネギ・スプリングフィールドです」

 

「ああ、君がうわさの子供先生か。なるほどねえ」

 

「僕って結構有名なんですか?」

 

「まあね、子供の先生だ、当然目立つさ。それに僕の友人も君の生徒だしね」

 

 

 覇王はうわさでも聞いていたが、弟子の木乃香や友人の刹那からも聞いていた。魔法使いの子供先生が担任をしていることを。いつの間にか有名になっていたネギは、そのことに若干驚いた。

 

 

「そうなんですかー。ところでその友達は誰なんです?」

 

「近衛木乃香と桜咲刹那さ。知っているだろう? 僕もこの京都出身でね、彼女たちとは長い付き合いなんだ」

 

「あ、そういえばあのお二人も京都出身でしたね」

 

 

 と、そこへもう一人の少年がやってきた。カギである。そしてオマケもやってきた。カモミールである。カギは今の話で覇王が転生者だと思った。

 

 というか見た目が麻倉ハオだったので、すぐわかった。カモミールは今の話を聞いて、覇王が敵の刺客と勘違いしたようだ。だから突然叫んで覇王を問い詰めたのだ。

 

 

「やい! てめぇが関西呪術協会の刺客ってやつか!!」

 

「何を言っているんだ、このナマモノは?」

 

「し、失礼だよカモ君……」

 

「こいつすげー怪しいですぜ! 兄貴と旦那!!」

 

「怪しいっつーか明らかにハオじゃねぇーかー!」

 

「ほう、だが僕が刺客なら、すでに全員燃え尽きているよ? ほら」

 

 

 覇王は刺客だと言われると、後ろに紅き巨人を作り出した。O.S(オーバーソウル)S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)である。その姿と性質を悟った、覇王の前の二人と一匹は、目を丸くして驚いた。

 

 

「おい、やっぱテメェの特典はそれかよ!」

 

「す、すごい……。純粋な炎の精霊の塊だ……」

 

「ひ、ひいぃぃ!? お、お助けおぉぉ!!?」

 

「だから僕は刺客ではないさ。もし刺客なら、この場で君たちは滅ぼされていた」

 

 

 この覇王、さらっと恐ろしいことを言う。だがその通りだからしかたがない。刺客ではないと聞き、とりあえず安堵をする一匹と一人。だがもう一人のカギは、この転生者である覇王がもっとも強敵だと考えていた。

 

 覇王はそんなカギの態度を、完全にシカトしていた。どうでもよかったからだ。と、そこへさらにもう一人、露天風呂へとやってきたものがいた。黒髪をサイドポニーにした少女。桜咲刹那だ。

 

 

「あれは桜咲さん!?」

 

「おや、ここは混浴だったのか。何も表記がないから、まったくわからなかったじゃないか」

 

「むひょー!」

 

「兄貴! 旦那! あいつも十分怪しいですぜ!!」

 

 

 ここの露天風呂は混浴のようであった。覇王は混浴の表記がなかったことに、多少不満を持つ程度であった。また覇王と同じく男湯として入ってきたネギは突然の来訪者に驚き、さりげなくそれを知りつつ入ったカギは、その刹那の自然な姿に喜びの雄たけびを出していた。

 

 そしてカモミールは、やはり京都出身ということで、敵の可能性があると睨んでいたのである。そこに女性である刹那が露天風呂へと入ってきたことで、ネギとカギはこそこそと岩場に隠れていった。しかし、覇王は違った。堂々と居座っていた。流石覇王と言わざるを得ない。

 

 

「やあ、刹那。いい湯だね」

 

「はい、いい湯ですね。……は? 覇王さん!? な、なんでここに!?」

 

「ずいぶん長湯をしたみたいでね、どうりで誰もいない訳だ」

 

「ど、どれだけ長くいたんですか!?」

 

 

 なにげに覇王はずいぶん前からここにいるようだ。少し前までは状助たちもいたようだが、すでに誰もいなくなっていた。まあ、刹那がやって来たことを考えれば、いなくなっていてむしろ正解だった。だが覇王はそのあたりさえ、どうでもよさそうであった。そこへ刹那は、こそこそとしている、二人の気配を察知したのだ。

 

 

「そこ、誰か隠れているのか!?」

 

「は、はい!?」

 

「お、おう……」

 

「言うの忘れていたけど、そこにいるのは子供先生二人だよ」

 

「なんだ、ネギ先生にカギ先生でしたか」

 

「というか、隠さなくて恥ずかしくない? 僕なら全然かまわないけど」

 

「あ!?」

 

 

 刹那はタオルすら体に巻かず、その場に立っていたことを覇王の言葉で思い出して、湯船へと沈んだ。そしてせっせと刹那はタオルを巻いていた。ネギもカギも同様であった。

 

 しかし覇王はそのようなマナー違反をしない。堂々と星マークを掲げていた。そして覇王はかまわないと言った意味は、どうでもいいことだと思っていたからである。決してやましい考えからではないのだ。

 

 ネギはあわあわとしており、カギはやはり喜んでいた。本当に欲望に忠実な少年である。そこでカモミールは、覇王同様怪しいと言って刹那を問い詰めていた。

 

 

「やいやい! てめぇも怪しいぞ!! 関西呪術協会のスパイじゃねぇだろうな!」

 

「カモ君、そんなはずないと思うんだけど」

 

「ち、違います! むしろそちらの味方です!」

 

「このナマモノ、思い込みが激しいんだね」

 

「まあ、カモのことは気にしねーでくれや」

 

 

 刹那も敵だと思われたのは心外であり、味方と表明する。すでにネギは違うと思っていたようだ。正解である。さらに兄貴分のカギでさえ、気にするなと言っていた。しかし、やはりスケベな目線で刹那を見ていた。そこへ脱衣所から悲鳴が聞こえてきた。木乃香とアスナの声だった。

 

 

「この声はこのちゃん!?」

 

「ふうん、あれも妨害か……」

 

「た、助けに行かなくちゃ!」

 

「おう! 見に行かねぇーとな!」

 

「兄貴やっちまえー!」

 

 

 覇王はやはりどうでもよさそうに、その場に残る。それ以外の三人と一匹は、即座に脱衣所のほうへと急いだ。すると小サルの式神が木乃香とアスナの下着を脱がそうとしていた。

 

 

「こ、この! つぶす! 来れ(アデアット)!」

 

「いやあああん! 脱がさんといてー!」

 

「アーティファクト?!」

 

「な、なんでネギと契約してねぇのに持ってるんだよ!!?」

 

「あひ!? 鬼の姉貴!!?」

 

 

 この状況にアスナはキレた。むしろキレないほうがおかしい。そして、すかさず剣型のハマノツルギを持ち出し、小サルをぶった切ったのだ。やはりこのアスナ、変態に容赦はしない。

 

 その一瞬でアスナを囲っていた小サルは真っ二つとなり、紙でできた二つに裂かれた人形へと戻ってく。さらに木乃香を襲っていた小サルも同様に、一瞬のうちに真っ二つにされていた。

 

 その光景を見ながら、アスナへの恐怖で動けないカモミール。また、ネギとカギは、そのハマノツルギを見て驚いていた。だがしかし、まだ小サルの式神が多数残っていた。

 

 

「まだいるの!? 変態サル!!」

 

「せっちゃんが来たえ!」

 

「ええい、このちゃんに何をするか!」

 

 

 すかさず剣を抜く刹那。しかし刹那が剣で攻撃するその前に、小サルの式神は炎に包まれていた。そして、いつの間にか木乃香の横には、等身大まで縮んだS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)が立ち尽くしていた。それを見て刹那は、覇王がいる露天風呂のほうを振り向く。アスナも木乃香も同じくそちらに顔を向けた。

 

 

「まったく、騒がしくてのんびりと湯船に浸かっていられないじゃないか。嘆かわしい」

 

「は、覇王さんがやったんですか?」

 

「そうだよ。騒がしいのは好きじゃないんでね」

 

 

 そう言うと覇王は、露天風呂の近くにある、塀より高い木の天辺を、一瞬だけ睨みつけた。だが、その後どうでもよさそうに、視線を刹那たちのほうへと向けた。

 

 

「ししょーが助けてくれたんかー、ありがとうー」

 

「別に助けた訳じゃないよ。騒がしいから静かにしてもらっただけさ」

 

「あ、覇王さんじゃない。というか、この女子に囲まれた状況で、なんでそんなに堂々としてるわけ?」

 

「どうでもいいからだよ。何か気にすることでもあったかい?」

 

「覇王さん、いくらなんでも枯れすぎですよ……」

 

 

 流石覇王である。どのような状況でもあせらずに大きく構えていた。覇王があせることなど、ほとんど無いのだ。この状況でものんびりと湯船に浸かっていた。というか、女子が来たなら出て行けばよいというのに、そのあたりまでどうでもよいらしい。

 

 とりあえず、アスナと木乃香もタオルを巻いて、その側にいた全員で露天風呂へと移動した。ネギはアスナのハマノツルギを見て、魔法使いの従者なのかを聞いていた。

 

 

「それ、アーティファクトですよね? 誰かの従者なんですか?」

 

「従者ってわけじゃないわよ。身の安全のために持っとけと言われて、契約しただけだから」

 

「だ、誰だよその契約者は!! ざけんじゃねーぞ!!」

 

「カギ先生、うっさい」

 

 

 カギは転生者が主として仮契約をしたと考えた。アスナを助けて仮契約するというのも、お約束だからだ。カギは誰かわからない契約主に文句をつけていた。また、アスナは特に従者ということを気にしたことは無い。手持ちの武器をすぐ出せるということだけが、重要だったからだ。

 

 

「ししょー、堂々としすぎや……。ふつーなら出て行くか隠れるんやない?」

 

「なんで僕が? 隠れるようなこともしてないのに?」

 

「は、覇王さん、出て行かないんですね……」

 

「先客はこの僕だよ? なんで出て行かなくちゃいけないんだい?」

 

「せっちゃん、ほっといたらえーよ。ししょーはいつもこんなんやから」

 

「そうでしたね……」

 

「……本当に変なやつよねー、覇王さんは」

 

「そうさ、僕は変だから気にしないでくれよ」

 

 

 この覇王の態度に、ずいぶんと慣れている木乃香であった。刹那もそうだったことを思い出し、覇王を放置することにした。またアスナも覇王に対しては、変なヤツ程度の認識のようだった。だが、アスナは覇王に目を向けてはおらず、やはり少し恥ずかしそうであった。もはやこのどうしようもない覇王を放置し、女子三人は覇王から遠く離れた場所で、温泉を楽しむことにしたようだった。

 

 

「おっと、そうだネギ先生、このことは内密にね。女子と風呂に入っていたなんて、大問題じゃないか」

 

「そ、そうでした……。じゃあ僕も問題なんじゃ……!?」

 

「そういうことさ。お互い様、共犯ということにしておこうじゃないか」

 

「は、はい……」

 

「どんだけだよテメー!?」

 

 

 この今の覇王の言葉に、紳士としても教師としても最低な行為だー、とネギが落ち込み、脅迫してるじゃねーかー、とカギが叫んでいた。そしてカモミールは、アスナへの恐怖で身がたじろぎ、カギの頭の上から動こうとしなかった。

 

 ……ちなみにアスナと同じ班にいる焔は一応露天風呂までやって来たが、覇王の姿を見て露天風呂へ入るのをやめて自分の部屋へと戻って行った。ある意味一番の被害者である。

 




京都修学旅行編突入

この混浴は、どういうものなのかまったくわからない
何で誰も混浴だって気がつかないんだろう…

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