理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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テンプレ54:吸血鬼と契約

テンプレ55:赤いアーチャーの転生者

ようやく原作に入りました


原作開始
二十一話 麻帆良に来た主人公 吸血鬼、襲来 覇王と吸血鬼


 *麻帆良に来た主人公*

 

 

 2003年。とうとう”原作”が開始された。あの二人の転生者の戦い以降、基本的に大きな転生者同士の衝突はなかった。まあしかし、小さな事件はある程度あったようである。そのような事件を経て、とうとう原作開始となったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 麻帆良学園都市。広大な敷地にある、西洋風の都市である。ここに二人の少年がやってきた。一人はネギまの主人公、ネギ・スプリングフィールド。もう一人はその兄で転生者の、カギ・スプリングフィールドだ。彼らはこの麻帆良学園で先生をするべく、この都市へとやってきたのだった。

 

 一見カギがいる以外の大きな変化は無いが、小さな変化はあった。ネギがナギの形見の杖を背負っていないのだ。だが、持ってきていないわけではない。ギガントが卒業記念として、魔法球の縮小版のようなものをプレゼントしたのだ。

 

 これは道具をしまうためのもので、人が中に入ることはできない。だが、いくらでも道具を入れることができる、カバン代わりになる便利道具だった。ドラえもんのポケットのようなものと言えば、わかるだろうか。それにしまってあるため、普段は背負ってはいないのだ。

 

 この魔法球、アーニャにも渡してある。そしてカギにも渡すようにネギに言ったのだが、肝心のカギは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)で十分だったので、必要ないと言ったのだ。

 

 

 さらに、ネギは魔法での肉体強化を行っていない。ギガントに毎度魔法で肉体強化することは、あまりいいことではないと言われたので、やめているのだ。

 

 そしてそれは、完全に魔法に頼らず、”先生”という課題に取り組む決心の現われなのだ。今のネギは”立派な魔法使い”ではなく”立派な人”になりたいので、基本的に魔法を隠蔽しなければならないこの麻帆良では、魔法に頼ることを極力減らそうと考えたのだ。

 

 

 

 そんなネギに、苛立ちを感じているのが兄のカギである。性格こそ差はないものの、行動の全てが別人だったからだ。全てにおいて完璧。つっこむ余地すらない。これではアンチできないと考えているからだ。

 

 このカギはネギを踏み倒して、人気者になろうと考えていた。だが、それが無理になることを恐れているのだ。さらに、原作どおりに進まない可能性すらも恐れており、基本的にイライラしていたのだ。

 

 

 そこへ見知らぬ少女が二人、すごい速度で走っていた。原作どおり、アスナと木乃香だった。アスナに手を引かれ、ローラースケートで滑走している木乃香がいたのだ。ネギは、特に何もすることなく、ただ軽快に挨拶をした。

 

 

「おはようございます、足速いんですね」

 

「ん? おはよう。ああー、あんたがネギって子ね、そっくりだからすぐわかったわ」

 

「おはよー、はじめましてー」

 

「僕のことを知ってるんですか?」

 

 

 その挨拶を聞いて急ブレーキをかけるアスナ。そして自分を中心に木乃香を回転させながら、速度を落とさせ停止させた。木乃香は新任教師であるネギとカギを迎えに来るよう、祖父の学園長に言われていたのだ。

 

 アスナはそれの付き添いでやってきていた。そしてアスナはすでに、メトゥーナトからナギの息子たちが来ることを知らされていた。だからナギにそっくりなネギが、その息子だとすぐにわかった。

 

 木乃香はとりあえず、挨拶だけをしていた。だがカギはそれを見て衝撃を受けていた。勝手に占って、変なことをネギが言ってないからだ。さらにアスナを怒らせていないからだ。

 

 

「あんたの父親の友人が私の親みたいなものだから、話だけは聞いているのよ」

 

「そうなんですか? 改めまして、この度こちらの学校で英語の教師をやることになりました、ネギ・スプリングフィールドです。これからよろしくお願いします」

 

「え? ああ、こちらこそ、私は銀河明日菜よ。というか礼儀正しいのね……」

 

「小さいのに先生? あ、ウチは近衛このかですー。よろしゅーなー」

 

 

 アスナはネギが礼儀正しいことに驚いたが、ふと考えて納得した。ナギの息子であるが、同時にあのアリカの息子だったからだ。ナギにそっくりだったため、うっかり失念していたのだ。どうりで礼儀正しいわけだと思ったのだ。

 

 

 

 だがこの現状、転生者たるカギは驚きの連続だった。まさか最初からネギが知られているとは。まさかアスナの姓が変わっているとは。完全に混乱してきたが、とりあえず原作どおりにするべく。カギは行動しようと考えた。

 

 

「お姉ちゃんよー、失恋の相が出てますぜー?」

 

「恋愛してないのに、失恋の相なんて出るわけないじゃない……」

 

「なんだと……」

 

 

 カギは今の発言にさらに驚いた。原作ならアスナはタカミチに惚れていて怒るはずだからだ。しかし恋愛してないしー、なんて言われてしまった上に、占いが駄目なやつだと思われてしまった。本気でやけになったカギは、原作どおりアスナをひん剥くため、くしゃみと同時に武装解除を撒いた。

 

 

「くしゅん!」

 

「あら? 魔力?」

 

「なん……だと……」

 

 

 なんということだ。渾身の演技とともに放った武装解除が、無効化されてしまったのだ。本来ならアスナを全裸とは行かないものの、下着のみにできるはずだったが、それも失敗に終わってしまった。

 

 地味にアスナは完全魔法無効化能力を、さらにうまく操れるようになっていた。自動防御も自分の周囲を囲えるほどになっていたのだ。

 

 カギは本気でショックだった。なぜ防がれたのかさえも、わからなかったからだ。そこに一人の男性がやってきた。ダンディーな無精髭を生やした眼鏡の男。高畑・T・タカミチである。

 

 

「やあネギ君、カギ君。迎えに来たよ。あとアスナ君にこのか君、おはよう」

 

「タカミチさん、お久しぶりです」

 

「高畑先生、おはよう」

 

「高畑先生ー、おはよーございますー」

 

 

 カギはネギの態度にさらに驚いた。なぜならネギがタカミチを呼び捨てにしていないのだ。

 

 それもそのはず、ギガントがたとえ友人でも、年上ならば敬う必要があると教えたからだ。アーニャぐらいの年齢差なら問題ないが、タカミチほど離れていれば、ある程度敬語で話すべきと言われていた。

 

 だから、呼び捨てなんてもってのほかだと、ネギは思っているのだ。それに苦笑しているのがタカミチであった。

 

 

「ネギ君、別に呼び捨てでもかまわないんだよ?」

 

「そんなことはできませんよ。だってずっと年上じゃないですか」

 

「高畑先生は子供に呼び捨てにされて愉悦を感じるタイプだったんだ……」

 

「高畑先生、そんな趣味があったんやなー」

 

「え!? ち、違うよ!? 誤解だよ!!」

 

 

 このアスナ、基本的にヒエラルキーの頂点に立つ才能があるらしい。完全にタカミチを遊んでいた。実際はネギの意見が正しいので、少し助け舟を出しただけだが、完全にいじられているようにしか見えないのだ。カギはあせった、このままではクマパンをタカミチに見せられないと。だから強硬手段にでた。

 

 

「足が滑った!」

 

「危ないわねー」

 

「なん……だと……」

 

 

 こけた振りをして、スカートを脱がそうとしたら、瞬動で近くまで移動され、アスナに体勢を立て直されてしまった。なんと恐ろしい、今の動きがまったく見えなかったカギは、とてつもなく戦慄していた。

 

 まるで康一君が承太郎にぶつかった時に、スタープラチナでカバンの中身やらを全部拾われた気分だった。もはやカギは何が起こっているのかわからなかった。最初から完全に原作が崩壊していたのだ。

 

 

「とりあえず、学園長の所へ行こうか」

 

「はい!」

 

「思ったんだけど、あっちの逆毛小ナギ、自己紹介してないよね」

 

「きっと、しゃいぼーいなんやよ」

 

 

 自己紹介していないのは自分だけとなっていたカギ。木乃香にいつの間にかシャイボーイの称号をもらってしまっていた。これから先、どうなるんだ、頭を抱えてうなるカギ。それを見た周りが少し引いていたことさえ、カギは気がつけなかった。

 

 

…… …… ……

 

 

 麻帆良学園本校女子中等部、その学園長室。うわさでは学園長室は複数あるらしいが、ここだけを見ると変態と思われても仕方が無い。そこで学園長の椅子に座るこの妖怪のような姿の老人。学園長の近衛近右衛門である。

 

 後頭部がウリのように伸び、同じく髭も伸びているこの老人。近衛木乃香の祖父なのだが、血がつながっているようにはまったく見えない。そこに二人の少年と、二人の少女がやってきた。ネギとカギ、そしてアスナと木乃香だ。

 

 

「なるほど、修行のために日本の学校で先生を……。そりゃまた大変な課題をもろうたのー」

 

「よろしくお願いします」

 

「おなしゃーっす」

 

 

 近右衛門が大変だのうと言い、それに返事をする二人の少年。まず教育実習生として、今日から三月まで、二人は教師を行うことになるらしい。近右衛門は、調子に乗って、とんでもないことを言いだした。

 

 

「ところでネギ君にカギ君、彼女はおるのか? どーじゃな?うちの孫娘なぞ」

 

「じいちゃんったらーややわー、前鬼ーつっこみいれてー」

 

「べふー!?」

 

 

 トンカチで殴るべき場面を、式神ツッコミをぶち込む木乃香だった。鬼だ、いや鬼がツッコミしたのだが。近右衛門は数メートル吹き飛ばされ、いやいや口は禍の元じゃのう、と平気な顔をしていた。

 

 恐ろしいことに、この木乃香の行動に完全に慣れているのである。わざとらしく痛そうな態度を取り、席に戻る近右衛門。ネギもカギもあまりのことで、驚きまくっていた。驚かないほうがおかしいのだ。

 

 

「い、今のってまさか……」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

「なに、慣れておるよ」

 

「このか、本当に恐ろしい子……」

 

「じいちゃんが悪いんやえー」

 

 

 最近の木乃香のツッコミは厳しいらしい。本当にアグレッシブであった。そんな木乃香に、本気であきれているアスナと、何をしたんだろうかと考えるネギ。そして、この前鬼に驚き、変な顔になっているカギがいたのだった。とりあえず仕切りなおして、近右衛門は真面目な表情となり、少年二人に質問をする。

 

 

「ネギ君、カギ君、この修行はおそらく大変じゃぞ」

 

 

 それを静かに聞き入れるネギ。どうなってんだチクショーと叫んでいるカギがいた。どうしようもなく対照的である。アスナは叫ぶカギを、うるさいガキンチョと思っていた。

 

 

「ダメだったら、故郷に帰らねばならん、二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」

 

「はい! あります! やらせてください!」

 

「まぁ、俺なら余裕だろう?」

 

 

 ネギはこの質問にはっきりと答えた。難しいことだが、諦めないと誓ったからだ。カギは何があっても大丈夫だろうと高をくくっており、問題ないと思っているようだ。

 

 

「小学生ぐらいのガキンチョが先生をする修行ってどんな修行なのかしら……」

 

「どんな修行なんやろなー……」

 

 

 アスナは修行と聞いて、一体何の修行なのだろうと考えた。この二人が魔法使いだと言うことは聞いていたが、まさか魔法使いの修行が先生をやるなどと連想できるはずが無かったのである。木乃香も同じくどういう修行なのだろうかと考えていた。覇王をシャーマンの師として修行してきた木乃香は、先生をやることが修行には思えなかったのだ。

 

 

「そ、それは……」

 

「そいつぁ秘密の修行ってやつよ! 大人になるためのな!!」

 

 

 そう二人で会話しているところで、ネギが少し焦っていた。この二人にいきなり魔法使いの修行ですなんて言えないからだ。一応アスナも木乃香も魔法を知っているのだが、ネギはそのことを知らないので、どう説明すればよいか悩んでいたのである。そんなネギの横で、秘密の修行だ大人になるためだと適当な理由を並べ、偉そうにするカギがいた。

 

 

 また、この一連の動作をスルーして、近右衛門は指導教員のしずなを呼んだ。修行などとうっかり口にしたのはこの学園長であり、フォローのつもりで新しく人を呼び話題を逸らそうとしたのである。そして、そこにはナイスバディーな眼鏡女教師が現れた。その彼女がしずな先生である。カギはしずなを見て、ネギをちょいと押して、その場所を奪っていた。

 

 

「あら、ごめんなさい」

 

「いーっやっほー!」

 

 

 完全にスケベ根性丸出しのカギだった。原作でネギがしずなのダブルビッグマウンテンに挟まれることを知っていたカギ。挟まれるのは俺だぁー、と意気込んでいたのである。

 

 それが達成されたのか、カギは今とても喜びに満ち溢れていた。どうしようもないヤツだった。それが終わり、しずなが近右衛門の右側へ移動した後、近右衛門が突拍子な事を言い出した。

 

 

「このか、アスナちゃん、しばらくは二人をお前たちの部屋に泊めてもらえんかの」

 

「うん? 何か聞き間違えたかな……」

 

「アスナ、現実と向き合うんや。二人をウチらの部屋に泊めてーなって、おじいちゃんは間違えなく言ーたんやよ」

 

「うそだろ承太郎?」

 

「じょーたろーって誰なんやろ……」

 

 

 今の近右衛門の言葉に、アスナは現実逃避した。そして状助の十八番、うそだろ承太郎?まで使ったのだ。それほどまでに、冗談としか思っていないようだ。木乃香はこのネタがわからないので、誰だろうなーと考えていた。だがそこで、うるさく叫ぶカギがいた。

 

 

「おおお、そうだ! そうだった! ネギがアスナに付くから、俺はこのかに付こうっと!」

 

「う、うるさい……元気すぎ」

 

「あ、あのー」

 

 

 カギはネギがアスナにくっつくことを知っているので、だったら俺は木乃香を選ぶぜ!と叫んでいた。カギのうるささに、流石に文句が出てしまったアスナ。しかし、ネギはその言葉に意義あり!と申し立てる。

 

 

「なにかの? ネギ君」

 

「流石にはじめて会ったばかりの女性の部屋で、寝泊りするのはどうかと思うのですが……」

 

「ふむ、なかなか紳士的よのー、ネギ君は。そこに好感が持てるというものじゃな。まあ二人が許可すれば、大丈夫じゃろうて」

 

「いえ、それなら知り合いであるタカミチさんの部屋でも、大丈夫でしょうか?」

 

「なに!?」

 

 

 このネギ、イギリス紳士だった。今日はじめてあった女性の部屋で寝泊りなどと、できる訳がない! ということだった。だから、友人として付き合いのあるタカミチの部屋のほうがよいと言ったのだ。まあ、住むところが決まってないだけなので、タカミチに許可を取れば問題ないだろうと、近右衛門も考えた。

 

 

「じゃがネギ君、彼は忙しい。たまに出張で、いなくなることもあるが大丈夫かの?」

 

「はい、大丈夫です。元々二人でやっていこうと、思ってましたから」

 

「なんだとおおおお!? ウソだああああ!!!」

 

 

 これにはカギも予想外だった。まさかネギが自分と二人でやっていこうと思っていたなどと。このままアスナと同じ部屋になるなどと、その気になっていた俺の姿、お笑いだったぜ。ファッハッハッハ。とカギは内心泣いていた。

 

 近右衛門はそこまで考えてこの麻帆良にやってきたのかと感動し、それなら問題ないとして、彼らは今後タカミチの部屋にご厄介になることになったのだ。そして住む場所も決まり、少年二人は教室へと案内され、それについていく少女二人がいたのだった。

 

 

――― ――― ――― ――― ―――

 

 

 *吸血鬼、襲来*

 

 

 さて、ネギとカギが麻帆良に来て、特に原作とさしたる差があったわけではないようだ。教室前のトラップをアスナが撤去するとか、エヴァンジェリンがいない上に、知らない少女がその席に座っているとか、そういうことはあったが、大きな違いはなかった。

 

 カギはエヴァンジェリンがいないことに驚愕し、後ろにひっくり返ったが、気にすることなど無かった。

 

 それ以外にも、宮崎のどかが本を大量に抱えて階段を歩くイベントも、多少なりに変わっていた。のどかが階段に足をかける前に、ネギがそれを見て注意したのだ。そこでネギはのどかを手伝おうと、その本を半分ほど持ったのである。それにより、危なっかしいイベントは回避されたのだ。

 

 また、アスナの記憶ではなく下着が消されるようなことも無かった。その後のクラスメイトからの歓迎パーティーも普通に行われ、特に何も無くそれを終えた。そこで原作通りのどかから、お礼の図書券を貰うネギがいたぐらいである。そんな感じで、一日が終わったかに見えた。

 

 

…… …… ……

 

 

 ネギの兄であり転生者でもるカギは、とても頭を抱えていた。ほぼ原作と乖離しているからだ。ネギはとてもいい子で、問題が起きていない。さらにエヴァンジェリンが生徒をしていない。カギの記憶にあるが、認識阻害により知らない子が、その席に座っていたのだ。

 

 カギはこのままではまずいと思い、エヴァンジェリンが麻帆良にいるなら、ログハウスに住んでいると考えた。だからそこへ行って、契約でも結ぼうかと考えた。エヴァンジェリンとの契約は、二次創作において普通のことだからだ。

 

 しかしその目の前に、金髪の少女が立っていた。白衣に白シャツ、赤いネクタイに黒いタイトスカート。そして楕円の眼鏡をした少女だった。

 

 

「貴様らが馬鹿の息子どもか。ほう、確かによく似ている」

 

「えええ、エヴァンジェリン!?」

 

「わ! また僕を知ってる知らない人が!?」

 

「ん? 逆毛小ナギ、なぜ私の名前を知っているんだ? ……まあいいか、自己紹介させてもらう。私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。魔法研究家さ」

 

 

 なんということだ、突然現れたのはエヴァンジェリンだった。カギが今から会いに行こうと思っていたら、本人が直接目の前に現れたのだ。

 

 しかし、カギの知っている”原作”での黒一色の服装ではなく、真っ白だった。スカートは黒ではあるが。今日は何度目の驚きになるのだろうか、カギはやはり目玉が飛び出るほど驚いていた。それはエヴァンジェリンが研究者っぽい格好をしながら、魔法研究家と自ら呼んだからだ。

 

 だが、とりあえず麻帆良にエヴァンジェリンがいることを確認できたので、少し安心したのだ。そしてエヴァンジェリンは、ナギの息子を見るためだけに、ここまで顔を出したのだ。

 

 

「あ、はじめまして、ネギ・スプリングフィールドです。あなたは父さんをご存知なんですか?」

 

「ああ、よく知っているさ。ふむ、貴様がネギか、馬鹿に似ているが、馬鹿っぽくはないようだな」

 

「馬鹿って、もしかして父さんですか?」

 

「ああそうだ、あれは馬鹿だ、大馬鹿だ。頭だけで言うなら、本当に馬鹿なやつだったよ」

 

「聞いた話では、そのようなので、なんともいえません……」

 

「い、言い返してもこないのか……。貴様の親父は本当にダメな親父だな……」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁぁぁぁ!?」

 

「なんだ? 騒がしいやつだ。ああ、こっちのほうがカギか。親父よりも馬鹿っぽい顔をしているじゃないか」

 

「うるせぇぇぇぇーーーー!!!」

 

 

 よもや自分の父親を馬鹿にされているのに、その息子が言い返せないほどだったとは。それほどまでに、ナギはどうしようもない馬鹿だったのかと、エヴァンジェリンはため息をついていた。だが、突如カギが大声で騒ぎ出したのだ。エヴァンジェリンも、うるさいなぁと思い、どうしたのかと考えていた。

 

 

「やい! エヴァンジェリン! なんで目の前に現れた!?」

 

「いや、ただ顔を見に来ただけだが?」

 

「は?」

 

「貴様らは知り合いの息子だ。挨拶ぐらいしにきてもいいだろう?」

 

「い、いや、たしかに……。じゃねぇよ!! どういうことだよ!!」

 

「まるで話がかみ合わん。貴様の兄貴はいつもこんな感じなのか?」

 

「え、ええ、まぁ……」

 

 

 いちいち説明したのに、何が気に食わないのかわからないエヴァンジェリン。当然とても困った顔をしていた。ネギにこいついつもこんなんなの?と聞けば案の定、そうですと返ってきた。ネギも当然困った顔だった。というか、当の本人であるカギは、エヴァンジェリンが何か企んでいるのではと考えていたのである。

 

 

「ま、まぁいい……。エヴァンジェリン、テメーがここにいるなら、話は早い。後でテメーの家に行くからよろしく頼むぜ!」

 

「何でそうなったんだ? 経緯がまったくわからん……」

 

「兄さん、初めて会った人の家に上がりこむなんて失礼だよ……」

 

 

 テンプレどおり、エヴァンジェリンの呪いを代価に、交渉して契約するのがカギの目的だった。だが、このエヴァンジェリン、別に呪われていないのだ。だから突然家に来るといわれても、意味がわからないのだ。

 

 ネギの反応も一般常識的で、突然知り合った人の家に、いきなり押しかけるのは失礼だと思ったのだ。それでもなお、カギは止まらない。なぜならそれが、転生者として正しい行動だと思っているからだ。

 

 

「とりあえず、ここではあまり話せない。だからテメーの家で、じっくり話してやる」

 

「おいネギ少年、貴様の兄貴は本当に人の話を聞かないんだな……」

 

「す、すいません。いつものことなんで、気にしないでください」

 

 

 この状態、いつものことらしい。弟に恥をかかせるなんて、とんでもない兄であった。エヴァンジェリンは、大体当たりをつけてはいたが、まさかここまでとは思っていなかった。まあ、面白そうだから家に入れるぐらいしてやろうと考えた。別に家に入れるぐらい、どうってことないからだ。

 

 

「まあいいか。よくわからんが、わかった。私の家に招待しようじゃないか、カギ少年」

 

「そうこなくてはなぁ、エヴァンジェリン!」

 

「……すいません、兄がお世話になります……」

 

 

 兄が突然、エヴァンジェリンの家に上がることに、ペコペコと頭を下げるネギ。なんて出来のいい弟なんだ……。兄より優れた弟など存在しねぇと思ったが、そうでもなかったらしい。

 

 その兄のカギはこれでうまくいくと思っており、高笑いをしていた。恥ずかしい、なんて恥ずかしい兄なんだ。エヴァンジェリンも、その姿にドン引きしながら、そのネギを見て、苦労してるんだなあ、と考えていた。

 

 

「兄さん、あまり迷惑をかけないようにね……。僕は先にタカミチさんの部屋へ行って、タカミチさんに事情を説明しておくから」

 

「はっ、俺がいつ迷惑かけたよ? テメーこそ迷惑かけんじゃねぇぞ!」

 

「はぁ、大変だなあ、ネギ少年……」

 

 

 完全にネギへ同情するエヴァンジェリン。ネギはその後、兄を置いてさっさと帰ってしまった。とりあえずエヴァンジェリンは自分の家へとカギを案内した。

 

 

…… …… ……

 

 

「ここが私の家だ、まぁ茶ぐらい出してやるとしよう」

 

「おおー、ここが噂の……。うむうむ、原作どおりだな」

 

「はぁ……」

 

 

 エヴァンジェリンの家は原作どおりログハウスだ。カギは原作どおりのログハウスを見とれていた。その横でエヴァンジェリンが茶ぐらいだすと言っても、まったく耳に入っていないカギに対して、ため息をしていた。

 

 とりあえずエヴァンジェリンが家に入ると、一人のロボがいた。長く伸ばした緑色の髪、機械っぽい耳。機械っぽい間接。完全にロボそのものだった。それがこの絡繰茶々丸である。

 

 

「なんだ、先に帰ってきていたのか。ただいま」

 

「お帰りなさいませ、マスター。そちらの方はカギ先生では?」

 

「よー、じゃまーっす」

 

 

 これも原作どおりである。カギは適当にくつろぎ、茶々丸の淹れたお茶を飲んでいた。ずうずうしいヤツだなあ、とエヴァンジェリンは思いながら、さて何を話すのかと聞いてみた。

 

 

「で、なんで私の家に来ようとしたんだ?」

 

「単刀直入に言おう。テメーの呪い、俺の血で解け」

 

「……何の話だ?」

 

「学校に閉じ込められる登校地獄の呪いだよ! 知ってるんだぜ!!?」

 

「いや知らん」

 

「テメーじゃなくて俺が知ってるんだよ!!」

 

 

 呪いなど、貰っていないエヴァンジェリンは、さてはて、どうしたものかと考えた。これはもうアレだなあ、と思ったのだ。だが、単刀直入に言ってしまうと面倒になりかねない。腕を組んで、少し頭を悩ませるエヴァンジェリン。その間にカギはどんどん勝手に話を進めていた。

 

 

「俺の血で呪いを解いたら契約してくれ。そして俺の仲間になってくれ!」

 

「……ふむ、心配してくれたようだがすまないな。その呪いはもうない。完全に消えて無くなったよ」

 

「なんだと……。どういうことだ!?」

 

 

 呪いがあると言うなら、もう無いことにしてしまおうと思ったエヴァンジェリン。適当にでっちあげて、丸く治めようと思ったのだ。カギはそれを聞いて驚き、叫びだした。

 

 

「ま、まさか俺と同じやつが別にいたってことか!?」

 

「いや、自分で解いた。特に問題は無かった」

 

「ウソをつくんじゃねぇ!! あの呪いを自分で解けるはずないんだ!!」

 

「じゃあ、なぜそれがウソだとわかるんだ?」

 

「ウッ……。それは……。いや、むしろそっちがウソついてるんだろうが!!」 

 

 

 カギは自分が転生者だということを、なかなか言い出せないでいた。エヴァンジェリンはウソを言っているが、ウソだという証拠はどこにもない。だから、強気で行くのだ。

 

 

「だから、なぜウソだとわかる? その呪いを、一度でも見たことがあるのか?」

 

「あ、ある!!」

 

「ほう? それはいつ? どこで? 誰がかかっていた?」

 

「かかっていたのはテメーだ! エヴァンジェリン!! 俺の親父のナギがテメーに呪いをかけたんだよ! デタラメな呪いをなあ!!!」

 

「ふむふむ、しかし貴様と会うのは初めてだ。そして、貴様の父親、ナギは10年前死んだことになっているはずだが? 貴様が生まれた時、すでにナギがいないのに、どうやってその情報を得た?」

 

「ぎ、ぐーーー!!」

 

 

 エヴァンジェリンに完全に丸め込まれていくカギ。そりゃ年季が違うのだ、当然である。カギも自分が転生者だと言えないので、それ以上言葉に出せないのだ。カギは悔しそうな表情で、涼しげにしているエヴァンジェリンを睨んでいた。だが、ここでカギは覚悟を決めたようだ。

 

 

「なら教えてやる!! 俺は前世の記憶を持っている! そこでテメーが呪われているのを知ったんだ!!」

 

「ほう、それは面白い。だがそれでは、呪われているという情報だけではないか。なぜ解けないか、説明してもらいたいところだ」

 

「テメーに呪いをかけたのは、俺の親父だって言ったはずだぜ! あの馬鹿魔力で、メチャクチャな呪いをかけたから、解けなくてずっと中学生だったんだよ!!」

 

 

 カギは自分が転生者だということを、エヴァンジェリンへとやんわり伝えた。そして、その記憶があるから呪いを知っていると言い出したのだ。しかしこの程度で、エヴァンジェリンが折れるわけがない。それでも涼しい顔で、別の質問に切り替えるエヴァンジェリンがいた。

 

 

「なるほど、だが前世とやらで、私は貴様に会ったことがあるのか?」

 

「ねぇよ! でも知ってるんだよ!!」

 

「会ったことも無いのに、知っている?おかしな話だな。どういうことなんだ?」

 

「そ、それはだなぁ……!」

 

 

 原作知識で知っているなんて、そうそう言えたものではない。この世界が漫画で、それで知ったなんて、言えるはずもない。カギはこの時点でかなり焦っていた。だからカギは破れかぶれとなっていた。もはや面倒になって、もうこの際全部言ってしまおうとカギは思ったのだ。

 

 

「なら全部教えてやらぁー! この世界は前世で漫画だった! それを読んで知ったんだよ!!」

 

「ほう、この世界は漫画だったのか。だがしかしだ、その漫画とこの世界、同じだと思っているのか?」

 

「な、なんだと!?」

 

「貴様の言うように、この世界が漫画だったとしよう。だが、その漫画どおりに、物語が進んでいると思っているのか?」

 

「ち、違ぇってのかよ!?」

 

「違うではないか。現に私は、呪いを解いたと言っただろう?」

 

「ぐ……」

 

 

 漫画だったとして、何が問題あるのかと思うエヴァンジェリン。そして、その漫画とこの世界、似たようなものらしいが、同じようになっているとは思えないと考えていた。というか、そのあたりもエヴァンジェリンは、皇帝から話を聞いているので、はっきり言ってカギをおちょくっていただけである。

 

 自滅を誘発されたこのカギは、完全にエヴァンジェリンの掌で踊らされていたのだ。いや、釈迦の掌を飛び回る、孫悟空ですらなかったのだ。カギはすさまじい形相で、エヴァンジェリンを睨みつけていた。まったく自分の思ったとおりに行かないからだ。しかし、そんなことも全部涼しげに、受け流しているのがエヴァンジェリンである。

 

 

「呪いがねぇだと!? じゃあ何でここにいんだよ!!」

 

「私は日本が好きだ。そして魔法使いが集うこの麻帆良なら、私がいても不思議ではないだろう?」

 

「ぐ、ぎいいい!! うるせぇぇぇぇ!! このクソ!! なら力でねじ伏せるだけだぜ!!!」

 

 

 カギはもう逆上して、暴れだそうとしていた。エヴァンジェリンはそんなカギを、どうでもよさそうに見つめているだけだった。カギはその姿にさらに頭にきて、その場で攻撃しようとした。

 

 

「食らえ!! ゲート・オブ・バ」

 

「オイ、スデニ罠に嵌ッテイルコトニ、気ガツカネーノカ?オ前、頭脳ガマヌケカアー?」

 

「な……にぃ!?」

 

「ふん、何かしようとしたら、首が飛ぶと思え」

 

 

 首元にいたのは小さい人形だった。緑色の髪と、両手に刃物を握った人形だった。そう、エヴァンジェリンの従者、チャチャゼロだ。当然エヴァンジェリンは、すでに手を打っていた。

 

 最初からチャチャゼロをカギの首元の死角に配置し、いつでも攻撃できるようにしておいたのだ。呪われてもいないので、魔力を持つエヴァンジェリンは、殺人人形チャチャゼロを操るなど、難しいことではないのだ。

 

 それにまったく気がつかなかったカギ。むしろカギはエヴァンジェリンを信用しきっていた。まったく保証が無いというのに、原作知識やらをアテにして勝手に信頼していたのだ。首元にナイフを突きつけられ、もはやこれでは動きようが無いカギは、仕方なく戦うことをやめるしかなかったのだ。

 

 

「クソ……。最初から罠に嵌っていたのかよ……」

 

「年季の違いというやつを思い知るがいい。貴様のようなやつは、何人も見て来てるんだよ」

 

「何だとおおお!?」

 

 

 そりゃもう600年生きているエヴァンジェリンは、転生者をイヤというほど見て来たのだ。こういうやつも多く見て来た。だから簡単に罠に嵌めれたのだ。そして、やれやれと肩をすくめるエヴァンジェリンだった。

 

 だがここでカギは、初めて転生者が複数いることを知った。そしてかなりショックを受けていた。

 

 

「馬鹿な……。転生者は俺だけじゃなかったのか……」

 

「そういうことだよ、ぼーや。さて、貴様に二つの選択をやろう」

 

「二つの選択だと!?」

 

「そのまま首をはねてもいいが、私の主義に反する。そこで生き延びるチャンスとやらをくれてやろう」

 

「な、何をするってんだよ!?」

 

「簡単だ、一つは前世の記憶の封印。もう一つは、まあ何もしなければそのまま帰れ、ただしギアスはかけさせてもらうぞ」

 

 

 なんという優しい選択か。前世の記憶を封印するか、帰るかのどちらかだった。というのも、どうせ皇帝の部下もいるし、自分が直接手を下すのが面倒なのだ。自分で手を下してやるとメトゥーナトには言ったが、正直面倒ごとはごめんなのである。カギはその選択に驚きながら答えた。

 

 

「か、帰る! 今日は帰る!!」

 

「そうか、ならとりあえずこの”鵬法璽”で約束してもらおうか、私に対して攻撃しないことをな」

 

「チッ、しょうがねぇ……」

 

 

 鵬法璽とは絶対的な契約をする魔法具である。約束されたら最後、魂にまでその契約が刻み付けられる。そして、その約束した行動が絶対に取れなくなるのだ。このエヴァンジェリン、魔法研究家なので、魔法具の収集癖があるのだ。

 

 カギはとりあえずエヴァンジェリンと戦闘しなければよいと考え、その話に乗った。そして契約を完了させ、悔しそうにしながら逃げるようにログハウスから出て行った。

 

 

「やれやれ……。面倒なことになってきたなぁ……」

 

「ケケケ、切リ刻メナカッタノハ惜シカッタナー」

 

 

 エヴァンジェリンは面倒なことになってきたと考えた。何せ”物語”が始まってそうそう、このような輩が沸いて出たから当然であった。その従者のチャチャゼロは、あれも切り刻みたくて仕方が無かったらしい。まあとりあえず、これで自分が攻撃されることが無くなったと、エヴァンジェリンは多少安心するのであった。

 

 

――― ――― ――― ――― ―――

 

 

 *覇王と吸血鬼*

 

 

 麻帆良学園都市。そこに一人の男がやってきた。

赤い外套。白く短い髪の毛。そして色黒の肌。その男が一人、その麻帆良へと降り立っていった。

 

 

「ふむ、ここが麻帆良か……。さて、私の任務を行うとしよう」

 

 

 男は任務を受けていた。それはネギと明日菜の身辺調査である。”原作”ならば同じ部屋で過ごしているので、さほど難しい任務ではないはずだった。しかし、それこそが間違えだったことに、その男は気がつかなかった。

 

 

「この部屋だったな……ん!?」

 

 

 そこには気配があった。霊の気配だ。それもただの霊ではない。強力な鬼神の霊だった。前鬼、後鬼。木乃香が持霊として、師である覇王から借りているものである。彼らは男の存在に気づき、攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 

「チィ……。ここで戦闘をすれば騒ぎになる……。それと無用な争いは避けろと言われていたな……」

 

 

 しかし男は戦いを避けるため、後退した。鬼たちは逃げた男を追わず、また木乃香の部屋の扉の前へと戻っていった。男はなぜそのような鬼がいるか、まったくわからなかった。完全に原作と乖離していたからだ。

 

 

「まさかこのような事態になっているとは……。たしかに転生者は複数いたが……」

 

 

 男は転生者が複数いることを知っていた。そして扉からの進入は不可能だと考え、遠くの窓から監視することにしたのだ。いや、最初からそれをすべきだったのだが、この男、女子寮に入ってみたかったのだ。

 

 そして男は一キロ離れた建物の上からアスナと木乃香の部屋の中を、その窓から監視することにした。またなぜかこの男は、何も使わずに自分の目のみで、アスナと木乃香の部屋を一キロ先から監視、いや覗きができた。

 

 何故このようなことができるかというと、この男の特典に遠くのものを見る力が含まれていた。その能力を使い、双眼鏡などを必要とせずに、一キロも離れたアスナと木乃香の部屋を見ることができるのだ。しかしもう夜であり、二人が着替えを始めているところだった。

 

 

「ふむ、体の熟れ具合に、さほど違いは無いようだな」

 

 

 真面目な表情で、かっこよく言葉にしているが、普通に変態的だった。ただの覗きであった。その二人の着替えをじろじろと見つめ、なかなかいい体つきだ、と言葉を漏らすこの赤い変態。だがそこへ、一人の少年が飛んできた。

 

 

「なあ、お前、ここから何が見えるんだ? 僕にも教えてくれないか?」

 

「な、は、ハオ!?」

 

「だからさ、何を見ているんだよ」

 

 

 それは覇王だった。不審な気配を察知して、すぐさまS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)で飛んできたのだ。何ってアスナと木乃香の着替えである。だがそんなことは、言える訳が無いのだ。男は戦うべきかどうか考えていた。争いを避けるべきだと一応言われているからだ。

 

 

「お前さ、まさか覗いてた? 誰の部屋だい?」

 

「何!? 覗いてなどいない!」

 

「へぇ、本当に?」

 

「あぁ、断じて。監視はしても覗きはしていない!」

 

「ふうん、でもそれって同じだろ?」

 

「違う! 断じて違う!」

 

 

 覗きも監視も、見ているものとしては同じだろう。しかし男は否定した。覗きなんてやっていない!これは監視だ!と焦りながら否定していた。しかし、明らかにムキになっており、自覚はあったようだ。

 

 

「で、何を見ていたんだい? まさか、ねぇ……」

 

「まさかとはなんだね? 私が着替えでも見ていたと言いたいのかね?」

 

「へぇ、着替えを覗いてたんだ。最低だね」

 

「ち、ちち、違う!! 絶対に違う!!」

 

 

 この時点で着替えを覗いていたことが確定された。覇王はそれにとても頭にきていたが、顔にはまだ出ておらず笑顔だった。男はやべぇミスったと思い、すごい焦りながら違うを連呼していた。だがもう遅かった。弁解の余地は無かったのだ。

 

 

「興味本位で聞くけど、誰の着替え?」

 

「違うと言っているだろう!!」

 

「違うのかい?じゃあ、誰を見ていたかぐらい、言えるだろ?」

 

「チッ、”神楽坂明日菜”の部屋だ」

 

「……ふうん、つまり近衛木乃香も一緒か……」

 

 

 この男は原作で当てはめていた。だからアスナを神楽坂と呼んだ。覇王はそれを聞いて、確実に転生者だとわかった。まあ、特典ですでにわかっているのだが。そしてまさか、誰を見ていたかをポロっとしゃべるとは、覇王も実は思っていなかった。それほどまでにこの男は、覗きをしていると言われてテンパっていたのだ。

 

 

「し、しまった!? 私は何を言っているんだ!!?」

 

「そうか、木乃香の着替えを覗いてたのか……」

 

「覗いてなどいない!! 監視していたのだ!!」

 

「だからさ、それは結局は見たってことだろ? ふん、なんて低俗なやつなんだ」

 

「うっぐっ!?」

 

 

 この男、完全に墓穴を掘っていた。穴があったら入りたいぐらいである。自分の失態に気づき、完全に焦っている男。それをテメェ見たなと、怒りに燃えながらも、表情は笑顔の覇王がそれを見ていた。しかし、笑顔ながらもその表情は、段々と冷淡になってきていた。そして覇王は攻撃を開始した。こういう輩は、黙らせないと気がすまないからだ。

 

 

S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)、やってしまえ」

 

「チッ、仕方が無いか……。”トレース・オン”」

 

 

 男はその言葉を述べると、二本の黒と白の剣が握られていた。そして、それでS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の攻撃をなんとかしのいでいた。しかし、その程度で防げるわけがないのだ。

 

 

「グッ!?」

 

「どうした?自慢の夫婦剣が、泣いているぞ?」

 

「たわけたことを!!」

 

 

 S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の攻撃を、ギリギリでかわしながら、二つの剣を振るう男。それを余裕でS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)の左手の上から眺めながら、笑っている覇王がいた。完全に男は遊ばれているのだ。

 

 

「このままではこちらが不利か、ならばこれならどうだ!」

 

「この程度で一つの切り札を切るのか?つまらないやつだ」

 

「どうとでも言うがいい!! ”壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)”!!」

 

 

 壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)とは、Fateのサーヴァントの最強の武器である”宝具”を爆発させる最終奥義である。その宝具を爆弾として扱い、大爆発を起こさせ敵を吹き飛ばす。

 

 当然、その宝具は消滅するので、普通のサーヴァントは絶対に使わない。だが、この男はそれを生み出す力を持つ。だから平然とそれをやってのけるのだ。

 

 その男は覇王の前に二本の剣を投げつけると、それを爆発させたのだ。すさまじい轟音と共に大爆発を起こした剣は、完全に消滅していた。そして、それを見た男は勝利を確信し、ようやく小さな笑みをこぼした。しかし、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)はいまだに健在だったことに、男からは笑みが消え、冷や汗をかき始めていた。

 

 

「そんなもんか。心底あきれさせてくれる」

 

「五行の操作か……。忘れていた……」

 

 

 覇王は爆発を耐えるために、S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)を水へと変換して守ったのだ。たったそれだけで、完全に防がれてしまった男の切り札。男の切り札を警戒し、覇王は普段よりもS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)へ、多く巫力を与えていたのだ。

 

 そして水から再び火へと変換され、男を焼きはらおうと攻撃するS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)だった。もはや男は今は手に負えないと、逃げることをはじめた。

 

 

「チッ、ここはひとまず退散だ」

 

「なんだ、もう逃げるのか? ……本当につまらないやつだな」

 

 

 男はさっさと撤退し、夜の闇へと消えていった。覇王は深追いはせず、ただ逃げる男を眺めていた。再び静かになった麻帆良の夜に、美しい月が出ていた。覇王はそれを見て、少しだけ考えがよぎった。

 

 

「そういえば吸血鬼、どうしてるんだろうか……」

 

「私がなんだって? ”星を統べるもの”」

 

「ああ、いたんだ。そしてそれ、やめてくれない?」

 

 

 覇王がポツリと漏らした言葉に反応が返ってきた。そこにいたのは吸血鬼、エヴァンジェリン。やはり黒一色ではなく、白い白衣に白いシャツだった。覇王はエヴァンジェリンと向かい合い、笑顔で会話を始めていた。

 

 

「戦闘の気配を追ってみれば、魔法世界の現英雄がいるとはな」

 

「そこまで知っているんだ。それと僕も、君の事はある程度聞いているよ。金の教授」

 

「なんだ、知っているのか。私も噂しか聞いていないが、貴様のことは知っているよ」

 

 

 どちらもある程度知っているようだ。だが実際会うのは初めてなのだ。かれこれ500年前、覇王は皇帝に挨拶に行った。しかしその時エヴァンジェリンは、アリアドネーで過ごしていた。だから会うことが無かった。そして覇王の今世でも、エヴァンジェリンに会うことが無かったのだ。だが、どちらも皇帝から聞かされており、ある程度どちらのことも知っていたのだ。

 

 

「多分だけど、あの皇帝が話したんだろ?」

 

「それはお互い様だろう?そういえば、さっき戦っていた相手はどうした?」

 

「あぁ、あの男か。彼ならもう逃げて行ったさ」

 

「取り逃がしたのか?」

 

「いや、別にあの程度の相手、どうにでもなるだろ? 捨て置いたんだよ」

 

 

 覇王は特に男に対して脅威を抱いていなかった。だから放置してもよいと思ったのだ。木乃香の着替えを覗いていたのは腹ただしいが、派手に戦闘して騒ぎを大きくしたくはなかったのである。

 

 

「そいつは何をしていたんだ?」

 

「覗きだよ、”銀河明日菜と近衛木乃香”の着替えを覗いていたようだ」

 

「ほう、それはまた死にたいらしいな」

 

 

 本人たちに知れたら命が無いだろう、そうエヴァンジェリンは考えた。あのアスナはそういう変態に容赦がない。変態に容赦はするな、を名言とするほどだ。

 

 そして木乃香にも護衛がいる。覇王もそうだが、桜咲刹那とバーサーカーもいるのだ。この二人もそういう変態には、基本的に容赦がない。当然ではあるのだが。

 

 

「まったく、変態が多い世の中だね……」

 

「まったくだな……。しかし、その炎の源、近くで見るとすさまじい力を感じる」

 

S.O.F(スピリット・オブ・ファイア)のことかい? 別に悪いやつではないから大丈夫だよ」

 

「その程度では臆さんさ。だが、その炎と私の氷、どちらが強いかを考えるとだな……」

 

「そっちは氷系が得意だったかな?でも絶対零度に近い範囲魔法があるんだろ?」

 

「はっ、言うじゃないか。どんなものでも焼き尽くす、圧縮した灼熱の火炎弾を撃てるやつが」

 

「そこまで知っているのか。つまらないね」

 

「それもお互い様さ」

 

 

 どちらも最強の技を知られているようで、お互い様と言うエヴァンジェリン。戦う気などまったくないが、手の内がさらされている場合、戦いではやりずらくなると両者とも考えていた。そしてエヴァンジェリンはふと思い出したようで、覇王にしっかり向き合って話した。

 

 

「そういえば感謝しているよ、貴様の超・占事略決の知識は大いに役に立った」

 

「それも知っているのか。僕はもう丸裸同然じゃないか」

 

「まあ、教えたのは皇帝さ。あれのおかげで、色々できるようになったよ、ありがとう」

 

「別に教えたのは僕ではないのに、礼なんて必要あるのかい?」

 

「ふん、何、一応な」

 

 

 このエヴァンジェリン、何気に素直であった。というのも、あの超・占事略決のおかげで、新魔法が完成したのだから当然である。あれのおかげで、エヴァンジェリンはいろいろ助かったのだ。覇王は自分が教えたわけではないので、その礼を少しくすぐったく感じていた。エヴァンジェリンはその覇王の姿を見て、小さく笑っていた。

 

 

「まあ、僕はもう帰るとするよ。明日も学校だ」

 

「貴様ほどのやつも学校か、学校とは大変な場所だな」

 

「よく言うよ、勉強を必死にやってきたくせに」

 

「まぁな、でも私がこなしてきたのは得意分野だけさ」

 

「それは羨ましいことだ。さて、今日はこの辺にしておこうか。じゃあね、”エヴァ”」

 

「そうだな、また会おうか、”覇王”」

 

 

 この会話で、両者は友人となったようだ。互いに名前を呼び合うほどとなっていた。覇王はそのままS.O.F(スピリット・オブ・ファイア)に乗り、状助が待つ男子寮へと戻っていった。エヴァンジェリンも、そそくさとログハウスへと戻っていくのだった。

 

 

…… …… ……

 

 

転生者名:???

種族:人間

性別:男性

原作知識:あり

前世:30代会社員

能力:投影魔術

特典:Fateの赤アーチャーの能力、オマケでアーチャーの使った宝具の全使用

   神造兵装以外の宝具の投影




カギ君は原作厳守第一で、その次にスケベ根性、その次に原作キャラハーレムという謎の思考です

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