――――墓守り人の宮殿、その最も外側にある一角。
そこには一人の男がしゃがんでいた。
「危なかった……」
その人物は猫山直一、スクライドのストレイト・クーガーの能力を貰った転生者だった。
彼は
ただ、超高速で移動できる直一であったが、逃走は困難を極めた様子で、冷や汗を額から流しているほどであった。
「しかしなぜあいつが……?」
また、焦ったことは逃亡が大変だっただけではない。
その敵対した人物が、
「考えても仕方ねぇ、次の行動に移るか……ん? あれは……!?」
とはいえ、敵の罠であることに変わりわないと判断した直一は、即座に仲間の援護へと向かおうと考え立ち上がった。
だが、その直後、急に上空から影が差した。
何だろうかと、ふと上空を見上げれば、見知った飛行船が空を飛んでいたのだった。
…… …… ……
直一がその場に来る数分前、マンタ型の飛空艇の屋根の上で警護している二人の男が語らっていた。
「あっちはすげぇドンパチやってるってのによぉー!」
「だがこちらが安全ならばそれで問題ない」
「ケッ、面白くねえな」
直一が持つ特典と同じ原点を持つ二人、
カズヤは墓守り人の宮殿で、今まさに仲間たちが大暴れしてるのを考えて、俺も戦いてぇと嘆く。
何せ今はまだ安全な場所に退避できている為、戦うことがなかったからだ。
しかし、こちらも仲間を守護しなければならないと考える法は、むしろ無駄な戦いなどないほうが良いと語る。
とは言え、あたりを見渡せば光の塊から召喚魔が沸き、連合艦隊か何かの戦艦がそれらと衝突している姿が見えた。
故に、法もこの安全な状況がいつまで続くか、とも悩んでいた。
そう語った法の言葉に、カズヤは機嫌を損ねた態度でいじけるような台詞を吐き散らす。
カズヤは普段は大人しいが喧嘩になるとうるさい。近くで戦闘があるのなら、率先して殴り込みに行きたくなる質なのだ。
「面白くなくとも、こちらが安全であることの方が重要だ」
「んなこたぁわかってるって……」
カズヤの言葉に、法は多少怒気を孕ませて反論する。
面白いとか面白くないとかではなく、第一に考えるのは仲間たちの安全だ。
ただ、カズヤとて法の言ったことなど理解している。
それでも、それでも戦いたくてしょうがないのだ。ウズウズしているのだ。
「しかし……、戦いの規模がどんどん大きくなってきている……。このままではこちらにも被害が来るかもしれん」
「そうならないための俺たちだろうが」
そんなカズヤから視線を外し周囲を見る法は、この無事な状況が長く続かないことを予感させた。
何故なら、召喚魔の数がなかなか減らず、黒い塊のように光の渦を覆っているからだ。
あれがこちらに到着するのも時間の問題。
危険をさらすことになると法は言葉にする。
されど、むしろカズヤはそれを望んでいた。
いや、実際はこの飛空艇に乗る仲間を危険に晒したい、という訳ではない。
自己満足のために誰かが被害を受けるのは、カズヤとして許せないことだ。
が、やはり戦いたくてしょうがないカズヤは、敵が寄ってきたならば返り討ちにするのが俺たちだと豪語した。
「面白くなさそうですねぇ」
「誰だ!?」
しかし、そこで突如として、第三者の声が聞こえてきた。
ハッとした法はすぐさま警戒すると、飛空艇の上に浮かぶ、黒い人影を目撃した。
「フフフフフ……」
「テメェはナッシュ・ハーネス!?」
「何!?」
その男は笑っていた。
紫色の髪をオールバックにし、魔力を使わず不気味に浮かんでいたのである。
それこそナッシュ・ハーネス。学園祭から長々と因縁がある、本国メガロメセンブリアの元老院議員にして転生者。
カズヤはその名を怒りの混じった声で叫べば、法もそれに気が付いた様子を見せる。
「はぁい、そうです。その通りです」
「わざわざボコられに顔を出してきやがったって訳だな!」
ナッシュは挑発するかのように、その通りだとせせら笑いながら言い出すと、カズヤは売られた喧嘩を買うように強気の姿勢を見せて睨む。
「いやいや、あなた方があまりにも暇そうなので、少々遊んでいただこうかと」
「ふざけているのか!!」
「真剣ですよ?」
そんなカズヤにナッシュは、さらに火種に薪をくべるように挑発を続ける。
法はその言葉が逆鱗に触れたのか、怒りに任せて叫び声をあげる。
ナッシュはその叫びこそ心地よいと言う様子で嘲笑しながら、さらなる挑発を行いだす。
「では、まいりましょうか。決戦の地へ」
「何!? 貴様なにを!?」
「野郎っ!!」
とは言え、ナッシュは別に彼らを意味もなく挑発しに来たのではない。
これから始まる”自分の計画”のためにやってきたのだ。
その手始めにと浮いたまま手を下に下げれば、なんと飛空艇の真下に飛空艇をすっぽり覆う程の巨大な空間の穴ができたではないか。
法とカズヤはこれはまずいと判断したがすでに遅く、さらにナッシュは飛空艇をその穴へとゆっくりと押し込むかのように落下させていったのだ。
「こ……これは!?」
「一体どうなってやがる!?」
すると、周囲の景色が一変した。
カズヤと法は周囲をキョロキョロと見渡し、何がどうなっているのかと若干混乱した様子を見せていた。
「なっ!? なんだここは!? 何が起こった!?」
「ど、どうなってんだこれ!?」
この飛空艇の主であるジョニー、それと千雨たちも困惑を隠しきれなった。
何故なら、この場所はネギたちが突入したとされる墓守り人の宮殿付近の上空だったからだ。
されど、彼らには一瞬にして連れてこられたのと、墓守り人の宮殿、さらにはオスティアが光の渦に包まれていたので見えなかったことで、この場所がどこなのかすぐには理解できなかった。
「フフフフフ……」
「テメェ! 何しやがった!!?」
「いえ、この世界の運命を決める戦いに、あなた方のような傍観者がいるのはよくないと思いましてね」
墓守り人の宮殿付近へと転移させたナッシュ本人は、ただただ不快な声で笑うだけ。
カズヤは転移されたことを理解した上で、なんでこんなことをとキレた様子で聞き出そうとする。
ナッシュはそれに対して、癇に障る程の丁寧な態度で説明を述べ始めた。
彼らもまたこの世界の危機をめぐる戦いに巻き込まれた存在。それが蚊帳の外にいるのはもったいないと。
「ですから、私自らがご招待させていただきました。この墓守り人の宮殿の上空にねぇ!」
「なんだと!?」
だからこそ、この場に彼らを呼ばなければとナッシュは考え実行した。
いや、それ以外にも目の前で睨んでくる二人の青年、カズヤと法が自分の計画に必要だったのもある。
そして、自分の計画に最も相応しいと考えた場所こそが、造物主の思惑が立ち込めるこの墓守り人の宮殿だったのだ。
故に、ナッシュはここへ彼らを転移させた。
ただ、法やカズヤには理解のできない行為であり、ふざけているとしか思えずに声を荒げるだけだ。
「では、進みましょうか。私がこの世界を支配するものとなる第一歩を……」
「何を言ってやがる!?」
そんな二人など気にせず、自分の言いたいことをペラペラとしゃべるナッシュ。
この計画を成功させ、魔法世界を自分の支配下に置こうとしている。
だが、カズヤはそんなくそったれな計画なんぞ知ったことじゃない。
喧嘩を売られた、だから買った。それだけだ。
「ハハハハハハハハッ!!」
「…………」
と、ナッシュが自分の計画を宣言した直後、彼の部下が頭上に現れた。
笑いながら
「こいつらもか!」
「そっちがやる気だってんなら、やってやるよ!」
カズヤと法はこの状況に危機を感じながらも、殴りこんできたんなら殴り返すとばかりに自分たちも飛空艇以外の周囲の物質をアルター化させ、自分の
…… …… ……
墓守り人の宮殿、その最上部へとネギ、小太郎、アスナの三人は急いでいた。
彼らはネギの杖へとまたがり、上へ上へと加速する。
途中、完全なる世界の一員となった転生者たちが襲い掛かってきたが、それらは全部蹴散らされた。
どうやら強敵となる存在は多くないようだった。
「誰がグランドマスターキーを持っているのだろう」
「流石にそれは探すしかないわね」
ネギは最上部へと向かう目的、グランドマスターキーの存在を気にしていた。
下部の広間では仲間たちが戦っている。そこにはグランドマスターキーはなかった。
エヴァンジェリンの見立てでは最上部で誰かが握っているというが、それが誰なのかはわからない。
ネギがそれをつぶやくと、アスナもわからないとし、探す必要があると述べる。
「考えてもしょーがあらへんやろ! 見つけ次第ぶっ飛ばすしかあらへんで!」
「……そうだね」
その言葉に小太郎も、だったら敵は全員蹴散らせばいいと豪語し、ネギも確かにと考えたようだ。
「ここが最上部……」
「先ほどまで邪魔してきおった連中が、ここにゃ誰もおらへんな」
「不気味ね……」
そして、ようやく墓守り人の宮殿の最上部、その外縁の外へと出たネギたちは、あたりを見渡した。
そこは静かであった。
先ほどまでは敵が襲ってきていたが、この場には誰一人としていなかった。
小太郎はそのことを気にし、アスナも敵が誰もない状況に戸惑いを感じたのである。
「っ!」
だが、突如として一人の男が現れ、アスナを強襲したのだ。
その男、金色の縦にロールになった髪形をした男だった。
男は懐から銃を引き抜くと、そのままアスナへと向けて引き金を引いた。
アスナはそれに気が付くと、とっさにアーティファクトであるハマノツルギで防御、なんとか攻撃を防ぐことに成功した。
「アスナさん!?」
「誰!?」
その銃撃の音に気が付いたネギは、アスナのほうを向いて心配そうな声で叫ぶ。
呼ばれたアスナはネギの声など気にせず、急に出現した男の方を警戒し、ハマノツルギをしっかりと握りなおす。
「……」
「一体どこから……!?」
男はアスナから多少離れた場所で動きを止めると、じっとアスナを眺めていた。
アスナはこの男がどうやってこの場に出現したのかを、考察しながらそれを声に出す。
そう、何せ何もない、誰もいないこの場所から、突如として出現するのは難しい。
水や影の
それがどちらもない場所からの急な出現は、その手順を完全に否定させた。
であれば、ほかの方法が必要になるだろうが、それが理解しがたいものだということになる。
故に、アスナは何が起こったのかが理解できず、困惑した表情を見せていたのだ。
「……考えててもしょうがなさそうね」
とはいえ、何もしないというわけにはいかない。
敵が現れたのならば、戦わざるを得ない。アスナは意を決して男へと一瞬で近づき、ハマノツルギを振り下ろす。
「”
「っ! 見えない何かにガードされた!?」
しかし、しかししかし、どうなっているのかわからないが、ハマノツルギは男の顔面の目の前で何か見えないものに阻まれた。
そして、男はこう叫んだ。
『
状助が聞いたのならば、一瞬でその正体を理解しただろう。
それこそジョジョの奇妙な冒険、第7部、SBRで出てきたスタンドの名前なのだから。
「何っ!? 布切れ!?」
「ドジャ~~~~ンッ!!」
「なっ!?」
すると、ハンカチがアスナの頭上に投げられた。
アスナは何かある、と警戒したその時、ハンカチが何かにつかまれたように、アスナへと急に加速して頭に接触。
その瞬間、ネギはあり得ないものを見た。
男が奇妙な声を上げたと同時に、アスナがハンカチと石畳の間に消えてしまったのだ。
さらに、男もハンカチをかぶれば、そのまま同じように消えていったではないか。
「アスナさん!? アスナさーん!!!」
「消えおった!?」
ネギと小太郎は大いに焦った。
あのアスナが急に消えたからだ。
「一体何が起こっている……!?」
「わからへんが……、かなりヤバイ状況っちゅーことは間違いあらへんで!!」
さらに、突然の出来事で何がどうしてそうなったのかがわからなかったからだ。
小太郎もその”何か”がわからなかったが、直感的にかなり危機的な状況となったことを察した。
「っ!!?」
「魔法……!? 誰や……!?」
そんな時、
ネギと小太郎はとっさに回避し、二人はその魔法を放った方へと向き直る。
「君たちか」
「あっ……あなたは!?」
するとそこにいたのは、白髪で青い簡素な服を着た少年、『フェイト』だった。
ネギはたまらず吃驚して声をかけた。
何故彼がこの場所に? 何故彼が自分たちに攻撃を? わからないことだらけだったからだ。
「あなた……? 君にそんな呼ばれ方をする覚えはない」
「どうなっとるんや!? アイツはまだ下の方で……」
しかし、『フェイト』はネギのフレンドリーな態度に怪訝な表情を見せ、さらに強くにらみつける。
小太郎はそんな『フェイト』を見て、何故この場所にいるのかと考えた。
何故なら、”フェイト”は今まさに、下層にて竜の騎士と戦っているはずだからだ。
「消えてもらうよ」
「なっ!?」
そう考えていると、『フェイト』は即座に攻撃をしてくるではないか。
ネギは接近してくる『フェイト』を見て驚きながら、即座に防御の姿勢を取る。
「一体どうしたんですか!?」
「君こそどうしたんだい? 『魔法世界を救う術を見つけた』のではなかったのか?」
「それはどういう……」
ネギは『フェイト』の近接攻撃を必死で防御しいなしながら、いったいどういう訳なのかと叫ぶように質問する。
その問いに『フェイト』は、むしろさらに怒りを見せるかのようにして、問いに対して吐き散らすかのように答える。
なんと『フェイト』が言うにはネギが”この世界を救うための方法を見つけた”らしいではないか。
が、ネギ自身にそんなことを思いついた記憶はない。何がなんだかわからず、謎が深まるばかりだった。
「でまかせだったと今更言うつもりか? ……やはり失望しかないね」
「くっ!」
『フェイト』はそのネギの困惑した表情を見て、勝手に失望し始めさらに攻撃を加速させる。
その攻撃をなんとか防ぎながらも、『フェイト』の真意を読み取ろうと表情をうかがう。
「訳がわからへんが戦わんとやられるだけやぞ!」
「でも!」
「でもやないで!」
ネギが『フェイト』の猛攻に耐えかねて距離を取ったところで、小太郎が戦うべきだと大きく叫んだ。
されど、ネギは『フェイト』が味方であることを考えて迷った様子を見せる。
そこへ小太郎は、さらに声を荒げて言葉を続けた。
「洗脳か、何かかはわからへんがここは戦う場面や!」
「……そうだね」
小太郎とてこの状況が理解できないのは同じだ。
だが、このままではこちらがやられる。何が何だかわからないがとにかく、攻撃してくる『フェイト』を倒すしかない。
なぜなら、自分たちは魔法世界消滅を阻止するためにやってきたのだから。
このまま何もせずに負けるなんて許されないのだから。
故に、ネギも小太郎の発破でやる気を出した。
わからないが今は戦う場面だ。目の前のフェイトを倒さねばならぬのだ。
そう考えたネギは、フェイトから距離を取り小太郎の横へと並び立つ。
「やろう! コタローくん!!」
「おう!!!」
そして、ネギは術具融合、完成された最果ての光壁を杖を媒介に作り出し、戦闘準備を完了させながら小太郎へと強気の合図を送る。
小太郎もネギの言葉に、『フェイト』を睨みながら元気よく応じた。
「なんだい? 顔を見るや戦う気になると思ってたんだが、今更かい?」
そんな二人を『フェイト』は涼しい顔で、しかし内面を怒りに満たしながら挑発的な言葉を述べる。
それ以外にも、ネギが謎の武装をしているのが、少し引っかかった。
が、新しい魔法か何かだと思考し、どうでもよいかと投げ捨てた。
「しかも彼と二人がかりとは、どういう風の吹き回しか」
また、ネギが小太郎とタッグを組んで挑んでくるというのに、『フェイト』は妙な気分を感じたのである。
「やっぱなんか変やないか、アイツ」
「うん、何かある」
今の『フェイト』の言葉に、やはりおかしいと小太郎は感じた。
ネギも同じ考えだったため、小太郎の言葉に目の前の『フェイト』には謎めいたものが存在していると確信した。
「来ないのならこちらから行くよ」
作戦を練っている様子の二人が未だ動かないのを見た『フェイト』は、やはり先手は自分が打つかと考え、再び動き出したのだ。
ネギと小太郎は迫りくる『フェイト』を睨みながら、迎え撃つ構えで応戦したのであった。
…… …… ……
一方、真名とビリーは墓守り人の宮殿の底を抜け、外の空中で白熱した戦闘を繰り広げていた。
「……魔弾の射手ってのは依頼を全てこなしてきた奴の過信だ」
ビリーは真名に対して、ぽつりと自分が感じた評価をこぼす。
「お前のことだよ相棒」
「それはどうも、と言っておこうか」
そう、その称号こそお前にふさわしいと、そう言わんばかりに。
真名はビリーの冗談めいた今の台詞に対して、特に気にした様子もなく、皮肉めいた感謝を述べる。
「ここから
ビリーは真名の言葉を無視し、さらに自分の言葉を続ける。
それこそ過去
民族同士の紛争、差別、その他もろもろ。すべて旧世界の人々が持ち込み、やらかしたことばかりだ。
「全てを終わらせる。そのための”
「だからと言って、消し去っていいと言えるほど、小さいものではないだろう?」
だからこそ、それをすべて救うために”完全なる世界”が必要なのだとビリーは語る。
救うためにこの世界を消し去るのだと。
されど、真名はその言葉に再び問いを出す。
この世界はもはや生きているものだ。それを今さら消してしまってよいものではないはずだと。
「大きいからこそ、そうせざるを得ない」
だが、ビリーは故の行動だと言い出した。
そうだ、大きすぎるがためにすべてを救い出すことなどかなわない。
であれば、すべてを救うためにそうせざるを得ないのだと。
そんなやり取りをしながらも、二人は幾度となく衝突する。
真名がライフルで放った弾丸が空中で炸裂して黒い渦となる。
それをたやすく避けながら、気の塊を拳で放出して反撃をするビリー。
だが、真名もそれを回避し、何度もビリーへと狙いを定めて引き金を引くのだ。
「この世界でさえ、争いが起こり不幸が蔓延している」
魔法で作り出されたこの世界すらも、あちこちで紛争が絶えない。
最初に何を考えて、どういう意図でこの魔法世界を
ただ、もはや止められぬ流れになってしまっているのならば、止めるために消すしかないとビリーも思ったのである。
「だからこそ、消えてしまったほうがよい」
故に、その決意に濁りはない。
ひたすらにこの世界の”救済”を願っての行為であると。
「傲慢だな」
「そうだな、俺は傲慢だ」
だが、それを一言でいえば傲慢だ、と真名は言う。
まさに神にでもなったつもりだというのだろうか。
されど、ビリーもそれは理解している。
自分の考えがどれだけ傲慢であるかを。
「理解していてなお、やり遂げると言うわけか」
「それしか方法がないからだ」
それでも、そこまで苦悩してでもやるというのか、と真名はビリーへと問う。
ビリーはそれに対して、それしかない、と表情を少し歪ませて答えた。
「争いのない世界にする方法が、か?」
「そうだ」
何がそれしかないのか、それは争いをなくすことだろう。
真名が再びそれを聞けば、ビリーは即座に一言で返す。
「俺もお前もこうして争っている。それはどうしようもないことだ」
「ああ、どうしようもないな」
人と争いは切り離すことのできないものだ。
人と他人では考えが違うから、その摩擦で争いがおこるから。
だからこそ、こうして一度は志を同じくした従者同士、戦っているのだからどうしようもないものだ。
ビリーはそれを苦笑しながら述べれば、真名も同じく苦笑して吐き捨てる。
「だからこそ、全てのものが争いをせず、幸福となるためには完全なる世界が必要だ」
「なるほどな」
そうまでしても争いが起こるのだから、それを全てなくして幸福だけが存在する”完全なる世界”へ倒錯するのは必然だった。
真名もビリーの言葉に、多少納得がいったという様子を見せる。
「だが、それは間違っていると私は思うがね」
「何?」
されど、それでも、真名はそれはやはりおかしいと、ビリーの目を睨みながら言葉にする。
ビリーは真名が今ので納得したと思ったが、そうでなかったことに多少驚きを感じたようだ。
「確かに一番楽な方法なんだろう。だが、そのやり方では滅びとなんら変わらない」
たとえそれが救済となろうとも、楽な消滅などという方法に流されるだけならば、それはもはや滅亡だ。
「無くして終わりでは、何のために存在したのかわからなくなるだろう?」
「だが、争いは終わる」
不幸になったからって消し去るのであれば、それらが存在した意味は果たしてあったことになるのだろうか?
そう真名が質問すると、ビリーは苦虫を噛んだような顔でそう答える。
「争いも、だろう? この世界の全て、不幸も小さな幸福も、生きてきた証さえも終わってしまうじゃないか」
「……相棒がそんなことを言うとはな」
そのビリーの答えに真名は、それではやはり意味が証明できないと述べる。
彼らは魔法でできているが、それでも生きている。感情があり、生活している。
それを簡単に消し去ってしまうのならば、彼らが生きてきたことさえも無価値にしてしまうではないか。
真名のその言葉に、ビリーは思うことがあったのか数秒間黙っていた。
そして、その後返す言葉が思いつかなかったのか、らしくないと言い放つ。
「らしくない、と言われればそうだな」
「ああ、らしくない」
そう言われた真名は、ふっと笑いながら確かにとごちる。
ビリーはそれを復唱し、同じように小さく笑った。
「だったら、傲慢な俺を止めてみろ。もう一度正面から来い!」
ならば、そう言うのであれば、自分の野望を止めて見せろ。
ビリーはそう言葉にすると、先ほど以上の気を放出させてさらにスピードを増していく。
「来いよ相棒ッ! 撃ってこいッ!」
「……言われるまでもない!」
自分を倒して止めるならば、本気で撃て。
ビリーはそう言い放った。何故なら、お互い未だに本当の全力ではなかったから。
やはり昔のよしみともあり、どこかで無意識のうちにセーブしてしまっていたのだろう。
だが、それはもう終わりだ。
ここからが本番だ。互いに死力を尽くし、どちらかが敗北するまで衝突するのみだ。
ビリーの言葉に真名も、さらなる魔力を放出してライフルを構える。
そして、二人は苛烈極まる一騎打ちを、さらに加速させるのであった。
…… …… ……
また、カギも未だに黄金の鎧の男との戦いを続けていた。
「このクソヤロー!!」
「所詮は雑種よなあ、口汚い罵倒しか叫べぬか」
カギは黄金の男へと槍を振り払うが、黄金の男はそれを後ろへ一歩下がって回避して見せる。
それに対してカギはイライラした様子で黄金の男へと罵倒を浴びせるが、黄金の男はいたって余裕の表情だ。
「ふざけた野郎だぜ……! 英雄王の真似事かよ!!」
「はっ! だったらどうだと言うのだ?」
しかし、カギが最もイライラしている部分、それは黄金の男の態度であった。
何せ黄金の男の言動は、まさに特典の元であろう
そのことをカギは黄金の男に言い放てば、黄金の男はこともあろうに悪びれた様子もなく、その通りだとはっきり断言したのである。
「マジかよ!? 嘘だろ!? 超痛えぇぇー! 自分にも大ダメージ!!」
まさか、まさかの発言。
カギは黄金の男の言葉にかなりショックを受けた。
全身くまなく千の雷を千発ぐらい受けたかのような、強烈な衝撃だった。
いや、まさか本当にあの英雄王のエミュしてるとは、カギも夢にも思わなかったのだ。
そして、それは自分も昔ちょっとやったことを思い出し、体の急所に雷の槍が串刺しになるぐらいのダメージを精神的に受けていた。
「所詮雑種の考えよ。
「はあ―――!? 痛すぎんだろ!? イカレてんのかこいつはあぁー!?」
だが、黄金の男はそれに続いて堂々と、言い訳めいたことを言い出した。
否、本人は心の奥底からそう思っているので、言い訳ではなく宣言なのだ。
そう、黄金の男は英雄王の能力を得て転生したのであれば、それはすなわち自分が英雄王になったのだと本気で信じていたのである。
カギはその言葉に意味が分からんという様子で叫び、完全に狂ってると驚きながらもあきれ果てた。
「なんとでもほざくがよい! 所詮雑種は負け犬なのだからな!!」
「ちぃ! 痛い癖にクソみてぇに戦いなれてやがんよこいつ!!」
そんなカギの前に、それでも堂々とした態度の黄金の男は、そんなことなどどうでもよいと握っていた剣を振りおろす。
カギも黄金の男の心境がイカれたものだと思いながら、その攻撃を握っていた槍で防ぎつつも、黄金の男の剣の強さに悪態をつく。
「フハハハハハッ!! 先ほどの威勢はどこへやった? 雑種よぉ!!」
「ちっ! ちくしょー! ふざけやがってーっ!!」
さらに黄金の男は剣を何度も何度もカギへと振り払い、その速度を加速させていく。
とてつもない黄金の男の猛攻に、カギは槍で剣を防御やいなすだけで、攻撃へ転じることができずにいた。
(しかし、目の前の英雄王もどきはクソヤローだがかなり強えぇ……)
はっきり言いたくないが、この黄金の男はなんだかんだ言って強い。
流石は英雄王となったと自称するだけあるものだ。カギは黄金の男の剣舞を防ぎながらそう考える。
(こっちは実戦経験あんま積んでねぇけど、あっちはかなり積んでる感じだ……)
それに黄金の男は、かなり戦いなれているというのも感じた。
ただこの場所で踏ん反りがえっていた訳ではないことを、今の攻防で嫌でも実感させられた。
さらに、カギ自身はあまり戦いなれているという訳ではない。
修行で何度も模擬戦やらはやってきたが、こういった実戦の経験があまりなかった。
(だけど、こっちゃ我武者羅に修行してきたんだ! 負けるわけにはいかねぇよなぁ!)
とは考えるものの、カギとてただ何もせずぐーたら生きてきた訳ではない。
エヴァンジェリンに苦行程の修行を、何度も何度も受けてきたのだ。
その修行は無駄ではない。今この時点でかなり生きている。
ならば、その修行をしてきた日々を信じ、目の前の黄金の男にその全てをたたきつけるのみだ。
「行くぜクソヤロー!」
「はっ、勢いだけの愚者程度に何ができる?」
目の前のいけ好かないすました顔の黄金の男を、ぶちのめすには何をすればいいのか。
答えは簡単だ。前進あるのみ。攻撃あるのみだ。
カギはそう考えた瞬間、石畳の床を蹴り全身を魔力強化し、魔法の戦いの旋律でさらに上乗せし、即座に黄金の男の前へと飛び出して握った槍を突き出す。
だが、その程度の攻撃など黄金の男には届かない。
黄金の男は握っていた剣でカギの槍をはじき、その場から数メートルほど後退し、カギを煽る。
「こうすんだよ!」
「
黄金の男に距離を取られたのを、むしろ好都合と言う様子で笑ったカギは、次の瞬間背後の空間から、大量の武器を呼び寄せた。
それこそ
その内部に保管された無数の宝具である武器を、黄金の男めがけて発射したのだ。
が、黄金の男はその程度のことなど予想済みだ。
黄金の男がそれをしないのは、当然防がれるからだ。大切な宝具を無駄弾にするのがもったいなかったからだ。
なんとまあワンパターンな行動なんだと黄金の男はカギを見下し馬鹿にしながら、握った剣に力を入れて迫りくる宝具をはじき、または回避して見せた。
「あたらんなぁ!」
「別にいいんだよ!」
本当に取るに足らないつまらん攻撃だと、黄金の男は考える。
所詮は愚物、雑種のやることだとカギを内心こき下ろしながら、カギの今の攻撃を全部回避して見せた。
しかし、カギは黄金の男がそれを全部避けることなど想定内だ。
当たったらラッキー程度の攻撃に、そこまで期待などしていなかった。
「っ! これは!」
「テメェの動きを制限できりゃそれで上等だったんだよ!」
何故なら、今のカギの攻撃はけん制だからだ。次につなぐための前準備でしかないからだ。
黄金の男はカギの言葉を聞いてふと周囲を見渡せば、自分がカギのばらまいた宝具に囲まれていることに気が付いた。
これでは動きが制限されてしまう。それを察して黄金の男は驚きの顔を見せたのである。
カギもこれでよし、と笑うかのように声を出す。
そして、今の攻撃で取り出した剣の横に、今握っていた槍を地面に突き刺して、攻撃中に詠唱していた魔法を完成させる。
「んでもって、”雷神槍斧”! ”爆熱陽剣”!」
「なに……? それは……?」
その魔法、”千の雷”と”奈落の業火”を掌握、さらに千の雷を槍へ、奈落の業火を剣へと融合させる。
これぞ
カギはその名を高らかに宣言すると、ニヤリと笑って黄金の男を見た。
雷の光を輝かせるハルバードの形となった術具融合、雷神槍斧を右手に取り。
灼熱の炎が揺らめくバスターソードの形となった術具融合、爆熱陽剣を左手に取る。
黄金の男はそれらを見て、なんだそれはとおののく。
この魔法は”原作”にはない魔法だ。いや、”魔装兵具”などと言った似たようなものならあるが、それ自体は存在しない。
故に、黄金の男は理解できずに驚くのだ。その魔法は一体なんなのかと。
「オラオラオラオラァァァッッ!!」
「ぐうっ!? 雑種風情がぁ!」
されど、カギはそんな問いに律義に答えてるような男ではない。
黄金の男の口が閉じる前に、カギは即座に攻撃へと転じ、すでに黄金の男と肉薄していたのだ。
黄金の男は握っていた剣でカギの攻撃を受け止めるが、先ほど以上のパワーに圧倒され、たまらず苦悶の声を漏らす。
「宝具の性能は同等、ならばこっちがブーストして性能あげりゃ有利になるってもんよ!」
「ナメるな雑種!!」
黄金の男と自分の宝具は同じもの、とカギは結論づけた。
また、同じもの同士がぶつかってもイーブンになるのは当然だ。
それを上回ることが可能なのは、技術面で上回ること。
ただ、それは簡単ではない。黄金の男もかなりの腕っぷしだ。
ならば、別の方法で上回ればよい。
その方法こそが、宝具への術具融合。
これによって宝具を自身の魔力で強化され、黄金の男の宝具を上回ることができたのだ。
カギは武器性能を相手より上回らせることにより、黄金の男に対して有利をとった。
黄金の男はカギの調子こいた声での説明に、いら立ちを覚えて剣を幾度となく振るうも、カギの”爆熱陽剣”に防がれてはじかれる。
「ぐっ!?」
「ばらまかれた宝具のせいで動きづれぇだろ?」
さらに黄金の男は後ろへと後退りすれば、その背後にはカギがばらまいた宝具の剣が地面に突き刺さっているではないか。
これによって黄金の男はそれ以上下がれず、カギの鋭利な突きをかわし切れず、剣で防御しなくてはならなくなった。
「調子に……、のるなぁ!」
「っ!」
「くたばれ雑種ッ!」
されど黄金の男とてやられっぱなしと言う訳ではない。
黄金の男にもプライドはある。このままいいようにやられて敗北など許せるはずがないのだ。
カギが爆熱陽剣を大きく振りかぶったその瞬間に、黄金の男は反撃とばかりに剣をカギの心臓めがけて突く。
その攻撃をカギは横へとそれてかわした時、黄金の男は一瞬でカギから距離を取り、
「”天雷螺旋剣”!」
「なっ!?」
だが、カギはそこで右手の槍を捨てると、
そして、その名を述べながら右手にそれを握り締めれば、黄金の男が射出した無数の宝具をはじき返して吹きとばしたのだ。
その光景を見た黄金の男は、たまらず声を出して驚愕の表情を見せる。
「”雷風螺旋撃”っ!!」
「ぐうおおお!?」
さらにカギは、天雷螺旋剣を黄金の男へと突き出し、その技の名を叫べば、たちまち稲妻の竜巻が黄金の男を襲ったのだ。その稲妻の竜巻、まさに荒れ狂う台風のごとき圧倒的回転力。
黄金の男もこのすさまじい嵐の攻撃にはたまらず叫び声をあげ、数十メートル吹き飛ばされて石畳を数回ほど転がった。
「どうだ! 驚いたか!」
「雑種ごときが……、この
カギは今の黄金の男を見て、ガッツポーズをしてドヤ顔で煽る。
それを離れた場所で見上げながら、両手を地面についてゆっくりと立ち上がり、悔しがる黄金の男。
もはや許さん。絶対に許さん。そう脳内で騒ぎ立てながら、怒りに満ちた表情でカギを睨みつける。
「この場で滅してくれるわッ!!」
「やーってみろよぉ!」
先ほどまで遊んでいたが、もう茶番は終わりだ。
黄金の男は完全にキレた様子でカギへとまくしたてるが、カギは余裕の態度でさらに煽る。
「
「なっ!? なにぃ!?」
ならばと、黄金の男は右腕をカギへと掲げれば、背後に出現した
カギはしまったと思った時にはすでに遅かった。
完全に両手両足を全て鎖に絡まれ、身動き一つとれない状態にされてしまったのである。
「はっ! これで動けまい!」
「ちっ! チクショー! 卑怯だぜ!!!」
動きを封じたカギを見ながら、溜飲が下がった様子でせせら笑う黄金の男。
カギも油断していたとばかりに後悔しつつ、この状況がちょっとやばいと思い焦りの声で叫んでいた。
「では……」
「お……、おい待てそれは……!?」
そして、黄金の男は前準備は済んだと言う様子で、別のものを
それは一つの鍵のようなものだった。それを開放すれば、空間から亀裂が発生し、何かの鍵が解けたのが感じられた。
その後、黄金の男の右腕の傍に
カギはそれを見てたまらず戦慄した。
何故なら、カギもそれをよく知っているからだ。それが何なのかをよく理解しているからだ。
「そうだ、これこそが唯一英雄王が持つ最高にして至高の宝具……乖離剣エアよ!」
それこそ、かの英雄王だけが保有する唯一無二の宝具、
これを解き放つということは、黄金の男は最大の切り札をこの場で切るということ。
すなわち、本気でカギをこの世から抹消しようと言うのだ。
「
「や、やめろ! やめろーッ!!!」
黄金の男は笑いながら、
すると、乖離剣の三つの節に分かれた刃がゆっくりと回転し始める。
カギはそれを見てこれは本当にマズイと焦り始めた。
何せその宝具は”対界宝具”と呼ばれるものに分類される存在だからだ。
それを意味することとは、この魔法世界が崩壊しかねない威力が出るということだ。
カギは自分が死ぬ以上に、それが気になった。
あの乖離剣が放つ最大最高の宝具
何故なら、この魔法世界はその名の通り、
そこに”そういった世界”を破壊するほどの威力が出る対界宝具である、
少なくとも影響は確実に出るだろう。
いや、最悪この世界を破壊し、消滅させる恐れすらあるのだ。
それほどの空間断裂を発生させ、世界そのものを破壊することができるのが
それがカギにとって一番恐れることであり、だからこそ必死にやめろと叫び続ける。
当然、目の前の黄金の男がそれを使うことを、最も警戒していたのだ。
「
「やめろォォォォッ!!!」
だが、そんなカギの声など無視し、黄金の男は判決を読み上げるかのように、その宝具の真名を開放し始める。
黄金の男は、単純にカギが命乞いをしているようにしか見えないのである。
故に、表情は愉快に嗤っていた。
カギはそれでもやけくそに叫び続けた。
それを使えば魔法世界が滅びるやもしれないからだ。
「
されど、黄金の男は止まらず、ゆっくりと乖離剣を腰深く下げ、今すぐにでも突き出すような動きをとったが。
その時である。
カギを縛っているものと同じ鎖が、突如として黄金の男を囲むように出現し、その四肢へと絡まり縛り上げたのだ。
「……忘れてんじゃねぇよ、こっちもあんだよ。
「おっ……、おのれぇ……!」
それはカギが使った”
当然、黄金の男と似た特典を持つカギも、この宝具を保有していた。
それによって完全に黄金の男の動きは封じられ、
黄金の男は顔を真っ赤にしそうなほどの表情で、低い音程の悔しそうな声を出す。
だが、カギとて目の前の黄金の男が、自分も
「オラよ!」
「なっ!? 馬鹿な!?
そんでもって、カギは体に力を籠め、黄金の男の
黄金の男はそれをそんなことができるわけがないと言う顔で、驚きの声を漏らした。
「俺は別に”英雄王の能力”をもらった訳じゃねぇから”神性”ってのがねぇのよ。この意味がわかるよなあ?」
「……貴様アァッ!!」
また、この
カギは
よって、”神性”などはなく、
されど、黄金の男は違う。
黄金の男は英雄王ギルガメッシュの能力をそのまま特典として貰った存在。
すなわちギルガメッシュが持つスキルの一つである、”神性”までもを習得していたのだ。
だからこそ、黄金の男は未だに
心底悔しそうな声をカギへと叫びながら、どうにかしようとしているが、完全に締め上げられてしまっていて動けない。
「だがまぁ、おかげで
ただ、カギにもその特典上のデメリットが存在した。
それこそ
英雄王は数多くの宝具を保有していたが、保有するだけで真名開放はできなかった。
つまり、
カギはその事実に気が付き、ひたすら頭を悩ましたが、まあ数多くの宝具があれば別に問題ないと切り替えたようだ。
「まっ、別にテメェを今からぶちのめすのに、そんなもんはいらねぇけどなぁ!」
「なぁ!?」
が、別に目の前の黄金の男を倒すのに、そんなものを使う必要はない。
そうカギが言い放てば、カギの背中から無数の宝具が空間から刃を覗かせた。
黄金の男は身動き取れず、その宝具の群れをただただ驚きの眼で眺め、驚愕の声を漏らすしかできなかった。
「神を殺す宝具はまだまだあるぜぇッ!! 全部たーんと味わってくれよなぁッ!!」
「お……おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇッッ!!!」
そして、カギは黄金の男へと言葉を投げ、先ほど上げていた右手をそっと下せば、大量の宝具が射出されて黄金の男へと迫ったのだ。
その黄金の男を倒すべく選ばれた宝具の山は、神を殺すための効果を持つものばかりだ。
当然それを、
そんな光景を見せられた黄金の男は、ただただ迫りくる宝具を眺めながら、悔しさと絶望を口から呪詛を吐くように叫ぶ。
「ガハァァアァァァッ……」
「ざまーみやがれ英雄王もどき様っ!」
カギが放った宝具は、黄金の男の急所を避けて突き刺さる。
両手両足、肩やわき腹などに数本もの槍や剣などが突き刺さり、突き刺さった部分からはおびただしい血液が流れ出た。
黄金の男はそれらの苦痛に悶え、血とともにうめき声をあげた後に、意識を手放して力なく体を鎖に預けたのだった。
カギとてこんなやつでも殺す気はなかったらしい。
とはいえ、これだけ串刺しにされれば、出血で死ぬやもしれんのだが。
その後カギは気を失った黄金の男へと勝利の言葉を叫び、使った宝具をパチンと指を鳴らして回収。
「……さて、ネギたちのサポートに行くかぁ」
その黄金の男の状態を確認したカギは、ならばネギたちに助太刀すべきと考え、走り出したのだった。