理想郷の皇帝とその仲間たち   作:海豹のごま

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百七十話 嵐の中へ

 話し合いも終わり、そろそろ敵陣へと乗り込む算段となった。

 

 

「では……、そろそろ行きますか」

 

「だね!」

 

 

 ネギはそれをこの船の操縦者であり持ち主でもあるハルナへと告げ、ハルナも出発の準備はできていると言う様子で舵を取り始めた。

 

 

「――――! 誰だ!?」

 

 

 そんな時、魔法球から出て飛行船の甲板にて周囲を警戒していたアルスが、ふと気配を察知した。

アルスが察知して向けた視界の先には、浮遊する岩の天辺で腕を組む男の姿があった。

 

 

「ようやくここまで来たか、雑種どもよ」

 

「あの時の金色ってか!」

 

 

 その男は黄金の鎧を身にまとった、金ぴかの男だった。

それは新オスティアにて強力な武器をまき散らして攻撃してきた男だと、ラカンも気が付いたようだった。

 

 

「ほう、生きていたのか」

 

「おあいにく様、死神も暇ではなかったようでね。私のような存在には目もくれなかったようだ」

 

「ハッ! 死にかけの分際で粋がるな」

 

 

 だが、金ぴかの男はラカンの言葉よりも、この場に何故かいるアーチャーとやらが気になった。

あいつはこの前、自分が背後から剣で串刺しにしてやった。あの傷では死んだと思っていたが、そうではなかったことに、少しだけ興味を覚えたようだ。

 

 それを聞いたアーチャーは、赤い弓兵(アーチャー)っぽい言い回しで皮肉っぽく金ぴかを煽る。

 

 されど、そんなつまらない煽りに乗るほど金ぴかもバカではない。

むしろ、たかが()()()ごときが、何を格好つけてそんなこと言ってるんだと、自分を棚に上げて笑うのをこらえながら、調子に乗るなと煽り返したのだ。

 

 

「しびれを切らせて直接倒しに来たって訳か!?」

 

「そういきり立つな。(オレ)手ずから相手にしに来た訳ではない」

 

「なんだと!?」

 

 

 そこへアルスが金ぴかへと戦闘の姿勢を見せたまま質問すれば、金ぴかはそれすらも嘲笑い、NOと言ってきた。

 

 自分が手を汚しにきた訳ではない。

そう言われたアルスは、では何をしに来たと疑問を感じながら、何が起こるかわからんと周囲を警戒し始めた。

 

 

「そう、(オレ)が相手をする訳ではなく、こいつらが相手をするのだからなぁーっ!」

 

造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)!?」

 

 

 金ぴかの意図は、自分ではなく召喚魔に攻撃させるために、ここへ来たと言うものだった。

そして、金ぴかは王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から、造物主の掟(コード・オブ・ザ・ライフメイカー)を取り出せば、背後に無数の魔法陣が展開されたのだ。

 

 

「では、存分に楽しむがよい! フハハハハハッ!!」

 

 

 さらに、魔法陣からは大量の召喚魔が続々と魔法陣から顔を出し始め、このままでは大群に襲われることは確実だ。

金ぴかはこの状況に笑いながら、浮遊する岩の背後に隠してあったヴィマーナへと乗り込み、さっさと飛び去って行ったのである。

 

 

「これはマズイ! 今すぐ発進を!」

 

「えっ!? わっ、わかった!!」

 

 

 大量に召喚された召喚魔を見た刹那も、このままでは襲われると考えハルナに飛空艇を出すように指示を出す。

ハルナも急に言われて困惑したが、言われた通り即座に飛空艇を発進、加速させたのだ。

 

 

「クソ! 野郎はもう姿をくらましたのか!」

 

「本当に邪魔しに来ただけって感じだぜ……」

 

 

 また、アルスは金ぴかがもうすでにこの場にいないのを確認し、してやられたと言う顔を見せていた。

直一も金ぴかが宣言通り、自分の手で攻撃しなかったことに安堵しながらも、これから大変だと思うのだった。

 

 

「オイオイオイ! すげー数の敵が追ってきてるんだがよー!」

 

「なあに、このぐれぇで驚きやしねぇよ!」

 

「僕も手伝いますよ……!」

 

 

 飛空艇は順調に加速し、敵陣目掛けて疾走する。

されど、背後からは湧きに湧いた大量の召喚魔が、飛空艇を追って迫ってきていた。

 

 追ってくる召喚魔の数に度気味を抜かれ、こりゃヤバイと焦り、弱気な声を上げ出す状助。

 

 しかし、こちらには強い味方が存在する。

その一人のラカンは、気にした様子を見せずに拳を連打して気を発射し、敵を撃退し始めた。

 

 それだけではない。

高畑もラカンに乗じて、無音拳をポケットから発射。

大量の敵をどんどん蹴散らし始めたのだ。

 

 

「すぅんげぇー……、流石だぜ……」

 

「流石元紅き翼ね……!」

 

 

 その思わずため息が出るような強さに、状助は感激を通り越して呆れていた。

なんだあの強さは。片方はバグってるけど片方は教師か? 同じ人類なのか? そう思えるほどであった。

 

 アスナも二人の戦いぶりを、見習いたいと思いながら見ていた。

武器なし、己の拳で放つ気の拳圧のみで、大量の召喚魔を吹き飛ばしている。

自分も同じ高みに上り詰めたいと、改めて強く思うのだった。

 

 

「うーむ、強い……」

 

「やっぱり一度手合わせしてほしいアル!」

 

 

 二人の戦いぶりを見た楓と古菲は、闘志に火が付いたようだ。

とてつもない拳の破壊力。それを目の当たりにした二人は、彼らと戦ってみたいと思いながら、飛空艇の防衛にまわるのであった。

 

 

「余裕こいてるけどよー! 敵の数減ってねえんじゃあねえのかあ!?」

 

「こっちの戦力を考えて敵の量を増やしてんだろうな!」

 

 

 されど、敵の数が一向に減る気配がない。

状助はこの状況に焦燥感に駆られ、冷や汗を流して叫んでいた。

 

 アルスもこの状況を考えて、敵は戦力を”原作以上”に増量しているのだろうと言葉にした。

何せこちらの戦力も”原作以上”になっているのだから、敵の対応が変わるのも当然というものだからだ。

 

 

「私たちもやるわよ!」

 

「そうですね」

 

「はいな!」

 

 

 この状況に見かねたアスナは、自分たちも戦おうと召喚魔へと攻撃を始めた。

アスナの号令とともに、刹那と木乃香も乗り出す。

 

 さらに楓や古菲や裕奈、ネギや小太郎とそれ以外のものたちも、敵を減らし飛空艇を守るために戦闘を開始。

召喚魔の大群に囲まれながらも、飛空艇への接近を許さなかった。

 

 

「っと! 出遅れちゃいけねぇなっ! オラよォッ!」

 

 

 だが、そこでひと際派手に暴れる大男の姿があった。

すでに普段の姿に戻り、白シャツ黒ズボンを着こなした金髪(ゴールデン)オカッパの、筋骨隆々なるゴールデンボディを持ったバーサーカー。

 

 なんとバーサーカーは()を使わず、自らの膂力と瞬発力だけで、空中を飛翔する召喚魔へと直接殴り込みに駆けたのだ。

他の仲間たちは遠距離攻撃や飛行しての戦闘だというのに、何たる無茶な行動ではないか。

 

 ――――されど、この程度のハンデなど、バーサーカーにとってはハンデたりえない。

 

 その巨大な鉞である黄金喰い(ゴールデンイーター)の一撃で召喚魔を朽ち果てさせれば、その屠った召喚魔を蹴り飛ばし、足場替わりにして次の召喚魔へと移動する。

これを幾度となく、しかも超高速で行うことで、大量の召喚魔を瞬く間に駆逐していく。

 

 これにはマスターである刹那も目を丸くして驚いた。

バーサーカーは空が飛べない上に、基本的に遠距離攻撃の手段がない。

それ故に、飛空艇に近寄る敵を倒すだけだと思っていたからだ。

 

 

「何なんだよあの無茶苦茶っぷりは……、敵でなくてよかったぜ全く……」

 

 

 また、驚いているのは刹那だけではない。

飛空艇を守備しつつ自慢のクロスボウで敵を撃ち抜く緑のアーチャー・ロビンも、同じように「引くわー」という顔を見せていた。

 

 ロビンもバーサーカーの攻撃範囲を考えて、守備に徹するとばかり思っていた。

しかし、いざ蓋を開けてみれば、なんと敵から敵へと飛び跳ねながら、直接敵を殲滅しはじめたではないか。

 

 これにはロビンも苦笑い。

そして、あんな無茶苦茶な戦いができるバーサーカーなんて、相手にたくねぇ、とも思ったのだった。

 

 

「障壁の入り口まではまだ?!」

 

「あとちょっと……!」

 

 

 とは言ったものの、この現状を打破できるような状況でもなかった。

敵を倒せど倒せど、続々とどこからともなく湧いてくる。まさに無限沸き状態だ。

このままずっと守備に徹していれば、いずれこちらが不利になるだろう。

 

 アスナはサッと飛空艇に降り立ち、ハルナへと一つの質問を叫ぶ。

それはこの飛空艇があとどのぐらいで障壁を突破できるか、というものだった。

あの障壁の入り口へと侵入してしまえば、流石の召喚魔も追ってこないだろうと考えたからだ。

 

 その問いにハルナは、もうすぐだと叫んで返した。

敵の妨害はかなり厳しいが、それでも被害はまったくない。

このまま突き進めば、問題なく障壁の入口へたどり着き、突入できると考えていた。

 

 

「って! この数どうするの――――っっ!!!??」

 

 

 だが、なんと飛空艇の左右から召喚魔の大群が現れ、行く手を阻みだしたのだ。

 

 何せ相手も転生者。当然こうなることを知っているものもいる。

その先手としてあの金ぴかが、先を行ってあらかじめ召喚しておいたのだ。

 

 

「うわっ! 多いってレベルじゃないよねアレ!?」

 

「もはや敵が多すぎて黒一色じゃあねーかっ!!!」

 

「とはいえ、ここで消耗しすぎると突入した後がつらい!」

 

 

 しかも、その数は先ほど以上。

大量の召喚魔によって、飛空艇の前方の視界がなくなるほどだったのだ。

 

 その敵の数に裕奈も流石に驚愕の声を出し、状助も"もうこりゃどうすりゃいいんだ"と言うような叫びをあげ、パニクりかけるほどだった。

 

 されど、目の前の召喚魔程度を相手に本気を出せば、この先で待ち受ける戦いで不利になる。

アルスもそれを考えて、ここで全力を出す訳にもいかんと、歯がゆい気持ちを感じていた。

 

 

「すんげーな! 無茶苦茶いやがるぜ!」

 

「本当に無茶苦茶だな……!」

 

 

 敵の大軍を目の前にした数多は、むしろ笑って叫んでいた。

この逆境こそが自分をさらに高みへ持ち上げてくれると思っているからだ。

 

 そんな数多の言葉に反応した直一は、言葉どおりに受け取り苦笑いを見せていた。

転生者が敵にいる時点で予想できたことだが、まさかこれ程の敵数を用意してくるのは予想外だった。

 

 されど良い方向に考えれば、転生者の連中がここぞとばかりに袋叩きにしてこなかったのが幸だろう。

直一はそう考えながら再び戦意を呼び起こし、迫り来る召喚魔の群に備えるのだった。

 

 

「これでどうかな? ”万象貫く黒杭の円環”ッ!」

 

「僕も……”雷の暴風”っ!!」

 

 

 そこへ敵の数を一つでも多く減らすために、フェイトが大量の杭を打ち出す魔法を唱える。

杭は螺旋状を描きながら、召喚魔へと一気に襲い掛かり、貫き滅ぼしていく。

 

 ネギも横から、すかさず雷を嵐のように放つ魔法を使う。

巨大な雷の竜巻が、召喚魔を大量に巻き込み、数多くの召喚魔を消滅させていった。

 

 

「こんだけやっても減らねぇぞ!?」

 

「ク……ッ! 私でもこの船の守備が精いっぱいと言ったところか……!」

 

「めんどくせぇったらありゃしねぇなこの数は!」

 

 

 されど、敵の数は減っているようには見えない。

いや、倒した数だけ減ってはいるが、それ以上に敵の数が多すぎるのだ。

 

 アルスは減らぬ敵に焦りを感じ、このままでは本当にまずいと考え始めていた。

裏切者のアーチャーも、白と黒の夫婦剣投げて弓を構えながらも、飛空艇の防衛に徹することしかできない様子であった。

 

 

「大型種まで追いついてきたぞ!」

 

「厄介だな!」

 

 

 さらに悪いことは続くものだ。

背後から追ってきた巨大な召喚魔が数体、ここに来て追い付いてきたのだ。

 

 それを大声で報告する直一と、この状況でか、と吐き捨てたくなる様子のアルス。

 

 戦いは数とは言うが、あまりにも敵が多すぎる。

その上倒しづらい大型の敵の登場。アルスは苦しい戦いになりそうだと考えていたその時だった。

なんと、それをあざ笑うかのようにして、大型の召喚魔が炎上、消滅したのである。

 

 

「厄介なもんは、さっさと払っちまうのが一番ってもんだぜ!」

 

「ああ、そのとおりだ!」

 

 

 召喚魔を炎上させたのは数多と焔だった。

数多は虚空瞬動にて大型種へと即座に接近し、炎を纏った拳の一撃を放ち、そのまま敵を燃やし尽くした。

焔は目から熱射砲(ブラスター)を放ち、そのまま大型召喚魔を焼き払ったのである。

 

 これで一つの危機は乗り越えたことになるが、まだ問題はすべて解決した訳ではない。

 

 

『そっちは大丈夫か』

 

「通信……!」

 

 

 と、そこへ突如として飛空艇内に通信が入り、画像が浮かび上がり発信者の顔を見せた。

発信元はガトウであり、こちらの状況を聞いてきたのだ。

 

 通信に気が付いたハルナであったが、操縦で忙しくて出れそうにない。

近くにいたのどかがそれを察して、画面前へと出て受け答えをし始めたのである。

 

 

『今我々もそちらに向かっているが、召喚魔の大群が押し寄せてきて、なかなか前に進めん!』

 

「そちらにも敵が……!?」

 

『こちらも艦隊の主砲と俺たちで何とかするが、そちらも自力で何とかやってくれ……!!』

 

 

 ガトウたちは艦隊を用意し、今こちらに向かっているという状況であった。

だが、そこへ召喚魔の大軍が目の前に現れ、中々前に進めない状況となってしまっていたのである。

 

 のどかは彼らのところへも召喚魔の妨害が発生したことに驚きながら、ガトウの通信を聞いていた。

そして、ガトウはこの状況を打破するには時間が必要と考え、援護はできないと述べた。

 

 

「あっちにも大量の召喚魔が襲ってきて、手一杯のようです……!」

 

「それじゃ、援護は期待できそうにねぇってか!」

 

「でしょうね……」

 

 

 その通信の内容を一緒に聞いていた夕映が、即座に外で戦っているものたちへと叫んで伝える。

それを聞いたラカンは、ガトウたちも自分たちへと助けを出せないと考え、高畑も同じ意見だと少し残念という気持ちで言葉にした。

 

 

「ふん、ならばこうすればいいだろう? ”えいえんのひょうが”!」

 

 

 しかし、忘れちゃいけないのがこのお方。

真祖の吸血鬼にて最高峰の魔法使い、エヴァンジェリン。

 

 すでに呪文を唱え終え、最後の言霊(ひとこと)をそっと唱えれば、目の前に映る全てを凍てつかせて見せたのだ。

それは目の前の召喚魔の大軍や、その周囲全ての空気すらもだ。

 

 

「そして……”おわるせかい”」

 

 

 さらに、最後の仕上げとばかりにもう一つの呪文を唱えて指を鳴らせば、凍てついた空間が音を立てて砕け散る。

これによって大量の召喚魔や、追いついてきた巨大な召喚魔ともども消滅し、残ったのは砕けた氷の破片が作り出す幻想的な風景だけであった。

 

 

「さっすが吸血鬼の真祖さま!!」

 

「……やはり馬鹿にされているのか……?」

 

 

 このすさまじい魔法にハルナも大感激でエヴァンジェリンを褒め称えて喜んだ。

大量の召喚魔が一瞬で蹴散らされたのだ。感激したくなるもんだ。

 

 が、その褒め方が悪いのか、逆にエヴァンジェリンはムッとした顔を見せるではないか。

実際本気で褒めているのだが、どうにもエヴァンジェリンには褒められた気がしなかったようだ。

 

 

「つっても! もうちょい減らして穴開けてほしいなー!」

 

「だったら……、私がやろうかしら!」

 

 

 されど、減ったところからまた増える召喚魔の大軍。

もう少しで大障壁の入り口なのだが、その入り口が見えた矢先に敵が増えて隠れてしまった。

 

 本当にもう少しだとハルナが叫ぶと、ならばと声を挙げるものが一人。

それはエヴァンジェリンの従者となった転生者、トリスだった。

 

 

「初めて使うけど、何とかなってほしいものね……!」

 

「何をする気だ?」

 

「見ていればわかるわ」

 

 

 トリスは特典に選んだ力は、Fate/EXTRA CCCのメルトリリスの能力だ。

その宝具こそ広範囲に大きく影響を与える効果があるのを、トリスは理解していた。

であれば、この時に使うべきだと判断したのだ。

 

 ただ、それを知らぬエヴァンジェリンは、急に名乗りを上げたトリスへとそれを聞く。

その問いに答えず、次にすぐわかるとトリスは自信満々の表情で答えていた。

 

 

「宝具、開帳……!!」

 

 

 次にトリスは全身から膨大な魔力を、まるで大海で荒くれる渦巻のごとく放出させ、ゆっくりと体制を整える。

 

 

「まとめて全部溶かしてあげる! ”弁財天(サラスヴァティー)……”」

 

 

 その宝具こそ弁財天五弦琵琶(サラスバティー・メルトアウト)

対界、対民衆宝具であり広範囲にわたって対象の肉体、精神、良識や道徳を全て溶かしつくして一まとめにし、飲み込む宝具。

 

 転生特典として能力が劣化し十全に力を発揮できてはいないが、広範囲の敵を溶かして消し去る程度は可能だと、トリスは考えていた。

とは言え、トリスもこの宝具を発動させるのは初めてで、どうなるかは本人すらわからない。

 

 されど、今使わなきゃいつ使うの? 今でしょ! と覚悟を決めて、トリスはこれを使うと決めた。

そして、タイミングを見計らってその宝具の真名を開帳し、敵の大軍へと目掛けて飛ぼうとしたその時!

 

 

「オラよオォッ!! ”ラカンインパクトオォ”ッッ!!!」

 

 

 急に巨大な一筋の光がトリスの横を通り過ぎ、目の前に存在した大量の召喚魔がその光に飲み込まれ消えていった。

 

 そんなことができるのはあの男しかいないだろう。

バグキャラのラカンだ。ラカンはハルナの言葉を聞いて瞬時に右拳に気を集中させ、大技をブッパして見せたのである。

 

 

「……は?」

 

「おしっ! でけぇ穴開けてやったぜ!」

 

「これで何とか行ける!!」

 

 

 トリスは召喚魔の大軍が一瞬で蒸発したのを見て、目をパチクリさせて呆気にとられていた。

そりゃ、大技決めようとしたら突然敵を奪われたら、そんな顔にもなろうというもの。

 

 そんな風にキョトンとするトリスの横で、ガッツポーズを決めながらしてやったりと言う笑みを見せるラカン。

 

 ハルナも敵がいなくなりゃ何でもいいという感じで、ニヤリと笑いながらラカンが作った敵の穴目掛け、飛空艇を突っ込ませていった。

 

 

「ちょ……ちょっと待ちなさいよっ!? 私の出番を急に奪わないでっ!!」

 

「別にいいじゃねえか。戦力の温存になる訳だしよ!」

 

「まっ……まあ、そうだけど……ぐぬぬ……」

 

 

 そこで我に返ってハッとしたトリスは、今自分の出番を奪ったラカンへと、プンプンと怒りだした。

されど、ラカンは謝罪も反省もせず、笑いながら気にすんなと言い訳するだけだ。

 

 ただまあ、ラカンの言うこともごもっとも。

ここで無駄な魔力を消費しなかったのは悪くないと、トリスも思ったのかそのまま悔しそうにしながら黙り込んでしまったのだった。

 

 

「よっしっ! 突入……って! 中ボス二体!!??」

 

「でけぇ!?」

 

 

 そこでようやく見えてきた、障壁の入り口となる巨大な穿孔。

ハルナは急いでそこへ飛空艇を向かわせたその時、左右から巨大な召喚魔が突如として迫ってきたのだ。

 

 その巨大さに驚く状助。

何せ怪獣ほどにもデカいのだから、驚くのも無理はない。

 

 

「そんなもん問題なんかねぇ! ”千の雷”ッ!!!」

 

「んでもって俺も”千の雷”ッッ!!!」

 

 

 されど、この程度の相手など()()()()()()()

アルスは転生者以外ならば別に気にすることなどないと言わんばかりに、無詠唱で千の雷を片方の敵へと放つ。

 

 さらに詠唱を終えたカギも、そこで千の雷を開放し、もう片方の敵を攻撃。

その二人の魔法の威力は段違いであり、巨大な召喚魔は何もできずにあっけなく黒焦げとなって消え去っていったのだった。

 

 

「いける! 今度こそ突入っ!!」

 

 

 今こそ好機と見なし、ハルナは即座に大障壁の穴へと飛空艇を突入させる。

 

 そここそ光り輝く障壁のドームの中央。

強烈な魔力(まりょく)が集中し、まさに台風の目のような巨大な穴が渦巻いていた。

魔力の渦へと引き込まれるかのように、飛空艇がその穴へと弧を描くように吸い寄せられていく。

 

 

「うわっく……なんて圧力!? 機体がバラバラなるわ!!」

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして、その収束されていく魔力の圧力が負担となって、飛空艇へと重くのしかかる。

その強い圧力によって、飛空艇が軋む音があちこちから発生し、かなりの無茶をしているのが一瞬でわかるほどだった。

ハルナは飛空艇に降り注ぐ圧力に焦り、機体が持つかどうかを叫んでいた。

 

 だがしかし、そんなことなど問題ないと言う男がいる。

それこそ状助だ。そうだ、彼にとっては機体が損傷しようが大した問題ではないのだ。

 

 

「”クレイジー・ダイヤモンド”!!」

 

「流石だな……」

 

 

 何故なら、彼はスタンド、クレイジー・ダイヤモンドが使えるからだ。

クレイジー・ダイヤモンドならば、部品さえあれば完全な修復が可能だからだ。

故に、この程度で焦る必要がない。故に、状助の気持ちを慌てさせる要素たりえない。

 

 状助はクレイジー・ダイヤモンドの右手を飛空艇の床に置き、その能力を発現させる。

外見上損傷が見られないものの、細かい負担でのダメージがどんどん修復されていく。

 

 それを見ていたアルスも、確かにこういう時こそ頼もしい力だと、改めて思うのだった。

 

 

「しかし、とんでもない濃度の魔力だ……。エーテルの海でも泳いでるみたいだぞ」

 

 

 分厚い魔力の層を渦巻くように突入していく飛空艇。

その甲板でエヴァンジェリンが、魔力の高い濃度に一人つぶやく。

 

 それもそのはず、この魔法世界全体の魔力が集中してきている場所がこの部分なのだ。

膨大な魔力が流れ込み、逃げ場を失いたまり場となっているのだから、高濃度の魔力溜りになるのは当然だ。

 

 

「抜けた!」

 

「あそこが空中王宮、そして……」

 

「あれが……!」

 

 

 そして、ようやく多重積層大障壁を抜け出せば、眼下にはオスティアが見えてきた。

さらに先にはゲートが存在する空中王宮があり、さらにその先こそが目指すべき目的の場所だ。

 

 アスナは久々の故郷だというのに懐かしさを感じる余裕も暇もなく、真剣な表情で空中王宮を見た後にその先にある宮殿を見た。

ネギもつられてそこを見れば、一つの宮殿が不気味に浮遊していた。

 

 

「墓守り人の宮殿っ!!」

 

 

 それこそラスボスのダンジョン。

巨大な円形の宮殿であり、古から続く遺跡。

その雰囲気は静けさを感じさせる程で、それ以外にも寂しさと切なさが漂っているようにも感じられた。

 

 

「ッ!!? ”衝撃のぉファーストブリッドオォ”ッ!!」

 

 

 だが、静かだったのは突入して接近するまでの間だけだ。

墓守り人の宮殿へと飛空艇を近づけさせれば、突如として空間が炸裂したのだ。

 

 しかし、その程度の被害でとどまったのは、すでに直一が行動を起こしていたからだ。

直一は攻撃が来るのを察知し、周囲に浮かんだ石を足で蹴り飛ばし、その攻撃を阻害したのである。

 

 

「うわっ!? 何!?」

 

「これは学園祭の時の!?」

 

 

 突然の攻撃に一瞬慌てた声を上げるハルナ。

 

 また、このエフェクトは過去に見たことがあるものだ。

それを裕奈が思い出して口に出せば、横から真名がその名を語った。

 

 

「ああ、間違いない……強制時間跳躍弾(B・C・T・L)だ」

 

「でも何で!?」

 

 

 そう、あれこそ学園祭にてスナイパーが使ってきた、強制的に時間を転移させる弾丸。強制時間跳躍弾、通称B・C・T・L。

再びこの場で拝めるとはと、冷静に真名は言葉にする。

 

 本来ならばそれなりの密度の魔力がなければ時間跳躍の効果は発動しないただの弾丸だ。

とは言え、魔法世界中から集められた高密度の魔力がここにはある。

 

 故に、その魔力の力によって発動し、時間跳躍をさせることが可能となっているのだ。

 

 とは言え、何故に今更あんなものがここで出てくるのか。

裕奈はそれがまったく結び付かないと言う様子で質問を投げた。

 

 

「この狙撃は野郎だ。スナイパーのジョン。あの野郎だ」

 

「なるほど。奴があちらさんに雇われたという訳か」

 

 

 その答えは簡単だ。

直一がそれを答える。そうだ、あれを使ってきたのはスナイパー。

かつてビフォアが金で雇ったスナイパーのジョンと言う男だ。

 

 

「明らかに俺を狙ってやがる。よほどあんときの続きがやりたいと見える」

 

 

 そして、ジョンのお目当ては直一のようだ。

何せ学園祭の時、不意打ちとは言えジョンを倒したのが直一だからだ。

ジョンのプライドに掛けて、直一は倒すべき相手なのだろう。

 

 直一もそれを悟ったのか、そのことを思い出して呟いていた。

 

 

「だったらやってやるってんだ! 行くぜッ!!」

 

「お、おい直一!?」

 

 

 そこまでしても再戦がお望みならば、望み通り相手をしてやる。

直一はそう言葉にした瞬間、飛空艇から飛び出して、近くの浮遊する岩へと飛び乗ったのだ。

 

 されど、急な直一の行動に、アルスは困惑を見せていた。

もしやこのまま一人で行動するのではあるまいな、と思ったが、思った時にはもう遅い。

 

 

「ハッハーッ!! 誰も俺の速さには追い付けないッ!!!」

 

 

 直一はアルター・ラディカルグッドスピードのかかとにあるピストンで急加速し、叫びながら岩場からさらに別の場所へと飛び出していった。

そのスピードはもはや目には見えぬものであり、アルスが声をかけようとした時には、もう姿がなかったのである。

 

 

「行っちまった……、って言ってる場合じゃねぇなこいつぁっ!?」

 

 

 アルスは直一が消えたであろう方向を眺めながらぼやいたその時、突如としてこちらに巨大な杭が大量に飛んできた。

直一がいなくなったことを愚痴ってる暇はなさそうだ、とアルスは焦りながらに即座に障壁を張る。

 

 すると杭が障壁に命中し、ガンガンと言う音が響く。

だが、その響く音は途切れることなく、何度も何度もガンガンと障壁へと無数の杭が叩きつけられる。

 

 

「上の方は迎撃兵器が大量に設置されている。危険だ」

 

「なるほど! だから真下って訳ね!」

 

 

 フェイトは即座にこの場所は危険だと説明し、作戦どおりの場所へと移動することを指示。

ハルナもこの状況を見て、何故宮殿の下層から侵入しなければならないのかを実感して理解し、即座に飛空艇を急降下させたのである。

 

 

「大丈夫です! 僕が守ります!」

 

「ついに完成したんか!」

 

「うん! やっと完全に完成したよ」

 

 

 とは言え、宮殿の防衛機能は休むことなく迎撃してくる。

そこへネギがこのままではマズイと思い、自ら完成した新たな魔法をついに解き放った。

 

 それこそ、新オスティアでアーチャーと名乗る男と戦った時に作り出した時は未完成だった術具融合。

その完成形が今ここに光を浴びたのだ。

 

 影や気で応戦していた小太郎も、ネギの新たな力を目の当たりにし、ふと笑って言葉をかけた。

だいぶ時間かかったなと。

 

 ネギも小太郎の言葉に対して、同じようにニッと笑いながら言葉を返す。

自分も長かった、イメージに時間がかかったと思いながら。完成を喜びながら。

 

 

「ほう。あれが彼の新しい力という訳か」

 

「テメェも関心してねぇで(ロー・アイアス)ぐらい用意しろ!」

 

「それは失礼した」

 

 

 また、あの時は敵として戦い、ネギの術具融合を見ていたアーチャーは、関心の声を漏らしていた。

が、そんなことをしている場合ではないと、アルスはアーチャーへと叱咤を叫ぶ。

 

 そりゃアーチャーも防御手段があるのだから、そう言われるのは当然。

アーチャーもそれを理解していたので、いつもの調子で謝礼すれば、すぐさま右手を掲げて熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を展開させた。

 

 

「不時着するよ!」

 

「ぶっ壊す勢いで行ってもいいぜ! 俺が何とかすっからよおッ!!」

 

「なんだかわからないけど頼もしいねぇ!」

 

 

 そこで、ようやく宮殿の下部へと降下した飛空艇の目の前に、ようやく入り口が見えてきた。

ハルナはこのままの勢いで入り口に突入すると宣言すれば、状助はそのまま行けと後押しする。

 

 何せ状助の能力はスタンド、クレイジー・ダイヤモンド。

自分以外ならば部品さえあれば修復してしまう能力。

飛空艇が入り口の床に叩きつけられようとも、直すことができるが故の自信ある言葉だった。

 

 とは言え、ハルナにはそれがわからないので、なんか状助が自信満々に言ってきた程度にしか感じないのだが。

それでも、彼の言葉には何故か納得できるものがあった。勇気が湧いてくる言葉だった。

 

 だからこそ、恐れもなく、ハルナはそのまま入り口へと飛空艇を滑らせた。

 

 

 宮殿最下層の入り口はかなり大きく、飛空艇が簡単に収まるほどの大きさだった。

その宮殿の床を粉砕し、強引に突入する飛空艇。

 

 すさまじい衝撃と振動が飛空艇とその乗員たちを襲った。

その衝撃たるやいなや、誰もが何かに必死にしがみつき、歯を食いしばる程だ。

 

 されど、すぐには飛空艇は停止などしない。

何秒? 何分経っただろうか? いや、実際は数秒と経ってはいない。

しかし、誰もがこの強引な不時着に、何分という時間を感じざるを得なかった。

 

 また、未だに勢いが殺しきれずに突き進む飛空艇。

ガリガリと言うすさまじい音とともに飛空艇は進行し、石でできた宮殿内の床をまき散らす。

 

 そして、百メートルほど床を抉った飛空艇は、ようやく停止して不時着を完了させた。

そこへ空で戦っていた者たちも、その近くへと降り立ち、飛空艇と中の仲間たちに気を配った。

 

 

「みんな、大丈夫ですか!?」

 

「いやあ、キツかったぜぇ~……」

 

「ただまあ、怪我した人はいないようだ」

 

 

 そこで最初に声を出したのはネギだった。

そのネギの声に、状助が頭に手を当てながら安堵の表情で答え、それに続いてアルスも全員が無事であることを伝えた。

 

 

「しっかし、ここがラスダンっスかあ」

 

「外とは打って変わって静かだな……嫌な感じだ」

 

「なめてんだろ? 悪の組織なんてそんなもんだ」

 

 

 状助は飛空艇のデッキの上へと上がり、宮殿内を見渡した。

そこには巨大で先が霧がかって見えないほどの長い廊下が続いていた。

 

 いやはや、ラストダンジョンと言われればそんな気分になる。

状助は自分の感想を率直に言葉にしていた。

 

 また、アルスは外とは違い中が不気味なまでに静まり返っていることに、むしろ不安を掻き立てられていた。

だが、二度目のラカンは20年前に言った言葉と同じ言葉をアルスへと送る。

 

 

「っ! 誰だ!」

 

「あれは……」

 

 

 が、ふと何者かの気配を感じ取ったアルスは、廊下の先へと顔を向け叫んだ。

そこでネギもそちらに目を向ければ、知った顔がそこにあったのだ。

 

 

「こんにちわ、ネギ先生」

 

「ザジ……さん……?」

 

 

 それは褐色の少女であった。

麻帆良学園の制服を着た少女であった。

その少女がネギの知り合いのような感覚で、彼に声をかけきた。

 

 そして、その声を聴いたネギは、ふと()()()()()()()()その少女の名を口に出す。

それこそネギの受け持つクラスの生徒の一人、ザジだったのだ。

 

 

…… …… ……

 

 

 一方、飛び出した直一はと言うと。

 

 

「トォアァーッ!!」

 

 

 飛び回る敵の弾丸を、浮遊する岩礁を利用して跳躍しながら回避していた。

 

 

「チクショウっ! 野郎の弾丸は空中で突然軌道が変わりやがる……ッ! どこから撃ってきてんのかがわからねぇ」

 

 

 だが、回避し続けるのにも限界がある。

このままではじり貧で、確実に押し負けるのは目に見えていた。

 

 されど、直一には敵の位置がわからない。

遠距離攻撃の方法を持たない直一にとって、この状況はあまりにも苦しい。

 

 

「どこだ……ッ! 野郎はどこにいやがる……!?」

 

 

 敵の弾丸は急に空中で軌道を変える。

それ故に、弾丸の発射ポイントを絞ることすら不可能だった。

 

 ただの弾丸の中継ポイントでしかないスタンド、マンハッタントランスファー。

これが複数に増えて空中に漂っているだけで、これほどまでに脅威になるとは誰も予想できないことだろう。

 

 そして、直一はスタンド使いではないので、その姿を見ることはできない。

だからこそ、なお一層敵の弾丸の流れを把握するのが難しくなっているのだ。

 

 

「チィッ! 流石に正確だな……」

 

 

 さらに、敵は直一の位置を確実に察知し、的を絞ってきている。

直一はこの状況をどうするか考え、額に冷や汗を流しながら、敵の攻撃を素直に褒めるのだった。

 

 

「……とてつもないスピードだ。これほどまでに罠を張り巡らせていると言うのに、まだ命中していない」

 

 

 されど、敵の方もまた、未だに直一に弾丸が命中しないことに、驚きを感じていた。

敵、すなわちスナイパーのジョン。

 

 彼は複数の弾丸を発射し、空中で軌道を変えることで時間差をなくす、あるいは増やすことで罠を展開していたのだ。

だというのに、未だにその蜘蛛の巣に蜂が引っかかる気配がない。

 

 これにはジョンも相手の技量と勘に舌打ちしたくなりそうになっていた。

 

 

「だが、今度は確実に当てるッ!」

 

 

 とは言え、有利なのは明らかにこちら側。

罠だけではなく、確実に狙いに行くことに決めたジョンは、スナイパーライフルを構えて再び弾丸を発射したのだ。

 

 

「この感覚……、きやがるか!」

 

 

 また、直一もジョンの攻撃を察知し、本命が飛んでくるのを理解した。

ならばと周囲を警戒し、どこにでも回避できるように構えたのだ。

 

 

「この程度……なっ!?」

 

 

 そして飛んできた一発の弾丸。

ただの一発の弾丸程度なら、と直一は考えたが、その考えは甘かった。

 

 

「ここで軌道が変わって……?」

 

 

 だが、ここでなんと弾丸は急に目の前で軌道を変えて、あらぬ方向へと飛んで行ったではないか。

 

 

「ちげぇ! こいつは罠だ! 本命は……うおおっ!?」

 

 

 直一はその軌道が変わった弾丸に一瞬気を取られた。

その一瞬にハッとした直一は、今の弾丸が罠であることを理解した。

 

 すると、直一の死角の方向から、もう一発の弾丸が飛んできたのだ。

しかし、その一瞬、気を取られた一瞬が直一を一手遅らせてしまったのである。

 

 そして、球形の黒い渦のエフェクトが発生し、その場から直一の姿が消えたのだった。

 

 

「……終わったか」

 

 

 スタンド、マンハッタントランスファーにて気流を読み、直一がこの場から消え去ったことを察したジョン。

これで決着がついたと小さくほくそ笑んだ、――――その次の瞬間だった。

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 ――――爆発だった。

ジョンが勝利を確信したその瞬間、突如としてジョンの目の前が爆発したのだ。

 

 

「ぐおおおおっ!?」

 

 

 爆発、と言っても火薬やらが爆発したのではない。

何か、質量ある物体が衝突して発生したものだ。

 

 その衝撃でジョンは転げながら後方へと飛ばされ、前のめりに倒れこんだ。

そして、倒れた後にすぐさま爆発の中心を見れば、灰色の煙の中に人影を発見したのだ。

 

 

「んったくよお。最初からこうすりゃよかったんだ。どうせ俺には、弾丸の軌道計算なんたらなんて、できないんだからよ」

 

 

 すると、そこから声が聞こえてきた。

聞いたことがある、あの男の声だ。

 

 ジョンはこの男の声を知っている。

このシチュエーションを知っている。この状況を知っている。

一度目ではないからだ。これが二度目だからだ。まさか、二度目があるとは思ってもみなかったからだ。

 

 そう、質量をもった何かとは、なんと直一だったのだ。

直一が弾丸のように、ジョンの目の前へと飛び込み、衝突の衝撃で爆発が起こったのだ。

 

 

「うう……、馬鹿な……」

 

「馬鹿なじゃねぇよ。俺は誰よりも速く走れる男だぜ?」

 

 

 馬鹿な。ジョンはぽろりとその言葉をこぼした。

いや、言わずにはいられなかった。あの時、確かに弾丸は直一に命中し、時間の先に消えたとばかり思っていたからだ。

 

 だが、そうはならなかった。

直一は弾丸が直撃する直前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし、直一にとってその行動など朝飯前だ。

何せ誰よりも速く走れるのだから。音よりも早く動けるのだから。

 

 

「何故……俺の居場所がわかった……?」

 

 

 ただ、ジョンの疑問は一つではなかった。

馬鹿な、に含まれていた意味は二つあった。

それは、この自分の位置をどうやって直一が把握し、飛び込んできたかであった。

 

 

「んなもん、俺にわかる訳ねぇだろ?」

 

「何っ!?」

 

 

 それをジョンが苦しそうに聞けば、直一はハッと鼻で笑いながら、わからなかったと一言で片づけたのである。

それにはジョンも意味が分からず、聞き返すので精一杯だった。

 

 

「だからテメェがいそうな場所に、片っ端から最速で突っ込んできた訳だ」

 

「で……でたらめな……」

 

 

 直一は自分の直感で、スナイパーたるジョンが潜んでそうな場所を片っ端から飛び込むつもりだった。

そう、運よく一発目に正解を引き当てただけであり、それ以外何もなかったのだ。

 

 ジョンは直一の答えに、呆れた顔をして見せた。

そんなアホみたいな作戦で戦局を一瞬でひっくり返されるなど、もはや悪い冗談でしかなかった。

 

 

「おっと! もうその弾は撃たせねぇ。が、お縄を頂戴って訳にもいかねぇか」

 

 

 されど、ジョンは諦めてはいない。

ゆっくりと懐から拳銃を引き抜こうと行動していた。

 

 それを察した直一は、瞬時にジョンを蹴り上げ、拳銃を弾き飛ばす。

そして、捕まえるのは難しいから、再起不能にでもなってもらおうと考えたその時だった。

 

 

「……ふっ」

 

「何を笑ってやが……、なんでお前がここに……!?」

 

 

 ジョンは背後に迫る人影をチラりと見て、小さく笑った。

直一もジョンの視線の方へと目をやれば、知った顔があったのだ。

 

 しかし、その顔はここにいるはずのないものの顔だった。

その疑問をぶつけようとした直後、突如として直一はそのものに攻撃を受けたのだった。

 

 

 


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