百六十七話 嵐の前に
ようやく敵の猛攻をかいくぐり、やってきたネギたち。
そこへのどかがいつもとは違う様子で、せかすようにネギを誘った。
「早速ですけど、これを見てください」
「これはのどかさんのアーティファクト……」
のどかは自分のアーティファクト、いどのえ日記に記された内容をネギに見せたのだ。
ネギは突然どうしたんだろうか、と思いつつも、ただ事ではないことを感じていた。
そこで、その内容を恐る恐る読めば、驚愕の事実が書かれていたのだ。
「――――こ、これは……!?」
その内容とは、デュナミスの思考を読み取った時のものだった。
そして、そこにはこの魔法世界がどういう存在なのかが記されていたのである。
魔法世界とは、すなわち
故に、
この事実に目を丸くするしかないネギ。
疑いたくなる真実ではあるが、敵の幹部の思考から読み取ったこの事実に、疑う余地がなかった。
「お? もしかしてこの世界の真実に、ついにたどり着いちまったか?」
「ほ、本当のことなんですか!?」
すると、ネギの背後にやってきたラカンが、いどのえ日記を覗き見しながら声をかけてきた。
そこでネギは、疑いたくなる気持ちと事実確認のために、この答えを近くまで来ていたガトウへと聞いたのだ。
「……ああ、本当のことだ」
「ま、別に俺にはどうでもいいことなんだけどよ」
ガトウは数秒沈黙した後、それが真実だと一言答えた。
この重い事実を、10歳の少年が知ってしまったと言うことに、思うところがあったようだ。
魔法世界が魔法でできていると言うことは、すなわち、ラカンも魔法でできた存在と言うことだ。
だと言うのに、ラカンはへらへらしながら、どうでもいいと言い切った。
ラカンはそんなことなど気にしていないからだ。
自分が自分であるだけだと、それだけなのだと思っているからだ。
「んで、その真実を知って、どうするんだ?」
「どうするって……」
そんなことより、それを知ったうえでどうするのかと、ラカンはネギへと問う。
ネギはそれを言われ、答えがすぐには出ない様子を見せていた。
「俺たちは
「そうだな。20年前の亡霊は、俺たちが何とかしなきゃならねぇ」
「それに、20年前の再来となれば……」
答えが出ないネギへと、ラカンは自分たちの答えをはっきりと出した。
それは20年前に残してしまった課題を、今度は残さず終わらせるというものだった。
ガトウも同じ気持ちであり、20年前から続く戦いは、20年前に同じ経験をした自分たちが決着をつけるべきだと宣言した。
また、20年前の再来、と言うことを考えたクルトは、それすなわち魔法世界消滅の危機であると言うことを察したのである。
「だがぼーず。お前にはあまり関わりのないことだ。安全な場所で待ってても文句は言わねぇ」
「それは……」
が、そこでラカンはネギへと、別に戦う必要はないと言い出した。
20年前の事件など、その時生まれていなかったネギにはほとんど関係がないと思ったからだ。
確かに20年前の戦いで、決着をつけたのはネギの父親、ナギである。
それでも、その子供が父親の代わりに責任を感じ、戦いに身を投じる必要はないと考えたのである。
ネギもそう言われて、少し迷った様子だった。
だけど、やはり父親がかかわった事件。自分も何とかしたい、手伝いたいと悩んでいた。
「私はついて行くけどね」
「アスナさん!?」
だが、そんなネギの悩みなど吹き飛ばすかのように、元気に宣言するアスナがいた。
ネギが驚いて振り向けば、気が付いたら近くまでアスナがやってきていたのである。
また、ネギが驚いたのはいつの間にか近くにいたこともあるが、それ以上に敵に狙われているはずの彼女が、敵の本拠地に乗り込んでいいのか、と言うことだった。
「私だって20年前、利用されたクチですもの。きっちりお返ししてやらないとね」
「だ、だけど!?」
とは言え、アスナとてそんなことなど重々承知。
知っていて乗り込んでやろうと言うぐらいの意気込みだった。
さらに、20年前に散々利用してくれた訳だから、お礼参りしてやろうと言う強い意志があったのだ。
しかし、やはりネギは心配になってしまう。
本当にそれでいいのか、大丈夫なのかと聞いてしまう。
「それに、あの計画が現行で進行しているってことは、
「それはどういう……?」
ただ、アスナが乗り込むのは、そのためだけではない。
何せ、魔法世界消滅の儀式は、完全魔法無効化現象の能力を持つ自分がいなければ、成り立たないものなはずだ。
なのに、それが起こり始めていると言うことは、
だからこそ、確かめねばならない。
そして、それが本当だとしたら、今度は自分が助けてあげたい。
それが彼女が敵の本拠地へと乗り込む理由だったのだ。
されど、ネギは全てがわかった訳ではないので、アスナの言葉の全貌を理解することはできない様子だった。
「どうやら間に合ったようだね」
「あっ……あなたは、確かフェイトさん!?」
「久しぶりだね」
また、それをアスナに聞こうとした時、タイミングよく一人の少年と数人の少女がネギの前にやってきたのだ。
その顔を見たネギは、彼の名を思わず口にした。
そう、その少年こそフェイト。
数日前に話し合った、フェイトだったのだ。
…… ……
「遅くなっちまった!」
「ちぅたん!」
誰もが大分仲間が集まってきたと考えていた時、ようやく新たなグループが合流してきた。
千雨と法、カズヤ、そしていつの間にか合流していた直一だ。
千雨が大きな声で、遅れたことを謝罪しながら走ってきたのを見て、ハルナが彼女の名前を叫ぶように呼び掛けた。
「貴様が戦いばかりに集中するからだ!」
「はあぁ? テメェも同じだろうが!」
「あー! うるせぇ! 黙れ!!」
そんな千雨の脇で、またしてもくだらない言い争いをしている法とカズヤ。
そもそも、これほどまでに遅れたのも、彼らが敵を倒して倒して倒しまくっていたからだ。
が、それをどっちが悪いと、罪を押し付けあう二人。
千雨もその騒がしさに腹が立ち、二人へと叫んで叱咤するのであった。
「俺が……、遅れた……? 俺がスローリィ……!?」
また、遅れたと言う単語に、かなりショックを受ける者がいた。
直一だ。彼は速さを信条としているが故にか、遅れたと言うことに体を震わせるほどに悔しがっていたのである。
「いや、落ち込んでる場合じゃねぇ!」
とは言え、こんなところで失意に浸っている訳にもいかないのが現状だ。
直一は首を何度か左右に振った後、気を引き締めなおしたのだ。
「そのとおりです! と言うか、あなた! 今までどこへ行ってたのですか!?」
「少しヤボな用ができてしまってなあ!」
されど、そこにやってきたのは、元々こっちに来る時に一緒だったメンバーだ。
そう、学園の依頼にて本国へとやってきていた、高音・D・グッドマンとその従者の佐倉愛衣、そして美空とその主のココネである。
彼女たちもこの舞踏会へとやってきて、襲ってきた敵を倒していた。
それで同じ麻帆良出身の人たちが、戦いながら移動してるのを見てここまでついてきたのだ。
それだけではなく、突如としていなくなった直一も発見。
姿をくらましたことについて、言及しようとやってきたのである。
しかし、直一は完全に高音の質問をはぐらかす気であった。
と言うのも、説明したところでわからないだろうと言うのが、直一の意見だからだ。
「ヤボな用って……、はっきりと理由を述べなさい!」
「そいつは海より深ーい理由ってもんがあるんだが」
「……で、その海よりも深い理由とは何でしょうか?」
ヤボ用で学園からの仕事中に抜け出した。
それだけでも額に血管が浮きそうな気分の高音だが、せめて出ていった理由ぐらいあるだろうと問い詰める。
だがだが、直一はさらにはぐらかすようなことを言うだけ。
もはや完全に高音の神経を逆撫でするだけであった。いや、実際はふざけてる訳でもはないだろうが、たぶん。
そう言い訳する直一だが、理由はまったく語っていない。
だからその理由が聞きたいのだと、もはや怒りを通り越して呆れ始めた高音がさらに聞き返す。
「あー……、それはなぁ……」
「こりゃしらばくれるモードの先輩スねえ。こうなったら口を割らないッスよ……」
すると、直一は上を向きながらどもりはじめた。
それを見た美空も、これはダメなパターンだと呆れ始めたのである。
「はあー……。魔法使いでなくとも、私たちと同行しているのですから、もう少し自覚というものを……」
「この道は俺だけの道だ! 俺の道を最速で突っ走って何が悪い!」
「逆切れッスか先輩……。ダサいッス……」
もはや呆れて物も言えないと言う様子で、高音はため息を吐いた。
そして、キリッとし直して直一に説教を始めたのだ。
されど、それを聞くような直一ではなかった。
突如として俺は悪くねぇ! と逆切れを始めたのだ。
美空もこれには苦笑いしかなかった。
なんという情けない姿の先輩だろうか。もはやクソダサもいいところだ。
「あれ? そこにいるのは美空ちゃんじゃない?」
「ゲッ!? ち……違いまーす! 別人ッスー!」
が、そうこうしているうちに、美空は同じクラスメイトに見つかってしまったのだ。
こう見えて魔法生徒でシスター見習いの美空は、声をかけてきたハルナに対し、知らない人だとごまかそうとするのだった。
「おい、師匠はどうした?」
「まだ来てないわね、そういえば……」
「マジか……」
また、そんな直一たちの横で、千雨は自分の師匠であるエヴァンジェリンについて、アスナへと尋ねた。
すると、アスナもあれ? と言うような顔で、まだ見ていないと言うではないか。
千雨はその答えに、少し驚いた様子を見せていた。
空も自在に飛べるあの師匠が未だに来てないと言うのは、ありえないと思っていたからだ。
「まあ、師匠のことだ。問題なんかないだろう……」
「そうだといいけど……」
とは言え、エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼で600年生きてきた怪物。
大丈夫なはずだと、千雨は言い聞かせるように言葉にする。
アスナもそれを聞いて、同じように無事だと嬉しいと、心配するようなことをこぼすのだった。
「おーい!」
「バーサーカーさん!」
と、そこへようやくと言う様子で、バーサーカーが現れた。
そそくさとマスターである刹那の下へ駆け寄るバーサーカーへと、刹那も声をかけて呼んでいた。
「今までどこへ!?」
「ちょっと敵とバトってた訳だ」
刹那は駆け寄ってきたバーサーカーへと、これまでの行動について少し心配した様子で質問した。
と言うのも、『刹那に嫌な予感がする』と言って急に出ていったっきりで、連絡が一つもなかったからだ。
それを聞かれたバーサーカーは、その質問に頭を掻きながら簡潔に答えていた。
「大丈夫だったんですか!?」
「ああ、ちーっとばかしヤバかったが、何! ノープロブレムだ!」
「それならいいのですが……」
敵との遭遇、そして戦闘。
それを聞いた刹那は、さらに心配になって何かなかったかを問いただした。
そんな刹那を安心させようと、ニカッと白い歯を見せながら笑い『問題なし!』とバーサーカーは豪語する。
刹那はバーサーカーの満面の笑みを見て、ほっと安心したのだが……。
「何がドヤ顔で
「いや、……まあそうだったな」
そこへ先ほどまで、バーサーカーと共に戦っていたアーチャー、ロビンが割り込んできたのである。
それもそのはず、バーサーカーが戦っていた相手は、自分たちと同じサーヴァント。
さらに、ランサークラスと名乗ったサーヴァントは、なんか出鱈目な性能だったではないか。
あれを見て『問題なし!』とか言っている場合じゃないと、ロビンが焦りと怒りが混ざった表情で、バーサーカーへとつっこんだのだ。
バーサーカーもそう言われたら、確かに、と言う顔を見せていた。
あれは本当にヤバイ相手だ。保有する魔力量も桁違いの危険なサーヴァントだ。
「どういうことですかそれは!!? しっかりと説明してください!!」
「ああ、いやそれはなあ、刹那……」
さらに、バーサーカーの話で安心し始めていた刹那は、今の話を聞いて不安が爆発。
しっかりと事の詳細を言及せんと、怒った様子で責めたのである。
が、バーサーカーとてどう説明すればいいか、と頭を悩ませた。
あんな規格外の相手について、なんて説明したらよいのやら、とバーサーカーは腕を組んで考え出したのだ。
「それは私が説明しましょう」
「あなたは……?」
が、そこへ救いの手がやってきた。
それこそ、その戦いにて助力した
とは言え、刹那たちはロビンのマスターを見るのは初めてだ。
故に、この人誰だろう? と言うのが先に来たのであった。
「大体は集まったみたいっすねぇ」
「んじゃ、そろそろ全員が集めた情報を整理するか」
なんやかんやで人が集まり、騒がしくなってきた。
それを見た状助は、大体の仲間が集ったのではないかと、アルスへと言う。
アルスもならば、次の行動に移らねばと、全員を集めようと考えた。
「まあ、敵の情報はアイツに吐いてもらえばいいが……」
また、情報ならば敵であったあの男、アーチャーと名乗った赤いやつに聞けばいいか、と考えていた。
ただ、すんなり情報を渡してくれるかはわからないので、のどかのアーティファクトに頼るかもしれない、とも思っていたのであった。
「思ったんだけどさあ、この船にこんな人数入りきるの?」
「そういえばそうだねぇ……」
アルスが悩んでいるその横で、裕奈がハルナへと近づき話しかけていた。
その内容とは、ハルナの飛空艇一つに、今まで集まってきた仲間が全員入りきるか、というものだった。
なんか随分大人数になってしまっており、ハルナの飛空艇では乗り切らない可能性が出てきたのだ。
ハルナもそれには悩んでいたようで、頭に手を当てながら、どうしようかと考えていた。
「よう、どうした? 何か問題でもあったか?」
「あっ! ジョニーさん! お久しぶりです! 実はですね……」
と、そこへたまたま通りかかったジョニーが、悩める裕奈へと話しかけてきた。
裕奈はジョニーへと元気よく挨拶し、その悩みを相談したのである。
「定員オーバーか、なるほどなぁ……」
その話を聞いたジョニーは、周囲を見渡しながらなるほど、と納得した様子だった。
「なんなら、俺のに半分ぐらい乗せてもいいぞ?」
「いいんですか!?」
「ああ! 乗り掛かった舟だしな!」
ならばと、ジョニーは一つの提案を出した。
それは自分の船に、乗り切らない人を乗せてあげると言うものだった。
なんという懐の深さだろうか。
裕奈は流石に厚かましいと思いながらも、本当にいいのか聞いたのだ。
ジョニーはその問いに、平然とOKを出した。
裕奈たちに出会ったのも何かの縁。ここで再び顔を見たのも、何かの運命。
であれば、最後までとことん付き合おう、とジョニーは考えたのだ。
「船に乗るのは私たちなんですけどね!」
「ハッハッハッ! そういやそうだ!」
そんなジョニーの言葉を聞いて、裕奈は冗談を言うではないか。
ジョニーもその冗談を笑い、二人で馬鹿笑いしていたのだった。
「色々すいませんね」
「おっ、旦那も元気そうで」
「まあ、色々ありましたがね」
そこへ横でちょいと話を聞いていたアルスが、ジョニーへと頭を下げてきた。
ジョニーも小さく頭を下げ、アルスとの再会にも歓迎していた。
「ところで、今の件ですが……」
「定員オーバーなんだろ? 構わんぜ?」
「ありがとうございます」
そして、アルスが裕奈が今言ったことを、聞き返すようにジョニーへ尋ねれば、気にするなと返ってきた。
ジョニーの器の大きさに感服しながら、アルスは再び頭を下げるのであった。
…… …… ……
カギや夕映たちとあやかたち、そして最後にエヴァンジェリンたちが到着したことで仲間全員が揃い、ようやく行動を開始し始めた。
それ以外にもフェイト御一行や、こちらに来ていた学園の魔法使いも仲間に加わり、行動を共にすることにした。
それで、戦えるものたちはハルナの飛空艇へ乗り込みはじめ、いざ、敵陣へと乗り込む構えだ。
「とりあえず、行動を二分することになった」
「んじゃ、さっさと乗り込もうぜ! 敵の本拠地にな!」
そのことを法とカズヤとで話し合っていた。
カズヤは血気盛んな声を出し、今か今かと速く突入したくて仕方ない様子だ。
「いや、俺たち二人は非戦闘員の守備に回ることになった」
「ハァー!? 何言ってんだテメェ!?」
されど、次の法の言葉に、カズヤは出ばなをくじかれることになる。
なんと、法とカズヤは非戦闘員の守備を任されたのだ。
これには納得いかねぇ! と言う様子で文句を叫ぶカズヤ。
カズヤは敵陣に乗り込んでバトりたくてしょうがないからこそ、この分担は気に入らなかったのだ。
「戦闘能力を持つものが全員突入したら、彼女たちを守護れるものがいなくなる」
「知らねぇよ! テメェだけでやりやがれ!」
とは言え、戦闘員が全員、敵陣に突っ込む訳にもいかないのも事実。
非戦闘員を守備するものがいなければ、危険だから当然だ。
また、その守備にはロビンを除いたクレイグ率いるトレジャーハンターチームも加わっている。
されど、敵の数などを考慮し、彼ら二人もそちらで守備を任されることになったのだ。
そう説明されてもなお、カズヤは納得しなかった。
喧嘩売ってきた相手に買ってやろうと言うのがカズヤだ。それができないと言うだけで許せなかったのだ。
「……相手は転生者の軍団だ。何が起こるかわからん」
「ハッ! 自信がねぇってーのかい?」
「誰もそんな話はしていないッ!!」
すると、法は敵の実態を言葉にした。
自分たちが相手にするのは、自分たちと同じ転生者になる可能性が高い。
故に、相手がどんな行動をするかも、能力もわからない。実力も未知数だ。
だが、カズヤはそれを弱気な発言と捉えたのか、法を挑発しだしたのだ。
それを聞いた法は、眼つきを尖らせて、怒気混じりに否定した。
「俺とて奴らを一掃してやりたい気分だ。それでも、戦えぬものを守るものも必要だ」
「俺には関係ねぇ!」
さらに、法とて防衛ではなく、あくまで敵陣に乗り込みたいと考えていた。
が、それ以上に弱い人を守るのも重要だと理解し、その気持ちを押し込めて防衛することにしたのだ。
それでもなお、カズヤは納得しない。
そんなもんは無関係と、ばっさり切り捨てたのだ。
「無い訳ないだろう! これまで共に行動してきたんだからな」
「知らねぇっつってんだろ!?」
しかし、それはないだろと法も叫んだ。
この魔法世界に来て、多少なりとて苦楽を共にした仲だ。
それを無関係と言うのは、流石に暴論過ぎると言うものだ。
されど、カズヤは知るかんなもん、とつっぱねる。
彼の頭の中には、もはや敵陣で喧嘩すること意外ないのだ。
「ならば、長谷川も関係ないと言い切れるのか!?」
「なんであいつの名前が出てくるんだよ!?」
「当然、非戦闘員として、俺たちが守護する船へと乗ることになっているからだ」
そこで法は、千雨の名前を唐突に出してきた。
カズヤはその名を聞いて、何故? と叫べば、法は守護の対象に入るからだと説明したのである。
「チッ……、わぁったよ。やりゃいいんだろ、やりゃ」
「理解したか」
カズヤも千雨がいるとなりゃ、話は別だと考えたのか、観念して折れたようだ。
法もやっとのこさ説得ができたと、胸をなでおろしていた。
「だが、戦いになったら好きにやらせてもらうからよ」
「貴様に防衛などできるとは思ってない。敵を減らしてくれるならそれで構わん」
「はっ、そうかい」
とは言えカズヤは、納得したからと言って、ただ言われるままやるような奴ではない。
戦いとなれば派手に暴れたい。暴れさせろと法に宣言した。
法もカズヤの戦い方を理解しているので、それを咎める気はなかった。
ただ殴って殴って蹴散らしてくれれば、それでよいと考えたのだ。
素直に許可を出した法に拍子抜けしながらも、カズヤはならばとニヤリと笑いながら返答し、戦いを待ちわびるのであった。
…… …… ……
そして、敵陣への出発前。
戦えるものはハルナの飛空艇へ、戦えぬものはジョニーの船へと乗り込み始めていた。
そんな中、アルスと裕奈が何やら言い争いのようなことをしているようだ。
「裕奈、お前はあっちに乗れ」
「ここまで来てそうはいかないよ!」
なんの言い争いをしているか。
それは裕奈が戦いに出たいと言うのに、アルスがダメだと言っているからだ。
「この先はマジで危険だ。命の保証はどこにもねぇ」
「それでも!」
アルスが何故、頑なに拒否をするのか。
それは敵としての相手がほとんど
転生者たちは、自分の欲望のままに動く可能性が高い。
故に、そんな危険な戦いに、裕奈を巻き込みたくないと言うのがアルスの本音だ。
だが、大きな理由を語らず、ノーとしか言わないアルスへと、裕奈は納得できずに必死に食い下がる。
「……ダメだ。お前さんがいなくなっちまったら、ご両親が悲しむ」
「でも、それはアルスさんも同じだよね?」
それでもアルスはノーを突きつける。
裕奈は彼女の両親から預かった、大切な娘さんだ。無事にその二人へと送り届ける義務がある。
それにここで何かあったら、友人である両親が悲しむ。それだけはなんとしてでも避けたい。
それに悲しむのはその二人だけじゃない。
クラスメイトや俺自身も悲しむだろう。だからこそ、こんな危機的な状況に、突っ込んでもらいたくないのだ。
しかし、逆を言えばアルスも同じことを言われる立場でもあった。
アルスにも家族がいる。彼がいなくなってしまって、誰も悲しまない訳ではない。
それを裕奈は言い返す。
「俺は今まで過酷なミッションを生き延びた実績がある」
アルスは裕奈に言われたことを気にする様子も見せず、自分には実績があることを語りだした。
何故なら、そんなことなど10年前の事件で、すでに承知の上だからだ。
「だが、お前さんはまーだまだ見習いも見習い。その差はでけぇんだよ」
「そんなのわかってるよ……!」
また、自分こそ幾多の任務にて戦い慣れ、生還してきたが、それすらない裕奈はどうだろうか。
所詮は魔法使い見習い程度の裕奈では、この戦いについてこれるかわからんと、はっきりアルスは言ったのだ。
裕奈もそれを言われると痛いと思った。
当然、自分の立場や実力は理解している。見習い程度でそういう経験がないのもわかっている。
「だけど……、この事件はお母さんも10年前にかかわってる訳だし、何もしないなんてできないよ!」
「はー……。やれやれ」
それでも、それでも裕奈が戦いに出たいのは、アルスや仲間たちが心配なだけではない。
この事件には10年前、自分の母親がかかわっていたと言うのも大きいのだ。
10年前何があったのかわからないが、何かあったからこそ母親は魔法使いを引退した。
だから、自分の目で10年前にあっただろう事件を、知りたいと思ったのだ。
アルスはそれを言われると、頭に手を添えながら、ため息をついて悩み始めた。
確かに彼女には、それを知る権利があるだろう。このまま言い争っても、きっと納得してくれるだけの言葉は出てこないだろうと。
「しょうがねぇ。確かに関係ねぇとは言い切れねぇしな」
「それじゃあ……」
アルスはならばと、同行を許可するようなことをほのめかした。
無関係と切り捨てるには、少し関わりが強すぎる。それに本人が納得したいのならば、そうするしかないと考えたのだ。
アルスのその言葉を聞いて、裕奈は自分も戦いに参加できるのかと、期待した表情へと変えていた。
「ついてくるぐれぇなら、許可してやるよ」
「やったっ!」
その裕奈の表情を見て苦笑しながら、しっかりと許可の言葉を吐き出すアルス。
とは言え、戦うことについては、許可したと言う訳ではない言い方であった。
裕奈はアルスの許可に、ガッツポーズをして大いに喜んだ。
これでみんなと一緒に戦える。アルスと一緒に行ける、そう思ったのだ。
「だが、突入はさせねぇ、船で友人たちを守るんだ。いいな?」
「わかった!」
されど、やはりアルスはすべてを許可した訳ではない。
敵地への侵入はさせる気など、まったくない。手薄となって隙ができた飛空艇の守護を命じたのだ。
裕奈は侵入こそ許可されなかったが、それでよいと考えて元気よく返事をした。
とりあえず自分に役割があるだけでもよいと、そう考えたのである。
「本当にわかってんのかねぇ……」
「酷くない!?」
が、元気すぎる返事のせいか、気が付けたような態度となった裕奈を見て、アルスは大丈夫なのだろうか、とつぶやきだした。
それを聞いた裕奈も、流石にちょっとだけ怒ったのか、軽くつっこみを入れるのであった。
…… …… ……
同じように戦場へ行くか否かで、ネギとのどかが話し合いをしていた。
「本当にこっちに来るんですか!?」
「はい……!」
「かなり危険ですよ!?」
のどかが敵陣へと突入する方の、ハルナの船へと乗ると言い出したのを聞いて、ネギは驚きながら止めていた。
これからは今まで以上に苛烈な戦いになるだろう。そう考えて、のどかを戦いから遠ざけようとしていたのだ。
それでものどかの意志は固く、曲げる気がない様子であった。
しかし、それを許すわけにはいかないと、なんとか必死で説得を試みようと、ネギは頑張っていたのである。
また、ネギは戦いに赴くことを決意したようだ。
無関係と言われたが、ここまで戦って来た。父親の因縁も多少理由にある。
だが、最大の理由は途中で抜け出すような、中途半端な終わり方はしたくなかったのだ。
「それは私も悩みました……」
ネギの静止の言葉を聞いたのどかは、自らの胸の内を静かに語り出した。
のどかもこの戦いへと参戦することには、幾度か迷った。
自分が行って何ができるか。邪魔にならないだろうか。何度も頭の中で、そんな考えがぐるぐると駆け巡った。
「だけど、こんな私でも何かの役に立つと考え、そう選択しました!」
「のどかさん……」
それでも、自分でもできることがあるはずだ。
アーティファクトだって役に立つし、この旅で成長してきた。
今なら足手まといにはならない、そう強く思って戦いへの参加を表明したのだ。
とは言え、そう言われても困ってしまったネギ。
やはり自分の生徒には、危険な目に遭ってほしくないと思っているからだ。
「お願いします、ネギ先生! 私も連れて行ってください!」
「……」
そんなネギへと、必死に頭を下げて頼み込むのどか。
このチャンスを逃したら、また学園祭の時のように、戦いが終わるのを見守り、祈るだけになってしまう。
今度は自分も一緒に戦いたい。
ネギものどかがこれほどまでに強情を張るのを見て、少し考える様子を見せていた。
あの引っ込み思案であったのどかが、自分の意志を貫こうとしている姿に、思うところがあったのだ。
「……わかりました」
「! ……ありがとうございます!」
そして、数秒が経った後、折れたのはネギの方だった。
ここまで頭を下げられたら、断れない雰囲気になってしまったのである。
ただ、ネギもこの決断に、本当にいいのだろうかと悩んだ。
危険にさらしてしまうだろうし、命の危機があるかもしれない。
だけど、彼女は覚悟が決まっている様子だ。これまでの行動を垣間見ても、それは明らかだ。
故に、ネギは許可した。
その言葉を聞いて、花のように笑うのどか。
ここまでしても許可してくれないと思っていたところもあったのどかは、本当にうれしそうに喜んでいた。
「ですが、無茶だけはしないでください。お願いします」
「はい! 約束します!」
だが、ネギはそこで、約束を一つした。
それは本当に危険なことはしない、ということだった。
のどかもそれには同意し、元気な声で返事を返した。
が、彼女はわりと無茶をやらかすので、この約束がうまくいくかはわからないのだが、ネギはそのことを願うだけであった。
「ってるけど、ゆえはどうすんだ?」
「私が行っていいですか?」
と、二人が話しているのを、少し離れた場所で見る少年少女がいた。
カギと夕映だ。
カギはのどかが同行するのを見て、夕映がどうするのかを尋ねたのだ。
すると夕映は、自分も行っていいのかを聞き返してきたのだ。
「いや、マジでヤベーからやめとけって、俺も言う」
「ですよね」
それに対してカギは、当然ダメだと言った。
何せ相手は無数の転生者。はっきり言って危険すぎるのだ。
それに彼女を危険にさらすのは、当然抵抗があると言うものだ。
されど、心の中ではほんの少し、夕映と一緒に来てほしいと言う気持ちがあるのだが。
その答えを聞いた夕映も、その返しは当然か、と思ったようだ。
ネギですらのどかに対して、あの対応をしたのだ。普段ちゃらんぽらんなカギですら、そう言うのは当たり前だろうと。
「でも、私も、のどかと一緒に行きたいです」
「えっ? そこは聞き分けよく『待ってます!』 するところじゃないの?」
「確かに、カギ先生すら危ないと言うのなら、危険なのでしょう」
だが、夕映の次の言葉は、カギが思っていたような懇願であった。
夕映はのどかが行くと知って、自分も何かの役に立ちたいと奮起してしまったのである。
しかし、カギはそこで行こうぜ! と言う程まっすぐな人間ではない。
それにやはり危険は避けるべきだと言う考えが先にあるのだ。
ただ、夕映も馬鹿ではない。
これから先は本当に危険で、何が起こるかわからないということを、しっかり認識して理解していた。
「ですが、私だって頑張ってきました。私ものどかのように、ネギ先生やみんなの役に立ちたいです!」
「ネギやみんなの……ねぇ……」
それでも夕映は、今まで努力してきたことを使い、仲間の為に頑張りたいと叫ぶ。
が、そこでカギが夕映の言葉で引っかかったのは、『ネギやみんな』、と言う言葉だった。
あれ? もしかして自分は含まれてないんじゃ……。と勘ぐってしまったのだ。
何せカギは自分に自信がない。なので、そんなマイナス思考にとらわれてしまうのである。
「……当然、カギ先生の分も、……ですよ」
「……えっ? マジ?」
「はいです」
そのカギの小さなボヤキが聞こえたのか、夕映はカギの分もある、と小さく訂正した。
カギは夕映の言葉にビクンと反応し、真偽を確かめるようにそれを聞く。
夕映はそれに対して、偽りはないとしっかり返事を返したのだ。
「ははーん、なるほど。そう言えば同行許可が出ると思ってんだな? したたかやなあゆえっちは」
「そんなんじゃないです!!」
「じ、冗談だぜ……。そんなに怒らんでもええやろ……」
だが、やはりカギはひねくれものだ。素直に喜ぶ男ではない。
そうやって自分を喜ばせれば、敵地への同行を許可してくれるだろうと考えたんだろう、と言い出したのだ。
それを聞いた夕映は、大きな声で怒るように否定した。
そういう訳で言った訳ではないと。本気で役に立ちたいからそう言ったのだと。
急に怒鳴られたカギは、少しビビったのか一歩引いて引きつっていた。
この程度の冗談で、そんなに怒るとは思っていなかったようである。
「私は真剣なんです!」
「えっ? つまり、俺の分まで頑張りたいってのも、真剣ってこと? マ? マ?」
カギの言い訳にさらに怒る夕映。
本気で考えているのに茶化されたら、怒るのも無理はないというものだ。
しかし、カギはそこで、その言葉の真偽を確かめるようなことを言い出したではないか。
「はいです。カギ先生も頑張ってるのを知ってるですから」
「あっはい」
されど、そう言われた夕映だったが、落ち着いたのかしれっとした態度で、カギのことを言うだけであった。
まあ、実際にカギは修行に明け暮れ必死だったのを、間近で見たからこその言葉ではあるのだが。
ほんのちょっぴり淡い期待を膨らませていたカギにとって、この夕映の態度はショックだった。
急に冷静になり、淡白な返事を返すぐらいには、ショックだった。
「……それに、カギ先生のことをほっとけないですから……」
「ん? なんか言った?」
「いえっ、なんでも」
と、そんなショックを感じているカギを見て夕映は、本当に小さな声でほっとけないとつぶやいた。
それはカギが危なっかしくて、すぐどっかいなくなってしまいそうだと言う、不安からくるものだった。
自分が一緒にいてあげないと、迷子になりそう。そういう気持ちであった。
だが、カギには今の夕映の声が聞こえなかったのか、?マークを浮かべて聞き返していた。
それを少しだけ焦った様子で否定する夕映であった。
「だから、お願いしますです! 同行させてください!」
「うぅぅ……」
そこで夕映は話題をすり替えるかのように、元に戻して再び頭を下げて懇願しだした。
カギはそんな夕映を見て、腕を組んで唸りながら本気でどうするかを悩み始めたのである。
「わーったよ。俺の一存だけじゃわからんが、俺はOKって言っとくよ」
「ありがとうございますです!」
そしてカギが出した答えとは、許可であった。
あののどかが同行する訳だから省くわけにはいかないし、結構頑張って魔法の修練していたし多少大丈夫かも、と悩んだ末の答えであった。
ただ、それは自分が勝手にOK出してるだけだから、他の人にも許可とれよ、とカギは言う。
このチームの最高指揮権を持っている訳ではないので、相談に乗った程度の考えなのだ。
また夕映は、カギが許可を出したことに対して、喜びながら礼を述べて頭を下げていた。
カギの許可イコール同行可能と言う訳ではないにせよ、それをよしとしてくれたことが嬉しかったのだ。
「あとなあ、ネギが言うように無茶だけはすんじゃねえぞ? これ脅しだかんな? マジだかんな?」
「……わかりました、無茶だけはしません」
「うむ、よろしい」
さらにカギは、無茶はするなと浮かれる夕映へと念を押す。
振りでもなく冗談でもなく、本気で忠告をするのである。何度も言うことだが相手が転生者だからだ。
いつにもなく柄にもなく本気で、真剣な顔でカギが忠告してきた。
夕映はそれを見て聞いて、ただ事ではないことを察した。
あのおふざけの塊みたいなカギが、ここまで言ってくるのだ。
本当に何か恐ろしいことがあるのだろうと考えた夕映は、心して行動することにし、のどかの行動にも注意しようと思った。
忠告にて浮かれていた夕映の表情が硬くなったのを見たカギは、理解してくれたと考え喜んだ。
この先の戦いは何が起こるかわからないし、常に近くで守護ってはいられなくなる。
敵陣に乗り込んで敵を倒さなければと考えるカギは、夕映のその言葉に安堵するのであった。
…… …… ……
そして敵陣、墓守り人の宮殿へと突入する手前。
飛空艇の入り口前でアスナとあやかが会話していた。
「アスナさん、本当に大丈夫なんですの?」
「大丈夫よ! 任せておきなさい!」
あやかは敵陣へと乗り込むと言うアスナを心配し、出発前に声をかけたのだ。
そう心配するあやかへ、ガッツポーズを見せて安心させようとするアスナの姿があった。
敵を倒して全員で無事に戻ってくる、そんな様子だった。
「そうじゃありませんわ! あなた自身のことです!」
「そっちも大丈夫よ」
ただ、心配なのは敵陣へ乗り込むと言うことだけではない。
アスナ自身、過去との因縁がある事件らしいことは、あやかも理解していた。
その大丈夫? はその部分が大半だったので、あやかは勘違いしたアスナへとそれを聞いたのだ。
アスナもそれを聞かれ、少し表情を翳らせながらも、大丈夫と言い張った。
とは言え、すでに魔法世界消滅の儀式が行われているみたいな状況で、自分が狙われるかと言えばノーだと言う確信もあった。
「……まあ、今更何を言っても無駄でしょうから、あえて何も言いませんけれども」
「それってどう言う意味かしら……?」
そうやって強情を張るような態度のアスナを見て、あやかはほんの少し安心した様子を見せながらも、嫌みのような一言を飛ばす。
それにほんの少しカチンと来たのか、アスナはあやかを睨みつけながら、その言葉の意味を聞き出そうと顔を近づけた。
「だから、一言だけあなたに言っておきます」
が、あやかはその次に態度を改めて静かに、ゆっくりと言葉を放った。
「無事に、帰ってきてください」
「っ! ……当然よ!」
そして、アスナの無事を祈るようなことを、あやかは本人の目の前で言ったのである。
その真っすぐに向けられた視線と言葉に、アスナは一瞬感激しつつも、胸を張って当然だと言い切ったのだ。
「……ネギ先生のついでにですけど」
「ちょっと! 今の感動を返しなさよ!」
されど、あやかは今の発言がほんの少し恥ずかしかったのか、少し顔を背けながら訂正を入れるではないか。
それには流石にどうかと思ったアスナは、びしっとつっこみを入れたのだ。
「……ふふふ」
「フフ……」
しかし、さっきの言葉はあやかにとって本心であり、それに感動したとアスナが言ったことは、あやかも素直に嬉しかった。
同じくアスナも、あやかがこれほどまでに心配してくれていることに、非常に嬉しく思った。
そんな両者は数秒間、向き合いながら小さく笑いあっていた。
こんな感じのやり取りを今まで何度しただろうか。そんなことを思い出しながら。
「……行ってくるわね……!」
「えぇ……、お気をつけて」
そしてアスナは、まるでいつも通り出かけるかのように、軽く手を振りながら飛空艇へと乗り込んでいった。
あやかも同じように普段のような態度で、微笑みながら見送るのであった。